説明

電磁弁

【課題】常開型電磁弁について、弁体を開弁方向に付勢したコイルスプリングが傾くことで弁体が傾いてその弁座の特定箇所に偏当りし、それが原因で弁座が偏摩耗することを防止して電磁弁の耐久性を高めることを課題としている。
【解決手段】励磁されたコイル2aによって吸引駆動される弁体4aと、弁座4bと、弁座4bの上流側にある流入路5と、弁座の下流側に設けられる弁室6と、この弁室の下流側にある流出路7と、一端を弁体4aに押し当ててその弁体4aを開弁方向に付勢するコイルスプリング8と、弁体4aの外周側に配置されるこのコイルスプリング8の他端が押し当てられるばね座15とを備える電磁弁の前記ばね座15と弁座4bを別部材で構成し、ばね座15を弁座4bに対して回転可能となした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブレーキ液圧などの制御に利用する常開(ノーマルオープン)型の電磁弁
、詳しくは、弁体を接離させる弁座の偏摩耗を抑制して耐久性を向上させた電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のブレーキ液圧制御を行なう電磁弁が、例えば、下記特許文献1に記載されている
。同文献に開示されたその電磁弁は、コイルへの通電時に発生した磁力によって吸引され
るプランジャ(可動鉄心)が有底筒状のスリーブ(バルブキャップ)内に摺動自在に保持
されている。また、弁体はプランジャに当接し、弁体を案内するガイド(固定鉄心)の一
端がプランジャに対向し、プランジャ及び弁体はコイルスプリングによって開弁方向に付
勢されている。その付勢力によりコイルに通電していないときには弁体が弁座から離反し
てその2者によって構成される弁部が全開になり、コイルに通電すると電磁吸引力でプラ
ンジャが吸引されてそのプランジャに押し動かされる弁体が弁座に押し当てられ、弁部が
完全に閉鎖される。これは、周知の常開型のオン、オフ制御電磁弁である。
【0003】
なお、同様の構成の電磁弁で、コイルへの通電量を制御して弁部を境にした上流側と下
流側の流体の圧力の差(差圧)をリニアに制御する常開型の差圧制御電磁弁も知られてい
る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−347597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
弁体をコイルスプリングで開弁方向に付勢した電磁弁は、磁気吸引力を利用して弁体を弁座に押し当てたときに押圧力が偏在する傾向があり、そのことが原因で、弁座の摩耗に偏りが生じて弁部の閉弁不良が生じることがある。
【0006】
そこで、この発明は、弁座の特定箇所に対する弁体の当接を防止し、それによって弁座の摩耗各部の摩耗の一様化を図って常開型電磁弁の信頼性を高めることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明においては、
励磁されたコイルによって吸引駆動される弁体と、その弁体が接離する弁座と、その弁座の上流側に位置する流入路と、前記弁座の下流側に設けられて内部に前記弁体および前記弁座が配置される弁室と、この弁室の下流側に位置する流出路と、前記弁体の外周側に配置され、一端を前記弁体に押し当てて当該弁体を開弁方向に付勢するコイルスプリングと、このコイルスプリングの他端が押し当てられるばね座とを備える電磁弁において、
前記ばね座と前記弁座を別部材で構成し、前記ばね座を前記弁座に対して回転可能となした。
【0008】
かかる電磁弁は、好ましい構成として、前記ばね座を、前記弁座を囲む環状部材にし、前記弁座の周囲を回転するようにすることができる。
【0009】
また、前記ばね座を、前記弁座および前記弁室の下流側、かつ、前記流出路の上流側に配置し、そのばね座を、前記弁室から前記流出路に向って流れる流体の力によって回転させるようにするのも好ましい。
【0010】
前記ばね座に、前記弁室と前記流出路を連通させる通路を備えさせると、その通路を通過する流体の力で当該ばね座を回転させることができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の電磁弁は、ばね座を回転させることで弁座に対する弁体の当接点が弁座の各部に分散されるようにして弁座の偏摩耗を抑制する。
【0012】
弁体を付勢するコイルスプリングが圧縮されてそのコイルスプリングの一端が軸心方向と直角な面に対して傾くと弁体も傾く。これにより、弁体の先端は特定の方向に(特定の位相側)に偏って弁座に当接する。このときの弁体の先端の偏りの方向が、ばね座が回転することによって変動し、これにより、弁体が弁座に当接する位置が変動し、弁座の各部に弁体が当接するようになって弁座の偏摩耗が抑制される。
【0013】
その偏摩耗の抑制により、弁の閉弁不良が防止されて電磁弁の信頼性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の電磁弁を使用状態にして示す断面図
【図2】図1の電磁弁の要部の拡大断面図
【図3】図1の電磁弁に設けたばね座の平面図
【図4】図1の電磁弁に設けたばね座の斜視図
【図5】図4のばね座の変形例を示す底面図
【図6】コイルスプリングに対する係止部を付加したばね座を示す斜視図
【図7】コイルスプリングに対する係止部を付加したばね座の他の例を示す斜視図
【図8】さらに他の参考例の電磁弁の要部の断面図
【図9】図8の電磁弁に設けた可動ピースの平面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面の図1〜図9に基づいて、この発明の電磁弁の実施の形態を説明する。
【0016】
図1〜図3に、弁座の偏摩耗対策を施した電磁弁の一例を使用状態にして示す。図示の電磁弁1Bは、車両用ブレーキ液圧制御ユニットのハウジング22に組みつけた状態にしている。
【0017】
この図1〜図3の電磁弁1Bは、コイル2aに通電することで磁力を発生する電磁石2と、その磁力で吸引して軸心方向に押し動かされる弁体4aとその弁体4aが接離する弁座4bとで構成される弁部4と、弁座4bの上流に設けられた流入路5と、弁座4bの下流に設けられた弁室(対向した第1の壁面6aと第2の壁面6b間に区画される空間)6と、この弁室6の下流側に位置して弁室6に通じた流出路7と、弁体4aを開弁方向に付勢する一端が弁体4aに押し当てられたコイルスプリング8と、チェック弁9と、この発明を特徴づけるばね座15を備えている。
【0018】
弁座4bと流入路5は、電磁弁2のガイド2cとは別体のシート10に形成されており、チェック弁9もそのシート10に組み込まれている。シート10は電磁石2のガイド2cへ圧入され、弁室6は、ガイド2cとシート10の間に形成されている。流出路7はガイド2cに形成され、弁室6とホイールシリンダ24を連通する。21は、電磁弁1Bを制御するECU(電子制御装置)である。
【0019】
図示の電磁弁1Bは、車両用ブレーキ液圧制御ユニットのハウジング22に組み付けた状態にしており、この例では、液圧源23からホイールシリンダ24に供給されるブレーキ液圧を制御する。液圧源23は、マスタシリンダと動力駆動のポンプ(いずれも図示せず)を組み合わせたものが一般的で、必要に応じて動力駆動のポンプで発生させた液圧を貯える蓄圧器も採用される。
【0020】
チェック弁9は、ホイールシリンダ24の除圧時にマスタシリンダに向けて戻されるブ
レーキ液を通す。このチェック弁9は、電磁弁1Bの外部に設けることもでき、この発明の必須の要素ではない。
【0021】
電磁石2は、コイル2aと、各々が磁性体で形成されたヨーク2b、弁体4aを案内す
る筒状のガイド2c、コイル2aを覆うスリーブ2d、そのスリーブ2d内を摺動して弁
体4aを押し動かすプランジャ2eを備えており、コイル2aに通電して磁力を発生させ
る。
【0022】
電磁弁1Bが、常開型のオン、オフ制御電磁弁である場合、コイル2aには、ECU21から予め設定した電流が供給され、弁体4aに加わった開弁力(コイルスプリング8の力と弁体4aに作用する流体力を加算した力)に打ち勝つ磁力が発生してプランジャ2eが吸引駆動され、弁体4aが弁座4bに押し当てられて弁部4が完全に閉じられる。
【0023】
一方、電磁弁1Bが、差圧制御電磁弁である場合は、ECU21から所望大きさに制御された電流がコイル2aに供給される。その電流によって発生した磁力でプランジャ2eが吸引駆動されて弁体4aがその弁体4aに対向して働く力のバランス点に押し動かされ、弁部4の開度がリニアに調整されて流入路5と弁室6のブレーキ液の差圧が制御される。
【0024】
以上の構成は、従来品と変わるところがない。即ち、図示の電磁弁1Bには、この発明を特徴づける構成として、弁座の偏摩耗を抑制するための対策を施している。
【0025】
図1の電磁弁1Bは、ばね座15と弁座4bを互いが独立した別部材によって構成し、ばね座15を、流入路5を設けたシート10から独立させてシート10で回転可能に支持している。コイルスプリング8の一端は弁体4aに押し当てられ、他端、即ち、弁体4aに押し当てる側とは反対側の端部は、ばね座15に押し当てている。
【0026】
ばね座15を回転可能となす手法として、ここでは、弁座4bをシート10に設け、そ
の弁座4bの外周を取り巻く環状凹部16をシート10の一面(図8に示した第1の壁面6a)に設け、ばね座15をシート10とは別体の可動リング(環状部材。その素材は樹脂、金属を問わない)で形成してそのばね座15を環状凹部16内にシート10と一体の弁座4bに対して相対回転可能に組み込んでいる。
【0027】
可動リングで構成されたばね座15は、弁室6に連通した通路となす溝15aを内周面に有している。また、弁室6と対面する側とは反対側に、小径部15bと切欠き部15c(これは孔で代替してもよい)を有している。溝15aは、小径部15bの外周面と環状凹部16の内周面との間に生じた環状空間17を経由して流出路7に連通し、その溝15aと切欠き部15cと環状空間17が流体通路になって弁室6が流出路7につながる。
【0028】
このようにしてばね座15を回転可能にすると、ばね座15が回転するときにそのばね
座15に支持されたコイルスプリング8とそのスプリングに付勢された弁体4aも同時に
回転し、それにより、弁座の各部に対する弁体の接触が一様になり、押圧力が偏在した状態で弁体4aが弁座4bに繰り返し接触することに起因した弁座4bの偏摩耗が抑制される。
【0029】
なお、電磁弁が作動中、ばね座15は環状凹部16内で、回動方向、停止位置が不規則
に変化する。このため、流出路7へ流れ込む流体が各溝15aの両側面にそれぞれに及ぼ
す流体力には不可避的な差が生じる。そのために、図3、図4に示すように、溝15aが電磁弁の軸心と平行に形成した場合にも、弁室6と流出路7との間で流体が通過する際に左右の側面に作用する流体力の差で回転力が生じてばね座15が自然に回転する。必要に応じて、図5に示すように、切欠き部15cをねじれたものにするなどして積極的に流体の圧力を回転力に変換する機能を備えさせて、流体の流れを利用してばね座15を所望の方向に安定して回転させるようにしてもよい。
【0030】
可動リングで構成されたばね座15には、図6、図7に示すように、コイルスプリング8に対する係止部15dを設けてもよい。図6の係止部15dは、ばね座15のばね受け面の一部を隆起させて形成しているが、図7に示すように、ピンをそのピンの一部がばね受け面から突出するようにばね座15に植設して形成することもできる。この係止部15dがあると、ばね座15の回転が確実にコイルスプリング8に伝わって弁体4aの回転駆動が確実になる。
【0031】
なお、弁座4bの偏摩耗は、弁体4aと弁座4bの相対回転によって防止される。従っ
て、ばね座15を回転可能となす代わりに弁座4bを回転させてもよく、図8に示すように、弁座4bをシート10とは別体の可動ピース18に設けてこの可動ピース18をシート10に回転可能に組み付ける構造でも同一目的が達成される。
【0032】
可動ピース18は、円盤状のピースであり、シート10に設けた円形凹部19に収容さ
れる。可動ピース18の厚さと外径はそれぞれ、円形凹部19の深さと内径より若干小さ
くしており、可動ピース18は円形凹部19内に遊嵌されている。コイルスプリング8の
一端の外周側は円形凹部19の開口部周縁のシート10に支持される一方、コイルスプリ
ング8の一端の内周側は可動ピース18に荷重をかけない状態で円形凹部19の内径面よ
りも円形凹部19の中心側に入り込ませており、可動ピース18が円形凹部19から脱出
することを一端の内周側によって阻止することができる。
【0033】
また、可動ピース18には、周方向に適当な間隔をあけて貫通孔18aを複数設けてお
り、その貫通孔18aを介して弁室6と流出路7が互いに連通する。従って、弁体4aが
可動ピース18に設けられた弁座4bに着座していない状態では、可動ピース18が流体
の貫通孔18a通過によって回転する。
【0034】
貫通孔18aは、電磁弁の軸心Cと平行な孔、可動ピース18の回転を助勢する機能を
備えた斜めに傾いた孔のどちらであってもよい。流体の流れによって可動ピース18が回
転するのであれば、この貫通孔18aが電磁弁の軸心Cと平行な孔であってもよい。
【0035】
以上の通りに構成された電磁弁は、磁気吸引力を利用して弁体を弁座に押し当てたときにコイルスプリングの一端側がコイルスプリング8の軸心と垂直な面に対して傾いて弁体4aに加えられた押圧力が偏在する傾向があり、そのことが原因で、弁体が弁座に偏って接触する。しかしながら、流体が流れる力でばね座15が弁座4bに対して相対回転し、そのために、経時使用による弁座4bの座面の偏摩耗が抑制され、弁部のシール性が低下、それによる閉弁時の流入路から弁室への流体の漏れ出しが起こり難くなって電磁弁の信頼性が高まる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
この発明の電磁弁1Bは、液圧機器、例えば、自動車に搭載される液圧ブレーキ装置のブレーキ液圧制御ユニットなどに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1B 電磁弁
2 電磁石
2a コイル
2b ヨーク
2c ガイド
2d スリーブ
2e プランジャ
4 弁部
4a 弁体
4b 弁座
5 流入路
6 弁室
6a 第1の壁面
6b 第2の壁面
7 流出路
8 コイルスプリング
9 チェック弁
10 シート
15 ばね座
15a 溝
15b 小径部
15c 切欠き部
15d 係止部
16 環状凹部
17 環状空間
18 可動ピース
18a 貫通孔
19 円形凹部
21 ECU
22 ハウジング
23 液圧源
24 ホイールシリンダ
C 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁されたコイル(2a)によって吸引駆動される弁体(4a)と、その弁体(4a)が接離する弁座(4b)と、その弁座(4b)の上流側に位置する流入路(5)と、前記弁座(4b)の下流側に設けられて内部に前記弁体(4a)および前記弁座(4b)が配置される弁室(6)と、この弁室(6)の下流側に位置する流出路(7)と、前記弁体(4a)の外周側に配置され、一端を前記弁体(4a)に押し当てて当該弁体(4a)を開弁方向に付勢するコイルスプリング(8)と、このコイルスプリング(8)の他端が押し当てられるばね座(15)とを備える電磁弁において、
前記ばね座(15)と前記弁座(4b)を別部材で構成し、前記ばね座(15)を前記弁座(4b)に対して回転可能となしたことを特徴とする電磁弁。
【請求項2】
前記ばね座(15)は、前記弁座(4b)を囲む環状部材であり、前記弁座(4b)の周囲を回転することを特徴とする請求項1に記載の電磁弁。
【請求項3】
前記ばね座(15)は、前記弁座(4b)および前記弁室(6)の下流側、かつ、前記流出路(7)の上流側に配置され、前記弁室(6)から前記流出路(7)に向って流れる流体の力によって回転することを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁弁。
【請求項4】
前記ばね座(15)は、前記弁室(6)と前記流出路(7)を連通させる通路(15a)を備え、その通路(15a)を通過する流体の力で回転することを特徴とする請求項3に記載の電磁弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−100915(P2013−100915A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−24347(P2013−24347)
【出願日】平成25年2月12日(2013.2.12)
【分割の表示】特願2009−35238(P2009−35238)の分割
【原出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】