説明

電気絶縁用注型絶縁物

【課題】高電圧ガス絶縁開閉機器で使用される電気絶縁用注型絶縁物はSF6ガスの分解ガスSF4によって表面抵抗が著しく低下し、沿面閃絡を発生する問題があった。
【解決手段】この発明は、シリカ系注型絶縁物の表面に100〜500μmのフッ素樹脂系のコーティング層を設けることにより、耐SF4ガス性に優れ、分解ガスSF4によって表面抵抗が著しく低下することを防止できる効果がある電気絶縁用注型絶縁物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁用注型絶縁物に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧用ガス絶縁開閉機器は環境保護及び省スペースのために、機器の大幅な軽量、コンパクト化が必要不可欠である。現状の高電圧用ガス絶縁開閉機器のシリカ充填系注型絶縁物は、絶縁ガスとして使用している六フッ化硫黄(SF6)ガスの分解ガスであるSF4ガスによって表面抵抗が著しく低下し、沿面閃絡が発生する問題があった。このため、一般には、耐SF4ガス性に優れたアルミナを充填した被覆を設けた注型絶縁物を使用している(たとえば特許文献1など)。また、繊維強化プラスチック(FRP)からなる絶縁物に対して耐SF4ガス性を有するエポキシ樹脂などのコーティングを設けることが検討されている(たとえば特許文献2、特許文献3など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−23519号公報
【特許文献2】特開平7−161250号公報
【特許文献3】特開平7−161260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミナ充填系注型絶縁物は重量が重いため、絶縁開閉機器の支持構造が大掛かりになることや、絶縁物の誘電率が高いためトリプルジャンクション部に電界が集中するので、沿面耐電圧を確保するために機器のコンパクト化に制約があった。また、シリカ充填系注型絶縁物の表面に耐SF4ガス性に優れたコーティングする場合に、必要な膜厚を確保するために多数回塗りための作業に時間がかかるとともに、コーティング層間やコーティング層とシリカ充填系注型絶縁物との界面で剥離が発生する問題があった。また、エポキシ樹脂などのコーティングでは可撓性が不十分であるという問題があった。
【0005】
本発明は、この対策として、表面に耐SF4ガス性に優れ、かつ分厚いコーティング層の形成が容易にできるコーティング剤により所定の膜厚を表面コーティングしたシリカを充填した軽量な注型絶縁物を得ることにより、軽量で、耐SF4ガス性に優れた、トリプルジャンクション部の電界集中を緩和する効果がある電気絶縁用注型絶縁物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る第1の態様の電気絶縁用注型絶縁物は、注型絶縁物の表面に100〜500μmの層厚を有するフッ素樹脂系コーティング層が形成されていることを特徴とする。上記注型絶縁物としてはシリカ系注型絶縁物を用いることが好ましい。
【0007】
また、この発明に係る第2の態様の電気絶縁用注型絶縁物は、注型絶縁物の表面に、100〜500μmの層厚を有するアルミナが充填されたフッ素樹脂系コーティング層が形成されていることを特徴とする。
【0008】
さらに、この発明に係る第3の態様の電気絶縁用注型絶縁物は、注型絶縁物の表面に、100〜500μmの層厚を有するフォレステライトが充填されたフッ素樹脂系コーティング層が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、電気絶縁用注型絶縁物の表面にフッ素樹脂系コーティング層を形成することによって注型絶縁物がSF4ガスに暴露されることを防止できる。また、フッ素樹脂そのものが優れた耐SF4ガス性を有するため、SF4ガスによる注型絶縁物表面の表面抵抗の低下が防止できる。また、フッ素樹脂はエポキシ系樹脂よりも伸縮性に優れているので、熱応力による注型絶縁物との界面剥離や層間剥離等もない。従って、絶縁物としてシリカ系注型絶縁物使用できるので、アルミナ系充填物を用いた絶縁物に比較して、軽量化が可能となる。さらに、アルミナ系注型絶縁物に比べたとえばシリカ系注型絶縁物は誘電率が低いので、トリプルジャックション部の電界集中を緩和できる効果もある。
【0010】
また、上記第2の態様および第3の態様における充填材を添加することにより、より高濃度のSF4ガスに晒される部分に用いても、注型絶縁物の表面抵抗の低下を防止できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1の電気絶縁用注型絶縁物を含むガス開閉機器の断面図である。
【図2】この発明におけるコーティング層の厚さと表面抵抗の関係を示す図である。
【図3】表面抵抗の測定方法を図解する模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。
【0013】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1の電気絶縁用注型絶縁物を含むガス絶縁開閉機器(GIS)の断面図を示している。
【0014】
この発明の電気絶縁用注型絶縁物は、注型絶縁物1である絶縁スペーサの表面にフッ素樹脂系塗料コーティング剤をコーティングしてフッ素樹脂系コーティング層2を形成することを特徴とする。本発明は、このフッ素樹脂系コーティング層2のバリアー効果によりSF6ガスの分解ガスであるSF4ガスによる注型絶縁物1の表面抵抗の低下を防止できる効果がある。
【0015】
図1において、フッ素樹脂系コーティング層2を形成した注型絶縁物1は、通電導体3およびGISタンク4に接続され、GISタンク4に充填されたSF6ガス5に晒される。
【0016】
本実施の形態1に係る注型絶縁物1としては、たとえばシリカ系注型絶縁物や繊維強化ガラスを含む注型絶縁物が例示される。シリカ系注型絶縁物としては、たとえば、ビスフェノール型エポキシ樹脂と酸無水物硬化剤との合計80〜120重量部と、シリカ(SiO2)200〜300重量部の混合物により、形成される。上記ビスフェノール型エポキシ樹脂には、たとえば樹脂に対して酸無水物硬化剤が樹脂:酸無水物硬化剤=10:0.5〜1(重量比)の割合で含まれる。酸無水硬化剤としてはエポキシ樹脂に適用できる公知の硬化剤を用いることができる。また、繊維強化ガラスを含む注型絶縁物としては、上記シリカの代わりに公知の繊維強化ガラスを適用すればよい。
【0017】
上記シリカとしては、絶縁性の点から粒子径が20〜40μmのものを用いることが好ましい。上記粒子径は、たとえば光散乱法により求められる値である。
【0018】
注型絶縁物1は、上記混合物をたとえば図1に示すような形状となるように所望の型に注型して、たとえば100〜130℃に加熱することにより形成される。
【0019】
本発明は、上記注型絶縁物1の表面にフッ素樹脂系コーティング層2を100〜500μm形成することを特徴とする。本発明のフッ素樹脂系コーティング層2は厚さを100μm以上としても注型絶縁物との界面剥離や層間剥離等がなく、このような厚さとすることによってSF6ガスの分解ガスであるSF4ガスによる注型絶縁物1の表面抵抗の低下を防止できる。フッ素樹脂系コーティング層2の厚さの上限は特に限定されるものではないが、たとえば、注型絶縁物からの剥離や、コスト面、また本発明の電気絶縁用注型物を含むGISのコンパクト化の点からは上限を500μmとすることが望ましい。フッ素樹脂系コーティング層は、上記SF4ガスへの耐性とGISのコンパクト化の点からは300μm〜500μmの厚さとすることが好ましい。なお、膜厚が500μmを超える場合であっても、剥離が生じない限り本発明におけるコーティング層を設けることによる効果は奏される。
【0020】
上記フッ素樹脂系コーティング層2を構成するフッ素樹脂としては、公知のものを用いることができ、たとえば、フルオロエチレン−ビニルエーテル交互共重合体を例示することができる。フッ素樹脂としては、上記例示に限定されず、たとえばジャンクション部に要求される硬度、可撓性、基材密着性を備えたフッ素樹脂を用いることができる。
【0021】
フッ素樹脂系コーティング層2は、上記フッ素樹脂にイソシアネートなどの硬化剤を混合して、これらの混合物を注型絶縁物1上に所望の厚さでコーティングしたのち、加熱して硬化させて形成する。フッ素樹脂と硬化剤との混合割合はたとえば重量比で10:0.5〜1とする。
【0022】
上記フッ素樹脂系コーティング層2を構成するフッ素樹脂には、たとえば、キシレン、エチルベンゼン、メチルイソブチルケトンなどの溶媒を添加してもよい。このような溶媒は、フッ素樹脂全体に対して20〜30重量%の割合とすることで、樹脂の塗布およびコーティング層の形成が良好なものとなる。
【0023】
上記加熱条件としては特に限定されず、用いるフッ素樹脂が硬化する条件を採用すればよく、たとえば40〜90℃で加熱して硬化させることができる。
【0024】
上記のようにして形成されるフッ素樹脂系コーティング層2は、その表面抵抗が1014〜1016Ω/sqであることが好ましい。このような表面抵抗を有する場合は、SF6ガスの分解ガスであるSF4ガスのコーティング層への浸透が抑制され、SF4ガスによる注型絶縁物の表面抵抗の低下を防止できる。
【0025】
本実施の形態1で得られる100〜500μmの厚みを有するフッ素樹脂系コーティング層2を備えた注型絶縁物1からなる電気絶縁用注型絶縁物は、SF4ガスのコーティング層への浸透が抑制されたものであり、SF4ガスによる注型絶縁物の表面抵抗の低下を防止できる。
【0026】
<実施の形態2>
本実施の形態2は、実施の形態1におけるフッ素樹脂系コーティング層2にてアルミナ(Al23)が充填されていることを特徴とする。アルミナが充填されること以外は実施の形態1と同様であるためその説明は省略する。
【0027】
本発明においてフッ素樹脂コーティング層2にアルミナなどの充填材を含有する場合は、たとえば3vol%程度のより高濃度のSF4ガスに晒される部分に用いても、注型絶縁物の表面抵抗の低下を防止できる効果がある。この理由としては、充填材の存在により物理的にSF4ガスのコーティング層における透過路が絶たれ、ガス透過が抑制されること、また、充填材表面にSF4ガスが吸着されてガス透過量が減少することが考えられうる。
【0028】
上記充填材であるアルミナの添加量は、コーティング層における充填率が20〜40重量%であることが好ましく、20〜30重量%であることがより好ましい。アルミナの添加量が上記範囲を満たす場合は、表面比抵抗の低下を抑制する効果が向上し、また、コーティング層の誘電率を維持することができる。上記充填率は、乾燥時(溶媒除去時)における充填率をいい、コーティング層を構成する樹脂と充填材の比重および質量により決定される。
【0029】
添加される上記アルミナとしては、粒子径が20μm〜30μm、比重は6g/cm3以下のものが好ましい。粒子径や比重がこのような範囲を満たす場合は、形成されるコーティング層において充填材が沈降せずに均一に分散した状態で存在するので、上記ガス透過路の遮断およびガス透過の抑制効果がより向上するものとなる。
【0030】
本実施の形態2で得られる100〜500μmの厚みを有するアルミナを充填したフッ素樹脂系コーティング層2を備えた注型絶縁物1からなる電気絶縁用注型絶縁物は、SF4ガスのコーティング層への浸透が抑制されたものであり、SF4ガスによる注型絶縁物の表面抵抗の低下を防止できる。
【0031】
<実施の形態3>
本実施の形態3は、実施の形態1におけるフッ素樹脂系コーティング層2にてフォレステライト(Mg2SiO4)が充填されていることを特徴とする。フォレステライトが充填されること以外は実施の形態1と同様であるためその説明は省略する。
【0032】
本発明においてフッ素樹脂コーティング層2にフォレステライトなどの充填材を含有する場合は、たとえば3vol%程度のより高濃度のSF4ガスに晒される部分に用いても、注型絶縁物の表面抵抗の低下を防止できる効果がある。この理由としては、充填材の存在により物理的にSF4ガスのコーティング層における透過路が絶たれ、ガス透過が抑制されること、また、充填材表面にSF4ガスが吸着されてガス透過量が減少することが考えられうる。
【0033】
上記充填材であるフォレステライトの添加量は、コーティング層における充填率が20〜40重量%であることが好ましく、20〜30重量%であることがより好ましい。フォレステライトの添加量が上記範囲を満たす場合は、表面比抵抗の低下を抑制する効果が向上し、また、コーティング層の誘電率を維持することができる。上記充填率は、乾燥時(溶媒除去時)における充填率をいい、コーティング層を構成する樹脂と充填材の比重および質量により決定される。
【0034】
添加される上記フォレステライトとしては、粒子径が20μm〜30μm、比重は6g/cm3以下のものが好ましい。粒子径や比重がこのような範囲を満たす場合は、形成されるコーティング層において充填材が沈降せずに均一に分散した状態で存在するので、上記ガス透過路の遮断およびガス透過の抑制効果がより向上するものとなる。
【0035】
本実施の形態3で得られる100〜500μmの厚みを有するフォレステライトを充填したフッ素樹脂系コーティング層2を備えた注型絶縁物1からなる電気絶縁用注型絶縁物は、SF4ガスのコーティング層への浸透が抑制されたものであり、SF4ガスによる注型絶縁物の表面抵抗の低下を防止できる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
本実施例では、上記実施の形態2にそって電気絶縁用注型絶縁物を製造した。すなわち、ビスフェノール型エポキシ樹脂(CT200、旭化成ケミカル社製)100重量部、酸無水物硬化剤(HN2200、日立化成社製)36重量部、充填材シリカ(3H)200重量部を混合して、所望の型に注型して100〜130℃に加熱して注型絶縁物を製造した。この注型絶縁物の表面に、フルオロエチレン−ビニルエーテル交互共重合体を主剤とするボンフロン塗料(旭コート&レジン製)の主剤と硬化剤(イソシアネート)との重量比率を10:0.5〜1に混合し、粒子径が20〜30μmで比重が6g/cm3以下のアルミナを20重量%含有したものを塗装した後、加熱して硬化することにより50μm、100μm、200μm、300μm、400μm、500μm、600μmのフッ素樹脂系コーティング層を形成した電気絶縁用注型絶縁物をそれぞれ製造した。
【0038】
得られた電気絶縁用注型絶縁物を下記の条件に10時間晒して、10時間後の表面抵抗を抵抗測定圧をDC500Vとして測定し、SF4ガスに対する耐性を、表面抵抗により評価した。結果を図2に示す。
(評価条件)
・暴露ガス雰囲気:SF4ガス 0.4vol.%、SF6ガス 0.5MPa・G
・当初比抵抗率:1×1015〜1×1016Ω/sq
なお、表面抵抗の測定は、図3に示すようなサンプルを用いて測定した。サンプルは、絶縁注型物1の表面に銅からなる厚みが50〜100μm、直径が5cmの内側電極6と、直径8cmで幅1cmの環状外側電極7との間隔を1cmあけて同心円上に配置した状態でフッ素樹脂系コーティング層を硬化させた。そして、これらの内側電極6と外側電極7とを用いて、絶縁注型物1の表面抵抗を求めた。
【0039】
図2には、電気絶縁用注型絶縁物に要求される表面抵抗率の一般的な下限値と、上記測定の結果をと示す。図2の結果より、100μm〜500μmのフッ素樹脂系コーティング層2を形成した本発明の電気絶縁用注型物は、SF4ガスに対する耐性が優れており、表面抵抗率が低下しないことが分かる。また、層厚が500μmを超える場合であっても、層の破損がなければ本発明の効果が奏されることがわかる。
【0040】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0041】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の活用例として、SF6ガスを絶縁媒体として用いるガス開閉機器(GIS、GCB)に用いられる注型絶縁物として有効である。
【符号の説明】
【0043】
1 注型絶縁物、2 フッ素樹脂コーティング層、3 通電導体、4 GISタンク、5 SF6ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注型絶縁物の表面に100〜500μmのフッ素樹脂系コーティング層が形成されている電気絶縁用注型絶縁物。
【請求項2】
前記注型絶縁物がシリカ系注型絶縁物である、請求項1に記載の電気絶縁用注型絶縁物。
【請求項3】
前記フッ素樹脂系コーティング層にアルミナが充填されている、請求項1または2に記載の電気絶縁用注型絶縁物。
【請求項4】
前記フッ素樹脂系コーティング層にフォレステライトが充填されている、請求項1または2に記載の電気絶縁用注型絶縁物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−220300(P2010−220300A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61323(P2009−61323)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】