説明

電気機器における漏洩電流測定装置及び測定方法

【課題】インバータ等のスイッチング電源で駆動される電気機器及びその回路の対地絶縁抵抗を通じて流れる漏れ電流Igr値を測定する装置及び方法を提供する。
【解決手段】切換開閉器10によって順次入力されたスイッチング電源2の対地電圧VU,VV,VWと、零相変流器8が給電ケーブル4から検出した漏洩電流I0とを信号処理し、対地電圧VU,VV,VWのいずれかと漏洩電流I0との位相差を計測して信号処理する信号処理部14と、信号処理部14において得られた測定電流I0の実効値、対地電圧VU,VV,VWの実効値、対地電圧VU,VV,VWのいずれかと漏洩電流I0との位相差に基いて、対地漏洩抵抗7を経由して流れる漏洩電流Igrを演算する。演算部15によって演算された漏洩電流Igrは表示部16に表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ等のスイッチング電源で駆動される電動機を有する電気機器の電圧印加部分から接地部分へ流れる漏洩電流を測定する電気機器における漏洩電流測定装置及びその測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気の利用は、便利な反面、適切な管理や使用を誤れば、大変危険な側面も兼ね備えており、電気火災や感電事故等の重大な事故を引き起こす可能性も少なくない。例えば、その重大事故の原因の一つとして、電路や電気機器の絶縁不良がある。電路及び電気機器の絶縁状態を調べる方法として、被測定電路及び電気機器を停電させて、絶縁抵抗計で測定する方法が従来の標準であった。
【0003】
近年のように、停電が許されない配電線や連続操業の工場等には適用が制限される等の欠点がある。つまり、現在の社会状況では、コンピュータが社会の各方面に利用され、インテリジェントビルの普及拡大及び工場のFA(ファクトリー・オートメーション)化により、24時間連続稼動するシステムが構築されており、絶縁状態を調べるために、一時的に停電状態にすることができない状況となっている。
【0004】
特に、インバータなどのスイッチング電源で駆動される電動機を有する電気機器における漏洩電流の測定については、電子回路で構成されるスイッチング電源を絶縁抵抗測定時の高電圧から保護するため電動機のみを切り離して測定する必要があり、停電手続きや、その結線の開放、再接続などに多くの手間と時間とを必要としている。これにより、連続操業の工場等ではラインの停止時間が制限されるので、絶縁抵抗計の適用が制限される等の問題点がある。
【0005】
したがって、現在では、このような高度情報化による社会の無停電化の要請から、電路及び電気機器の絶縁不良管理が停電を伴う絶縁抵抗計による方法から、電気を切ることなく測定できる漏洩電流測定方法が用いられるようになっている。そして、漏電遮断器や漏電火災警報機等により漏洩電流を測定して絶縁状態を管理する通電中の予防策は、種々提案されている。
【0006】
通電状態のまま電路及び電気機器の絶縁状態を調べる方法として、特開平3−179271号公報(特許文献1)、特開2002−125313号公報(特許文献2)等に開示されているように、零相変流器によって検出する、電路及び電気機器の充電部分から接地部分への漏れ電流、即ち零相電流I0を検知する方法が一般的に行われている。漏れ電流I0は、電路及び電気機器の充電部分と接地部分間の絶縁抵抗を通じて流れる漏れ電流Igrと、この絶縁部分に通常存在する対地静電容量を通じて流れる漏れ電流Igcとのベクトル和で構成されている。
【0007】
インバータ等のスイッチング電源によって駆動される電動機を有する電気機器にあっては、その電動機の運転周波数(以下、基本周波数という)及び電圧が絶えず変化し、漏れ電流に直接関係する対地電圧そのものも変化する。また、電動機の対地絶縁抵抗測定時の電流Igrは、数mA以下がある場合が多く、以上述べた条件のもとでは、測定そのものが極めて困難である。
【0008】
他の方式である200V3相3線のうちの1線を接地する配電方式の測定方法は、零相電流Ioと線間電圧との間の位相差を測定し、この値から漏洩電流Igrの値を算出する。スイッチング電源より商用周波数電源側の配電系統の計測は可能であるが、周波数が変化し対地電圧も変化するスイッチング電源側で駆動される電動機の計測は困難である。特殊な回路をつけ加えて漏洩電流Igrを計測する方法も同様で、スイッチング電源の故障の原因になり、精密な制御を行っている電動機の運転に悪影響を及ぼす。
【特許文献1】特開平3−179271号公報
【特許文献2】特開2002−125313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、通電状態のまま電気機器が有する電動機の絶縁抵抗を通じて流れる漏れ電流Igr、特にスイッチング電源で駆動される電動機を有する電気機器の対地絶縁抵抗を通じて流れる漏れ電流Igrを運転状態のままで検出することができる電気機器における漏洩電流測定装置及びその測定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電気機器における漏洩電流測定装置は、上述の課題を解決するため、電圧測定手段がスイッチング電源各相の対地電圧を順次入力測定し、零相電流測定手段が上記スイッチング電源から電動機や電気機器や配線を通じて流れる対地漏洩電流である零相電流I0を測定し、信号処理手段が零相電流測定手段により測定した零相電流I0から、電圧測定手段により測定したスイッチング電源の入力された相の対地電圧と同相方向の成分である有効成分を順次入力された各相ごとに算出し、演算手段が信号処理手段により算出された零相電流I0の各相ごとの有効成分と電圧測定手段により入力されたスイッチング電源各相の対地電圧の値から上記電気機器の対地絶縁抵抗を通じて流れる漏れ電流Igrを演算する。
【0011】
本発明に係る電気機器における漏洩電流測定方法では、上記課題を解決するために、電圧測定工程においてスイッチング電源各相の対地電圧を順次入力測定し、零相電流測定工程においてスイッチング電源から電動機や電気機器や配線を通じて流れる対地漏洩電流である零相電流I0を測定し、信号処理工程において零相電流測定工程で測定した零相電流I0から、電圧測定工程で測定したスイッチング電源が入力された相の対地電圧と同相方向の成分である有効成分を順次入力された各相ごとに算出し、演算工程において信号処理工程で算出された零相電流I0の各相ごとの有効成分と電圧測定工程で入力されたスイッチング電源各相の対地電圧の値から上記電気機器の対地絶縁抵抗を通じて流れる漏れ電流Igrを演算する。
【0012】
スイッチング電源が電気機器を駆動するために発生する3相電圧は、外部から受電した商用周波数の電圧をスイッチング電源装置の中で整流した結果発生する直流電圧部分の+・−電位の中央電位である0電位に対して、120度の位相差で大きさが等しい3相電圧(以下、この三相電圧を駆動電圧という。)を発生している。前記0電位点の対地電圧(以下、対地0電位電圧という。)は、外部の商用周波数電源の接地方式によって異なる電圧値と周波数成分とを持っており、例えば、3相のうちの1相接地方式では、前記対地0電位電圧は、外部の商用周波数電源の線間電圧を√3で割ったいわゆる相電圧であり、周波数は商用周波数とこの高調波である。駆動電圧の周波数は、低速時0〜30Hzの範囲にあり、運転時30〜60Hzの範囲にあることが一般的で、電圧は60Hzで電動機の定格電圧、60Hz未満では周波数にほぼ比例して低くなる。従って、スイッチング電源出力端子の対地電圧は両電圧の合成となり、周波数は両周波数の平均及び差の半分の周波数の波形が重畳したものになる。例えば、商用周波数60Hz、駆動周波数30Hzの場合には、45Hzと15Hz周波数の波形が重畳され、駆動周波数50Hzの場合には、55Hzと5Hzの周波数が重畳する。合成電圧値は、長い周期で変動し、その最大値は両電圧値の最大値の和になる。また、スイッチング電源の電圧電流波形は、直流電圧を裁断した方形波を組み合わせた構成のため、周波数が多い高調波成分を多く含んでいる。
【0013】
スイッチング電源の対地電圧は、前述したように、3相の駆動電圧と単相の対地0電位電圧の異なった電源の集合であるので、この2つの電源別に検討し、重畳の理によって後で加え合わせる方法で説明を行う。本発明に係る電気機器で、電圧が加わる部分とそれを覆っている接地された金属部分又は地面との間には対地静電容量が存在する。この対地静電容量は駆動電圧の3相各相に対してほとんど同じ静電容量の値を示すので、周波数f、相電圧値Eの駆動電圧を対地静電容量Cに印加すると、各相の対地静電容量を流れる電流は大きさが同じで位相差が120度になり、3相分を合計した電流値は0になる。周波数f0、電圧値E0の単相の対地0電位電圧に対しては各相の対地静電容量を流れる電流は同方向となり合計値となる。絶縁劣化の結果対地絶縁抵抗rを通じて流れる漏れ電流Igrが発生すればこの電流と前述の対地静電容量を流れる電流の合計との合成値が漏れ電流I0として計測される。
【0014】
スイッチング電源の対地電圧が測定のため入力された相に対地漏洩抵抗rを通じて漏洩電流Igrが流れたとき、相電圧値Eの駆動電圧に起因する漏れ電流をI0dとすると、前述のように3相の対地静電容量Cを通じて流れる電流の合計は0となり、対地漏洩抵抗rを通じて流れる電流のみであるので、漏れ電流I0dは下記の式(1)に示すようになる。
【0015】
I0d=E/r ・・・(1)
次に、電圧値E0の対地0電位電圧に起因する漏れ電流をI00とし、ベクトル記号法で、電圧E0より90度進んだ成分記号をjとすると、コンデンサCを流れる電流は印加された電圧E0より90度進み、3相分の合計となるので、漏れ電流I00は、下記の式(2)に示すようになる。
【0016】
I00=E0/r+j・2πf0×3CE0 ・・・(2)
そして、最大対地電圧時は相電圧値Eの駆動電圧と電圧値E0の対地0電位電圧のピーク値とが重なったとき、つまりベクトルの方向が一致したときで、両電圧の合計値はE+E0となり、このときの漏れ電流をI0とすると、重ねの理より、式(1)、式(2)を加算して、漏れ電流をI0は、下記の式(3)に示すようになる。
【0017】
I0=I0d+I00=(E+E0)/r+j・2πf0×3CE0 ・・・(3)
上記式(3)において、(E+E0)/rの部分が対地漏洩抵抗rを通じて流れる漏洩電流Igrであるので、対地電圧(E+E0)のときの漏洩電流Igrは、下記の式(4)で表される。
【0018】
Igr=(E+E0)/r ・・・(4)
従って、漏洩電流Igrを求めるには、スイッチング電源のある相の対地電圧を測定のための電圧として入力し、漏洩電流I0の、この入力電圧と同相方向の成分つまり実数部分の値を求めれば、前記式(3)、式(4)に示されるように、この値が入力相の対地電圧(E+E0)のときの漏洩電流Igrの値になる。
【0019】
このIgr部分は、式(3)においてjがつかない実数部分で、周波数に関係しない式(4)だけで構成されているので、スイッチング電源のように周波数が変化する場合の測定に好都合である。
【0020】
実際の測定では、入力された対地電圧は数秒から十数秒の比較的長い周期で変動するので、この電圧が最大になる時間帯でIgr値を複数回測定し、その最大値をその入力相のIgrの値として採用する。また、前述の式(3)から、漏れ電流I0と入力電圧(E+E0)との位相差をベクトルで表すと漏れ電流I0と入力電圧(E+E0)とのなす角度、つまり位相角は0度から90度の範囲であるが、予期しないノイズや、対地漏洩抵抗rが存在する相が測定のため対地電圧を入力した相と異なるときは、この範囲外となることがあるので、位相角が0度から90度の範囲であることも測定の条件とする。
【0021】
このように対地電圧入力相が対地漏洩抵抗rが存在する相に一致したときに、上述したとおりの関係が成立するので、対地電圧入力相を切り換えて順次測定し、その中のIgrの最大値を入力電圧(E+E0)時のIgr値とする。また、対地漏洩抵抗rが存在する相が複数相のときは、複数相それぞれのIgrの値の合計値を入力電圧(E+E0)時のIgr値とする。次に、運転条件によっては、測定時の入力電圧(E+E0)が、当該電気機器の定格対地電圧V0に達しないことがあるので、このとき計測されたIgrの値を電気機器の定格対地電圧V0と測定された対地電圧とで補正する。
【0022】
また、入力電圧(E+E0)の波形がその周波数によって異なり、これがIgrの測定値に影響を及ぼすので、このとき計測されたIgrの値を前記周波数に関係する係数を用いて補正する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、スイッチ電源で駆動される電気機器を稼動状態のままでも、漏洩電流Igrの値を測定できるので、絶縁劣化の程度を常時監視可能で、絶縁劣化が進行して発生する地絡故障を未然に防止することができる。また、設備全体の信頼性を著しく向上させることができる。さらに、法律で要求されている定期点検作業でも、停電させて、結線を開放し、その後再結線等を行う手間と時間を節約し、さらに、費用の大幅な節減も可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を適用した電気機器における漏洩電流測定装置及び測定方法の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
まず、スイッチング電源で駆動される電動機を有する電気機器の漏洩電流Igrの測定に本発明を適用したときの構成を図1を参照して説明する。
【0026】
図1において、商用周波数である配電用3相電源1は、配電線のうちの1本又は電源変圧器の中性点が接地され、サーボモータ等のスイッチング電源2への給電のため接続されている。スイッチング電源2の3出力端子U,V,Wから電気機器運転時の周波数は、起動から低速時にかけては0から30Hzの範囲で変化し、定常運転時は30Hzから60Hzの範囲で変化し、電圧が電気機器定格電圧の約40%から定格電圧の範囲で変化する駆動電圧が給電ケーブル4を経由して電気機器5に供給されている。端子U,V,Wの対地電圧は、商用周波数電源の配電線の1線が接地のときは電動機の定格電圧からその85%程度まで変化し、定常運転時の周波数の変化は商用周波数の前後10〜20Hzであるので商用周波数と同様の計測が可能である。
【0027】
電動機5では、電圧が加わる巻線部分と鉄心を含むフレーム部分との間に対地静電容量6が存在する。また、対地漏洩抵抗7も存在する。
【0028】
図1に示した概略系統図にあって、漏洩電流測定装置は、スイッチング電源2の出力端子3から測定ケーブル11を介して3相電源電圧を計測器17に入力し、且つ給電ケーブル4から零相変流器8を介して零相電流I0を計測器17に入力して、電動機の漏洩電流Igrを測定する。
【0029】
計測器17は、切換開閉器10によって順次入力されたスイッチング電源2の対地電圧VU,VV,VWと、零相変流器8が給電ケーブル4から検出した漏洩電流I0とを信号処理し、上記対地電圧VU,VV,VWのいずれかと漏洩電流I0との位相差を計測し信号処理する信号処理部14と、この信号処理部14からの信号処理によって得られた測定電流I0の実効値、対地電圧VU,VV,VWの実効値、対地電圧VU,VV,VWのいずれかと漏洩電流I0との位相差に基いて、対地漏洩抵抗rを経由して流れる漏洩電流Igrを演算する。
【0030】
この漏洩電流測定装置は、さらに、演算部15によって演算された漏洩電流Igrを表示する表示部16とを備えている。
【0031】
すなわち、図1に示す図において、漏洩電流測定装置の計測器17では、切換開閉器10によってスイッチング電源2の対地電圧VU,VV,VWを順次信号処理部14に入力する。さらに、零相変流器8によって検出された漏洩電流I0も信号処理部14に入力する。また、信号処理部14では前記対地電圧VU,VV,VWと漏洩電流I0との位相差を計測する信号処理も行う。演算部15は、信号処理部14からの信号処理によって得られた測定電流I0の実効値、対地電圧VU,VV,VWの実効値、対地電圧VU,VV,VWのいずれかと漏洩電流I0との位相差に基いて、前述した対地漏洩抵抗rを経由して流れる漏洩電流Igrを演算する。表示部16は、演算部15によって演算された漏洩電流Igrを表示する。
【0032】
図2は、図1に示す概略系統図と漏洩電流測定装置の等価回路である。すなわち、図2は、配電電源1とスイッチング電源2をまとめた電圧源19は、EU,EV,EWの駆動電圧とE0の対地0電位電圧とを図1に示すように組み合わせた回路と等価である。零相電流I0は、零相変流器8によって検出され、計測器17に供給される。
【0033】
3相駆動電圧EU,EV,EWと対地0電位電圧E0とは重畳されて対地出力電圧となるが、この電圧値は一定せず、スイッチング電源の特性から、比較的長い周期で各相別に周期的に変動する。この現象も従来の測定方法での測定を困難なものとしているが、本発明では前記対地電圧が最大になる時間帯でIgr値を複数回測定し、その最大値を入力電圧(E+E0)のときの値とする。また、前述のI0の式から、漏洩電流I0と入力電圧(E+E0)との位相差、ベクトルでは漏洩電流I0と入力電圧(E+E0)とのなす角度、つまり位相角は、0度から90度の範囲であるが、予期しないノイズや、対地漏洩抵抗rが存在する相が入力相と異なるときは、この範囲外となることがあるので、位相角が0度から90度の範囲であることも測定の条件とする。位相角をθとすると、位相角θは下記の式(5)に示す範囲となる。
【0034】
90度>θ>0度 ・・・(5)
この計測は各相の対地電圧を順次入力しながら同様に行い、条件に適合した最大の値を、又は入力相各相のうち条件に適合した相の測定値の合計値をそのときの計測値とする。
【0035】
配線4及び電気機器5には3相それぞれの相に対地静電容量6が存在し、これに漏れ電流Igcが流れる。これら各相の対地静電容量6の値はほぼ等しく、スイッチング電源2が発生する駆動電圧による各相の漏れ電流Igcの合計は0になるが、単相の電圧値E0の対地0電位電圧による電流が重畳される。
【0036】
零相変流器8は、給電ケーブル4を囲み電気機器5の漏洩電流を零相電流I0の値として計測器17へ出力する。電気機器と接地部分間の絶縁が劣化すれば、先に説明したように、対地漏洩抵抗7を通じて漏洩電流Igrが流れるので、この電流も対地0電位電圧による対地静電容量6中を流れる漏れ電流に合流して零相電流I0になる。
【0037】
このように、スイッチング電源2の各相の対地電圧は周波数及び大きさが異なった駆動電圧Eと対地0電位電圧E0との合成電圧で電圧値はゆるやかに変動している。この合成電圧が最高値を示す時点で、両電圧のピーク値がほぼ一致するので、この時間帯で複数回測定し、このとき最高値を示したIgrの値を入力相の対地電圧(E+E0)のときの漏洩電流Igrの値で、前述した式(4)で表される。
【0038】
以上で説明した駆動電圧Eと対地0電位電圧E0のピーク値がほぼ一致する時間帯では、スイッチング電源2の各相の対地電圧VU,VV,VWがある時間差で次々に最大値(E+E0)となる。
【0039】
先に示した式(3)、式(4)式は、対地電圧が(E+E0)の時点の式で、且つ、対地電圧が(E+E0)を示した相に対地漏洩抵抗7が存在することが必要である。従って、対地電圧VU,VV,VWを切換開閉器10によって順次入力して測定を行い、対地漏洩抵抗7が存在する場合に測定したIgr値が他の相の対地電圧を入力して測定したIgr値より大きくなるので、そのときの最大Igrの値を対地電圧が(E+E0)のときのIgrの値とする。また、複数相に対地漏洩抵抗7が存在するときは、それらの相毎に測定したIgrの値の合計をIgrの値とする。
【0040】
漏洩電流I0と入力電圧VU,VV,VW、それらの最大値(E+E0)との関係は、図3のベクトル図で表され、入力対地電圧に対する漏洩電流I0の位相角はθであり、上記の式(3)、式(4)から入力対地電圧が最大値(E+E0)を示したときのIgrは、このときのI0の入力電圧(E+E0)との同相成分となり,下記の式(6)より求められる。
【0041】
Igr=I0×cosθ ・・・(6)
そして、入力される対地電圧の周波数のために影響されるIgr値を周波数によって補正し、さらに、入力対地電圧(E+E0)が電気機器の定格対地電圧V0に達していないときは、Igrは下記の式(7)によって補正される。
【0042】
補正Igr=Igr×V0/(E+E0) ・・・(7)
次に、図1における信号処理部14の詳細について、図4を参照して説明する。図4は、信号処理部14の具体的構成を示す図である。信号処理部14は零相電流I0を検出するI0検出器20と、増幅器21と、フィルタ22と、実効値変換器23と、位相差計測器24と、電圧検出器31と、増幅器32と、フィルタ33と、実効値変換器34とを備える。
【0043】
I0検出器20は、給電ケーブル4から電動機5の漏洩電流の合計である零相電流つまり漏洩電流I0を零相変流器8を通じて取り込む。増幅器21は、I0検出器20が検出した漏洩電流I0を適量まで増幅する。フィルタ22は、増幅器21で増幅した漏洩電流I0の駆動電圧の周波数を超える周波数を減衰させる。実効値変換器23は、フィルタ22でフィルタリングされた漏洩電流I0の交流電流波形を両波整流して実効値に比例したアナログ値に変換し、演算部15へ入力する。
【0044】
位相差計測器24は、前記漏洩電流I0と、スイッチング電源2の各相の対地電圧VU,VV,VWのうちの入力された電圧Vの間の位相角θを計測する。電圧Vが最大値(E+E0)を示す時点付近では、フイルタ22、フイルタ33で処理された両者の波形は図6の波形に近似しており、図3のベクトル図に示されるように漏洩電流I0は電圧Vより進んでいる。両者の波形が大きさ零、いわゆる横軸を通過したいわゆるゼロクロッシングした時点から、波高値を同一にした定量のパルス波形を、図6中のIZ,VZのように出力する。両パルスの差は、位相差パルスVZ〜IZで表され、図6に示される面積S1が位相差θつまり位相角θに比例する。I0の半波パルスの面積S2とともに14演算部へ入力し、下記の式(8)に示す演算処理を行う。
【0045】
θ=180S1/S2 ・・・(8)
また、定量パルス波形VZの立ち上がり立下り時点の時間差からその周波数を知ることができ、この値をもとに測定したIgr値の補正を行う。
【0046】
電圧検出器31は、スイッチング電源2の出力端子3のW相の対地電圧を分圧して取り込む。増幅器32は、電圧検出器31が検出した上記W相の対地電圧を適量まで増幅する。フィルタ33は、増幅器32で増幅された上記W相の対地電圧の駆動電圧最高周波数を超える周波数を減衰させる。実効値変換器34は、フィルタ33でフィルタリングされた上記W相の対地電圧を両波整流して実効値に比例したアナログ値に変換し、演算部15へ入力する。
【0047】
演算部15では、位相差計測器24から出力されたパルスの面積S1,S2の値を前記した位相角を算定する式(8)に従って求められた位相角度θ、実効値変換器23,34から出力された電流I0、順次出力された対地電圧VU,VV,VWの最大値(E+E0)の値から、前述した式(6)、式(7)に従ってIgrの値を算出し、測定した対地電圧の周波数によってその値の補正を行う。
【0048】
また、演算部15では、前述した条件式(5)にθが適合しているかを確認しながら、適合する入力相を切換開閉器10に指令して選定し、このときのIgrの値又は合計Igrの値を対地電圧が(E+E0)のときのIgrの値とし、最大Igrの値を示した入力相が漏洩電流Igrが最も増加している相であるとの判定を行う。
【0049】
さらに、変化する入力電圧が最大値を示す時間帯を判断し、その時間帯に複数回の測定を指令し、その測定値の中で最大のIgr値を仮選定し、次に入力相の切り換えを指令し、同様な測定を行い、仮選定値のうちの最大Igr値又は測定されたIgr値の合計の値を前記式(7)によって補正し、補正Igrの値を表示部16に出力しIgrの値として表示させる。
【0050】
このように、図1に示すように構成された漏洩電流測定装置によれば、通電状態のまま電気機器が有する電動機の絶縁抵抗を通じて流れる漏れ電流Igr、特にスイッチング電源で駆動される電動機を有する電気機器の対地絶縁抵抗を通じて流れる漏れ電流Igrを運転状態のままで検出することができ、かつ漏洩電流Igrが増加している相の判定を行うことができる。
【0051】
また、本発明に係る漏洩電流測定装置は、図5に示すように、配電ケーブル4に遮断器9(CBU,CBV,CBW)を設け、演算部15の演算の結果により、遮断器9(CBU,CBV,CBW)の遮断を制御する構成としてもよい。演算部15は、演算して得られた漏れ電流Igrの値が所定の値を超えたときに遮断器9を用いて全線路を遮断する。このため、スイッチング電源により駆動される電動機を有する電気機器は、対地絶縁抵抗に流れてしまった漏れ電流が所定の値より大きくなったときに、速やかに全線路を遮断することができ、過大な漏洩電流による事故を未然に防止できる。
【0052】
さらに、本発明に係る漏洩電流測定装置は、図5に示すように、演算部15によって演算された漏れ電流Igrの値が所定の値を超えたときに警報を発する警報器18をさらに設けるようにしてもよい。これにより、スイッチング電源により駆動される電動機を有する電気機器は、対地絶縁抵抗に流れてしまった漏れ電流が所定の値より大きくなったときに、速やかに異常があることを警報器18により告知することができ、過大な漏洩電流による事故を未然に防止できる。
【0053】
なお、本発明に係る漏洩電流測定装置においては、使用される環境や条件により、遮断機9及び警報器18のいずれか一方のみを設けるようにしたものであってもよい。
【0054】
図1及び図5を参照して説明した漏洩電流測定装置は、本発明の漏洩電流測定方法を実行している。すなわち、切換開閉器10は、スイッチング電源2の各相対地電圧を入力して電圧の測定ステップを行う。また、零相変流器8は、スイッチング電源2から流出する対地漏洩電流を測定する零相電流測定ステップを行う。計測器17の信号処理部14は、測定電圧の測定ステップにより、切換開閉器10により入力された測定電圧と零相変流器8が測定した漏洩電流I0の位相を比較して位相差パルスS1と漏洩電流I0の半周期パルスS2の面積を算出する。演算部15は、信号処理部14が信号処理ステップを行って算出した位相差パルスS1と漏洩電流I0の半周期パルスS2とから位相角θを算出し、この位相角θと漏洩電流I0と順次入力された対地電圧とから、対地絶縁抵抗rに流れる漏れ電流Igrを演算する演算ステップを行う。
【0055】
配電系統や電気機器においては、電気災害の予防の観点から絶縁測定が要求されている。従来は停電して測定していたが、近年は停電が制限され、特にインバータなどのスイッチング電源で駆動される電動機は、ロボットや自動機械その他の機械設備に多数使用され、その停止は生産の停止につながる。本発明は、これまでできなかったこれらの機器を停電させることなく測定することを可能となし、連続的な監視による予防保全も実施可能とする。これらスイッチング電源駆動機器の実用件数は年々増加しており、かつこれらの設備に対する信頼性確保の要求もレベルアップし、これらの分野での使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】スイッチング電源で駆動される電動機の漏洩電流Igrの測定に本発明を適用したときの構成を示す概略系統及び漏洩電流測定装置の構成図である。
【図2】図1の概略系統図と漏洩電流測定装置の等価回路である。
【図3】零相電流I0、入力電圧VU,VV,VW、位相角θ、漏洩電流Igrの関係を表すベクトル図である。
【図4】本発明に係る漏洩電流測定装置を構成する信号処理部を示すブロック図である。
【図5】遮断器と警報器を制御する構成を備えた本発明に係る漏洩電流測定装置を示す構成図である。
【図6】入力電圧Vが最大値時間帯でのVと漏洩電流I0の波形の位相関係を表す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 配電電源、2 スイッチング電源、3 出力端子、4 給電ケーブル、5 電気機器、6 対地静電容量、7 対地漏洩抵抗、8 零相変流器、9 遮断器、10 切換開閉器、11 測定ケーブル、14 信号処理部、15 演算部、16 表示部、17 計測器、18 警報機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器を駆動するスイッチング電源の三相各相の対地電圧を測定する対地電圧測定手段と、
上記スイッチング電源から給電される電線及び/又は電動機を含む電気機器を通じて流れる対地漏洩電流である零相電流を測定する零相電流測定手段と、
上記対地電圧測定手段により測定した各相の対地電圧と、上記零相電流測定手段により測定した零相電流との間の位相差を算出する信号処理手段と、
上記信号処理手段により算出した位相差と、上記対地電圧測定手段によって測定された対地電圧と、上記零相電流測定手段によって測定された零相電流と、上記電気機器の定格対地電圧との値から、上記電気機器の対地絶縁抵抗に流れる漏れ電流を演算する演算手段と
を備えることを特徴とする電気機器における漏洩電流測定装置。
【請求項2】
上記演算手段は、上記対地電圧(E+E0)、上記零相電流I0、上記位相差θ及び上記電気機器の定格対地電圧V0の値を用い、以下の式(1)から、対地絶縁抵抗に起因する漏れ電流Igrを演算することを特徴とする請求項1記載の漏洩電流測定装置。
Igr=I0×cosθ×V0/(E+E0) ・・・(1)
【請求項3】
上記対地電圧、上記零相電流の測定、及び上記位相差の算出を行うための測定は、各相別にその対地電圧値又は対地絶縁抵抗に起因する漏れ電流の値が最大を示す時間帯に複数回行うことを特徴とする請求項1又は2記載の漏洩電流測定装置。
【請求項4】
上記対地電圧、上記零相電流の測定、及び上記位相差の算出を行うための測定は、各相別にその対地電圧値又は対地絶縁抵抗に起因する漏れ電流の値が最大を示す時間帯に複数回行い、位相差算出値の絶対値が0度から90度又は0から4分の1周期の範囲にあることを条件として対地絶縁抵抗に起因する漏れ電流の演算を行うことを特徴とする請求項1に記載の漏洩電流測定装置。
【請求項5】
上記対地絶縁抵抗に起因する漏れ電流を各相別に算出し、得られた値の合計値を対地絶縁抵抗に起因する漏れ電流の値として演算を行うことを特徴とする請求項4記載の漏洩電流測定装置。
【請求項6】
上記対地絶縁抵抗に起因する漏れ電流の値を上記対地電圧の周波数の値に関連する係数によって補正する演算を行うことを特徴とする請求項3〜5のいずれか1に記載の漏洩電流測定装置。
【請求項7】
上記演算手段によって演算された上記漏れ電流の値が所定の値を超えたときに警報を発する警報手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載の漏洩電流測定装置。
【請求項8】
上記演算手段によって演算された上記漏れ電流の値が所定の値を超えたときに電路を遮断する遮断手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載の漏洩電流測定装置。
【請求項9】
上記信号処理手段は、上記位相差を算出するとともに、上記スイッチング電源の各相の対地電圧値及び上記零相電流値を実効値に変換することを特徴とする請求項1記載の漏洩電流測定装置。
【請求項10】
電気機器を駆動するスイッチング電源の三相各相の対地電圧を測定する対地電圧測定工程と、
上記スイッチング電源から給電される電線及び/又は電動機を含む電気機器を通じて流れる対地漏洩電流である零相電流を測定する零相電流測定工程と、
上記対地電圧測定工程により測定した各相の対地電圧と、上記零相電流測定工程により測定した零相電流との間の位相差を算出する信号処理工程と、
上記信号処理工程により算出した位相差と、上記対地電圧測定工程によって測定された対地電圧と、上記零相電流測定工程によって測定された零相電流と、上記電気機器の定格対地電圧との値から、上記電気機器の対地絶縁抵抗に流れる漏れ電流を演算する演算工程と
を備えることを特徴とする電気機器における漏洩電流測定方法。
【請求項11】
上記対地電圧、上記零相電流の測定、及び上記位相差の算出は、各相別に、その対地電圧値又は対地絶縁抵抗に起因する漏れ電流値が最大を示す時間帯に複数回行うことを特徴とする請求項10記載の漏洩電流測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−115754(P2009−115754A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292127(P2007−292127)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(505255851)株式会社 エスビーシー (7)
【Fターム(参考)】