説明

顔料分散剤、その製造方法、およびその利用

【課題】VOCを含まない分散剤と、その製造方法と、該分散剤を使用した水溶液と、顔料分散液と、該顔料分散液を用いた着色剤を提供すること。
【解決手段】芳香族等モノマーユニット(a)5〜30質量%と、酸基を有するモノマーユニット(b)10〜30質量%と、(メタ)アクリル酸エステルモノマーユニット(c)40〜80質量%と、数平均分子量が150〜1,500のポリアルキレングリコール鎖を有するモノマーユニット(d)5〜30質量%とから構成され、酸価が30〜300mgKOH/gであり、数平均分子量が5,000〜30,000であり、かつ沸点が250℃以下の有機化合物の含有量が0.2質量%以下であることを特徴とする分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物(以下「VOC」という)を殆ど含まない顔料分散剤(以下単に「分散剤」という場合がある)、それらの製造方法、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球温暖化や大気汚染などの環境問題から、塗料、インク、建材などの各分野でVOCの低減が進められている。塗料分野でいえば、環境対応塗料として各種の形態、例えば、粉体塗料、ハイソリッド塗料、水性塗料の開発が進められており、特に水性塗料の開発が盛んに行われ、低VOC塗料やゼロVOC塗料の開発が行われ、VOCの低減に努めている。低VOC塗料とは、VOC量が0.1質量%以下の水性塗料であり、ゼロVOC塗料とはVOC量が0.01質量%、すなわち、100ppm未満の水性塗料である。そのためには、塗料に使用するバインダー溶液やエマルジョンなどの樹脂分散液中のVOC量の低減、VOCとなり得る造膜助剤などの低減が盛んに行われており、そしてそれらの塗料に使用される分散剤におけるVOC低減も必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
顔料の高濃度分散液においては、顔料を分散させるために分散剤を使用するが、その分散剤の水溶液中に含まれるVOCによって、顔料分散液には多くのVOCが含まれているため、環境に配慮した低VOC塗料やゼロVOC塗料に従来の顔料分散液を使用することはできなかった。そこで、顔料分散液におけるVOCの低減が求められ、特に低VOC塗料やゼロVOC塗料などに使用できる顔料分散液が求められている。
【0004】
また、一般に使用される分散剤の1種として界面活性剤が使用されている。これを使用してVOCを殆ど含まない顔料分散液が開発されているが、界面活性剤は低分子量で親水性が高いため、これらの界面活性剤を用いた顔料分散液を含む塗料から形成される塗膜は耐水性が悪いものであった。そこで、高分子量タイプの顔料分散剤が開発されており、分散剤を高分子量にすることによって、該分散剤を含む塗膜の耐水性が良好で、また、塗料に使用されるバインダーと分散剤との相溶性が良好なことが必要となっており、これらの性質を併せ持った分散剤が必要とされている。
【0005】
そこで、本発明者がまず検討した結果、顔料の分散剤においては、アクリル樹脂系の分散剤が適しているが、該分散剤中のVOCを低減することは困難であった。これは、アクリル系の分散剤は溶液重合で得られるが、該分散剤を水溶液化し、該溶液を加熱してVOCである溶剤や残留モノマーを溶液から留去する方法をとっても、水の沸点とVOCの沸点の影響およびその共沸の関係から、分散剤の水溶液からVOCを完全に除くことは困難であり、多くのVOCが分散剤中に残るものであった。
【0006】
また、上記分散剤溶液を水の如き該分散剤の貧溶剤中に注入して該分散剤を析出させて、分散剤からVOC成分を除去する方法もあるが、この場合、分散剤が疎水性のために貧溶媒中で分散剤粒子が凝集し、固状、塊状や粉末状になってしまい、そのため分散剤粒子中にVOCが取り込まれ、洗浄してもVOCを分散剤から除去することはできず、また、分散剤を乾燥させても完全にVOCを分散剤から除去することは困難であった。
【0007】
従って本発明の目的は、VOCを含まない顔料分散剤と、該分散剤の製造方法と、該分散剤の水溶液と、および該分散剤を使用した顔料分散液を提供することである。また、塗料などの樹脂バインダーとの相溶性が良好で、被膜の耐水性も良好にする顔料分散剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、芳香族および/または複素環ビニルモノマーユニット(a)5〜30質量%と、酸基を有するモノマーユニット(b)10〜30質量%と、(メタ)アクリル酸エステルモノマーユニット(c)40〜80質量%と、数平均分子量が150〜1,500のポリアルキレン(アルキレンの炭素数2〜6)グリコール鎖または該グリコールのモノアルキル(アルキルの炭素数1〜22)エーテル鎖を有するモノマーユニット(d)5〜30質量%(モノマーユニットa〜dの合計を100質量%とする)とから構成され、酸価が30〜300mgKOH/gであり、数平均分子量が5,000〜30,000であり、かつ沸点が250℃以下の有機化合物の含有量が0.2質量%以下であることを特徴とする分散剤を提供する。
【0009】
上記分散剤においては、上記モノマーユニット(c)のエステル基が、炭素数1〜4または炭素数12〜22の脂肪族基または脂環族基であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、芳香族および/または複素環ビニルモノマー(a’)5〜30質量%と、酸基を有するモノマー(b’)10〜30質量%と、(メタ)アクリル酸エステルモノマー(c’)40〜80質量%と、数平均分子量が150〜1,500のポリアルキレン(アルキレンの炭素数2〜6)グリコール鎖または該グリコールのモノアルキル(アルキルの炭素数1〜22)エーテル鎖を有するモノマー(d’)5〜30質量%(モノマー(a’)〜(d’)の合計を100質量%とする)とを、水溶性有機溶剤中で重合開始剤にて重合して、生成された重合体を含む重合液を得、前記重合液と水とを混合攪拌して水中に重合体を乳化または溶解させて該重合体の乳化液または溶液を得、該乳化液または該溶液に酸を加えて重合体を析出させて該重合体と水との混合液を得、ついで該混合液を上記重合体の曇点以上に加温することを特徴とする顔料分散剤の製造方法を提供する。
また、本発明は、前記重合液を水中に注入して前記重合体を析出させ、析出した重合体とアルカリの水溶液とを混合攪拌して前記重合体を乳化または溶解させることによって前記重合体の前記乳化液または溶液を得ることを特徴とする前記顔料分散剤の製造方法を提供する。
また、本発明は、前記重合液とアルカリの水溶液とを混合攪拌して前記重合体の前記溶液を得、該溶液に酸を加えて該重合体を析出させて該重合体と水の混合液を得ることを特徴とする前記顔料分散剤の製造方法を提供する。
【0011】
上記製造方法においては、前記水溶性有機溶剤が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセトンおよびテトラヒドロフランから選ばれる少なくとも1種であること;重合開始剤が、そのラジカル分解物のカップリング生成物が、沸点が250℃以上のものであることが好ましい。
【0012】
また、上記製造方法においては、重合開始剤が、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,2,4−トリメチルペンタン)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル〕プロピオンアミド}、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過酸化水素から選ばれる少なくとも1種であること;酸が、無機酸であること;およびアルカリが、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記本発明の顔料分散剤を水中でアルカリにより中和して得られ、顔料分散剤の含有量が50質量%以下で、かつ沸点が250℃以下の有機化合物の含有量が、0.05質量%以下であることを特徴とする顔料分散剤の水溶液;少なくとも顔料と、水と、前記本発明の顔料分散剤と、アルカリとからなり、沸点が250℃以下の有機化合物の含有量が0.01質量%以下であることを特徴とする顔料分散液を提供する。
【発明の効果】
【0014】
大気汚染などの環境問題解決のため、これまでVOCを含んでいる塗料、印刷インキ、文具用インキ、インクジェットインクなどの着色製品に対して、殆どVOCを含まない本発明の分散剤または顔料分散液を使用することで、上記着色製品のVOCの低減が可能になり、実質的に環境負荷のない上記色材製品を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
つぎに発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明の分散剤は、前記特定範囲の含有量のモノマーユニットa〜dから構成され、かつVOCの含有量が0.2質量%以下であることを特徴としている。VOC含有量を上記含有量にすることは本発明の分散剤の製造方法によって達成される。すなわち、本発明の製造方法において使用する溶剤は、得られる分散剤から除去し易い水溶性の溶剤であり、また、重合に使用する重合開始剤は、その分解副生成物がVOCとなり得ないものを使用する。そして重合後の重合溶液を、水析および/または酸析して、さらに加えて加温することによって、VOCとなり得る溶剤、未反応モノマー、副反応によって生成した不純物を容易に除去でき、得られる分散剤は殆どVOCを含有しない。本発明によれば、上記VOCの含有量は、分散剤(以下「重合体」という場合もある)の0.2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下にすることができる。
【0016】
さらに、上記の分散剤をアルカリにて中和して、樹脂固形分50質量%以下の水溶液とし、VOCが0.05質量%以下、さらに好ましくは0.025質量%以下の水溶液を得ることができる。この分散剤の水溶液を使用して水中に顔料を分散させることで、VOC量が0.01質量%以下の顔料分散液とすることができる。
【0017】
上記本発明の分散剤を構成するモノマーユニットは、ユニット(a)〜(d)であり、特に重合後に主鎖に結合してグラフト鎖となるグリコール鎖またはグリコールのモノアルキルエーテル鎖(以下両方の鎖を併せて「グリコール鎖」という場合がある)を有するモノマーユニット(d)の使用に大きな特徴がある。該グリコール鎖としては、エチレングリコール(EG)単位を持ち、かつ水溶性を示すことが必要である。上記グリコール鎖となる化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール(EG)−プロピレングリコール(PG)ランダム共重合体、PEG−PPG(ポリプロピレングリコール)ブロック共重合体、PEG−PPG−PEGトリブロック共重合体、PPG−PEG−PPGトリブロック共重合体、PEG−ブチレングリコールランダム共重合体、PEG−ポリブチレングリコールブロック共重合体、PEG−へキシレングリコールランダム共重合体、またはそれらの片末端が炭素数1〜22のアルキルモノエーテルであるそれらのモノアルキルエーテル誘導体を含む従来公知のグリコール類が挙げられる。
【0018】
本発明の分散剤は、その構造中にEG単位を含有することで、分散剤が親水性を示すことが必要であり、上記のグリコール鎖中にはEG単位が50質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上含有する。特に好ましくはPEG単位またはEG単位を75質量%以上含有するEG−PGランダム共重合体またはブロック共重合体、またはそれらのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル誘導体である。
【0019】
本発明の分散剤中にグラフト鎖として導入されているグリコール鎖は、溶液重合した重合体溶液から、水析および/または酸析と、その後の加温によって、得られる分散剤がVOCを含まないようにするために重要なものである。すなわち、このグリコール鎖が親水性を示すことによって、分散剤溶液を水析および/または酸析させて分散剤を析出させると、そのグリコール鎖の乳化作用によって、分散剤が水中で微粒子化され、乳白色から半透明状の分散液となり、VOCが分散剤内部に取り込まれにくくなる。
【0020】
従来の疎水性の強い樹脂などの有機溶剤溶液を水中に注入して該樹脂などを析出させると、析出した樹脂粒子の凝集性が強く、前記のように樹脂粒子が乳化または分散状態になりにくく、固状、塊状、粉状またはフレーク状の大きな粒子となり、VOCを樹脂粒子内部に取り込んでしまう。この場合には樹脂の析出物を洗浄しても樹脂粒子内部のVOCは除去できず、また、乾燥させても樹脂から完全にVOCが除去できない。しかし、本発明の分散剤の場合は、該分散剤は、その構造中に含まれる親水性のグリコール鎖で分散剤を水中に微粒子化させることによって、元の分散剤に含まれるVOCが、分散剤に取り込まれることがなく、従って分散剤中のVOCを低減させることができる。
【0021】
また、さらに本発明では、上記分散剤の水中析出物を、分散剤中に組み込まれているグリコール鎖によって定まる分散剤の曇点以上に加熱することで、さらに分散剤中のVOCを低減させることができる。一般にグリコール鎖は、そのエーテル酸素原子と水分子との水素結合を介して水中に溶解しており、加熱すると水素結合が外れ、水への溶解性がなくなる。この加熱温度を曇点という。本発明でも、分散剤中のグリコール鎖は、その親水性によって分散剤を乳化または分散状態にするものであるが、このグリコール鎖に由来する分散剤の曇点以上に加熱温度を上げることによって、グリコール鎖から水分子が外れ、同時に分散剤表面に水と一緒に存在するVOCも分散剤から外れ、さらに分散剤中のVOCを低減させることができる。
【0022】
また、上記の加温工程では、乳化または分散状態の分散剤を濾過などで水から分離することは可能であるが、さらにこの曇点以上に温度を上げることによって、分散剤中のグリコール鎖が不溶化して、分散剤粒子が凝集して濾過などが容易になるという効果もある。
【0023】
上記曇点は一般的にグリコール鎖の分子量が大きいほど、またはグリコール鎖中にEG単位が多いほど曇点は高くなるが、本発明では、グリコール鎖の分子量が大きくなると曇点も高くなり、前記した曇点を利用した脱VOCには加温温度を高くしなければならず、その際には分散剤粒子が大きく融着してしまう可能性がある。また、そのグリコール鎖の分子量が大きすぎると、この分散剤を利用して顔料分散液を得て、これを塗料などに使用した場合、分散剤の親水性が高いことによって、形成される塗膜の耐水性が悪くなる可能性がある。従ってグリコール鎖の数平均分子量としては150〜1,500、さらに好ましくは200〜600である。この範囲において、本発明の分散剤の曇点を30〜70℃、さらに好ましくは35℃〜50℃の範囲とすることができる。曇点が30℃未満では、分散剤溶液が室温状態に近いので、夏場などは分散剤溶液の冷却が必要である場合があり、一方、曇点が、70℃を超える場合では析出した分散剤が融着する場合があり、さらに曇点まで加温するのに多大なエネルギーが必要であり、省エネルギーの点から見ても曇点が低いほうが好ましい。なお、本発明における曇点とは、分散剤が乳化分散している状態で分散剤溶液を加温し、分散剤粒子の凝集が顕著に現れる温度をいう。これはグラフトしているグリコール鎖の曇点に由来するものと考えられる。また、それ以上に加温すると分散剤が分離して透明な水層と塊状の分散剤とに分離する。
【0024】
また、分散剤の製造において、分散剤の乾燥工程が不要であることも本発明の製造方法の大きな特徴である。一般にVOCの低減には、乾燥によって分散剤からVOCを除去する方法があるが、本発明では、溶液重合で得られた分散剤溶液に水を加えるか、または酸を加えて分散剤を析出させ、得られた混合液をさらに加温することによってVOCを殆ど含まない分散剤を得ることができるので、分散剤の製造において、乾燥工程が不要で、従って乾燥によって分散剤が融着せず、結果として分散剤に粉砕工程も不要で、工程時間およびコストを短縮化でき、さらに乾燥、粉砕工程の電力を使用しないことで省エネルギー化に役立つ。
【0025】
また、分散剤中のグリコール鎖は、塗料などに使用される樹脂エマルジョンと良好な相溶性を示すと考えられる。一般にエマルジョンは、PEG−モノアルキルエーテルなどのノニオン系乳化剤を使用して乳化重合して得られるものであるが、このエマルジョンと本発明の顔料分散液を混合した場合、分散剤のグリコール鎖とエマルジョンの乳化剤とが相溶し、上記エマルジョンと分散剤とが良好な相溶性を示す。
【0026】
また、本発明の分散剤を含む水溶液においては、VOCを殆ど含有しないことが特徴であるが、通常の水性の顔料分散液には、低分子量の水溶性有機溶剤が含有されており、該溶剤が顔料表面を即座に水に湿潤させる作用をして、顔料の分散を良好にする。本発明の分散剤水溶液では、上記の如き溶剤が含まれておらず、顔料を湿潤させる作用が弱いと考えられるが、本発明の分散剤は、そのグリコール鎖が顔料に対する湿潤作用を示し、良好な初期顔料分散効果を与えることができるという特徴がある。
【0027】
このグリコール鎖を含有するモノマー(c’)としては、例えば、前記したグリコール鎖と(メタ)アクリル酸とのエステルやグリコール鎖を有する(メタ)アクリルアミド;反応性基、例えば、イソシアネート基、グリシジル基、オキセタニル基を含有する(メタ)アクリル酸エステル、例えば、メタクリル酸イソシアナトエチルやメタクリル酸グリシジル、メタクリル酸オキセタニルなどに、前記グリコール鎖、またはその末端がアミノ化やカルボキシル化されたグリコール鎖を反応させたモノマーなどが挙げられる。
【0028】
このグリコール鎖を含有するモノマーユニット(c)の分散剤中での含有量は、5〜30質量%が好ましい。モノマーユニット(c)の含有量が5質量%未満であると、溶液重合による重合液を水析および/または酸析させる時に、分散剤がうまく乳化状態や分散状態になることができず、一方、上記含有量が30質量%を超えると、分散剤の親水性が高くなりすぎ、該分散剤を塗料に利用したときに、形成される塗膜の耐水性を低下させる。さらに好ましいモノマーユニット(c)の含有量は10〜20質量%である。
【0029】
本発明の分散剤は、以上のようなグリコール鎖を有することが必須であるが、さらに顔料分散性を向上させるために、芳香族および/または複素環ビニルモノマーユニット(a)を含有する。芳香族および/または複素環モノマーユニット(a)を形成し得るビニルモノマー(a’)としては、従来公知のものが使用でき、例えば、芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレン、ビニルジフェニル、ビニルクメン、ビニルアントラセン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、スチレンスルホン酸およびその塩、ジアルキルアミノメチルスチレンなどの1種以上、および/または複素環ビニルモノマーとしてはビニルピリジンやビニルイミダゾール、ビニルカルバゾールなどの1種以上が使用される。分散剤中のモノマーユニット(a)の含有量は5〜30質量%であり、モノマーユニット(a)の含有量が5質量%未満では、分散剤の顔料分散性に乏しく、一方、モノマーユニット(a)の含有量が30質量%を超えると分散剤の凝集性が強すぎて、重合液を水析および/または酸析の際に、分散剤が十分には乳化または分散状態にならない可能性がある。
【0030】
また、本発明の分散剤は、酸基を有するモノマーユニット(b)を含有し、その酸基を中和することによって分散剤はイオン化して、分散剤を水溶液化することができる。酸基としては特に限定されないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられ、好ましくは本発明の分散剤の酸析がし易いカルボン酸基であるのがよい。このカルボン酸基を有するモノマーユニット(b)を形成し得るカルボン酸基を有するモノマー(b’)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、およびメタクリル酸ヒドロキシアルキルと二塩基酸のハーフエステル化物などが挙げられ、特に(メタ)アクリル酸が好ましい。分散剤中のモノマーユニット(b)の含有量は10質量%〜30質量%である。本発明の分散剤の酸価は30〜300mgKOH/gである。これは30mgKOH/g程度の低酸価であっても、本発明の特徴の親水性であるグリコール鎖を導入していることによって、本発明の分散剤はアルカリ水に溶解する。また、300mgKOH/gを超える酸価では、カルボン酸基による親水性が高くなってしまい、得られた分散剤によって分散された顔料分散液を塗料に使用したときに、形成される塗膜の耐水性が低下する。特に好ましい酸価は70〜150mgKOH/gである。
【0031】
また、さらに酸基ではないが、容易に脱離する基によって保護されたカルボン酸基をもつモノマーを他のモノマー(a’)、(c’)および(d’)とを共重合して、共重合後に脱基することによって、分散剤にカルボン酸を導入することができる。例えば、モノマーユニット(b)を形成し得る酸基を有するモノマー(b’)の代わりにアクリル酸メチルを使用し、各モノマー(a’)〜(d’)を共重合後に、アルカリでアクリル酸メチルユニットのメチルエステル基を加水分解してカルボン酸基とすることができる。またはモノマー(b’)の代わりに(メタ)アクリル酸t−ブチルを使用し、共重合後にトリフルオロ酢酸などにてt−ブチルエステル基を分解してカルボン酸基とすることができる。またはモノマー(b’)の代わりに(メタ)アクリル酸ベンジルを使用しておき、共重合後に共重合体を水素添加により脱ベンジルさせて、ベンジルエステル基をカルボン酸基とすることができる。
【0032】
また、本発明の分散剤は(メタ)アクリル酸エステルモノマーユニット(c)を含有する。モノマーユニット(c)を形成し得るモノマー(c’)としては、従来公知の(メタ)アクリル酸エステルが使用され、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどの(メタ)アクリル酸の低級脂肪族アルコールエステル;(メタ)アクリル酸シクロへキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸エチルシクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸の脂環族アルコールエステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチルなどが挙げられる。
【0033】
特に好ましくは、分子量が小さい(メタ)アクリル酸エステルモノマー(c’)または沸点が250℃以上の(メタ)アクリル酸エステルモノマー(c’)を使用する。分子量が小さいモノマー(c’)としては、(メタ)アクリル酸の炭素数が1〜4の低級アルコールエステルであり、これは、そのような低分子量モノマー(c’)が重合後に重合溶液に残存した場合、低分子量モノマー(c’)は水析や酸析で除去し易いし、また、反応性も高いので、重合後に未反応で重合液中に残留モノマー(VOC)として残りにくいからである。また、沸点が250℃以上のモノマー(c’)としては、炭素数12〜22のアルキルアルコール、アルケニルアルコール、シクロアルキルアルコールなど高級アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルモノマーが好ましい。これは、上記のエステルモノマーは、重合後に未反応モノマーとして重合液中に残留したとしても、沸点250℃以下のVOCとならないからである。また、このような高沸点のモノマー(c’)は炭素数が多いので、分散剤に組み込まれた場合、顔料の分散性を向上させる働きも有する。
【0034】
さらに本発明では、前記炭素数が1〜4の脂肪族基または炭素数が12〜22の脂肪族基もしくは脂環族基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーに加えて、顔料に対する分散剤の吸着性を向上させるため、極性基である水酸基やアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、例えば、前記の如きヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルや、モノまたはジアルキルアミノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを1種またはそれ以上全モノマーの20質量%までの割合で共重合させることができる。
【0035】
以上のモノマーユニット(a)〜(d)からなる本発明の分散剤は、溶液重合によって得られる。特に重要なのはその溶液重合に使用する溶剤は、その重合溶液を水析および/または酸析させるときに水に溶解することが必要であるので、水溶性の溶剤を選択する。また、その溶剤には炭素数が大きい炭化水素基があると、該溶剤が分散剤中に残り易いと考えられるので、好ましくは炭素数5以下、さらに好ましくは炭素数3以下の水溶性の溶剤が好ましい。本発明では、水溶性有機溶剤として、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、EG、PG、EG−モノメチルエーテル、PG−モノメチルエーテル、アセトン、テトラヒドロフランが適しており、その1種または混合物が使用される。特に好ましくはメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、EG、PG、PG−モノメチルエーテルが挙げられ、1種以上で、または水と併用して使用できる。
【0036】
また、本発明に使用できる重合開始剤としては、例えば、アゾ系開始剤の2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,2,4−トリメチルペンタン)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル〕プロピオンアミド}や無機系の過酸化物である過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過酸化水素である。
【0037】
アゾ系開始剤の場合は、通常、その使用時に副反応としてラジカル残基がカップリングしてできる二量体や、脱水素や水素付加によってできる副生成物が生成し、分子量が小さい開始剤を使用すると、それらの副生成物がVOCとなり得る。また、有機過酸化物では、通常そのラジカル残基が低分子量であり、失活した場合VOCとなり得る可能性がある。これに対して本発明においては、ラジカル分解物のカップリング生成物が、沸点が250℃以上であるアゾ系開始剤が適している。例えば、アゾビスイソブチロニトリルの如き低分子量のアゾ系開始剤を使用した場合では、生成する二量体はスクシンジニトリルであり、沸点が低くVOCとなる。さらに、そのような低分子量のアゾ系開始剤の副生成物はGC−MSにおいて、沸点が250℃以下である化合物であることが示されており、VOCとなり得る。しかし、例えば、本発明に使用する開始剤である2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の場合、ラジカル分解物のカップリング生成物は分子量が大きく、沸点が250℃以上の化合物であることがGC−MSによって確認されており、副反応でできた不純物はVOCにならない。また、無機系の過酸化物は分解してもVOCとならないので本発明に適している。そのような開始剤の使用量は全モノマーの0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜3.5質量%である。
【0038】
本発明において前記各モノマーの重合は従来公知の方法で行うことが可能である。例えば、重合温度は0〜150℃、好ましくは30〜120℃、さらに好ましくは60〜100℃であり、モノマーと溶剤の比率も任意であり、好ましくはモノマー濃度20〜70質量%、さらに好ましくは40〜60質量%である。さらにモノマーを溶剤に全量仕込んで重合してもよいし、モノマーを一部だけ最初に添加して残りのモノマーを滴下しながら重合してもよいし、また、モノマー全量を滴下しながら重合してもよい。さらに溶液重合において、従来公知のリビング/コントロールラジカル重合法を使用してもよい。例えば、テトラメチルピペリジニルオキサイドの如きニトロキサイドを使用する方法、銅などの金属と窒素原子を有する化合物の金属錯体を使用する原子移動ラジカル重合方法、ジチオカルボン酸エステルなどを使用する可逆的付加解裂型連鎖移動重合方法、コバルト、テルル、ビスマス、リン化合物を使用する方法などを使用して重合体を得てもよい。
【0039】
本発明の分散剤の分子量は、ゲルパークロマトグラフィー(以下GPC)における数平均分子量でポリスチレン換算として5,000〜30,000である。上記分子量が、5,000未満では顔料の分散安定性が足りず、一方、上記分子量が30,000を超えると、分子量が大きすぎて、複数の顔料粒子を吸着し顔料粒子を凝集させる傾向が見られるし、また、本発明の製造方法において、重合液の水析および/または酸析において、分散剤が微粒子状になりにくい。さらに好ましくは数平均分子量7,000〜15,000、さらに好ましくは数平均分子量8,000〜12,000である。
【0040】
また、前記モノマーの重合終了後、重合液中の残留モノマーをある程度除去するため、そのまま重合液を加熱して重合溶剤を留去させてもよい。その留去によって、未反応の低沸点のモノマーや副生成物を除去できるし、重合液の固形分を上げることができるのでこの手順は好ましい。特に重合体を水析および/または酸析させる際に、重合液は流動性を持っている方が好ましく、固形分としては60質量%以下がよい。固形分が60質量%を超えると重合液の粘度が高くなる可能性があるため、重合体を析出させる際に、重合液が拡散せず、うまく重合体が微粒子状にならない可能性がある。
【0041】
また、重合後に、アルカリ水を重合液に加えて重合体を水可溶化させて重合体の水溶液としてもよい。この場合、アルカリがVOCとなってはならず、よって本発明で使用するアルカリは、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの如き水酸化物;アンモニア;沸点が250℃以上である有機アミン、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミンである。
【0042】
以上が本発明の分散剤の構成と製造方法であるが、つぎに溶剤(VOC)を殆ど含まない状態で前記分散剤を得る製造工程について説明する。
まず、前記重合により生成された重合体を含む重合液の場合は水析を行う。具体的には、その重合液に対して1.5倍以上の水に、従来公知の攪拌機、例えば、ディゾルバーなどを使用して攪拌しつつ、重合液を添加して重合体を水析させる、または重合液を攪拌しつつ重合液に対して1.5倍以上の水を重合液中に投入して重合体を水析させる。この時、重合体はグリコール鎖の影響で微粒子化される。塊状や粉状のような比較的大きい粒子になる場合は、その内部にVOCが取り込まれてしまうが、本発明の重合体微粒子からは、VOC、特に溶剤が除去され易い。この時に使用する水の量が重合液の1.5倍未満であると、溶剤が比較的多い状態にあるので十分に重合体が析出しないので、1.5倍以上、さらに好ましくは2倍以上の水を使用する。
【0043】
また、上記水析の際、攪拌のエネルギーや溶剤と水との混合熱で系の温度が上がらないようにするため、冷媒や氷の投入によって系を低温に保つのが好ましい。この温度は−15〜50℃、さらに好ましくは0〜30℃である。
【0044】
つぎに、この水析をした後、ヌッチェ、フィルタープレスや加圧濾過などで微粒子状の重合体を取り出し水で洗浄して、重合体の水ペーストを得る。ついでこれを水に添加して、前記したアルカリで中和して重合体の水溶液を得る。
【0045】
つぎに重合体水溶液の酸析を行う。溶液重合後、アルカリにて中和して得られた水溶液、または重合体を析出させた後、得られた混合液を濾過して水に溶解しているVOCや溶剤を除去して、その重合体ペーストをアルカリ水にて中和して得られた水溶液に、酸を加えて重合体を析出させる。この水溶液においては、重合体のカルボン酸基がアルカリによって中和されているので、イオン化され、重合体は水に溶解しているものであるが、これに酸を加えることで、カルボン酸塩がカルボン酸に戻り、重合体が析出するものであり、親水性のグリコール鎖による乳化作用によって、微粒子となって重合体粒子がVOCを取り込まずVOCを除去できる方法である。酸析に使用される酸としては、VOCにならないものが好ましく、特に本発明では、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸などの無機系酸、無機酸が好ましい。
【0046】
この酸析時の重合体固形分は、固形分があまりに多いと重合体の析出時に系が増粘して攪拌が困難になる場合があるので、比較的少ない方がよい。重合体溶液を水で希釈することが好ましい。重合体固形分は、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0047】
以上のような水析または酸析によって、重合体中のVOCを低減できるが、さらに水析と酸析を組み合わせて行ったり、水析または酸析を複数回繰り返したりしてもよい。この酸析で得られた重合体を濾過で集めて、重合体のペーストを得た後、再度、水とアルカリにて重合体を水溶液化して、さらに酸析の工程を繰り返すことは、信頼性を確保しながらさらに少ないVOC量で重合体を得ることができる。
【0048】
つぎに本発明による製造方法は、以上のような水析および/または酸析することによって得た重合体の微粒子を加温することによって、さらに微粒子からVOCを除去できることが大きな特徴である。
【0049】
上記加温は、重合体を析出させた後、そのままその系を加温してもよいし、重合体を濾過した後温水で洗浄してもよいし、またはその併用を行ってもよい。前記したように本発明の重合体(分散剤)では、グリコール鎖が主鎖にグラフト結合しており、そのグラフト鎖が加温によって曇点で析出して、そのグリコール鎖が保持している水分と表面にあるVOCなどを除去することができる。この加温する温度については、この曇点はその重合体に含まれるグリコール鎖の種類や量によって違うので一概には言えないが、30〜70℃、特に好ましくは35〜50℃が好ましい。加温があまりに高い温度であると重合体微粒子の凝集が激しく塊状となってしまう可能性がある。また、この曇点以上に加熱することによって、重合体微粒子が凝集して大きな粒子になり、濾過し易いというメリットがある。つぎに、この加温して得られた重合体を濾過して、水にて洗浄して表面に付着しているVOCをさらに除去する。この時、前記したように洗浄する水として、曇点以上の温水を用いてもよい。以上の方法によって重合体に含まれるVOC量が0.2質量%以下である重合体(分散剤)を得ることができる。
【0050】
VOC含有量が0.2質量%以下の本発明の分散剤を水に溶解して得られる本発明の分散剤水溶液について次に説明する。前記の分散剤(重合体)ペーストに水を加え、前記アルカリにて分散剤酸基を中和して分散剤をイオン化して水に溶解する。前記ペーストの水溶液をそのまま攪拌しながら中和して分散剤を溶解してもよいし、加温しながら攪拌して分散剤を溶解してもよいし、さらに分散剤の溶解を確認した後、さらに加温して未溶解分がないようにすることもできる。この時の分散剤水溶液の固形分としては50質量%以下、好ましくは30質量%以下がよい。分散剤水溶液の固形分があまりに高いと分散剤水溶液の粘度が高くなってしまう可能性があり、また、分散剤の溶解に時間がかかってしまう可能性がある。また、この分散剤の溶解の際、前記した無機系の過酸化物をさらに加えて、分散剤中に微量に残っている残留モノマーを重合して除去し、さらにVOCを低減させることもできる。
【0051】
溶解後の分散剤水溶液のpHは、一般に7〜10、好ましくは8〜9.5であり、溶解後pHをこの範囲に調整してもよい。以上のようにしてVOCを殆ど含まない分散剤の水溶液を得ることができる。この水溶液に含まれるVOCの量はGCやGC−MSを使用して測定する。その測定方法は、例えば、ISO17895などによる方法が挙げられる。本発明の分散剤水溶液に含まれるVOCの量としては、分散剤の固形分にもよるが、0.05質量%以下が好ましい。さらに好ましくは0.025質量%以下である。
【0052】
つぎに本発明の分散剤を使用して得られるVOCを殆ど含まない本発明の顔料分散液について説明する。前記本発明の分散剤の水溶液と水と顔料、すなわち、無機顔料または有機顔料、必要に応じて添加剤を使用し、混合して無機顔料または有機顔料を分散し、さらに必要であれば得られた分散液を分級することによって本発明の顔料分散液を得ることができる。特に重要なのは、顔料や添加剤にVOCを殆ど含有していないものを使用することである。有機顔料においてはその製造工程中にVOCとなる溶剤を使用するが、その溶剤を十分洗い流したり、または十分乾燥させたりして、VOCの低減を図る必要がある。
【0053】
本発明で使用する顔料としては、従来公知の顔料がすべて使用できる。例えば、有機顔料としては、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、アゾメチンアゾ系顔料、アゾメチン系顔料、アンスラキノン系顔料、ぺリノン・ペリレン系顔料、インジゴ・チオインジゴ系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、カーボンブラック顔料であり、また、無機顔料としては、体質顔料、酸化チタン系顔料、酸化鉄系顔料、スピンネル顔料、複合酸化物などであり、必要に応じて従来公知の顔料類似構造の顔料誘導体を使用して、予め顔料を分散処理することができる。顔料分散液の使用目的により顔料の種類、粒子径、前処理の種類を選んで使用することが望ましく、隠蔽力を必要とする場合以外は有機系の微粒子顔料が望ましく、特に透明性を望む場合には0.5μm以上の粒子径を有する顔料粒子を除去し、平均粒径を0.15μm以下とすることが望ましい。
【0054】
顔料と分散剤と水、必要に応じて添加剤を混合し、必要であれば予備混合分散し、ついで分散機で分散し、顔料分散液となる。本発明において使用できる分散機としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、アトライター、ボールミル、ガラスビーズやジルコニアビーズなどを使用したサンドミルや横型メディア分散機、コロイドミルなどが使用できる。本発明を実施する際、顔料濃度は顔料の種類にもよるが顔料分散液中で好ましくは0.5〜70質量%、より好ましくは10〜65質量%で、顔料分散液中の分散剤分は顔料100質量部当たり5〜500質量部が望ましい。
【0055】
本発明の顔料分散液においては、顔料と水と分散剤以外にも各種の添加剤を1種またはそれ以上加えることができる。例えば、紫外線吸収剤、抗酸化剤などの耐久性向上剤;沈降防止剤;離型剤または離型性向上剤;芳香剤、抗菌剤、防黴剤;可塑剤、乾燥防止剤、消泡剤、増粘剤などが使用でき、さらに必要であれば分散助剤、顔料処理剤、染料などを添加することもできる。これらの添加剤においても、一般に添加剤は非常に少ない量の使用であるが、各種の分析方法、例えば、GCなどによってVOCの含有量を確認した後に使用することが望ましい。
【0056】
得られた顔料分散液はそのままでもよいが、遠心分離機、超遠心分離機または濾過機で僅かに存在するかも知れない粗大粒子を除去することは、顔料分散液の信頼性を高める上で好ましいことである。以上のようにして得られた顔料分散液は前記した方法によってVOCを測定する。本発明の顔料分散液に含まれるVOCの量としては、0.01質量%以下である。
【0057】
以上のようにして本発明の分散剤を使用して、顔料分散液を得ることができる。この顔料分散液は従来公知の水性の塗料、印刷インキ、捺染剤、繊維用の原液着色、コーティング剤、文具用インキなどの着色剤に使用することができる。具体的には水性塗料、水性グラビアインキ、水性インクジェットインキ、水性文具用インキ、水性コーティング剤、水性カラーフィルター用カラー、水性湿式トナーなどの着色剤として使用することができる。
【実施例】
【0058】
つぎに実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、文中「部」または「%」とあるのは質量基準である。
【0059】
実施例1(分散剤−1の合成)
1リッターセパラブルフラスコに、冷却管、滴下装置、攪拌装置および温度計を取り付け、エタノール/メタノール=95/5の混合アルコール100部を仕込んで、75℃に加温した。別容器に、スチレン20部、メタクリル酸メチル20部、メタクリル酸エチル20部、メタクリル酸20部、メタクリル酸PEGモノメチルエーテル(数平均分子量550)20部、および開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)3部を混合して均一なモノマー混合溶液とした。ついで、上記フラスコに上記モノマー混合溶液の1/2を添加し、ついで残りのモノマー混合溶液を2時間にわたって滴下し、ついでその温度でモノマーを4時間重合し、ついで82℃に加温して、混合アルコールを15部除去して重合体(分散剤)溶液を得た。この重合体についてGPCにて数平均分子量を測定したところ、ポリスチレン換算で数平均分子量8,300であった。また、重合体溶液の固形分を測定したところ、54.5%であった。
【0060】
ついで、2リッターのビーカーにイオン交換水900部および氷100部を入れて混合して15℃以下の水を調製した。これをディスパーにて800rpmで攪拌しながら、上記で得た重合体溶液を徐々に添加した。すると白色の乳濁液となった。ついで45℃の湯浴にこのビーカーを浸漬して加温処理したところ、重合体粒子が凝集して水と重合体粒子とが分離した。この重合体(分散剤)の曇点は45〜47℃である。この重合体水混合液を、フィルターを装着した濾過装置に注ぎ、濾過して重合体粒子を分離し、ついで、45℃のイオン交換水2リッターで洗浄し、重合体ペーストを得た。この時の重合体ペーストの固形分は62%であった。
【0061】
ついで、温度計、冷却管および攪拌装置を装着した500mlセパラブルフラスコに、重合体ペーストの100部および水202.8部を加えて攪拌し、ついで28%アンモニア水7.2部を4回に分けて添加して、重合体を水溶液化させた。ついで得られた水溶液を70℃に加温して、過硫酸カリウム0.3部を加えて3時間加熱した。冷却後、本発明の分散剤−1の水溶液を得た。これの固形分を測定したところ、20.3%であった。
【0062】
つぎにGC−MS装置およびヘッドスペース法を使用して、VOCの測定方法であるISO17895に準拠して、上記本発明の分散剤−1水溶液に含有されているVOCを測定したところ、含有量は以下の通りであった。エタノール120ppm、メタクリル酸メチル55ppm、メタクリル酸エチル53ppmおよびスチレン35ppmであり、トータル263ppm、すなわち、0.0263%であった。また、換算すると、分散剤中には0.13%のVOCが含有されていることとなる。
【0063】
実施例2(分散剤−2の合成)
実施例1と同様の装置において、モノマーとしてスチレン20部、メタクリル酸メチル20部、メタクリル酸エチル20部、メタクリル酸ドデシル10部、メタクリル酸15部、メタクリル酸PEGモノメチルエーテル(数平均分子量400)15部および2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)3部を使用して、実施例1と同様に重合した。実施例1と違って、溶剤を留去せずに溶液重合状態の重合体溶液を得た。ついで、これに28%アンモニア水11.6部および水38.4部を加えて重合体を水溶液化した。この重合体のGPCによる数平均分子量は9,200であった。また、上記重合体水溶液の固形分は41.2%であった。つぎに2リッターのビーカーに水を500部入れ、上記で得た重合体溶液を100部添加して希釈した。ついで、得られた水溶液の温度が25℃であることを確認した後、10%塩酸30部を徐々に加えて重合体を析出させたところ、乳白色の重合体エマルジョンを得た。ついで、これを、フィルターを装着した濾過装置で濾過して重合体ペーストを分離し、さらにイオン交換水1,000部で洗浄した。この時の重合体ペーストの固形分は35%であった。
【0064】
つぎに1リッターセパラブルフラスコに、上記重合体ペースト100部と水400部とを加えて攪拌し、実施例1と同様にアンモニア水を加えて重合体を水溶液化した。ついで10%塩酸を添加して重合体を析出させた。さらにこの析出液を38℃に加温したところ、重合体粒子が凝集して重合体粒子と水とが分離した。この重合体(分散剤)の曇点は38〜42℃である。この重合体−水混合液を濾過装置で濾過して重合体粒子を集め、38℃の温水1,000部で洗浄し、重合体ペーストを得た。このペーストの固形分は60%であった。ついで、この重合体ペースト50部および水72部を攪拌しながら、28%アンモニア水3.5部を加えて重合体を水溶液化して本発明の分散剤−2の水溶液を得た。この溶液の固形分は23.2%であった。また、前記した分析方法でVOC量を測定したところ、重合体の水溶液中のVOCは210ppmであり、すなわち、重合体(分散剤)中にはVOCを0.09%含むこととなる。
【0065】
実施例3(分散剤−3の合成)
2リッターのビーカー中でイオン交換水900部と氷100部とを混合して15℃以下とした。これをディスパーにて800rpmで攪拌しながら、実施例2で得た溶液重合液状態の重合体溶液200部を徐々に添加した。すると白色の乳濁液となり、乳白色の重合体エマルジョンを得た。ついで、これを、フィルターを装着した濾過装置で濾過して重合体を分離し、さらにイオン交換水1,000部で洗浄した。この時に得られた重合体ペーストの固形分は45%であった。つぎに1リッターセパラブルフラスコに、上記ペースト100部と水400部を加えて攪拌し、実施例2と同様にアンモニア水を加え重合体を水溶液化した。ついでこの水溶液に10%塩酸を添加して重合体を析出させた。さらにこの析出液を38℃に加温したところ、重合体粒子が凝集して重合体粒子と水とが分離した。この重合体(分散剤)の曇点は38〜42℃である。この重合体−水混合液を濾過装置で濾過して重合体粒子を集め、38℃の温水1,000部で洗浄し、重合体ペーストを得た。このペーストの固形分は58.6%であった。ついで、温度計、冷却管および攪拌装置を装着した500mlセパラブルフラスコに、上記重合体ペーストの100部、水137.4部を加えて攪拌し、ついで28%アンモニア水6.8部を4回に分けて添加して、重合体を水溶液化させた。ついで、70℃に加温して、過硫酸カリウム0.3部を加えて3時間加熱した。冷却後、本発明の分散剤−3の水溶液を得た。この溶液の固形分を測定したところ、24.2%であった。また、前記した分析方法でVOC量を測定したところ、溶液中のVOCは110ppmであり、すなわち、重合体(分散剤)中には0.0455%のVOCを含むこととなる。
【0066】
実施例4(分散剤−4の合成)
実施例2のメタクリル酸PEGモノメチルエーテル(数平均分子量400)をメタクリル酸PEG(数平均分子量400)に変えた以外は実施例2と同様にして、重合を行い、数平均分子量11,000の重合体を得た。ついで実施例3と同様にして、重合体を水析した後、アンモニア水で水溶液化し、これを10%塩酸で析出させて、再度アンモニア水で溶解させて本発明の分散剤−4の水溶液を得た。この析出後の加温は44℃であった。この重合体(分散剤)の曇点は44〜47℃である。この重合体(分散剤)のグリコール鎖は実施例2の重合体のグリコール鎖と分子量が同じであるが、末端基がメチル基から水酸基に変わったことで、グリコール鎖由来による重合体(分散剤)の曇点が上がったためと考えられる。この溶液の固形分を測定したところ、23.9%であった。また、溶液中のVOC量を測定したところ、VOC量は130ppmであり、すなわち重合体(分散剤)中には0.0544%のVOCを含むこととなる。
【0067】
実施例5(分散剤−5の合成)
実施例1と同様にして、スチレン10部、メタクリル酸メチル15部、メタクリル酸エチル15部、メタクリル酸20部、メタクリル酸トリデシル10部、メタクリル酸PEGモノメチルエーテル(数平均分子量400)20部、メタクリル酸ジメチルアミノエチル10部および開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)3部を重合し、重合液状態の重合体溶液を得た。この重合体数平均分子量は7,500であった。これを実施例2と同様にしてアンモニア水で水溶液化して10%塩酸で析出し、ついで再度アンモニア水で水溶液化し再度10%塩酸で析出させ、最後にアンモニアで水溶液化させ、固形分23.2%の水溶液を本発明の分散剤−5の水溶液として得た。この重合体(分散剤)の曇点は38〜42℃である。これのVOCを測定したところ、235ppmであった。すなわち重合体(分散剤)中には0.1013%のVOCを含むこととなる。
【0068】
比較例1
45℃の加温の工程を行わない以外は実施例1と同様にして比較分散剤−1の水溶液を得た。固形分は20.0%であった。この水溶液に含有されているVOCを測定したところ、含有量は以下の通りであった:エタノール1,932ppm、メタクリル酸メチル230ppm、メタクリル酸エチル132ppm、スチレン222ppmであり、合計で2,516ppmであり、すなわち、比較分散剤−1中には1.2%のVOCを含むこととなる。これは加温しないことによって、重合体粒子が含んでいる水に多くのVOCが含むと考えられ、結果として分散剤(重合体)水溶液中にVOCが多くなったと考えられる。よって本発明では、重合体を粒子として析出後加温することによって、重合体粒子から水とともに溶剤が離れ、重合体にVOCが含まれず、殆どVOCを含まない分散剤ができるものと考えられる。
【0069】
比較例2
実施例2において、メタクリル酸ドデシルの代わりにメタクリル酸2−エチルヘキシルを用い、開始剤の2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の代わりにアゾビスイソブチロニトリルを用いた以外は実施例2と同様に行い、比較分散剤−2の水溶液を得た。この分散剤(重合体)の曇点は38〜42℃である。数平均分子量は9,700であり、水溶液の固形分は24.1%であった。この重合体水溶液に含有されているVOCを測定したところ、含有量は以下の通りであった:エタノール100ppm、メタクリル酸メチル35ppm、メタクリル酸エチル42ppm、スチレン40ppm、さらに加えて、沸点250℃以下である揮発性有機化合物として、メタクリル酸2−エチルヘキシルが740ppm、また、アゾビスイソブチロニトリルの分解物のカップリング生成物であるテトラメチルサクシンジニトリルが1,800ppmであり、合計で3,100ppmであり、すなわち、比較分散剤−2中には1.3%のVOCを含むこととなる。分子量が比較的大きく、疎水性が強い上記メタクリル酸2−エチルヘキシルは、水に析出しても重合体から離れづらく除去できないので、上記結果のようにVOCとして重合体中に残るものと考えられる。また、開始剤の副反応生成物であるテトラメチルサクシンジニトリルが高濃度で検出され、これもVOCとなるものであった。
【0070】
比較例3
実施例2のメタクリル酸PEGモノメチルエーテル(数平均分子量400)を数平均分子量2,000のものに代えて、さらに加熱温度を38℃から53℃に上げて、それ以外は実施例2と同様に溶液重合を行った。最初の重合体の水析では微粒子状もできたが、大きい塊状の析出物が多くあった。また、加温後は重合体粒子が融着状態となり、粉砕が必要であった。その後、同様にして比較分散剤−3の水溶液を得た。この分散剤(重合体)の曇点は53〜57℃である。数平均分子量は8,900であり、該水溶液の固形分は25.1%であった。また、前記した分析方法で分散剤(重合体)溶液中のVOC量を測定したところ、320ppmであり、すなわち、比較分散剤−3中には0.127%のVOCを含むこととなる。この比較例において、重合体の水析では、重合体の分子量が大きいため、重合体のモル数が少なく、重合体をうまく微粒子化できなかったものと考えられる。これは、グリコール鎖をより多く重合体中に導入すれば、微粒子化は改良されるが、そうすると重合体の親水性が高くなりすぎ、該重合体を含む顔料分散液を塗料などに使用した場合、得られる塗膜の耐水性が劣るものと考えられる。また、上記の加温では、グリコール鎖が長いため、曇点にするまでに温度を大幅に上げなくてはならず、温度が高いために重合体が大きく凝集気味になって扱いづらいものであった。
【0071】
上記実施例および比較例の分散剤の内容を表1に纏めた。

【0072】
実施例6(顔料分散液−1)
250mlのガラス瓶に、本発明の分散剤−3を13.25部、水を22.5部、顔料として酸化チタンを64部およびジエタノールアミン(DEA)0.25部を加えて、200gガラスビーズを添加してペイントコンディショナーにて2時間振とうさせて、白色顔料分散液を得た。この分散液についてGC−MSにてVOC量を分析したところ、VOCの微量なピークは検出されるが、検出限界以下の100ppm以下であった。上記と同様にして、本発明の分散剤−1、−2、−4を使用して得られた顔料分散液のVOC含有量は、上記と同様に検出限界以下であった。また、比較分散剤−1、−2を使用して上記と同様にして顔料分散液を作成し、VOC含有量を測定したところ、エタノール、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルおよびスチレンが検出され、比較分散剤−1を使用した顔料分散液ではトータルのVOC量が296ppm、比較分散剤−2を使用した顔料分散液では323ppmとなり、本発明の顔料分散液のVOC量範囲からは外れる結果となった。また、比較分散剤−3を使用して比較の白色顔料分散液を得た。この分散液中のVOC含有量は、上記と同様に検出限界以下の100ppm以下であった。
【0073】
実施例7〜11(顔料分散液−2〜−6)
実施例6と同様にして、分散剤−3を使用して各色の顔料分散液を得た。また、これらのVOC量を分析した結果を合わせて表2に示した。
【0074】

【0075】
実施例12
250mlのガラス瓶に、分子中にアミノ基を有する本発明の分散剤である分散剤−5を32.3部、水を42.45部、顔料として酸性カーボンを25部およびトリエタノールアミン0.25部を加えて、200gガラスビーズを添加してペイントコンディショナーにて2時間振とうさせて、黒色顔料分散液を得た。この分散液についてGC−MSにてVOC量を分析したところ、VOCの微量なピークは検出されるが、検出限界以下の100ppm以下であった。色は若干青味がかった漆黒性の高い分散液であった。
【0076】
応用例(水性塗料)
ウォーターゾールS−126(商品名、大日本インキ社製)を100部、ウォーターゾールS−695(商品名、大日本インキ社製)を5部、ウォーターゾールS−683IM(商品名、大日本インキ社製)を5部(以上被膜形成材)および水を100部配合して攪拌し、実施例4で得た白色顔料分散液を30部加えて攪拌し、白色塗料とした。該塗料をアルミ板に塗布し、140℃で20分焼き付けたところ、透明で奇麗な白色であった。これは上記被膜形成材と分散剤との相溶性が良好であると考えられる。つぎにこの塗板を沸騰水に30分浸漬したが、塗膜の白化、膨れ、剥離を起こさなかった。また、塗膜の発色性、塗膜のグロスは良好であった。また、上記塗料を黒帯展色紙に塗布して乾燥したところ、黒帯部分が塗膜によって十分隠蔽され、隠蔽力も大きいものであった。
【0077】
この白色顔料分散液の代わりに、比較分散剤−3で分散した白色顔料分散液を使用して塗料化し、同様に塗膜を形成したところ、同様に透明できれいな白色の塗板を得たが、該塗板を沸騰水に30分間浸漬させたところ、塗膜に膨れが見られた。これは、比較分散剤−3を含む白色顔料分散液に使用された分散剤のグリコール鎖が長いため、すなわち、水溶解性部分が長いため、グリコール鎖に対応する部分における塗膜の耐水性が悪いためであると考えられる。同様に顔料分散液−2〜−6を使用して同様に塗料を作成し、塗板を得たところ、すべての塗膜の耐水性もよく、隠蔽性なども良好であり、塗板は優れたものであった。さらには、本発明の分散剤−1、−2、−4を使用する以外、実施例6と同様にして得られた白顔料分散体でも同様の結果が得られた。
【0078】
応用例(文具用インキ)
実施例12で得た黒色顔料分散液を顔料濃度8.5%かつグリセリン14%になるように希釈し、文具用インキを作成した。中芯と、プラスチック成形で作ったペン先を有するプラスチック製のサインペンに上記インキを詰めて筆記試験を行った。このサインペンを使用して普通紙、画仙紙に筆記したところ、浸透によるインキの裏抜け現象がなく、良好に筆記でき、筆記文字は非常に漆黒度が高かった。上記インキは殆どVOCを含有しないものである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
大気汚染などの環境問題解決のため、これまでVOCを含んでいる塗料、印刷インキ、文具用インキ、インクジェットインクなどの着色製品に対して、殆どVOCを含まない本発明の分散剤または顔料分散液を使用することで、上記着色製品のVOCの低減が可能になり、実質的に環境負荷のない上記色材製品を与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族および/または複素環ビニルモノマーユニット(a)5〜30質量%と、酸基を有するモノマーユニット(b)10〜30質量%と、(メタ)アクリル酸エステルモノマーユニット(c)40〜80質量%と、数平均分子量が150〜1,500のポリアルキレン(アルキレンの炭素数2〜6)グリコール鎖または該グリコールのモノアルキル(アルキルの炭素数1〜22)エーテル鎖を有するモノマーユニット(d)5〜30質量%(モノマーユニットa〜dの合計を100質量%とする)とから構成され、酸価が30〜300mgKOH/gであり、数平均分子量が5,000〜30,000であり、かつ沸点が250℃以下の有機化合物の含有量が0.2質量%以下であることを特徴とする顔料分散剤。
【請求項2】
モノマーユニット(c)のエステル基が、炭素数1〜4または炭素数12〜22の脂肪族基または脂環族基である請求項1に記載の顔料分散剤。
【請求項3】
芳香族および/または複素環ビニルモノマー(a’)5〜30質量%と、酸基を有するモノマー(b’)10〜30質量%と、(メタ)アクリル酸エステルモノマー(c’)40〜80質量%と、数平均分子量が150〜1,500のポリアルキレン(アルキレンの炭素数2〜6)グリコール鎖または該グリコールのモノアルキル(アルキルの炭素数1〜22)エーテル鎖を有するモノマー(d’)5〜30質量%(モノマー(a’)〜(d’)の合計を100質量%とする)とを、水溶性有機溶剤中で重合開始剤にて重合して、生成された重合体を含む重合液を得、前記重合液と水とを混合攪拌して水中に重合体を乳化または溶解させて該重合体の乳化液または溶液を得、該乳化液または該溶液に酸を加えて重合体を析出させて該重合体と水の混合液を得、ついで該混合液を上記重合体の曇点以上に加温することを特徴とする顔料分散剤の製造方法。
【請求項4】
水溶性有機溶剤が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセトンおよびテトラヒドロフランからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒である請求項3に記載の顔料分散剤の製造方法。
【請求項5】
重合開始剤が、そのラジカル分解物のカップリング生成物が、沸点が250℃以上のものである請求項3に記載の顔料分散剤の製造方法。
【請求項6】
重合開始剤が、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,2,4−トリメチルペンタン)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル〕プロピオンアミド}、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過酸化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項3に記載の顔料分散剤の製造方法。
【請求項7】
酸が、無機酸である請求項3に記載の顔料分散剤の製造方法。
【請求項8】
前記重合液を水中に注入して前記重合体を析出させ、析出した重合体とアルカリの水溶液とを混合攪拌して前記重合体を乳化または溶解させることによって前記重合体の前記乳化液または溶液を得ることを特徴とする請求項3に記載の顔料分散剤の製造方法。
【請求項9】
アルカリが、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項8に記載の顔料分散剤の製造方法。
【請求項10】
前記重合液とアルカリの水溶液とを混合攪拌して前記重合体の前記溶液を得、該溶液に酸を加えて該重合体を析出させて該重合体と水の混合液を得ることを特徴とする請求項3に記載の顔料分散剤の製造方法。
【請求項11】
アルカリが、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項10に記載の顔料分散剤の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の顔料分散剤を水中でアルカリにより中和して得られ、顔料分散剤の含有量が50質量%以下で、かつ沸点が250℃以下の有機化合物の含有量が、0.05質量%以下であることを特徴とする顔料分散剤の水溶液。
【請求項13】
少なくとも顔料と、水と、請求項1に記載の顔料分散剤と、アルカリとからなり、沸点が250℃以下の有機化合物の含有量が0.01質量%以下であることを特徴とする顔料分散液。

【公開番号】特開2009−24165(P2009−24165A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136744(P2008−136744)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】