説明

非晶質状態が安定な相変化記録膜およびこの相変化記録膜を形成するためのスパッタリングターゲット

【課題】非晶質状態が安定でかつ抵抗値が高いために非晶質化の際に流れる電流値が低い相変化記録膜およびその相変化記録膜を形成するためのスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】原子%でGe:27〜45%、Sb:5〜20%を含有し、さらにB、Al、C、Siおよび希土類元素の内の1種または2種以上を合計で0.5〜8%を含有し、さらにGa:0.5〜8%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする相変化記録膜およびその相変化膜を形成するためのスパッタリングターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非晶質状態が安定でかつ抵抗値が高いために非晶質化の際に流れる電流値が低い相変化記録膜およびその相変化記録膜を形成するためのスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カルコゲナイドを含む相変化材料を半導体不揮発メモリーの1種である相変化メモリー(Phase Change RAM)に適用する動きが盛んである。カルコゲナイト材料は、適切な組成を選択すれば、これをヒーターで加熱して溶融し、即急冷すれば容易に非晶質化し、非晶質化した記録相は、結晶化温度以上融点以下の温度に保持すれば容易に結晶状態に戻すことができる。なおかつ結晶状態と非晶質状態とでは数桁電気抵抗が異なることから、これらを1と0に対応させることで、不揮発の可逆的な記憶を実現することができる。半導体不揮発メモリーにおいてカルコゲナイド材料の中で最も広く用いられているのは、Ge−Sb−Te合金であり、中でもGe22.2Sb22.2Te55.6あるいはその周辺の組成は相変化速度が速い優れた材料として最も多く用いられている。
このGe−Sb−Te系相変化記録層は、相変化記録となる成分組成の合金からなるターゲットを用いてスパッタリングすることにより形成することも知られている。(例えば、特許文献1〜3、非特許文献1〜2参照)。
【特許文献1】特表2001−502848号公報
【特許文献2】特表2002−512439号公報
【特許文献3】特表2002−540605号公報
【非特許文献1】「応用物理」第71巻、第12号(2002)第1513〜1517頁
【非特許文献2】「日経マイクロデバイス」2003年3月号、第104頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、相変化メモリーの実用化に向けて開発が進められる中でGe22.2Sb22.2Te55.6あるいはその周辺組成のGe−Sb−Te系相変化記録膜は、非晶質状態の安定性が十分でなく、結晶化温度よりも低い温度下においても非晶質状態にある相変化膜を長時間放置すると結晶化してしまうことが問題とされるようになってきた。これはメモリーとして応用する際、たとえ室温でも長時間放置すると記憶内容が消失してしまう可能性があることを意味する。したがって、記憶の保持特性、信頼性に優れたメモリーを実現するためには非晶質安定性の高い相変化材料が必要となる。一般に、Ge−Sb−Te系材料ではGe含有量を多くかつSb含有量を少なくすると非晶質が安定化することは良く知られているが、Ge含有量を多くかつSb含有量を少なくすると、比抵抗が低下したり、融点が上昇したりする問題がある。
比抵抗が低かったりまたは融点が高いと、相変化層を非晶質化する際に回路に大きな電流値を流さなければならず、そのために消費電力が大きくなり、また大電流を流すためには大きなサイズのセル選択用トランジスタが必要となることから回路の微細化の障害となっていた。
したがって、現在では、非晶質状態が安定で長時間保持され、さらに非晶質化の際に流れる電流値の低い相変化記録膜が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者らは、非晶質状態が安定で長時間保持され、さらに非晶質化の際に流れる電流値の低い相変化記録膜を得るべく研究を行なった結果、
原子%(以下、%は原子%を示す)で、Ge:27〜45%、Sb:5〜20%を含有し、さらにGa:0.5〜8%を含有し、さらに必要に応じてB、Al、C、Siおよび希土類元素の内の1種または2種以上を合計で0.5〜8%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有する相変化記録膜は、従来のGe22.2Sb22.2Te55.6あるいはその周辺組成のGe−Sb−Te系相変化記録膜に比べて非晶質状態が安定で長時間保持され、かつGe−Sb−Te三元系のGeリッチかつSbプアな組成、例えば、Ge38.1Sb9.5Te52.4などと比較すると融点が低く比抵抗が高いために非晶質化の際に流れる電流値が低くなるという研究結果が得られたのである。
【0005】
この発明は、かかる研究結果に基づいて成されたものであって、
(1)Ge:27〜45%、Sb:5〜20%を含有し、さらにGa:0.5〜8%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有する非晶質状態が安定な相変化記録膜、
(2)原子%でGe:27〜45%、Sb:5〜20%を含有し、さらにGa:0.5〜8%を含有し、さらにB、Al、C、Siおよび希土類元素の内の1種または2種以上を合計で0.5〜8%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有する非晶質状態が安定な相変化記録膜、に特徴を有するものである。
【0006】
前記希土類元素の内でもCe,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dyが特に好ましく、また前記相変化記録膜は結晶化後に四探針法により測定した比抵抗値が5×10−2〜5×10Ω・cmであることが好ましい。したがって、この発明は、
(3)前記希土類元素は、Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dyの内の1種または2種以上である前記(2)記載の非晶質状態が安定な相変化記録膜、
(4)結晶化後に、四探針法により測定した比抵抗値が5×10−2〜5×10Ω・cmである前記(1)、(2)または(3)記載の非晶質状態が安定な相変化記録膜、に特徴を有するものである。
【0007】
前記(1)〜(2)記載の非晶質状態が安定な相変化記録膜は、(1)〜(2)記載の成分組成と同じ成分組成を有するターゲットを用い、スパッタリングすることにより形成することができる。したがって、この発明は、
(5)Ge:27〜45%、Sb:5〜20%を含有し、さらにGa:0.5〜8%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有する前記(1)記載の非晶質状態が安定な相変化記録膜を形成するためのスパッタリングターゲット、
(6)Ge:27〜45%、Sb:5〜20%を含有し、さらにGa:0.5〜8%を含有し、さらにB、Al、C、Siおよび希土類元素の内の1種または2種以上を合計で0.5〜8%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有する前記(2)記載の非晶質状態が安定な相変化記録膜を形成するためのスパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0008】
前記(6)記載のスパッタリングターゲットに含まれる希土類元素は、Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dyであることが好ましい。したがって、この発明は、
(7)前記希土類元素は、Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dyの内の1種または2種以上である前記(6)記載の非晶質状態が安定な相変化記録膜を形成するためのスパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0009】
この発明の非晶質状態が安定な相変化記録膜の成分組成を前述のごとく限定した理由を説明する。
(a) Ge、Sb:
この発明の相変化記録膜に含まれるGeおよびSbは、Ge:27〜45%、Sb:5〜20%が好ましい。その理由は、Ge:27%未満では非晶質の安定性が十分でなく、一方、Geが45%を越えると、比抵抗が低下する上、結晶化温度、融点とも大きく上昇し、相変化が困難になるためである。また、Sb:5%未満であると比抵抗が低下する上、結晶化速度が遅くなるので好ましくなく、一方、Sbが20%を越えて含有すると非晶質安定性が十分でなくなるので好ましくないことによるものである。
【0010】
(b)Ga:
Gaは、Ge−Sb−Te系相変化記録膜に含有することにより融点を低下させると共に比抵抗を上昇させる作用を有するが、Ge−Sb−Te系相変化記録膜に含まれるGaの量が0.5%未満では比抵抗を上昇させかつ融点を低下させる効果が少ないので好ましくなく、一方、Gaを8%を越えて含有させるとGe−Sb−Te相にGaが完全に固溶せず、異相が析出し、比抵抗を上昇させる効果が得られなくなるので好ましくない。したがって、Gaの相変化記録膜に含有せしめる量を0.5〜8%(一層好ましくは、1〜6%)に定めた。
【0011】
(c)B,Al,C,Si,希土類元素
これら成分は、Ge−Sb−Te系相変化記録膜に含まれることにより抵抗値を上昇させる作用を有するので必要に応じて添加するが、相変化記録膜に含まれるこれら成分の量が0.5%未満では膜の抵抗値を上昇させる効果が少ないので好ましくなく、一方、8%を越えて含有すると結晶化温度の上昇が大きくなり、結晶化が困難になるので好ましくない。したがって、これら成分の含有量は0.5〜8%に定めた。これらの含有量の一層好ましい範囲は1〜6%である。なお、希土類元素の内でもCe,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dyが特に好ましい。
【0012】
この発明の相変化記録膜は、結晶化後に四探針法により測定した比抵抗値が5×10−2Ω・cm以上(一層好ましくは1×10−1Ω・cm以上)であることが必要であり、その理由は比抵抗値が5×10−2Ω・cm未満では回路に大きな電流が流れ、そのために消費電力が大きくなり、また微細化時の障害になるので好ましくないことによるものである。さらに非晶質状態のGe−Sb−Te合金の比抵抗は通常1×10Ω・cm程度であり、安定した読み出しのためには結晶時と非晶質時で少なくとも1桁半程度の抵抗差が有ることが好ましい。この為、結晶時の相変化記録膜の抵抗値は5×10Ω・cm以下が必要であり、したがって、この発明の相変化記録膜は、結晶化後に四探針法により測定した比抵抗値を5×10−2〜5×10Ω・cmに定めた。
【0013】
この発明の前記(1)〜(2)記載の成分組成を有する非晶質状態が安定な相変化記録膜を形成するためのスパッタリングターゲットは、この発明の前記(1)〜(2)記載の相変化記録膜の成分組成と同じ成分組成を有する合金をArガス雰囲気中で溶解したのち、鉄製モールドに出湯して合金インゴットを作製し、これら合金インゴットを不活性ガス雰囲気中で粉砕して合金粉末を作製し、この合金粉末を真空ホットプレスすることにより作製する。または上と同様にして作製したGe−Sb−Te−Ga合金粉末とその他の添加元素の粉末を混合してこの混合粉末を真空ホットプレスして作製しても良い。この真空ホットプレスは、圧力:15〜155MPa、温度:370〜580℃、1〜5時間保持の条件で行われる。
【発明の効果】
【0014】
この発明のスパッタリングターゲットを用いて形成した相変化記録膜は、非晶質状態が一層安定であることから記憶保持特性に優れ、信頼性の高い相変化メモリーの開発製造に寄与することから、新しい半導体メモリー産業の発展に大いに貢献し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
Ge、Sb、TeおよびGaをArガス雰囲気中で溶解し、この得られた溶湯を鋳造して合金インゴットを作製し、この合金インゴットをAr雰囲気中で粉砕することにより、いずれも粒径:250μm以下の合金粉末を作製した。この合金粉末と、粒径:100μm以下のB,Al,C,Si,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dyの要素粉末を混合して混合粉末を作製した。
これら合金粉末をそれぞれ温度:540℃、圧力:25MPaで真空ホットプレスすることによりホットプレス体を作製し、これらホットプレス体を超硬バイトを使用し、旋盤回転数:200rpmの条件で研削加工することにより直径:125mm、厚さ:5mmの寸法を有する円盤状の表1〜3に示される成分組成を有する本発明ターゲット1〜30、比較ターゲット1〜14および従来ターゲット1〜2を作製した。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
次に、表1〜3に示される本発明ターゲット1〜30、比較ターゲット1〜14および従来ターゲット1〜2をそれぞれ銅製の冷却用バッキングプレートに純度:99.999重量%のインジウムろう材にてハンダ付けし、これを直流マグネトロンスパッタリング装置に装着し、ターゲットと基板(表面に厚さ:100nmのSiOを形成したSiウエーハ)の間の距離を70mmになるようにセットした後、到達真空度:5×10-5Pa以下になるまで真空引きを行い、その後、全圧:1.0PaになるまでArガスを供給し、
・基板温度:室温、
・投入電力:50W(0.4W/cm)、
の条件でスパッタリングを行い、基板の表面に厚さ:300nmを有し表4〜6に示される成分組成を有する本発明相変化記録膜1〜30、比較相変化記録膜1〜14および従来相変化記録膜1〜2を形成した。
【0020】
このようにして得られた本発明相変化記録膜1〜30、比較相変化記録膜1〜14および従来相変化記録膜1〜2の成分組成をICP(誘導結合プラズマ法)により測定し、その結果を表4〜6示した。ただし、Cを含む膜に付いてはEPMAにより組成分析を行った。この際、大気から膜表面に吸着したCの影響を差し引くため、あらかじめCを添加していない相変化記録膜のC量を測定し、これを大気吸着によるCとみなし、C添加膜の定量値からCを添加していない定量値を差し引いた値を相変化記録膜のCの組成とした。さらに、得られた本発明相変化記録膜1〜30、比較相変化記録膜1〜14および従来相変化記録膜1〜2を窒素雰囲気中、300℃に5分間保持して結晶化した後、四探針法で比抵抗を測定し、さらに上記と同じ条件で直径:120mmのポリカーボネート基板上に3μmの厚さで成膜し、付いた膜を全量剥離して粉末化したものについてDTA(示差熱分析法)により毎分200mlのArフロー中、昇温速度10℃/分の条件で結晶化温度を測定し、その結果を表4〜6に示した。なお、本測定に用いた試料は20mgで統一した。ここでは150〜350℃付近に現れる発熱ピークを結晶化温度とした。
また、SiO100nm付きSiウエハ上に相変化記録膜を上と同じ条件で100nm成膜し、その上に保護膜としてSiOを10nm成膜した。この試料を成膜直後に市販の分光光度計にて波長380〜780nmの光の反射率を測定した。さらにこの試料を真空中、130℃で100時間保持し、その後再び同様にして反射率を測定した。表4〜6に波長:635nmにおける(真空熱処理後の反射率)/(成膜直後の反射率)の値を示した。この数値が1より大きいほど真空熱処理中に結晶化が進み、反射率が上昇したことを表す。逆にこの値が1に近いということは真空熱処理中も非晶質状態が安定に保持されたことを示す。なお、ここでは代表値として635nmの値を示したが、反射率が大きく変化した試料では他の波長域でも635nmと同等以上の反射率変化を示し、反射率変化がほとんど無かった試料においては他の波長でも変化が見られなかった。
【0021】
【表4】

【0022】
【表5】

【0023】
【表6】

【0024】
表4〜6示される結果から、本発明ターゲット1〜30を用いてスパッタリングすることにより得られた結晶化させた本発明相変化記録膜1〜30は、従来ターゲット1〜2を用いてスパッタリングすることにより得られた従来相変化記録膜1〜2に比べて電気抵抗が高いとこから非晶質化の際に流れる電流値が低く、さらに熱処理前後の反射率変化が小さいことから非晶質が安定であることが分かる。しかし、この発明の範囲から外れて添加成分を含む比較相変化記録膜1〜14は少なくとも一つの好ましくない特性が現れることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子%でGe:27〜45%、Sb:5〜20%を含有し、さらにGa:0.5〜8%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする非晶質状態が安定な相変化記録膜。
【請求項2】
原子%でGe:27〜45%、Sb:5〜20%を含有し、さらにGa:0.5〜8%を含有し、さらにB、Al、C、Siおよび希土類元素の内の1種または2種以上を合計で0.5〜8%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする非晶質状態が安定な相変化記録膜。
【請求項3】
前記希土類元素は、Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dyの内の1種または2種以上であることを特徴とする請求項2記載の非晶質状態が安定な相変化記録膜。
【請求項4】
結晶化後に、四探針法により測定した比抵抗値が5×10−2〜5×10Ω・cmであることを特徴とする請求項1、2または3記載の相変化記録膜。
【請求項5】
原子%でGe:27〜45%、Sb:5〜20%を含有し、さらにGa:0.5〜8%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1記載の非晶質状態が安定な相変化記録膜を形成するためのスパッタリングターゲット。
【請求項6】
原子%でGe:27〜45%、Sb:5〜20%を含有し、さらにGa:0.5〜8%を含有し、さらにB、Al、C、Siおよび希土類元素の内の1種または2種以上を合計で0.5〜8%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項2記載の非晶質状態が安定な相変化記録膜を形成するためのスパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記希土類元素は、Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dyの内の1種または2種以上であることを特徴とする請求項6記載の非晶質状態が安定な相変化記録膜を形成するためのスパッタリングターゲット。

【公開番号】特開2006−245251(P2006−245251A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−58291(P2005−58291)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】