説明

駆動量制御装置

【課題】スロットル弁の開度調整など制御対象の駆動量調整における応答遅れやずれを減少させることができる駆動量制御装置を提供する。
【解決手段】車両10のECU20は、スロットル弁16が停止している状態から目標開度DTHRが変化したとき、モータ18の動作開始に必要なモータ18の出力を算出し、不足分を補償した制御信号Scを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、制御対象の駆動量(例えば、スロットル弁の開度)をモータの出力により調整する駆動量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車や自動四輪車におけるエンジンの出力は、スロットルグリップやアクセルペダルを用いて制御することが一般的である。すなわち、エンジンに設けられたスロットル弁の開度を、スロットルグリップの回転量やアクセルペダルの踏み込み量に応じて調整することでエンジンの出力を決定する。
【0003】
通常、スロットル弁は、モータ及びリターンスプリングに接続され、モータによりスロットル弁が開く方向に付勢され、モータ及びリターンスプリングによりスロットル弁が閉じる方向に付勢されることで開度の調整が行なわれる。
【0004】
上記のように、スロットル弁は、モータ及びリターンスプリングを介して開度の調整が行なわれることから、スロットルグリップやアクセルペダルの操作に対するスロットル弁の開度調整(及びこれに対応する実際のエンジン出力)に応答遅れやずれが生ずることがある。そして、このような応答遅れやずれに対応する装置も各種提案されている(特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−216206号公報
【特許文献2】特開昭61−106934号公報
【特許文献3】特開2006−307797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に開示された各装置は、スロットル弁の開度調整における応答性やずれに関し、改良の余地がある。
【0007】
モータによるスロットル弁の開度調整には、図10に示すようなヒステリシス特性がある。すなわち、制御信号のデューティ比DUT[%]及びスロットル弁の実開度DTH[度]から決まる点が図10のヒステリシス領域40内にある場合、モータ18は開閉動作を行わない。例えば、スロットル弁が初期位置(DTH=0)にある場合、スロットル弁が開方向に動作し始めるのは、電子制御装置(ECU)からモータへの制御信号のデューティ比DUTがd1[%]のときである。一方、スロットル弁を閉方向に動作させる場合、スロットル弁が初期位置に戻るのは、デューティ比DUTがd1よりも小さいd2[%]の場合である。
【0008】
同様に、実開度DTHがt1[度]の状態でスロットル弁が保持(停止)されている場合、スロットル弁を開方向に動作させるためには、デューティ比DUTがd3[%]にならなければならない。これに対し、スロットル弁を閉方向に動作させるためには、デューティ比DUTがd3よりも小さいd4であればよい。
【0009】
なお、上記のようなヒステリシス特性を生じる主な要因としては、モータ固有の要因、機械系の摩擦及びリターンスプリングによる付勢が考えられる。モータ固有の要因とは、モータが始動し始める電流値であり、この電流値は、巻線、コア等の位置、形状、材質等の要因によって異なる。機械系の摩擦とは、モータの軸と軸受間の摩擦、及びモータの複数の歯車間の摩擦である。リターンスプリングによる付勢とは、スロットル弁に接続されたリターンスプリングにより、スロットル弁が閉方向に付勢されることである。
【0010】
また、上記のようなヒステリシス特性は、デューティ比DUT[%]を一定に変化させたときに現れるものであり、デューティ比DUTの変化量が変化しているときには、別のヒステリシス特性が現れる。
【0011】
上記のようなヒステリシス特性に伴うスロットル弁の開度調整の応答性や、運転手の操作とスロットル弁の開度との間のずれに関し、上述した各特許文献は何ら考慮されていない。
【0012】
この発明は、このような問題を考慮してなされたものであり、スロットル弁の開度調整など制御対象の駆動量調整における応答遅れやずれを減少させることができる駆動量制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係る駆動量制御装置は、制御対象の駆動量をモータの出力により調整するものであって、前記制御対象の目標駆動量を入力する目標駆動量入力手段と、前記モータの出力を制御する制御信号を、前記目標駆動量に応じた出力特性で前記モータに送信する制御手段と、前記制御手段の実際の駆動量を検出し、その検出結果を示す駆動量情報信号を前記制御手段に送信する駆動量検出手段と、を備え、前記制御手段は、前記制御対象が停止している状態から前記目標駆動量が変化したとき、前記モータの動作開始に必要な前記モータの出力を算出し、不足分(差異)を補償した前記制御信号を出力することを特徴とする。
【0014】
前記不足分は、モータの動作開始に必要なモータの出力よりも、目標駆動量に対応するモータの出力が小さい場合に加え、モータの動作開始に必要なモータの出力よりも、目標駆動量に対応するモータの出力が大きい場合も含まれる。
【0015】
この発明によれば、制御対象が停止している状態から制御対象の目標駆動量が変化し、制御対象の駆動量を変化させる際、モータのヒステリシス特性による応答遅れを補償することでモータの始動までの遅れを小さくすることができ、その結果、制御対象の駆動量調整における応答遅れを減少させることができる。また、目標駆動量が当初より小さくなる場合、モータのヒステリシス特性によりモータの出力が過度に大きくなることを避けることが可能となり、その結果、制御対象の駆動量調整におけるずれを減少させることができる。
【0016】
上記構成において、前記制御手段は、前記モータの動作開始に必要な前記モータの出力を、前記スロットル弁の実開度に応じて算出することが好ましい。
【0017】
図10に示すように、モータのヒステリシス特性は、スロットル弁の実開度と相関関係があることがわかっている。このため、モータの動作開始に必要なモータの出力を、スロットル弁の実開度に応じて算出することで、より高い精度でモータのヒステリシス特性に対応することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、制御対象が停止している状態から制御対象の目標駆動量が変化し、制御対象の駆動量を変化させる際、モータのヒステリシス特性による応答遅れを補償することでモータの始動までの遅れを小さくすることができ、その結果、制御対象の駆動量調整における応答遅れを減少させることができる。また、目標駆動量が当初より小さくなる場合、モータのヒステリシス特性によりモータの出力が過度に大きくなることを避けることが可能となり、その結果、制御対象の駆動量調整におけるずれを減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
[1.本実施形態の構成]
図1には、この発明の一実施形態に係るエンジン出力制御装置11を搭載した車両10の機能ブロック図が示されている。本実施形態において、車両10は自動二輪車であり、この車両10はエンジン12を有している。このエンジン12に接続された吸気通路14内には、エンジン12内に供給する空気の量を調節するスロットル弁16が設けられている。スロットル弁16は、図示しないリターンスプリングに取り付けられ、スロットル弁16が閉まる方向に付勢されている。また、スロットル弁16には、図示しないギアを介してモータ18が接続されており、スロットル弁16の開度を調整することができる。モータ18は、電子制御装置(ECU)20により制御される。
【0021】
スロットル弁16の開度TH[度]は、車両10のハンドル部に設けられたスロットルグリップ22の回転量ROT[度]に応じて決定されるものであり、回転量ROTは、ワイヤを介してスロットルグリップ22に接続されたポテンショメータ24により検出される。ポテンショメータ24の検出値は、ECU20に送信され、ECU20はこの検出値に応じた制御信号Scをモータ18に出力する。モータ18により調整されるスロットル弁16の開度THは、スロットル弁開度センサ26により検出され、その検出値は、開度情報信号SoとしてECU20に送信される。
【0022】
本実施形態において、エンジン出力制御装置11は、ECU20、スロットルグリップ22、ポテンショメータ24及びスロットル弁開度センサ26から構成される。
【0023】
[2.エンジン出力制御の流れ]
図2には、スロットル弁16の開度を調整するためのフローチャートが示されている。
【0024】
ステップS1において、エンジン12を始動させた状態で運転手がスロットルグリップ22を回転させると、その回転量ROT[度]をポテンショメータ24が検出する。
【0025】
ステップS2において、ECU20は、ポテンショメータ24の検出値に基づいてスロットル弁16の目標開度DTHR[度]を判定する。目標開度DTHRは、スロットル弁16のデフォルト開度THDEF[度](例えば、5度)に対する相対的な開度を示す実開度DTH[度]の目標値である。実開度DTHは、スロットル弁16の絶対的な開度TH[度]からデフォルト開度THDEFを引くことで求められる(DTH=TH−THDEF)。
【0026】
ステップS3において、ECU20は、モータ18に出力する制御信号Scのデューティ比DUT[%]を演算し、ステップS4において、ステップS3の演算結果に応じたデューティ比DUTの制御信号Scをモータ18に送信する。前記演算結果に応じて制御信号Scのデューティ比DUTを変化させることでモータ18の出力が制御される。すなわち、制御信号Scには、モータ18をオンにする信号とオフにする信号の両方が含まれており、一定時間内におけるオンにする信号とオフにする信号の存在比がデューティ比DUTである。例えば、1ミリ秒間の制御信号Scに、オンにする信号が0.6ミリ秒、オフにする信号が0.4ミリ秒含まれている場合、デューティ比DUTは60%となる。デューティ比DUTの具体的な演算方法については後述する。
【0027】
ステップS5において、ECU20から制御信号Scを受信したモータ18は、デューティ比DUTに応じた出力によりスロットル弁16の開度を調整する。これにより、スロットル弁16の実開度DTHに応じた空気がエンジン12内に供給され、この空気の量に応じた燃料がエンジン12内に噴射されてエンジン12の出力が制御される。
【0028】
ステップS1〜S5の処理は、エンジン12が停止されるまで繰り返される。
【0029】
[3.目標開度DTHRの判定(ステップS2)]
スロットル弁16の目標開度DTHRは、スロットルグリップ22の回転量ROTに応じて決定される。例えば、ポテンショメータ24からのパルス出力に比例して目標開度DTHRを決定することができる。或いは、各特許文献に記載の方法で目標開度DTHRを決定してもよい。
【0030】
[4.デューティ比DUTの演算(ステップS3)]
上述したデューティ比DUTの演算は、特許文献1と同様のスライディングモード制御に基づいて行われる。スライディングモード制御の詳細については、特許文献1に加え、例えば、「スライディングモード制御―非線形ロバスト制御の設計理論―」(野波健蔵、田宏奇著、株式会社コロナ社発行、1994年)に詳述されており、ここでは詳述しない。
【0031】
また、本実施形態において、デューティ比DUTは、下記の式(1)で定義される。
DUT[k]=Ueq[k]+Urch[k]+Udamp[k]+Udutgap[k] …(1)
【0032】
上記式(1)のうち、Ueq[k]は等価制御出力、Urch[k]は到達則出力、Udamp[k]はダンピング出力、Udutgap[k]はヒステリシス補正出力である。
【0033】
(1)定義
上述した等価制御出力Ueq[k]、到達則出力Urch[k]、ダンピング出力Udamp[k]、及びヒステリシス補正出力Udutgap[k]について説明するため、基本的な用語について事前に定義をしておく。
【0034】
以下において、a1、a2、b1、c1は、制御対象モデルの特性を決めるモデルパラメータである(特許文献1の段落[0027]等参照)。
【0035】
eは、実開度DTHと目標開度DTHRの偏差[度]を示すものであり、次の式(2)で定義される(特許文献1の段落[0035]等参照)。
e[k]=DTH[k]―DTHR[k] …(2)
【0036】
VPOLEは、−1より大きく1より小さい値に設定される切換関数設定パラメータである(特許文献1の段落[0030]、[0035]、[0037]、[0038]等参照)。
【0037】
σは、切換関数値であり、以下の式(3)で定義される(特許文献1の段落[0035]等参照)。
σ[k]=e[k]+VPOLE・e[k−1] …(3)
=(DTH[k]―DTHR[k])+VPOLE・(DTH[k]―DTHR[k])
【0038】
(2)等価制御出力Ueq
等価制御出力Ueqは、切換関数値σがゼロのときに、スロットル弁16の実開度DTHと目標開度DTHRとの偏差eをゼロに収束させ、切換直線上に拘束するための出力であり、以下の式(4)で定義される。
Ueq[k]={(1−a1−VPOLE)・DTH[k]+(VPOLE−a2)・DTH[k−1]+KDDTHR・(DTHR[k]―DTHR[k−1])2―c1}・(1/b1) …(4)
【0039】
ここで、右辺の項「(1−a1−VPOLE)・DTH[k]」、「(VPOLE−a2)・DTH[k−1]」及び「―c1」並びに右辺の係数「1/b1」は、特許文献1の段落[0078]の式(8a)と同じものであり、その詳細は特許文献1に記載されているため、ここでの説明は省略する。
【0040】
一方、右辺の項「KDDTHR・(DTHR[k]―DTHR[k−1])2」(以下、項全体をまとめて「デューティ比DUTへの足し込み量x」又は「足し込み量x」とも称する。)は、本願発明に特徴的な項であり、以下に詳述する。
【0041】
ここで、係数「KDDTHR」は、正の係数(本実施形態では、「1」である。)を示すものである。係数「(DTHR[k]―DTHR[k−1])2」は、今回の目標開度DTHR[k]と、前回の目標開度DTHR[k−1]の差を二乗したものである。
【0042】
図3に示すように、足し込み量xは、頂点が原点に一致する正の二次関数であるため、原点から離れるにつれて接線の傾きの絶対値が大きくなる。このため、横軸が正の領域では、今回の目標開度DTHR[k]と前回の目標開度DTHR[k−1]の差(すなわち、目標開度DTHRの速度変化量ΔDTHR[度/秒])が大きくなるにつれて、等価制御出力Ueq[k]に対する増分(デューティ比DUTへの足し込み量x)が大きくなる。
【0043】
これにより、車両10が急加速するときは、足し込み量x(等価制御出力Ueq)の増分が大きくなるため、デューティ比DUTも大きくなる。このため、車両10の急加速時にモータ18のトルクが足し込み量xの分大きくなるため、モータ18はスロットル弁16を急速に開き、エンジン12の出力を急速に増加させることができる。
【0044】
図4には、車両10が加速した際の目標開度DTHR、実開度DTH及び等価制御出力Ueqが示されている。図4中の点a、bは、図3中の点a、bに対応する。図3からわかるように、点bよりも点aの方が、目標開度DTHRの速度変化量ΔDTHRは大きい。そして、図4に示すように、点aに対応する等価制御出力Ueqの方が、点bに対応する等価制御出力Ueqよりも大きくなっている。この結果、図4では、目標開度DTHRと実開度DTHとの間にほとんど差がなくなっている。
【0045】
一方、横軸が負の領域では、今回の目標開度DTHR[k]と前回の目標開度DTHR[k−1]の差が大きくなるにつれて、デューティ比DUTへの足し込み量x(等価制御出力Ueq[k])の増分が大きくなる。このため、車両10が急減速するときは、デューティ比DUTの減少が比較的緩やかになる。従って、車両10の急減速時にかかるモータ18のマイナスのトルクが足し込み量xの分小さくなり、スロットル弁16が閉じる速度を遅くし、その結果、エンジン12の出力を緩やかに減少させることができる。
【0046】
図5には、車両10が減速した際の目標開度DTHR、実開度DTH及び等価制御出力Ueqが示されている。図5中の点c、dは、図3中の点c、dに対応する。図3からわかるように、点cよりも点dの方が、目標開度DTHRの速度変化量ΔDTHRが小さい(点dの方が、速度変化量ΔDTHRの絶対値が大きい)。そして、図5に示すように、点dに対応する等価制御出力Ueqの方が、点cに対応する等価制御出力Ueqよりも大きくなっている。この結果、図5では、目標開度DTHRと実開度DTHとの間にほとんど差がなくなっている。
【0047】
(3)到達則出力Urch
到達則出力Urchは、切換関数値σをゼロに拘束するための出力であり、以下の式(5)で定義される。
Urch[k]=(−F/b1)・σ[k] …(5)
【0048】
この式(5)は、特許文献1の式(9a)と同様のものであり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0049】
(4)ダンピング出力Udamp
ダンピング出力Udampは、目標開度DTHRに対する実開度DTHのオーバーシュート(行き過ぎ)を防止するための出力であり、以下の式(6)で定義される。
Udamp[k]=―Kdamp・(σ[k]―σ[k−1])/b1 …(6)
【0050】
ここで、Kdampは、ゲイン特性値であり、以下の式(7)で定義される。
Kdamp=T_Kdump1・T_Kdump2 …(7)
【0051】
上記ゲイン特性値T_Kdump1は、図6に示すように、スロットル弁16の目標開度DTHRが、正の所定値sを超えるときに大きくなる正のゲイン特性値である。後述するようにゲイン特性値T_Kdump2が正の値をとるものであり、且つゲイン特性値Kdampには−1が乗算されているため(式(6)参照)、スロットル弁16が大きく開くときにゲイン特性値T_Kdump1がプラス方向に大きくなると、その結果、ダンピング出力Udampはマイナス方向に大きくなる。このため、ゲイン特性値T_Kdump1を用いることで、車両10が急加速した際のオーバーシュートを防止することができる。
【0052】
また、上記ゲイン特性値T_Kdump2は、図7に示すように、切換関数値σが、ゼロ近傍にあるときに小さくなる正のゲイン特性値である。上述のようにゲイン特性値T_Kdump1が正の値をとり、且つゲイン特性値Kdampには−1が乗算されているため、切換関数値σがゼロより遠い値のときゲイン特性値T_Kdump2が大きくなり、その結果、ダンピング出力Udampは値が大きくなる。このため、切換関数値σがゼロより遠い値のとき、すなわち、ロバスト性が小さいとき、ダンピング出力Udampの絶対値を大きくし、これにより、切換関数値σを切換直線に近づけてロバスト性を向上させることができる。
【0053】
本実施形態では、ゲイン特性値T_Kdump1及びゲイン特性値T_Kdump2をテーブル化して記憶しておくことで、迅速にゲイン特性値Kdampを演算することができる。
【0054】
なお、図8には、目標開度DTHRと、上記式(6)に基づくダンピング出力Udampを用いた実開度DTHと、特許文献1の式(25)及び式(27)に基づくダンピング出力Udampを用いた実開度DTHとを比較した図が示されている。
【0055】
図8からわかるように、特許文献1の式(25)に基づくダンピング出力Udampを用いた実開度DTHは、目標開度DTHRに対してオーバーシュートしている。また、特許文献1の式(27)に基づくダンピング出力Udampを用いた実開度DTHよりも、上記式(6)に基づくダンピング出力Udampを用いた実開度DTHの方が高速な追従を実現している。
【0056】
(5)ヒステリシス補正出力Udutgap
(a)ヒステリシス補正出力Udutgapの概要
ヒステリシス補正出力Udutgapは、スロットル弁16の開度調整におけるヒステリシスを考慮した出力であり、以下の式(8)で定義される。
Udutgap[k]={DUTR(DTH[k])―(Ueq[k]+Urch[k]+Udamp[k])}・Kdut/b1 …(8)
【0057】
ここで、DUTR(DTH[k])は、実開度DTH[k]の値に応じてスロットル弁16を動作させるために必要なデューティ比DUTの値である。また、Kdutは、係数KDUTGAPHと係数KDUTGAPLとを包含し、これらの係数KDUTGAPH、KDUTGAPLは、図9A及び図9Bに示すように、目標開度DTHRの関数である。
【0058】
モータ18によるスロットル弁16の開度調整には、図10に示すようにヒステリシス特性がある。すなわち、デューティ比DUT及び実開度DTHから決まる点が図10のヒステリシス領域40内にある場合、モータ18は開度調整を行わない。例えば、スロットル弁16が初期位置(DTH=0)にある場合、スロットル弁16が開方向に動作し始めるのは、ECU20からモータ18への制御信号Scのデューティ比DUTがd1[%]のときである。一方、スロットル弁16を閉方向に動作させる場合、スロットル弁16が初期位置に戻るのは、デューティ比DUTがd1よりも小さいd2[%]の場合である。
【0059】
同様に、実開度DTHがt1[度]の状態でスロットル弁16が保持(停止)されている場合、スロットル弁16を開方向に動作させるためには、デューティ比DUTがd3[度]にならなければならない。これに対し、スロットル弁16を閉方向に動作させるためには、デューティ比DUTがd3よりも小さいd4であればよい。
【0060】
なお、上記のようなヒステリシス特性を生じる主な要因としては、モータ固有の要因、機械系の摩擦及びリターンスプリングによる付勢が考えられる。モータ固有の要因とは、モータが始動し始める電流値であり、この電流値は、巻線、コア等の位置、形状、材質等の要因によって異なる。機械系の摩擦とは、モータの軸と軸受間の摩擦、及びモータの複数の歯車間の摩擦である。リターンスプリングによる付勢とは、スロットル弁に接続されたリターンスプリングにより、スロットル弁が閉方向に付勢されることである。
【0061】
また、図10のようなヒステリシス特性は、デューティ比DUT[%]を一定に変化させたときに現れるものであり、デューティ比DUTの変化量が変化しているときには、別のヒステリシス特性が現れる。
【0062】
(b)ヒステリシス補正出力Udutgapの判定
図11には、ヒステリシス補正出力Udutgap[k]を判定するフローチャートが示されている。
【0063】
ステップS11において、ECU20は、ヒステリシス補正出力Udutgap以外に上記式(1)のデューティ比DUTを構成する出力、すなわち、等価制御出力Ueq、到達則出力Urch及びダンピング出力Udampの和からなる出力Uslbf(Uslbf[k]=Ueq[k]+Urch[k]+Udamp[k])を算出する。
【0064】
ステップS12において、ECU20は、今回の実開度DTH[k]と前回の実開度DTH[k−1]の差DTGDDTH[k](DTGDDTH[k]=DTH[k]―DTH[k−1])を算出する。
【0065】
ステップS13において、ECU20は、ヒステリシス補正の要否を判定する。
【0066】
ステップS14において、ECU20は、ヒステリシス補正出力Udutgapの具体的な数値を判定する。
【0067】
(c)スロットル弁16の位置の判定方法(ステップS13)
上述のように、ステップS13では、ヒステリシス補正の要否を判定する。具体的には、図12に示すように、ECU20は、目標開度DTHR[k]と実開度DTH[k]の差ETHL[k][度](ETHL[k]=DTHR[k]―DTH[k])について5つの領域(領域0〜領域5)を予め設定しておき、今回の差ETHLが領域0〜領域5のいずれかにあるかを検出してヒステリシス補正の要否を判定する。
【0068】
すなわち、差ETHLが正の閾値C_DUTGAPHH以上の場合(この状態を「領域0」と称する。)、運転手は、非常に大きなエンジン出力を求めており、その結果、スロットル弁16の実開度DTHはすぐにヒステリシス領域40(図10)から外れると考えられるため、ECU20は、ヒステリシス補正を行わない。なお、ヒステリシスの特性上、前記閾値C_DUTGAPHHは、差ETHLが増加するときと減少するときとで値を異ならせている。すなわち、差ETHLが増加するときは、閾値C_DUTGAPHHを相対的に大きく設定し、差ETHLが減少するときは、閾値C_DUTGAPHHが相対的に小さく設定する。両者の差は、C_HYSDTGPHで示される。
【0069】
また、差ETHLが正の閾値C_DUTGAPHH未満であり且つ正の閾値C_DUTGAPHL(0<C_DUTGAPHL<C_DUTGAPHH)より大きい場合(下記の例外を除き、この状態を「領域1」と称する。)、ECU20は、運転手が緩やかな加速を望んでいるにもかかわらず、ヒステリシスによりエンジン出力が得られない状態にあると判断し、制御信号Scのデューティ比DUTを増加させるヒステリシス補正を基本的に行う。但し、このようなヒステリシス補正を行わなくとも、次の制御信号Scの目標デューティ比DUTTGTH[%]が、ステップS11で求めた出力Uslbf(Uslbf=Ueq+Urch+Udamp)を下回るとき(この場合、「領域0」に属する。)は、ヒステリシス補正を行わない。
【0070】
差ETHLが、前記正の閾値C_DUTGAPHL以下であり、且つ負の閾値C_DUTGAPLH以上である場合(この状態を「領域2」と称する。)、ECU20は、スロットル弁16の開度が変わっていないと判断して、ヒステリシス補正を行わない。
【0071】
差ETHLが、前記負の閾値C_DUTGAPLH未満であり、且つ負の閾値C_DUTGAPLL(C_DUTGAPLL<C_DUTGAPLH<0)より大きい場合(下記の例外を除き、この状態を「領域3」と称する。)、ECU20は、運転手が緩やかな減速を望んでいるにもかかわらず、ヒステリシスによりエンジン出力が大きくなってしまう状態にあると判断して、制御信号Scのデューティ比DUTを減少させるヒステリシス補正を行う。但し、このようなヒステリシス補正を行わなくとも、次の目標デューティ比DUTTGTL[%]が、ステップS11で求めた出力Uslbf(Uslbf=Ueq+Urch+Udamp)より小さくなるとき(この場合、「領域4」に属する。)は、ヒステリシス補正を行わない。
【0072】
差ETHLが、前記負の閾値C_DUTGAPLL以下の場合(この状態を「領域4」と称する。)、ヒステリシス補正は行わない。なお、ヒステリシスの特性上、前記閾値C_DUTGAPLLは、差ETHLが増加するときと減少するときとで値を異ならせている。すなわち、差ETHLが増加するとき(マイナス方向に変化するとき)は、閾値C_DUTGAPLLを相対的に小さく(マイナス方向に大きく)設定し、差ETHLが減少するとき(プラス方向に変化するとき)は、閾値C_DUTGAPLLを相対的に大きく(マイナス方向に小さく)設定する。両者の差は、C_HYSDTGPLで示される。
【0073】
図13には、上述したステップS13の処理(図12の領域0〜5を判定するための処理)を行うためのフローチャートが示されている。
【0074】
すなわち、ステップS21において、ECU20は、今回の目標開度DTHR[k]と今回の実開度DTH[k]の差ETHL[k](ETHL[k]=DTHR[k]―DTH[k])を算出する。
【0075】
ステップS22において、ECU20は、スロットル弁16による開方向の移動が意図されているかどうかを判断するための正の閾値C_DUTGAPHL(図12参照)よりも差ETHL[k]が大きいか否かを判定する。差ETHL[k]が、閾値C_DUTGAPHLより大きい場合、ステップS23に進み、差ETHL[k]が、閾値C_DUTGAPHL以下の場合、ステップS28に進む。
【0076】
ステップS23において、ECU20は、スロットル弁16が実際に開方向に移動するかどうかを判断するための正の閾値C_DUTGAPHHよりも差ETHL[k]が小さいか否かを判定する。差ETHL[k]が、正の閾値C_DUTGAPHH以上である場合、ステップS24に進み、ECU20は、スロットル弁16による開方向への移動がヒステリシス補正を要さないほど大きいものである、換言すると、差ETHLが図12の領域0にあり、ヒステリシス補正は不要であると判定する。一方、ステップS23において、差ETHL[k]が、閾値C_DUTGAPHHより小さい場合、ステップS25に進む。
【0077】
ステップS25において、ECU20は、スロットル弁16を実際に開方向に移動させるために必要な目標デューティ比DUTTGTH[%]を目標開度DTHRに応じて判定する。この目標デューティ比DUTTGTHは、目標開度DTHR毎にメモリ(図示せず)に予め記憶されている。
【0078】
ステップS26において、ECU20は、目標デューティ比DUTTGTHが、ステップS11で判定した出力Uslbf(Uslbf=Ueq+Urch+Udamp)よりも大きいか否かを判定する。目標デューティ比DUTTGTHが、出力Uslbf以下の場合、ステップS24に進み、ECU20は、目標デューティ比DUTTGTHが、ヒステリシス領域40外の領域0にあり、ヒステリシス補正は不要であると判定する。目標デューティ比DUTTGTHが、出力Uslbfより大きい場合、ステップS27に進み、ECU20は、目標デューティ比DUTTGTHが、ヒステリシス領域40内の領域1にあり、ヒステリシス補正が必要であると判定する。
【0079】
上述のように、ステップS22において、差ETHL[k]が、閾値C_DUTGAPHL以下の場合、ステップS28に進む。
【0080】
ステップS28において、ECU20は、スロットル弁16による閉方向への移動がヒステリシス補正を要するか否かを判断するため、閾値C_DUTGAPLLよりも差ETHL[k]が大きいか否かを判定する。差ETHL[k]が、閾値C_DUTGAPLL以下の場合、ステップS29に進み、ECU20は、スロットル弁16による閉方向への移動がヒステリシス補正を要さないほど大きいものである、換言すると、差ETHLが図12の領域4にあり、ヒステリシス補正は不要であると判定する。一方、ステップS28において、差ETHL[k]が、閾値C_DUTGAPLLより大きい場合、ステップS30に進む。
【0081】
ステップS30において、ECU20は、差ETHLが閾値C_DUTGAPLH未満であるか否かを判定する。閾値C_DUTGAPLH未満でない場合、ステップS31に進み、領域2であると判定する。閾値C_DUTGAPLH未満である場合、ステップS32に進む。
【0082】
ステップS32において、ECU20は、スロットル弁16を実際に閉方向に移動させるために必要な目標デューティ比DUTTGTL[%]を目標開度DTHRに応じて判定する。この目標デューティ比DUTTGTLは、目標開度DTHR毎にメモリ(図示せず)に予め記憶されている。
【0083】
ステップS33において、ECU20は、目標デューティ比DUTTGTLが、ステップS11で判定した出力Uslbf(Uslbf=Ueq+Urch+Udamp)未満であるか否かを判定する。目標デューティ比DUTTGTLが、出力Uslbf以上である場合、ステップS29に進み、ECU20は、目標デューティ比DUTTGTLが、ヒステリシス領域40外の領域4にあり、ヒステリシス補正は不要であると判定する。目標デューティ比DUTTGTLが、出力Uslbf未満の場合、ステップS34に進み、ECU20は、目標デューティ比DUTTGTLが、ヒステリシス領域40内の領域3にあり、ヒステリシス補正が必要であると判定する。
【0084】
(d)ヒステリシス補正出力Udutgap[k]の具体的な数値の判定方法(ステップS14)
図14には、ECU20が、ヒステリシス補正出力Udutgap[k]の具体的な数値を判定するためのフローチャートが示されている。
【0085】
ステップS41において、ECU20は、スロットル弁16の動作方向を判定する。すなわち、目標開度DTHの速度変化量DTGDDRTHR[度/秒]の正負を検出してスロットル弁16の動作方向を判定する。或いは、誤差を考慮して、単に速度変化量DTGDDRTHRの正負を見るのみではなく、正の所定値及び負の所定値を設定し、これらの所定値を越えるか否かによりスロットル弁16の動作方向を判断してもよい。
【0086】
ステップS42において、実開度DTHの速度変化量DTGDDTH[度/秒]が負の閾値C_DGTPOUTL[度/秒]より大きいか否かを判断する。この負の閾値C_DGTPOUTLは、スロットル弁16が閉動作する場合にヒステリシス補正を要するか否かを判定するためのものである。
【0087】
速度変化量DTGDDTHが負の閾値C_DGTPOUTLより小さい場合、ステップS43に進み、ヒステリシス補正出力Udutgap[k]をゼロとする。速度変化量DTGDDTHが負の閾値C_DGTPOUTL以上である場合、ステップS44に進む。
【0088】
ステップS44においてもステップS43と同様に、実開度DTHの速度変化量DTGDDTHが正の閾値C_DGTPOUTHより大きいか否かを判断する。速度変化量DTGDDTHが正の閾値C_DGTPOUTHより大きい場合、ステップS43に進み、ヒステリシス補正出力Udutgap[k]をゼロとする。速度変化量DTGDDTHが正の閾値C_DGTPOUTH以下である場合、ステップS45に進む。
【0089】
ステップS45において、ECU20は、差ETHLが領域1にあるか否かを判定する。差ETHLが領域1にある場合、ステップS46に進み、領域1にない場合、ステップS49に進む。
【0090】
ステップS46において、ECU20は、スロットル弁16を開く際の目標デューティ比DUTTGTHが、ステップS11で算出した和Uslbf(Uslbf=Ueq+Urch+Udamp)より大きいか否かを判定する。目標デューティ比DUTTGTHが、和Uslbf以下であれば、ステップS43に進み、ヒステリシス補正出力Udutgapをゼロにする。目標デューティ比DUTTGTHが和Uslbfより大きければ、ステップS47に進む。
【0091】
ステップS47において、ECU20は、予め設定されたテーブルT_KDUTGAPHから係数KDUTGAPHを読み出す。この係数KDUTGAPHは、上述した関数Kdutに包含されるものであり、図9Aに示す特性を有する。すなわち、係数KDUTGAPHは、スロットル弁16の目標開度DTHRが増加するに従って減少する特性を有する。
【0092】
ステップS48において、ECU20は、下記の式(9)を用いてヒステリシス補正出力Udutgapを算出する。
Udutgap[k]=KDUTGAPH(DTHR[k])・(DUTTGTH[k]−USLBF[k]) …(9)
【0093】
ステップS45において、差ETHLが領域1でない場合、ステップS49において、差ETHLが領域3であるか否かを判定する。差ETHLが領域3でない場合、ステップS50において、Udutgap[k]をゼロに設定する。差ETHLが領域3である場合、ステップS51に進む。
【0094】
ステップS51において、ECU20は、目標デューティ比DUTTGTLが、ステップS11で算出した和Uslbf(Uslbf=Ueq+Urch+Udamp)より小さいか否かを判定する。目標デューティ比DUTTGTHが、和Uslbfより小さければ、ステップS50に進み、ヒステリシス補正出力Udutgapをゼロにする。目標デューティ比DUTTGTHが、和Uslbfより小さければ、ステップS52に進む。
【0095】
ステップS52において、ECU20は、予め設定されたテーブルから係数KDUTGAPLを読み出す。この係数KDUTGAPLは、上述した関数Kdutに包含されるものであり、図9Bに示す特性を有する。すなわち、係数KDUTGAPLは、スロットル弁16の目標開度DTHRが減少するに従って減少する特性を有する。なお、図9Bでは、横軸の正負が反対になっているので留意されたい。
【0096】
ステップS53において、ECU20は、下記の式(10)を用いてヒステリシス補正出力Udutgapを算出する。
Udutgap[k]=KDUTGAPL(DTHR[k])・(DUTTGTL[k]−USLBF[k]) …(10)
【0097】
[5.本実施形態による効果]
上述のように、本実施形態に係るエンジン出力制御装置11では、ECU20は、スロットル弁16が停止している状態から目標開度DTHRが変化したとき、モータ18の動作開始に必要なモータ18の出力を算出し、不足分を補償した制御信号Scを出力する。
【0098】
上記実施形態では、スロットル弁16が停止している状態から目標開度DTHRが変化し、スロットル弁16の実開度DTHを変化させる際、モータ18のヒステリシス特性による応答遅れを補償することでモータ18の始動までの遅れを小さくすることができ、その結果、スロットル弁16の実開度DTHの調整における応答遅れを減少させることができる。また、目標開度DTHRが当初より小さくなる場合、モータ18のヒステリシス特性によりモータ18の出力が過度に大きくなることを避けることが可能となり、その結果、スロットル弁16の実開度DTHの調整におけるずれを減少させることができる。
【0099】
また、ECU200は、モータ18の動作開始に必要なモータ18の出力(すなわち、制御信号Scのデューティ比DUTへのヒステリシス補正出力Udutgapの付加)を、スロットル弁16の実開度DTHに応じて決定する。
【0100】
図10に示すように、モータ18のヒステリシス特性は、スロットル弁16の実開度DTHと相関関係があることがわかっている。このため、スロットル弁16の実開度DTHに応じてヒステリシス補正出力Udupgapの値を変化させることで、より高い精度でモータ18のヒステリシス特性に対応することができる。
【0101】
さらに、ECU20は、目標開度DTHRが実開度DTHよりも大きいとき、制御信号Scのデューティ比DUTに対するヒステリシス補正出力Udutgapを変化させ、目標開度DTHRの増加量に応じてモータ18の出力の増加を抑制し、実開度DTHが目標開度DTHRよりも大きいとき、制御信号Scのデューティ比DUTに対するヒステリシス補正出力Udutgapを変化させ、目標開度DTHRの減少量に応じてモータ18の出力の減少を抑制する。
【0102】
一般に、スロットル弁16の目標開度DTHRが実開度DTHよりも大きく且つ目標開度DTHR又は実開度DTHの増加量が大きいとき、ヒステリシス領域40を外れると、その後に実開度DTHが目標開度DTHRをオーバーシュートし易い。このため、目標開度DTHR又は実開度DTHの増加量に応じてモータ18の出力の増加を抑制することでオーバーシュートが起こる可能性を減少させることができる。
【0103】
同様に、スロットル弁16の実開度DTHが目標開度DTHRよりも大きく且つ目標開度DTHR又は実開度DTHの減少量が大きいとき、ヒステリシス領域40での加算分により、その後に実開度DTHが目標開度DTHRをオーバーシュートし易い。このため、目標開度DTHR又は実開度DTHの減少量に応じてモータ18の出力の減少を抑制することでオーバーシュートが起こる可能性を減少させることができる。
【0104】
[6.この発明の応用]
なお、この発明は、上記実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下に示す(1)〜(5)の構成を採ることができる。
【0105】
(1)車両
上記実施形態では、自動二輪車の車両10を用いたが、これに限られない。例えば、自動四輪車にも適用可能である。
【0106】
(2)目標開度入力手段
上記実施形態では、目標開度DTHRを入力するものとしてスロットルグリップ22を用いたが、これに限られない。例えば、アクセルペダルを用いることも可能である。
【0107】
また、上記実施形態では、スロットルグリップ22とポテンショメータ24を別の構成要素として記載したが、一体型のものであってもよい。
【0108】
(3)制御方法
上記実施形態では、制御方法として、スライディングモード制御を用いたが、これに限られない。例えば、スライディングモード制御以外の非線形型ロバスト制御や、線形型ロバスト制御を用いることができる。
【0109】
(4)制御信号
上記実施形態では、制御信号Scのデューティ比DUTを用いてモータ18の出力を制御したが、デューティ比DUT以外の出力特性を変更してモータ18の出力を変化させることもできる。例えば、制御信号Scのパルス数や振幅、周波数を変化させることでモータ18の出力を変化することも可能である。
【0110】
(5)スロットル弁の開度
上記実施形態では、スロットル弁16の実際の開度を示すものとして実開度DTH、すなわち、スロットル弁16のデフォルト開度THDEFと、スロットル弁16の絶対的な位置を示す開度THとの関係を示すもの(DTH=TH−THDEF)を用いたが、開度THを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は、この発明の一実施形態に係るエンジン出力制御装置を搭載した車両の概略的な構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、前記エンジン出力制御装置を用いてエンジンの出力制御を行うフローチャートである。
【図3】図3は、スロットル弁の目標開度の速度変化量と、制御信号のデューティ比への足し込み量の関係を示す図である。
【図4】図4は、車両加速時のスロットル弁の目標開度、実開度、及び等価制御出力の具体的な波形を示す図である。
【図5】図5は、車両減速時のスロットル弁の目標開度、実開度、及び等価制御出力の具体的な波形を示す図である。
【図6】図6は、スロットル弁の目標開度と出力ゲインとの関係を示す図である。
【図7】図7は、切換関数値と出力ゲインとの関係を示す図である。
【図8】図8は、スロットル弁の目標開度と、本発明に係るダンピング出力を用いた実開度と、従来技術に基づく実開度の比較例を示す図である。
【図9】図9A及び図9Bは、前記本発明に係るダンピング出力を決定する際に用いる係数の特性図である。
【図10】図10は、制御信号のデューティ比とスロットル弁の実開度の関係におけるヒステリシス特性を示すである。
【図11】図11は、本発明に係るヒステリシス補正出力を判定するフローチャートである。
【図12】図12は、ヒステリシス補正の要否に対応する領域を示す図である。
【図13】図13は、前記領域を判定するフローチャートである。
【図14】図14は、前記ヒステリシス補正に用いるヒステリシス補正出力の具体的な数値を判定するフローチャートである。
【符号の説明】
【0112】
10…車両
11…エンジン出力制御装置(駆動量制御装置)
12…エンジン 14…吸気通路
16…スロットル弁(制御対象) 18…モータ
20…ECU(制御手段)
22…スロットルグリップ(目標駆動量入力手段)
24…ポテンショメータ
26…スロットル弁開度センサ(駆動量検出手段)
Udutgap…ヒステリシス補正出力
DTH…実開度 DTHR…目標開度
DUT…デューティ比 Sc…制御信号
So…開度情報信号(駆動量情報信号)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象の駆動量をモータの出力により調整する駆動量制御装置であって、
前記制御対象の目標駆動量を入力する目標駆動量入力手段と、
前記モータの出力を制御する制御信号を、前記目標駆動量に応じた出力特性で前記モータに送信する制御手段と、
前記制御対象の実際の駆動量を検出し、その検出結果を示す駆動量情報信号を前記制御手段に送信する駆動量検出手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記制御対象が停止している状態から前記目標駆動量が変化したとき、前記モータの動作開始に必要な前記モータの出力を算出し、不足分を補償した前記制御信号を出力する
ことを特徴とする駆動量制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の駆動量制御装置において、
前記制御対象は、スロットル弁であり、
前記駆動量は、前記スロットル弁の開度である
ことを特徴とする駆動量制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の駆動量制御装置において、
前記制御手段は、前記モータの動作開始に必要な前記モータの出力を、前記スロットル弁の実開度に応じて算出する
ことを特徴とする駆動量制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−255788(P2008−255788A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95465(P2007−95465)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】