説明

電気自動車

【課題】電圧コンバータが備えるダイオードの温度を推定することのできる電気自動車を提供する。
【解決手段】電気自動車100は、電圧コンバータ23と、パワーコントローラ25を備える。電圧コンバータ23は、リアクトルL1とトランジスタTr1、Tr2とダイオードD1、D2を有する。電気自動車100はさらに、ダイオードD1、D2を冷却する冷媒の温度を計測する温度センサQwtと、リアクトルL1を流れる電流を計測する電流センサAdと、電圧コンバータ23の出力電圧VHを計測する電圧センサVdHを備える。パワーコントローラ25(温度推定器)は、温度センサが計測した冷媒温度に、電流センサと電圧センサのセンサデータ及びトランジスタのデューティ比に基づいた温度補正を加算した値をダイオードの推定温度とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用モータを有する電気自動車に関する。本明細書における電気自動車には、ハイブリッド車、燃料電池車も含まれる。
【背景技術】
【0002】
電気自動車は、バッテリの直流電力を交流電力に変換するインバータを備える。バッテリの出力電圧がインバータの入力電圧に適していない場合はさらに、バッテリの出力電圧をインバータの入力電圧に適した電圧に変換するための電圧コンバータを備える場合もある。インバータや電圧コンバータは、モータが発生する電力をバッテリの充電に適した直流電力に変換する役割も担う。インバータや電圧コンバータには、多数のスイッチング素子(典型的にはIGBTやダイオード)が使われている。特に、走行用の高出力モータのためのるインバータや電圧コンバータには大きな電流が流れるため、それらのスイッチング素子の発熱を抑制することが一つの課題となっている。
【0003】
それらのスイッチング素子の発熱を抑えるのに先立って、それらの素子の温度を正確に把握することが重要である。各スイッチング素子に温度センサを備えれば正確な温度が把握できるが、それではコストが嵩んでしまう。そこで、いくつかのスイッチング素子には温度センサを配し、温度センサのセンサデータと同時に既設のセンサのデータを利用して温度センサを配していない素子の温度を推定する技術が提案されている。例えば特許文献1では、電圧コンバータの入出力端それぞれの電圧と、電圧コンバータを流れる電流と、特定のスイッチング素子の温度を計測する温度センサのデータを用いて、温度センサが取り付けられていない素子の温度を推定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−230078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書は、特定のスイッチング素子の温度を参照するのではなく、素子を冷却する冷媒の温度に着目し、冷媒温度を基準とし、電圧コンバータに既設のセンサのデータに基づいてスイッチング素子の温度を推定する技術を提供する。特に、電圧コンバータが備えるダイオードの温度を推定する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
電圧コンバータは、通常、リアクトルとトランジスタとダイオードで構成される。なお、上記した3種の素子が主たる構成部品であるが、電圧コンバータはそれら以外の素子を含んでもよい。電気自動車に搭載される電圧コンバータには、ダイオードを含む電圧コンバータ内の電子部品を冷却する冷媒の温度を計測する温度センサと、リアクトルを流れる電流を計測する電流センサ、又は、電圧コンバータの入力端を流れる電流を計測する電流センサと、電圧コンバータの出力電圧を計測する電圧センサが備えられている。本明細書が開示する技術は、それらのセンサデータと、トランジスタのデューティ比を使ってダイオードの温度を推定する。
【0007】
ダイオードの温度を推定する温度推定器は、温度センサが計測した冷媒温度を基準とする。冷媒はどのスイッチング素子にも均等にいきわたるので、電圧コンバータが有するスイッチング素子群全体の温度の指標(基準)として用いるのに適している。温度推定器は、電流センサと電圧センサのセンサデータ、及び、トランジスタのデューティ比に基づいた温度補正値を算出し、冷媒温度に加算する。その値をダイオードの推定温度とする。電流センサや電圧センサのセンサデータとダイオード温度との関係は予め実験等によって正確に求めておくことができる。本明細書が開示する技術は、実験等によって、電流センサや電圧センサの計測値の様々な値に対応した補正値をマップデータ化して記憶しておくとともに、さらに、トランジスタのデューティ比に基づく補正係数を使って、冷媒温度からダイオード温度を推定する。
【0008】
温度推定器は、具体的には、個別のダイオードの温度上昇を、ダイオードに流れる電流の平均値に起因する温度上昇分(これをON損失による温度上昇分ΔTonと称する)と、スイッチング損失に起因する温度上昇分(これをスイッチング損失による温度上昇分ΔTswと称する)に分け、それらを別々に算出して冷媒温度Twtに加算することによって、個別のダイオードの温度を正確に推定する。
【0009】
温度推定器の実態は、個別の独立したユニットでなくともよく、例えばその機能の一部が電圧コンバータ内に備えられ、機能の残りが上位のコントローラ内に備えられ、それらが通信ケーブルによって連結された態様であってもよい。また、冷媒は、典型的には水であるが、電圧コンバータが空冷の場合には、空気あるいは他の不活性ガスが冷媒に相当する。
【0010】
温度推定器の一実施態様を概説する。一実施態様の温度推定器は、ON損失マップデータと、スイッチング損失マップデータと、電圧補正マップデータを記憶している。ON損失マップデータは、計測される電流の平均値の様々な値に対応した第1温度補正値ΔTon_aを定める。第1温度補正値ΔTon_aは、概ね、流れる電流の大きさに比例する。第1温度補正値ΔTon_aは、主としてスイッチング素子の電気抵抗に起因する。スイッチング損失マップデータは、計測される電流の極値の様々な値に対応した第2温度補正値ΔTsw_aを定める。第2温度補正値ΔTsw_aは、概ね、計測される電流の極値に比例する。なお、電圧コンバータでは、スイッチング素子のスイッチング動作に応じて出力電流が脈動する。「電流の極値」とは、その脈動の下端値あるいは、上端値を意味する。また、昇圧コンバータの場合は脈動の下端値を用い、降圧コンバータの場合は脈動の上端値を使う。第2温度補正値ΔTsw_aは、いわゆるスイッチングロスに主として起因する温度上昇分である。電圧補正マップデータは、電圧センサが計測する電圧(電圧コンバータの出力電圧VH)に対応した電圧補正係数を定める。電圧補正係数は、第2温度補正値ΔTsw_aのマップデータを決めたときの出力電圧と、温度推定時に計測した出力電圧の比に応じて定められる。例えば、温度推定時に計測された電圧がマップデータを決めた際の出力電圧の2倍であれば、電圧補正係数は2.0となる。
【0011】
温度推定器は、電流センサが計測した電流IL(例えばリアクトルを流れる電流)に対応する第1温度補正値ΔTon_a(IL)をON損失マップデータから特定する。また、温度推定器は、電流センサが計測した電流の極値ILmin(例えば、リアクトルに流れる電流の下端値)に対応する第2温度補正値ΔTsw_a(ILmin)をスイッチング損失マップデータから特定する。さらに温度推定器は、電圧センサが計測した電圧VHに対応する電圧補正係数Vcmp(VH)を電圧補正マップデータから特定する。温度推定器は、特定された第1温度補正値ΔTon_a(IL)にトランジスタのデューティ比Dh(たとえばONデューティ比)を乗じた値、及び、特定された第2温度補正値ΔTsw_a(ILmin)に電圧補正係数を乗じた値を、冷媒温度Twtに加算し、その加算結果をダイオードの推定温度Teとする。即ち、推定温度Te=Twt+ΔTon+ΔTswである。「ΔTon+ΔTsw」がトータルの温度補正値に相当する。ただし、ここでΔTon(ON損失温度上昇分)=ΔTon_a(IL)×Dhであり、ΔTsw(スイッチング損失温度上昇分)=ΔTsw_a(ILmin)×Vcmp(VH)である。
【0012】
温度推定器はさらに、トランジスタへのPWM指令を生成する際のキャリア周波数に対応したキャリア周波数補正係数Fcmpを定めたキャリア周波数補正マップデータを記憶しており、温度推定する際のキャリア周波数Fcに応じたキャリア周波数補正係数Fcmp(Fc)をキャリア周波数補正マップデータから特定し、特定された第1温度補正値にトランジスタのデューティ比を乗じた値、及び、特定された第2温度補正値に電圧補正係数とキャリア周波数補正係数を乗じた値を、冷媒温度に加算し、その加算結果をダイオードの推定温度とすることも好適である。即ち、ΔTsw=ΔTsw_a(ILmin)×Vcmp(VH)×Fcmp(Fc)とするのが好適である。この温度推定式は、状況に応じてキャリア周波数を変更する電圧コンバータに対して有効である。
【0013】
電圧コンバータの具体的な一態様は、トランジスタとダイオードが並列に接続された回路が2組直列に接続されており、2組の回路の間にリアクトルの一端が接続されている昇降圧コンバータである。
【0014】
温度推定器が推定したダイオードの温度は、典型的には、温度抑制器に通知される。温度抑制器とは、ダイオードの推定温度が所定の温度閾値を超えた場合に、ダイオードの発熱を抑制する手段である。温度抑制器の一態様は、ダイオードの推定温度Teが予め定められた温度閾値Td_thを超えている場合に、電圧コンバータへの入力電流の上限値を下げることである。温度抑制器と温度推定器は、物理的には同一のユニット(或いはプログラムを実行するプロセッサ)で実現されてもよい。温度抑制器と温度推定器は、電圧コンバータを制御するパワーコントローラの中に実装されてもよい。
【0015】
本明細書が開示する技術の具体的な態様は、以下の実施形態で詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】車両制御系のシステムブロック図である。
【図2】昇圧コンバータの動作を説明する図である。
【図3】ON損失マップデータの一例である。
【図4】スイッチング損失マップデータの一例である。
【図5】電圧補正マップデータの一例である。
【図6】キャリア周波数補正マップデータの一例である。
【図7】温度抑制制御の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に、実施例に係る電気自動車100のシステムブロック図を示す。なお、図1には、本発明を説明するのに必要なユニットのみを示しており、電気自動車100が本来備えるべきユニットの幾つかは図示を省略している。
【0018】
電気自動車100は、走行用のモータMG1を有する。モータMG1は、バッテリMBが供給する電力で駆動する。バッテリMBの電力は、システムメインリレーSMR1、SMR2を介して電圧コンバータ23に入力される。なお、システムメインリレーSMR1、SMR2は、バッテリMBを他の機器から遮断するメインスイッチに相当する。システムメインリレーSMR1、SMR2は、自動車100の電力システムを制御するパワーコントローラ25からの信号SCによって開閉する。バッテリMBの電圧は電圧コンバータ23によって、インバータ21の入力に適した電圧まで昇圧される。例えば、バッテリMBの電圧は200Vであり、電圧コンバータ23は、インバータ21の入力電圧に適した600Vまで、バッテリ電圧を昇圧する。インバータ21は、電圧コンバータ23が出力する直流電力を、モータMG1を駆動するのに適した3相交流電力(UVW)へ変換する。また、電気自動車100では、車両の減速エネルギによってモータMG1が発生した交流電力をインバータ21が直流に変換し、電圧コンバータ23がその直流電力をバッテリMBの充電に適した電圧まで降圧することもできる。即ち、インバータ21と電圧コンバータ23は、双方向で電力を変換することができる。
【0019】
電圧コンバータ23を駆動する信号(即ち、パルス幅変調信号PWMA)、及び、インバータ21を駆動する信号(即ち、パルス幅変調信号PWMB)は、パワーコントローラ25が生成する。パワーコントローラ25は、上位のコントローラであるシステムコントローラ10からの指令(例えば、アクセルペダルの開度に応じた指令)に基づき、電圧コンバータ23とインバータ21を制御する。図1の符号C1、C2は、電圧コンバータ23の入力側と出力側の電流を平滑化するコンデンサである。
【0020】
電圧コンバータ23とインバータ21は、共通の冷却装置2によって冷却される。より具体的には、冷却装置2は、電圧コンバータ23とインバータ21が内蔵するスイッチング素子(トランジスタやダイオード)やリアクトルを冷却する。冷却装置2は、その内部に冷媒が封入されており、ポンプ4によってその冷媒を電圧コンバータ23とインバータ21内で循環させる。冷却装置2には、冷媒の温度を計測する温度センサQwtが備えられている。温度センサQwtが計測する冷媒温度Twtは、パワーコントローラ25に入力される。なお、図では、冷却装置2は電圧コンバータ23とインバータ21に隣接するように描かれているが、冷却装置2の冷媒流路は、電圧コンバータ23やインバータ21の内部の素子に接するように、それらの機器の内部にまで通っている。冷媒は、典型的には水である。
【0021】
電圧コンバータ23の回路構成について説明する。なお、インバータ21の回路構成については説明を省略する。電圧コンバータ23は、主として、リアクトルL1、降圧用トランジスタTr1、昇圧用トランジスタTr2、昇圧用ダイオードD1、及び、降圧用ダイオードD2で構成される。トランジスタTr1、Tr2とダイオードD1、D2がスイッチング素子である。降圧用のトランジスタTr1をOFFにしておき、昇圧用トランジスタTr2を所定のデューティ比でON/OFFすると、バッテリ側(図1において電圧コンバータ23の左側)から入力された電圧が昇圧されてモータ側(図1において電圧コンバータ23の右側)に出力される。昇圧用のトランジスタ素子Tr2をOFFにしておき降圧用のトランジスタTr1を所定のデューティ比でON/OFFすると、モータ側から入力された電圧が降圧されてバッテリ側から出力される。トランジスタTr1、Tr2、ダイオードD1、D2は、冷却装置2の冷媒で冷却される。トランジスタTr1、Tr2は、典型的にはIGBTである。
【0022】
電圧コンバータ23は他に、リアクトルL1を流れる電流を計測する電流センサAdを備える。また、電圧コンバータ23の高圧側(モータ側)の電圧を計測する電圧センサVdHが備えられており、低圧側(バッテリ側)の電圧を計測する電圧センサVdLが備えられている。電流センサAdが計測する電流をリアクトル電流ILと称し、電圧センサVdHが計測する電圧を出力電圧VHと称する。また、電圧センサVdLが計測する電圧をバッテリ電圧VBと称する。電流センサAdによって計測されたリアクトル電流IL、及び、電圧センサVdH,VdLによって計測された出力電圧VHとバッテリ電圧VBは、パワーコントローラ25に送られる。なお、リアクトル電流ILは、リアクトルL1に蓄えられたエネルギの放出に依存するため、周期的に変化する(脈動する)ことに留意されたい。
【0023】
パワーコントローラ25は、パルス幅変調信号PWMA、PWMBによって電圧コンバータ23とインバータ21を制御するのと同時に、上記したセンサの信号(センサデータ)に基づいてダイオードの温度を推定し、推定温度が所定の温度閾値を超えたときに入力電流を抑える制御も行う。即ち、パワーコントローラ25は、温度推定器、及び、温度抑制器としても機能する。
【0024】
ダイオードD1の温度推定アルゴリズムを説明する前に、以後の説明で用いるパラメータを含めて昇圧コンバータの動作を説明する。図2は、昇圧用トランジスタTr2の動作(ゲート電圧の変化、図2(A))と、それに対応する出力電圧VHのグラフ(図2(B))、および、リアクトルL1を流れる電流ILのグラフ(図2(C))である。昇圧用トランジスタTr2のON時間をTonとし、OFF時間をToffとする。Ton+Toff=Tdである。デューティ比Dhは、Toff/Tdであり、この値Dhは、バッテリ電圧VBと出力電圧VHの比VB/VHに等しい。昇圧用トランジスタTr2がONしている間は、出力電圧はゼロであり、昇圧用トランジスタTr2がOFFしている間は、出力電圧はVHとなる。また、昇圧用トランジスタTr2がOFFしている間は、昇圧用トランジスタTr2を介して電流が流れ、その際にリアクトルL1にエネルギが蓄えられる。そのため、昇圧用トランジスタTr2がOFFしている期間では、リアクトル電流ILは減少する。昇圧用トランジスタTr2がONすると、もともとのバッテリMBの電流に加えてリアクトルL1に蓄えられたエネルギが加わり、リアクトル電流ILは増大する。このようにリアクトル電流ILは脈動する。脈動の下端値をリアクトル電流下端値ILminと称し、上端値をリアクトル電流上端値ILmaxと称する。また、リアクトル電流の平均値を以下では単にリアクトル電流ILと称する。
【0025】
ダイオードの温度を推定するメカニズムについて説明する。ここでは、電圧コンバータ23が昇圧回路として機能しているケースで説明する。即ち、昇圧用トランジスタTr2がON/OFFを繰り返し、昇圧用ダイオードD1を通じてモータ側にバッテリ電圧VBよりも高い出力電圧VHが出力される場合を想定する。そして、パワーコントローラ25が、ダイオードD1の温度を推定する。
【0026】
ダイオードD1の温度推定に用いるセンサデータは、冷却装置2を流れる冷媒、即ち、ダイオードD1を冷却する冷媒の温度Twt、リアクトル電流IL、出力電圧VHである。その他、ダイオードD1の温度推定には、トランジスタTr2のデューティ比Dhと、電圧コンバータ23を駆動するパルス幅変調信号PWMAを生成する際のキャリア周波数Fcが用いられる。デューティ比Dhとキャリア周波数Fcはパワーコントローラ25の内部で生成されるので検出する必要はない。また、ダイオードD1の温度推定には、いくつかの予め用意されたマップデータが必要となる。マップデータは、パワーコントローラ25と接続された記憶デバイス26に記憶されている。
【0027】
マップデータ26aから26dについて説明する。記憶デバイス26には、ON損失マップデータ26a、スイッチング損失マップデータ26b、電圧補正マップデータ26c、及び、キャリア周波数補正マップデータ26dが記憶されている。
【0028】
ON損失マップデータ26aの一例を図3に示す。ON損失マップデータ26aは、リアクトル電流IL(脈動の平均値)の様々な値に対してダイオードD1の温度上昇分ΔTon_aを対応付けたテーブルである。この温度上昇分を第1温度補正値ΔTon_aと称する。図3では、例えば、リアクトル電流IL=an1のとき、第1温度補正値ΔTon_a=tn1が対応付けられている。第1温度補正値ΔTon_aは、リアクトルに電流ILが定常的に流れるときの電気抵抗に起因して生じる温度上昇分であり、実験等によって予め求められている。第1温度補正値ΔTon_aは、リアクトル電流ILの増大に伴ってほぼ比例して増大する。
【0029】
スイッチング損失マップデータ26bの一例を図4に示す。スイッチング損失マップデータ26bは、リアクトル電流下端値ILminの様々な値に対してダイオードD1の温度上昇分ΔTsw_aを対応付けたテーブルである。この温度上昇分を第2温度補正値ΔTsw_aと称する。図4では、例えば、リアクトル電流下端値ILmin=as1のとき、第2温度補正値ΔTsw_a=ts1が対応付けられている。第2温度補正値ΔTsw_aは、スイッチング動作に起因して生じる温度上昇分であり、実験等によって予め求められている。第2温度補正値ΔTsw_aも、リアクトル電流下端値ILminの増大に伴ってほぼ比例して増大する。
【0030】
電圧補正マップデータ26cの一例を図5に示す。電圧補正マップデータ26cは、ダイオードの温度を推定する際の補正係数であり、スイッチング損失マップデータ26bを作成したとき(スイッチング損失マップデータの各値を決めるための実験を行ったとき)の出力電圧VHの値と、温度推定する際の出力電圧VHの比で定まる。例えば、スイッチング損失マップデータ26bを作成したときの出力電圧の値と、温度推定するときの出力電圧との比で定まる。例えば、スイッチング損失マップデータを決めたときの出力電圧がVH=500[V]であり、温度推定するときの出力電圧VHがv1=250[V]の場合、電圧補正係数Vcmp=cv1=250/500=0.5となる。また、温度推定するときの出力電圧VHがv4=600[V]の場合、電圧補正係数Vcmp=cv4=600/500=1.2となる。
【0031】
キャリア周波数補正マップデータ26dの一例を図6に示す。キャリア周波数補正マップデータ26dは、ダイオードの温度を推定する際の補正係数であり、スイッチング損失マップデータ26bを決めたとき(スイッチング損失マップデータ26bの各値を定める実験をしたとき)のキャリア周波数(スイッチング素子のパルス幅変調信号PWMAを生成する際の基本となるキャリア信号の周波数)と、温度推定する際のキャリア周波数Fcとの比で定まる。例えば、スイッチング損失マップデータ26bを作成したときのキャリア周波数が10[kHz]であり、温度推定するときのキャリア周波数Fcがf1=5[kHz]の場合、キャリア周波数補正係数Fcmp=cf1=5/10=0.5となる。また、温度推定するときのキャリア周波数Fcがf4=15[kHz]の場合、キャリア周波数補正係数Fcmp=cf4=15/10=1.5となる。
【0032】
パワーコントローラ25は、ダイオードD1の推定温度Teを次の(数1)で算出する。
Te=Twt+ΔTon+ΔTsw (数1)
【0033】
(数1)において、TwtはダイオードD1を冷却する冷媒の温度であり、温度センサQwtで計測された値である。(数1)の「ΔTon+ΔTsw」が、冷媒温度Twtに対するトータルの温度補正値に相当する。ΔTon(ON損失温度上昇分)は、主にダイオードの電気抵抗に起因して生じる温度上昇分である。また、ΔTsw(スイッチング損失温度上昇分)は、主にスイッチング動作による損失に起因して生じる温度上昇分である。ON損失温度上昇分ΔTonとスイッチング損失温度上昇分ΔTswは、センサデータと上記説明した各マップデータの値を用いて次の(数2)、(数3)で求められる。
【0034】
ΔTon=ΔTon_a×Dh (数2)
ΔTsw=ΔTsw_a×Vcmp×Fcmp (数3)
【0035】
第1温度補正値ΔTon_aは、ON損失マップデータ26aから、計測されたリアクトル電流IL(平均値)に対応する数値を抽出したものである。第2温度補正値ΔTsw_aは、スイッチング損失マップデータ26bから、計測されたリアクトル電流下端値ILminに対応する数値を抽出したものである。デューティ比Dhは、パワーコントローラ25内で生成されたものであるから既知である。電圧補正係数Vcmpは、電圧補正マップデータ26cから、計測された出力電圧VHに対応する数値を抽出したものである。キャリア周波数補正係数Fcmpは、キャリア周波数補正マップデータ26dから、パワーコントローラ25が使っているキャリア周波数に対応した数値を抽出したものである。
【0036】
(数1)〜(数3)によって、ダイオードD1の推定温度Teが求まる。(数1)〜(数3)の技術的意義は以下の通りである。(数1)は、ダイオードを冷却する冷媒の温度をダイオード周囲の温度であると仮定し、それに、ダイオード自身の発熱による温度上昇分、即ち、ON損失温度上昇分ΔTonとスイッチング損失温度上昇分ΔTswを加算した温度を推定温度とすることを意味する。ダイオード単体の温度特性、即ち、上記したマップデータ26a〜26dは、比較的に正確に求まるから、それらマップデータに基づいて算出されるON損失温度上昇分ΔTonとスイッチング損失温度上昇分ΔTswも、現実の温度上昇分をよく表す。従って、上記アルゴリズムによる推定温度は、実際のダイオード温度をよく表すものとなる。
【0037】
パワーコントローラ25は、ダイオードの推定温度が所定の温度閾値Te_thを超えた場合、電圧コンバータ23に入力する電流、即ち、バッテリ電流IBを抑制する。パワーコントローラ25は、例えば図7に示すグラフに基づき、ダイオードの推定温度Teが温度閾値Te_thを超えた場合、超過温度(温度閾値Te_thを超えた分の温度)に比例して入力電流IBを漸減させる。
【0038】
以上、電圧コンバータ23が昇圧動作を行う際のダイオードD1の温度推定のアルゴリズムを説明した。電圧コンバータ23が降圧動作を行う際のダイオードD2の温度推定アルゴリズムも同様である。但し、ダイオードD2の温度推定の場合、力行中か回生中かを判断すること、デューティ比DhとしてToff/Td=VB/VHの代わりに、Ton/Td=(1−VB/VH)を用いること、及び、第2温度補正値を与えるマップデータが、計測されるリアクトル電流下端値ILminの様々な値に対応した補正値ではなく、リアクトル電流上端値ILmaxの様々な値に対応した補正値となる点が異なるだけである。ここで、力行とは、モータによって車輪を駆動することを意味する。また、力行中か回生中かは、電圧コンバータ23を流れる電流(電流の平均値)の大きさ(向き)によって判断することができる。力行中は、バッテリからインバータへ(図1において左から右へ)電流が流れ、回生中はインバータからバッテリへ(図1において右から左へ)電流が流れる。
【0039】
実施例の留意点について述べる。実施例では、ON損失マップデータにおいて、第1温度補正値ΔTon_aはリアクトル電流ILに対して定められていた。また、スイッチング損失マップデータにおいて、第2温度補正値ΔTsw_aはリアクトル電流下端値ILminに対して定められていた。電圧コンバータ23が有する電流センサがリアクトルL1を流れる電流ILではなく、電圧コンバータ23に入力端を流れる電流IB(バッテリ電流)を計測するものである場合、ON損失マップデータは、入力端を流れる電流IBの様々な値に対して第1温度補正値ΔTon_aが定められたデータを用いればよい。また、スイッチング損失マップデータも、入力端を流れる電流IBの様々な値に対して第2温度補正値ΔTsw_aが定められたデータを用いればよい。この場合、リアクトルL1を流れる電流ILあるいは電流下端値ILminに対して定められたON損失マップデータやスイッチング損失マップデータよりは温度推定の精度は若干下がるものの、それでも有用な推定温度を得ることができる。
【0040】
インバータのキャリア周波数が不変の場合、即ち、スイッチング損失マップデータ26bの各値を定める実験をしたときも実際に温度推定をするときも常に同じキャリア周波数である場合、キャリア周波数補正係数(即ちキャリア周波数補正マップデータ)は不要である。
【0041】
パワーコントローラ25は、また、ダイオードの推定温度Teが温度閾値Te_thを超えた場合、その時点から予め定められた時間期間の間、入力電流IBの上限値を所定の幅だけ下げるようにしてもよい。
【0042】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0043】
2:冷却装置
4:ポンプ
10:システムコントローラ
21:インバータ
23:電圧コンバータ
26:記憶デバイス
26a:ON損失マップデータ
26b:スイッチング損失マップデータ
26c:電圧補正マップデータ
26d:キャリア周波数補正マップデータ
100:電気自動車
Ad:電流センサ
D1、D2:ダイオード
Dh:デューティ比
Fc:キャリア周波数
Fcmp:キャリア周波数補正係数
IB:バッテリ電流(入力電流)
IL:リアクトル電流
ILmax:リアクトル電流上端値
ILmin:リアクトル電流下端値
L1:リアクトル
MB:バッテリ
MG1:モータ
PWMA、PWMB:パルス幅変調信号
Qwt:温度センサ
Tr1、Tr2:スイッチング素子
VdH、VdL:電圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアクトルとトランジスタとダイオードを有する電圧コンバータと、
ダイオードを冷却する冷媒の温度を計測する温度センサと、
リアクトルを流れる電流を計測する電流センサ、又は、電圧コンバータの入力端を流れる電流を計測する電流センサと、
電圧コンバータの出力電圧を計測する電圧センサと、
電流センサと電圧センサのセンサデータ及びトランジスタのデューティ比に基づいて温度補正値を算出し、算出した温度補正値を温度センサが計測した冷媒温度に加算してダイオードの推定温度とする温度推定器と、
を備えることを特徴とする電気自動車。
【請求項2】
温度推定器は、
計測される電流の平均値に対応した第1温度補正値を定めたON損失マップデータと、
計測される電流の極値に対応した第2温度補正値を定めたスイッチング損失マップデータと、
電圧センサが計測する電圧に対応した電圧補正係数を定めた電圧補正マップデータと、
を記憶しているとともに、
電流センサが計測した電流に対応する第1温度補正値をON損失マップデータから特定し、
電流センサが計測した電流の極値に対応する第2温度補正値をスイッチング損失マップデータから特定し、
電圧センサが計測した電圧に対応する電圧補正係数を電圧補正マップデータから特定し、
特定された第1温度補正値にトランジスタのデューティ比を乗じた値に、特定された第2温度補正値に電圧補正係数を乗じた値を加算して前記温度補正値とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の電気自動車。
【請求項3】
温度推定器はさらに、
トランジスタへのPWM指令を生成する際のキャリア周波数に対応したキャリア周波数補正係数を定めたキャリア周波数補正マップデータを記憶しており、
現在のキャリア周波数に応じたキャリア周波数補正係数をキャリア周波数補正マップデータから特定し、
特定された第1温度補正値にトランジスタのデューティ比を乗じた値に、特定された第2温度補正値に電圧補正係数とキャリア周波数補正係数を乗じた値を加算して前記温度補正値とする、
ことを特徴とする請求項2に記載の電気自動車。
【請求項4】
前記電圧コンバータは、トランジスタとダイオードが並列に接続された回路が2組直列に接続されており、2組の回路の間にリアクトルの一端が接続されている昇降圧コンバータであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電気自動車。
【請求項5】
ダイオードの推定温度が予め定められた温度閾値を超えている場合に、電圧コンバータへの入力電流の上限値を下げることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電気自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−48513(P2013−48513A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185892(P2011−185892)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】