説明

電気ブレーキ装置

【課題】 ブレーキパッドとブレーキロータの隙間を的確に管理し、制動時の応答性を高める。
【解決手段】 制動操作が直後に開始される状態で、電動モータ4を正方向に回転させてブレーキパッド2をブレーキロータ1に接触させ、制動操作時の応答を早め、制動操作状態から制動を終了する状態までブレーキペダルが戻された状態で、電動モータ4を逆方向に回転させてブレーキパッド2とブレーキロータ1の間に隙間を確保し、走行時のブレーキパッド2の引きずりを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータにより制動力を発生させる電気ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子技術の発展により、運転者のブレーキペダルの踏み込み状態を電気的に検出し、検出された踏み込み状態に応じて電動モータを駆動して制動力を発生させる電気ブレーキ装置が種々提案されている。電気ブレーキ装置は、電動モータの駆動によりピストンを往復動させ、ピストンに連結されたブレーキパッドをブレーキロータに押し付けて制動力を得ている。
【0003】
このため、電動モータの駆動電力を制御することにより、任意の特性の制動状態を得ることができ、高い自由度により運転者の意思や要求等に応じた制動特性を持った制動装置とすることができる。
【0004】
このような特性を生かして確実に所望の制動力を得るため、ブレーキペダルの操作に対して応答性良くブレーキロータとブレーキパッドが接触して制動力が得られるようにすることが必要である。ブレーキロータとブレーキパッドの隙間を僅かにしておくことで、制動開始時の応答性を高めることができる。
【0005】
一方で、ブレーキロータとブレーキパッドの隙間が少なすぎると、非制動時であってもブレーキロータにブレーキパッドが接触して引きずり状態が生じて走行抵抗が生じ、ブレーキパッドの摩耗量が増加してしまうことになる。
【0006】
このような状況から、非制動時にはブレーキロータとブレーキパッドの隙間が確保でき、制動時にはブレーキペダルの操作に対して応答性良くブレーキロータとブレーキパッドが接触する特性の電気ブレーキ装置が求められている。
【0007】
バンドブレーキ装置により電動モータの動力伝達を許容する電気ブレーキ装置では、予め電動モータを駆動しておき、ブレーキペダルの操作によりバンドブレーキ装置を作動させることで制動開始時の応答性を高める技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかし、電動モータが車体側の部材に直接取り付けられ、電動モータの作動でのみブレーキパッドの動きを制御する電動ブレーキ装置では、ブレーキロータとブレーキパッドの隙間を管理するためには電動モータの作動を工夫する必要があり、予め電動モータを駆動して応答性を高めることは構造上不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−114005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、電動アクチュエータが車体側の部材に直接取り付けられ、電動アクチュエータの作動で制動状況が制御される電動ブレーキ装置において、ブレーキパッドとブレーキロータの隙間を的確に管理し、しかも、制動時の応答性を高めることができる電動ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の電気ブレーキ装置は、ブレーキペダルの操作に応じて電動アクチュエータのピストンを駆動させ、ブレーキパッドをブレーキロータに押圧して制動力を得る電気ブレーキ装置において、第1の所定状態に前記ブレーキペダルが操作された際に、前記ピストンを駆動して前記ブレーキパッドが前記ブレーキロータに接触する状態にして前記ピストンの駆動を停止し、前記第1の所定状態よりも制動側の第2の所定状態に前記ブレーキペダルが操作された際に、前記ブレーキペダルの操作に応じて前記ピストンを駆動する制動開始手段と、制動操作の状態から前記第2の所定状態に前記ブレーキペダルが操作された際に、前記ピストンの駆動を停止し、前記ピストンの駆動が停止している状態で前記第1の所定状態に前記ブレーキペダルが操作された際に、前記ブレーキパッドが前記ブレーキロータから離反する状態に前記ピストンを所定量駆動する制動終了手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項1に係る本発明では、ブレーキペダルが第1の所定状態に操作された際、制動操作が直後に開始されるとして、ブレーキパッドがブレーキロータに接触する状態にピストンを駆動する。制動側の第2の所定状態までブレーキペダルが操作された際、制動開始手段により、ブレーキペダルの操作に応じてピストンを駆動して所望の制動動作が行われる。制動動作が終了して第2の所定状態までブレーキペダルが戻された際、ピストンの駆動を停止し、ピストンの駆動が停止している状態で第1の所定状態まで更にブレーキペダルが戻されると、制動終了手段により、ブレーキパッドがブレーキロータから離反する状態に戻される。
【0013】
このため、ブレーキパッドとブレーキロータの隙間を的確に管理することができ、しかも、制動時には応答性を高めることができる。
【0014】
尚、前記ブレーキパッドが前記ブレーキロータに接触した状態から、前記ブレーキパッドが前記ブレーキロータから離反する状態に前記ピストンを所定量駆動し、所定量駆動した位置を前記ピストンの初期位置として予め設定されている。
【0015】
そして、請求項2に係る本発明の電気ブレーキ装置は、請求項1に記載の電気ブレーキ装置において、前記電動アクチュエータは駆動軸が正逆回転することにより前記ピストンが往復移動する電動モータであり、前記駆動軸の回転角を検出する回転角検出手段を備え、前記回転角検出手段の検出値に基づいて前記ピストンの駆動量を設定することを特徴とする。
【0016】
請求項2に係る本発明では、電動モータの回転角を検出することでピストンの移動量が設定される。
【0017】
また、請求項3に係る本発明の電気ブレーキ装置は、請求項2に記載の電気ブレーキ装置において、前記制動開始手段は、前記ブレーキペダルの操作に応じて前記ピストンを駆動する際に、前記電動モータへの指示電力に対する制動度合いが追従しない場合に、指示電力と制動度合いの関係を認識する認識機能を有していることを特徴とする。
【0018】
請求項3に係る本発明では、電動モータへの指示電力に対する制動度合いが追従しない場合、例えば、ブレーキパッドの過熱や摩耗により所望の制動力が得られない場合、認識機能により、指示電力と制動度合いの関係を認識する。認識機能としては、減速度をセンサーで検知してフィードバックする等が実行される。所望の制動力が得られていない場合、ブレーキ装置が過酷な状態にあるとして、その旨を表示することが望ましい。また、ブレーキ装置の安全作動の範囲で指示電力に応じた制動度合いになるように制動力を高める制御を実施することも可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電気ブレーキ装置は、電動アクチュエータの作動で制動状況が制御される電動ブレーキ装置において、ブレーキパッドとブレーキロータの隙間を的確に管理することが可能になり、しかも、制動時の応答性を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態例に係る電気ブレーキ装置の概略構成図である。
【図2】ブロック構成図である。
【図3】制御フローチャートである。
【図4】制御フローチャートである。
【図5】タイムチャートである。
【図6】制御マップである。
【図7】制御マップである。
【図8】制御マップである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に基づいて電気ブレーキ装置の構成を説明する。図1には本発明の一実施形態例に係る電動ブレーキ装置の構成を説明するための概略断面を示してある。
【0022】
図に示すように、車輪と共に回転するブレーキロータ1が備えられ、ブレーキロータ1は一対のブレーキパッド2に押圧されて摩擦力により制動力、減速力を発生させる。即ち、車体側にはキャリパー3が往復移動自在(図中左右方向)に支持され、キャリパー3には電動アクチュエータである電動モータ4が固定されている。また、キャリパー3にはピストン5が摺動自在に嵌合している。
【0023】
ピストン5の内部にはナット部材6が固定され、ナット部材6には電動モータ4の駆動軸7に設けられたねじ部が螺合している。電動モータ4に電力が供給されることにより駆動軸7が正逆回転し、ナット部材6を介してピストン5が軸方向(図中左右方向)に往復駆動する。ブレーキロータ1の一方の面(図中左側の面)に対向するキャリパー3と、ブレーキロータ1の他方の面(図中右側の面)に対向するピストン5の先端部位とに、それぞれブレーキパッド2が取り付けられている。
【0024】
電動モータ4の駆動軸7が、例えば、正方向に回転すると、ピストン5が図中左方向に駆動され、ピストン5に取り付けられたブレーキパッド2がブレーキロータ1に押圧されると同時に、キャリパー3が反力により図中右方向に摺動し、一対のブレーキパッド2によりブレーキロータ1が押圧される。これにより、制動力、減速力が発生する。電動モータ4の駆動軸7が、例えば、逆方向に回転すると、一対のブレーキパッド2がブレーキロータ1から離反する。これにより、制動力、減速力が解放される。
【0025】
電動モータ4を制御するためのコントロールユニット(ECU)8が備えられ、ECU8にはブレーキペダルの操作情報(操作量、操作速度)が入力される。ブレーキペダルの操作情報に応じてECU8から電動モータ4に制御信号(電流値の指令信号)が送られ、駆動軸7の回転方向と回転速度が制御される。
【0026】
電動モータ4には、駆動軸7の回転角を検出する回転角センサー9及び駆動電流を検出する電流検出センサー10が設けられている。駆動軸7の回転角と電動モータ4の電流値が検出され、回転角と電流値がECU8に入力されてフィードバック制御される。
【0027】
上述した電気ブレーキ装置では、運転者の制動操作を検出した際に、電動モータ4の駆動軸7を正方向に回転させ、ブレーキロータ1にブレーキパッド2を接触させて隙間をゼロにし、一旦、電動モータ4の作動を停止する。更に制動操作が進んで制動開始を検出した際に、隙間がゼロの状態からブレーキロータ1にブレーキパッド2を押圧する。これにより、応答性を速めて制動力を得ることができる。
【0028】
また、制動を解除する状態に操作され、制動開始の時点を検出した際、電動モータ4の作動が停止され、更に、運転者の制動操作の時点を検出した際、電動モータ4の駆動軸7を逆方向に回転させ、ブレーキロータ1とブレーキパッド2の間に所定の隙間を確保する。これにより、走行中のブレーキパッド2の引きずりをなくし、燃費向上が図れ、ブレーキパッド2の摩耗を低減することができる。
【0029】
図1、図2に基づいてECU8を詳細に説明する。図2には応答性を速めると共に、制動解除の際に所定の隙間を設定するためのECU8のブロック構成を示してある。
【0030】
ECU8には制動開始手段11が備えられている。制動開始手段11は、ブレーキペダルの操作量PSが、第1の所定状態である第1のしきい値SP1以上になった際に、電動モータ4の駆動軸7を正方向に駆動回転させ、ブレーキパッド2がブレーキロータ1に接触する状態にしてピストン5の駆動を停止する手段である。ブレーキパッド2の接触は、電動モータ4の電流値の上昇を捕らえて認識する。
【0031】
そして、制動開始手段11は、ブレーキペダルの操作量PSが、第1のしきい値SP1よりも制動側の第2の所定状態である第2のしきい値SP2以上になった際に、ブレーキペダルの操作量PSに応じてピストン5を駆動して所望の制動力を得る手段である。
【0032】
また、ECU8には制動終了手段12が備えられている。制動終了手段12は、制動操作の状態から、ブレーキペダルの操作量PSが、第2のしきい値SP2を下回る状態に戻された際に、電動モータ4を停止する手段である。
【0033】
そして、制動終了手段12は、電動モータ4が停止している状態で、ブレーキペダルの操作量PSが、第1のしきい値SP1を下回る状態に戻された際に、ブレーキパッド2がブレーキロータ1から離反する状態に電動モータ4のピストン5を逆方向に駆動回転させる手段である。ピストン5は所定量駆動され、ブレーキパッド2とブレーキロータ1との間に所定の隙間が確保される。
【0034】
このため、制動開始時に応答性を速めて制動力を得ることができ、制動が終了した走行中にブレーキパッド2の引きずりをなくし、燃費向上が図れ、ブレーキパッド2の摩耗を低減することができる。従って、ブレーキパッド2とブレーキロータ1の隙間を的確に管理することができ、しかも、制動時には応答性を高めることができる。
【0035】
電動モータ4の駆動軸7の回転角は回転角センサー9で検出され、回転角センサー9の検出値に基づいてピストン5の移動量が設定される。ECU8には、回転角センサー9の検出情報、電流検出センサー10の検出情報が入力される。また、ECU8には車両の減速度の情報が、例えば、減速度センサーの情報として入力され、制動度合いが導出される。そして、ECU8には電気ブレーキ駆動手段13が備えられ、電動モータ4に制御信号(電流値の指令信号)を出力する。
【0036】
ECU8の制動開始手段11は、ブレーキペダルの操作に応じて電動モータ4のピストン5を駆動する際に、電動モータ4への指示電力に対する制動度合いが追従しない場合に、指示電力と制動度合いの関係を認識する認識機能を有している。指示電力に基づいて電動モータ4が駆動された時の制動力に対し、減速度の情報から導かれた制動度合いが追従していないと認識した場合、表示手段14にその旨を表示させる。
【0037】
例えば、ブレーキパッドの過熱や摩耗により、ブレーキペダルの操作に応じた指示電力が電動モータ4に送られているにも拘わらず、指示電力に応じた所望の制動力が得られていない(制動度合いが追従していない)と認識した場合、ブレーキ装置が過酷な状況になっているとし、過酷な状況である旨の表示を表示手段14に点灯させる。
【0038】
尚、指示電力に応じた所望の制動力が得られていないと認識した場合、ブレーキ装置の安全作動の範囲で、指示電力に応じた制動度合いになるように制動力を高める制御を実施することも可能である。
【0039】
また、ECU8の制動開始手段11では、ピストン5の基準位置から、ブレーキロータ1にブレーキパッド2が接触するまでの電動モータ4の駆動軸7の総駆動角度MARが所定の駆動角度MARSを超えた場合、ブレーキパッド2(ブレーキロータ1)が摩耗していると判断し、表示点灯等の警報15に情報が送られる。
【0040】
図3から図8に基づいて上述した電気ブレーキ装置の動作を具体的に説明する。
【0041】
図3、図4には電気ブレーキ装置の制御処理の流れを説明するフローチャート、図5にはブレーキペダルの操作量(a)、電動モータ4の駆動軸7の回転角(b)、電動モータ4の電流値(c)、ブレーキロータ1とブレーキパッド2の隙間(d)、制動減速度(e)の経時変化を説明するタイムチャートを示してある。また、図6にはモータ電流とブレーキペダルの操作量の関係、図7にはモータ電流とブレーキペダルの操作速度の関係、図8には制動減速度とモータ電流の関係を示してある。
【0042】
図3に示すように、ステップS1でブレーキペダルの操作量PSが、第1のしきい値SP1(制動操作が直後に開始される操作量)以上であるか否かが判断され、操作量PSが第1のしきい値SP1以上であると判断された場合(図5(a)中t1)、ステップS2で電動モータ4を正回転させる(図5(b)制動方向)。ステップS1でブレーキペダルの操作量PSが第1のしきい値SP1を下回っていると判断された場合、図5の処理に移行して終了となる(A)。
【0043】
電動モータ4を正回転させ、電流検出センサー10(図1参照)で検出される電動モータ4の電流値(モータ電流値MI)が所定の電流値(モータ電流所定値MIA)を超えたか否かがステップS3で判断される(図5(c)参照)。ステップS3でモータ電流値MIがモータ電流所定値MIA以下であると判断された場合、ブレーキロータ1にブレーキパッド2が接触していないので、ステップS2で電動モータ4の正回転を続行する。
【0044】
ステップS3でモータ電流値MIがモータ電流所定値MIAを超えたと判断された場合(図5(c)参照)、ステップS4で電動モータ4を停止する。つまり、ブレーキペダルが制動開始とされる操作量に達した際に(制動の意思が働いた際に)、ブレーキロータ1にブレーキパッド2を接触させて電動モータ4を停止させる。
【0045】
ステップS4で電動モータ4を停止した後、ステップS5でブレーキペダルの操作量PSが第2のしきい値SP2(実際に制動が必要な操作量)以上であるか否かが判断され、操作量PSが第2のしきい値SP2以上であると判断された場合(図5(a)中t2)、制動操作が直後に開始されるとして、ステップS6に移行してブレーキペダルの操作量PSに応じた所望の制動力を得る操作に進む。
【0046】
ステップS5でブレーキペダルの操作量PSが第2のしきい値SP2に満たないと判断された場合、ステップS7でブレーキペダルの操作量PSが第1のしきい値SP1以上であるか否かが判断され、操作量PSが第1のしきい値SP1に満たないと判断された場合、制動の意思がなくなったとして図5の処理に移行して終了となる(A)。ステップS7でブレーキペダルの操作量PSが第1のしきい値SP1以上であると判断された場合、ブレーキペダルの操作量PSが第2のしきい値SP2以上になるまでステップS5の処理を繰り返す(図5(a)中t1とt2の間)。
【0047】
従って、ブレーキペダルが第1のしきい値SP1以上に操作された際、制動操作が直後に開始されるとして、ブレーキパッド2がブレーキロータ1に接触する状態にピストン5を駆動し、制動操作時の応答を早めることができる。この場合、図5(d)に示すように、ブレーキパッド2とブレーキロータ1の隙間がゼロになり、図5(e)に示すように、制動減速度αはまだ得られていない。
【0048】
図3に戻り、ステップS5でブレーキペダルの操作量PSが第2のしきい値SP2以上であると判断された場合、制動の意思が働いたとされ、ステップS6、ステップS8、ステップS9で、ブレーキペダルの操作量PS(比例特性:PS特性)と操作速度(微分特性:DPS特性)に基づいてモータ電流MIを設定し、電動モータ4に指示電流として供給する。
【0049】
即ち、ステップS6で、比例特性に基づいたモータ電流MIPSと、微分特性に基づいたモータ電流MIDPSを読み込む。比例特性に基づいたモータ電流MIPSは、図6に示すように、ブレーキペダルの操作量PSとの関係でマップ化されて記憶されている。また、微分特性に基づいたモータ電流MIDPSは、図7に示すように、ブレーキペダルの操作速度との関係でマップ化されて記憶されている。
【0050】
図6に示すように、ブレーキペダルの操作量PSが増加するに従いモータ電流MIPSは直線状に増加し、図7に示すように、ブレーキペダルの操作速度が遅い領域ではモータ電流MIDPSは緩やかに増加し、ブレーキペダルの操作速度が速い領域でモータ電流MIDPSは急激に増加する。
【0051】
比例特性に基づいたモータ電流MIPSと、微分特性に基づいたモータ電流MIDPSが読み込まれた後、ステップS8で、モータ電流MIPSとモータ電流MIDPSが加えられて指示用のモータ電流MIが求められ、ステップS9で、求められたモータ電流MIにより電動モータ4を作動する。
【0052】
比例特性に基づいたモータ電流MIPS(操作量の成分)と、微分特性に基づいたモータ電流MIDPS(操作速度の成分)により指示用のモータ電流MIが設定されているので、急制動時等に、ブレーキペダルが大きく早く操作されると、指示用のモータ電流MIを増加させて状況に応じた充分な制動力を得ることができる。
【0053】
ステップS9で電動モータ4の作動が開始されて制動が実行されている間(図5(a)中t2からt3の間)、図4に示した処理により(B)、モータ電流MIに基づいて電動モータ4が駆動された時の制動力(制動減速度α)に対し、減速度の情報から導かれた制動度合が追従しているか否かが判断されると共に、ブレーキパッド2(ブレーキロータ1)の摩耗状態が判断される。
【0054】
図4に示すように、ステップS10で制動減速度αが(Ga・MI−b)以下であるか否かが判断される。制動減速度αは、図8に示すように、モータ電流MIに対して運転者の感度設定値Gaを乗じた値に設定され(図中実線で示してある)、モータ電流MIで動作した際の制動力よりも低い制動力(制動減速度α)のしきい値が、(Ga・MI−b)で設定されている(図中点線で示してある)。
【0055】
このため、ステップS10では、制動減速度αがしきい値(Ga・MI−b)以下であるか否かが判断され、実際に要求されている制動減速度αが所定の制動減速度αに追従しているか否かが判断される。
【0056】
ステップS10で制動減速度αが(Ga・MI−b)以下であると判断された場合、モータ電流MIに基づいて電動モータ4が駆動された時の制動力に対し、減速度の情報から導かれた制動度合いが追従していないと判断される。
【0057】
例えば、長い下り坂での制動中に、ブレーキパッド2(ブレーキロータ1)に過熱や摩耗が生じると、ブレーキペダルの操作に応じたモータ電流MIが電動モータ4に送られているにも拘わらず、モータ電流MIに応じた所望の制動力が得られていない虞がある。万一、このような状況が生じると、制動減速度αが(Ga・MI−b)以下であると判断される。
【0058】
フローチャートに戻り、ステップS10で制動減速度αが(Ga・MI−b)以下であると判断された場合、ステップS11でモータ電流MIに対して増加分MIbを加算して新たなモータ電流MIを設定する。ステップS11で増加分MIbを含めたモータ電流MIを設定した後、ステップS12で表示手段14を点灯する。つまり、ブレーキ装置が過酷な状況である旨を表示手段14で表示する。
【0059】
ステップS10で制動減速度αが(Ga・MI−b)を越えていると判断された場合、ステップS13で表示手段14を消灯するとともに、ステップS13aでモータ電流MIから増加分MIbを減じ(MI=MI−MIbを実行)、苛酷状態が改善しているかどうかを確認する。過酷状態が改善されていない場合は、次のループで再びMIbが加算され表示ランプが点灯する。これが繰り返されるので表示ランプは点滅するとともに車体減速度にハンチングが生じてドライバーに過酷状態を知らせることができる。尚、過酷状態が改善されればモータ電流MIは初期MIに戻るので、過酷な状況である旨が表示されないように表示手段14は消灯される。ここで、MIbの初期値はゼロに設定してある。
【0060】
ステップS12で表示手段14を点灯した後、もしくは、ステップS13で表示手段14を消灯した後、ステップS14でブレーキパッド2(ブレーキロータ1)の摩耗状況を判断する。
【0061】
即ち、ステップS14で、ピストン5の基準位置から、ブレーキロータ1にブレーキパッド2が接触するまでの電動モータ4の駆動軸7の総駆動角度MARが、所定の駆動角度MARS以下であるか否かが判断される。総駆動角度MARが所定の駆動角度MARS以下ではない、即ち、総駆動角度MARが所定の駆動角度MARSを超えていると判断された場合、ブレーキロータ1にブレーキパッド2が接触するまでのピストン5のストロークが大きくなってブレーキパッド2(ブレーキロータ1)に摩耗が生じていると判断される。そして、ステップS15で警報15に摩耗情報が送られる。
【0062】
以上の処理は図5(a)のt2からt3の間で実行され、ブレーキペダルの操作(図5(a)参照)に応じたモータ電流MI(図5(c)参照)により電動モータ4が作動し(図5(b)参照)、制動力(減速度α:図5(e)参照)が制御される。そして、図5(d)に示すように、ブレーキペダルの操作量PSが第1のしきい値PS1を超えた後はブレーキパッド2とブレーキロータ1の隙間がゼロの状態にされている。
【0063】
フローチャートに戻り、ステップS14でブレーキパッド2(ブレーキロータ1)の摩耗が判断された後(ステップS15で警報15に摩耗情報が送られた後)、ステップS16でブレーキペダルの操作量PSが第2のしきい値SP2を下回ったか否かが判断される。つまり、制動を終了する操作状態になったか否かが判断される。
【0064】
ステップS16でブレーキペダルの操作量PSが第2のしきい値SP2を下回ったと判断された場合(図5(a)中t3)、ステップS17で電動モータ4を停止させる(図5(b)参照)。ステップS16でブレーキペダルの操作量PSが第2のしきい値SP2を下回っていないと判断された場合、図3に示したステップS6に移行し(C)、ブレーキペダルの操作に応じたモータ電流MIを設定する制動動作が続行される(図5(a)のt2からt3の間の処理)。
【0065】
ステップS17で電動モータ4を停止した後、ステップS18でブレーキペダルの操作量PSが第1のしきい値SP1を下回ったか否かが判断される。つまり、制動を開始する前の操作状態に戻されたか否かが判断される。ステップS18でブレーキペダルの操作量PSが第1のしきい値SP1を下回っていないと判断された場合、ステップS16に移行して制動を終了する操作状態になったか否かの判断を繰り返す(図5(a)のt3とt4の間)。
【0066】
一方、電動モータ4が停止している際に、ステップS18でブレーキペダルの操作量PSが第1のしきい値SP1を下回ったと判断された場合(図5(a)中t4)、ステップS19で電動モータ4を所定量である回転角Afだけ逆回転させる(図5(b)中戻し方向)。回転角Afだけ逆回転させることで、ブレーキロータ1とブレーキパッド2の間に所定の隙間が確保され(図5(d)参照)、終了となる。
【0067】
従って、制動操作状態から制動を終了する操作状態までブレーキペダルが戻されると、ブレーキロータ1とブレーキパッド2の間に所定の隙間が作られ、走行中のブレーキパッド2の引きずりをなくし、燃費向上が図れ、ブレーキパッド2の摩耗を低減することができる。
【0068】
以上の処理により、制動操作が直後に開始される状態でブレーキパッド2をブレーキロータ1に接触させ、制動操作時の応答を早めることができる。また、制動操作状態から制動を終了する状態までブレーキペダルが戻されると、ブレーキパッド2とブレーキロータ1の間に隙間を確保し、走行時のブレーキパッド2の引きずりを確実に防止することができる。
【0069】
このため、上述した電気ブレーキ装置は、ブレーキパッド2とブレーキロータ1の隙間の的確な管理と、制動時の高い応答性の実現を両立させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、電動アクチュエータにより制動力を発生させる電気ブレーキ装置の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 ブレーキロータ
2 ブレーキパッド
3 キャリパー
4 電動モータ
5 ピストン
6 ナット部材
7 駆動軸
8 コントロールユニット(ECU)
9 回転角センサー
10 電流検出センサー
11 制動開始手段
12 制動終了手段
13 電気ブレーキ駆動手段
14 表示手段
15 警報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作に応じて電動アクチュエータのピストンを駆動させ、ブレーキパッドをブレーキロータに押圧して制動力を得る電気ブレーキ装置において、
第1の所定状態に前記ブレーキペダルが操作された際に、前記ピストンを駆動して前記ブレーキパッドが前記ブレーキロータに接触する状態にして前記ピストンの駆動を停止し、前記第1の所定状態よりも制動側の第2の所定状態に前記ブレーキペダルが操作された際に、前記ブレーキペダルの操作に応じて前記ピストンを駆動する制動開始手段と、
制動操作の状態から前記第2の所定状態に前記ブレーキペダルが操作された際に、前記ピストンの駆動を停止し、前記ピストンの駆動が停止している状態で前記第1の所定状態に前記ブレーキペダルが操作された際に、前記ブレーキパッドが前記ブレーキロータから離反する状態に前記ピストンを所定量駆動する制動終了手段とを備えた
ことを特徴とする電気ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気ブレーキ装置において、
前記電動アクチュエータは駆動軸が正逆回転することにより前記ピストンが往復移動する電動モータであり、
前記駆動軸の回転角を検出する回転角検出手段を備え、
前記回転角検出手段の検出値に基づいて前記ピストンの駆動量を設定する
ことを特徴とする電気ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電気ブレーキ装置において、
前記制動開始手段は、
前記ブレーキペダルの操作に応じて前記ピストンを駆動する際に、前記電動モータへの指示電力に対する制動度合いが追従しない場合に、指示電力と制動度合いの関係を認識する認識機能を有している
ことを特徴とする電気ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−51444(P2011−51444A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201447(P2009−201447)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】