説明

駆動力伝達制御装置

【課題】入力側から一定の回転方向をもった駆動力を負荷側に伝達する際に、必要に応じてその伝達を入り切りする駆動力伝達制御装置において、入力側の回転方向が正逆いずれの方向であっても、駆動力の伝達制御ができるようにすることである。
【解決手段】固定軸1、その固定軸1の周りに回転自在に嵌合された中間軸2、前記固定軸1と中間軸2に対して直交状態かつ該中間軸2と一体に設けられた伝達軸3、前記固定軸1の端部に回転自在に嵌合され、かつ前記中間軸2の一端に係合された制御部材25、前記中間軸2の周りにおいて前記伝達軸3を基準にその両側に対称形に嵌合配置された入力傘歯車15と出力傘歯車17、前記伝達軸3に嵌合され、かつ前記入力傘歯車15と出力傘歯車17にそれぞれ噛み合った伝達傘歯車24により構成され、前記制御部材25が外部の制御機構からロックされた場合に入力側の正逆いずれの方向の回転であっても出力側に伝達され、前記ロックが解除された場合に出力側への回転の伝達が遮断されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動力伝達制御装置に関し、例えば事務機の給紙部等において、複数のトレイの用紙を1台のモータで給紙する場合に各トレイごとに設置され、入力回転部材に入力されたモータの駆動力を出力回転部材側に伝達し又は遮断する切替え装置として使用に供される。
【背景技術】
【0002】
事務機の給紙部等において駆動力を切替えるために、従来一般に使用される装置としてばねクラッチがある(特許文献1)。ばねクラッチは、同軸上に配設した入力回転部材と出力回転部材の入力回転部材にコイルばねの一端を係止し、出力回転部材にそのコイルばねの他端をフリー状態に巻き付けた構成となっている。前記の入力回転部材が一定の回転方向に回転することによってコイルばねが緊縛されたとき駆動力が入力回転部材から出力回転部材に伝達され、また入力回転部材が前記と逆方向に回転したときコイルばねが拡径され駆動力の伝達が遮断される。
【特許文献1】実開平6−73464号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記のばねクラッチは、コイルばねの巻き方向によって定まる一定の回転方向に対しては駆動力の伝達制御ができるが、回転方向が逆になると制御ができない構造であるので、両方向の回転に対して伝達制御ができない不便があった。
【0004】
そこで、この発明は、両方向の回転に対して伝達制御ができる駆動力伝達制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決するために、この発明に係る駆動力伝達制御装置は、固定軸1、その固定軸1の周りに回転自在に嵌合された中間軸2、前記固定軸1と中間軸2に対して直交状態かつ該中間軸2と一体に設けられた伝達軸3、前記固定軸1の端部に回転自在に嵌合され、かつ前記中間軸2の一端に係合された制御部材25、前記中間軸2の周りにおいて前記伝達軸3を基準にその両側に対称形に嵌合配置された入力傘歯車15と出力傘歯車17、前記伝達軸3に嵌合され、かつ前記入力傘歯車15と出力傘歯車17にそれぞれ噛み合った伝達傘歯車24により構成される。
【0006】
上記の装置において、制御部材25が外部の制御機構からロックされた場合に入力側の回転が出力側に伝達され、前記ロックが解除された場合に出力側への回転の伝達が遮断される。この場合、入力側に加えられる駆動力の回転の方向は問わない。
【0007】
前記中間軸2の前記伝達軸3との交差部分に中間軸受部4が設けられ、前記伝達軸3に前記伝達傘歯車24の軸受部8が設けられるとともにその軸受部8から前記中間軸受部4を径方向に前記固定軸1を越えて延びた結合片9が設けられ、前記結合片9に設けられた貫通孔12に前記固定軸1が貫通され、その貫通により中間軸2、伝達軸3及び固定軸1が結合一体化された構成をとることができる。
【0008】
さらに、前記伝達軸3が前記中間軸2を基準にその両側に2本対称形に設けられ、各伝達軸3にそれぞれ伝達傘歯車24の軸受部8が設けられるとともに、各軸受部8から前記中間軸受部4を径方向に前記固定軸1を越えて反対方向に延びた結合片9が設けられ、前記各結合片9に設けられた貫通孔12に前記固定軸1が貫通され、その貫通により中間軸2、2本の伝達軸3及び固定軸1が結合一体化された構成をとることができる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、この発明の駆動力伝達制御装置は、制御部材が外部の制御機構からロックされた場合に入力側の回転が出力側に伝達され、また前記のロックが解除された場合に出力側への回転の伝達が遮断される。この場合、入力側に加えられる駆動力の回転は正回転又は逆回転のいずれの方向であっても構わない便利さがある。
【0010】
また、伝達軸に中間軸受部を径方向に固定軸を越えて延びた結合片が設けられ、その結合片に設けられた貫通孔に前記固定軸が貫通された構成をとるとこにより、中間軸、伝達軸及び固定軸が結合一体化されるので、組立て性が良好である。さらに、前記の伝達軸を対称形に2本設けた構成をとることにより、各伝達軸が同一形状となり互換性を持たせることができる。また、入力傘歯車、出力傘歯車及び伝達傘歯車の形状も同一形状に形成することができ、これらについても互換性を持たせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面に基づいて実施例を説明する。
【実施例1】
【0012】
前記の課題を解決するために、この発明は、図1から図3に示したように、固定軸1、その固定軸1の周りに回転自在に嵌合された中間軸2、前記固定軸1と中間軸2に対して直交状態かつ中間軸2と一体に設けられた伝達軸3を有する。
【0013】
前記の中間軸2は、長さ方向の中間部分に大径の中間軸受部4が設けられ、その中間軸受部4から軸方向両側に管軸部5、5が設けられる。これらの管軸部5、5と中間軸受部4に共通の軸孔6が設けられる。また、中間軸受部4において、前記軸孔6と直交する断面矩形の結合孔7が設けられる。一方の管軸部5の端面に係合突起10が設けられる。
【0014】
前記の伝達軸3は、軸受部8とその軸受部8から前記中間軸受部4を径方向に前記固定軸1を越えて延びた扁平な結合片9を有し、また軸受部8の外端面に抜け止めつば11が設けられる。前記の結合片9は、固定軸1の直径より大きい幅を有し、その幅面に貫通孔12が設けられる。この貫通孔12は前記の軸孔6と同径に形成される。前記の伝達軸3を前記中間軸受部4の結合孔7に差し込むと、軸受部8が中間軸受部4の外径面に接触するとともに、貫通孔12が軸孔6に一致する。
【0015】
前記中間軸2の一方の管軸部5に入力歯車13が回転自在に嵌合され、また前記伝達軸3を基準として、対称形に他方の管軸部5(前記の係合突起10を設けた方の管軸部5)の周り出力歯車14が回転自在に嵌合される。
【0016】
前記入力歯車13は、入力傘歯車15とその大径端面に係合された入力平歯車16とにより構成され、また、出力歯車14は、出力傘歯車17とその大径端面に係合された出力平歯車18とにより構成される。前記入力傘歯車15及び出力傘歯車17はいずれも小径端面がそれぞれ中間軸受部4の両端面に接触される。
【0017】
前記入力傘歯車15と入力平歯車16の結合構造及びこれと同一の構造である出力傘歯車17と出力平歯車18の結合構造は、図1及び図2に示したように、入力傘歯車15、出力傘歯車17の大径端面に、それぞれ軸孔19を中心とし、一部に非連続部のある環状の結合溝21が設けられる。これに対向して入力平歯車16と出力平歯車18の対向端面に前記結合溝21に対し相補的な形状の結合突条22が軸孔23の周りにおいて設けられる。上記のように構成される結果、入力傘歯車15と出力傘歯車17は同一形状であり互換性がある。また、同様に、入力平歯車16と出力平歯車18も同一形状であり互換性がある。
【0018】
一方、前記の伝達軸3の軸受部8に嵌合される伝達傘歯車24は、前記の入力傘歯車15と出力傘歯車17に噛み合い、入力傘歯車15と伝達傘歯車24及び出力傘歯車17と伝達傘歯車24は、それぞれマイタ歯車を構成する。
【0019】
前記の伝達傘歯車24の大径端面の軸孔19の周りにおいて前記入力傘歯車15及び出力傘歯車17の大径端面に設けられたと同じ結合溝21が設けられる。これによって、伝達傘歯車24は、入力傘歯車15及び出力傘歯車17と同一形状となり互換性がある。
【0020】
前記出力平歯車18から突き出した固定軸1の周りに歯車でなる制御部材25が回転自在に嵌合される。中間軸2の前記係合突起10が形成された端部は出力平歯車18の外端部近くにあり、前記制御部材25の内端部に設けられた結合突起26が前記の係合突起10間の凹部と回転方向に係合される。
【0021】
前記制御部材25の外端面に接して固定軸1に止め輪27が、また前記入力平歯車16の外端面に接して固定軸1に止め輪28がそれぞれ嵌合され、全体の抜け止めが図られる。
【0022】
実施例1の駆動力伝達制御装置は以上のように構成され、その使用に際しては、入力平歯車16に入力部歯車29が噛み合わされると共に、出力平歯車18に出力部歯車30が噛み合わされる。また、制御部材25の径方向に接近してプランジャ32を有する適宜なアクチュエータ31が固定部33に取付けられる。プランジャ32が進出すると一点鎖線で示したように制御部材25の歯車面に係合してこれを拘束し、プランジャ32が後退するとその拘束を解放させる。
【0023】
いま、前記のアクチュエータ31の作用によりプランジャ32が進出して制御部材25が拘束されると、これに係合された中間軸2が固定される。その状態において、入力部歯車29に矢印で示したA方向の駆動力が入力されると、入力平歯車16と入力傘歯車15とにより構成された入力歯車13が中間軸2の周りでB方向に回転する。伝達傘歯車24は公転することなく自転して、出力傘歯車17及び出力平歯車18とからなる出力歯車14をA方向に回転させる。出力部歯車30は負荷に係合されているため、負荷トルクが作用するが、その負荷トルクに打ち勝って出力部歯車30をB方向に回転させる。即ち、入力側の駆動力をその回転方向を逆転させて出力側の負荷に伝達させる。
【0024】
一方、アクチュエータ31の作用によりプランジャ32が後退して制御部材25の拘束が解除された状態で、前記と同様に入力部歯車29に矢印で示したA方向の駆動力が入力されると、入力歯車13がB方向に回転されるが、出力部歯車30とこれに噛み合った出力歯車14には負荷トルクが作用しているので、フリー状態にある中間軸2に支持された伝達傘歯車24は自転することなく公転のみ行う。これにより、出力側の負荷に対する駆動力の伝達が遮断される。
【0025】
なお、以上の作用の説明は、入力部歯車29がA方向に回転する場合について説明したが、B方向(一点鎖線矢印参照)に回転する場合についても同様に駆動力の伝達と遮断の制御を行うことができる。
【実施例2】
【0026】
次に、図3及び図4に基づいて実施例2について説明する。実施例2の構造において、前記の実施例1の場合と相違する点は、伝達軸3が中間軸2を基準としてその両側に2本対称形に設けられ、各伝達軸3にそれぞれ伝達傘歯車24が嵌合された構造にある。各伝達軸3は前記の場合と実質的に同一形状であるが、この場合の結合片9は図4に示したように、断面形状が半円形に形成され、その円弧面に長さ方向の回り止め溝34が形成される。前記の伝達軸3は、2本とも同一形状であり、互換性がある。
【0027】
また、中間軸2の中間軸受部4に設けられる結合孔7は円形孔に形成され、その内周面の対向位置に一対の突条35が長さ方向に設けられ、前記回り止め溝34がこれに嵌合する。
【0028】
前記の各伝達軸3に伝達傘歯車24を嵌合した状態で、それぞれ結合孔7に反対側から挿入すると、突条35が回り止め溝34に嵌合するとともに、両方の結合片9の平端面が相互に接触して円柱状となり、かつ両方の貫通孔12も一致する。中間軸2に固定軸1を挿通すると、固定軸1がその貫通孔12を貫通することにより、中間軸2、一対の伝達軸3、一対の伝達傘歯車24及び固定軸1が結合一体化される。
【0029】
実施例2のその他の構成は、前述した実施例1の場合と同様であるから、同一部分には同一符号を付して示すにとどめ、その説明を省略する。
【0030】
以上のように、実施例2の場合は、実施例1に比べ伝達軸3及び伝達傘歯車24を2個対称形に設けた点が実質的に相違するが、このような構成をとると、回転時バランスが良好である利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1の断面図
【図2】同上の分解斜視図
【図3】実施例2の断面図
【図4】同上の分解斜視図
【符号の説明】
【0032】
1 固定軸
2 中間軸
3 伝達軸
4 中間軸受部
5 管軸部
6 軸孔
7 結合孔
8 軸受部
9 結合片
10 係合突起
11 抜け止めつば
12 貫通孔
13 入力歯車
14 出力歯車
15 入力傘歯車
16 入力平歯車
17 出力傘歯車
18 出力平歯車
19 軸孔
21 結合溝
22 結合突条
23 軸孔
24 伝達傘歯車
25 制御部材
26 結合突起
27 止め輪
28 止め輪
29 入力部歯車
30 出力部歯車
31 アクチュエータ
32 プランジャ
33 固定部
34 回り止め部
35 突条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定軸(1)、その固定軸(1)の周りに回転自在に嵌合された中間軸(2)、前記固定軸(1)と中間軸(2)に対して直交状態かつ該中間軸(2)と一体に設けられた伝達軸(3)、前記固定軸(1)の端部に回転自在に嵌合され、かつ前記中間軸(2)の一端に係合された制御部材(25)、前記中間軸(2)の周りにおいて前記伝達軸(3)を基準にその両側に対称形に嵌合配置された入力傘歯車(15)と出力傘歯車(17)、前記伝達軸(3)に嵌合され、かつ前記入力傘歯車(15)と出力傘歯車(17)にそれぞれ噛み合った伝達傘歯車(24)により構成され、前記制御部材(25)が外部の制御機構からロックされた場合に入力側の回転が出力側に伝達され、前記ロックが解除された場合に出力側への回転の伝達が遮断される駆動力伝達制御装置。
【請求項2】
前記中間軸(2)の前記伝達軸(3)との交差部分に前記入力傘歯車(15)と出力傘歯車(17)に対向した中間軸受部(4)が設けられ、前記伝達軸(3)に前記伝達傘歯車(24)の軸受部(8)が設けられるとともにその軸受部(8)から前記中間軸受部(4)を径方向に前記固定軸(1)を越えて延びた結合片(9)が設けられ、前記結合片(9)に設けられた貫通孔(12)に前記固定軸(1)が貫通され、その貫通により中間軸(2)、伝達軸(3)及び固定軸(1)が結合一体化された請求項1に記載の駆動力伝達制御装置。
【請求項3】
前記伝達軸(3)が前記中間軸(2)を基準にその両側に2本対称形に設けられ、各伝達軸(3)にそれぞれ伝達傘歯車(24)の軸受部(8)が設けられるとともに、各軸受部(8)から前記中間軸受部(4)を径方向に前記固定軸(1)を越えて反対方向に延びた結合片(9)が設けられ、前記各結合片(9)に設けられた貫通孔(12)に前記固定軸(1)が貫通され、その貫通により中間軸(2)、2本の伝達軸(3)及び固定軸(1)が結合一体化された請求項1に記載の駆動力伝達制御装置。
【請求項4】
前記入力傘歯車(15)と伝達傘歯車(24)、該伝達傘歯車(24)と出力傘歯車(17)がそれぞれマイタ歯車を構成する請求項1から3のいずれかに記載の駆動力伝達制御装置。
【請求項5】
前記伝達軸(3)の外端面に抜け止めつば(11)が設けられた請求項1から4のいずれかに記載の駆動力伝達制御装置。
【請求項6】
前記入力傘歯車(15)及び出力傘歯車(17)の大径端面にそれぞれ入力平歯車(16)と出力平歯車(18)が係合されることにより、それぞれ入力歯車(13)と出力歯車(14)が構成された請求項1から5のいずれかに記載の駆動力伝達制御装置。
【請求項7】
前記入力傘歯車(15)と入力平歯車(16)及び前記出力傘歯車(17)と出力平歯車(18)との各結合構造が同一であり、かつ前記入力傘歯車(15)、出力傘歯車(17)及び伝達傘歯車(24)が同一形状である請求項5又は6に記載の駆動力伝達制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−8450(P2008−8450A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181614(P2006−181614)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】