説明

電気エネルギもしくは磁気エネルギを用いてエレベータロープの劣化を検出する方法および装置

【課題】 エレベータロープの欠陥や劣化を検出するための方法および装置を提供する。
【解決手段】 強磁性の引張部材を備えたロープの欠陥を検出つまり測定するための方法およびシステムは、磁界発生器と、既知の関係で前記引張部材に対応する磁束センサの列と、を備えている。漏洩磁束の測定値によって、欠陥を示す。本発明の他の形態は、導電性引張部材を備えたエレベータロープの欠陥を検出つまり測定するための方法およびシステムに関し、引張部材の電気抵抗の測定値によって、欠陥を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータロープに関し、特に、電気的エネルギもしくは磁気エネルギを利用してエレベータロープを検査することによって欠陥や劣化を検出するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業や商業の用途で、荷重を垂直に上下させるために、エレベータかごもしくはこれと同様な容器を引き揚げる引張用ロープシステムは、一般的に、鋼製ロープから構成されている。このようなロープは、通常は複数のコードからなり、これらのコードは、通常は独立した鋼製ワイヤからなる複数のストランドから構成されている。このような引張用ロープは、多くの場合に安全性および生産性を決定する厳密な部材である。
【0003】
複数のストランドもしくはコードを有するロープの個々の構成部材が劣化すると、このようなロープの引張強度が低下する。ロープの引張強度は、ロープ断面積などの様々なパラメータによって決まる。鋼製ロープの1つもしくは複数の構成部材の伸長、分裂もしくは永久的な歪曲が起こると、これらの構成部材は、荷重支持部材としては使用不能つまり弱いものとなり、これによって、ロープの有効張力支持断面積が減少する。このようなタイプの劣化は、通常の摩耗や亀裂、衝撃、疲労、偶発的な腐食といった様々な原因により生じる。
【0004】
エレベータロープのような業務用ロープは、非常に長く、かつ多数の独立したワイヤおよびストランドから構成されているため、視覚的検査によっては、ロープの状態もしくは劣化レベルを完全かつ正確に検査することができない。さらに、エレベータロープを分解して種々の検査装置に適用することも不可能である。従って、このような産業では、一般的に、ロープを過剰設計することによって、損傷が起こる危険性を伴わずに、劣化のマージンを大きくしている。ロープは、時間もしくはサイクルの主要管理点で交換される。通常は、現場で臨時に行われる視覚的検査が、唯一の検査方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロープを視覚的に検査する際に生じる主な問題は、ロープの外側表面におけるストランドおよびワイヤしか見ることができないことである。この部分は、張力支持断面積の一部にすぎない。さらに、例えばエレベータシステムに設置されているロープの全長に亘って視覚的検査を行うことは困難である。従って、通常は、サンプリング方法や近似的方法が用いられる。しかし、このような方法によっても、安全性を確保するためには、過剰設計によりマージンを大きくする必要がある。結果として、ロープは、高価でかつ過剰な量の材料から構成され、大抵は、有用な耐用期間中に廃棄される。さらに、多くの場合に、検査のために工数および運転停止時間が増大することによって、コストが高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の様々な目的には、時間、コストおよび複雑性の点で実行可能であり、連続的な監視および検出を効率的に実行することができ、さらに、正確性および信頼性に優れた方式で、鋼製ロープ、もしくは鋼製ロープを構成部材として含む複合ロープの劣化を検出するための方法および装置を提供することが含まれる。達成される他の目的は、例えば複合型ロープもしくは複合型ベルトを検査する場合に、目視できないロープ構成部材を検査する能力を提供することである。複合型ロープもしくは複合型ベルトの例としては、一本もしくは複数本の鋼製ロープが絶縁材料(例えばポリウレタンやゴム)に埋め込まれた平形ロープが挙げられる。このような場合は、視覚的に検査することができない。これらの目的および他の目的は、以下のようにして、本発明により達成することができる。
【0007】
本発明の1つの実施例では、磁石およびセンサの斬新な列を用いて、透磁性のロープの全体に磁界をかけ、続いて、漏洩磁束を測定し、これを予め保存されていたデータと比較することによってロープの状態を検査する。本発明の他の実施例では、ロープに電流を流し、抵抗値を測定し、予め保存されていたデータと比較することによって、ロープの状態を検査する。
【0008】
以下では、エレベータロープに関する好適な実施例が例として記載されているが、同様な荷重下および使用条件で利用される他のタイプのロープおよびベルトにも本発明を適用することができることは、理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】絶縁材料の内部に複数のコードを備えたエレベータロープの概略的断面図。
【図2】図1に示されたタイプのエレベータロープのコードの概略的断面図。
【図3】強磁性材料に隣接して配置された2つの磁石の概略図。
【図4】図1に示されたタイプのエレベータロープに隣接して配置された磁束センサ列の概略図。
【図5】本発明の第1実施例の装置を示す概略図。
【図6】エレベータシステムに取り付けられた本発明の第1実施例の装置を示す部分概略図。
【図7】本発明の第2実施例の装置を示す概略図。
【図8A】本発明の磁束検出結果を示すグラフ。
【図8B】本発明の磁束検出結果を示すグラフ。
【図9】本発明の第3実施例の装置を示す概略図。
【図10】エレベータシステムに取り付けられた本発明の第3実施例の装置を示す部分概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(磁束の測定方法および装置)
ワイヤ等の強磁性部材における亀裂、切れ目もしくは他の不連続部分といった欠陥は、ワイヤ内部の磁束密度分布を監視することによって、検出することができる。欠陥が存在する場合、磁束が空中まで貫通する。直径が0.175mmのワイヤからなるロープの金属の断面積の、劣化や欠陥に起因した損失の定量測定は、0.175mmの量的分解能があれば行うことが可能である。「量的分解能」という用語は、本願では、付加的な信号処理を行わずに、センサによって直接に定量測定を行うことが可能な最小の欠陥である。
【0011】
ワイヤロープの主な劣化状態には、内部の摩耗、腐食、亀裂およびキンクなどがある。内側の摩耗は、切り傷、高圧力状態、もしくは潤滑の不足によって生じる。腐食は、内側にも外側にも起こり得るが、様々な環境条件および潤滑の不足によって生じる。ワイヤの亀裂は、疲労、樹脂の摩耗、マルテンサイト系鋼の脆性および機械的損傷によって生じる。キンクは、鋭角的な湾曲や機械的損傷によって生じる。
【0012】
劣化が起こると、ワイヤの断面積が減少し、これによって、張力に耐える能力が低下する。欠陥があるワイヤつまり劣化したワイヤから隣接するワイヤへと荷重が搬送されることによって、残りのワイヤの期待疲労寿命が短くなる。1つの群における欠陥の数が増大するほど、移送される荷重が増大するため、欠陥数の増大率が大きくなる。
【0013】
漏洩磁束を検出するシステムは、基本的に、磁束励磁機および磁束センサからなる。励磁機は、検査すべき強磁性部材に磁気を与えるのに必要なものである。この励磁機としては、例えば、包囲コイル(encircling coil)、もしくは軟鋼製磁極を有するU字型の電磁石もしくは永久磁石を用いることができる。包囲コイルは、磁芯(ferromagnetic core)を有さないため、磁束を発生させることにより被検査部材に磁気を与える目的のためには、あまり有用でない。U字型磁石は、発生した磁束の大部分を被試験部材に向けることが可能なため、より好適である。永久磁石励磁機には、電源が必要とならず、かつ同じ磁束を発生する電磁石よりも寸法を小さくすることができる。磁束センサとしては、様々なものが利用可能であり、例えば、探りコイル、ホール素子(Hall element)、およびマグネットダイオード(magnetodiode)などを利用することができる。探りコイルを用いた場合、大きな表面積を検査することができるが、出力信号が速度に依存する。ホール素子を用いた場合は、速度に依存しない大きな出力信号を発生させることができる。
【0014】
励磁機−センサシステムを、ワイヤコードの列を備えた平形ロープに適用した状態が、図1〜6に示されている。非強磁性絶縁材料の平形ロープに強磁性コードが埋め込まれている好適な実施例が示されているが、本発明は、このような実施例に限定されるものではなく、例えば、一本の強磁性コードが円形の絶縁体ジャケットの内部に埋め込まれた複合型ロープにも適用することができる。平形ロープ(10)は、ほぼ矩形の断面を有し、複数のコード(15)からなるとともにほぼ均一に分散された複数の鋼製ロープを非強磁性材料(例えばポリウレタン)(12)が包囲したものである。図2に示されているように、コード(15)は、複数のストランド(16)からなり、各ストランド(16)は、複数の鋼製ワイヤ(17)からなる。本発明の磁束励磁機−センサシステムを利用するためには、以下のように仮定する。(a)漏洩磁束は無視できる。(b)励磁機の強磁性磁極およびヨークの透磁率は無限大とする。(c)試験されるストランドに渦電流は発生しない。
【0015】
図3を参照すると、ロープ(10)を示す強磁性試験サンプル(102)に隣接して、永久磁石(100)が配置された状態が概略的に示されている。鋼製ロープ(14)の磁気抵抗Rμrは、Rμr=Δlr/μjμrrであり、ここで、Δlrは、コードの試験区間であり、励磁機の磁極の中心線間の距離に等しい。
【0016】
自由空間の透磁率μjは、μj=0.4π×10-6H/mである。
【0017】
鋼製ストランドの比透磁率は、μrである。鋼製ワイヤロープ(14)の断面積はSrである。透磁率μrrは、ストランド内部の磁束密度(磁界強度)の非線形関数である。
【0018】
鋼製ロープ(全鋼製ストランド)の断面積Srは、
【0019】
【数1】

【0020】
である。ここで、ncはストランド数であり、nstrは、各コード内部のストランド数であり、dstrは、一本のストランドの直径である。
【0021】
磁極面と磁芯(core)との間の間隙の磁気抵抗Rμgは、ほぼRμg=g/μ0gであり、gは間隙(強磁性体から強磁性体まで)であり、S=wppである。磁極面(ロープ長に平行)の幅はwpであり、磁極面の長さ(ロープ長を横断する方向)はlpである。
【0022】
磁気回路に関するオームの法則および上述した仮定(a)、(b)(c)から、励磁システム(電磁石もしくは永久磁石を備えている)から発生する磁束は、
【0023】
【数2】

【0024】
であり、ロープ内部の磁束密度(一本のストランド内部における磁束密度に等しい)は、
【0025】
【数3】

【0026】
である。ここで、Nは、励磁を行うために利用されている電磁石巻線の巻数であり、Iは、電磁石巻線における直流電流である。同等の起磁力(MMF)NIは、永久磁石によっても発生させることができる。永久磁石を用いる場合は、NIをHhMと置き換えるべきである。Hは、同等な磁界強度であり、hMは、永久磁石の長さである。
【0027】
ホール素子を用いると、一本のワイヤ(例えば、1.6mmの直径を有するコード内部の0.175mmの直径のワイヤ)の損傷を示す磁束密度差を検出するのに十分な感度をシステムに与えることができる。ロープが劣化するに従ってロープをサンプリングし、磁束密度を測定し、測定値を保存することによって、検査すべきロープの磁束密度との比較に用いるためのデータを保存することができる。ホール素子を用いた場合、劣化していないロープと一本のワイヤのみが損傷した試験サンプルとの間の磁束密度差を検出することが可能なものとして、システムを構成することができる。
【0028】
感度レベルを、このような寸法の個々のワイヤの磁束密度差を検出することが可能なものにするためには、U字型の電磁石もしくは永久磁石を備えた磁束密度励磁システムの軟鋼製磁極(108,110)の中心線間の距離Δlrを小さくすべきである。しかし、Δlrが小さすぎると、磁束が漏洩し、鋼製ロープ内部の利用可能な磁束が許容できないレベルにまで低減するおそれがある。各間隙の断面積(各軟鋼製磁極の断面積にほぼ等しい)は、小さくすべきである。このことは、各磁極面の幅(112)を、ロープの一本のコードの直径よりも小さくならない程度にまで減少させることによって実行することができる。間隙の断面積が小さすぎると、磁極間から多量の磁束が漏洩する。
【0029】
本発明の磁束励磁センサシステムでは、試験サンプル(鋼製コードを内部に備えたエレベータロープ)を、例えば磁石の磁極に通し、コードにおいて磁極を通る部分および磁極間の部分に磁気を与えて磁気回路の一部とし、これによって、コード内部にコード軸線と平行な磁束密度を発生させる必要がある。理想的な劣化していないロープの内部では、磁束の大部分がロープと平行になる。上述したような、劣化による欠陥が鋼製のコードもしくはワイヤに存在する場合、磁束密度のフリンジ(fringe)が局部的に発生し、これによって、平行な磁束に「でこぼこ」つまり不連続部分が生じる。欠陥の位置では、一部の磁束密度が、コードの軸線に対して垂直に向かう。このような垂直な磁束密度が、ロープ内部の欠陥を示すものとして、本発明のシステムによって検出される。
【0030】
磁束センサアッセンブリには、ホール効果センサ、探りコイル、もしくは他の周知のセンサを備えることができる。例として、ホール効果センサを用いた構成が、図4の概略的断面図に示されている。図示されているセンサアッセンブリ(300)は、12本の鋼製ロープコード(304)が内部で均等に離間されかつ長手方向軸に平行に延びているロープ(302)に適用されるものである。ホール効果センサ(310)が個々のコード(304)に対応して配置されるように、ホール効果センサ(310)の第1列および第2列(306,308)が、検査されるべき平形ベルト(306)の上方および下方にそれぞれ配置される。ベルトの片側のみに1つのセンサ列を配置することも可能である。センサの数を必ずしもコードの数に対応させる必要はないため、センサ数に制限はない。ベルトの軸線に垂直な磁束密度成分は、磁極間の狭い部分にあるため、センサ列(306,308)は、磁石の磁極に対して、平形ロープ(302)の長手方向軸に沿ってほぼ中心に配置すべきである。このようにして、このような位置において大きな垂直な磁束を検出することによって、鋼製コードの欠陥を示すことができる。
【0031】
図5に概略的に示されている試験アッセンブリ(400)は、2つの磁極を有するU字型磁石を備えた励磁システム(402)、図4に関して上述したようなセンサアッセンブリ(408)、およびコントローラ(410)を備えている。試験アッセンブリ(400)は、図6に示されるようにエレベータシステム(420)の専用装置として固定するか、もしくは、現場での組み立てが可能なものとして様々な現場から現場へと搬送できるようにすることができる。例えば、ブラケット(403)によって、試験アッセンブリ(400)をエレベータの巻上機アッセンブリ(401)に固定することができる。励磁機アッセンブリおよびセンサアッセンブリは、検査すべきロープ(412)が磁石(402)およびセンサ(408)に対して移動し得るように、配置される。所望により、コントローラ(410)を、試験アッセンブリ(400)の他の部分から離して配置し、ハードウェア、RFもしくは復変調装置といった手段を介して他の部分と通信させることも可能である。遠隔モニタおよび遠隔制御を行うことも可能である。
【0032】
代わりの実施例として、図7に示されるように、試験アッセンブリ(500)を、図5に示された部材の他に搭載型のコントローラ(502)および電源(504)を備えた携帯可能な自立式装置とすることも可能である。例えば、検査中のエレベータロープ(510)を取り囲むように閉じることが可能なハーフ部材(506,508)からなる2分割ハウジングを、このような装置に備えることも可能である。
【0033】
ロープ(302)内部の所定の相対位置に配置されたコード(304)の列のために設計された試験アッセンブリは、まず、特性が既知である劣化したロープサンプルを用いて試験アッセンブリを動作させ、個々のホール効果センサからそれぞれ得られるデータ信号を予め保存することによって、較正することができる。個々のセンサ素子に対して各所定位置を関連付け、選択的に損傷が加えられたコードもしくはストランドを用いて試験運転を繰り返すことによって、実際の試験データを、既知のデータつまり予め保存されていた予想可能なデータと比較することができる。例えば、幾つかのセンサ素子からの測定値が一本のロープの既知の位置に関連する場合に、これらの測定値を分析することによって、欠陥のあるストランドもしくはワイヤの、コード断面での厳密な高さ(level)および相対位置を検出することができる。
【0034】
例として、図8Aのグラフには、複数のコードを有する平形ロープに張力が加えられた状態で、上方のセンサ列によって各コード毎に測定された漏洩磁束が、時間の関数として示されている。コード番号により識別された各コード毎に、漏洩磁束(ボルト)が時間(秒)に対してプロットされている。漏洩磁束軸上の相対的ピークによって、欠陥が特定される。ロープ上の初期位置およびセンサに対するロープの移動速度は既知であるため、時間軸をロープ上の位置と相関させることができる。底部のセンサに対する同様なグラフが、図8Bに示されている。グラフ8A,8Bは、ロープに沿った長手方向位置に対して相補的なものであり、同じロープに対して同じ時間周期が示されている。欠陥の厳密な位置に起因して、2組のセンサの出力(図8Aおよび図8B)は異なっている。より厳密には、2つのセンサ列の間の基準点を相関させることによって、各コードにおける欠陥の位置を、長手方向位置だけでなく、角度位置およびコードの中心軸線からの距離に関して検出することができる。
【0035】
図8Aおよび図8Bに示された例は、様々な状態でのワイヤもしくはコードの性能もしくは損傷を測定および検査するために利用できる様々な試験のうちの一例である。
【0036】
以上のような分解能レベルを有するこのような方法によって、ワイヤもしくはロープの損傷を正確に検出することができる。このような測定は、例えば、周囲のハードウェアや環境に問題があることを象徴する慢性的な損傷パターンもしくは摩耗パターンを特定するために利用できる。
(電気抵抗の測定方法および測定装置)
本発明の他の実施例は、平形ロープ(例えばポリウレタンからなる)といった、非導電性絶縁材料の内部に収容された鋼製コードに電流を流して電気抵抗を測定することによって、このような鋼製コード張力搬送部材の劣化を検出することに関する。このようなロープの例として、ポリウレタンジャケット内部で張力搬送コードが全長に亘って延びたエレベータ用平形ロープが挙げられる。鋼製ロープの抵抗の変化は、ストランドもしくはワイヤが劣化していることを示す。エレベータの環境においては、コンダクタンスを要するこのような試験は、絶縁されていないベルトもしくはロープには適用することができない。ベルトもしくはロープが絶縁されていない場合、鋼製コードがエレベータシステムの金属製部材に接触してしまうためである。
【0037】
本発明によると、電気抵抗測定装置を検査すべきロープに適用し、コードに亘って測定した抵抗値を、予め保存されていた、理想的ロープのデータと相関させる。所定のしきいデータ値を、検査したロープもしくはベルトを交換すべき時期を決定するために用いる。抵抗測定装置としては、例えば、ケルビンブリッジ(Kelvin bridge)を用いることができる。
【0038】
このようなシステム(600)の概略図が図9に示されており、エレベータロープ(602)が第1端部および第2端部(604,606)で電流入力リード線よび電流出力リード線(608,610)に接続されている。変動安定定電流源(floating stable constant current source)(612)が、ロープの一端に接続されている。両端部で接続を行ない、電圧を測定する。測定電流は、入力ワイヤ(608)を経てロープの未知の抵抗を通過し、戻りワイヤつまり出力ワイヤ(610)を流れる。付加的なワイヤ(609,611)が、高入力インピーダンス検知ヘッド(high impedance sense head)に接続されているが、これらには電流が流れない。電流値は既知であるため、入力される電圧(Voltage in;Vin)および出力される電圧(Voltage out;Vout)を全ロープ電圧(Vrope)に関連付けるとともに、入力される電流(current in;Iin)を知ることによって、ロープの抵抗(Rrope)を決定することができる。
【0039】
rope=Vout−Vin
rope=Vrope/Vin
検査されているロープの抵抗が所定しきい値に到達した場合、このことは、ロープの交換が必要であることを示している。しきい値は、測定されたサイクル回数に対して、荷重および疲労に対する応力レベルがそれぞれ異なる同様なロープを検査し、対応する抵抗値および維持されている荷重支持強度を測定することによって、決定することができる。これによって、抵抗値と荷重支持能力との間の関係を規定することができる。
【0040】
抵抗は、温度や湿度といった要因に影響されるため、本発明を適用する場合には、複数のコードを有するロープもしくは複数のロープの内部の独立したコードを相対的に比較することが好ましい。例えば、高い建物の内部の温度は、最上部と最下部とで著しく異なる可能性がある。本発明のシステムを、導電性材料のコードを複数有するロープに適用することによって、抵抗を隣接したコードと相対的に比較することができ、これによって、温度、湿度もしくは他の環境条件の影響を受けても、抵抗値の変化を検出することができる。
【0041】
図10に示されているように、電流入力リード線および電流出力リード線(608,610)は、エレベータシステムの端部(614,616)でエレベータロープ(602)に接続することができる。概略的に示されている電源(618)およびコントローラ(620)を、ハードウェアもしくは他の一般的手段を介して接続することも可能である。コントローラ(620)は、ロープ(602)の張力支持強度を示す所定データに抵抗の測定値を相関させるものとしてプログラムすることができる。RF、復変調装置による接続もしくは同様な手段を介して遠隔制御装置を利用することによって、データ入力、電流入力および読み取り値の監視および制御を行うことも可能である。
(結論)
上述した検査システムは、ロープ状態を連続的に監視するために動作させるか、もしくは、保守整備工程中に周期的に動作させることができる。このようなシステムは、専用のシステムもしくは搬送型システムとすることができる。
【0042】
好適な実施例が記載されたが、本願で請求された範囲から逸脱することなく、様々な変更を加えることが可能なことは、理解されるだろう。
【符号の説明】
【0043】
300…センサアッセンブリ
302…平形ロープ
304…コード
306…センサの第1列
308…センサの第2列
310…センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の強磁性のコード部材を備えたロープの劣化を検出する方法であって、
前記コード部材の一部に磁界を加え、
前記磁界により生じる磁束を監視し、
前記コード部材において漏洩磁束が生じる位置を特定し、前記位置により劣化を示すことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記磁界が、前記ロープと磁石との間の相対移動により加えられることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ロープが、ほぼ矩形の断面を有する非強磁性絶縁材料の本体を有し、前記本体の内部で、前記の複数の強磁性コード部材が、分散されているとともに、長手方向に延びていることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
複数の強磁性コード部材を備えたロープの劣化を検出し、かつ劣化した位置を特定する方法であって、
磁石に対して前記ロープを既知速度で移動させることにより、前記コード部材の一部に磁界を加え、
前記磁界により生じる磁束を時間の関数として監視し、
前記コード部材から漏洩磁束が発生した時点を特定し、前記時点によりロープの劣化位置を示すことを特徴とする方法。
【請求項5】
複数の強磁性のコード部材を備えたロープの張力支持能力を近似的に求める方法であって、
前記コード部材の一部に磁界を加え、
前記磁界により生じる磁束を測定し、
前記の測定した漏洩磁束を、張力支持能力を示す所定データと比較することを特徴とする方法。
【請求項6】
複数の強磁性のコード部材を備えたロープの劣化を検出し、かつ劣化した位置を特定する方法であって、
前記コード部材の一部に磁界を加え、
前記磁界により生じる磁束を監視し、
各コード部材において漏洩磁束が生じる位置を特定し、前記位置により劣化を示し、
各コード部材の劣化を示す前記位置を互いに相関させることによって、各位置の相対位置を決定することを特徴とする方法。
【請求項7】
前記漏洩磁束の大きさを測定することを有する請求項3記載の方法。
【請求項8】
前記漏洩磁束の大きさを測定することを有する請求項4記載の方法。
【請求項9】
前記漏洩磁束の大きさを測定することを有する請求項6記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの強磁性部材を有するロープの劣化を検出し、かつ劣化した位置を特定する装置であって、
本体を備えており、前記本体は、前記ロープを前記本体に沿って案内するロープ案内手段を備えており、前記装置は、さらに、
前記本体に隣接した磁界を発生させるために前記本体に対して固定された磁石と、
前記磁界により生じる磁束を監視するために前記本体に対して取り付けられた磁束検出手段と、
1つもしくは複数の劣化部分を検出するために、前記磁束を前記ロープと関連させる手段と、を備えていることを特徴とする装置。
【請求項11】
前記ロープが、複数の強磁性コード部材を備えていることを特徴とする請求項10記載の装置。
【請求項12】
前記磁束検出手段が、前記本体に取り付けられた複数の磁束センサを備えていることを特徴とする請求項11記載の装置。
【請求項13】
前記磁束検出センサが、ホール効果変換器を備えていることを特徴とする請求項12記載の装置。
【請求項14】
各磁束センサによって各コード部材の磁束が監視されるように、前記の複数の磁束センサがそれぞれ1つの前記強磁性コード部材に対応していることを特徴とする請求項12記載の装置。
【請求項15】
各磁束センサにより検出された磁束を互いに相関させる制御手段を備えていることを特徴とする請求項14記載の装置。
【請求項16】
前記の複数の磁束センサが前記本体に対して配置されており、これによって、前記ロープが前記本体に沿って案内されている状態で、前記の複数の磁束センサが、前記ロープの片側に配置されたまま維持されることを特徴とする請求項14記載の装置。
【請求項17】
前記の複数の磁束センサが前記本体に対して配置されており、これによって、前記ロープが前記本体に沿って案内されている状態で、前記の複数の磁束センサが、前記ロープの両側に配置されたまま維持されることを特徴とする請求項14記載の装置。
【請求項18】
前記ロープ案内手段を設置されているエレベータロープと係合させて前記エレベータロープの劣化を検出しかつ劣化した位置を特定できるように、前記装置をエレベータアッセンブリに取り付ける手段を備えていることを特徴とする請求項10記載の装置。
【請求項19】
設置されているエレベータロープを前記ロープ案内手段と係合させて前記エレベータロープの劣化を検出しかつ劣化した位置を特定できるように、前記装置をエレベータアッセンブリのエレベータ巻上機に取り付ける手段を備えていることを特徴とする装置。
【請求項20】
前記装置が、エレベータアッセンブリ間での搬送が可能なものとして構成された搬送可能な自立式装置であり、これによって、前記装置をエレベータアッセンブリに適用することにより、前記ロープ案内手段を設置されているエレベータロープに係合させて前記エレベータロープの劣化を検出しかつ劣化した位置を特定することが可能であることを特徴とする請求項10記載の装置。
【請求項21】
導電性の張力支持部材を備えたエレベータロープの張力支持能力を近似的に求める方法であって、
前記エレベータロープに電流を流し、
前記エレベータロープの電気抵抗を測定し、
前記抵抗を、前記エレベータロープの張力支持能力を示す所定データと比較することを特徴とする方法。
【請求項22】
電流入力リード線および電流出力リード線を、エレベータアッセンブリ内部で、前記エレベータロープの終端部における接続点にそれぞれ接続することを特徴とする請求項21の方法。
【請求項23】
前記の導電性の部材は、エレベータかごの荷重を支持するための、エレベータロープ内部の張力支持コードであることを特徴とする請求項21の方法。
【請求項24】
前記エレベータロープが、前記の導電性の張力支持部材を実質的に包囲している非導電性絶縁ジャケットを備えていることを特徴とする請求項21記載の方法。
【請求項25】
エレベータアッセンブリ内部で固定された2つの端部および導電性部材を有するエレベータロープの張力支持能力を近似的に求めるシステムであって、
前記エレベータロープのある区間に電流を流す手段と、
前記エレベータロープの電気抵抗を測定する手段と、
前記抵抗の測定値を、前記エレベータロープの張力支持強度を示す所定データと相関させる手段と、を備えていることを特徴とするシステム。
【請求項26】
前記導電性部材は、エレベータかごの荷重を支持するための、エレベータロープ内部の張力支持コード部材であることを特徴とする請求項25記載のシステム。
【請求項27】
前記エレベータロープは、前記の導電性の張力支持部材を実質的に包囲している非導電性絶縁ジャケットを備えていることを特徴とする請求項25記載のシステム。
【請求項28】
前記エレベータロープの前記の導電性の張力支持部材が、エレベータかごの荷重を支持するために、前記エレベータロープ内部に埋め込まれているとともに前記エレベータロープの全長に亘って長手方向に延びている複数のコードを備えており、
前記のエレベータロープのある区間に電流を流す手段が各コードに接触していることによって、電流が各コードに流れることを特徴とする請求項25記載のシステム。
【請求項29】
前記エレベータロープに電流を流すために、前記エレベータロープの前記の2つの固定された端部を接続する手段を備えていることを特徴とする請求項25記載のシステム。
【請求項30】
各コードの前記抵抗の測定値を他のコードの前記抵抗の測定値と比較し、他のコードに対する各コードの相対的な張力支持強度を決定する手段を備えていることを特徴とする請求項25記載のシステム。
【請求項31】
前記エレベータロープが、前記の複数のコードを包囲している非導電性絶縁ジャケットを備えていることを特徴とする請求項28記載のシステム。
【請求項32】
エレベータロープの励磁レベルを監視する監視システムであって、前記エレベータロープは、エレベータシステムの張力を支持する荷重支持部材および前記荷重支持部材を包囲しているジャケットを備えているものにおいて、前記監視システムは、
前記ジャケットが励磁されないように前記荷重支持部材を励磁する励磁手段と、
前記荷重支持部材の励磁レベルを監視する監視手段と、
を備えていることを特徴とする監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−204113(P2010−204113A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106079(P2010−106079)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【分割の表示】特願2000−608154(P2000−608154)の分割
【原出願日】平成12年3月17日(2000.3.17)
【出願人】(591020353)オーチス エレベータ カンパニー (402)
【氏名又は名称原語表記】OTIS ELEVATOR COMPANY
【Fターム(参考)】