説明

駆動ユニット

【課題】オイルポンプによる循環油で、同軸配置の減速機およびモータを順次潤滑・冷却するとき、金属粉がモータに付着するのを小さな磁石で防止可能にする。
【解決手段】モータ回転はロータ7から入力軸8、減速機5、出力軸9を経て車輪10に達する。ポンプ31は空間34内のオイルを吸入して、入力軸8の中空孔8aおよび径方向孔8bから減速機5に向け吐出させ、減速機5の潤滑に供される。減速機5を通過したオイルは空間33内のオイル溜まりに達し、軸線方向溝36を経て空間34内のオイル溜まりに向かう間に、モータ4に通過してその冷却を行う。減速機5を通過するときオイルに混入した金属粉は、軸線方向溝36の上流側接続開口部36aにおける磁石37により吸着され、オイルから除去される。よって、循環中のオイル内に金属粉が混入し続けて、モータ4に付着するの事態を、小さな磁石37により防止可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を個々の電動モータにより駆動して走行可能な電気自動車に用いられる、車輪ごとのインホイールモータユニット等として有用な駆動ユニットに関するもので、特にその冷却・潤滑技術に係わる。
【背景技術】
【0002】
駆動ユニットの冷却・潤滑技術としては、インホイールモータユニットの冷却・潤滑技術として従来、例えば特許文献1に記載のようなものが提案されている。
この提案技術は、電動モータおよび遊星歯車減速機を同じ室内に収納して具えたインホイールモータユニットに対し、以下の冷却・潤滑システムを構築したものである。
【0003】
上記室内の下部に貯留されているオイルを外部ポンプにより吸入し、このポンプが、吸入したオイルを、遊星歯車減速機の出力軸に設けてある中空孔による案内下で遊星歯車減速機に向け吐出するようにしたものである。
かくて上記のオイルは、遊星歯車減速機および電動モータを通過しつつ、ポンプにより循環され、遊星歯車減速機および電動モータを通過する間にこれら遊星歯車減速機および電動モータの潤滑および冷却を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−191027号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで遊星歯車減速機は、機械要素であるため上記の減速伝動中に金属粉が発生するのを禁じ得ず、この金属粉は上記循環中のオイル内に混入する。
かように金属粉が混入したオイルは、ポンプから減速機出力軸中空孔、遊星歯車減速機、電動モータを経てハウジング下部のオイル溜まりに至り、再びポンプにより吸入されて循環する。
【0006】
この循環中、オイル内に混入した金属粉は、一部が電動モータ内の永久磁石に吸着され、時間の経過とともに電動モータ内永久磁石への金属粉付着量が増大する。
かように電動モータ内永久磁石への金属粉付着量が増大すると、電動モータの性能低下を招き、インホイールモータ式電気自動車の動力性能が低下するという問題を生ずる。
【0007】
この問題解決のためには、自動変速機などで用いられるオイル中金属粉除去技術を流用し、ハウジング下部のオイル溜まり内に磁石を設置し、これによりオイル中の金属粉を吸着して除去することが考えられる。
【0008】
しかし、ハウジング下部のオイル溜まり内に磁石を設置するだけでは、この磁石付近を通過するオイルがオイル流の一部に限られ、この限られたオイル流内の金属粉しか磁石で吸着・除去することができない。
そのため、それ以外のオイル流内における金属粉が相変わらずオイル中に混入し続けることとなり、これが上記の問題を生起させて、抜本的な解決策たり得ない。
【0009】
なお、ハウジング下部のオイル溜まり内に設置する磁石を、当該オイル溜まり内における混入金属粉の大部分の吸着が可能となるように大型化することが考えられる。
しかし、オイル溜まり内における混入金属粉の大部分を吸着できるようにするには、磁石がオイル溜まりの大部分を占有するような大きさである必要があり、
レイアウトの制約や、コスト面から実現困難であって実際的でないし、オイル溜まり容量が不足するという別の問題をも生ずる。
【0010】
本発明は、混入金属粉を磁石により吸着して除去するという上記の技術を踏襲するが、磁石を大型化しなくても確実に混入金属粉を磁石により吸着・除去し得るようにして、上記の諸問題を解消可能にした駆動ユニットを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のため、本発明による駆動ユニットは、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となる駆動ユニットを説明するに、これは、
原動機および変速機を同じハウジング室内に収納して具え、このハウジング室内における媒体をポンプにより吸入・吐出して上記変速機および原動機に通過させつつ上記ハウジング室内に戻すことで、これら変速機および原動機の潤滑および冷却を行うようにしたものである。
【0012】
本発明は、かかる駆動ユニットに対して、以下のような工夫を施した構成に特徴づけられる。
先ず、上記変速機に通過した後の媒体が、上記ハウジング室内の変速機収納空間から、上記ポンプの吸入ポートに通じた前記ハウジング室内の吸入ポート接続空間に向けて流れる媒体流路を横切るよう配して隔壁を設ける。
またこの隔壁に、該隔壁の上流側における上流側媒体流路と下流側における下流側媒体流路とを相互に連通させる連通孔を設けて、該連通孔と、該連通孔の上記上流側媒体流路に対する上流側接続開口部および上記下流側媒体流路に対する下流側接続開口部とより成る連通媒体路を設定する。
そして、当該連通媒体路中に磁石部材を設置する。
【発明の効果】
【0013】
かかる本発明の駆動ユニットによれば、
ポンプがハウジング室内の媒体を吸入・吐出して変速機および原動機に通過させつつハウジング室内に戻すことで、これら変速機および原動機の潤滑および冷却を行うが、
変速機に通過した後の媒体は、ハウジング室内の変速機収納空間から吸入ポート接続空間に向けて流れるとき、その流路を隔壁の連通孔により限定される。
【0014】
よって、変速機に通過した後の媒体は、ハウジング室内の変速機収納空間から吸入ポート接続空間に向けて流れるとき、全てが、上流側接続開口部、隔壁の連通孔、および下流側接続開口部を通過することとなる。
ところで、これら上流側接続開口部、隔壁の連通孔、および下流側接続開口部より成る連通媒体路に磁石部材を設置したため、
変速機を通過するとき媒体に混入した金属粉が、上記の磁石部材により確実に吸着・除去され、循環中の媒体に金属粉が混入している状態を殆ど皆無にすることができる。
【0015】
しかも、変速機に通過した後の媒体の流路を上記の連通媒体路により限定し、この連通媒体路中に磁石部材を設置して、上記の作用効果が得られるようにしたため、
磁石部材は連通媒体路の開口面積に応じた小さなもので上記の作用効果を達成することができ、レイアウトの制約や、コスト面から実現困難になることがなくて、実際的であると共に、ハウジング室内の媒体溜まり容量を小さくするようなこともない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】、インホイールモータユニットとして構成した本発明の第1実施例になる駆動ユニットの縦断側面図である。
【図2】図1に示した第1実施例の駆動ユニットにおける電動モータのステータ下部と、ハウジング下方内周面との相互嵌着部を、永久磁石設置箇所において断面とし、図1の右方から見て示す詳細部分断面図である。
【図3】図1に示した第1実施例の駆動ユニットにおける電動モータのステータ下部と、ハウジング下方内周面との相互嵌着部を、リヤカバー除去状態で図1の左方から見て示す詳細部分端面図である。
【図4】本発明の第2実施例になる駆動ユニットの要部を拡大して示す要部拡大縦断側面図である。
【図5】本発明の第3実施例になる駆動ユニットの要部を拡大して示す要部拡大縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す第1実施例〜第3実施例に基づき順次、詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、本発明の第1実施例になる駆動ユニットの縦断側面図で、本実施例においてはこの駆動ユニットを、各輪個別駆動式電気自動車に用いるインホイールモータユニットとして構成する。
この図において、1は、インホイールモータユニットのハウジング本体、2は、該ハウジング本体1のリヤカバーをそれぞれ示し、
これらハウジング本体1およびリヤカバー2でインホイールモータユニットのハウジング3を構成する。
【0018】
図1に示すインホイールモータユニットは、ハウジング3内に電動モータ4および遊星歯車組式減速機5(以下、単に「減速機」と言う)を収納して構成し、これら電動モータ4および減速機5を同軸に対向配置する。
電動モータ4は本発明における原動機に相当するもので、ハウジング本体1の内周に嵌合して固設した円環状の外周ステータ6と、かかる円環状外周ステータ6(以下、単に「ステータ」と言う)の内周にラジアルギャップを持たせて同心に配した内周ロータ7(以下、単に「ロータ」と言う)とで構成する。
【0019】
減速機5は本発明における変速機に相当するもので、同軸に対向させて配置した入力軸8および出力軸9と、サンギヤ11と、このサンギヤ11に対し軸線方向へずらせて同心配置したリングギヤ12と、これらサンギヤ11およびリングギヤ12に噛合する段付きプラネタリピニオン13と、かかる段付きプラネタリピニオン13を回転自在に支持するキャリア14とにより構成する。
【0020】
入力軸8は、前記のサンギヤ11を一体成形して具え、この入力軸8をサンギヤ11からリヤカバー2に向かう後方へ延在させる。
出力軸9は、減速機5から反対方向(前方)に延在させて、ハウジング本体1の前端(図の右側)開口より突出させ、この突出箇所において出力軸9に後述のごとく車輪10を結合する。
ハウジング本体1の前端開口内に前記のリングギヤ12を回転止め、且つ抜け止めして固設し、プラネタリピニオン13は、サンギヤ11に噛合する大径ギヤ部13a、およびリングギヤ12に噛合する小径ギヤ部13bを一体に有した段付きピニオンとする。
【0021】
段付きプラネタリピニオン13は、1個のみを図示しているが、3個一組として円周方向等間隔に配置し、この円周方向等間隔配置を保って段付きプラネタリピニオン13を共通なキャリア14により回転自在に支持する。
ここでキャリア14は、入力軸8に近い出力軸9の内端に設けてこれに一体化させ、減速機5の出力回転メンバとする。
【0022】
上記のごとくキャリア14を一体化させた出力軸9の内端部に、ベアリング15を介し入力軸8の突き合わせ端部を相対回転可能に軸受して貫入させる。
かくして入出力軸8,9は、相対回転可能な軸ユニットを構成し、この軸ユニットは同時に前記したキャリア14および段付きプラネタリピニオン13をも、同一ユニットとして具える。
【0023】
上記のようにユニット化させた入出力軸8,9の軸ユニットをハウジング3に対し回転自在に支承するに際しては、軸線方向に離間した2箇所でベアリング17,18により当該支承を行う。
これらベアリング17,18のうち、電動モータ側ベアリング17は、リヤカバー2と略同じ軸線方向位置において当該リヤカバー2の中心孔内周と入力軸8の対応端部外周との間に介在させ、また、
車輪側ベアリング18は、ハウジング本体1の前端開口を塞ぐ端蓋19に取着したベアリングサポート21の内周と、ハウジング本体1の前端開口から突出する出力軸9の突出部に嵌着したホイールハブ22の外周との間に介在させる。
【0024】
ここで電動モータ4の結合要領を詳述するに、そのロータ7は、電動モータ結合部材23を介して入力軸8に結合し、この結合位置を、減速機5とベアリング17との間における軸線方向位置とする。
【0025】
次に、出力軸9に対する車輪10の結合要領を詳述する。
ホイールハブ22に同心に、ブレーキドラム24を一体結合して設け、これらホイールハブ22およびブレーキドラム24を貫通して軸線方向に突出するよう複数個のホイールボルト25を植設する。
車輪10の取り付けに際しては、そのホイールディスクに穿ったボルト孔にホイールボルト25が貫通するようホイールディスクをブレーキドラム24の側面に密接させ、この状態でホイールボルト25にホイールナット26を緊締螺合させることにより、出力軸9に対する車輪10の取り付けを行う。
【0026】
次いで、電動モータ4および減速機5の冷却・潤滑システムを説明する。
これら電動モータ4および減速機5の冷却・潤滑は、ハウジング3内の下部に貯留させた冷却・潤滑用媒体としてのオイルでこれを行う。
このオイルは、そのレベルをO/Lとして図示するごとくハウジング3内の下部に溜めておく。
【0027】
ハウジング3内の下部オイル溜まりに開口させてリヤカバー2にポンプ31の吸入ポートを接続し、この接続部にオイルフィルタ32を設置して、ポンプ31に吸入されるオイル中の異物を除去する。
入力軸8に中空孔8aを設け、リヤカバー2に近い中空孔8aの開口端にポンプ31の吐出ポートを接続する。
入力軸8には更に、中空孔8aから径方向外方に延在して減速機5に指向する径方向孔8bを設ける。
【0028】
ポンプ31は、ハウジング3内の下部に貯留されているオイルを、オイルフィルタ32により濾過しつつ吸入して、入力軸8の中空孔8a内に吐出させる。
この吐出オイルは中空孔8aから径方向孔8bを経て減速機5を通過するよう流出し、この間に減速機5を潤滑する。
減速機5を通過したオイルはその後、電動モータ4に通過してこれを冷却し、ハウジング3内の下部におけるオイル溜まりに戻る。
【0029】
ところで減速機5は、機械要素であるため減速伝動中に金属粉が発生するのを禁じ得ず、この金属粉は、上記のごとく循環しているオイル中に混入する。
かように金属粉が混入したオイルは、ポンプ31から入力軸中空孔8a、減速機5、電動モータ4を経てハウジング3内の下部オイル溜まりに至り、再びポンプ31により吸入されて循環する。
【0030】
この循環中、オイル内に混入した金属粉は、一部が電動モータ4内の永久磁石に吸着され、時間の経過とともに電動モータ4への金属粉付着量が増大する。
かように電動モータ4への金属粉付着量が増大すると、電動モータ4の性能低下を招き、インホイールモータ式電気自動車の動力性能が低下するという問題を生ずる。
【0031】
本実施例においてはこの問題解決のため、インホイールモータユニットに対し以下の対策を施す。
ハウジング本体1の内周に、ハウジング内下部のオイル溜まりを横切るよう配してステータ6を嵌着し、電動モータ4の軸線方向両側にそれぞれ、減速機5が収納された減速機収納空間(変速機収納空間)33、およびポンプ31の吸入ポートに通じた吸入ポート接続空間34を画成する。
【0032】
ここでハウジング内下部のオイル溜まりは、前記のごとく減速機5に通過した後のオイルが、ハウジング3内の減速機収納空間33から、ハウジング3内の吸入ポート接続空間34に向けて流れるオイル流路の用をなす。
従って、オイル溜まりに浸漬したステータ6の下部6aは、このステータ下部6aを嵌着させたハウジング3の下方内周面3aとで、当該オイル流路を横切る隔壁35を構成する。
なおステータ6は、少なくとも隔壁35を構成する下部6aを、オイルが浸透しないようモールド成形するのが良い。
【0033】
そして、この隔壁35を構成するステータ下部6aおよびハウジング下方内周面3aの相互嵌着部、本実施例ではハウジング下方内周面3aに図2,3のごとき断面形状の軸線方向溝36を設け、
この軸線方向溝36を隔壁35の連通孔として構成すべく、減速機収納空間33内のオイル溜まり(上流側オイル流路)および吸入ポート接続空間34内のオイル溜まり(下流側オイル流路)間に延在させる。
【0034】
かくて軸線方向溝36(隔壁35の連通孔)は両端にそれぞれ、減速機収納空間33内のオイル溜まり(上流側オイル流路)に対する上流側接続開口部36a、および吸入ポート接続空間34内のオイル溜まり(下流側オイル流路)に対する下流側接続開口部36bを有し、
これら軸線方向溝36(隔壁35の連通孔)と、上流側接続開口部36aと、下流側接続開口部36bとで、減速機収納空間33内のオイル溜まり(上流側オイル流路)および吸入ポート接続空間34内のオイル溜まり(下流側オイル流路)間を相互に連通させる連通油路を提供する。
【0035】
この連通油路を構成する軸線方向溝36(隔壁35の連通孔)の上流側接続開口部36aには、磁石部材としての永久磁石37を図1,2に示すごとくに進入させて設け、
これにより、オイルが減速機5を通過するときに混入した金属粉を、減速機収納空間33内のオイル溜まり(上流側オイル流路)から上流側接続開口部36aに入るときに永久磁石37で吸着して、オイル内から除去するようになす。
【0036】
<第1実施例の作用効果>
電動モータ4のステータ6に通電すると、これからの電磁力で電動モータ4のロータ7が回転され、この回転は電動モータ結合部材23および入力軸8を介して減速機5のサンギヤ11に伝達される。
これによりサンギヤ11は、大径ギヤ部13aを介して段付きプラネタリピニオン13を回転させるが、このとき固定のリングギヤ12が反力受けとして機能するため、段付きプラネタリピニオン13は小径ギヤ部13bがリングギヤ12に沿って転動するような遊星運動を行う。
かかる段付きプラネタリピニオン13の遊星運動はキャリア14を介して出力軸9に伝達され、出力軸9を入力軸8と同方向に回転させる。
【0037】
上記の伝動作用により減速機5は、電動モータ4から入力軸8への回転を、サンギヤ11の歯数およびリングギヤ12の歯数により決まる比で減速して出力軸9に伝達する。
出力軸9への回転は、これに結合したホイールハブ22およびホイールボルト25を介して車輪10に伝達され、車両を走行させることができる。
なお車両の制動に際しては、ブレーキドラム24の内周面をブレーキシュー27により摩擦制動させて所期の目的を達成し得る。
【0038】
次に、上記作用中におけるインホイールモータユニットの冷却・潤滑要領を説明する。
インホイールモータユニットの作用中は、ポンプ31を駆動させる。
これによりポンプ31は、吸入ポート接続空間34内のオイル溜まり(下流側オイル流路)からオイルを吸入し、このときオイル中の異物をオイルフィルタ32により除去する。
ポンプ31は、吸入オイルを入力軸8の中空孔8a内に吐出し、このオイルはその後、入力軸8の径方向孔8bから減速機5の潤滑・冷却に供される。
【0039】
減速機5の潤滑・冷却に供されたオイルは、減速機5を通過した後、減速機収納空間33内のオイル溜まり(上流側オイル流路)に達する。
減速機収納空間33内のオイル溜まり(上流側オイル流路)に達したオイルは、軸線方向溝36(隔壁35の連通孔)と、その上流側接続開口部36aおよび下流側接続開口部36bとからなる連通油路を経て、吸入ポート接続空間34内のオイル溜まり(下流側オイル流路)に向かう間に、電動モータ4に通過してその冷却を行う。
【0040】
吸入ポート接続空間34内のオイル溜まり(下流側オイル流路)に達したオイルは、再びポンプ31により吸入・吐出されて上記の循環経路をたどり、減速機5および電動モータ4の潤滑・冷却を継続的に行うことができる。
【0041】
ところで減速機5は、上記の減速伝動中に金属粉を発生させ、この金属粉は、上記のごとく循環するオイル中に混入しようとする。
しかし本実施例では、減速機5を通過するときオイルに混入した金属粉を、以下のごとくにして確実にオイルから除去することができる。
【0042】
つまり、減速機5に通過した後のオイルは全てが、軸線方向溝36(隔壁35の連通孔)と、その上流側接続開口部36aおよび下流側接続開口部36bとからなる連通油路を経由して、減速機収納空間33内のオイル溜まり(上流側オイル流路)から吸入ポート接続空間34内のオイル溜まり(下流側オイル流路)へ向かう。
【0043】
そのため、減速機収納空間33内のオイル溜まり(上流側オイル流路)から吸入ポート接続空間34内のオイル溜まり(下流側オイル流路)へのオイル流路が上記の連通油路に限定されることとなり、
減速機5を通過するときオイルに混入した金属粉を、上流側接続開口部36aに設置した永久磁石37により確実に吸着して、オイル中から除去することができ、循環中のオイルに金属粉が混入している状態を殆ど皆無にすることができる。
【0044】
かように、循環中のオイルに金属粉が殆ど混入しないようにすることで本実施例においては、
電動モータ4への金属粉付着量が増大するという問題を回避することができ、金属粉付着量の増大で電動モータ4の性能が低下して、インホイールモータ式電気自動車の動力性能が低下するという事態に至ることがなくなると共に、電気ターミナル等で絶縁性能が低下するという事態に至ることもなくなる。
【0045】
しかも、減速機5に通過した後のオイルの流路を上記の連通油路により限定し、該連通油路の上流側接続開口部36a内に永久磁石37を設置して上記の作用効果が得られるようにしたため、
永久磁石37は、上流側接続開口部36aの開口面積に応じた小さなものでも上記の作用効果を達成することができ、レイアウトの制約や、コスト面から実現困難になることがなくて、実際的であると共に、ハウジング3内のオイル溜まり容量が小さくなることもない。
【0046】
また本実施例においては、減速機収納空間33内のオイル溜まり(上流側オイル流路)から吸入ポート接続空間34内のオイル溜まり(下流側オイル流路)へのオイル流路を横切る隔壁35を設定するに際し、
ハウジング3内のオイル溜まりに浸漬したステータ6の下部6aと、このステータ下部6aを嵌着させたハウジング3の下方内周面3aとで、当該隔壁35を構成したため、
隔壁35のための専用部品が不要であって、コスト的に有利であると共に、インホイールモータユニットの小型化が可能である。
【0047】
そして、この隔壁35に連通孔を設けるに際し、隔壁35を構成するステータ下部6aおよびハウジング下方内周面3aの相互嵌着部、詳しくはハウジング下方内周面3aに軸線方向溝36を設けて、隔壁35の連通孔としたため、
隔壁35を上記のように、ステータ6の下部6aと、このステータ下部6aを嵌着させたハウジング3の下方内周面3aとで構成した場合においても、隔壁35の連通孔を容易に設定することができる。
【0048】
更に本実施例においては、ステータ6の、少なくとも隔壁35を構成する下部6aを、オイルが浸透しないようモールド成形したため、
コイルを主たる構成要素とするステータ6の下部6aにオイルが浸透、通過して前記の作用効果が阻害されるのを回避することができる。
【0049】
また本実施例のインホイールモータユニットにおいては、図1から明らかなように、
ハウジング3内の減速機収納空間33を、電動モータ4よりも車輪10に近い側に位置させ、
ハウジング3内の吸入ポート接続空間34を、電動モータ4よりも車輪10から遠い側に位置させたため、
吸入ポート接続空間34が、車輪10により車両走行風を遮られない軸線方向位置に存在することとなり、オイルがこの吸入ポート接続空間34内に位置している間に効率よく冷却された後に減速機5へ向かって、その潤滑・冷却効率を高めることができる。
【0050】
かかる減速機収納空間33および吸入ポート接続空間34の軸線方向配置によれば更に、減速機収納空間33が、車輪10により車両走行風を遮られる軸線方向位置に存在することとなり、
コールドスタート時に、減速機5の発熱で温度上昇したオイルが冷却されることなく、ハウジング下方内周面3aの軸線方向溝36を通過して、電動モータ4との熱交換により電動モータ4の暖機を速やかに完遂させることができる。
【0051】
<第2実施例の構成>
図4は、本発明の第2実施例になる駆動ユニットを示し、本実施例においてもこの駆動ユニットをインホイールモータユニットとして構成する。
図4のインホイールモータユニットは、その大部分を図1におけると同様なものとし、そのため図4中、図1におけると同様な部分に同一符号を付して示した。
【0052】
本実施例においても、図1の第1実施例と同様、ハウジング3内のオイル溜まりに浸漬したステータ6の下部6aと、このステータ下部6aを嵌着させたハウジング3の下方内周面3aとで、ハウジング3内の減速機収納空間33から吸入ポート接続空間34に向かうオイル流路を横切る隔壁35を構成し、
この隔壁35を構成するステータ下部6aおよびハウジング下方内周面3aの相互嵌着部に軸線方向溝36を設けて、その両端における上流側接続開口部36aおよび下流側接続開口部36bをそれぞれ、減速機収納空間33内のオイル溜まり(上流側オイル流路)および吸入ポート接続空間34内のオイル溜まり(下流側オイル流路)に通じさせる。
【0053】
しかし本実施例においては、軸線方向溝36の上流側接続開口部36aに、磁石部材としての永久磁石37を進入させて設けるのに加え、
軸線方向溝36の下流側接続開口部36bにも、磁石部材としての永久磁石38を進入させて設ける。
【0054】
<第2実施例の作用効果>
上記した第2実施例の構成によれば、第1実施例の前記した全ての作用効果を奏し得るのに加え、以下の作用効果をも奏し得る。
つまり、減速機5を通過するときオイルに混入した金属粉を、上流側接続開口部36aの永久磁石37で全て吸着し得ないことがあったとしても、残りの金属粉を下流側接続開口部36bの永久磁石38で確実に吸着しして、オイル中から除去することができ、循環中のオイルに金属粉が混入している状態を、第1実施例よりも更に確実に皆無にして、第1実施例の前記した作用効果を一層確実なものにすることができる。
【0055】
<第3実施例の構成>
図5は、本発明の第3実施例になる駆動ユニットを示し、本実施例においてもこの駆動ユニットをインホイールモータユニットとして構成する。
図5のインホイールモータユニットは、その大部分を図1におけると同様なものとし、そのため図5中、図1におけると同様な部分に同一符号を付して示した。
【0056】
本実施例においても、ハウジング3内の減速機収納空間33から吸入ポート接続空間34に向かうオイル流路を横切る隔壁35を、図1の第1実施例および図4の第2実施例と同様、ハウジング3内のオイル溜まりに浸漬したステータ6の下部6aと、このステータ下部6aを嵌着させたハウジング3の下方内周面3aとで構成し、
これらステータ下部6aおよびハウジング下方内周面3aの相互嵌着部に軸線方向溝36を設けて、減速機収納空間33内のオイル溜まり(上流側オイル流路)および吸入ポート接続空間34内のオイル溜まり(下流側オイル流路)に通じさせる。
【0057】
しかし本実施例においては、図1に示す第1実施例のように永久磁石37を軸線方向溝36の上流側接続開口部36aのみに設けたり、図4に示す第2実施例のように永久磁石37,38を軸線方向溝36の上流側接続開口部36aおよび下流側接続開口部36bの双方に設けるというのでなく、軸線方向溝36の途中に、磁石部材としての永久磁石39を進入させて設ける。
【0058】
<第3実施例の作用効果>
上記した第3実施例の構成によれば、永久磁石39を軸線方向溝36の途中に進入させて設けたため、第1実施例の前記した全ての作用効果を奏し得るのに加え、以下の作用効果をも奏し得る。
つまり、軸線方向溝36の途中に進入させて設けた永久磁石39は、軸線方向溝36の横断面積(上流側接続開口部36aおよび下流側接続開口部36bの開口面積よりも小さい)に応じた小さな磁石でも、オイル中の金属粉を第1実施例と同じ確度で吸着して除去することができ、インホイールモータユニットの小型化および低廉化に寄与する。
【0059】
<その他の実施例>
なお、図1の第1実施例では永久磁石37を軸線方向溝36の上流側接続開口部36aのみに設け、図4の第2実施例では永久磁石37,38を軸線方向溝36の上流側接続開口部36aおよび下流側接続開口部36bの双方に設けたが、
下流側接続開口部36bのみに永久磁石(図示せず)を進入させて設けても良く、この場合も、同様な金属粉吸着・除去作用が得られるのは言うまでもない。
【0060】
また、上記のごとく軸線方向溝36の上流側接続開口部36aおよび下流側接続開口部36bの少なくとも一方に永久磁石を設ける対策と、図5に示す第3実施例のごとく軸線方向溝36の途中に進入させて永久磁石39を設ける対策とは、任意に組み合わせて採用することができ、この場合、永久磁石による金属粉吸着・除去作用が相互に補完されて、前記の作用効果を更に顕著なものにすることができる。
【0061】
更に、図示例では何れも駆動ユニットをインホイールモータユニットとして構成する場合について述べたが、本発明の駆動ユニットはこのインホイールモータユニットに限定されるものでなく、
電動モータなどの原動機および減速機などの変速機を同じハウジング室内に収納して有し、このハウジング室内におけるオイルなどの媒体をポンプにより吸入・吐出して変速機および原動機に通過させつつハウジング室内に戻すことで、これら変速機および原動機の潤滑および冷却を行うようにした駆動ユニットであれば、あらゆる型式の駆動ユニットに本発明の前記着想は適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 ハウジング本体
2 リヤカバー
3 インホイールモータユニットハウジング
3a ハウジング下方内周面
4 電動モータ(原動機)
5 遊星歯車組式減速機(変速機)
6 ステータ
6a ステータ下部
7 ロータ
8 入力軸
8a 入力軸中空孔
8b 径方向孔
9 出力軸
10 車輪
11 サンギヤ
12 リングギヤ
13 段付きプライマリピニオン
14 キャリア
19 端蓋
21 ベアリングサポート
22 ホイールハブ
23 電動モータ結合部材
24 ブレーキドラム
25 ホイールボルト
26 ホイールナット
27 ブレーキシュー
31 ポンプ
32 オイルフィルタ
33 減速機収納空間(変速機収納空間)
34 吸入ポート接続空間
35 隔壁
36 軸線方向溝(連通孔:連通媒体路)
36a 上流側接続開口部(連通媒体路)
36b 下流側接続開口部(連通媒体路)
37 永久磁石(磁石部材)
38 永久磁石(磁石部材)
39 永久磁石(磁石部材)
O/L オイルレベル(媒体レベル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機および変速機を同じハウジング室内に収納して具え、このハウジング室内における媒体をポンプにより吸入・吐出して前記変速機および原動機に通過させつつ前記ハウジング室内に戻すことで、これら変速機および原動機の潤滑および冷却を行うようにした駆動ユニットにおいて、
前記変速機に通過した後の媒体が、前記ハウジング室内の変速機収納空間から、前記ポンプの吸入ポートに通じた前記ハウジング室内の吸入ポート接続空間に向けて流れる媒体流路を横切るよう配して隔壁を設け、
この隔壁に、該隔壁の上流側における上流側媒体流路と下流側における下流側媒体流路とを相互に連通させる連通孔を設けて、該連通孔と、該連通孔の前記上流側媒体流路に対する上流側接続開口部および前記下流側媒体流路に対する下流側接続開口部とより成る連通媒体路を設定し、
該連通媒体路中に磁石部材を設置したことを特徴とする駆動ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動ユニットにおいて、
前記磁石部材を、前記上流側接続開口部および下流側接続開口部の少なくとも一方に設置したことを特徴とする駆動ユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の駆動ユニットにおいて、
前記磁石部材を、前記連通孔内に設置したことを特徴とする駆動ユニット。
【請求項4】
前記原動機が、内周ロータおよび外周ステータの内外同心配置に成る電動モータである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の駆動ユニットにおいて、
前記外周ステータを前記ハウジング室の内周に嵌着し、
前記ポンプにより吸入すべく前記ハウジング室内の下部に貯留させた媒体溜まりに浸漬する前記外周ステータの下部と、この外周ステータの下部を嵌着させた前記ハウジング室の下方内周面とで前記隔壁を構成し、
これら外周ステータの下部およびハウジング室の下方内周面の相互嵌着部に前記連通孔を設けたことを特徴とする駆動ユニット。
【請求項5】
請求項4に記載の駆動ユニットにおいて、
前記外周ステータの少なくとも前記下部を、前記媒体が浸透しないようモールド成形したことを特徴とする駆動ユニット。
【請求項6】
前記原動機および変速機を同軸に対向配置し、これら原動機および変速機に同心配置した1個の車輪を駆動するためのインホイールモータユニットとして用いる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の駆動ユニットにおいて、
前記ハウジング室内の変速機収納空間を、前記原動機よりも前記車輪に近い側に位置させ、
前記ハウジング室内の吸入ポート接続空間を、前記原動機よりも前記車輪から遠い側に位置させたことを特徴とする駆動ユニット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−51541(P2011−51541A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204302(P2009−204302)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:学術講演会2009年春季大会 主催者名:社団法人自動車技術会 開催日:2009年 5月20日
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】