説明

飛しょう体誘導装置

【課題】追跡目標が急激に進路を変更しても追跡を継続できる飛しょう体誘導装置提供する。
【解決手段】目視線変化率λ’の絶対値|λ’|が増加するとき有効航法定数N’を大きくして大きい旋回加速度を得る。また、目視線変化率λ’の絶対値|λ’|が減少するとき有効航法定数N’を小さくして比例航法を用いて飛しょう体を追跡目標に誘導する。目視線変化率λ’の絶対値|λ’|が増加するとき単調増加する非線形関数によって算出することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばミサイルのような飛しょう体を移動する目標に誘導する誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
飛しょう体に搭載され、飛しょう体を移動する追跡目標に誘導する誘導装置においては、従来からいわゆる比例航法が採用されている。
【0003】
図3に示すように、誘導装置は追跡目標302と誘導装置を結ぶ直線である目視線304と進行方向303のなす角である見越し角Lと、目視線304と誘導する飛しょう体301において誘導装置が追跡目標を観測するための基準である空間に固定された基準線305のなす角である目視線角λの時間あたりの変化率λ’を計測する。
【0004】
比例航法を採用する誘導装置は、目視線角λの時間当たりの変化率λ’を基準線305の旋回角の時間当たりの変化率γ’が比例するように、飛しょう体の旋回速度や舵角などを制御して飛しょう体を追跡目標に誘導する。
【0005】
これを式に表すと、式(1)のようになる。
【0006】
γ’=Nλ’ ・・・ (1)
(Nは定数。)
ここで、旋回角の変化率γ’は飛しょう体301の速度Vと、飛しょう体301と追跡目標302との相対速度Vと、見越し角Lの余弦に依存しているため、Nに関しては式(2)のように表すことができる。
【数1】

【0007】
このとき、N’を有効航法定数と呼ぶ。すなわち、N’を一定にするように誘導装置は飛しょう体301の旋回速度を制御する。
【0008】
しかし、相対速度Vは刻々と変化するため、有効航法定数N’を一定にして飛しょう体を追跡目標に誘導することは困難である。例えば、追跡目標302が急激に進路を変えると、有効航法定数N’を一定にして算出される旋回加速度では加速度が不足し、追跡目標302に振り切られ、追尾を継続できなくなることがある。
【0009】
この点に関し、飛しょう体301に向かって移動してくる追跡目標302が飛しょう体301から離れる方向に移動するように変化した場合に発生する飛しょう体の揺れを検知し、この揺れが発生したときに有効航法定数N’を変化させる技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0010】
また、飛しょう体301の速度Vと、飛しょう体301と追跡目標302との相対速度Vと、見越し角Lの余弦の組み合わせ毎にあらかじめ係数zを設定してメモリに格納しておき、これらの組み合わせが変化する毎に対応する係数zを読み出して有効航法定数N’に乗算して有効航法定数N’を補正する技術が提案されている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開昭64−67593号公報
【特許文献2】特開昭62−204317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に記載の技術によっては、追跡目標302が再度向きを変えて飛行するときには対応できず、また、追跡目標302が飛しょう体301の揺れが発生する前に急激に進路を変更した場合には追跡不能となる、という問題点があった。
【0012】
また、特許文献2に記載の技術によっては、VとVとLの組み合わせは膨大な数になるため、メモリに全ての組み合わせに対応する係数zを格納することは不可能であり、メモリに格納されていない組み合わせが発生したときは追跡不能となる、という問題点があった。
【0013】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、追跡目標が急激に進路を変更しても追跡を継続できる飛しょう体誘導装置提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するために本発明は、比例航法を用いて飛しょう体を追跡目標に誘導する飛しょう体の誘導装置であって、目視線変化率λ’の絶対値|λ’|が増加するとき、|λ’|の増加率以上の増加率により有効航法定数N’を増加させ、目視線変化率λ’の絶対値|λ’|が減少するとき、|λ’|の減少率以下の減少率により有効航法定数N’を減少させることにより、飛しょう体の旋回加速度を変化させる飛しょう体の誘導装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、追跡目標が急旋回して|λ’|が大きくなっても飛しょう体301を十分な旋回加速度により旋回させて追跡目標に誘導することが可能となり、|λ’|が小さくなったときには有効航法定数N’の増加に伴って発生する雑音の悪影響を最小限にとどめて飛しょう体を追跡目標に誘導することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明による画像誘導装置の一実施の形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
<本実施形態の概要>
本実施形態の飛しょう体誘導装置は、誘導する飛しょう体301において誘導装置が追跡目標を観測するための基準である基準線305と、飛しょう体301と追跡目標302を結ぶ直線とのなす角である目視線角λの時間当たりの変化率である目視線変化率λ’を算出する追尾装置と;目視線変化率λ’の絶対値|λ’|が増加するとき、|λ’|の増加率以上の増加率によって有効航法定数N’を増加させ、|λ’|が減少するとき、|λ’|の減少率以下の減少率によって有効航法定数N’を減少させる有効航法定数算出部と;有効航法定数N’から飛しょう体301の旋回加速度を算出する旋回速度算出部と;を備える。
【0018】
すなわち、本実施形態の飛しょう体誘導装置は、|λ’|が大きくなるほど有効航法定数N’を大きくし、|λ’|が小さくなった場合には有効航法定数N’を小さくする。
【0019】
<本実施形態の詳細>
図1は、本実施形態の飛しょう体誘導装置100の構成を示す概要図である。図1に示すように、飛しょう体誘導装置100は、目標追跡装置101と、有効航法定数算出部102と、旋回加速度算出部103と、と備える。
【0020】
目標追跡装置101は、例えば、追跡目標302を撮像する撮像装置と、この撮像装置を搭載したジンバル機構と、このジンバル機構の回転角を検知する回転角センサと、飛しょう体301の加速度を検知する加速度センサと、追跡目標302の速度を追跡目標302が反射した電磁波のドップラー効果から検知する追跡目標速度センサと、回転角センサからの出力から見越し角Lと目視線変化率λ’を算出し、加速度センサと追跡目標速度センサの各出力から飛しょう体301の速度Vと飛しょう体301と追跡目標302との相対速度Vとを算出する演算装置とを備える。
【0021】
有効航法定数算出部102は、例えばプロセッサなどの演算装置を備える。なお、目標追跡装置101の演算装置が有効航法定数算出部102の演算装置を兼ねるように構成することも可能である。
【0022】
旋回加速度算出部103は、例えばプロセッサなどの演算装置を備える。なお、目標追跡装置101の演算装置が旋回加速度算出部103の演算装置を兼ねるように構成することも可能である。
【0023】
次に、有効航法定数算出部102の動作について説明する。有効航法定数算出部102は、目標追跡装置101が出力した見越し角Lと目視線変化率λ’と飛しょう体301の速度Vと飛しょう体301と追跡目標302との相対速度Vを入力し、有効航法定数N’を算出する。
【0024】
有効航法定数算出部102は、例えば目視線変化率の絶対値から、目視線変化率λ’の絶対値|λ’|が増加するとき単調増加する非線形関数を用いて、|λ’|から有効航法定数N’を算出する。この非線形関数は、例えば目視線変化率λ’の絶対値|λ’|の実数乗に比例する関数を用いることができる。
【0025】
具体的に説明する。式(2)はNについて整理すると次の式(3)のようになる。
【数2】

【0026】
ここで、有効航法定数N’を次の式(4)により求める。
【0027】
N’=C・|λ’| ・・・ (4)
Cは定数である。また、kは実数であり、例えば0.2から4のうち最適な値を任意に選択できる。有効航法定数算出部102は、有効航法定数N’を変化させてNを算出する。
【0028】
通常は、有効航法定数N’は3乃至6が用いられる。N’の値を大きくすると各装置の雑音の悪影響が出てくる。N’の値が小さいと追跡目標302が急旋回した場合に飛しょう体301の旋回加速度が不足する。
【0029】
有効航法定数算出部102が、|λ’|が増加するとき単調増加する非線形関数を用いて算出した有効航法定数N’の例を図2に示す。図2において、縦軸201は有効航法定数N’であり、横軸202は|λ’|である。
【0030】
図2に示すグラフ203のように、有効航法定数算出部102は目視線変化率の絶対値|λ’|が増加するとき、|λ’|の増加率以上の増加率によって有効航法定数N’を増加させ、目視線変化率の絶対値|λ’|が減少するとき、目視線変化率の絶対値|λ’|の減少率以下の減少率によって有効航法定数N’を減少させる。
【0031】
なお、kの値は一定にしても、見越し角Lと飛しょう体301の速度Vと飛しょう体301と追跡目標302との相対速度Vの値によって変化させてもよい。
【0032】
旋回加速度算出部103は、有効航法定数算出部102が出力した有効航法定数N’から航法定数Nを求め、式(1)を用いて飛しょう体301の旋回加速度を算出し、この旋回加速度を姿勢制御の制御信号である加速度指令信号に変換して舵角制御装置や推進力制御装置に出力する。
【0033】
航法定数Nは有効航法定数N’が大きくなると増加するため、有効航法定数N’が大きくなると飛しょう体301の旋回加速度が大きくなる。
【0034】
<本実施形態の効果>
以上述べたように、本実施形態の飛しょう体誘導装置100は、目視線変化率λ’の絶対値|λ’|が増加するとき有効航法定数N’を大きくして大きい旋回加速度を得る。また、目視線変化率λ’の絶対値|λ’|が減少するとき有効航法定数N’を小さくして従来の比例航法により誘導を行なう。このため、追跡目標が急旋回しても飛しょう体301を追跡目標に誘導することが可能となり、雑音の悪影響を最小限にとどめて飛しょう体301を追跡目標に誘導することができるという効果がある。
【0035】
<本発明の具体化における可能性>
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】飛しょう体誘導装置の構成を示す概要図である。
【図2】|λ’|が増加するとき単調増加する非線形関数を用いて算出した有効航法定数N’の例を示したグラフである。
【図3】見越し角Lと目視線角λを表した図である。
【符号の説明】
【0037】
100:飛しょう体誘導装置、
101:目標追跡装置、
102:有効航法定数算出部、
103:旋回加速度算出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準線と、飛しょう体と追跡目標を結ぶ直線とのなす角の変化率である目視線変化率を算出する目標追跡装置と;
前記目視線変化率の絶対値が増加するとき、前記目視線変化率の絶対値の増加率以上の増加率によって有効航法定数を増加させ、
前記目視線変化率の絶対値が減少するとき、前記目視線変化率の絶対値の減少率以下の減少率によって有効航法定数を減少させる有効航法定数算出部と;
前記有効航法定数から飛しょう体の旋回加速度を算出する旋回速度算出部と;
を備える飛しょう体誘導装置。
【請求項2】
基準線と、飛しょう体と追跡目標を結ぶ直線とのなす角の変化率である目視線変化率を算出する目標追跡装置と;
前記目視線変化率の絶対値から、前記目視線変化率の絶対値が増加するとき単調増加する非線形関数によって有効航法定数を算出する有効航法定数算出部と;
前記有効航法定数から飛しょう体の旋回加速度を算出する旋回速度算出部と;
を備える飛しょう体誘導装置。
【請求項3】
前記非線形関数が、前記目視線変化率の絶対値の実数乗に比例する関数であることを特徴とする、請求項2記載の飛しょう体誘導装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−275206(P2008−275206A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116854(P2007−116854)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】