説明

非接触通信機器の故障検知方法、及び故障検知装置

【課題】新たな設備を導入せずに、車上位置検知のための車載非接触通信機器の故障を検知することが可能な非接触通信機器の故障検知方法、及び故障検知装置を提供する。
【解決手段】先頭及び後尾のRFIDリーダ51,53にてタグ地上子81〜84からの情報を受信しているか相互に診断する。例えば、先頭のRFIDリーダ51における情報受信時期を基準として、アンテナ52,54の間の距離を走行したとき、後尾のRFIDリーダ53におけるタグ地上子81〜84との通信状況を判定する。また例えば、各RFIDリーダ51における通信履歴を記録しておき、後尾のRFIDリーダ51において情報を受信すると、アンテナ52,54の間の距離を走行するのに要する時間だけさかのぼった時点での先頭側RFIDリーダ51の通信履歴を照査し、先頭のRFIDリーダ53におけるタグ地上子との通信状況を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上との非接触通信を利用して列車の走行位置情報を車上にて検知する位置検知システムにおける車載非接触通信機器の故障検知に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、列車が在線する位置は、レールで構成した軌道回路を車軸によって短絡することにより、地上側で検知していた。
また近年、コンピュータ及び無線技術を基礎とした無線式列車制御システム(CARAT;Computer And Radio Train Control System)が研究開発されている。CARATでは、位置検知機能を車上に搭載することにより、従来の軌道回路をはじめとする地上設備を削減し、移動閉そくの間隔制御、駅構内制御等を実現している。これにより、多様な列車を効率よく、かつ低コストに運行させることが可能となっている。例えば、非特許文献1に示すように、CARATでは、無線ICタグを封入したタグ地上子を軌間中央に設置し、列車側にアンテナ及びICタグリーダ等の非接触通信機器を搭載して、タグ地上子のID情報を読み取ることにより車上で在線検知を行う。また、速度発電機を車両に搭載し、速度発電機が計測する速度パルスを用いて走行距離を算出し、列車の在線位置検知を行うことも考えられている。また、地上−車上間の情報伝送に汎用の無線LAN(Local Area Network)を利用する。このように鉄道専用の装置に代えて汎用製品を積極的に導入し、低コスト化を実現している。
【0003】
ところで、上述の手法を用いて列車の位置検知を行なう場合、列車側に備えられる非接触通信機器が故障すると、列車の走行位置が特定できない。この場合には、地上装置は列車の走行位置を特定できないので列車の走行が危険側となる恐れがあり、フェールセーフ性を確保する必要があった。また、故障した通信機器からは故障したこと自体を通知できず、通信機器の故障そのものを把握することが難しかった。
そこで機器の故障等の異常を検知するため、従来は、列車の編成の先頭と後尾に設備した車上アンテナにそれぞれ故障検知用のループを設けるとともに、故障検知用に地上からなんらかの情報を送信する機器を設備し、上述の故障検知用ループで地上からの情報を受信可能か否かを判断することにより、位置検知のための機器に異常がないかを検出していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「汎用無線技術による低コストな無線式列車制御システム」(5−S22−4)平成20年電気学会全国大会 山本春生、関清隆他
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来の故障検知の手法では、故障検知用のループや地上設備を別途設ける必要があるためコストが増大し、また設備の管理も容易ではなかった。
【0006】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、新たな設備を導入せずに、位置検知のために車両に塔載される非接触通信機器の故障を検知することが可能な非接触通信機器の故障検知方法、及び故障検知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために第1の発明は、車両の先頭及び後尾に搭載される非接触通信機器と、地上に設置され地点情報を保持する地上子との間で非接触通信を行なうことにより車上で車両の走行位置を検知する位置検知システムにおける前記非接触通信機器の故障検知方法であって、車両の先頭及び後尾のいずれか一方の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知する通信検知ステップと、前記通信検知ステップにおける通信検知時を基準に、車両が先頭及び後尾の非接触通信機器のアンテナ間の距離だけ走行した時、または該アンテナ間の距離を走行するのに要する時間だけ前記基準からさかのぼった時における、他方の非接触通信機器の通信状況を確認する確認ステップと、前記確認ステップにより確認した他方の非接触通信機器の通信状況に基づき他方の非接触通信機器が故障であるか否かを判定する故障判定ステップと、を含むことを特徴とする非接触通信機器の故障検知方法である。
【0008】
第1の発明によれば、車両の先頭及び後尾のいずれか一方の非接触通信機器と地上子との通信を検知し、通信検知時を基準に、車両が先頭及び後尾の非接触通信機器のアンテナ間の距離だけ走行した時、または該アンテナ間の距離を走行するのに要する時間だけ前記基準からさかのぼった時における、他方の非接触通信機器の通信状況を確認し、他方の非接触通信機器の通信状況に基づき他方の非接触通信機器が故障であるか否かを判定する。
これにより、先頭及び後尾に設けられている非接触通信機器のうちいずれか一方でタグ地上子との通信が正常に行われていれば、車両の走行距離または走行距離に相当する走行時間から、他方の非接触通信機器の通信タイミングを特定でき、その通信タイミングでの後尾側の通信状況を確認することにより故障を診断できる。そのため、故障検知用のループ等の新たな設備を設ける必要がなく既存の設備で故障を検知でき、低コストで列車の運行の安全性を確保できる。
【0009】
また、前記通信検知ステップにおいて、先頭の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した場合は、前記確認ステップにおいて、前記基準時から前記後尾の非接触通信装置における前記地上子との通信状況の監視を開始するとともに、車両の走行距離の監視を開始し、前記故障判定ステップにおいて、当該走行距離が前記アンテナ間の距離またはその許容誤差範囲となる時期に、後尾の非接触通信機器にて前記地上子との通信が行われたか否かを判定し、該当する時期に後尾の非接触通信機器において前記地上子との通信が行われない場合は、後尾の非接触通信機器が故障であると判定し、故障検知情報を出力することが望ましい。
これにより、先頭の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した場合に、後尾の非接触通信機器の故障を判定して、故障検知情報を出力できる。
【0010】
また、前記通信検知ステップにおいて、車両の先頭及び後尾のいずれか一方の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した際に、通信履歴を記録する通信履歴記録ステップを更に備え、前記通信検知ステップにおいて、後尾の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した場合は、前記確認ステップにおいて、先頭の非接触通信機器の通信履歴を照査し、前記故障判定ステップにおいて、当該車両が前記アンテナ間の距離を走行する時間だけ遡った時期またはその許容誤差範囲内に前記先頭の非接触通信装置における前記地上子との通信履歴が記録されているか否かを判定し、該当する通信履歴がない場合は、先頭の非接触通信機器が故障したと判定し、故障検知情報を出力することが望ましい。
これにより、後尾の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した場合に、先頭の非接触通信機器の故障を判定して、故障検知情報を出力できる。
【0011】
第2の発明は、車両の先頭及び後尾に搭載される非接触通信機器と、地上に設置され地点情報を保持する地上子との間で非接触通信を行なうことにより車上で車両の走行位置を検知する位置検知システムにおける前記非接触通信機器の故障検知装置であって、車両の走行距離を検出する走行距離検出手段と、車両の先頭及び後尾のいずれか一方の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知する通信検知手段と、前記通信検知手段における通信検知時を基準に、車両が先頭及び後尾の非接触通信機器のアンテナ間の距離だけ走行した時、または該アンテナ間の距離を走行するのに要する時間だけ前記基準からさかのぼった時における、他方の非接触通信機器の通信状況を確認する確認手段と、前記確認手段により確認した他方の非接触通信機器の通信状況に基づき他方の非接触通信機器が故障であるか否かを判定する故障判定手段と、を備えることを特徴とする非接触通信機器の故障検知装置である。
【0012】
第2の発明によれば、車両の先頭及び後尾のいずれか一方の非接触通信機器と地上子との通信を検知し、通信検知時を基準に、車両が先頭及び後尾の非接触通信機器のアンテナ間の距離だけ走行した時、または該アンテナ間の距離を走行するのに要する時間だけ前記基準からさかのぼった時における、他方の非接触通信機器の通信状況を確認し、他方の非接触通信機器の通信状況に基づき他方の非接触通信機器が故障であるか否かを判定する。
これにより、先頭及び後尾に設けられている非接触通信機器のうちいずれか一方でタグ地上子との通信が正常に行われていれば、車両の走行距離または走行距離に相当する走行時間から、他方の非接触通信機器の通信タイミングを特定でき、その通信タイミングでの後尾側の通信状況を確認することにより故障を診断できる。そのため、故障検知用のループ等の新たな設備を設ける必要がなく既存の設備で故障を検知でき、低コストで列車の運行の安全性を確保できる。
【0013】
また、前記通信検知手段が、先頭の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した場合は、前記確認手段は、前記基準時から前記後尾の非接触通信装置における前記地上子との通信状況の監視を開始するとともに、前記走行距離検出手段により計測される車両の走行距離の監視を開始し、前記故障判定手段は、当該走行距離が前記アンテナ間の距離またはその許容誤差範囲となる時期に、後尾の非接触通信機器にて前記地上子との通信が行われたか否かを判定し、該当する時期に後尾の非接触通信機器において前記地上子との通信が行われない場合は、後尾の非接触通信機器が故障であると判定し、故障検知情報を出力することが望ましい。
これにより、先頭の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した場合に、後尾の非接触通信機器の故障を判定して、故障検知情報を出力できる。
【0014】
また、前記通信検知手段が車両の先頭及び後尾のいずれか一方の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した際に、通信履歴を記録する通信履歴記録手段を更に備え、前記通信検知手段が、後尾の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した場合は、前記確認手段は、先頭の非接触通信機器の通信履歴を照査し、前記故障判定手段は、当該車両が前記アンテナ間の距離を走行する時間だけ遡った時期またはその許容誤差範囲内に前記先頭の非接触通信装置における前記地上子との通信履歴が記録されているか否かを判定し、該当する通信履歴がない場合は、先頭の非接触通信機器が故障したと判定し、故障検知情報を出力することが望ましい。
これにより、後尾の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した場合に、先頭の非接触通信機器の故障を判定して、故障検知情報を出力できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、新たな設備を導入せずに、車上位置検知のための車載非接触通信機器の故障を検知することが可能な非接触通信機器の故障検知方法、及び故障検知装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】位置検知システム1の装置構成及び後尾側故障診断の概略を示す図
【図2】位置検知システム1において車両に搭載される車上装置のハードウエア構成を示すブロック図
【図3】車載通信装置の故障診断機能を説明するブロック図
【図4】後尾側故障診断の流れを説明するフローチャート
【図5】位置検知システム1の装置構成及び先頭側故障診断の概略を示す図
【図6】通信履歴情報7のデータ構成を示す図
【図7】先頭側故障診断の流れを説明するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
図1は本発明に係る故障検知方法を適用する位置検知システム1の装置構成及び後尾側故障診断の概略を示す図、図2は位置検知システム1において車両に搭載される車上装置50のハードウエア構成を示すブロック図、図3は車載通信装置の故障診断機能を説明するブロック図、図4は後尾側故障診断の流れを説明するフローチャート、図5は先頭側故障診断の概略を示す図、図6は通信履歴情報7のデータ構成を示す図、図7は先頭側故障診断の流れを説明するフローチャートである。
【0018】
図1に示すように、本発明に係る位置検知システム1は、地上に設置されたタグ地上子81,82,83,84,・・・と、車両に搭載された車上装置50とを備えて構成される。車上装置50には、タグ地上子81,82,83,84,・・・との非接触通信を行って地点情報を受信するための非接触通信機器(RFIDリーダ51、53及びアンテナ52、54)が含まれ、非接触通信機器は先頭及び後尾に設置されている。また、本発明に係る故障検知装置は、この位置検知システム1にて利用されるものである。例えば車両5の車上装置50が本発明の故障検知装置として機能する。
【0019】
タグ地上子81,82,83,84,・・・(以下、個々のタグ地上子を区別する必要がないときはタグ地上子8として説明する)は、個々の識別情報及び地点情報(例えば、起点からのキロ程、検知単位とするブロックの情報、その他車上装置50側で位置情報を作成するために使用するタグ固有の情報を含む)を保持したRFID(Radio Frequency IDentification)タグを耐候用ケースに封入したものであり、レール9に沿って複数箇所に設置される。上り・下り方向の列車において共用可能とするため、タグ地上子8は左右のレール9の中心の位置に設置されることが望ましい。この場合、車両の非接触通信機器のアンテナ52、54の設置位置も対応させることが望ましく、例えば、車両床下で左右のレール9の中心となる位置に設置されることが望ましい。上述のブロックは、従来の軌道回路単位に設けられるようにすることが望ましい。例えば、閉そく境界及び信号現示位置を境界としたとき、この境界に挟まれた区間を検知単位とし、このブロック境界の内方と外方にそれぞれ1つずつタグ地上子8を設ける。
【0020】
車両5には、車上装置50が搭載される。
図2に示すように、車上装置50(故障検出装置)は、車上制御装置61、先頭側RFIDリーダ51及びアンテナ52、後尾側RFIDリーダ53及びアンテナ54、速度発電機65を有する。更に、車上装置50は、地上制御装置との通信を実現するための設備として、GPS受信機及びアンテナを含むGPS装置63、無線LAN装置(子機)64、車両DB(データベース)62、及び外部機器I/F67を備えてもよい。先頭側RFIDリーダ51及びアンテナ52、後尾側RFIDリーダ53及びアンテナ54、速度発電機65、GPS装置63、無線LAN装置(子機)64、車両DB(データベース)62、及び外部機器I/F67は、車上制御装置61と有線接続される。有線とするのは、通信の確実性を保ち、安全性を確保するためである。
【0021】
上述の車上装置50の構成のうち、車両の在線位置(走行位置)の検知には、先頭側RFIDリーダ51及びアンテナ52、後尾側RFIDリーダ53及びアンテナ54、速度発電機65、及び車上制御装置61が利用される。
車両が在線している位置は、タグ地上子8から受信した地点情報にて特定する。更に、速度発電機65の計測する速度パルス数を積算することで、走行距離に基づくより精密な走行位置検知を可能とする。
【0022】
車上制御装置61は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等により構成され、車上装置50内の各部を制御する。具体的には、車上制御装置61は、先頭側、後尾側のRFIDリーダ51,53及びアンテナ52、54とタグ地上子8とを用いた位置検知や、速度発電機65による車両の走行速度または走行距離の監視を行なう。また、本発明の車上制御装置61は、先頭側または後尾側のRFIDリーダ51,53及びアンテナ52,54の故障を検知する機能を有する。この故障診断機能については後述する。
【0023】
更に、車上制御装置61は、GPS63を用いた車両絶対位置の計測、無線LAN64による地上側制御装置(不図示)との地上−車上間通信の制御、車両DB(データベース)62、GPS装置63、RFIDリーダ65、及び速度発電機65を用いた列車の制御(ブレーキパターンの設定等の処理)を行う。
【0024】
RFIDリーダ51、53及びアンテナ52,54は、地上に設置されるタグ地上子8との間で非接触通信を行う非接触通信機器である。RFIDリーダ51、53及びアンテナ52,54は、RFIDリーダ51、53がそれぞれアンテナ52,54を介して各タグ地上子81,82,83,84から送信される情報を受信し、タグ地上子81,82,83,84に保持される情報(地点情報、固体識別情報等)を読み取る。
【0025】
速度発電機65は、車両55の車輪の回転数に応じた電圧またはパルスを発生させ、回転速度を計測し、計測した速度信号を車上制御装置61へ出力する。速度発電機65から出力される速度信号またはパルスを利用して、車上制御装置61は、車両の走行距離を計測できる。
【0026】
以上のような装置構成で実現される位置検知システム1における位置検知は、例えば以下の手法で行われる。
<手法1>
手法1では、タグ地上子8及びRFIDリーダにより境界を判定する。まず、編成先頭の車上アンテナで、システム境界の外方に設置したプリセット用タグ地上子8の情報を受信して位置情報を特定する。編成先頭の車上アンテナ52によりブロック境界の外方及び内方にそれぞれ設けられたタグ地上子8からの情報受信順序に基づき進入方向を検出し、進入ブロックを確定する。ブロックからの進出を検出する際も同様に、編成後尾の車上アンテナ54によりブロック境界の外方及び内方にそれぞれ設けられたタグ地上子8からの情報受信順序に基づき進出方向を検出し、進出ブロックを確定する。或いは、編成先頭の在線位置及び車両長により後尾の位置情報を検出することでブロックの進出を検出する。すなわち、編成先頭の位置に編成長を加えた後尾の位置が、閉そく区間及び分岐区間を進出した位置となったときブロックからの進出を検出する。
【0027】
<手法2>
手法2では、タグ地上子8及びRFIDリーダと速度発電機65の速度パルスとによる積算距離情報を用いて位置検知を行なう。
まず、<手法1>と同様に、編成先頭の車上アンテナ52で、システム境界の外方に設置したプリセット用タグ地上子8の情報を受信し、位置情報を特定する。次に、編成先頭の位置が信号現示位置・分岐区間に相当する位置の内方となったとき、その区間への進入を検出する。編成先頭の位置に編成長を加えた後尾の位置が、閉そく区間、及び分岐区間を進出した位置となったとき、その区間の進出を検出する。
【0028】
次に、上述の位置検知システム1における車載非接触通信機器(RFIDリーダ51,53及びアンテナ52,54)の故障を検知する機能について説明する。
なお、以下の機能は、車上制御装置61の制御部(CPU等)にて実行可能なプログラムの形態で記述され、ROM等の記憶部に格納されて実現される。または、以下の機能を備えた論理回路の形態で実現され、車上制御装置61に塔載されるものとしてもよい。
【0029】
車上制御装置61は、車両走行中に、当該車両50の先頭及び後尾に設けられたRFIDリーダ51,53及びアンテナ52,54から各タグ地上子81,82、83,84との通信情報を順次取得する。RFIDリーダ51,53は、タグ地上子8との通信を行った際に受信した情報を車上制御装置61に順次送信するが、タグ地上子8との通信が行われない限りは車上制御装置61に何も送信しない。そのため、タグ地上子8を通過する地点でいずれか一方の非接触通信機器(RFIDリーダ51,53及びアンテナ52,54)の異常等によりRFIDリーダ51,53がタグ地上子81,82、83,84の情報を受信しなければ、そのまま看過されてしまい、車上制御装置61は通信エラーが起きたこと自体も認識できない状況となる。
【0030】
そこで、車上制御装置61は、先頭及び後尾のRFIDリーダ51,53及びアンテナ52,54にてタグ地上子8からの情報を受信しているか相互に診断する。すなわち、車上制御装置61は、先頭及び後尾のRFIDリーダ51,53のうちいずれか一方における情報受信を検知し、その検知時期を基準として、他方のRFIDリーダ51,53における情報受信時期を特定する。特定した時期に他方の非接触通信装置においてタグ地上子との通信が行われたか否かを判定する。図1、図3に示すように、先頭側の通信を検知した場合は、自車両の走行距離(速度発電機65の速度パルス)を監視し、走行距離が先頭及び後尾のRFIDリーダ51,53のアンテナ52,54の間の距離(以下、アンテナ間距離)となったときを、後尾側の通信時として特定し、特定されたタイミングで後尾側がタグ地上子8と通信を行うか否かを判定する。
また、図5に示すように、後尾側の通信を検知した場合は、アンテナ間距離を走行するのに要した時間だけさかのぼったときを先頭側の通信時として特定できる。
【0031】
図4のフローチャートに従って、後尾側RFIDリーダ53の故障診断について説明する。
車上制御装置61は、図1に示すように、先頭側RFIDリーダ51におけるタグ地上子82の受信後、アンテナ間距離を走行した後に後尾側RFIDリーダ53にて当該タグ地上子82との通信が行われるか否かを監視することにより、後尾側RFIDリーダ53が正常に動作しているか否かを判定する。
【0032】
先頭側のRFIDリーダ51にて、例えばタグ地上子82の情報を受信すると(ステップS101)、車上制御装置61は後尾側RFIDリーダ53の通信状況を監視する。また、車上制御装置61は、速度発電機65からの出力信号(速度パルス)を利用して先頭側RFIDリーダ51における情報受信時からの走行距離を監視する(ステップS102)。
そして、車上制御装置61は、車両5がアンテナ間距離またはその許容誤差範囲を走行したときに(ステップS103;Yes)、後尾側RFIDリーダ53にて、先頭側RFIDリーダ51にて受信したタグ地上子82の情報と対応する情報(タグ地上子82の情報)を受信したか否かを判定する(ステップS104)。後尾側RFIDリーダ53においてタグ地上子82の情報を受信した場合は(ステップS104;Yes)、正常と診断し(ステップS105)、処理を終了する。
【0033】
一方、後尾側RFIDリーダ53においてタグ地上子82の情報を受信していない場合は(ステップS104;No)、後尾側RFIDリーダ53が故障していると診断する(ステップS105)。車上制御装置61は、判定結果に応じた処理を実行する。例えば車上制御装置61は、非接触通信機器のエラーを通知したり、無線LAN63を用いて後尾側RFIDリーダ53が故障していることを地上制御装置へ通知したり、列車制御パターン(ブレーキパターン等)を安全側制御パターンへ切り替えたりする。
【0034】
上述の後尾側RFIDリーダ53の通信診断を行なうことにより、先頭側RFIDリーダ51の通信が正常に行われている場合に、後尾側RFIDリーダ53の通信診断を行なうことが可能となり、後尾側RFIDリーダ53の故障を検知できる。その結果、従来のように、検知ループ等の故障診断用の新たな設備を設けなくても、既存の設備で故障を検知でき、低コストで列車の運行の安全性を確保できる。
【0035】
また、例えば、図5に示すように、後尾側RFIDリーダ53にてタグ地上子8の情報を受信した際に、先頭側RFIDリーダ51の通信履歴を照査して、先頭側RFIDリーダ51の故障を診断してもよい。
車上制御装置61は、先頭側RFIDリーダ51とタグ地上子8との通信情報を取得して、通信履歴を順次記録しておく。
図6は、車上制御装置61の記憶部に順次蓄積して記録される通信履歴情報7の一例である。図6に示すように、通信履歴情報7は、例えば、先頭側RFIDリーダ51または後尾側RFIDリーダ53にてタグ地上子8から受信した情報(ここでは、タグ識別情報と、地点情報)を、受信時刻及びRFIDリーダ51の識別情報(例えば、先頭または後尾の別等。各RFIDリーダのIDでもよい)と対応付けて記憶している。受信時刻は、各RFIDリーダが地上子との通信時に付与した時刻としてもよいし、車上制御装置61が各RFIDリーダから通信情報を取得した際に付与した時刻としてもよい。なお、図6では先頭側及び後尾側の通信履歴を混在させる例を示しているが、分けて管理してもよい。
【0036】
図6の例では、時刻「7:30:00」に先頭側RFIDリーダ51でタグ地上子81の情報を受信し、時刻「7:30:03」に先頭側RFIDリーダ51でタグ地上子82の情報を受信し、時刻「7:30:10」に後尾側RFIDリーダ53でタグ地上子81の情報を受信し、時刻「7:30:13」に後尾側RFIDリーダ53でタグ地上子82の情報を受信しており、これらの情報が受信履歴として記録されている。
【0037】
なお、先頭側RFIDリーダ51がタグ地上子8との通信を行なっていなければ通信履歴は記録されない。
後尾側RFIDリーダ53においてタグ地上子82の情報を受信した際、車上制御装置61は通信履歴情報7を照査する。そして、アンテナ間距離を走行するのに要する時間だけ遡った時点に先頭側RFIDリーダ51の当該タグ地上子82との通信履歴があるか否かを判定する。対応する通信履歴があれば、先頭側RFIDリーダ51も正常に動作していると判定する。
【0038】
図7のフローチャートを参照して先頭側RFIDリーダ51の故障診断の流れを説明する。
車上制御装置61は、先頭側RFIDリーダ51または後尾側RFIDリーダ53から通信情報(地上子からの受信情報)を取得すると、その通信情報とともに通信時刻とRFIDリーダ51(53)の識別情報を通信履歴として順次記録している(ステップS201、ステップS202)。
【0039】
車上制御装置61は、後尾側RFIDリーダ53から通信情報を取得すると(ステップS203)、先頭側RFIDリーダ51の通信履歴を照査する(ステップS204)。そして、後尾側RFIDリーダ53にて情報を受信した時点からアンテナ間距離を走行する時間またはその許容誤差範囲だけさかのぼった時点に、対応する先頭側RFIDリーダ51の通信履歴があるか否かを判定する(ステップS205)。
アンテナ間距離を走行する時間は、速度発電機65にて計測している速度パルスとアンテナ間距離とから算出できる。例えば、後尾側受信時の走行速度値でアンテナ間距離を除算すれば、車両が先頭側アンテナから後尾側アンテナまでを走行した時間(アンテナ間走行時間)が算出できる。車上制御装置61は、算出したアンテナ間走行時間だけ後尾側での情報受信時からさかのぼった時刻かその許容誤差範囲の時刻での通信履歴を照査する。
【0040】
後尾側受信時からアンテナ間走行時間を遡った時刻の許容誤差範囲内に、先頭側RFIDリーダ51の対応する地上子との通信履歴があれば(ステップS205;Yes)、正常と診断し(ステップS206)、処理を終了する。
一方、後尾側受信時からアンテナ間走行時間を遡った時刻の前後の許容誤差範囲内に、先頭側RFIDリーダ51の対応する地上子との通信履歴がない場合は(ステップS205;No)、先頭側RFIDリーダ51が故障していると診断する(ステップS105)。車上制御装置61は、判定結果に応じた処理を実行する。例えば車上制御装置61は、無線LAN63を用いて後尾側RFIDリーダ53の故障の旨を地上制御装置へ通知したり、列車制御パターンを安全側制御パターンへ切り替えたりする。
【0041】
以上説明したように、後尾側RFIDリーダ53の通信が正常に行われている場合は、先頭側RFIDリーダ51の通信履歴7を照査することにより、先頭側RFIDリーダ51の通信診断を行なうことが可能となり、先頭側RFIDリーダ51の故障を検知できる。その結果、従来のように、検知ループ等の故障診断用の新たな設備を設けなくても、既存の設備で故障を検知でき、低コストで列車の運行の安全性を確保できる。
【0042】
なお、車上制御装置61は、後尾側RFIDリーダ53の通信診断(図4)及び先頭側RFIDリーダ51の通信診断(図7)を互いに行なうことが望ましいが、いずれか一方のみを実行するものとしてもよい。
【0043】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る故障検知方法等の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0044】
1・・・・・位置検知システム
5・・・・・列車
50・・・・・車上装置
51・・・・・先頭側RFIDリーダ
52・・・・・先頭側アンテナ
53・・・・・後尾側RFIDリーダ
54・・・・・後尾側アンテナ
55・・・・・車輪
61・・・・・車上制御装置
62・・・・・車両データベース
63・・・・・GPS装置
64・・・・・無線LAN装置
65・・・・・速度発電機
7・・・・・・通信履歴情報
81,82,83,84、8・・・・タグ地上子
9・・・・・・・・レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の先頭及び後尾に搭載される非接触通信機器と、地上に設置され地点情報を保持する地上子との間で非接触通信を行なうことにより車上で車両の走行位置を検知する位置検知システムにおける前記非接触通信機器の故障検知方法であって、
車両の先頭及び後尾のいずれか一方の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知する通信検知ステップと、
前記通信検知ステップにおける通信検知時を基準に、車両が先頭及び後尾の非接触通信機器のアンテナ間の距離だけ走行した時、または該アンテナ間の距離を走行するのに要する時間だけ前記基準からさかのぼった時における、他方の非接触通信機器の通信状況を確認する確認ステップと、
前記確認ステップにより確認した他方の非接触通信機器の通信状況に基づき他方の非接触通信機器が故障であるか否かを判定する故障判定ステップと、
を含むことを特徴とする非接触通信機器の故障検知方法。
【請求項2】
前記通信検知ステップにおいて、先頭の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した場合は、
前記確認ステップにおいて、前記基準時から前記後尾の非接触通信装置における前記地上子との通信状況の監視を開始するとともに、車両の走行距離の監視を開始し、
前記故障判定ステップにおいて、
当該走行距離が前記アンテナ間の距離またはその許容誤差範囲となる時期に、後尾の非接触通信機器にて前記地上子との通信が行われたか否かを判定し、該当する時期に後尾の非接触通信機器において前記地上子との通信が行われない場合は、後尾の非接触通信機器が故障であると判定し、故障検知情報を出力することを特徴とする請求項1に記載の非接触通信機器の故障検知方法。
【請求項3】
前記通信検知ステップにおいて、車両の先頭及び後尾のいずれか一方の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した際に、通信履歴を記録する通信履歴記録ステップを更に備え、
前記通信検知ステップにおいて、後尾の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した場合は、
前記確認ステップにおいて、先頭の非接触通信機器の通信履歴を照査し、
前記故障判定ステップにおいて、当該車両が前記アンテナ間の距離を走行する時間だけ遡った時期またはその許容誤差範囲内に前記先頭の非接触通信装置における前記地上子との通信履歴が記録されているか否かを判定し、該当する通信履歴がない場合は、先頭の非接触通信機器が故障したと判定し、故障検知情報を出力することを特徴とする請求項1に記載の非接触通信機器の故障検知方法。
【請求項4】
車両の先頭及び後尾に搭載される非接触通信機器と、地上に設置され地点情報を保持する地上子との間で非接触通信を行なうことにより車上で車両の走行位置を検知する位置検知システムにおける前記非接触通信機器の故障検知装置であって、
車両の走行距離を検出する走行距離検出手段と、
車両の先頭及び後尾のいずれか一方の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知する通信検知手段と、
前記通信検知手段における通信検知時を基準に、車両が先頭及び後尾の非接触通信機器のアンテナ間の距離だけ走行した時、または該アンテナ間の距離を走行するのに要する時間だけ前記基準からさかのぼった時における、他方の非接触通信機器の通信状況を確認する確認手段と、
前記確認手段により確認した他方の非接触通信機器の通信状況に基づき他方の非接触通信機器が故障であるか否かを判定する故障判定手段と、
を備えることを特徴とする非接触通信機器の故障検知装置。
【請求項5】
前記通信検知手段が、先頭の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した場合は、
前記確認手段は、前記基準時から前記後尾の非接触通信装置における前記地上子との通信状況の監視を開始するとともに、前記走行距離検出手段により計測される車両の走行距離の監視を開始し、
前記故障判定手段は、
当該走行距離が前記アンテナ間の距離またはその許容誤差範囲となる時期に、後尾の非接触通信機器にて前記地上子との通信が行われたか否かを判定し、該当する時期に後尾の非接触通信機器において前記地上子との通信が行われない場合は、後尾の非接触通信機器が故障であると判定し、故障検知情報を出力することを特徴とする請求項4に記載の非接触通信機器の故障検知装置。
【請求項6】
前記通信検知手段が車両の先頭及び後尾のいずれか一方の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した際に、通信履歴を記録する通信履歴記録手段を更に備え、
前記通信検知手段が、後尾の非接触通信機器と前記地上子との通信を検知した場合は、
前記確認手段は、先頭の非接触通信機器の通信履歴を照査し、
前記故障判定手段は、当該車両が前記アンテナ間の距離を走行する時間だけ遡った時期またはその許容誤差範囲内に前記先頭の非接触通信装置における前記地上子との通信履歴が記録されているか否かを判定し、該当する通信履歴がない場合は、先頭の非接触通信機器が故障したと判定し、故障検知情報を出力することを特徴とする請求項4に記載の非接触通信機器の故障検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−183937(P2011−183937A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51326(P2010−51326)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】