説明

顕微鏡装置

【課題】高速に画像を撮影するために標本のスキャン速度を高めた場合であっても、より鮮明な画像を撮影することができる。
【解決手段】受光部108は、n本のラインセンサを有する。n本のラインセンサは受光部108の主走査方向に沿って平行に配置され、n本のラインセンサの合焦位置が互いに異なるように構成されている。ステージ駆動部103は、標本の撮像中、標本に対して受光部108が副走査方向と主走査方向とに移動するように標本と受光部108の相対位置を操作する。合焦検出部110は、標本をm個の部分領域に分割し、n本のラインセンサにより撮影されたm個の部分領域の各々に関するn×m個の部分画像の各々について合焦状態を検出する。画像データ生成部111は、合焦状態に基づいて、m個の部分領域の各々についてn個の部分画像から1個を選択し、選択されたm個の部分画像を合成して標本の全体画像を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡装置に関し、特に病理標本などの顕微鏡画像を撮影する顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞、組織診断といった病理学の分野などにおいて、スライドガラスに配置されている標本全体を撮影しデジタル画像化し、これをパーソナルコンピュータのモニタ上に表示を行ない、あたかも実際の顕微鏡で標本を観察しているかのように操作ができるバーチャル顕微鏡がよく知られている。
【0003】
ところで、バーチャル顕微鏡で利用する画像データを取得する顕微鏡システムでは、高解像度且つ高速で画像を取得することが要求されている。そこで、複数の画素が一次元配列された撮像素子による1次元スキャンカメラを利用した顕微鏡装置が提案されている。
【0004】
この顕微鏡装置では、標本が配置されたスライドガラスを載置したステージを水平方向に移動させることにより、一次元スキャンカメラでスライドガラスの画像を取得する。この場合、一次元スキャンカメラの観察フィールドに対応するスライドガラスのX軸方向の画像データをスキャンして取得できるので、結果として、高解像度でスライドガラスの画像データを取得することができる。
【0005】
また、鮮明な画像を取得するためにはスキャンの最中にも正しく合焦距離を設定し合焦させる必要がある。合焦距離を設定して合焦させる方法としてはオートフォーカス法が知られている(例えば、特許文献1参照)
【0006】
以下、オートフォーカス法について説明する。図9は、オートフォーカス法を用いた顕微鏡装置の構成を示した構成図である。図9において、700は顕微鏡装置の主要部であり、701は撮像デバイスがラインセンサ702であるラインスキャンカメラであり、また、703は対物レンズである。704は標本が配置されたスライドガラスであり、ステージ705に載置されている。ステージ705はZ制御部706及びXY制御部707によって制御されるステージ駆動部708により水平方向及び上下方向に駆動される。
【0007】
709はオートフォーカスのためのAFユニットであり、図10に示すようにレーザ光の投光部709aと受光部709bがプリント基板709cに配置されている。投光部709aで発光したレーザ光は、レンズシステムとハーフミラー710により顕微鏡700の光軸に沿うように曲げられた後、スライドガラス704に設置されている標本に投光される。その反射光は経路を逆に経由して、受光部709bで検出される。
【0008】
なお、標本への投光位置は、図11に示すように、顕微鏡装置700の視野A内にあるスライドガラス704に設置されている標本の上面901であって、ラインセンサ702で撮影できる範囲Bのスキャン前方の近傍位置Cに設定してある。711はフォーカス演算処理部であり、AFユニット709の受光部709bでの検出結果を基にステージ705の上下方向(Z方向)の移動量を演算し、その結果をZ制御部706に伝える。Z制御部706ではステージ705を上下方向に移動させるステージ制御信号を生成し、そのステージ制御信号をステージ駆動部708に伝達する。
【0009】
次に、オートフォーカス法を用いた顕微鏡装置の動作について説明する。まず、ステージ705をXY制御部707の指令に従ってステージ駆動部708によりスライドガラス704が所定の位置に配置されるように水平方向に移動させる。
【0010】
次にAFユニット709に設けられているレーザ光を発光する投光部709aを発光させてスライドガラス704に設置されている標本にレーザ光を投光し、その反射光の形状を受光部709bで検出する。
【0011】
ところで、反射光の形状は、図12に示すように、適正な合焦距離にある場合には図12(b)に示すような円形となり、適正な合焦距離より近い場合には図12(a)に示すような左斜めに傾いた楕円となり、また、適正な合焦距離より遠い場合には図12(c)に示すような右斜めに傾いた楕円となる。よって、受光部709bに入射した反射光の形状を確認することにより合焦状態を判定することができる。
【0012】
受光部709bにより検出された反射光の形状はフォーカス演算処理部711に伝達され合焦状態が判断される。フォーカス演算処理部711では合焦距離が適正な合焦距離より遠いか、近いか、また、適正な合焦距離からのずれ量が演算され、その演算結果はZ制御部706に伝達される。Z制御部706では演算結果を受けてステージ制御信号を生成し、ステージ駆動部708に伝達し、ステージ駆動部708によりステージ705を上下方向に移動させて、結果として、適正な合焦距離に合わせ込まれる。
【0013】
上述したオートフォーカス動作と同時に、XY制御部707の指令に従ってステージ駆動部708によりステージ705をラインセンサ702の副走査方向(X軸方向)に駆動し、スライドガラス704のスキャンを行って画像データを取得する。この時、上述したオートフォーカス動作が働いているので、スキャンを行って画像データを取得している最中でも常に合焦状態が保たれ鮮明な画像を取得することができる。
【0014】
また、ステージの移動速度を速くする、即ち、標本のスキャン速度を高めることにより高速に画像データを取得する方法がある。このとき、ステージ705を高速にラインセンサ702の副走査方向に移動させて標本をスキャンしながら従来のオートフォーカス手法を用いて合焦状態を維持する、即ち追従フォーカスを行うためには、高周波でステージ705をZ軸方向に駆動、制御させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2003−295065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、ステージ705は剛性を確保するため質量が大きい。そのため、ステージ駆動部708のZ軸方向の駆動能力の限界によりZ軸方向の駆動が追従できなくなり、合焦状態を維持することが困難となる。すなわち、合焦動作を高速に追従させるには限界がある。また、対物レンズ703をZ軸方向に駆動してオートフォーカスを行い合焦させる方法もあるが、合焦動作を高速に追従させるには限界がある。その結果、高速に画像を撮影するために標本のスキャン速度を高めた場合、顕微鏡装置は鮮明な画像を取得することができないという問題がある。
【0017】
本発明は上述の課題を解決するためになされたものであり、高速に画像を撮影するために標本のスキャン速度を高めた場合であっても、より鮮明な画像を撮影することができる顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、n本(nは2以上の自然数)のラインセンサを有する受光部であって、前記n本のラインセンサは前記受光部の主走査方向に沿って平行に配置され、前記受光部が標本の撮像を行うとき、前記n本のラインセンサの合焦位置が互いに異なるように構成されている前記受光部と、前記標本の撮像中、前記標本に対して前記受光部が副走査方向と主走査方向とに移動するように前記標本と前記受光部の相対位置を操作する手段と、前記標本をm個(mは2以上の自然数)の部分領域に分割し、前記n本のラインセンサにより撮影された前記m個の部分領域の各々に関するn×m個の部分画像の各々について合焦状態を検出する合焦検出部と、前記合焦状態に基づいて、前記m個の部分領域の各々について前記n個の部分画像から1個を選択し、選択された前記m個の部分画像を合成して前記標本の全体画像を生成する画像データ生成部と、を備えたことを特徴とする顕微鏡装置である。
【0019】
また、本発明の顕微鏡装置において、前記相対位置を操作する手段は前記標本を配置するステージを有し、前記n本のラインセンサは、同一合焦距離の複数の結像レンズと、複数の受光素子を有し、前記複数の結像レンズと前記ステージとの距離を、前記n本のラインセンサ毎に異なる距離とすることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の顕微鏡装置において、前記n本のラインセンサは、複数の結像レンズと、複数の受光素子を有し、前記結像レンズの合焦距離を、前記n本のラインセンサ毎に異なる合焦距離とすることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の顕微鏡装置において、前記n本のラインセンサは、複数の結像レンズと、複数の受光素子を有し、前記n本のラインセンサを前記ステージに対して傾斜させて配置し、該複数のラインセンサと前記標本を配置するステージとの間に、光路を曲げるプリズムを配置することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の顕微鏡装置において、前記n本のラインセンサは、複数の結像レンズと、複数の受光素子を有し、前記n本のラインセンサは同一平面上に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の顕微鏡装置によれば、高速に画像を撮影するために標本のスキャン速度を高めた場合であっても、より鮮明な画像を撮影することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態における顕微鏡装置の構成を示した構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における受光部の構成を示した構成図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における受光部の構成を示した構成図である。
【図4】本発明の第1の実施形態において顕微鏡装置が標本を撮像する手順を示したフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施形態における部分画像の例を示した図である。
【図6】本発明の第1の実施形態において部分画像を合成する例を示している。
【図7】本発明の第2の実施形態における受光部の構成を示した構成図である。
【図8】本発明の第3の実施形態における受光部の構成を示した構成図である。
【図9】従来の顕微鏡装置の構成を示した構成図である。
【図10】従来のAFユニットの基板を示した概略図である。
【図11】従来の顕微鏡装置における投光位置を示した概略図である。
【図12】従来の反射光の形状を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態における顕微鏡装置100の構成を示した図である。
【0026】
図1に示す顕微鏡装置100は、ステージ102と、ステージ駆動部103と、XY制御部104と、Z制御部105と、対物レンズ106と、第1の結像レンズ107と、撮像装置109と、合焦検出部110と、画像データ生成部111と、フォーカスユニット112と、フォーカス演算処理部113と、ハーフミラー114とを備える。
【0027】
ステージ102は、標本が配置されるスライドガラス101を載置する。ステージ駆動部103は、ステージ102を水平方向(図上でXY方向)及び上下方向(図上でZ方向)に駆動する。XY制御部104は、ステージ駆動部103の水平方向への駆動を制御する。Z制御部105は、ステージ駆動部103の上下方向への駆動を制御する。
【0028】
対物レンズ106は複数のレンズで構成されており、スライドガラス101に対向するように配置されている。第1の結像レンズ107は、対物レンズ106の光軸に沿って配置されている。対物レンズ106と第1の結像レンズ107とは、標本からの光束を集光する。
【0029】
撮像装置109は、受光部108を備え、スライドガラス101に載置されている標本を撮像する。受光部108の構成については後述する。
【0030】
合焦検出部110は、撮像装置109が撮像した画像をいくつかの領域に分割した部分画像の合焦状態を検出する。画像データ生成部111は、合焦検出部110の検出結果に基づいて、撮像装置109が撮像した部分画像を合成し、1つの画像(全体画像)を生成する。合焦検出部110と画像データ生成部111の詳細な動作については後述する。
【0031】
フォーカスユニット112は、オートフォーカスを行うための装置である。また、フォーカス演算処理部113は、フォーカスユニット112からの検出信号に基づいて、受光部108の合焦距離を算出する。この合焦距離に基づいて、Z制御部105はステージ駆動部103の上下方向への駆動を制御する。これにより、ステージ駆動部103は、撮像装置109の受光部108が合焦となるように、ステージ102を移動させることができる。ハーフミラー114は、フォーカスユニット112が照射したレーザ光を顕微鏡装置100の光軸に沿うように反射する。
【0032】
なお、顕微鏡装置100は、図示せぬCPU(Central Processing Unit、中央演算処理装置)と、ROM(Read Only Memory、リードオンリーメモリ)と、RAM(Random Access Memory、ランダムアクセスメモリ)と、外部記憶装置などを含むコンピュータシステムを有する構成としてもよい。
【0033】
そして、上述したXY制御部104と、Z制御部105と、撮影装置109と、合焦検出部110と、画像データ生成部111と、フォーカスユニット112と、フォーカス演算処理部113とにより行われる処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、各部における処理が行われる構成としてもよい。
【0034】
すなわち、XY制御部104と、Z制御部105と、撮影装置109と、合焦検出部110と、画像データ生成部111と、フォーカスユニット112と、フォーカス演算処理部113とにおける処理は、CPU等の中央演算処理装置がROMやRAM等の主記憶装置に上記プログラムを読み出して、情報の加工、演算処理を実行することにより、実現される構成としてもよい。
【0035】
次に、図2および図3を参照して、本実施形態における受光部108の構成について説明する。図2は、本実施形態における受光部108をZ方向から見た構成を示した図である。図示する例では、受光部108は、ラインセンサ群202を備えている。
【0036】
ラインセンサ群202は、n本(nは2以上の自然数)のラインセンサ202−1〜202−nを備えている。ラインセンサ201−1〜202−nは、互いに平行に配置されている。また、ラインセンサ202−1〜202−nの長手方向と図示するY方向とは平行である。また、ラインセンサ202−1〜202−nは、同一平面上に配置されている。
【0037】
ラインセンサ202−1〜202−nは、複数の受光素子201を備えている。例えば、1つの受光素子201は1画素を構成する。これにより、ラインセンサ202−1〜202−nは、ステージ102に載置された標本が副走査方向(X方向)に移動されると、標本のスキャンを行い、標本の画像を撮影することができる。すなわち、ラインセンサ202−1〜202−nは、それぞれ標本の画像を撮影することができる。
【0038】
また、ラインセンサ202−1が備える受光素子201上には、平凸レンズ203−1が配置されている。また、ラインセンサ202−2が備える受光素子201上には、平凸レンズ203−2が配置されている。同様に、ラインセンサ202−3〜202−nが備える受光素子201上には、平凸レンズ203−3〜203−nが配置されている。なお、平凸レンズ203−1〜203−nを第2の結像レンズとする。
【0039】
図3は、本実施形態における受光部108をY方向から見た構成を示した図である。平凸レンズ203−1〜203−nは、互いにレンズのコバ厚が異なる。図示する例では、平凸レンズ203−1から平凸レンズ203−nの順に、次第にレンズのコバ厚が大きくなっている。すなわち、平凸レンズ203−1のコバ厚が一番小さく、平凸レンズ203−nのコバ厚が一番大きくなっている。
【0040】
平凸レンズ203−1〜203−nのコバ厚が互いに異なるため、ラインセンサ202−1〜202−nの合焦位置は互いに異なる。図示する例では、ラインセンサ202−1の合焦位置は位置Aである。また、ラインセンサ202−2の合焦位置は位置Bである。また、ラインセンサ202−nの合焦位置は位置Nである。これにより、ラインセンサ202−1〜202−nと標本との距離が同一の場合においても、ラインセンサ202−1〜202−nは、合焦状態が互いに異なる画像を取得することができる。
【0041】
次に、顕微鏡装置100が標本の撮像を行う際の動作について図4を参照して説明する。図4は、本実施形態の顕微鏡装置100が標本を撮像する手順を示したフローチャートである。
【0042】
なお、以下の説明において、ラインセンサ202−1〜202−nの長手方向、即ち、主走査方向をY軸方向とする。また、ラインセンサ202−1〜202−nの長手方向と直交する方向、即ち、ラインセンサ202−1〜202−nの短手方向をX軸方向とする。また、X軸とY軸とがなす面に対して直交する方向(鉛直方向)、つまり、対物レンズ105を貫く撮影光路の方向をZ軸方向とする。
【0043】
(ステップS401)XY制御部104の制御により、ステージ駆動部103は、スライドガラス101に配置されている標本の中央部近傍が撮影光路上に配置されるように、ステージ102をX軸方向とY軸方向とに移動させる。その後、ステップS402に進む。
【0044】
(ステップS402)フォーカスユニット112は、ラインセンサ群202を構成する複数のラインセンサ202−1〜202−nのうち、ラインセンサ202−1〜202−nに配置されている第2の結像レンズである平凸レンズ203−1〜203−nのレンズコバ厚が中央値、つまり、合焦位置が中央の位置であるラインセンサの合焦状態を計測する。
【0045】
続いて、フォーカス演算処理部113は、フォーカスユニット112が計測した結果に基づいて、合焦位置が中央の位置であるラインセンサが合焦状態となる位置にステージ102が移動するように、ステージ102の上下移動量を演算する。
【0046】
続いて、フォーカス演算処理部113の演算結果に基づいたZ制御部105の制御により、ステージ駆動部103は、ステージ102を上下方向(Z軸方向)に移動させ、合焦位置が中央の位置であるラインセンサを標本に概略合焦させる。その後、ステップS403に進む。なお、ステップS402で合わせた合焦位置をこの後の処理でも保持する。即ち、この後の処理ではステージ102を上下方向に移動させない。
【0047】
(ステップS403)XY制御部104の制御により、ステージ駆動部103は、スライドガラス101に配置されている標本の撮影開始箇所が撮影光路上に配置されるように、ステージ102をX軸方向とY軸方向とに移動させる。その後、ステップS404に進む。
【0048】
(ステップS404)XY制御部104の制御により、ステージ駆動部103は、ステージ102を、X軸方向、即ち、ラインセンサ202−1〜202−nの副走査方向に移動させる。ラインセンサ201−1〜202−nは、スライドガラス101上の標本をスキャンし、ラインセンサ201−1〜202−n毎に画像を取得する。すなわち、撮像装置109はn個の画像を取得する。その後、ステップS405に進む。
【0049】
ここで、ラインセンサ群202が備えるラインセンサ202−1〜202−nの各々の受光素子201の受光面上には、ラインセンサ202−1〜202−nに対して互いに合焦位置が異なるように、曲率半径は同じであるがレンズコバ厚の異なる平凸レンズから成る第2の結像レンズ203−1〜203−nが配置されている。
【0050】
また、ステップS402において、スライドガラス101に配置された標本の中央部近傍に対して、合焦位置が中央の位置であるラインセンサを基準に概略合焦を行い、その合焦位置はスキャン中保持されている。
【0051】
よって、第2の結像レンズである平凸レンズ203−1〜203−nのレンズコバ厚が中央値、つまり、合焦位置が中央の位置であるラインセンサでは、標本中央部で概略合焦した画像データが取得され、該平凸レンズのレンズコバ厚が薄い、つまり、合焦位置が前方合焦である各々のラインセンサでは標本中央部で該レンズコバ厚の薄さに応じた前ピンの画像データが取得され、該平凸レンズのレンズコバ厚が厚い、つまり、合焦位置が後方合焦である各々のラインセンサでは標本中央部で該レンズコバ厚の厚さに応じた後ピンの画像データが取得される。すなわち、撮像装置109は、合焦状態が異なるn個の画像を取得することができる。
【0052】
ところで、スキャン中の対物レンズ106と標本面(撮影面)との距離は、標本面の凹凸および傾き、ステージ駆動時のステージのブレ等により変動する。よって、標本中央部で概略合焦した画像データであっても合焦させた部分以外では非合焦な画像データとなる場合がある。また、前述した標本中央部で前ピン及び後ピンの画像データであっても部分的には合焦した画像データとなる場合がある。
【0053】
よって、ラインセンサ202−1〜202−nが撮影したn個の画像それぞれをm個(mは2以上の自然数)の部分画像に分割し、同一の部分を撮影したn個の部分画像のうち、合焦状態の一番良い部分画像を選択し、選択した部分画像を合成することで、合焦状態のよい1枚の全体画像を生成することができる。
【0054】
以下、図4の説明に戻り、合焦状態の一番良い部分画像を選択し、選択した部分画像を合成して一枚の全体画像を生成する手順について説明する。
【0055】
(ステップS405)合焦検出部110は、ラインセンサ202−1〜202−nが撮影したn個の画像それぞれを部分画像に分割し、同一の部分を撮影したn個の部分画像のうち、合焦状態が一番良い部分画像を選択する。合焦検出部110はこの選択を全ての部分画像(n×m個の部分画像)に対して行う。その後、ステップS406に進む。
【0056】
(ステップS406)画像データ生成部111は、ステップS405で選択した部分画像を合成し、合焦状態が一番良い1枚の全体画像を生成する。その後、処理を終了する。
【0057】
以下、ステップS405〜ステップS406の具体例について図5および図6を参照して説明する。図5は部分画像の例を示した図である。図示する例では、ラインセンサ202−1〜202−nが撮影した画像を16個の部分画像に分割している。すなわち、mが16の場合の例を示している。また、左上から右下にかけて、説明のために、部分画像1〜16と番号を付けている。例えば、最上段の最も左側の部分画像は「部分画像1」である。また、最上段の最も右側の部分画像は「部分画像4」である。また、最下段の最も左側の部分画像は「部分画像13」である。他の部分画像については図示するとおりである。
【0058】
図5に示すように、合焦検出部110は、ラインセンサ202−1が撮影した画像を部分画像1〜16の16個の部分画像に分割し、各部分画像の合焦状態を検出する。各部分画像の合焦状態は、例えば各部分画像のコントラストから検出することが可能である。合焦検出部110は、ラインセンサ202−2〜202−nが撮影した画像についても図5に示すように16個の部分画像に分割し、各部分画像の合焦状態を検出する。
【0059】
図6は合焦状態が一番良い部分画像を選択して合成する例を示している。図示する例では、合焦検出部110は、ラインセンサ202−1〜202−nが撮影したn個の部分画像1のうち、合焦状態が一番良い部分画像1としてラインセンサ202−2が撮影した部分画像1を選択している。よって、画像データ生成部111は、ラインセンサ202−2が撮影した部分画像1を合成している。
【0060】
また、合焦検出部110は、ラインセンサ202−1〜202−nが撮影したn個の部分画像2のうち、合焦状態が一番良い部分画像2としてラインセンサ202−nが撮影した部分画像2を選択している。よって、画像データ生成部111は、ラインセンサ202−nが撮影した部分画像2を合成している。部分画像3〜16の合成については明示していないが、同様に部分画像3〜16についても合成する。このように、合焦検出部110は合焦状態が一番良い部分画像を選択する。また、画像データ生成部111は、合焦検出部110が選択した部分画像を合成して1枚の全体画像を生成する。
【0061】
上述したとおり、本実施形態によれば、合焦位置が異なるn個のラインセンサ202−1〜202−nを備えている。また、ラインセンサ202−1〜202−nは、それぞれ画像を撮影する。また、ラインセンサ202−1〜202−nの合焦位置が異なっているため、ラインセンサ202−1〜202−nが撮影した画像の合焦状態も異なっている。
【0062】
なお、一般的に、ラインセンサ202−1〜202−nが撮影した画像の合焦状態は、標本面の凹凸および傾き、ステージ駆動時のステージのブレ等により変動する。よって、標本中央部で概略合焦した画像データであっても合焦させた部分以外では非合焦な画像データとなる場合がある。また、前述した標本中央部で前ピン及び後ピンの画像データであっても部分的には合焦した画像データとなる場合がある。
【0063】
よって、合焦検出部110は、n個の画像それぞれを部分画像に分割し、同一の部分を撮影したn個の部分画像のうち、合焦状態の一番良い部分画像を選択する。また、画像データ生成部111は、合焦検出部110が選択した部分画像を合成して1枚の全体画像を生成する。
【0064】
これにより、本実施形態の顕微鏡装置100は、標本を撮影(スキャン)する際にも、合焦距離を算出して合焦させる処理、すなわちオートフォーカスの処理を行うことなく、合焦状態の良い画像を撮影することができる。よって、本実施形態の顕微鏡装置100は、オートフォーカスの処理、すなわち追従フォーカスを行う必要がないため、高速に画像を撮影するために標本のスキャン速度を高めた場合であっても、より鮮明な画像を撮影することができる。
【0065】
また、本実施形態のラインセンサ202−1〜202−nは、同一平面上に配置されている。この構成により、ラインセンサ群202を容易に製造することができる。
【0066】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態の顕微鏡装置と第1の実施形態の顕微鏡装置100とで異なる構成は、受光部508の構成である。本実施形態の顕微鏡装置が備える受光部508以外の構成および動作については、第1の実施形態の構成および動作と同様である。
【0067】
図7は、本実施形態における受光部508をY方向から見た構成を示した図である。本実施形態の受光部508は、第1の実施形態の受光部108と同様に、ラインセンサ群202を備えている。ラインセンサ群202の構成は第1の実施形態のラインセンサ群202と同様の構成である。
【0068】
第1の実施形態と異なる点は、ラインセンサ202−1が備える受光素子201上には、平凸レンズ503−1が配置されている。また、ラインセンサ202−2が備える受光素子201上には、平凸レンズ503−2が配置されている。同様に、ラインセンサ202−3〜202−nが備える受光素子201上には、平凸レンズ503−3〜503−nが配置されている。平凸レンズ503−1〜503−nを第2の結像レンズとする。
【0069】
平凸レンズ503−1〜503−nは、互いにレンズの曲率半径が異なる。図示する例では、平凸レンズ503−1から平凸レンズ503−nの順に、次第にレンズの曲率半径が大きくなっている。すなわち、平凸レンズ503−1の曲率半径が一番小さく、平凸レンズ503−nの曲率半径が一番大きくなっている。なお、平凸レンズ503−1〜503−nのコバ厚は同一である。
【0070】
平凸レンズ503−1〜503−nの曲率半径が互いに異なるため、ラインセンサ202−1〜202−nの合焦位置は互いに異なる。図示する例では、ラインセンサ202−1の合焦位置は位置Aである。また、ラインセンサ202−2の合焦位置は位置Bである。また、ラインセンサ202−nの合焦位置は位置Nである。これにより、ラインセンサ202−1〜202−nと標本との距離が同一の場合においても、ラインセンサ202−1〜202−nは、合焦状態が互いに異なる画像を取得することができる。
【0071】
上述したとおり、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、ラインセンサ202−1〜202−nは、それぞれ合焦状態が異なる画像を撮影する。また、合焦検出部110は、n個の画像それぞれを部分画像に分割し、同一の部分を撮影したn個の部分画像のうち、合焦状態の一番良い部分画像を選択する。また、画像データ生成部111は、合焦検出部110が選択した部分画像を合成して1枚の全体画像を生成する。
【0072】
よって、本実施形態の顕微鏡装置は、標本を撮影する際にも、合焦距離を算出して合焦させる処理、すなわちオートフォーカスの処理を行うことなく、合焦状態の良い画像を撮影することができる。よって、本実施形態の顕微鏡装置は、オートフォーカスの処理、すなわち追従フォーカスを行う必要がないため、高速に画像を撮影するために標本のスキャン速度を高めた場合であっても、より鮮明な画像を撮影することができる。
【0073】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態の顕微鏡装置と第1の実施形態の顕微鏡装置100とで異なる構成は、受光部608の構成である。本実施形態の顕微鏡装置が備える受光部608以外の構成および動作については、第1の実施形態の構成および動作と同様である。
【0074】
図8は、本実施形態における受光部608をY方向から見た構成を示した図である。本実施形態の受光部608は、第1の実施形態の受光部108と同様に、ラインセンサ群202を備えている。ラインセンサ群202の構成は第1の実施形態のラインセンサ群202と同様の構成である。
【0075】
第1の実施形態と異なる点は、ラインセンサ202−1が備える受光素子201上には、平凸レンズ603−1が配置されている。また、ラインセンサ202−2が備える受光素子201上には、平凸レンズ603−2が配置されている。同様に、ラインセンサ202−3〜202−nが備える受光素子201上には、平凸レンズ603−3〜603−nが配置されている。平凸レンズ603−1〜603−nを第2の結像レンズとする。なお、平凸レンズ603−1〜603−nは、レンズコバ厚が同じであり、また、曲率半径も同じである。
【0076】
また、本実施形態では、ラインセンサ群202を、ラインセンサ202−1〜202−nの副走査方向にスライドガラス101に対し傾斜して配置している。また、ラインセンサ202−1〜202−nとスライドガラス101との間に光路を曲げ、且つ光路長を変えるプリズム604を配置している。これにより、ラインセンサ202−1〜202−nの合焦位置は互いに異なる。よって、ラインセンサ202−1〜202−nは、合焦状態が互いに異なる画像を取得することができる。
【0077】
上述したとおり、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、ラインセンサ202−1〜202−nは、それぞれ合焦状態が異なる画像を撮影する。また、合焦検出部110は、n個の画像それぞれを部分画像に分割し、同一の部分を撮影したn個の部分画像のうち、合焦状態の一番良い部分画像を選択する。また、画像データ生成部111は、合焦検出部110が選択した部分画像を合成して1枚の全体画像を生成する。
【0078】
よって、本実施形態の顕微鏡装置は、標本を撮影する際にも、合焦距離を算出して合焦させる処理、すなわちオートフォーカスの処理を行うことなく、合焦状態の良い画像を撮影することができる。よって、本実施形態の顕微鏡装置は、オートフォーカスの処理、すなわち追従フォーカスを行う必要がないため、高速に画像を撮影するために標本のスキャン速度を高めた場合であっても、より鮮明な画像を撮影することができる。
【0079】
なお、本実施形態においては、第2の結像レンズである平凸レンズ603−1〜603−nを配置せず、第1の結像レンズ107のみで標本の画像をラインセンサ202−1〜202−n上に結像させてもよい。
【0080】
以上、この発明の第1の実施形態〜第3の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0081】
例えば、第1の実施形態において、顕微鏡装置は標本の中央部近傍で概略合焦を行なっているが、標本中央部以外の標本の表面上で概略合焦を行なってもよい。
【0082】
また、第1の実施形態において、画像を16個の部分画像に分割しているがこれに限らず、任意の個数に分割してもよい。
【0083】
また、本発明の顕微鏡装置が備える撮像装置は、異なる合焦状態の画像を複数枚撮影することができる撮像装置であれば、どのような構成の撮像装置でもよい。
【符号の説明】
【0084】
100,700・・・顕微鏡装置、101,704・・・スライドガラス、102,705・・・ステージ、103,708・・・ステージ駆動部、104,707・・・XY制御部、105,706・・・Z制御部、106,703・・・対物レンズ、107・・・第1の結像レンズ、108,508,608・・・受光部、109・・・撮像装置、110・・・合焦検出部、111・・・画像データ生成部、112・・・フォーカスユニット、113,711・・・フォーカス演算処理部、114,710・・・ハーフミラー、201・・・受光素子、202・・・ラインセンサ群、202−1〜202−n,702・・・ラインセンサ、203−1〜203−n,503−1〜503−n,603−1〜603−n・・・平凸レンズ、604・・・プリズム、701・・・ラインスキャンカメラ、709・・・AFユニット、709a・・・投光部、709b・・・受光部、709c・・・プリント基板、901・・・標本の上面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n本(nは2以上の自然数)のラインセンサを有する受光部であって、前記n本のラインセンサは前記受光部の主走査方向に沿って平行に配置され、前記受光部が標本の撮像を行うとき、前記n本のラインセンサの合焦位置が互いに異なるように構成されている前記受光部と、
前記標本の撮像中、前記標本に対して前記受光部が副走査方向と主走査方向とに移動するように前記標本と前記受光部の相対位置を操作する手段と、
前記標本をm個(mは2以上の自然数)の部分領域に分割し、前記n本のラインセンサにより撮影された前記m個の部分領域の各々に関するn×m個の部分画像の各々について合焦状態を検出する合焦検出部と、
前記合焦状態に基づいて、前記m個の部分領域の各々について前記n個の部分画像から1個を選択し、選択された前記m個の部分画像を合成して前記標本の全体画像を生成する画像データ生成部と、
を備えたことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項2】
前記相対位置を操作する手段は前記標本を配置するステージを有し、
前記n本のラインセンサは、同一合焦距離の複数の結像レンズと、複数の受光素子を有し、
前記複数の結像レンズと前記ステージとの距離を、前記n本のラインセンサ毎に異なる距離とする
ことを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項3】
前記n本のラインセンサは、複数の結像レンズと、複数の受光素子を有し、
前記結像レンズの合焦距離を、前記n本のラインセンサ毎に異なる合焦距離とする
ことを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項4】
前記n本のラインセンサは、複数の結像レンズと、複数の受光素子を有し、
前記n本のラインセンサを前記ステージに対して傾斜させて配置し、
該複数のラインセンサと前記標本を配置するステージとの間に、光路を曲げるプリズムを配置する
ことを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項5】
前記n本のラインセンサは、複数の結像レンズと、複数の受光素子を有し、
前記n本のラインセンサは同一平面上に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−256530(P2010−256530A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105088(P2009−105088)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】