説明

音響制御装置及び音響制御方法

【課題】
本発明は、同一空間内の所定位置に存在する複数のユーザに対して異なる種類の音声を快適に提供するための音響空間を創出できるようにする。
【解決手段】
本発明は、CPU10が2種類以上の音源から出力させる音声波形をそれぞれ認識しているため、一方の音源からの音声を出力する際に、当該一方の音源からの音声をユーザが聴取する位置に合わせて他方の音源の音声波形とほぼ逆位相でかつほぼ同振幅の擬似音声を生成して出力することにより当該ユーザが聴取する位置で当該他方の音源による音声を打ち消すことができるので、複数種類の音声による相互干渉を予め防止してユーザに快適な音響空間を創出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響制御装置及び音響制御方法に関し、例えば車載用のカーAV(Audio Visual)装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カーAV装置においては、自動車の車内空間のおけるエンターテインメント性を向上させるべく前席用スピーカから運転席のドライバー向けに例えばCD(Compact Disc)プレーヤの再生音を出力すると同時に、後部座席スピーカから後部座席のパッセンジャー向けに例えばDVD(Digital Versatile Disc)プレーヤによって再生した映像音声を出力することが行われている。
【0003】
しかしながら、狭い車内空間でこのような使い方がされた場合には前席用スピーカから出力されるCDプレーヤの再生音とDVDプレーヤの映像音声とが混在し、後部座席のパッセンジャーにとってはCDの再生音によってDVDの映像音声を聴き取ることが困難になり快適性が損なわれる。
【0004】
そこでカーAV装置においては、車内空間における快適性を損なわれることがないように、後部座席のパッセンジャーに対してはヘッドフォンを使用させる等の方策が考えられるが、その場合にはヘッドフォンを後部座席の人数分用意しなければならず、またユーザに装着時の煩わしさを感じさせるといった問題がある。
【0005】
このような観点から、複数の音源からの同時再生処理を制限することにより複数の音声が互いに干渉し合うことを防止するようになされたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10-275298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところでかかる構成のカーAV装置においては、特許文献1に示されたような複数の音源からの同時再生処理を制限する方法では異なる種類の音声の相互干渉を防止することはできるものの、前席側と後席側とで同時に異なる種類の音声を提供することができず、エンターテインメント性の向上にはつながらないという問題があった。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、同一空間内の所定位置に存在する複数のユーザに対して異なる種類の音声を快適に提供するための音響空間を創出し得る音響制御装置及び音響制御方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明の音響制御装置においては、所定位置に予め配設された複数の音声出力手段と、少なくとも2種類以上の音源からそれぞれ同時に発生する音声を上記複数の音声出力手段を介してそれぞれ出力させる制御手段とを具え、制御手段は2種類以上の音源から出力させる音声波形をそれぞれ認識しており、一方の音源からの音声を出力する際に、当該一方の音源からの音声をユーザが聴取する位置に合わせて他方の音源の音声波形とほぼ逆位相でかつほぼ同振幅の擬似音声を生成して出力することにより当該他方の音源による音声を打ち消すようにする。
【0009】
本発明の音響制御装置では、予め2種類以上の音源から出力させる音声波形をそれぞれ認識しているため、一方の音源からの音声を出力する際に、当該一方の音源からの音声をユーザが聴取する位置に合わせて他方の音源の音声波形とほぼ逆位相でかつほぼ同振幅の擬似音声を生成して出力することにより当該ユーザが聴取する位置で当該他方の音源による音声を打ち消すことができるので、2種類以上の音源による音声を出力する最初の段階から複数種類の音声による相互干渉を予め防止してユーザに快適な音響空間を提供することができる。
【0010】
また本発明の音響制御方法においては、所定位置に予め配設された複数の音声出力手段を介して少なくとも2種類以上の音源からそれぞれ出力する異なる音声の音声波形を認識する認識ステップと、一方の音源からの音声を出力する際に、当該一方の音源からの音声をユーザが聴取する位置に合わせて他方の音源の音声波形とほぼ逆位相でかつほぼ同振幅の擬似音声を生成して出力することにより当該他方の音源による音声を打ち消す音響制御ステップとを設けるようにする。
【0011】
本発明の音響制御方法では、予め2種類以上の音源から出力させる音声波形をそれぞれ認識しているため、一方の音源からの音声を出力する際に、当該一方の音源からの音声をユーザが聴取する位置に合わせて他方の音源の音声波形とほぼ逆位相でかつほぼ同振幅の擬似音声を生成して出力することにより当該ユーザが聴取する位置で当該他方の音源による音声を打ち消すことができるので、2種類以上の音源による音声を出力する最初の段階から複数種類の音声による相互干渉を予め防止してユーザに快適な音響空間を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、予め2種類以上の音源から出力させる音声波形をそれぞれ認識しているため、一方の音源からの音声を出力する際に、当該一方の音源からの音声をユーザが聴取する位置に合わせて他方の音源の音声波形とほぼ逆位相でかつほぼ同振幅の擬似音声を生成して出力することにより当該ユーザが聴取する位置で当該他方の音源による音声を打ち消すことができるので、2種類以上の音源による音声を出力する最初の段階から複数種類の音声による相互干渉を予め防止してユーザに快適な音響空間を提供し得る音響制御装置及び音響制御方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0014】
(1)カーAV装置の構成
図1において、1は全体として車内空間8に設置されたカーAV装置を示し、運転席及び助手席間のダッシュボードに取り付けられたAVユニット2を介してCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、FM/AMラジオ等による各種コンテンツの音声をフロントスピーカ3、4及びリアスピーカ5、6を介して提供し得るようになされている。
【0015】
その際、カーAV装置1ではフロントスピーカ3、4を介して運転席のドライバー向けに音声を出力し、リアスピーカ5、6を介して後部座席のパッセンジャー向けに音声を出力する。
【0016】
カーAV装置1では、AVユニット2を運転席のドライバーが操作することにより、フロントスピーカ3、4から例えばCDの再生音をドライバー向けに出力させると同時に、リアスピーカ5、6から例えば後部座席のパッセンジャー向けにDVDの映像音声を出力し得るようになされている。
【0017】
なおカーAV装置1は、例えば運転席のドライバーのみが乗車している場合には、フロントスピーカ3、4及びリアスピーカ5、6を介して同一コンテンツの音声を出力することにより、車内空間8においてサラウンド効果を発揮させるように用いることもできる。
【0018】
このようにカーAV装置1では、異なる種類のコンテンツの音声をフロントスピーカ3、4及びリアスピーカ5、6を介して同時かつ個別に出力したり、同一コンテンツの音声をフロントスピーカ3、4及びリアスピーカ5、6を介して出力するように切り換えることが可能あり、ドライバーのAVユニット2に対するボタン操作だけで容易に切り換えることができる。
【0019】
(2)音声干渉の防止原理
ところで、車内空間8においてフロントスピーカ3、4から運転席のドライバー向けにCDの再生音が出力され、リアスピーカ5、6から後部右側座席のパッセンジャー向けにDVDの映像音声が出力されている環境下では、後部右側座席のパッセンジャーにとっては例えばリアスピーカ5からDVDの映像音声を直接聴取するだけではなく、フロントスピーカ3からCDの再生音も同時に聴取してしまう。
【0020】
すなわち、この場合にはリアスピーカ5からのDVDの映像音声だけではなくフロントスピーカ3からのCDの再生音までもが混在した状態でユーザに聴こえてしまうため、当該ユーザにとって重要なDVDの映像音声が聴こえ難くなる。
【0021】
因みに、車内空間8ではフロントスピーカ3、4から直接波として届くCDの再生音以外に反射波として届く再生音や、リアスピーカ5、6から直接波として届くDVDの映像音声以外に反射波として届く映像音声についても存在し、これらが各種混在した状態でユーザに聴こえてしまうが、説明の便宜上ここではフロントスピーカ3からのCDの再生音とリアスピーカ5からのDVDの映像音声との関係においてのみ以下説明する。
【0022】
ここで、フロントスピーカ3から直接波として届くCDの再生音波形を関数S1(t)で表し、リアスピーカ5から直接波として届くDVDの映像音声波形を関数S2(t)で表した場合、フロントスピーカ3から遅延時間τ1経過後に後部右側座席のパッセンジャーの耳に届くCDの再生音と、リアスピーカ5から遅延時間τ2経過後にパッセンジャーの耳に届くDVDの映像音声とでは遅延時間τ1と遅延時間τ2との時間差が生じている。
【0023】
そうすると、CDの再生音とDVDの映像音声とが混在した状態で後部右側座席のパッセンジャーの位置で実際に聴こえる音声波形E1は、次式
【0024】
【数1】

【0025】
で表される。
【0026】
従って、カーAV装置1は後部右側座席のパッセンジャーの位置でフロントスピーカ3から聴こえるCDの再生音波形S1(t−τ1)と逆位相でかつ同振幅の擬似音声(−S1(t−τ1)を生成し、これをリアスピーカ5からのDVDの映像音声S2(t)に加えた音声波形RE1を生成して出力することにより、音声干渉を防止するようになされている。
【0027】
この音声波形RE1は、DVDの映像音声S2(t)に擬似音声(−S1(t−τ1))を加算した次式
【0028】
【数2】

【0029】
で表され、この(2)式に基づく音声波形RE1の音声をカーAV装置1がリアスピーカ5から出力する。
【0030】
これによりカーAV装置1では、後部右側座席のパッセンジャーに到達する実際の音声波形E1´が、次式
【0031】
【数3】

【0032】
で表され、フロントスピーカ3からパッセンジャーの耳に届く時点のCDの再生音波形S1(t−(τ1−τ2))が打ち消されることになる。
【0033】
同様に、フロントスピーカ3からのCDの再生音波形を関数S1(t)で表し、リアスピーカ5からのDVDの映像音声波形を関数S2(t)で表した場合、フロントスピーカ3から遅延時間τ3経過後にドライバーの耳に届くCDの再生音と、リアスピーカ5から遅延時間τ4経過後にドライバーの耳に届くDVDの映像音声とでは遅延時間τ3と遅延時間τ4との時間差が生じている。
【0034】
そうすると、CDの再生音とDVDの映像音声とが混在した状態で運転席のドライバーの位置で実際に聴こえる音声波形E2は、次式
【0035】
【数4】

【0036】
で表される。
【0037】
従って、カーAV装置1は運転席のドライバーの位置でリアスピーカ5から聴こえるDVDの映像音声波形S2(t−τ4)と逆位相でかつ同振幅の擬似音声(−S2(t−τ4))を生成し、これをフロントスピーカ3からのCDの再生音波形S1(t)に加えた音声波形FE2を生成して出力することにより、音声干渉を防止するようになされている。
【0038】
この音声波形FE2は、次式
【0039】
【数5】

【0040】
で表され、この(5)式に基づく音声をカーAV装置1がフロントスピーカ3から出力する。
【0041】
これによりカーAV装置1では、運転席のドライバーに到達する実際の音声波形E2´が、次式
【0042】
【数6】

【0043】
で表され、リアスピーカ5からドライバーの耳に届く時点のDVDの映像音声波形S2(t−(τ4−τ3))が打ち消されることになる。
【0044】
(3)AVユニットの回路構成
このような音声干渉の防止原理に基づいて構成されたAVユニット2の回路構成について次に説明する。
【0045】
図2に示すようにAVユニット2は、CPU(Central Processing Unit)10が全体を統括制御すると共に、ROM(Read Only Memory)11に格納された基本プログラムやアプリケーションプログラムをRAM(Random Access Memory)12上で起動することにより、通常の再生処理及び後述する音響制御処理を実行するようになされている。
【0046】
AVユニット2は、CDプレーヤ13、DVDプレーヤ14及びFM/AMラジオ15を搭載しており、それぞれフロントスピーカ接続スイッチ郡16、17及びリアスピーカ接続スイッチ郡18、19に接続されている。
【0047】
CDプレーヤ13は、フロントスピーカ接続スイッチ郡16のスイッチ16A及びフロントスピーカ接続スイッチ郡17のスイッチ17AがONのときにフロントスピーカ3、4からCDの再生音をそれぞれ出力し、リアスピーカ接続スイッチ郡18のスイッチ18A及びリアスピーカ接続スイッチ郡19のスイッチ19AがONのときにリアスピーカ5、6からCDの再生音を出力し、スイッチ16A、17A及びスイッチ18A、19Aの全てがONのときにはフロントスピーカ3、4及びリアスピーカ5、6からCDの再生音を出力するようになされている。
【0048】
DVDプレーヤ14は、フロントスピーカ接続スイッチ郡16のスイッチ16B及びフロントスピーカ接続スイッチ郡17のスイッチ17BがONのときにフロントスピーカ3、4からDVDの映像音声を出力し、リアスピーカ接続スイッチ郡18のスイッチ18B及びリアスピーカ接続スイッチ郡19のスイッチ19BがONのときにリアスピーカ5、6からDVDの映像音声を出力し、スイッチ16B、17B及びスイッチ18B、19Bの全てがONのときにはフロントスピーカ3、4及びリアスピーカ5、6からDVDの映像音声を出力するようになされている。
【0049】
FM/AMラジオ15は、フロントスピーカ接続スイッチ郡16のスイッチ16C及びフロントスピーカ接続スイッチ郡17のスイッチ17CがONのときにフロントスピーカ3、4からラジオ音声を出力し、リアスピーカ接続スイッチ郡18のスイッチ18C及びリアスピーカ接続スイッチ郡19のスイッチ19CがONのときにリアスピーカ5、6からラジオ音声を出力し、スイッチ16C、17C及びスイッチ18C、19Cの全てがONのときにはフロントスピーカ3、4及びリアスピーカ5、6からラジオ音声を出力するようになされている。
【0050】
CPU10は、操作部29に対するユーザのボタン操作に応じてCDプレーヤ13、DVDプレーヤ14又はFM/AMラジオ15のいずれかに音源(ソース)を切り換えることにより、フロントスピーカ3、4から出力する音声のソースと、リアスピーカ5、6から出力する音声のソースとが異なった状態で同時に出力することができる。
【0051】
またCPU10は、操作部29のボリューム(図示せず)がユーザによって操作されたことを認識すると、電子ボリューム20〜23を制御してCDプレーヤ13、DVDプレーヤ14又はFM/AMラジオ15からの音量を調整し得、音量調整後におけるCDの再生音、DVDの映像音声又はラジオ音声をDSP(Digital Signal Processor)回路24へ送出する。
【0052】
DSP回路24は、後部右側座席のパッセンジャーが着座している状態でフロントスピーカ3、4からのCDの再生音と、リアスピーカ5、6からのDVDの映像音声とが干渉し合って聴取し難い状況になることを回避すべく、予めリアスピーカ5、6からのDVDの映像音声に対してCDの再生音と同振幅で逆位相の擬似音声を生成して加えることにより、後部右側座席のパッセンジャーの位置で聴こえるフロントスピーカ3、4からのCDの再生音を打ち消すようになされている。
【0053】
同様にDSP回路24は、運転席にドライバーが着座している状態でリアスピーカ5、6からのDVDの映像音声と、フロントスピーカ3、4からのCDの再生音とが干渉し合って聴取し難い状況になることを回避すべく、予めフロントスピーカ3、4からのCDの再生音に対してDVDの映像音声と同振幅で逆位相の擬似音声を生成して加えることにより、後部右側座席のパッセンジャーの位置で聴こえるリアスピーカ5、6からのDVDの映像音声を打ち消すようになされている。
【0054】
ここでDSP回路24は、図3に示すようにCDの再生音波形S1(t)が電子ボリューム20から入力されると、これを加算回路51へ供給すると共に遅延素子T5へ供給し、DVDの映像音声波形S2(t)が電子ボリューム22から入力されると、これを加算回路55へ供給すると共に遅延素子T1へ供給する。
【0055】
遅延素子T5は、遅延時間τ1に相当する時間分遅延させるためのシフトレジスタであり、遅延素子T1は遅延時間τ4に相当する時間分遅延させるためのシフトレジスタである。
【0056】
因みに、遅延素子T5及びT1において設定された遅延時間τ1、遅延時間τ4は、予め車内空間8で計測された実際の遅延時間に基づいて決定されており、音声干渉を確実に防止するようになされている。
【0057】
従ってDSP回路24は、当該遅延素子T5を介して遅延したCDの再生音波形S1(t−τ1)を生成し、これを移送器45を介して逆位相に移送すると共に、CDの再生音波形S1(t)の音量レベルに合わせるための係数(−K1:K1は正の整数))を乗算することにより擬似音声(−K1・S1(t−τ1))を生成し、当該擬似音声(−K・S1(t−τ1))とDVDの映像音声S2(t)とを加算器55で加算することにより(2)式で示したような音声波形RE1を生成し、これを後段の加算器56へ送出する。
【0058】
同様にDSP回路24は、当該遅延素子T1を介して遅延したDVDの映像音声S2(t−τ4)を生成し、これを移送器45を介して逆位相に移送すると共に、DVDの映像音声波形S2(t)の音量レベルに合わせるための係数(−K2;K2は正の整数)を乗算することにより擬似音声(−K2・S2(t−τ4))を生成し、当該擬似音声(−K2・S2(t−τ4))とCDの再生音波形S1(t)と加算器51で加算することによりフロントスピーカ3から出力すべき音声波形FE1を生成し、これを後段の加算器52へ送出する。
【0059】
因みに音声波形FE1は、次式
【0060】
【数7】

【0061】
で表される。
【0062】
なお、遅延素子T2〜T4及び遅延素子T6〜T8については、リアスピーカ5やフロントスピーカ3から直接届くDVDの映像音声、CDの再生音以外の反射波に対して所定時間分だけ遅延させるためのシフトレジスタであり、移送器42〜44及び移送器46〜48を介して加算器52〜54及び加算器56〜58へ送出される。
【0063】
その後CPU10は、DSP回路24(図2)からの音声信号に応じた音声をパワーアンプ25〜28を介してフロントスピーカ3、4及びリアスピーカ5、6から出力するようになされている。
【0064】
(4)動作及び効果
以上の構成において、カーAV装置1のCPU10はフロントスピーカ3、4から出力するCDの再生音波形S1(t)及びリアスピーカ5、6から出力するDVDの映像音声波形S2(t)を予め認識しているため、後部右側座席のパッセンジャーの位置で干渉音となるフロントスピーカ3からのCDの再生音波形S1(t−τ1)と逆位相でかつ同振幅の擬似音声(−S1(t−τ1))を生成し、これをリアスピーカ5からのDVDの映像音声S2(t)に加えた音声波形RE1として出力する。
【0065】
これによりカーAV装置1のCPU10は、リアスピーカ5からのDVDの映像音声波形S2(t)に加えて擬似音声(−S1(t−τ1))についても出力することができるので、後部右側座席のパッセンジャーの位置ではフロントスピーカ3から遅延時間(τ1−τ2)後に届くCDの再生音波形S1(t−(τ1−τ2))を後部右側座席のパッセンジャーの位置に届く時点の擬似音声(−S1(t−(τ1−τ2)))で打ち消すことができる。
【0066】
これにより後部右側座席に位置するパッセンジャーにとっては、リアスピーカ5からのDVDの映像音声だけしか聴こえないことになり、フロントスピーカ3から運転席のドライバー向けにCDの再生音が出力されていても音声干渉によって聴取しにくい状況を解消することができる。
【0067】
つまりカーAV装置1では、従来のように後部座席のパッセンジャーに対してヘッドフォンを使用させたり、複数の音源からの同時再生処理を制限するのではなく、フロンとスピーカ3、4と、リアスピーカ5、6から異なる種類のCDの再生音とDVDの映像音声を同時に出力した場合であっても相互に音声干渉することがない快適な音響空間を創出することができる。
【0068】
またカーAV装置1では、フロントスピーカ3、4から出力するCDの再生音波形S1(t)及びリアスピーカ5、6から出力するDVDの映像音声波形S2(t)を予め認識しているため、マイクロフォン等を用いて不要な干渉音を検出する必要がない分だけ処理を簡素化することができる。
【0069】
以上の構成によれば、カーAV装置1のCPU10はフロントスピーカ3、4及びリアスピーカ5、6から出力する音源を認識しているため、フロントスピーカ3、4及びリアスピーカ5、6から各座席まで音声が到達する遅延時間に基づいて打ち消したい干渉音と逆位相でかつ同振幅の擬似音声を生成して出力することができるので、フロントスピーカ3、4及びリアスピーカ5、6から異なる音源の音声を同時に出力する場合でも音声干渉を防止した快適な音響空間を創出することができる。
【0070】
(5)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、遅延素子T5及びT1において設定された遅延時間τ1、遅延時間τ4として、予め車内空間8で計測された実際の遅延時間を用いるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、車種(セダン、ワンボックス、スポーツカー、SUV(Sport Utility Vehicle)等)に応じて決まる大まかな遅延時間を用いるようにしても良い。
【0071】
また上述の実施の形態においては、フロントスピーカ3、4及びリアスピーカ5、6から2種類の音声を同時に出力する場合に本発明を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、フロントスピーカ3、4及びリアスピーカ5、6の各スピーカ毎に最大4種類のソースの音声を同時に出力する場合に本発明を適用するようにしても良い。
【0072】
さらに上述の実施の形態においては、AVユニット2としてCDプレーヤ13、DVDプレーヤ14、FM/AMラジオ15を搭載するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ハードディスク、MD(Mini Disc:商標)、半導体メモリ等を再生するデバイスを搭載するようにしても良い。
【0073】
さらに上述の実施の形態においては、本発明の音響制御装置をカーAV装置1に適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ナビゲーション装置とカーAV装置とが一体に結合されたナビゲーションAV装置に適用するようにしても良い。
【0074】
さらに上述の実施の形態においては、本発明の音響制御装置をカーAV装置1に適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、車内空間8だけではなくリビングルーム等の複数のスピーカを用いて複数の音源から異なる種類の音声を同時に出力可能なAV装置に適用するようにしても良い。
【0075】
さらに上述の実施の形態においては、打ち消したい干渉音と逆位相でかつ同振幅の擬似音声を生成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、干渉音と完全に逆位相でかつ同振幅でなくても、ほぼ逆位相でかつほぼ同振幅でなる擬似音声を生成するようにしても良い。
【0076】
さらに上述の実施の形態においては、本発明の音響制御装置としてのカーAV装置1を音声出力手段としてのフロントスピーカ3、4及びリアスピーカ5、6、制御手段としてのCPU10及びDSP24によって構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、その他種々の回路構成で音響制御装置を構成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の音響制御装置及び音響制御方法は、例えば複数のスピーカから個別に異なる種類の音声を同時に出力する場合の音声干渉を防止する種々の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明におけるカーAV装置の構成を示す略線図である。
【図2】AVユニットの回路構成を示す略線的ブロック図である。
【図3】DSPの回路構成を示す略線図である。
【符号の説明】
【0079】
1……カーAV装置、2……AVユニット、3、4……フロントスピーカ、5、6……リアスピーカ、8……車内空間、7……、10……CPU、11……ROM、12……RAM、13……CDプレーヤ、14……DVDプレーヤ、15……FM/AMラジオ、16、17……フロントスピーカ接続スイッチ郡、18、19……リアスピーカ接続スイッチ郡、20〜23……電子ボリューム、24……DSP回路、25〜28……パワーアンプ、29……操作部、31〜38……遅延素子、41〜48……移送器、51〜58……
加算回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定位置に予め配設された複数の音声出力手段と、
少なくとも2種類以上の音源からそれぞれ同時に発生する音声を上記複数の音声出力手段を介してそれぞれ出力させる制御手段と
を具え、
上記制御手段は、上記2種類以上の音源から出力させる音声波形をそれぞれ認識しており、一方の音源からの音声を出力する際に、当該一方の音源からの音声をユーザが聴取する位置に合わせて他方の音源の音声波形とほぼ逆位相でかつほぼ同振幅の擬似音声を生成して出力することにより当該他方の音源による音声を打ち消す
ことを特徴とする音響制御装置。
【請求項2】
上記制御手段は、上記ユーザが聴取する位置に対して上記複数の音声出力手段からの音声が到達する遅延時間を考慮した上記擬似音声を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の音響制御装置。
【請求項3】
上記制御手段は、上記ユーザに到達する上記音声の直接波だけではなく複数の反射波を考慮して上記擬似音声を複数生成し出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の音響制御装置。
【請求項4】
上記複数の音声出力手段は、車内空間の所定位置に予め配設された複数のスピーカである
ことを特徴とする請求項1に記載の音響制御装置。
【請求項5】
所定位置に予め配設された複数の音声出力手段を介して少なくとも2種類以上の音源からそれぞれ出力する音声の音声波形を認識する認識ステップと、
一方の音源からの音声を出力する際に、当該一方の音源からの音声をユーザが聴取する位置に合わせて他方の音源の音声波形とほぼ逆位相でかつほぼ同振幅の擬似音声を生成して出力することにより当該他方の音源による音声を打ち消す音響制御ステップと
を具えることを特徴とする音響制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−53435(P2006−53435A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236063(P2004−236063)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】