説明

電気自動車用駆動装置

【課題】減速ユニット12のリングギヤ42とハウジング16との間のガタを防止すると共に、減速ユニット12のリングギヤ42の歯面にエッジロードが掛かっても、リングギヤ42が損傷を受け難くいインホイールモータ形式の電気自動車用駆動装置を提供することである。
【解決手段】電動モータ11の出力によって駆動される減速ユニット12が、入力軸13に同軸状に設けられるサンギヤ39及びリングギヤ42、前記サンギヤ39とリングギヤ42の間に円周方向等配に設けられる複数のピニオンギヤ43、前記ピニオンギヤ43を保持するキャリヤとからなる遊星ギヤ形式である電気自動車用駆動装置において、前記リングギヤ42と、このリングギヤ42の外径側に設けられる減速ユニット12のハウジングの隔壁基部18aとの間に、振動を吸収するゴム又は樹脂素材の制振部材41を配置したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータを駆動源とした電気自動車用駆動装置に関し、特に、インホイールモータ形式の電気自動車用駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から知られているインホイールモータ形式の電気自動車用駆動装置は、電動モータと、そのモータ出力を入力とする減速ユニットと、その減速ユニットの減速出力によって回転されるハブユニットにより構成される(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に開示された電気自動車用駆動装置は、電動モータが減速ユニットの径方向外側に配置され、減速ユニットは遊星ギヤ形式のものを軸方向に2段に配置したものが用いられる。減速ユニットを2段に配置しているのは、減速比を高めるためである。
【0004】
遊星ギヤ形式の減速ユニットの一般的な構成は、入力軸にサンギヤが同軸状態に設けられ、その入力軸の周りにリングギヤが同軸状態に固定される。前記サンギヤとリングギヤの間に複数のピニオンギヤが介在され、各ピニオンギヤを支持するピニオンピンが共通のキャリヤに連結される。キャリヤは出力部材と一体化される。
【0005】
前記減速ユニットは、入力軸の回転によってピニオンギヤが自転しつつ公転する。その公転の回転速度が入力軸の回転速度より減速され、その減速回転がキャリヤを経て出力部材に伝達される。この場合の減速比は、Zs/(Zs+Zr)となる。ただし、Zsはサンギヤの歯数、Zrはリングギヤの歯数である。
【0006】
前記減速ユニットの入力軸は、軸方向に配置された2個所の軸受、即ち、インボード側軸受と、アウトボード側軸受によって支持されている。インボード側軸受は、減速ユニットのハウジングに取り付けられ、アウトボード側軸受は、減速ユニットの出力部材に取り付けられている。ハウジングはサスペンションを介して車体に支持され、出力部材はハブユニットの内方部材と結合一体化され車輪を回転駆動する。
【0007】
前記の電気自動車用駆動装置において、減速ユニットの入力軸に作用する荷重は、インボード側においてはインボード側軸受を介してハウジングによって支持され、またアウトボード側においてはアウトボード側軸受を介して減速ユニットの出力部材によって支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−32888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、インホイールモータから振動が発生すると、振動が懸架部やサスペンションを介して車体に伝わるので、車両の乗り心地が悪化する。
【0010】
インホイールモータ形式の電気自動車用駆動装置は、バネ下重量を少しでも抑えるために、電動モータと減速ユニットを収納するハウジングは、軽合金、例えばアルミ合金によって形成されているが、ハウジングの内周面に嵌め合い固定される減速部のリングギヤは、強度上、鉄系材料によって形成されている。
【0011】
ところが、ハウジングとリングギヤの材質が異なると、両者の線膨脹係数の差異により、嵌め合い部にガタが生じ、このガタが振動の原因になる。
【0012】
また、ハブユニットは、タイヤからの旋回荷重を受けるため、減速ユニットのリングギヤの歯面にエッジロードが掛かり、場合によってはリングギヤが損傷を受ける恐れもある。
【0013】
そこで、この発明は、減速ユニットのリングギヤとハウジングとの間のガタを防止すると共に、減速ユニットのリングギヤの歯面にエッジロードが掛かっても、リングギヤが損傷を受け難くいインホイールモータ形式の電気自動車用駆動装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の課題を解決するために、この発明は、電動モータと、その電動モータの出力によって駆動される減速ユニットと、減速ユニットの入力軸と同軸の出力部材によって回転されるハブユニットとを備え、減速ユニットが、入力軸に同軸状に設けられるサンギヤ及びリングギヤ、前記サンギヤとリングギヤの間に円周方向等配に設けられる複数のピニオンギヤ、前記ピニオンギヤを保持するキャリヤとからなる遊星ギヤ形式である電気自動車用駆動装置において、前記リングギヤと、このリングギヤの外径側に設けられる減速ユニットのハウジングとの間に制振部材を配置したことを特徴とするものである。
【0015】
前記の構成によると、リングギヤと減速ユニットのハウジング間で制振が行われるので、振動がハウジング側に伝わり難い。
【0016】
また、リングギヤがハウジングを構成するアルミ合金等の軽合金材料よりも線膨張が大きい鉄系素材で形成している場合、高温時にあってはリングギヤとハウジング間に生じる隙間が制振部材によって埋められるため、リングギヤとハウジング間にガタが生じ難い。反対に、低温時には、軽合金材料製のハウジングの内径の方が、リングギヤの外径より小さくなるため、リングギヤとハウジング間に隙間が発生しない。
【0017】
また、減速部のリングギヤの歯面にエッジロードが掛かっても、リングギヤが外径部の制振部材によってハブユニットの傾きに沿って傾くので、エッジロードの程度を軽減することができる。
【0018】
前記制振部材の素材としては、加硫ゴム、樹脂等が挙げられる。
【0019】
前記制振部材は、リングギヤの外周の全周に亘って配置してもよいし、リングギヤの外周に所定間隔を空けて複数個配置してもよい。
【0020】
前記制振部材をリングギヤの外周に複数個配置する場合、制振部材としては円柱形又は角柱形をしたものを使用することができ、その中心に補強用の金属を配置してもよい。
【0021】
そして、ハウジングの内周とリングギヤの外周に、制振部材を嵌め入れる溝部を形成し、この溝部に前記円柱形又は角柱形をした制振部材を嵌め入れることにより、制振部材をリングギヤの回り止めとして機能させることができる。
【0022】
また、前記ハウジングの内径面に薄肉の金属製リングを嵌め、この金属製リングの内径面とリングギヤの外径面との間に制振部材を配置するようにしてもよい。
【0023】
さらに、前記ハウジングの内径面とリングギヤの外径面にそれぞれ薄肉の金属製リングを嵌め、ハウジングの内径面の金属製リングとリングギヤの外径面の金属製リングとの間の隙間に、制振部材を配置するようにしてもよい。
【0024】
また、リングギヤをはすば歯車によって構成した場合には、リングギヤの軸方向にも応力が付加されるので、リングギヤの外径だけではなく、リングギヤの軸方向の側面とハウジング間にも制振部材を配置するようにする。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、この発明においては、リングギヤと減速ユニットのハウジング間で制振が行われるので、振動がハウジング側に伝わり難い。
また、リングギヤと減速ユニットのハウジング間に配置された制振部材により、リングギヤと減速部ハウジングとの間のガタを防止することができると共に、減速部のリングギヤの歯面に掛かるエッジロードを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施形態の断面図である。
【図2】同上の一部拡大断面図である。
【図3】制振部材の配置例を示す部分断面図である。
【図4】制振部材の他の配置例を示す部分断面図である。
【図5】制振部材の他の配置例を示す部分断面図である。
【図6】制振部材の他の配置例を示す部分断面図である。
【図7】制振部材の他の配置例を示す部分断面図である。
【図8】制振部材の一例を示す部分断面図である。
【図9】この発明の他の実施形態の断面図である。
【図10】図2のX1−X1線の拡大断面図である。
【図11】同上の間座の斜視図である。
【図12】図1のX2−X2線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0028】
電気自動車用駆動装置は、図1に示したように、電動モータ11、その電動モータ11の出力によって駆動される減速ユニット12、減速ユニット12の入力軸13と同軸の出力部材14によって回転されるハブユニット15及び電動モータ11と減速ユニット12を収納するハウジング16を主要な構成要素としている。
【0029】
前記のハウジング16は、円筒部17とその前端(アウトボード側の端部、図の左側の端部)に設けられた径方向の前端部18を有する。前端部18はセンター部が開放され、その開放部分19にハブユニット15の外方部材21の後端部が嵌合され、フランジ22が前端部18に、ボルト23により固定される。
【0030】
ハブユニット15のフランジ22とハウジング16の前端部18との間には、ハウジング16の前端部18に形成したボルト固定孔の外径位置に、減速ユニット12内の潤滑油のリークを防止するために、Oリング69を嵌めている。
【0031】
前記ハウジング16の前端部18内側に、前記開放穴19と同芯状にこれより大径の隔壁基部18aが設けられる。その隔壁基部18aに皿形の隔壁部材20がボルト20aによって固定される。前記隔壁部材20のセンターにセンター穴25が設けられる。そのセンター穴25が入力軸13の外径面に径方向のすき間をおいて臨む。前記の隔壁基部18aとこれに連結固定された隔壁部材20によって隔壁24が形成される。隔壁24は、ハウジング16の内部を外径側の電動モータ11の収納空間と、内径側の減速ユニット12の収納空間を区画する機能を有する。
【0032】
ハウジング16の円筒部17の後端縁の中心対称の2個所に、軸方向に突き出したサスペンション連結部27が設けられる。従来の自動車においては、ハブユニット15は、車体のナックルを介在してサスペンションに連結されていたが、この図1の実施形態の場合は、ハウジング16の一部であるサスペンション連結部27に車体側のサスペンションを直接連結することができる。
【0033】
ハウジング16がナックルの機能を果たすことになるので、ハウジング16にナックルを一体化した構造であるということができる。この場合、ハブユニット15の外方部材21の交換の必要が生じたときは、サスペンションからハウジング16を外す必要がなく、ボルト23を外すだけで交換を行うことができる。
【0034】
電動モータ11は、図示の場合、ラジアルギャップ形のブラシレスDCモータであり、ハウジング16の円筒部17の内径面に固定されたステータ28と、そのステータ28の内径面にラジアルギャップをおいて配置されたロータ29とによって構成される。ロータ29は、ロータ支持部材31によって入力軸13に嵌合固定される。
【0035】
ロータ支持部材31は、ロータ29の内径部に嵌合された支持部材円筒部31a(図2参照)と、前記隔壁24に沿って後方に延び内径方向に屈曲された支持部材円板部31bによって構成される。その支持部材円板部31bの内径部にボス部31cが設けられ、そのボス部31cが入力軸13に嵌合され、キー止め部35により入力軸13に固定される。
【0036】
前記のボス部31cは隔壁24のセンター穴25の内径側に挿入され、そのセンター穴25とボス部31cの間にオイルシール部材36が介在される(図2参照)。隔壁24及びオイルシール部材36によって、電動モータ11の収納部と減速ユニット12の収納部が仕切られるとともに、オイルシールされる。これにより、減速ユニット12側の潤滑油が電動モータ11側に移動することが防止され、電動モータ11側はドライに保たれ、潤滑油がロータ29の回転の妨げとなる不具合が除去される。
【0037】
減速ユニット12は遊星ギヤ形式のものであり、図2に示したように、前記入力軸13と出力部材14、入力軸の外径面にキー止め部38によって取り付けられたサンギヤ39、そのサンギヤ39の外周において、前記隔壁基部18aと隔壁部材20との境界部分の内径面に沿って配置されたリングギヤ42、そのリングギヤ42とサンギヤ39の間に周方向に等間隔をおいて3個所に設けられたピニオンギヤ43とにより構成される。ピニオンギヤ43は針状ころ軸受44を介してピニオンピン45によって支持される。
【0038】
リングギヤ42は、ハウジング16に対してキー止め、あるいはボルト止めにより回り止めされている。
【0039】
リングギヤ42の外径部とハウジング16の隔壁基部18aとの間には、加硫ゴム、樹脂素材からなる制振部材41が配置されている。
【0040】
前記制振部材41は、図3、図4及び図5に示すように、リングギヤ42の外周の全周に亘って配置してもよいし、図6及び図7に示すように、リングギヤ42の外周に所定間隔を空けて複数個配置してもよい。
【0041】
図3の実施形態は、リング形の制振部材41をリングギヤ42の外周に直接配置する例である。
【0042】
図4の実施形態は、リング形の制振部材41の外周のハウジング16の隔壁基部18aとの間に、金属製リング41aを配置した例である。
【0043】
また、図5の実施形態は、リング形の制振部材41の内周と外周の両方に薄肉の金属製リング41a、41bを配置した例である。
【0044】
図6及び図7は、リングギヤ42の外周に所定間隔を空けて円柱形又は角柱形をした制振部材41を配置した例であり、リングギヤ42の外径部とハウジング16の隔壁基部18aの内径部には、円柱形又は角柱形をした制振部材41を嵌め入れる溝部41cを設けている。
【0045】
この溝部41cに円柱形又は角柱形をした制振部材41を嵌め入れることにより、制振部材41をリングギヤ42の回り止めとして機能させることができる。
【0046】
前記円柱形又は角柱形をした制振部材41の強度を向上させるために、図7に示すように、制振部材41の中心に補強用の金属棒41dを配置してもよい。
【0047】
また、図9に示す実施形態は、リングギヤ42をはすば歯車によって構成する例である。リングギヤ42をはすば歯車によって構成した場合には、リングギヤ42の軸方向にも応力が付加されるので、リングギヤ42の外径面だけではなく、リングギヤ42の軸方向の側面にも前記制振部材41を配置している。
【0048】
出力部材14は、そのアウトボード側端部に結合軸部47を有する。結合軸部47はハブユニット15の内方部材46にスプライン結合され、ナット50によって固定される。結合軸部47の内端側にこれより一段大径に形成された軸受支持部49が設けられる。
【0049】
前記出力部材14のインボード側には軸方向にピニオンギヤ43の幅より若干大きい間隔をおいて軸方向に対向した一対のフランジ52、53が設けられる(図2参照)。これらのフランジ52、53の相互を軸方向に連結するためのブリッジ54が周方向等配位置の3個所に設けられる。フランジ52、53は遊星ギヤ形式の減速ユニット12におけるキャリヤの機能を有する。
【0050】
ブリッジ54を周方向等配位置に設けることにより、出力部材14の回転は円滑に行われ、ひいては、出力部材14、入力軸13を通じて電動モータ11のロータ29の回転精度を向上させる。
【0051】
前記のインボード側のフランジ53の端面のセンターに前記結合軸部47と同軸のセンターに軸穴51が設けられる。この軸穴51は、前記の軸受支持部49に達する長さを有する。
【0052】
軸方向に対向した一対のフランジ52、53と、周方向の3個所のブリッジ54によって、周方向に区画された3個所のピニオンギヤ収納部55が設けられる(図10参照)。ピニオンギヤ43が各ピニオンギヤ収納部55に収納されるとともに、ピニオンピン45の両端部が各フランジ52、53に挿通され、止めネジ56によって固定される。両方のフランジ52、53は前記のブリッジ54だけでなく、ピニオンピン45によっても結合一体化されているということができる。
【0053】
フランジ52、53相互がブリッジ54によって一体化されているので、ピニオンピン45の両端の支持剛性が向上する。
【0054】
各ピニオンギヤ43の両側面と各フランジ52、53との間に、ピニオンギヤ43の円滑な回転を確保するためにスラスト板57が介在される。
【0055】
前記の各フランジ52、53の内径面と、それぞれの内径面に対向した入力軸13の外径面との間において、入力軸13を支持する一対の転がり軸受58、59がサンギヤ39の両側に設けられる。この構成を採ることにより各転がり軸受58、59が、共に同じ出力部材14によって支持される。
【0056】
また、図2に示したように、各転がり軸受58、59と、支持部材円板部31bと入力軸13との嵌合部の軸方向の位置関係は、各転がり軸受58、59が共にアウトボード側に配置され、入力軸13の支持構造としては、いわゆる片持ち支持構造となる。
【0057】
これに対し、従来の場合(特許文献1)は、アウトボード側の軸受は、支持部材円板部と入力軸との嵌合部よりアウトボード側に配置されるのに対し、インボード側の軸受はハウジングに取り付けられるので、前記の嵌合部よりインボード側となる。そのため、入力軸の支持構造は、いわゆる両持ち支持構造となる。両持ち支持構造に比べ片持ち支持構造は構造が簡素化される特徴がある。
【0058】
前記のアウトボード側の転がり軸受58は、その内輪が入力軸13に設けられた段差部61に、また外輪が軸穴51の内径面に設けられた段差部62に係合される。インボード側の転がり軸受59は、その内輪がロータ支持部材31のボス部31c及びキー止め部35に、また外輪が止め輪63に係合される。
【0059】
各転がり軸受58、59の内輪相互間にサンギヤ39が介在され、また外輪相互間には間座64が介在される。間座64は両方の転がり軸受58、59が、相互に接近する方向へ変位することを防止する。
【0060】
間座64は、図10、図11に示したように、円筒状態に形成され、周方向の3個所には前記のピニオンギヤ収納部55の形状に合致する窓穴65が設けられ、また窓穴65の相互間の閉鎖部66は前記のブリッジ54の底面の形状に沿う形状に形成される。この間座64は、各窓穴65がピニオンギヤ収納部55に合致する姿勢で軸穴51の内径面の転がり軸受58、59間に介在され(図2参照)、ブリッジ54の外径面から固定ネジ67を位置決め穴60(図11参照)にねじ込むことにより、位置決めするようにしている。
【0061】
前記の間座64は、その軸方向長さを適宜設定することにより、両方の転がり軸受58、59に付与する軸受予圧をコントロールすることができ、簡易的な定位置予圧構造となる。
【0062】
減速ユニット12は、径方向に見た場合、隔壁24を挟んで電動モータ11の内径側に収納された径方向の配置となり、軸方向に配置する場合に比べ軸方向のコンパクト化が図られる。
【0063】
ここで、前記隔壁24について追加的に説明すると、隔壁円筒部24bは、径方向に配置された電動モータ11と、減速ユニット12の間に介在され、また隔壁円板部24aは、減速ユニット12と、支持部材円板部31bの間に介在される。そのセンター穴25の周縁部がロータ支持部材31のボス部31cの外径面に所定の間隔をおいて臨む。
【0064】
前記のセンター穴25の周縁部とボス部31cの間にオイルシール部材36が介在される。このオイルシール部材36と隔壁24の存在によって、ハウジング16の電動モータ11の収納空間と、減速ユニット12の収納空間が仕切られる。これにより、減速ユニット12側の潤滑油が電動モータ11側に移動することが防止され、電動モータ11側はドライに保たれるので、潤滑油がロータ29の回転の妨げとなることが回避される。
【0065】
減速ユニット12の内部には、潤滑油が充填されている。潤滑油は、電動モータ11側は前記のオイルシール部材36によってシールされ、またハブユニット15側は、出力部材14の軸受支持部49と外方部材21の間に介在されてオイルシール部材70によってシールされる。
【0066】
電動モータ11及び減速ユニット12は、図1に示したように、入力軸13の後端部(インボード側端部)を除き、ハウジング16の円筒部17の軸方向長さの範囲内に収まるので、その円筒部17の後端部にシール部材60を介してリヤカバー73が嵌合される。リヤカバー73の外側面には放熱用のフィン74が設けられ、電動モータ11の熱を外部に放熱するようにしている。
【0067】
リヤカバー73のセンター穴とそのセンター穴を貫通する入力軸13との間に回転センサー75が設けられ、その部分がセンサーカバー77によって閉鎖される。図示の回転センサー75はレゾルバであり、そのセンサーステータ75aがリヤカバー73のセンター穴に固定され、センサーロータ75bが入力軸13に取り付けられる。
【0068】
センサーステータ75aのリード線79がセンサーカバー77の外部に設けたコネクタ差込部78に接続される。回転センサー75としては、前記のレゾルバの他にホール素子等を用いることができる。コネクタ差込部78に信号線ケーブルのコネクタ(図示省略)が差し込まれる。
【0069】
回転センサー75によって検知された入力軸13の回転角度は、前記の信号線ケーブルを経て図示省略の制御回路に入力され、電動モータ11の回転制御に用いられる。
【0070】
電動モータ11のステータ28に電源を供給するための電源端子ボックス76が前記のリヤカバー73の外周縁寄りに偏心した位置で、かつ前記のサスペンション連結部27と90度位置を異にして設けられる(図12参照)。
【0071】
電源端子ボックス76はリヤカバー73を貫通した円筒状に形成され、外周部に作業用穴80が設けられる。作業用穴80は通常は蓋81によって閉塞される。内部には電源端子82が作業用穴80に対向した位置に設けられる。電源端子82にステータ28の巻線に接続されたリード線83が接続され、また電源ケーブル84の接続端子が同じ電源端子82に接続される。これらは締付けネジ85によって固定される。電源端子ボックス76の後端には、ケーブル穴84aが設けられ、これに電源ケーブル84が挿通される。
【0072】
ハブユニット15は、図1に示したように、ハブ86が一体化された前記の内方部材46と、その内方部材46の外径面に嵌合された一対の内輪87と、フランジ22を有する外方部材21と、その外方部材21の内径面に嵌合され複列の軌道を有する外輪88と、前記内輪87と外輪88の間に介在されたい複列のボール89とにより構成される。車輪はハブボルト90によってハブ86に取り付けられる。
【0073】
前記出力部材14の連結軸部47が、内方部材46の内径面にスプライン結合部され、内方部材46から外部に突き出した連結軸部47の先端部が前記のようにナット50によって固定される。ナット50を用いた固定手段に代えて、プレスカット接合、拡径かしめ、揺動かしめ等の固定手段を採用することができる。
【0074】
前記のハブユニット15は、いわゆる第1世代と呼ばれる形式であるが、第2世代もしくは第3世代の形式のものを用いることができる。
【0075】
実施形態1の電気自動車用駆動装置は以上のように構成され、次にその作用について説明する。
【0076】
運転席のアクセルが作動されることによって電動モータ11が駆動されると、そのロータ29の回転と一体に入力軸13が回転され、減速ユニット12にモータ出力が入力される。減速ユニット12は、サンギヤ39が入力軸13と一体に回転すると、ピニオンギヤ43が自転しつつ公転する。ピニオンピン45がその公転速度で減速回転することにより、出力部材14を前記の減速比に示した減速出力で出力部材14を回転させる。
【0077】
出力部材14の結合軸部47と一体にハブユニット15の内方部材46が回転され、ハブ86に取り付けられた車輪が駆動される。
【0078】
前記の入力軸13は、ピニオンギヤ43の両側においてそれぞれアウトボード側の転がり軸受58とインボード側の転がり軸受59によって支持されて回転する。これらの転がり軸受58、59は、いずれも出力部材14と一体の各フランジ52、53に取り付けられているので、車輪からハブユニット15を経て出力部材14に伝達されるラジアル方向の振動や衝撃は、両方の転がり軸受58、59に同時に同様の態様で負荷される。
【0079】
その結果、いずれの転がり軸受58、59のも偏荷重が作用することが避けられるので、回転精度、耐久性の向上が図れ、回転音の騒音が抑制される。
【0080】
ピニオンギヤ43のピニオンピン45は、その両端部がそれぞれフランジ52、53によって支持されるので、片持ち支持される従来の場合に比べて支持剛性が向上する。
【0081】
前記の転がり軸受58、59は、ロータ29の支持部材31と入力軸13との嵌合部、即ちキー止め部35よりアウトボード側に配置され、その両側に配置される従来の場合に比べ、支持構造が簡単になり組立て易くなる。
【0082】
また、減速ユニット12内の潤滑油は、電動モータ11側へはオイルシール部材36により、またハブユニット15側へはオイルシール部材70によりシールされるので、電動モータ11側及びハブユニット側へのリークが防止される。その結果、電動モータ11側においては、ロータ29の回転に支障を来すことがなく、ハブユニット15側においては、潤滑油がハブユニット15を経て外部へリークすることが防止される。
【0083】
電動モータ11の駆動に伴い発生する熱は、リヤカバー73のフィン74によって効果的に放熱される。
【0084】
電動モータ11の回転制御に必要な入力軸13の回転角度は、回転角度センサー75によって検知され、制御装置に入力される。
【符号の説明】
【0085】
11 電動モータ
12 減速ユニット
13 入力軸
14 出力部材
15 ハブユニット
16 ハウジング
17 円筒部
18 前端部
18a 隔壁基部
19 開放部分
20 隔壁部材
20a ボルト
21 外方部材
22 フランジ
23 ボルト
24 隔壁
24a 隔壁円板部
24b 隔壁円筒部
25 センター穴
27 サスペンション連結部
28 ステータ
29 ロータ
31 ロータ支持部材
31a 支持部材円筒部
31b 支持部材円板部
31c ボス部
32 フランジ円筒部
35 キー止め部
36 オイルシール部材
38 キー止め部
39 サンギヤ
41 制振部材
41a、41b 金属製リング
41c 溝部
41d 金属棒
42 リングギヤ
43 ピニオンギヤ
44 針状ころ軸受
45 ピニオンピン
46 内方部材
47 結合軸部
49 軸受支持部
50 ナット
51 軸穴
52 、53 フランジ
54 ブリッジ
55 ピニオンギヤ収納部
56 止めネジ
57 スラスト板
58、59 転がり軸受
60 位置決め穴
61、62 段差部
63 止め輪
64 間座
65 窓穴
66 閉鎖部
67 止めネジ
69 Oリング
70 オイルシール部材
73 リヤカバー
74 フィン
75 回転センサー
75a センサーステータ
75b センサーロータ
76 電源端子ボックス
76a 電源端子
77 センサーカバー
78 コネクタ差込部
79 挿通穴
80 作業用穴
81 蓋
82 電源端子
83 リード線
84 電源ケーブル
84a ケーブル穴
85 締付けネジ
86 ハブ
87 内輪
88 外輪
89 ボール
89a、89b ハブ軸受
90 ハブボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、その電動モータの出力によって駆動される減速ユニットと、減速ユニットの入力軸と同軸の出力部材によって回転されるハブユニットとを備え、減速ユニットが、入力軸に同軸状に設けられるサンギヤ及びリングギヤ、前記サンギヤとリングギヤの間に円周方向等配に設けられる複数のピニオンギヤ、前記ピニオンギヤを保持するキャリヤとからなる遊星ギヤ形式である電気自動車用駆動装置において、前記リングギヤと、このリングギヤの外径側に設けられる減速ユニットのハウジングとの間に制振部材を配置したことを特徴とする電気自動車用駆動装置。
【請求項2】
前記制振部材が、リングギヤの外周の全周に亘って配置されている請求項1記載の電気自動車用駆動装置。
【請求項3】
前記制振部材が、リングギヤの外周に所定間隔を空けて複数個配置されている請求項1記載の電気自動車用駆動装置。
【請求項4】
前記複数個の制振部材が、円柱形又は角柱形をしている請求項3記載の電気自動車用駆動装置。
【請求項5】
前記円柱形又は角柱形をしている制振部材の中心に金属が配置されている請求項4記載の電気自動車用駆動装置。
【請求項6】
前記リングギヤの外周に複数個配置した制振部材が、リングギヤの回り止めを兼ねている請求項3〜5のいずれかに記載の電気自動車用駆動装置。
【請求項7】
前記ハウジングの内径面に薄肉の金属製リングを嵌め、この金属製リングの内径面とリングギヤの外径面との間に制振部材を配置した請求項1記載の電気自動車用駆動装置。
【請求項8】
前記前記ハウジングの内径面とリングギヤの外径面にそれぞれ薄肉の金属製リングを嵌め、ハウジングの内径面の金属製リングとリングギヤの外径面の金属製リングとの間の隙間に、制振部材を配置した請求項1記載の電気自動車用駆動装置。
【請求項9】
前記減速ユニットの構成部材であるリングギヤをはすば歯車によって構成し、リングギヤの軸方向の側面とハウジング間にも制振部材を配置したことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の電気自動車用駆動装置。
【請求項10】
前記制振部材が加硫ゴム又は樹脂素材からなる請求項1〜9のいずれかに記載の電気自動車用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−71698(P2013−71698A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213803(P2011−213803)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】