説明

電磁駆動アクチュエータ及び電磁式ポンプ

【課題】空芯コイルの占積率を低下させることなくしかも平坦度を維持したまま内径側巻線端部をコイル外径側へ引き出すことができる電磁駆動アクチュエータを提供する。
【解決手段】固定子板16のコイル対向面にコイル巻線の内径側巻線端部17をコイル外径側へ引き出すための凹部19が径方向に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空芯の電磁コイルの両端側に磁気回路を形成するリング状の固定子板が固定される固定子に囲まれた空間内で、当該電磁コイルへの通電により可動子を往復動させる電磁駆動アクチュエータ及び電磁式ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
固定子に囲まれた空間内において、電磁コイルへの通電により可動子を往復動させる電磁駆動アクチュエータにおいては、空芯の電磁コイルの両端側に磁気回路を形成する固定子板が固定される。図5(a)(b)において、電磁コイル51の内径側巻線端部52及び外径側巻線端部53は駆動回路に電気的に接続される。この場合、内径側巻線端部52を電磁コイル51のコイル内径側のスペースを利用してコイルの一端側へ引き出すか、コイル内径側のスペースが利用できない場合には電磁コイル51を乗り越えてコイル外径側へ引き出す必要がある。例えば、電磁駆動アクチュエータが小型の容積型ポンプのポンプ室に設けられる場合には、固定子に囲まれたコイル内径側のスペース内において、電磁コイルへの通電により可動子を往復動させるため、内径側巻線端部52をコイル内径側で引き出すスペースがない。
【0003】
図6において、電磁コイル51の内径側巻線端部52を外径側巻線端部53と共に外径側へ引き出す場合には、固定子板54と電磁コイル51の端部に内径側巻線端部52を引き出すために巻線1本分のスペース55を確保しておく必要がある(特許文献1参照)。或いは図7において、固定子板54に電磁コイル51の巻線1本分のスリット56を設け、該スリット56を通じて内径側巻線端部52を引き出す必要があった。更には、電磁コイルに内径側巻線端部を形成することなく外側巻線端部のみでコイルを形成する巻線装置が提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−218569号
【特許文献2】特開2002−134347号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した固定子板54と電磁コイル51の端部との間に巻線1本分のスペース55を設ける場合には、電磁コイル51の占積率が低下し漏れ磁束も発生するため、同じ固定子サイズでも可動子の推力が低下するおそれがある。また、固定子板54にスリット56を設ける場合には、固定子板54が変形し易く平坦度が失われるため、例えばポンプ室の壁面に組み付けられる場合には壁面の歪みによる影響を受け易い。固定子板54には、電磁コイル51に通電することにより発生する電磁力による振動が作用する。この場合、固定子板54の平坦度が失われ易いと、電磁コイル51に歪みが生じて磁束バランスが崩れて磁気特性が低下するおそれがある。また、外側巻線端部のみで形成される特殊な巻線装置を用いてコイルを形成する場合には、製造コストが増大する。
【0005】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、電磁コイルの占積率を低下させることなくしかも平坦度を維持したまま内径側巻線端部をコイル外径側に引き出すことができる電磁駆動アクチュエータ及び該アクチュエータを用いた小型の電磁式ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
空芯の電磁コイルの両端側に磁気回路を形成するリング状の固定子板が固定される固定子に囲まれた空間内で、当該電磁コイルへの通電により可動子を往復動させる電磁駆動アクチュエータにおいて、固定子板のコイル対向面にコイル巻線の内径側巻線端部をコイル外径側へ引き出すための凹部が径方向に形成されていることを特徴とする。
また、固定子板に設けられる凹部の内径側端部にはスリットが形成されていることを特徴とする。更に固定子板に形成されるスリットと反対側の内径側端部にスリットが各々形成されていることを特徴とする。
また、固定子板に設けられる凹部の外径側端部には切欠き部が形成されていることを特徴とする。
更には電磁式ポンプにおいては、ポンプ室内に上述した電磁駆動アクチュエータが設けられており、電磁駆動により可動子を往復動させることで流体を送出及び吸込する動作を繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上述した電磁駆動アクチュエータを用いれば、電磁コイルの両端側に磁気回路を形成するリング状の固定子板が固定される固定子の当該固定子板のコイル対向面に、コイル巻線の内径側巻線端部をコイル外径側へ引き出すための凹部が径方向に形成されるので、巻線の占積率を低下させることなく、しかも固定子板の平坦度を維持して内径側巻線端部をコイル外径側へ引き出すことができる。
固定子板に設けられる凹部の内径側端部にはスリットが形成されていることにより、固定子板を電磁コイルに載せた状態でコイル巻線の内径端部を視認しつつ凹部に沿って引き出すことができる。
また、固定子板に設けられる凹部の外径側端部には切欠き部が形成されていると、該切欠き部が巻線を引き出す際の逃げとなるので、コイル外径側に引き出される巻線と固定子板が干渉するのを防ぐことができる。
固定子板に形成される凹部の内径側端部及び反対側の内径側端部にスリットが各々形成されていると、固定子板に形成される磁気バランスが均一となるため、安定した推力が得られる。
上述した電磁駆動アクチュエータをポンプ室内に設けられ、電磁駆動により可動子を往復動させることで流体を圧力差により送出及び吸込する電磁式ポンプにおいては、流体を送出及び吸込するアクチュエータ部の小型化に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る電磁式ポンプの最良の実施形態について添付図面とともに詳細に説明する。本実施形態の電磁式ポンプは、円筒状に形成したシリンダ内にマグネット(永久磁石)を備えた可動子をシリンダの軸線方向に摺動可能に配置し、シリンダの外周に配置した電磁コイルへ通電して生ずる電磁力の反力により可動子を往復動させる電磁式容積型ポンプである。電磁駆動アクチュエータは可動子及び固定子により構成され、本実施形態ではポンプ室内に組み込まれて配置される。電磁式容積型ポンプは、可動子の往復動に伴いポンプ室内外に生ずる圧力差でポンプ作用をなすため、例えば液体に空気が混入してもポンプを停止させることなく自給復帰することができる。
【0009】
図1において、電磁式容積型ポンプの全体構成について説明する。先ず可動子1の構成について説明する。可動子1は密閉されたシリンダ内に収容されてシリンダの軸線方向に往復動可能に設けられている。可動子1は円板状に形成したマグネット2とマグネット2を厚さ方向に挟持する一対のインナーヨーク3a、3bとからなる。マグネット2は一方の面をN極、他方の面をS極として、厚さ方向(図1の上下方向)に磁化されている永久磁石である。インナーヨーク3a、3bは磁性材によって形成され、各々のインナーヨーク3a、3bの周縁部に短筒状に起立したフランジ部3cの外周面はマグネット2から発生した磁束の可動子1側の磁束作用面となる。
【0010】
次に、図1において固定子4の構成について説明する。一対の非磁性材からなる上ケース5aと下ケース5bとの間に非磁性材料(例えば樹脂材、ステンレスなどの金属材)からなる筒状のシリンダ筒6が嵌め込まれて上下開口端が閉止されたシリンダが形成される。このシリンダ筒6内に上述した可動子1が往復動可能に収容されている。なお、シリンダは上ケース5aと下ケース5bとを組み合せて熱圧着して形成することもできる。
【0011】
このように、シリンダの両端面は上ケース5aと下ケース5bによって閉止され、可動子1の移動方向両側面と上下ケース5a、5bの内壁面との間に各々ポンプ室7a、7bが形成される。なお、可動子1はシリンダ筒6の内面に接触した状態で、気密あるいは液密にシールした状態で摺動する。この可動子1の摺動性を良好にするため、インナーヨーク3a、3bの外周面にフッ素樹脂コーティングやDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)コーティング等の潤滑性と防錆力を兼ね備えたコーティングを施すことや、可動子1が周方向に回ることを防止する回り止めを設けても良い。また、上下ケース5a、5bの端面(内壁面)には図示しないダンパーが取り付けられていても良く、ダンパーは可動子1のインナーヨーク3a、3bの端面であって、上下ケース5a、5bの内壁面に当接する部位に設けられていてもよい。
【0012】
シリンダの上端面に相当する上ケース5aの吸込用開口部及び送出用開口部には、吸込用逆止弁8a及び送出用逆止弁9aがポンプ室7aを開閉可能に設けられている。シリンダの下端面に相当する下ケース5bの吸込用開口部及び送出用開口部には、吸込用逆止弁8b及び送出用逆止弁9bがポンプ室7bを開閉可能に設けられている。吸込用逆止弁8a、8bと送出用逆止弁9a、9bとは開口部に逆向きに各々取り付けられている。
【0013】
上ケース5aには循環する流体のポンプへの吸込口10と、ポンプより流体を送り出す送出口11が形成されている。上ケース5aと下ケース5bには、吸込口10と吸込用逆止弁8a、8bとの間を連通する吸込用流路12a、12bが各々設けられている。また、上ケース5aと下ケース5bには、送出用逆止弁9a、9bと送出口11との間を連通する送出用流路13a、13bが各々設けられている。
【0014】
図1において、シリンダ筒6の周囲には電磁コイル14a、14bが嵌め込まれている。電磁コイル14a、14bはシリンダの軸線方向に若干離間させ、シリンダ筒6の軸線方向の中心位置に対して均等位置となるように配置されている。電磁コイル14a、14bの両端側には磁気回路を形成するリング状の固定子板16により挟み込まれて組み込まれる。固定子板16は、磁性板(例えばSPCC鋼板、SECC鋼板など)が用いられる。
【0015】
図2において、電磁コイル14a、14bからは、内径側巻線端部17及び外側巻線端部18が配線用に外部へ引き出される。固定子板16のコイル対向面には、コイル巻線の内径側巻線端部17をコイル外径側へ引き出すための凹部19が径方向に形成されている。
【0016】
図3において、固定子板16は例えば順送金型を用いてプレス加工により形成される。凹部19は、プレス半抜き状態で径方向に形成される。この凹部19の深さは図4に示すように少なくとも内径側巻線端部17の巻線径より深く形成されていれば良い。この凹部19を設けたことにより、巻線の占積率を低下させることなく、しかも固定子板16の平坦度を維持して内径側巻線端部17を外径側に引き出すことができる。
【0017】
また、図3及び図4において、固定子板16に設けられる凹部19の内径側端部にはスリット20が形成されている。固定子板16に形成される凹部19の内径側端部と反対側の内径側端部にもスリット20が対向する位置に各々形成されている。これにより、固定子板16を通過する磁束バランスが均一となるため、安定した推力が得られる。
また、固定子板16に設けられる凹部19の外径側端部には切欠き部21が形成されている。この切欠き部21は内径側巻線端部17を外径側に引き出す際に逃げとなるので巻線17と固定子板16が干渉するのを防ぐことができる。
【0018】
なお、電磁コイル14aと電磁コイル14bとは巻き方向が逆向きであり、同一電源による通電によって、互いに逆向きの電流が流れるように設定されている。電磁コイル14a、14bの巻き方向を逆向きにしているのは、マグネット2の磁束と鎖交する電磁コイル14a、14bに流れる電流に作用する電磁力が重畳して反力として可動子10に作用し、この反力が推力になるためである。
【0019】
アウターヨーク15は、電磁コイル14a、14bの外周囲を囲んで筒状に設けられている。アウターヨーク15には磁性材が用いられ、電磁コイル14a、14bに鎖交する磁束数を増やして電磁力を効果的に可動子1に作用させるために設けられる。また、可動子1を構成するインナーヨーク3a、3bの周辺部にフランジ部3cを軸線方向に起立して設けられている。これは、マグネット2からインナーヨーク3a、3bを経てアウターヨーク15に至る磁気回路の磁気抵抗を下げるためである。これにより、可動子1から作用する総磁束量を増加させる(磁束が通過する磁路を確保する)と共に、マグネット2が発生した磁束が電磁コイル14a、14bに流れる電流と軸線方向に対して直角に鎖交させることで、可動子1に軸線方向の推力を効果的に発生させることができる。
【0020】
可動子1は、電磁コイル14a、14bに交番電流を通電することにより、各コイルに発生する電磁力の作用により往復動(上下動)される。電磁コイル14a、14bに作用する電磁力は、通電方向によって可動子1を上方若しくは下方へ押動する。よって、図示しない制御部により、電磁コイル14a、14bへの通電時間、通電方向を制御することによって可動子1を所定ストロークで往復駆動させることができる。
【0021】
なお、電磁コイル14aと14bとの間にシリンダ内における可動子1の移動位置を検出する検出コイルを設けておき、該検出コイルに誘起される電圧を検出して可動子1の往復動を制御することもできる。本実施形態の電磁式容積型ポンプは可動子1の移動ストロークが比較的小さいがポンプ室7a、7bは比較的広い面積を確保することができるから、可動子1を高速で往復動させることによって一定の流量を確保することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る電磁式容積型ポンプの全体構成を示す断面図である。
【図2】電磁コイルの内側巻線端部をコイル外径側へ引き出す構造を示す部分断面図である。
【図3】固定子板の平面図及び部分断面図である。
【図4】電磁コイルに載せた固定子板の平面図及び部分断面図である。
【図5】電磁コイルの平面図及び断面図である。
【図6】従来の電磁コイルの内側巻線端部をコイル外径側へ引き出す構造を示す説明図である。
【図7】従来の電磁コイルの内側巻線端部をコイル外径側へ引き出す構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1 可動子
2 マグネット
3a、3b インナーヨーク
3c フランジ部
4 固定子
5a 上ケース
5b 下ケース
6 シリンダ筒
7a、7b ポンプ室
8a、8b 吸込用逆止弁
9a、9b 送出用逆止弁
10 吸込口
11 送出口
12a、12b 吸込用流路
13a、13b 送出用流路
14a、14b 電磁コイル
15 アウターヨーク
16 固定子板
17 内径側巻線端部
18 外径側巻線端部
19 凹部
20 スリット
21 切欠き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空芯の電磁コイルの両端側に磁気回路を形成するリング状の固定子板が固定される固定子に囲まれた空間内で、当該電磁コイルへの通電により可動子を往復動させる電磁駆動アクチュエータにおいて、
固定子板のコイル対向面にコイル巻線の内径側巻線端部をコイル外径側へ引き出すための凹部が径方向に形成されていることを特徴とする電磁駆動アクチュエータ。
【請求項2】
固定子板に設けられる凹部の内径側端部にはスリットが形成されていることを特徴とする請求項1記載の電磁駆動アクチュエータ。
【請求項3】
固定子板に形成されるスリットと反対側の内径側端部にスリットが各々形成されていることを特徴とする請求項2記載の電磁駆動アクチュエータ。
【請求項4】
固定子板に設けられる凹部の外径側端部には切欠き部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の電磁駆動アクチュエータ。
【請求項5】
ポンプ室内に請求項1乃至4のいずれか1項記載の電磁駆動アクチュエータが設けられており、電磁駆動により可動子を往復動させることで流体を送出及び吸込する動作を繰り返すことを特徴とする電磁式ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−230103(P2006−230103A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40686(P2005−40686)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】