説明

高力ボルト接合構造

【課題】摩擦面処理を施すことなく、且つ高力ボルトを高強度化することなく、耐力向上を図ることが可能な高力ボルト接合構造を提供する。
【解決手段】高力ボルト14の軸部14aが挿通する被接合部材11(10)のボルト孔18を、被接合部材11(10)の厚さT方向内側に向かうに従い漸次縮径して孔面をテーパー状に形成した支圧孔部18b、18cを備えて形成する。また、添板12、13に、ボルト孔19の径方向外側に位置する同心円状の屈曲部21で屈曲して支圧孔部18b、18cに嵌合する支圧部20を設ける。そして、高力ボルト14で一対の被接合部材11(10)と添板12、13とを締め付けるとともに、座金部材16、17で添板12、13の支圧部20を押圧させ、この支圧部20を被接合部材11(10)の支圧孔部18b、18cの孔面に押圧させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高力ボルトを用いて例えば鋼板や鉄骨などの被接合部材同士を接合する高力ボルト接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板や鉄骨などの母材(被接合部材)同士を接合する際には、溶接、高力ボルト接合が多用されており、このうち、高力ボルト接合(高力ボルト摩擦接合)においては、高力ボルト1本あたりのすべり耐力がボルト軸力×すべり係数で表され、ボルト軸力とすべり係数のいずれか一方あるいは両方の値を大きくすることですべり耐力を大きくすることができる。
【0003】
そして、すべり係数を大きく方法としては、一般に、図7(2面せん断型の高力ボルト摩擦接合)や図8(1面せん断型の高力ボルト摩擦接合)に示す母材1、2や添板3、4の摩擦面(接合面)1a、1b、2a、2b、3a、4aに赤錆処理やブラスト処理を施す方法が多用されている。また、摩擦面1a、1b、2a、2b、3a、4aに機械的に凹凸を形成してすべり係数を大きくする方法や、鋼棒、ピアノ線、鋼線メッシュ、軟鋼などの接合補助部材を母材1、2と添板3、4の間あるいは母材1、2同士の間に介装し、各部材1、2、3、4の摩擦面1a、1b、2a、2b、3a、4aに接合補助部材を食い込ませ、支圧抵抗を付加することによってすべり係数を大きくする方法も提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0004】
一方、ボルト軸力を高める方法としては、ボルト5自体の強度を高くした例えば14T(1400N/mm)級の超高力ボルトを用いる方法が実用化され、18T(1800N/mm)級の超高力ボルトの開発も進められている。
【特許文献1】特開平6−146427号公報
【特許文献2】特開2004−291091号公報
【特許文献3】特開平6−220923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高力ボルト摩擦接合においては、すべり係数を大きくする方法を適用した場合、平均的にすべり係数が0.6程度であるとの報告があるが、摩擦はばらつきが大きな現象であるため、通常、摩擦面1a、1b、2a、2b、3a、4aのすべり係数の設計値(基準値)に0.45という低い値を設定してすべり耐力を算出している。
【0006】
また、高力ボルト摩擦接合では、一般に、施工性を考慮して、高力ボルト5の軸部5aが挿通する母材1、2や添板3、4のボルト孔の孔径が高力ボルト5の軸径よりも例えば2〜3mm程度大きく形成されている。このように母材1、2や添板3、4のボルト孔が形成されていることにより、図9に示すように、母材1、2に作用する荷重Pが徐々に高くなると、はじめに高力ボルト5(母材1、2と添板3、4の摩擦面1a、1b、2a、2b、3a、4a、母材1、2同士の摩擦面1a、2b)にすべりが生じ、ボルト軸力が低下して変形が進み、高力ボルト5の軸部5aと母材1、2(母材1、2のボルト孔の周端部)が当接して支圧状態になった段階から耐力が上昇することになる。このため、高力ボルト5がすべる際に大きなすべり音が発生したり、支圧状態に移行するまでに変形が進むという構造的に好ましくない状況が発生する。
【0007】
一方、高強度のボルト(超高力ボルト)5を用いてすべり耐力を大きくする場合には、高強度化に伴うコスト増が生じ、さらに、遅れ破壊に対する品質管理なども必要になって、大幅なコスト増が生じるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、摩擦面処理を施すことなく、且つ高力ボルトを高強度化することなく、耐力向上を図ることが可能な高力ボルト接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明の高力ボルト接合構造は、一対の被接合部材の外側に添板を設け、前記一対の被接合部材と前記添板とを高力ボルトで締め付けることにより、前記添板を介して前記被接合部材同士を接合する高力ボルト接合構造であって、前記高力ボルトの頭部及び/又は前記高力ボルトの軸部の先端側に螺合したナットと前記添板との間に介装される座金部材を備えており、前記高力ボルトの軸部が挿通する前記被接合部材のボルト孔が、前記被接合部材の一面及び/又は他面から前記被接合部材の厚さ方向内側に向かうに従い漸次縮径して孔面をテーパー状に形成した支圧孔部を備えて形成され、前記添板には、前記高力ボルトの軸部が挿通する該添板のボルト孔を含み、前記添板のボルト孔の径方向外側に位置する同心円状の屈曲部で屈曲して前記支圧孔部に嵌合する支圧部が設けられ、前記高力ボルトで前記一対の被接合部材と前記添板とを締め付けるとともに、前記座金部材が前記添板の支圧部を押圧し、該支圧部が前記被接合部材の支圧孔部の孔面に押圧されていることを特徴とする。
【0011】
この発明においては、高力ボルトで一対の被接合部材と添板とを締め付けるとともに、座金部材が添板の支圧部を押圧し、この支圧部が被接合部材の支圧孔部の孔面に押圧されることにより、高力ボルトの締め付けと同時に、被接合部材に作用した荷重が座金部材と添板の支圧部を介して支圧伝達されるように高力ボルトと一対の被接合部材を繋げて、被接合部材同士を接合することが可能になる。
【0012】
本発明の高力ボルト接合構造は、一対の被接合部材を高力ボルトで締め付けることにより前記被接合部材同士を接合する高力ボルト接合構造であって、前記高力ボルトの頭部と前記被接合部材の間及び前記高力ボルトの軸部の先端側に螺合したナットと前記被接合部材の間にそれぞれ介装される一対の座金部材を備えており、前記高力ボルトの軸部が挿通する前記被接合部材のボルト孔が、前記被接合部材の一面から他面に向かうに従い漸次縮径して孔面をテーパー状に形成した支圧孔部を備えて形成され、前記高力ボルトで前記一対の被接合部材を締め付けるとともに、前記座金部材が前記被接合部材の支圧孔部に嵌合しつつ該支圧孔部の孔面に押圧されていることを特徴とする。
【0013】
この発明においては、高力ボルトで一対の被接合部材を締め付けるとともに、座金部材が被接合部材の支圧孔部に嵌合しつつこの支圧孔部の孔面に押圧されることにより、高力ボルトの締め付けと同時に、被接合部材に作用した荷重が座金部材を介して支圧伝達されるように高力ボルトと一対の被接合部材を繋げて、被接合部材同士を接合することが可能になる。
【0014】
また、本発明の高力ボルト接合構造においては、前記座金部材が前記高力ボルトの頭部及び/又は前記ナットと一体に形成されてもよい。
【0015】
この発明においては、座金部材を高力ボルトの頭部及び/又はナットと一体に形成することによって、座金部材を個別に設ける必要がなく、部材数を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高力ボルト接合構造によれば、高力ボルトの締め付けと同時に、高力ボルトと一対の被接合部材とを、被接合部材に作用した荷重が支圧伝達されるように繋げることができる。これにより、従来の高力ボルト摩擦接合のように被接合部材に作用する荷重が徐々に高くなるとともに高力ボルトにすべりが生じて大きなすべり音が発生したり、支圧状態に移行するまでの間でボルト軸力が低下し変形が進むという不都合を確実に解消することが可能になる。よって、ばらつきの大きい摩擦面処理を施すことなく、且つ高力ボルトを高強度化することなく、耐力向上を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1及び図2を参照し、本発明の第1実施形態に係る高力ボルト接合構造について説明する。本実施形態は、互いに突き合わせるように配置した一対の接合鋼板(被接合部材、母材)と、これら接合鋼板を挟み込むように配置した一対の添板とを高力ボルトで締め付けることにより、一対の添板を介して接合鋼板同士を接合する2面せん断型の高力ボルト接合構造に関するものである。
【0018】
本実施形態の高力ボルト接合構造Aは、図1及び図2に示すように、接合する一対の接合鋼板10、11と、一対の添板12、13と、高力ボルト14と、ナット15と、一対の座金部材16、17とを備えて構成されている。
【0019】
一対の接合鋼板10、11は、互いの一端部10a、11a同士を突き合わせるように間隔をあけて平行配置されている。また、これら一対の接合鋼板10、11にはそれぞれ、一端部10a、11a側に、一面10b、11bから他面10c、11cに貫通し、高力ボルト14の軸部14aが挿通するボルト孔18が、所定の間隔をあけて2つずつ形成されている。また、各ボルト孔18は、接合鋼板10、11の厚さT方向中央部分(厚さT方向内側部分)が中央孔部18a、中央孔部18aよりも接合鋼板10、11の一面10b、11b側部分が第1支圧孔部(支圧孔部)18b、中央孔部18aよりも接合鋼板10、11の他面10c、11c側部分が第2支圧孔部(支圧孔部)18cとされている。
【0020】
そして、中央孔部108aは、ボルト孔18の軸線O1方向(接合鋼板10、11の厚さT方向)にその径を一定にして形成されており、高力ボルト14の軸部14aの径(軸径d1)よりも例えば2〜3mm程度大きく形成されている。第1支圧孔部18bは、接合鋼板10、11の一面10b、11bから接合鋼板10、11の厚さT方向内側に向かうに従い漸次縮径して形成されており、その孔面がテーパー状に形成されている。第2支圧孔部18cは、接合鋼板10、11の他面10c、11cから接合鋼板10、11の厚さT方向内側に向かうに従い漸次縮径して形成されており、その孔面がテーパー状に形成されている。そして、これら第1支圧孔部18bと第2支圧孔部18cは、断面台形状の同形同大で形成され、中央孔部18aと互いの軸線を同軸O1上に配した状態で連通している。
【0021】
一対の添板12、13は、接合鋼板10、11の一端部10a、11a側を挟み込むように、一対の接合鋼板10、11のそれぞれの外側に配設されている。また、このとき、一方の添板12は、一面12aを接合鋼板10、11の一面10b、11bに面接触させ、他方の添板13は、一面13aを接合鋼板10、11の他面10c、11cに面接触させて配設されている。各添板12、13には、高力ボルト14の軸部14aが挿通する4つのボルト孔19が所定の間隔をあけて一面12a、13aから他面12b、13bに貫通して形成されている。また、各ボルト孔19は、接合鋼板10、11のボルト孔18の中央孔部18aと同径で形成されている。
【0022】
また、各添板12、13には、各ボルト孔19を形成した部分に、例えばプレス加工などによって予め支圧部20が形成されている。この支圧部20は、ボルト孔19を含み、このボルト孔19の径方向外側に設けられた同心円状の屈曲部21で添板12、13を屈曲させ、各接合鋼板10、11の一面10b、11bあるいは他面10c、11cに面接触する添板12、13の一面12a、13aから軸線O1方向外側に突出して形成されている。このとき、支圧部20の一面12a、13aと他面12b、13bは、互いに平行しつつ屈曲部21からボルト孔19の孔面に向かうに従い漸次軸線方向外側に向けて傾斜するテーパー状に形成されている。これにより、支圧部20の他面12b、13b側には、円錐台状(断面台形状)の嵌合凹部22が形成されている。
【0023】
そして、一対の添板12、13は、一方の添板12の支圧部20が接合鋼板10、11に形成したボルト孔18の第1支圧孔部18bに、他方の添板13の支圧部20が接合鋼板10、11の第2支圧孔部18cにそれぞれ嵌合して配設されている。このとき、各添板12、13の支圧部20は、そのテーパー状の一面12a、13aが第1支圧孔部18b、第2支圧孔部18cのテーパー状の孔面に面接触して嵌合している。また、各支圧部20のボルト孔19が、接合鋼板10、11のボルト孔18の中央孔部18aと互いの軸線を同軸O1上に配した状態で連通している。
【0024】
一方、一対の座金部材16、17は、略円錐台状の同形同大で形成され、軸線O1方向後端側の座金部16a、17aと先端側の嵌合部16b、17bとを備えて形成されている。また、座金部16a、17aは、その径が軸線O1方向後端から嵌合部16b、17bに繋がる部分まで一定で形成されている。これに対し、嵌合部16b、17bは、軸線O1方向後端側から先端に向かうに従い漸次その外径が縮径するように形成され、外面がテーパー状に形成されている。また、この嵌合部16b、17bは、軸線O1方向の厚さが添板12、13の支圧部20の嵌合凹部22の厚さと同等に形成されている。さらに、一対の座金部材16、17には、軸線O1方向先端から後端に貫通するボルト孔23が形成されており、このボルト孔23は、接合鋼板10、11のボルト孔18の中央孔部18a及び添板12、13のボルト孔19と同径で形成されている。
【0025】
これら一対の座金部材16、17は、一方の座金部材16が一方の添板12の支圧部20の嵌合凹部22に、他方の座金部材17が他方の添板13の支圧部20の嵌合凹部22にそれぞれ嵌合して配設されている。このとき、各座金部材16、17は、嵌合部16b、17bのテーパー状の外面が添板12、13の支圧部20の嵌合凹部22を形成するテーパー状の他面12b、13bに面接触して嵌合している。また、各座金部材16、17のボルト孔23が、添板12、13のボルト孔19と互いの軸線を同軸O1上に配した状態で連通している。
【0026】
また、互いに連通した接合鋼板10、11と添板12、13と座金部材16、17のボルト孔18(18a)、19、23に他方の座金部材17側から高力ボルト14の軸部14aが挿通され、一方の座金部材16のボルト孔23から外側に突出した高力ボルト14の軸部14aの先端側にナット15を螺合して締結されている。これにより、一対の座金部材16、17は、一方の座金部材16が一方の添板12の嵌合凹部22に嵌合した状態でナット15と一方の添板12の間に介装され、他方の座金部材17が他方の添板13の嵌合凹部22に嵌合した状態で高力ボルト14の頭部14bと他方の添板13の間に介装されている。
【0027】
ついで、上記構成からなる高力ボルト接合構造Aによって接合鋼板10、11同士を接合する方法について説明するとともに、本実施形態の高力ボルト接合構造Aの作用及び効果について説明する。
【0028】
接合鋼板10、11同士を接合する際には、はじめに、一方の接合鋼板10の一端部10aに他方の接合鋼板11の一端部11aを突き合わせるように、一対の接合鋼板10、11を所定位置に配置する。ついで、一対の接合鋼板10、11を挟み込んで、添板12、13を所定位置に設置する。このとき、一方の添板12と他方の添板13の支圧部22をそれぞれ、接合鋼板10、11のボルト孔18の第1支圧孔部18bと第2支圧孔部18cに嵌合させて、一対の添板12、13を設置する。
【0029】
ついで、各添板12、13の嵌合凹部22に嵌合部16b、17bを嵌合させて、一対の座金部材16、17をそれぞれ設置する。そして、接合鋼板10、11と一対の添板12、13と一対の座金部材16、17の互いに連通したボルト孔18(18a)、19、23に、他方の座金部材17側から高力ボルト14の軸部14aを挿通するとともに、一方の座金部材16から突出した高力ボルト14の軸部14aの先端側にナット15を螺合して締結する。
【0030】
このように高力ボルト14の軸部14aにナット15を締結して所定の軸力が導入されると、すなわち、高力ボルト14で一対の接合鋼板10、11と一対の添板12、13を締め付けると、一方の座金部材16がナット15で、他方の座金部材17が高力ボルト14の頭部14bでそれぞれ押圧される。また、添板12、13の支圧部20が座金部材16、17で押圧されて、各座金部材16、17の嵌合部16b、17bのテーパー状の外面が各添板12、13の支圧部20のテーパー状の他面12b、13bに密着する。さらに、この添板12、13の支圧部20のテーパー状の一面12a、13aが接合鋼板10、11のボルト孔18の第1支圧孔部18bと第2支圧孔部18cの各テーパー状の孔面に密着して、各添板12、13の支圧部20が接合鋼板10、11の第1支圧孔部18bと第2支圧孔部18cのそれぞれの孔面に押圧される。これにより、高力ボルト14の締め付けと同時に、座金部材16、17と添板12、13の支圧部20によって高力ボルト14と一対の接合鋼板10、11とが繋がり、接合鋼板10、11同士が添板12、13を介して接合される。
【0031】
そして、本実施形態の高力ボルト接合構造Aにおいては、高力ボルト14の締め付けとともに、高力ボルト14と一対の接合鋼板10、11とが座金部材16、17と添板12、13の支圧部20を介して繋げられているため、一方の接合鋼板10(他方の接合鋼板11)に荷重Pが作用した際に、はじめからこの荷重Pが添板12、13、座金部材16、17、高力ボルト14を介して他方の接合鋼板11(一方の接合鋼板10)に支圧伝達される。これにより、接合鋼板10、11に作用する荷重Pが徐々に高くなっても、従来の高力ボルト摩擦接合のように高力ボルト14にすべりが生じて大きなすべり音が発生したり、支圧状態に移行するまでの間でボルト軸力が低下し変形が進むことがない。
【0032】
したがって、本実施形態の高力ボルト接合構造Aにおいては、高力ボルト14の締め付けと同時に、高力ボルト14と一対の接合鋼板10、11とを、接合鋼板10、11に作用した荷重Pが支圧伝達されるように繋げることができる。これにより、接合鋼板10、11に作用する荷重Pが徐々に高くなっても、従来の高力ボルト摩擦接合のように高力ボルト14にすべりが生じて大きなすべり音が発生したり、支圧状態に移行するまでの間でボルト軸力が低下し変形が進むという不都合を確実に解消することが可能になる。よって、ばらつきの大きい摩擦面処理を施すことなく、且つ高力ボルト14を高強度化することなく、耐力向上を図ることが可能になる。
【0033】
また、接合鋼板10、11のボルト孔18の第1支圧孔部18bと第2支圧孔部18cの孔面がそれぞれテーパー状に形成され、これら第1支圧孔部18bと第2支圧孔部18cに添板12、13の支圧部20が軸線O1方向に対し斜めに接して嵌合しているため、仮に接合鋼板10、11と添板12、13の間にすべりが生じた場合においても、このすべりによって高力ボルト14に軸線O1方向に押し広げる力が作用することになる。このため、接合鋼板10、11と添板12、13の間にすべりが生じるとともにボルト軸力が高まってこのすべりを防止する効果を発揮させることが可能である。よって、この点からも高力ボルト14にすべりが生じて大きなすべり音が発生したり、支圧状態に移行するまでの間でボルト軸力が低下し変形が進むという不都合を解消することが可能になり、耐力向上を図ることが可能になる。
【0034】
以上、本発明に係る高力ボルト接合構造の第1実施形態について説明したが、本発明は上記の第1実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、被接合部材が接合鋼板10、11であるものとしたが、本発明に係る被接合部材は、例えば鉄骨などの鋼板以外のものであってもよい。
【0035】
また、本実施形態では、添板12、13に、例えばプレス加工などによって予め支圧部20が形成されているものとしたが、平板状の添板12、13を一対の接合鋼板10、11の外側に設置し、高力ボルト14の締め付け時に、座金部材16、17で添板12、13のボルト孔19の周囲を押圧させ、ボルト孔19の周囲を高力ボルト14の緊張力(軸力)で屈曲させることにより、接合鋼板10、11の嵌合孔部22に嵌合する支圧部20を形成するようにしてもよい。
【0036】
さらに、本実施形態では、座金部材16、17が個別に設けられているものとしたが、図3に示すように、座金部材16、17が高力ボルト14の頭部14bやナット15と一体に形成されていてもよい。例えばテーパー付きボルトやテーパー付きナットを用いるようにしてもよい。そして、このように座金部材16、17を高力ボルト14の頭部14bやナット15と一体に形成した場合には、部材数を少なくすることができ、施工性の向上を図ることが可能になる。
【0037】
ついで、図4及び図5を参照し、本発明の第2実施形態に係る高力ボルト接合構造について説明する。本実施形態は、一対の接合鋼板(被接合部材、母材)を重ね合わせた状態で高力ボルトにより締め付けることで、接合鋼板同士を接合する1面せん断型の高力ボルト接合構造に関するものである。
【0038】
本実施形態の高力ボルト接合構造Bは、図4及び図5に示すように、接合する一対の接合鋼板25、26と、高力ボルト14と、ナット15と、一対の座金部材27、28とを備えて構成されている。
【0039】
一対の接合鋼板25、26は、互いの一端部25a、26a側を重ねて平行配置されている。また、これら一対の接合鋼板25、26にはそれぞれ、一端部25a、26a側に、一面25b、26bから他面25c、26cに貫通し、高力ボルト14の軸部14aが挿通するボルト孔29が形成されている。また、各接合鋼板25、26のボルト孔29は、一面25b、26bから他面25c、26cに向かうに従い漸次縮径して孔面がテーパー状に形成され、他面25c、26cに開口する部分の径(最小径)が、高力ボルト14の軸部14aの径(軸径d1)よりも例えば2〜3mm程度大きく形成されている。本実施形態においては、このように形成されたボルト孔29全体が支圧孔部30とされている。そして、一対の接合鋼板25、26は、他面25c、26c同士を面接触させるとともに、ボルト孔29同士を互いの軸線O1を同軸上に配し連通させた状態で配設されている。
【0040】
一方、一対の座金部材27、28は、第1実施形態と同様に、座金部27a、28aと嵌合部27b、28bとを備えて略円錐台状に形成され、座金部27a、28aは、その径が軸線O1方向後端から嵌合部27b、28bに繋がる部分まで一定で形成されている。また、嵌合部27b、28bは、軸線O1方向後端側から先端に向かうに従い漸次その外径が縮径するように形成され、外面がテーパー状に形成されている。そして、本実施形態の一対の座金部材27、28は、一方の座金部材27の嵌合部27bが、その軸線O1方向の厚さを一方の接合鋼板25(支圧孔部30)の厚さT1と略同等にして、他方の座金部材28の嵌合部28bが、その軸線O1方向の厚さを他方の接合鋼板26(支圧孔部30)の厚さT2と略同等にしてそれぞれ形成されている。また、一対の座金部材27、28には、軸線O1方向先端から後端に貫通するボルト孔31が形成されており、このボルト孔31は、接合鋼板27、28のボルト孔29の最小径と同径で形成されている。
【0041】
これら一対の座金部材27、28は、一方の座金部材27の嵌合部27bが一方の接合鋼板25の支圧孔部30に、他方の座金部材28の嵌合部28bが他方の接合鋼板26の支圧孔部30にそれぞれ嵌合して配設されている。このとき、各座金部材27、28は、嵌合部27b、28bのテーパー状の外面が接合鋼板25、26のボルト孔29のテーパー状の孔面に面接触して嵌合している。
【0042】
また、接合鋼板25、26のボルト孔29に嵌合して互いに連通する一対の座金部材27、28のボルト孔31に他方の座金部材28側から高力ボルト14の軸部14aが挿通され、一方の座金部材27のボルト孔31から外側に突出した高力ボルト14の軸部14aの先端側にナット15を螺合して締結されている。これにより、一対の座金部材27、28は、一方の座金部材27がナット15と一方の接合鋼板25の間に介装され、他方の座金部材28が高力ボルト14の頭部14bと他方の接合鋼板26の間に介装されている。
【0043】
ついで、上記構成からなる高力ボルト接合構造Bによって接合鋼板25、26同士を接合する方法について説明するとともに、本実施形態の高力ボルト接合構造Bの作用及び効果について説明する。
【0044】
接合鋼板25、26同士を接合する際には、はじめに、一方の接合鋼板25の一端部25a側に他方の接合鋼板26の一端部26a側を重ね合わせ、互いのボルト孔29が連通するように一対の接合鋼板25、26を所定位置に配置する。
【0045】
ついで、各接合鋼板25、26のボルト孔29に嵌合させて、一対の座金部材27、28をそれぞれ設置する。そして、一対の座金部材27、28の互いに連通したボルト孔31に、他方の座金部材28側から高力ボルト14の軸部14aを挿通するとともに、一方の座金部材27から突出した高力ボルト14の軸部14aの先端側にナット15を螺合して締結する。
【0046】
このように高力ボルト14の軸部14aにナット15を締結して所定の軸力が導入されると、すなわち、高力ボルト14で一対の接合鋼板25、26を締め付けると、一方の座金部材27がナット15で、他方の座金部材28が高力ボルト14の頭部14bでそれぞれ押圧され、各座金部材27、28の嵌合部27b、28bのテーパー状の外面が接合鋼板25、26のボルト孔29(支圧孔部30)のテーパー状の孔面に押圧されて密着する。これにより、高力ボルト14の締め付けと同時に、座金部材27、28によって高力ボルト14と一対の接合鋼板25、26とが繋がり、接合鋼板25、26同士が接合される。
【0047】
そして、本実施形態の高力ボルト接合構造Bにおいては、高力ボルト14の締め付けとともに、高力ボルト14と一対の接合鋼板25、26とが座金部材27、28を介して繋げられているため、一方の接合鋼板25(他方の接合鋼板26)に荷重Pが作用した際に、はじめからこの荷重Pが座金部材27、28、高力ボルト14を介して他方の接合鋼板26(一方の接合鋼板25)に支圧伝達される。これにより、接合鋼板25、26に作用する荷重Pが徐々に高くなっても、従来の高力ボルト摩擦接合のように高力ボルト14にすべりが生じて大きなすべり音が発生したり、支圧状態に移行するまでの間でボルト軸力が低下し変形が進むことがない。
【0048】
したがって、本実施形態の高力ボルト接合構造Bにおいては、高力ボルト14で一対の接合鋼板25、26を締め付けるとともに、座金部材27、28が接合鋼板25、26の支圧孔部30(ボルト孔29)に嵌合しつつこの支圧孔部30の孔面に押圧されることにより、高力ボルト14の締め付けと同時に、接合鋼板25、26に作用した荷重Pが座金部材27、28を介して支圧伝達されるように高力ボルト14と一対の接合鋼板25、26を繋げて、接合鋼板25、26同士を接合することが可能になる。
【0049】
そして、このように高力ボルト14の締め付けと同時に荷重Pが支圧伝達されるように、高力ボルト14と一対の接合鋼板25、26とを繋げることで、接合鋼板25、26に作用する荷重Pが徐々に高くなっても、従来の高力ボルト摩擦接合のように高力ボルト14にすべりが生じて大きなすべり音が発生したり、支圧状態に移行するまでの間でボルト軸力が低下し変形が進むという不都合を確実に解消することが可能になる。よって、ばらつきの大きい摩擦面処理を施すことなく、且つ高力ボルト14を高強度化することなく、耐力向上を図ることが可能になる。
【0050】
また、接合鋼板25、26の支圧孔部30の孔面(ボルト孔29の孔面)がテーパー状に形成され、この支圧孔部30に座金部材27、28の嵌合部27b、28bが軸線O1方向に対し斜めに接して嵌合しているため、仮に接合鋼板25、26の間にすべりが生じた場合においても、第1実施形態と同様、このすべりによって高力ボルト14に軸線O1方向に押し広げる力が作用することになる。このため、接合鋼板25、26の間にすべりが生じるとともにボルト軸力が高まってこのすべりを防止する効果を発揮させることが可能である。よって、この点からも高力ボルト14にすべりが生じて大きなすべり音が発生したり、支圧状態に移行するまでの間でボルト軸力が低下し変形が進むという不都合を解消することが可能になり、耐力向上を図ることが可能になる。
【0051】
以上、本発明に係る高力ボルト接合構造の第2実施形態について説明したが、本発明は上記の第2実施形態に限定されるものではなく、第1実施形態の変形例を含め、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、座金部材27、28が個別に設けられているものとしたが、第1実施形態と同様、図6に示すように、座金部材27、28が高力ボルト14の頭部14bやナット15と一体に形成されていてもよい。例えば、テーパー付きボルトやテーパー付きナットを用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態に係る高力ボルト接合構造を示す図である。
【図2】図1のS部を拡大した図であり、本発明の第1実施形態に係る高力ボルト接合構造の分解図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る高力ボルト接合構造の変形例を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る高力ボルト接合構造を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る高力ボルト接合構造の分解図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る高力ボルト接合構造の変形例を示す図である。
【図7】従来の2面せん断型の高力ボルト摩擦接合を示す図である。
【図8】従来の1面せん断型の高力ボルト摩擦接合を示す図である。
【図9】従来の高力ボルト摩擦接合の荷重とすべりの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
10 一方の接合鋼板(一方の被接合部材)
10a 一端部
10b 一面
10c 他面
11 他方の接合鋼板(他方の被接合部材)
11a 一端部
11b 一面
11c 他面
12 一方の添板
13 他方の添板
14 高力ボルト
14a 軸部
14b 頭部
15 ナット
16 一方の座金部材
16a 座金部
16b 嵌合部
17 他方の座金部材
17a 座金部
17b 嵌合部
18 接合鋼板のボルト孔
18a 中央孔部
18b 第1支圧孔部
18c 第2支圧孔部
19 添板のボルト孔
20 支圧部
21 屈曲部
22 嵌合凹部
25 一方の接合鋼板(一方の被接合部材)
25a 一端部
25b 一面
25c 他面
26 他方の接合鋼板(他方の被接合部材)
26a 一端部
26b 一面
26c 他面
27 一方の座金部材
27a 座金部
27b 嵌合部
28 他方の座金部材
28a 座金部
28b 嵌合部
29 接合鋼板のボルト孔
30 支圧孔部
31 座金部材のボルト孔
A 高力ボルト接合構造
B 高力ボルト接合構造
d1 高力ボルトの軸径
O1 軸線
P 荷重
T 接合鋼板の厚さ
T1 一方の接合鋼板の厚さ
T2 他方の接合鋼板の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の被接合部材の外側に添板を設け、前記一対の被接合部材と前記添板とを高力ボルトで締め付けることにより、前記添板を介して前記被接合部材同士を接合する高力ボルト接合構造であって、
前記高力ボルトの頭部及び/又は前記高力ボルトの軸部の先端側に螺合したナットと前記添板との間に介装される座金部材を備えており、
前記高力ボルトの軸部が挿通する前記被接合部材のボルト孔が、前記被接合部材の一面及び/又は他面から前記被接合部材の厚さ方向内側に向かうに従い漸次縮径して孔面をテーパー状に形成した支圧孔部を備えて形成され、
前記添板には、前記高力ボルトの軸部が挿通する該添板のボルト孔を含み、前記添板のボルト孔の径方向外側に位置する同心円状の屈曲部で屈曲して前記支圧孔部に嵌合する支圧部が設けられ、
前記高力ボルトで前記一対の被接合部材と前記添板とを締め付けるとともに、前記座金部材が前記添板の支圧部を押圧し、該支圧部が前記被接合部材の支圧孔部の孔面に押圧されていることを特徴とする高力ボルト接合構造。
【請求項2】
一対の被接合部材を高力ボルトで締め付けることにより前記被接合部材同士を接合する高力ボルト接合構造であって、
前記高力ボルトの頭部と前記被接合部材の間及び前記高力ボルトの軸部の先端側に螺合したナットと前記被接合部材の間にそれぞれ介装される一対の座金部材を備えており、
前記高力ボルトの軸部が挿通する前記被接合部材のボルト孔が、前記被接合部材の一面から他面に向かうに従い漸次縮径して孔面をテーパー状に形成した支圧孔部を備えて形成され、
前記高力ボルトで前記一対の被接合部材を締め付けるとともに、前記座金部材が前記被接合部材の支圧孔部に嵌合しつつ該支圧孔部の孔面に押圧されていることを特徴とする高力ボルト接合構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の高力ボルト接合構造において、
前記座金部材が前記高力ボルトの頭部及び/又は前記ナットと一体に形成されていることを特徴とする高力ボルト接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−53956(P2010−53956A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219638(P2008−219638)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】