説明

静電アクチュエータ、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び静電駆動デバイス並びにそれらの製造方法

【課題】高い応答性を維持しつつ、接触面積の問題を解決し、貼り付きを防止することができる静電アクチュエータ等を得る。
【解決手段】可動電極となる振動板22と、電極基板10上に形成された固定電極となる個別電極12とを備え、振動板22と個別電極12との間に電圧が印加されると静電気力を発生させる液滴吐出ヘッド等の静電アクチュエータにおいて、個別電極12は、導電性金属を材料とする金属電極12Aと、金属電極12Aの材料とは異なる導電性材料からなり、個別電極12に凹凸を設けるために金属電極12A上に形成された複数の凸部電極12Bとで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細加工素子において、加わった力により可動部が変位等し、動作等を行う静電アクチュエータ、液滴吐出ヘッド等の静電駆動デバイス等の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばシリコン等を加工して微小な素子等を形成する微細加工技術(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)が急激な進歩を遂げている。微細加工技術により形成される微細加工素子の例としては、例えば液滴吐出方式のプリンタのような記録(印刷)装置で用いられている液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)、マイクロポンプ、光可変フィルタ、モータのような静電アクチュエータ等がある。
【0003】
ここで、微細加工素子の一例として静電アクチュエータである液滴吐出ヘッドについて説明する。液滴吐出方式の記録(印刷)装置は、家庭用、工業用を問わず、あらゆる分野の印刷に利用されている。液滴吐出方式とは、例えば複数のノズルを有する液滴吐出ヘッドを対象物との間で相対移動させ、対象物の所定の位置に液滴を吐出させて印刷等の記録をするものである。この方式は、液晶(Liquid Crystal)を用いた表示装置を作製する際のカラーフィルタ、有機化合物等の電界発光(ElectroLuminescence )素子を用いた表示パネル(OLED)、DNA、タンパク質等、生体分子のマイクロアレイ等の製造にも利用されている。
【0004】
液滴吐出ヘッドの中で、流路の一部に液体を溜めておく吐出室を備え、吐出室の少なくとも一面の壁(ここでは、底部の壁とし、以下、この壁のことを振動板ということにする)を撓ませて(動作させて)形状変化により吐出室内の圧力を高め、連通するノズルから液滴を吐出させる方法がある。可動部となる振動板を変位させる力として、例えば、振動板と、その振動板と一定距離を空けて対向している固定電極となる個別電極との間に電圧印加により発生する静電気力(ここでは、特に静電引力を用いている。以下、静電力という)を利用している(このとき振動板は可動電極となる)。
【0005】
ここで、上記のような静電アクチュエータにおいて、固定電極の抵抗を下げると応答性が高くなることが知られている。このため、クロム(Cr)、Au(金)、チタン(Ti)等の金属を個別電極の材料として用いているものもある(例えば特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−240271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、可動電極と固定電極の間に、それらの少なくとも一方の表面に水分等が付着すると、水等の極性分子が帯電する等の原因で静電吸引特性が低下するおそれがある。さらに、極性分子が相互に水素結合し、また、表面張力等の影響により可動部が固定電極に貼り付いてしまい、動作不能となることがある。これを回避するためには、例えば固定電極の表面に凹凸を形成し、固定電極と可動電極との接触面積を少なくすればよい。
【0008】
この凹凸の形成は、通常、形成した固定電極に対して所定の部分を残し、残りの部分をハーフエッチングすることにより行うが、小さい面積の固定電極に、ハーフエッチングによりさらに微小の凹凸を寸法制御しながら形成することは非常に困難である。
【0009】
そこで、本発明は、高い応答性を維持しつつ、接触面積の問題を解決し、貼り付きを防止することができる静電アクチュエータ等を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る静電アクチュエータは、可動電極と、電極基板上に形成された固定電極とを備え、可動電極と固定電極との間に電圧が印加されると静電気力を発生させる静電アクチュエータにおいて、固定電極は、導電性金属を材料とする金属電極と、金属電極の材料とは異なる導電性材料からなり、固定電極に凹凸を設けるために金属電極上に形成された複数の凸部電極とで構成されている。
本発明によれば、固定電極に導電性の金属電極を用いるようにしたので、応答性に優れた静電アクチュエータを得ることができる。そして、金属電極上に凸部電極を形成し、固定電極に凹凸を設けるようにしたので、変位により接触する可動電極と固定電極との接触面積を少なくし、貼り付きを防止することができる。そのため長寿命の静電アクチュエータを得ることができる。
【0011】
また、本発明に係る静電アクチュエータの電極基板はガラスを材料とし、金属電極はクロムを材料として形成され、凸部電極はITOを材料として形成されている。
本発明によれば、電極基板がガラスを材料としている場合に、金属電極をクロムを材料として形成するようにしたので、電極基板との密着性を高くすることができ、剥離を防ぐことができる。また、凸部電極はITOを材料としたので、製造時にエッチングを行って凸部電極を形成する際、ハーフエッチングを行う必要がなく、寸法的に高精度な凸部電極を形成することができる。
【0012】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、上記の静電アクチュエータを有し、液体が充填される吐出室が有する振動板を可動電極として、振動板を変位させて吐出室と連通するノズルから液滴を吐出させる。
本発明によれば、上記の静電アクチュエータを有するようにしたので、応答性に優れ、吐出特性がよく、低消費電力の液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0013】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したものである。
本発明によれば、応答性に優れた上記の液滴吐出ヘッドを有するようにしたので、吐出特性がよく、低消費電力の液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0014】
また、本発明に係る静電デバイスは、上記の静電アクチュエータを搭載したものである。
本発明によれば、上記の静電アクチュエータを有するようにしたので、応答性に優れ、動作が速く、低消費電力の静電デバイスを得ることができる。
【0015】
また、本発明に係る電極基板の製造方法は、基板上に金属を材料とする金属電極を形成する工程と、少なくとも金属電極上に、金属電極とは異なる導電性材料の膜を成膜する工程と、導電性材料の膜を部分的にエッチングし、金属電極上に凸状の凸部電極を複数形成する工程とを有するものである。
本発明によれば、導電性金属を材料とする金属電極を形成した後、金属電極とは異なる導電性材料の膜を成膜し、部分的にエッチングして凸状の凸部電極を複数形成して電極基板を製造するようにしたので、応答性に優れた電極を有する電極基板を製造することができる。そして、金属電極とは異なる導電性材料の膜をエッチングして凸部電極を複数形成するようにしたので、単一材料をハーフエッチングすることなく、凸部電極を形成することができ、寸法的に高精度な凸部電極を形成することができる。
【0016】
また、本発明に係る電極基板の製造方法は、金属電極となる金属材料をクロムとし、凸部電極となる導電性材料をITOとする。
本発明によれば、金属電極となる金属材料をクロムとし、凸部電極となる導電性材料をITOとしたので、電極基板をガラス材料としたときの金属電極の密着性を高くし、剥離を防ぐことができる。
【0017】
また、本発明に係る静電アクチュエータの製造方法は、上記の電極基板の製造方法を適用して静電アクチュエータを製造する。
本発明によれば、上記の方法を適用して静電アクチュエータを製造するようにしたので、応答性に優れ、動作が速く、低消費電力の静電アクチュエータを製造することができる。また、凸部電極を形成することで、駆動部分との間の例えば貼り付きを防止し、長寿命の静電アクチュエータを製造することができる。
【0018】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記の静電アクチュエータの製造方法を適用して液滴吐出ヘッドを製造する。
本発明によれば、上記の方法を適用して液滴吐出ヘッドを製造するようにしたので、応答性に優れ、吐出特性がよく、低消費電力の液滴吐出ヘッドを製造することができる。
【0019】
また、本発明に係る液滴吐出装置の製造方法は、上記の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造する。
本発明によれば、上記の方法を適用して液滴吐出装置を製造するようにしたので、応答性に優れ、吐出特性がよく、低消費電力の液滴吐出装置を製造することができる。
【0020】
また、本発明に係る静電デバイスの製造方法は、上記の静電アクチュエータの製造方法を適用してデバイスを製造する。
本発明によれば、上記の方法を適用して静電デバイスを製造するようにしたので、応答性に優れ、動作が速く、低消費電力の静電デバイスを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解して表した図である。図1は液滴吐出ヘッドの一部を示している(図1に見えるノズルだけでなく、実際にはさらに多くのノズルを有している)。本実施の形態では、例えば静電方式で駆動する静電アクチュエータを用いる素子(デバイス)の代表として、フェイスイジェクト型の液滴吐出ヘッドについて説明する。(なお、構成部材を図示し、見やすくするため、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものと異なる場合がある。また、図の上側を上とし、下側を下として説明する。また、ノズルが並んでいる方向を短手方向、短手方向と直交する方向を長手方向として説明する)。
【0022】
図1に示すように本実施の形態に係る液滴吐出ヘッドは、電極基板10、キャビティ基板20及びノズル基板30の3つの基板が下から順に積層されて構成される。本実施の形態では、電極基板10とキャビティ基板20とは陽極接合により接合する。また、キャビティ基板20とノズル基板30とはエポキシ樹脂等の接着剤を用いて接合する。
【0023】
電極基板10は、厚さ約1mmの例えばホウ珪酸系の耐熱硬質ガラス等の基板を主要な材料としている。本実施形態では、ガラス基板とするが、例えば単結晶シリコンを基板とすることもできる。電極基板10の表面には、後述するキャビティ基板20の吐出室21となる凹部に合わせ、例えば深さ約0.3μmを有する複数の凹部11が形成されている。そして、凹部11の内側(特に底部)に、キャビティ基板20の各吐出室21(振動板22)と対向するように固定電極となる個別電極12が設けられ、さらにリード部13及び端子部14が一体となって設けられている(以下、特に区別する必要がない限り、これらを合わせて個別電極12として説明する)。振動板22と個別電極12との間には、振動板22が撓む(変位する)ことができる一定のギャップ(空隙)が凹部11により形成されている。ここで、振動板22(絶縁膜23)と個別電極12との間にできるギャップの間隔をギャップ長ということにする。本実施の形態の個別電極12は、導電性の金属材料であるクロム(Cr)の電極を凹部11の内側に下地として形成し、さらに、クロムの電極上に複数の凸状の電極をITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)で形成している。ここで、クロムの電極を金属電極12A、ITOによる電極を凸部電極12Bというものとする。この金属電極12A、凸部電極12Bについて、電極基板10の製造時において凸部電極12Bを異方性ウェットエッチング(以下、ウェットエッチングという)する際、金属電極12Aがウェットエッチングされてしまわないように、金属電極12Aは凸部電極12Bのエッチャント(エッチング液)に対して耐性を有する材料とする。したがって、金属電極12Aと凸部電極12Bとは異なる材料である。また、電極基板10には、外部のタンク(図示せず)から供給された液体を取り入れる流路となる液体供給口15となる貫通穴が設けられている。
【0024】
キャビティ基板20は、例えば表面が(110)面方位のシリコン単結晶基板(以下、シリコン基板という)を主要な材料としている。キャビティ基板20には、吐出させる液体を一時的にためる吐出室21となる凹部(底壁が可動電極となる振動板22となっている)及びリザーバ24となる凹部が形成されている。さらに、キャビティ基板20の下面(電極基板10と対向する面)には、個別電極12との間を電気的に絶縁等するため、TEOS膜(ここでは、Tetraethyl orthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエチルオルソシリケート(珪酸エチル)を原料ガスとして用いてできる酸化シリコン(SiO2)膜をいう)による絶縁膜23を0.1μm成膜している。ここでは絶縁膜23をTEOS膜で成膜しているが、例えばAl23(酸化アルミニウム(アルミナ))等を用いてもよい。ここで、特に断らない限り、振動板22と絶縁膜23とは一体であるものとして説明する。また、各吐出室21に液体を供給するリザーバ(共通液室)24となる凹部が形成されている。さらに、外部の電力供給手段(図示せず)からキャビティ基板20(振動板22)に電荷を供給する際の端子となる共通電極端子27を備えている。
【0025】
ノズル基板30についても、例えばシリコン基板を主要な材料とする。ノズル基板30には、複数のノズル31が形成されている。各ノズル31は、振動板22の変位により加圧された液体を液滴として外部に吐出する。また、吐出室21とリザーバ24とを連通させるための溝となるオリフィス32が設けられている。ここでは特に図示していないが、振動板22が撓むことでリザーバ24方向に加わる圧力を緩衝するダイヤフラムを、さらにノズル基板30に設けるようにしてもよい。
【0026】
図2は液滴吐出ヘッドの長手方向の断面図である。図2において、吐出室21はノズル孔31から吐出させる液体をためておく。吐出室21の底壁である振動板22を撓ませることにより、吐出室21内の圧力を高め、ノズル孔31から液滴を吐出させる。ここで、本実施の形態では、電極とすることができ、かつウェットエッチング工程の際に都合がよい高濃度のボロンドープ層をシリコン基板に形成し、振動板22を構成するものとする。また、異物、水分(水蒸気)等がギャップに入り込まないように、ギャップを外気から遮断し、密閉するために電極取り出し口26に封止材25が設けられている。
【0027】
例えばドライバIC等の発振駆動回路41は、FPC(Flexible Print Circuit)、ワイヤ等の配線42を介して電気的に端子部14、共通電極端子27と接続され、個別電極12、キャビティ基板20(振動板22)に電荷(電力)の供給及び停止を制御する。発振駆動回路41は例えば24kHzで発振し、例えば0Vと30Vのパルス電位の電圧を個別電極12に印加して電荷供給を行う。発振駆動回路41が発振駆動することにより、個別電極12に電荷を供給して帯電させ、振動板22を相対的に逆の極性で帯電させると、振動板22と個別電極12との間に静電力が発生し、振動板22は引き寄せられて撓む。これにより吐出室21の容積は広がる。そして電荷供給を止めると振動板22は元に戻るが、そのときの吐出室21の容積も元に戻り、その圧力により差分の液滴が吐出する。この液滴が例えば記録対象となる記録紙に着弾することによって印刷等の記録が行われる。
【0028】
図3は液滴吐出ヘッドの個別電極12における短手方向の断面図である。電圧印加による電荷供給が行われていない状態では図3(a)のようになっている。ここで、静電力が発生して振動板22が引き寄せられて撓んだときは、図3(b)のようになるようにし、振動板22が凸部電極12Bに接触し、金属電極12Aに接触しないようにする。
【0029】
図4は電極基板10の製造工程を表す図である。図4に基づいて電極基板10の製造について説明する。実際には電極基板10は、ウェハ状のガラス基板で複数個分を同時形成する。そして、他の基板と接合等をした後、個々に切り離して液滴吐出ヘッドを製造するが、図4では1つの液滴吐出ヘッドの電極基板10の一部分だけを示している。
【0030】
約1mmのガラス基板51の一方の面に対し、例えば、マスクとなるクロム(Cr)等の膜52(以下、マスク膜52という)を成膜する(図4(a))。マスク膜52の形成は、例えばPVD(Physical Vapor Deposition )法で行う。例えば、PVD法としては、スパッタ、真空蒸着、イオンプレーティング等の方法がある。さらに、マスク膜52上の全面にフォトレジスト53を塗布する。そして、フォトリソグラフィ(Photolithography)法を用い、クロム膜上の全面に塗布したフォトレジスト用の感光性樹脂をマスクアライナ等で露光し、現像液で現像することで、ガラス基板61に、後に電極基板10の凹部11となる部分を形成するためのフォトレジスト53によるパターンを形成する。
【0031】
フォトレジストパターンを形成した後、例えば硝酸セリウムアンモニウム水溶液によりウェットエッチングを行い、クロム52膜の不要な部分を除去する(図4(b))。これによりガラス基板51上に、マスク膜52による凹部11となる部分のエッチングパターンが形成される。そして、例えばフッ化アンモニウム水溶液によりガラス基板51をウェットエッチングを行って、約0.3μmの高さの側壁を有する凹部11を形成する(図4(c))。その後、マスク膜52を剥離する。
【0032】
そして、金属電極12A、リード部13及び端子部14となるクロムの膜54(以下、クロム膜54という)を凹部11を形成した面に対して、例えば全面成膜する(図4(d))。成膜方法については前述したように、例えばスパッタ等のPVD法により成膜を行う。そして、クロム膜54に対して、前述したフォトリソグラフィ法を用いてフォトレジスト55を塗布し、パターニングを行う。その後、クロム膜54に対してウェットエッチングを行い(図4(e))、フォトレジスト55を剥離して金属電極12A、リード部13及び端子部14を形成する(図4(f))。
【0033】
さらに、凸部電極12BとなるITOの膜56(以下、ITO膜56という)を凹部11を形成した面に対して全面成膜する(図4(g))。ここで、成膜方法については特に限定するものではないが、例えばスパッタ等により成膜を行う。そして、ITO膜56に対して、フォトリソグラフィ法を用いてフォトレジスト57を塗布し、パターニングを行う。その後、ITO膜56に対してウェットエッチングを行い(図4(h))、フォトレジスト57を剥離して凸部電極12Bを形成する(図4(i))。凸部電極12BとなるITOをエッチングする場合、金属電極12Aとなるクロムとは選択比が大きく異なる。したがって、ITOをエッチングしてもクロムはほぼエッチングされない。そのため、単一の導電性材料でハーフエッチング等により凹凸を有する電極を形成するよりも凹凸の高さ等、寸法に関して高精度に個別電極12の形成を行うことができる。ここでは、ウェットエッチングにより凸部電極12Bを形成するが、形成方法についてはドライエッチング等、その方法を特に限定するものではない。
【0034】
図5は凹部11及び個別電極12の一部を拡大した図である。形成する各凸部電極12Bの間隔等をどのように形成すればよいかについて検討する。凸部電極12Bにより個別電極12に凹凸を設けているのは、前述したように振動板22が個別電極12に貼り付いてしまうことを防ぐためである。したがって、振動板22が貼り付かないようにするため、基本的には、図5(b)に示すように、振動板22が凸部電極12Bに接触し、凹部分となる金属電極12Aには接触しないようにすればよい。
【0035】
ここで、各凸部電極12は直方体であるものとして、その高さをΔzとする。また、凸部電極12における振動板22との対向部分は正方形であるものとし、その一辺の幅をΔyとする。そして、各凸部電極12の長手方向における間隔をΔxとする。
【0036】
液滴の吐出を行う際には、振動板22と個別電極12との間に電圧を印加して静電力を発生させ、振動板22を個別電極12側に引き寄せる。振動板22が各凸部電極12Bに接触したとき、例えば、ある凸部電極12Bと長手方向にΔx離れた凸部電極12Bの2つの凸部電極12Bの間において、長さがΔx、幅がΔyで、2つの凸部電極12Bに両端を支持された両端固定の平板が形成されるものと考える。このような平板が振動板22と個別電極12との間に複数形成されることになる。この各平板が、例えば変位した振動板22が凸部電極12Bに接触し、等分布加重が加わったときに、凸部電極12Bの高さΔz以上撓まなければ金属電極12Aに接触しないことになる。
【0037】
以上のようにして、所定の形状、間隔で金属電極12A上に各凸部電極12Bを形成した後、例えばサンドブラスト等により液体供給口14を形成して電極基板10を作製する(図4(j))。
【0038】
図6は実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの製造工程を表す図である。図6に基づいて液滴吐出ヘッド製造工程について説明する。なお、実際には、ウェハ単位で複数個分の液滴吐出ヘッドの部材を同時形成するが、図6ではその一部分だけを示している。
【0039】
シリコン基板61の片面(電極基板10との接合面側となる)を鏡面研磨し、例えば220μmの厚みの基板(キャビティ基板20となる)を作製する(図6(a))。次に、シリコン基板61のボロンドープ層62を形成する面を、B23を主成分とする固体の拡散源に対向させ、縦型炉に入れてボロンをシリコン基板61中に拡散させ、ボロンドープ層62を形成する。そして、ボロンドープ層62を形成した面に、プラズマCVD法により、成膜時の処理温度は360℃、高周波出力は250W、圧力は66.7Pa(0.5Torr)、ガス流量はTEOS流量100cm3/min(100sccm)、酸素流量1000cm3/min(1000sccm)の条件で絶縁膜23を0.1μm成膜する(図6(b))。
【0040】
そして、シリコン基板61と電極基板10を360℃に加熱した後、電極基板10に負極、シリコン基板61に正極を接続して、800Vの電圧を印加し、陽極接合を行う。陽極接合を終えた基板(以下、接合基板という)に対し、シリコン基板61の厚みが約60μmになるまでシリコン基板61表面の研削加工を行う。その後、加工変質層を除去する為に、水酸化カリウム溶液でシリコン基板61を約10μm分ウェットエッチングを行う。これによりシリコン基板61の厚みを約50μmにする(図6(c))。
【0041】
接合基板のウェットエッチングを行った面に対し、TEOSによる酸化シリコンのハードマスク(以下、TEOSハードマスクという)63をプラズマCVD法により成膜する。成膜条件として、例えば、成膜時の処理温度は360℃、高周波出力は700W、圧力は33.3Pa(0.25Torr)、ガス流量はTEOS流量100cm3/min(100sccm)、酸素流量1000cm3/min(1000sccm)とし、その条件で1.5μm成膜する。
【0042】
TEOSハードマスク63を成膜した後、吐出室21及び電極取出し口26となる部分のTEOSハードマスク63をウェットエッチングするため、レジストパターニングを施す。そして、フッ酸水溶液を用いてTEOSハードマスク63が無くなるまで、それらの部分をウェットエッチングしてTEOSハードマスク63をパターニングし、シリコン基板61を露出させる。リザーバ24となる部分については、リザーバ24底部に厚みを残しておくために、TEOSハードマスク63を若干残しておくようにする。また、例えば、面積の大きく、割れやすい電極取出し口26となる部分についても、レジストの厚みを若干残しておき、後の工程で割れを防止するための厚みを残すようにしてもよい。そして、ウェットエッチングした後にレジストを剥離する(図6(d))。
【0043】
次に、接合基板を35wt%の濃度の水酸化カリウム水溶液に浸し、吐出室21及び電極取出し口26となる部分の厚みが約10μmになるまでウェットエッチングを行う。さらに、接合基板を3wt%の濃度の水酸化カリウム水溶液に浸し、ボロンドープ層62が露出し、エッチングの進行が極度に遅くなるエッチングストップが十分効いたものと判断するまでウェットエッチングを続ける(図6(e))。このように、2種類の濃度の異なる水酸化カリウム水溶液を用いたエッチングを行うことによって、吐出室21となる部分に形成される振動板22の面荒れを抑制し、厚み精度を高くすることができる。その結果、液滴吐出ヘッドの吐出性能を安定化させることができる。
【0044】
ウェットエッチングを終了すると、接合基板をふっ酸水溶液に浸し、シリコン基板61表面のTEOSハードマスク63を剥離する。次に、電極取出し口26となる部分のボロンドープ層62を除去するため、電極取出し口26となる部分が開口したシリコンマスクを、接合基板のシリコン基板61側の表面に取り付ける。そして、例えば、RFパワー200W、圧力40Pa(0.3Torr)、CF4流量30cm3/min(30sccm)の条件で、RIEドライエッチング(異方性ドライエッチング)を30分間行い、電極取出し口26となる部分のみにプラズマを当てて、開口する。ここで、例えば接合基板とマスクとのアライメント精度を高めるため、シリコンマスクの装着は、接合基板とシリコンマスクとにピンを通すピンアライメントにより行うようにするとよい。ここでは、異方性ドライエッチングにより開口しているが、ピン等で突くことで、ボロンドープ層62を壊してもよい。そして、封止材25を用いて、ギャップ部分を外気から遮断するための封止を行う(図6(f))。封止材25の材料、封止方法等については特に限定するものではないが、例えば電極取り出し口26の開口部分にエポキシ系樹脂を塗布したり、酸化シリコンを堆積させたりして形成する。
【0045】
封止が完了すると、例えば、さらに共通電極端子27となる部分を開口したマスクを、接合基板のシリコン基板61側の表面に取り付けて、例えばプラチナ(Pt)をターゲットとしてスパッタ等を行い、共通電極端子27を形成する。そして、あらかじめ別工程で作製していたノズル基板30を、例えばエポキシ系接着剤により、接合基板のキャビティ基板20側から接着し、接合する(図6(g))。そして、ダイシングラインに沿ってダイシングを行い、個々の液滴吐出ヘッドに切断し、液滴吐出ヘッドが完成する。さらに配線42を介してICドライバ等の発振回路41との接続等を行う。
【0046】
以上のように実施の形態1によれば、液滴吐出ヘッドにおいて、静電アクチュエータの駆動部分となる振動板22との間で静電力を発生させる個別電極12として、抵抗が低い金属電極12Aを用いるようにしたので、応答性に優れた静電アクチュエータを得ることができる。これにより、振動板22を素早く変位させることで、吐出特性がよく、消費電力が低い液滴吐出ヘッドを得ることができる。また、金属電極12A上に例えばITOの凸部電極12Bを形成して個別電極12に凹凸を設け、振動板22と個別電極12との接触面積を少なくするようにしたので、振動板22と個別電極12との間の貼り付きを防止することができる。特に、上述の(1)式に基づいて凸部電極12Bを配置することで、効率よく振動板22が金属電極12Aに貼り付かないようにすることができる。また、クロム等の金属電極12Aに対して、異なる材料であるITOで凸部電極12Bを形成するようにしたので、ハーフエッチングにより、個別電極12における凹凸を形成しなくても良い。また、金属電極12Aと凸部電極12Bとはエッチングにおける選択比が異なる。そのため、凸部電極12Bの形成において、金属電極12Aまでエッチングしてしまうことがなく、したがって、金属電極12Aと凸部電極12Bとをそれぞれ高精度に形成することができる。そして、クロムを金属電極12Aの材料とすることにより、ガラス基板である電極基板10への密着性を高くすることができ、電極の剥離を防ぐことができる。
【0047】
実施の形態2.
上記の実施の形態では、電極基板10の材料となるガラスとの関係で、ガラスへの密着性が高いCr(クロム)を金属電極12Aの材料とするものとして説明したが、導電性の金属材料をクロムに限定するものではない。
【0048】
図7は各金属における一般的な電気抵抗率を表す図である。例えば金(Au)はクロムよりも電気抵抗率が低いが、基本的にガラスへの密着性が低い。そこで、工数は増えるが、例えばクロムを下地として電極基板10となるガラス上に成膜し、その上に、金による金属電極12Aを形成するようにしてもよい。また、例えばシリコン基板を電極基板10の材料とする等、ガラス基板とは異なる基板を電極基板10として用いた場合には、クロムを下地としなくても、他の材料を金属電極12Aとして用いることができる。
【0049】
そして、凸部電極12Bについても、材料としてITOを用いたがこれに限定するものではない。例えば、IZO(Indium Zinc Oxide :酸化インジウム亜鉛)等を材料として用いるようにしてもよい。
【0050】
また、上述の実施の形態では、電極基板10、キャビティ基板20及びノズル基板30の3層構造の液滴吐出ヘッドについて説明したが、例えば、リザーバ部分を独立した基板(以下、リザーバ基板という)で構成した4層構造の液滴吐出ヘッドについても適用することができる。この場合、リザーバ基板に変位板29、外気圧室28となる凹部等を設けるようにしてもよい。
【0051】
実施の形態3.
図8は上述の実施の形態で製造した液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置の外観図である。また、図9は液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。図8及び図9の液滴吐出装置は液滴吐出方式(インクジェット方式)による印刷を目的とする。また、いわゆるシリアル型の装置である。図8において、被印刷物であるプリント紙100が支持されるドラム101と、プリント紙100にインクを吐出し、記録を行う液滴吐出ヘッド102とで主に構成される。また、図示していないが、液滴吐出ヘッド102にインクを供給するためのインク供給手段がある。プリント紙110は、ドラム101の軸方向に平行に設けられた紙圧着ローラ103により、ドラム101に圧着して保持される。そして、送りネジ104がドラム101の軸方向に平行に設けられ、液滴吐出ヘッド102が保持されている。送りネジ104が回転することによって液滴吐出ヘッド102がドラム101の軸方向に移動するようになっている。
【0052】
一方、ドラム101は、ベルト105等を介してモータ106により回転駆動される。また、プリント制御手段107は、印画データ及び制御信号に基づいて送りネジ104、モータ106を駆動させ、また、ここでは図示していないが、発振駆動回路を駆動させて振動板22を振動させ、制御をしながらプリント紙110に印刷を行わせる。
【0053】
ここでは液体をインクとしてプリント紙110に吐出するようにしているが、液滴吐出ヘッドから吐出する液体はインクに限定されない。例えば、カラーフィルタとなる基板に吐出させる用途においては、カラーフィルタ用の顔料を含む液体、OLED等の表示基板に吐出させる用途においては、発光素子となる化合物を含む液体、基板上に配線する用途においては、例えば導電性金属を含む液体を、それぞれの装置において設けられた液滴吐出ヘッドから吐出させるようにしてもよい。また、液滴吐出ヘッドをディスペンサとし、生体分子のマイクロアレイとなる基板に吐出する用途に用いる場合では、DNA(Deoxyribo Nucleic Acids :デオキシリボ核酸)、他の核酸(例えば、Ribo Nucleic Acid:リボ核酸、Peptide Nucleic Acids:ペプチド核酸等)タンパク質等のプローブを含む液体を吐出させるようにしてもよい。その他、布等の染料の吐出等にも利用することができる。
【0054】
実施の形態4.
図10は本発明を利用した波長可変光フィルタを表す図である。上述の実施の形態は、液滴吐出ヘッドを例として説明したが、本発明は液滴吐出ヘッドだけに限定されず、他の微細加工による静電アクチュエータを利用した静電型のデバイスにも適用することができる。例えば、図10の波長可変光フィルタは、ファブリ・ペロー干渉計の原理を利用し、可動鏡120と固定鏡121との間隔を変化させながら選択した波長の光を出力するものである。可動鏡120を変位させるためには、可動鏡120が設けられている、シリコンを材料とする可動体122を変位させる。そのために固定電極123と可動体122(可動鏡120)とを所定の間隔(ギャップ)で対向配置する。ここで、固定電極123を金属電極123Aと凸部電極123Bで形成することにより、上述したように、応答性を良くし、可動体122の貼り付きを防止することができる。
【0055】
同様にモータ、センサ、波長可変光フィルタ、ミラーデバイス等、他の種類の微細加工のアクチュエータ、圧力センサ等のセンサ等にも上述の封止部の形成等を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解して表した図。
【図2】液滴吐出ヘッドの短手方向の断面図。
【図3】液滴吐出ヘッドの個別電極12における短手方向の断面図。
【図4】電極基板10の製造工程を表す図。
【図5】凹部11及び個別電極12の一部を拡大した図。
【図6】液滴吐出ヘッドの製造工程を表す図。
【図7】各金属における一般的な電気抵抗率を表す図。
【図8】液滴吐出ヘッドを用いた液滴吐出装置の外観図。
【図9】液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図。
【図10】本発明を利用した波長可変光フィルタを表す図。
【符号の説明】
【0057】
10…電極基板、11…凹部、12…個別電極、12A…金属電極、12B…凸部電極、13…リード部、14…端子部、15…液体供給口、20…キャビティ基板、21…吐出室、22…振動板、23…絶縁膜、24…リザーバ、25…封止材、26…電極取出し口、27…共通電極端子、30…ノズル基板、31…ノズル、32…オリフィス、41…発振回路、42…配線、51…ガラス基板、52…マスク膜、53,55,57…フォトレジスト、54…クロム膜、56…ITO膜、61…シリコン基板、62…ボロンドープ層、63…TEOSハードマスク、100…プリンタ、101…ドラム、102…液滴吐出ヘッド、103…紙圧着ローラ、104…送りネジ、105…ベルト、106…モータ、107…プリント制御手段、110…プリント紙、120…可動鏡、121…固定鏡、122…可動体、123…固定電極、123A…金属電極、123B…凸部電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動電極と、電極基板上に形成された固定電極とを備え、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧が印加されると静電気力を発生させる静電アクチュエータにおいて、
前記固定電極は、
導電性金属を材料とする金属電極と、
前記金属電極の材料とは異なる導電性材料からなり、前記固定電極に凹凸を設けるために前記金属電極上に形成された複数の凸部電極とで構成されていることを特徴とする静電アクチュエータ。
【請求項2】
前記電極基板はガラスを材料とし、
また、前記金属電極はクロムを材料として形成され、前記凸部電極はITOを材料として形成されていることを特徴とする請求項1に記載の静電アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の静電アクチュエータを有し、
液体が充填される吐出室が有する振動板を前記可動電極として、前記振動板を変位させて前記吐出室と連通するノズルから液滴を吐出させることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項3に記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の静電アクチュエータを搭載したことを特徴とする静電駆動デバイス。
【請求項6】
基板上に導電性金属を材料とする金属電極を形成する工程と、
少なくとも前記金属電極上に、前記金属電極とは異なる導電性材料の膜を成膜する工程と、
前記導電性材料の膜を部分的にエッチングし、金属電極上に凸状の凸部電極を複数形成する工程とを有することを特徴とする電極基板の製造方法。
【請求項7】
前記金属電極となる金属材料をクロムとし、前記凸部電極となる前記導電性材料をITOとすることを特徴とする請求項5に記載の電極基板の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の電極基板の製造方法を適用して静電アクチュエータを製造することを特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の静電アクチュエータの製造方法を適用して液滴吐出ヘッドを製造することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造することを特徴とする液滴吐出装置の製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載の静電アクチュエータの製造方法を適用してデバイスを製造することを特徴とする静電駆動デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−259291(P2008−259291A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98011(P2007−98011)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】