説明

電子部品接合用接着剤

【課題】貯蔵安定性に優れ、かつ、比較的低温で短時間に硬化させることができる電子部品接合用接着剤を提供する。
【解決手段】ビスフェノール型エピスルフィドなどのエピスルフィド化合物と、1,1’,2,2’−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどの特定のテトラキスフェノール系化合物に包接されたイミダゾール化合物、又は、特定の芳香族ジカルボン酸系化合物に包接されたイミダゾール化合物とを含有する電子部品接合用接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵安定性に優れ、かつ、比較的低温で短時間に硬化させることができる電子部品接合用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体チップを用いて半導体製品を製造する場合、接着剤を用いて半導体チップを基板等に接着固定する工程(ダイボンディング工程)が行われる。
このようなダイボンディング工程において使用される接着剤としては、例えば、特許文献1にはエポキシ樹脂、フェノールアラルキル樹脂、及び、イミダゾール化合物を含有するダイアタッチペーストが開示されている。特許文献1に記載されたダイアタッチペーストは、接着性、速硬化性、信頼性に優れているとされ、特に短時間の硬化で高い接着信頼性が得られる旨が記載されている。特許文献1の実施例においては、200℃、30秒及び60秒で硬化させた際の接着強度が評価されている。
【0003】
近年、半導体パッケージの高集積化への要望が益々大きくなっており、半導体チップの多層積層化が進んでいる。ダイアタッチペーストとして特許文献1に記載されたもののように硬化に数十秒を要するものを用いたのでは、一つの半導体パッケージを製造するのに要する時間が長時間化してしまうという問題が生じていた。
また、多層積層化により、ごく僅かなチップのズレが積層体としては致命的な欠陥となりうるところ、硬化に時間がかかりすぎると、ズレが発生しやすくなるという問題もあった。
【0004】
このような半導体パッケージの製造時間の長時間化を解消する方法として、速硬化型の接着剤を使用することが考えられるが、一般的に速硬化型の接着剤は高反応性の硬化剤を使用するため、貯蔵安定性に劣るという問題があった。
【0005】
これに対して、貯蔵安定性に優れ、かつ、低温で硬化させることのできる硬化性組成物も検討されている。例えば、特許文献2には、エポキシ樹脂及び/又はエピスルフィド樹脂と、熱潜在性アニオン重合触媒としてのルイス塩基の塩とを含有する硬化性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載の硬化性組成物では、貯蔵安定性の点でまだ不充分であるという問題があった。また、電子部品に使用した場合に、充分な信頼性の得られるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−172443号公報
【特許文献2】特開2008−019350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、貯蔵安定性に優れ、かつ、比較的低温で短時間に硬化させることができる電子部品接合用接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エピスルフィド化合物と、下記一般式(1)、(2)若しくは(3)で表されるテトラキスフェノール系化合物に包接されたイミダゾール化合物、又は、下記化学式(4)若しくは(5)で表されるジカルボン酸系化合物に包接されたイミダゾール化合物とを含有する電子部品接合用接着剤である。
【0009】
【化1】

【0010】
一般式(1)中、Xは、(CH(nは、0〜3の整数を表す)を表し、R25〜R32は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ハロゲン原子又は低級アルコキシ基を示す。
【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
一般式(2)、(3)中、Xは、(CH(nは、0〜3の整数を表す)、又は、置換基を有していてもよいフェニレン基を表し、R〜R及びR13〜R20は、それぞれ独立して、水素原子、C1〜C6のアルキル基、C2〜C6のアルケニル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ハロゲン原子、又は、C1〜C6のアルコキシ基を表し、R〜R12及びR21〜R24は、それぞれ独立して、水素原子、C1〜C6のアルキル基、C2〜C6のアルケニル基、C7〜C12のアラルキル基、又は、アルカリ金属を表す。
【0014】
【化4】

【0015】
【化5】

【0016】
以下に本発明を詳述する。
【0017】
本発明者らは、エピスルフィド化合物と、一般式(1)、(2)若しくは(3)で表されるテトラキスフェノール系化合物に包接されたイミダゾール化合物、又は、化学式(4)若しくは(5)で表されるジカルボン酸系化合物に包接されたイミダゾール化合物とを含有する電子部品接合用接着剤は、貯蔵安定性が優れるとともに、極めて速硬化性に優れることから電子部品の製造時間(タクトタイム)を著しく短縮することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
本発明の電子部品接合用接着剤は、エピスルフィド化合物を含有する。
上記エピスルフィド化合物は、イミダゾール化合物によって一旦反応が開始されると、非常に優れた速硬化性を示す。包接されていないイミダゾール化合物を用いると、その高反応性ゆえに貯蔵安定性に劣るが、後述するような包接されたイミダゾール化合物と組み合わせた場合には、充分な貯蔵安定性を担保することができる。
【0019】
上記エピスルフィド化合物としては、エピスルフィド基を有するものであれば特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂のエポキシ基の酸素原子を硫黄原子に置換したものが挙げられる。
上記エピスルフィド化合物としては、具体的には例えば、ビスフェノール型エピスルフィド(ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ基の酸素原子が硫黄原子に置換されたもの)、水添ビスフェノール型エピスルフィド、ジシクロペンタジエン型エピスルフィド、ビフェニル型エピスルフィド、フェノールノボラック型エピスルフィド、フルオレン型エピスルフィド、ポリエーテル変性エピスルフィド、ブタジエン変性エピスルフィド、トリアジンエピスルフィド等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
なお、酸素原子から硫黄原子への置換は、エポキシ基の少なくとも一部におけるものであってもよく、すべてのエポキシ基の酸素原子が硫黄原子に置換されていてもよい。
【0020】
上記エピスルフィド化合物としては、例えば、ジャパンエポキシレジン社製YL−7007(水添ビスフェノールA型エピスルフィド化合物)等の市販品を用いてもよい。
また、上記エピスルフィド化合物は、例えば、チオシアン酸カリウム、チオ尿素等の硫化剤を使用して、エポキシ化合物から容易に合成することが可能である。
【0021】
本発明の電子部品接合用接着剤は、粘度物性や硬化速度を所望の範囲に調整する目的で、上記エピスルフィド化合物に加えて、更にその他の硬化性化合物を単独で又は2種以上含有してもよい。
上記その他の硬化性化合物としては特に限定されないが、エポキシ化合物が好適である。
上記エポキシ化合物としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型等のビスフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、電子部品接合用接着剤を低粘度化できることから、上記エポキシ化合物としては、レゾルシノール型エポキシ化合物も好適に用いられる。これらのエポキシ化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0022】
本発明の電子部品接合用接着剤が上記エポキシ化合物を含有する場合、該エポキシ化合物の配合量としては特に限定されないが、上記エピスルフィド化合物100重量部に対し、好ましい上限が200重量部である。上記エポキシ化合物の配合量が200重量部を超えると、電子部品接合用接着剤の速硬化性が低下することがある。
【0023】
上記その他の硬化性化合物は、上記エピスルフィド化合物及び必要に応じて添加される上記エポキシ化合物等の硬化性化合物と反応可能な官能基を有する反応性高分子化合物(以下、単に「反応性高分子化合物」ともいう)であってもよい。このような反応性高分子化合物を含有することで、熱によるひずみが発生する際の電子部品接合用接着剤の接合信頼性が向上する。
【0024】
上記反応性高分子化合物としては、例えば、アミノ基、ウレタン基、イミド基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等を有する高分子化合物等が挙げられる。なかでも、エポキシ基を有する高分子化合物が好ましい。
上記エポキシ基を有する高分子化合物を添加することで、電子部品接合用接着剤の硬化物は、優れた可撓性を発現する。すなわち、本発明の電子部品接合用接着剤の硬化物は、上記エポキシ基を有する高分子化合物を含有することにより、上記エピスルフィド化合物及び必要に応じて添加される上記エポキシ化合物等の硬化性化合物に由来する優れた機械的強度、耐熱性及び耐湿性と、上記エポキシ基を有する高分子化合物に由来する優れた可撓性とを兼備することとなるので、耐冷熱サイクル性、耐ハンダリフロー性、寸法安定性等に優れるものとなり、高い接合信頼性や高い導通信頼性を発現することとなる。
【0025】
上記エポキシ基を有する高分子化合物としては特に限定されず、末端及び/又は側鎖(ペンダント位)にエポキシ基を有する高分子化合物であればよく、例えば、エポキシ基含有アクリルゴム、エポキシ基含有ブタジエンゴム、ビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂、エポキシ基含有フェノキシ樹脂、エポキシ基含有アクリル樹脂、エポキシ基含有ウレタン樹脂、エポキシ基含有ポリエステル樹脂等が挙げられる。なかでも、エポキシ基を多く含む高分子化合物を得ることができ、硬化物の機械的強度や耐熱性がより優れたものとなることから、エポキシ基含有アクリル樹脂が好適に用いられる。これらのエポキシ基を有する高分子化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
上記反応性高分子化合物として、上記エポキシ基を有する高分子化合物、特にエポキシ基含有アクリル樹脂を用いる場合、該エポキシ基を有する高分子化合物のエポキシ当量の好ましい下限は200、好ましい上限は1000である。上記エポキシ基を有する高分子化合物のエポキシ当量が200未満であると、電子部品接合用接着剤の硬化物の可撓性が充分に向上しないことがある。上記エポキシ基を有する高分子化合物のエポキシ当量が1000を超えると、電子部品接合用接着剤の硬化物の機械的強度や耐熱性が不充分となることがある。
【0027】
本発明の電子部品接合用接着剤が上記反応性高分子化合物を含有する場合、該反応性高分子化合物の配合量としては特に限定されないが、上記エピスルフィド化合物100重量部に対し、好ましい下限が1重量部、好ましい上限が20重量部である。上記反応性高分子化合物の配合量が1重量部未満であると、熱ひずみに対する充分な信頼性が得られないことがある。上記反応性高分子化合物の配合量が20重量部を超えると、耐熱性が低下することがある。
【0028】
本発明の電子部品接合用接着剤は、上記一般式(1)、(2)若しくは(3)で表されるテトラキスフェノール系化合物に包接されたイミダゾール化合物、又は、上記化学式(4)若しくは(5)で表されるジカルボン酸系化合物に包接されたイミダゾール化合物を含有する(これらを、以下「包接化合物」ともいう)。
このような包接化合物と上記エピスルフィド化合物とを組み合わせることにより、貯蔵安定性と速硬化性とを両立することができる。即ち、上記包接化合物は、室温下では硬化促進剤であるイミダゾール化合物がテトラキスフェノール系化合物又はジカルボン酸系化合物に包接された状態であり、エピスルフィド化合物の硬化反応を殆ど進行させない。そのため、本発明の電子部品接合用接着剤は、貯蔵安定性が優れたものとなる。一方、所定の温度以上に加熱されると、テトラキスフェノール系化合物又はジカルボン酸系化合物による包接が外れてイミダゾール化合物が放出され、上記エピスルフィド化合物との間で極めて急速な硬化反応が起こる。これにより加熱時間を短縮させたりすることができ、電子部品の製造にかかる時間(タクトタイム)を大幅に短縮することができる。また、薄型電子部品の場合に、ソリの発生を抑制するという効果も発揮することができる。
【0029】
なかでも、1,1’,2,2’−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタンにより包接されたイミダゾール化合物を用いた場合には、本発明の電子部品接合用接着剤は、室温での一液安定性に優れ、かつ、加熱時に硬化促進剤が放出されやすいことから特に好適である。
【0030】
イミダゾール化合物は、上記テトラキスフェノール系化合物又はジカルボン酸系化合物に包接されやすいため、本発明の電子部品接合用接着剤の室温での一液状態における貯蔵安定性が向上する。また、イミダゾール化合物は、上記エピスルフィド化合物との反応性に優れるため、速硬化に貢献する。
上記イミダゾール化合物としては特に限定はされず、例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−n−プロピルイミダゾール、2−ウンデシル−1H−イミダゾール、2−ヘプタデシル−1H−イミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−1H−イミダゾール、4−メチル−2−フェニル−1H−イミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2’−ウンデシルイミダゾリル−)−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4−イミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジ(2−シアノエトキシ)メチルイミダゾール、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール塩酸塩、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト等が挙げられる。なかでも、反応性が高くかつ包接の安定性に優れ、一定温度での速硬化に有効なイミダゾール化合物が好ましい。
【0031】
上記イミダゾール化合物は、炭素数1〜6の置換基を1個以上有することが好ましい。このようなイミダゾール化合物は、安定に上記テトラキスフェノール系化合物に包接されるため、電子部品接合用接着剤の貯蔵安定性に悪影響を及ぼすことがなく、かつ、立体障害が小さいため反応性に優れ、包接が外れた際に速硬化性を発揮することができる。
【0032】
上記炭素数1〜6の置換基を1個以上有するイミダゾール化合物としては特に限定はされず、例えば、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等の炭素数1〜6の置換基を1個有するイミダゾール化合物や、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール等の炭素数1〜6の置換基を2個有するイミダゾール化合物等が挙げられる。
【0033】
上記イミダゾール化合物を上記テトラキスフェノール系化合物又はジカルボン酸系化合物で包接する方法としては特に限定されず、例えば、特開平11−071449号公報に記してある方法等が挙げられる。
【0034】
上記包接化合物の配合量としては、上記エピスルフィド化合物及びその他の硬化性化合物の合計100重量部に対する好ましい下限が1重量部、好ましい上限が20重量部である。上記包接化合物の配合量が1重量部未満であると、速硬化性が不充分となることがある。上記包接化合物の配合量が20重量部を超えると、貯蔵安定性が不充分となることがある。上記包接化合物の配合量のより好ましい下限は5重量部、より好ましい上限は15重量部である。
【0035】
本発明の電子部品接合用接着剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の硬化剤を含有してもよい。上記その他の硬化剤としては、イミダゾール化合物以外の化合物が好ましく、例えば、チオール化合物、酸無水物、フェノール等が挙げられる。なかでも、チオール化合物が好適である。
【0036】
本発明の電子部品接合用接着剤が上記チオール化合物を含有する場合、上記イミダゾール化合物が上記テトラキスフェノール系化合物又はジカルボン酸系化合物に包接されている間は、硬化反応は殆ど進行しないが、包接が外れて上記イミダゾール化合物が放出されると、極めて迅速に硬化反応が進行する。一般に、硬化剤としては酸無水物等様々考えられるが、チオール化合物を用いることによって、特に優れた低温速硬化性を発揮することが可能となる。そのため、本発明の電子部品接合用接着剤は、上記チオール化合物を含有することによって、貯蔵安定性に優れるとともに、極めて優れた速硬化性を発現しうる。
【0037】
上記チオール化合物としては、チオール基を有するものであれば特に限定はされず、例えば、アルキルポリチオール化合物、末端チオール基含有ポリエーテル、末端チオール基含有ポリチオエーテル等が挙げられる。
上記アルキルポリチオール化合物としては、例えば、1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,10−デカンジチオール、トリアジンチオール等が挙げられる。
また、エポキシ化合物と硫化水素との反応によって得られるチオール化合物、ポリチオール化合物とエポキシ化合物との反応によって得られる末端チオール基を有するチオール化合物、ビス(ジシクロエチル)ホルマールと多硫化ソーダより得られるチオール化合物等、その製造工程上、反応触媒として塩基性物質を使用するものであって、これを脱アルカリ処理し、アルカリ金属イオン濃度を50ppm以下としたチオール化合物等も用いることができる。
【0038】
一般にチオール化合物の硬化物は耐加水分解性に劣ることが知られているが、チオール化合物としてチオール基と直結したエーテル結合を含まないものを用いることにより耐加水分解性を改善することができる。更に、多官能のチオール化合物を用いて、硬化物の架橋密度を高くすることによっても、耐加水分解性を改善することができる。
ただし、包接化合物の包接体を崩壊させるような多官能のチオール化合物を用いると、貯蔵安定性が非常に悪くなる場合がある。
【0039】
上記多官能のチオール化合物とは、エポキシ化合物等の硬化性化合物と反応する反応基を分子内に3つ以上含有する化合物である。
上記多官能のチオール化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリスメルカプトプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ジペンタエチリトールヘキサメルカプトプロピオネート、トリアジンチオール等が挙げられる。これらの多官能のチオール化合物は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、これら以外のチオール化合物と併用されてもよい。
【0040】
上記チオール化合物は、数平均分子量の好ましい下限が400、好ましい上限が100000である。上記チオール化合物の数平均分子量が400未満であると、チオール化合物が包接化合物に侵入しやすくなり、包接体を崩壊させることがある。上記チオール化合物の数平均分子量が100000を超えると、粘度が高くなり作業性が悪くなることがある。上記チオール化合物の数平均分子量のより好ましい下限は500、より好ましい上限は10000である。
【0041】
上記酸無水物としては本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定はされず、例えば、脂環式酸無水物、アルキル置換グルタル酸無水物、芳香族酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、コハク酸無水物等が挙げられる。
上記脂環式酸無水物としては、例えば、ポリアゼライン酸無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、シクロヘキサン−1,2,3−トリカルボン酸−1,2無水物、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2無水物等が挙げられる。
【0042】
上記アルキル置換グルタル酸無水物としては、例えば、3−メチルグルタル酸無水物等の分岐していてもよい炭素数1〜8のアルキル基を有する3−アルキルグルタル酸無水物、2−エチル−3−プロピルグルタル酸無水物等の分岐していてもよい炭素数1〜8のアルキル基を有する2,3−ジアルキルグルタル酸無水物、2,4−ジエチルグルタル酸無水物、2,4−ジメチルグルタル酸無水物等の分岐していてもよい炭素数1〜8のアルキル基を有する2,4−ジアルキルグルタル酸無水物等が挙げられる。
【0043】
上記芳香族酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
【0044】
本発明の電子部品接合用接着剤が上記その他の硬化剤を含有する場合において、上記包接化合物とその他の硬化剤との配合量としては本発明の効果を阻害しない範囲で特に限定されないが、上記その他の硬化剤の配合量1重量部に対する上記包接化合物の配合量の好ましい下限は0.05重量部、好ましい上限は1重量部である。上記包接化合物の配合量が0.05重量部未満であると、充分な硬化速度が得られないことがある。上記包接化合物の配合量が1重量部を超えると、包接された硬化促進剤の量比が大きくなるため、相対的に包接が外れた硬化促進剤量が多くなり、貯蔵安定性が悪化することがある。上記包接化合物の配合量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は0.8重量部である。
【0045】
本発明の電子部品接合用接着剤は、更に、チキソトロピー付与剤を含有することが好ましい。上記チキソトロピー付与剤を含有することにより、電子部品接合用接着剤が電子部品の接合に最適な粘度挙動をとるように調整することができる。
【0046】
上記チキソトロピー付与剤としては特に限定されず、例えば、金属微粒子、炭酸カルシウム、ヒュームドシリカ、酸化アルミニウム、窒化硼素、窒化アルミニウム、硼酸アルミ等の無機微粒子等が挙げられる。なかでも、ヒュームドシリカが好ましい。
【0047】
上記チキソトロピー付与剤としては、必要に応じて表面処理を行ったものを用いることができる。なかでも、表面に疎水基を有する粒子、具体的には例えば、表面を疎水化したヒュームドシリカ等を用いることが好ましい。
【0048】
上記チキソトロピー付与剤として粒子状のものを用いる場合、平均粒子径の好ましい上限は1μmである。上記チキソトロピー付与剤の平均粒子径が1μmを超えると、所望のチキソトロピー性を発現できないことがある。
【0049】
上記チキソトロピー付与剤の配合量としては特に限定されないが、好ましい下限が0.5重量%、好ましい上限が20重量%である。上記チキソトロピー付与剤の配合量が0.5重量%未満であると、充分なチキソトロピー性が得られないことがある。上記チキソトロピー付与剤の配合量が20重量%を超えると、半導体チップ等の電子部品を接合する際に電子部品接合用接着剤の排除性が低下することがある。
【0050】
本発明の電子部品接合用接着剤は、必要に応じて、溶媒を含有してもよい。
上記溶媒としては特に限定されず、例えば、芳香族炭化水素類、塩化芳香族炭化水素類、塩化脂肪族炭化水素類、アルコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類、グリコールエーテル(セロソルブ)類、脂環式炭化水素類、脂肪族炭化水素類等が挙げられる。ただし、アルコール、エーテル系溶媒を用いると、上記包接化合物の包接が外れやすくなることがある。
【0051】
本発明の電子部品接合用接着剤は、必要に応じて、無機イオン交換体を含有してもよい。上記無機イオン交換体のうち、市販品としては、例えば、IXEシリーズ(東亞合成社製)等が挙げられる。
上記無機イオン交換体の配合量としては特に限定されないが、好ましい下限が1重量%、好ましい上限が10重量%である。
【0052】
本発明の電子部品接合用接着剤は、その他必要に応じて、ブリード防止剤、イミダゾールシランカップリング剤等の接着性付与剤等の添加剤を含有してもよい。
【0053】
本発明の電子部品接合用接着剤は、上記エピスルフィド化合物と上記包接化合物とを組み合わせて用いることにより、貯蔵安定性に優れるとともに、比較的低温で加熱することにより極めて速硬化性に優れる。具体的には、150〜200℃程度の加熱を1〜10秒行うことにより、硬化を完了させることが可能である。
なお、本明細書において硬化の完了とは、被着体同士が常温で0.1N/mm以上のシェア強度を持つことを意味する。
【0054】
本発明の電子部品接合用接着剤は、このように極めて速硬化性に優れることから、電子部品の製造時間(タクトタイム)を著しく短縮することができる。また、比較的低温で硬化を完了させられることから、薄型基板の接着に用いた場合に反りの防止にも有効である。
【0055】
本発明の電子部品接合用接着剤は、上述の通り比較的低温領域において速硬化が可能であるとともに、貯蔵安定性にも優れるものであり、更に、バンプや貫通電極を有する半導体チップを基板や半導体チップ等に搭載する際に、接続用ハンダ合金の融点領域である約240〜260℃の温度で加熱した際に5秒以内で硬化させることも可能である。このことから、本発明の電子部品接合用接着剤は、貫通電極の積層やフリップチップ接続用のNCPとしても好適に用いることができる。速硬化によりアセンブリ工程の短縮化が可能なためである。より好ましくは、本発明の電子部品接合用接着剤は、3秒以内に硬化することである。
【0056】
本発明の電子部品接合用接着剤は、例えば、エピスルフィド化合物、包接化合物、その他必要に応じて添加する硬化性化合物、反応可能な官能基を有する反応性高分子化合物、チキソトロピー付与剤、溶媒等を所定量配合して混合することで製造することができる。
上記混合の方法としては特に限定されないが、例えば、ホモディスパー、万能ミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー等を使用する方法を用いることができる。
【発明の効果】
【0057】
本発明によれば、貯蔵安定性に優れ、かつ、比較的低温で短時間に硬化させることができる電子部品接合用接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
(エピスルフィド化合物の合成)
(1)ビスフェノールA型エピスルフィドの合成
フラスコ内に、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(ジャパンエポキシレジン社製YL−980、エポキシ当量=180g/eq.)を100g及びテトラヒドロフランを200g仕込み、室温にて攪拌してエポキシ化合物を溶解させた。溶解後、チオ尿素を100g及びメタノールを200g添加し、温度30〜35℃で、攪拌しながら5時間反応を行った。反応終了後、メチルイソブチルケトンを300g添加した後、純水250gで5回水洗した。水洗後、ロータリーエバポレーターにて減圧下、温度90℃でメチルイソブチルケトンを留去して、無色透明液体の硬化性化合物Aを102.5g得た。
【0060】
(2)ビスフェノールF型エピスルフィドの合成
フラスコ内に、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル(大日本インキ化学工業社製EXA−830−CRP、エポキシ当量=160g/eq.)を100g及びテトラヒドロフランを200g仕込み、室温にて攪拌してエポキシ化合物を溶解させた。溶解後、チオ尿素を100g及びメタノールを200g添加し、温度30〜35℃で、攪拌しながら5時間反応を行った。反応終了後、メチルイソブチルケトンを300g添加した後、純水250gで5回水洗した。水洗後、ロータリーエバポレーターにて減圧下、温度90℃でメチルイソブチルケトンを留去して、無色透明液体の硬化性化合物Bを101.2g得た。
【0061】
(3)ジシクロペンタジエン型エピスルフィドの合成
フラスコ内に、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物(アデカ社製EP−4088S、エポキシ当量=130g/eq.)を100g及びテトラヒドロフランを200g仕込み、室温にて攪拌してエポキシ化合物を溶解させた。溶解後、チオ尿素を100g及びメタノールを200g添加し、温度55〜60℃で、攪拌しながら5時間反応を行った。反応終了後、メチルイソブチルケトンを300g添加した後、純水250gで5回水洗した。水洗後、ロータリーエバポレーターにて減圧下、温度90℃でメチルイソブチルケトンを留去して、無色透明液体の硬化性化合物Cを101.2g得た。
【0062】
(実施例1〜11、比較例1〜3)
表1に示す組成に従って、ホモディスパーを用いて下記に示す各材料(重量部)を攪拌混合し、実施例及び比較例に係る電子部品接合用接着剤を調製した。
【0063】
(1)エピスルフィド化合物
硬化性化合物A(上記で得られたビスフェノールA型エピスルフィド)
硬化性化合物B(上記で得られたビスフェノールF型エピスルフィド)
硬化性化合物C(上記で得られたジシクロペンタジエン型エピスルフィド)
YL−7007(水添ビスフェノール型エピスルフィド、ジャパンエポキシレジン社製)
【0064】
(2)その他の硬化性化合物
EX−201(レゾルシノールジグリシジルエーテル、ナガセケムテックス社製)
【0065】
(3)その他の硬化剤
HNA−100(酸無水物硬化剤、新日本理化社製)
DPMP(6官能チオール化合物、堺化学社製)
TEMPIC(3官能チオール化合物、堺化学社製)
【0066】
(4)包接化合物
TEP−2E4MZ(テトラキスフェノール系化合物(上記一般式(1)においてR25〜R32全てがHの化合物)によりイミダゾール化合物(2E4MZ)を包接した化合物、日本曹達社製)
TEOC−2E4MZ(テトラキスフェノール系化合物(上記一般式(1)においてR25〜R32のうち、4つがメチル基であり、かつ、4つがHである化合物)によりイミダゾール化合物(2E4MZ)を包接した化合物、日本曹達社製)
NIPA−2E4MZ(上記化学式(4)のジカルボン酸系化合物によりイミダゾール化合物(2E4MZ)を包接した化合物、日本曹達社製)
NIPA−2MZ(上記化学式(4)のジカルボン酸系化合物によりイミダゾール化合物(2MZ)を包接した化合物、日本曹達社製)
【0067】
(5)その他の硬化促進剤
イミダゾール硬化促進剤(2E4MZ、四国化成社製)
イミダゾール硬化促進剤(2MA−OK、四国化成社製)
【0068】
(6)添加剤(シランカップリング剤)
KBE−402(イミダゾールシランカップリング剤、日鉱マテリアル社製)
【0069】
<評価>
実施例及び比較例で調製した電子部品接合用接着剤について、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0070】
(貯蔵安定性)
電子部品接合用接着剤について、23℃において、E型粘度計(商品名VISCOMETER TV−22、TOKI SANGYO CO.LTD社製、使用ローターφ15mm)を用いて初期粘度η(Pa・s)及び調製後48時間経過時の粘度η(Pa・s)を測定した。
粘度ηが初期粘度ηの2倍に達していない場合を「○」、2倍に達している場合を「×」として評価した。
【0071】
(ゲル化時間の測定)
電子部品接合用接着剤約0.1mLをホットプレート上に滴下し、予め120℃、150℃及び200℃の各温度に設定したホットプレート上で温めておいたガラスを上から押しつけた。そのガラスが外れなくなるまでの時間をゲル化時間として測定した。
【0072】
(200℃、5秒での硬化特性)
10mm×10mm、厚さ80μmの半導体チップと、20mm×20mm、厚さ170μmの基板(大昌電子社製)との間に電子部品接合用接着剤を10μmの厚みに塗布した。澁谷工業社製フリップチップボンダーを使用し、ボンディング時の接着剤温度が200℃になるように設定し、5秒間加熱ボンディングして硬化可能かどうかを観察した。このとき、ステージ温度は80℃、ツール温度は220℃に設定し、コレットとしてはSiNのコレットを使用した。
完全に硬化した場合を「○」、硬化が不完全の場合を「×」として評価した。なお、この評価において、「完全に硬化する」とはシェア強度が0.1N/mm以上であることを意味し、「硬化が不完全である」とはシェア強度が0.1N/mm未満であることを意味する。
【0073】
(硬化物の吸水率の測定)
電子部品接合用接着剤を170℃、10分間加熱して硬化させた。得られた硬化物を85℃、85RH%の高温高湿オーブンに24時間放置した前後での重量の増加を測定し、増加量/全体量×100を吸水率(%)として算出した。
【0074】
(硬化物の耐湿熱性試験)
電子部品接合用接着剤を20mm×20mm、厚さ170μmの基板(大昌電子社製)上に100μmの厚みに塗布し、170℃、10分間加熱して硬化させた。得られた硬化物を120℃、85RH%の高温高湿オーブンに96時間放置し、変色が見られるかを目視で評価した。
変色が見られなかった場合を「○」、わずかに変色している場合を「△」、変色している場合を「×」として評価した。
【0075】
(リフロー試験)
10mm×10mm、厚さ80μmの半導体チップと、20mm×20mm、厚さ170μmの基板(大昌電子社製)との間に電子部品接合用接着剤を10μmの厚みに塗布し、170℃、10分間加熱して硬化させて、半導体チップ接合体を作製した。
得られた半導体チップ接合体20個を85℃、85RH%の高温高湿オーブンに48時間放置した後、半導体チップ接合体をハンダリフロー炉(プレヒート150℃、100秒、リフローの最高温度260℃)に3回通過させた。その後、基板から半導体チップが剥離してしまっているものの個数を目視にて確認した。
剥離の個数が0の場合を「○」、3以下の場合を「△」、4〜20の場合を「×」として評価した。
【0076】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、貯蔵安定性に優れ、かつ、比較的低温で短時間に硬化させることができる電子部品接合用接着剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピスルフィド化合物と、下記一般式(1)、(2)若しくは(3)で表されるテトラキスフェノール系化合物に包接されたイミダゾール化合物、又は、下記化学式(4)若しくは(5)で表されるジカルボン酸系化合物に包接されたイミダゾール化合物とを含有することを特徴とする電子部品接合用接着剤。
【化1】

一般式(1)中、Xは、(CH(nは、0〜3の整数を表す)を表し、R25〜R32は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ハロゲン原子又は低級アルコキシ基を示す。
【化2】

【化3】

一般式(2)、(3)中、Xは、(CH(nは、0〜3の整数を表す)、又は、置換基を有していてもよいフェニレン基を表し、R〜R及びR13〜R20は、それぞれ独立して、水素原子、C1〜C6のアルキル基、C2〜C6のアルケニル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ハロゲン原子、又は、C1〜C6のアルコキシ基を表し、R〜R12及びR21〜R24は、それぞれ独立して、水素原子、C1〜C6のアルキル基、C2〜C6のアルケニル基、C7〜C12のアラルキル基、又は、アルカリ金属を表す。
【化4】

【化5】


【公開番号】特開2010−1465(P2010−1465A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121123(P2009−121123)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】