説明

高効率化学量論的内燃エンジンシステム

【課題】空気流量を制御するためにエンジンの空気吸入口にルーツ送風機が配置されている化学量論的圧縮点火エンジンを備える動力システムを提供する。
【解決手段】部分負荷状態の間、空気流量を減少させて、エンジンの燃焼室内の空燃比を化学量論比に維持し、それにより、窒素酸化物を低減する安価な三元触媒の使用が可能になる。ルーツ送風機が電動発電機に連結され、それにより、空気流量を減少させるとき電気エネルギーが貯蔵され、その電気エネルギーは、一時的に空気流量を増加させるためにルーツ送風機に利用されるか、またはシステム電気負荷に利用され、したがって、普通なら空気流量を減少させるときに失われるエネルギーが回収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の特許権
この発明は、米国エネルギー省からの契約DE−FC26−05NT42416の下に政府の支援を受けて行われた。米国政府は、この発明において一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、内燃エンジンシステムに関し、より具体的には化学量論的空燃比で作動するエンジンに関する。
【背景技術】
【0003】
内燃エンジンには多数の形態があり、最も一般的な形態は、火花点火式ガソリン燃料エンジン、および圧縮点火着火式ディーゼルエンジンである。最新の火花点火式ガソリンエンジンは、大気圧または大気圧より高い圧力でいずれかの空気を使用し、それを、適切な燃料計量システムを通した燃料と混合して、可能な限り化学量論比に近い混合気を燃焼室中に生成する。化学量論的空燃比は、全ての燃料および全ての空気が、燃焼過程中に化合する質量比である。ガソリン燃料火花点火式エンジンでは、その空燃比は14.7対1である。この特性により、エンジン排気中の窒素酸化物を減少させるために三元触媒を使用する適切な排気後処理が可能になる。
【0004】
圧縮点火、またはディーゼルタイプは、火花点火ガソリン燃料エンジンに勝る優れた耐久性および燃料経済性ゆえに、多くの商用および産業用エンジン動力用途に使用されている。ディーゼルエンジンは、計量された燃料が噴射される吸入空気の圧縮による熱を利用して、燃焼を起こさせる。ディーゼルエンジンサイクルの特質は、部分負荷状態で、化学量論比をかなり超えるレベルまで上昇し得る可変空燃比を有することである。この結果、特定の負荷レベルに必要な量の燃料のみがエンジンに供給されるので、部分負荷の燃料経済性が著しく改善される。
【0005】
ディーゼルエンジンは、優れた部分負荷燃料経済性を提供する一方、たとえば三元触媒を用いて窒素酸化物を減少させるのをより困難にする燃焼過程を有する。化学量論空燃費を有するディーゼルエンジンを製造する従来の方法では、火花点火式ガソリンエンジンに通常用いられる、部分負荷状態では吸入空気流量を減少させるスロットルを使用することになる。このスロットル装置を導入すると、簡単にはなるが、エンジンに入る空気が絞られ、エネルギーが無駄に棄てられるという熱力学的損失が発生する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、当技術分野では、部分負荷状態で生じる損失を最小限に抑える内燃エンジンシステムを実現する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一形態では、本発明は、少なくとも燃焼空気用吸入口および燃焼生成物用排気口を有し、燃料を消費する内燃エンジンを備える動力システムである。容積型空気操作装置が、エンジン吸入口に直列に空気流接続されて配置されている。エンジンの空燃比をほぼ化学量論比に維持するように空気操作装置の空気流量を制御する装置が設けられ、その結果、内燃エンジンの排気中の酸化窒素排出物を低減するために、三元触媒が使用され得る。
【0008】
別の形態では、本発明は、空気の吸入口および燃焼生成物の排気口を有し、燃料を消費し空気を吸入する圧縮点火エンジンを作動させる方法として実施される。その方法は、圧縮点火エンジンを作動させるステップと、エンジン空気流量を実質的に化学量論比に制御するために、エンジン吸入口に直列流接続された容積型空気操作装置を使用するステップとを含み、それにより、圧縮点火エンジンの排気中の酸化窒素排出物を低減するために、三元触媒が使用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、空気を吸入し燃料を消費する内燃エンジン10をその基盤として有する動力システムを示し、その内燃エンジン10では、1つまたは複数のピストンが、エンジンブロック内で往復し、クランクシャフトに連結して、回転出力を発生する。各ピストンは、吸入システム12から燃焼用空気を受け入れる可変体積燃焼室の一部を形成する。燃焼生成物は、排気システム14を通過する。通常の方式では、ポペット弁(本発明の理解を単純にするために図示せず)が、カムシャフトによって作動してサイクルの適切な時点で開くことによって、空気を吸入させ、または燃焼生成物を排出させる。本明細書に示されるように、内燃エンジンは、圧縮点火またはディーゼルタイプである。このエンジンは、吸入空気に対して著しく高い圧縮比を有し、それによって、圧縮過程において、吸入空気が、炭化水素燃料を噴射すると自己燃焼する点まで加熱されることを、通常、特徴とする。そのようなエンジンでは、出力、燃料効率、および排出物低減の所望の組合せを実現するために、燃料システム13が、適切な時間間隔で計量燃料を供給する。燃料システム13は、選択されたエンジン作動パラメータ、および、ECU(電子制御ユニット)44によって例示されている燃料システム制御部からライン46を介する指令に応答して、燃料の量およびタイミングを設定する。ライン46は、ECUと燃料システムとの間で信号を送受信する多数のケーブルであり得ることに留意されたい。
【0010】
エンジン10の効率をさらに上昇させることを意図して、参照符号16によって示されるターボチャージャを採用することができる。ターボチャージャ16は、導管20を通して吸入空気を取り込み、それを圧縮して吸入システム12に送り出す圧縮機18を有する。したがって、内燃エンジン10の燃焼室に入る空気は、大気圧下で得られるより高密度であり、より大きな出力を発生することができる。圧縮機は、タービン24に連結されたシャフト22によって駆動され、そのタービン24は、燃焼生成物を排気ライン14から取り込むことによって駆動されて回転し、それにより圧縮機18を駆動する。タービン24への入口には、部分負荷時に生じる低流量状態に対して可能な限り高いガス速度を維持することを意図して、様々なタイプの可変構造を用いることができる。タービン24を通過した排気ガスは、環境に有害であると考えられる生成物を排気システム中で低減する排気後処理を排気ガスが受けることができる排気ライン26を通ってシステムから排出される。
【0011】
上記のように、窒素酸化物(NO)を低減する費用効果の高い方式の一つは三元触媒によるものである。ただし、そのような触媒を使用することができるには、エンジン10は、エンジンによって消費される空気対燃料の比が、通常14.7対1と考えられる化学量論比に近い状態で作動しなければならない。混合比は、燃焼時点での空気質量対燃料質量流量に基づく。
【0012】
化学量論比近傍値を達成するために、容積型空気操作装置30が、空気吸入ライン12中に直列空気流接続状態で挿入されている。容積型空気操作装置は、好ましくはルーツ送風機である。ルーツ送風機は、1対の、ほぼ「数字8」形状のローブ形インペラが歯車で機械的に連結され、それによりローブ同士が互いに反対方向に回転する回転ローブ送風機として説明される。ローブは、両ローブと、それらがその中で回転するハウジングとの間に緊密な間隙が維持されるような寸法にされている。ルーツ送風機は、1848年に米国でこの送風機を実用化したFrancis Rootsと Philader Rootsに因んで名付けられている。
【0013】
このタイプの容積型空気操作装置は、かなりの量の空気を扱うことができ、内部で空気圧縮が行われないことを特徴とする。ルーツの主構造は長年にわたって発達して、脈動を低減するために螺旋形状で相互嵌合するローブ、および3個以上の数で相互嵌合するローブが生み出され、それらは全て、より円滑な空気の送出を実現する。ルーツ送風機はまた、圧力比が比較的低いことを特徴とする。
【0014】
ルーツ送風機30は、適切な機械的相互連結機構32によって、ルーツ送風機30を駆動しまたはそれによって駆動され得る電動発電機34に連結されている。電動発電機34は、電気エネルギー貯蔵装置36に、適切な電気的相互接続機構38によって接続されている。電気エネルギー貯蔵装置36は、ライン38を通して電動発電機34へ電気エネルギーを送り返すことができ、または、適切な電気的相互接続機構42を通して、参照符号40によって示されるシステム電気負荷へ電気エネルギーを供給することができる。システム電気負荷40は、交通、農業、または産業用途用の原動機として使用される動力システム中に存在する電気的に駆動される様々な全ての装置を表す。
【0015】
本明細書に例示されているように、システムの制御は、エンジン10からライン46を介して制御信号を受け取る電子制御ユニット(ECU)44によって行われる。エンジン10用制御部に適切に接続された独立したECUを用いることもできることに留意されたい。電動発電機34と送受信する制御信号はライン48を通り、電気エネルギー貯蔵装置36と送受信する制御信号はライン50を通り、最後に、システム電気負荷と送受信する制御信号はライン52を通る。以下に記述するように、ルーツ送風機30とECU44との間には、適切なセンサによるか、またはルーツ送風機30の回転数を検知するかのいずれかによって質量空気流量を表す信号をもたらす信号ライン33がある。上記に指摘したように、制御信号ラインは、多数の導電体を用いたケーブルであり得る。
【0016】
電気エネルギー貯蔵装置36は、好ましい一実施形態では、電気エネルギーをバッテリによって貯蔵させ、またはECU44による指令通りに送出させることができる制御部を有するバッテリである。別の好ましい形態としては、電気エネルギー貯蔵装置36は、エネルギーを高容量の複数のキャパシタ内に貯蔵し、それをECU44からの指令信号に応答して送出することができるキャパシタでもよい。電気エネルギー貯蔵装置36は、ECUによる指令通りに、電動発電機34の駆動またはシステム電気負荷40への電力の提供のいずれをも行えるようになされている。
【0017】
作動中、内燃エンジン10は、エンジン10の圧縮過程の終端またはその近くの燃焼を開始させるのに適切な時点で適切な量の燃料を供給するように、ECU44から信号を燃料システム13へ送ることによって作動する。高出力状態下では、ルーツ送風機は、エンジンの空燃比を化学量論比に維持するために、単に吸入口12を通る空気の流量に応答する。しかし、空気を自由に流すと高空燃比を生じる部分負荷状態では、ECU44からの指令に従って、電動発電機34が発電機として作動し、それによって、ルーツ送風機30に負荷を掛けて吸入口12を通過する空気流量を減少させることにより、化学量論的空燃比に達する。このように電動発電機34によってルーツ送風機30に掛けられた負荷は、装置36に電気エネルギーを貯蔵するのに使用される。それによって、通常なら減速操作によって失われるエネルギーが、40を介してシステム電気負荷に供給されるか、または、貯蔵されて後に、ターボチャージャ16に通常生じる遅れを最小限に抑えるために吸入口12中の空気流量を一時的に増加させるのに使用されるかのいずれかに利用可能になる。このようなシステムの最終的な成果は、普通なら無駄に棄てられるエネルギーを捕捉して、それをシステム電気負荷に利用可能にし、または吸入口12中の空気流量を一時的に増加させるのに利用可能にすることである。
【0018】
他のタイプの容積型空気操作装置を採用することもできるが、ルーツ送風機30は、ECU44に延びるセンサライン33によって利用される極めて正確な空気流量センサになることができる点で有利であり、ルーツ送風機30の回転数すなわちエンジンへの空気流量を示す信号を発生する。燃料システム13によって消費される燃料を測定する技法は周知であり発達しているので、空燃比を計算するための基本的要素は比較的単純かつ直裁的であり、複雑な空気流量検知技法は不要である。
【0019】
好ましい実施形態を記述してきたが、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を加えることができることが明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を実現する動力システムの略図である。
【符号の説明】
【0021】
10 内燃エンジン
12 吸入システム
13 燃料システム
14 排気システム
16 ターボチャージャ
18 圧縮機
20 導管
22 シャフト
24 タービン
26 排気ライン
30 容積型空気操作装置
32 機械的相互連結機構
33 信号ライン
34 電動発電機
36 電気エネルギー貯蔵装置
38 電気的相互接続機構
40 システム電気負荷
42 電気的相互接続機構
44 ECU
46 ライン
48 ライン
50 ライン
52 ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも燃焼空気用吸入口および燃焼生成物用排気口を有し、燃料を消費する内燃エンジンと、
前記エンジン吸入口に直列に空気流接続された容積型空気操作装置と、
前記エンジンの空燃比を化学量論比に維持するように前記空気操作装置の空気流量を制御する装置と
を備える動力システムであって、
前記内燃エンジンの排気中のNO排出物を低減するために、三元触媒が使用され得る、動力システム。
【請求項2】
前記内燃エンジンが、化学量論的圧縮点火エンジンである、請求項1に記載の動力システム。
【請求項3】
前記容積型空気操作装置がルーツ送風機である、請求項2に記載の動力システム。
【請求項4】
前記ルーツ送風機が、エネルギー貯蔵およびエネルギー放出装置に接続されている、請求項3に記載の動力システム。
【請求項5】
前記エネルギー貯蔵装置が、前記ルーツ送風機に連結された電動発電機を備え、前記電動発電機が選択的に前記ルーツ送風機を駆動し、それに駆動される、請求項4に記載の動力システム。
【請求項6】
前記容積型空気操作装置がルーツ送風機を備える、請求項1に記載の動力システム。
【請求項7】
前記ルーツ送風機が、エネルギー貯蔵およびエネルギー放出装置に接続されて、前記エネルギー貯蔵およびエネルギー放出装置が、前記ルーツ送風機によって駆動され、前記ルーツ送風機を選択的に駆動する、請求項6に記載の動力システム。
【請求項8】
前記エネルギー貯蔵および放出装置が電動発電機を備え、前記電動発電機の出力が前記ルーツ送風機に連結され、それによって、前記電動発電機が、選択的に前記ルーツ送風機によって駆動される、請求項7に記載の動力システム。
【請求項9】
前記電動発電機に電気的に相互接続されたバッテリをさらに備え、前記ルーツ送風機が前記電動発電機を駆動しているとき前記バッテリが充電される、請求項8に記載の動力システム。
【請求項10】
前記電動発電機が、電気エネルギーを貯蔵および放出するキャパシタに接続されている、請求項8に記載の動力システム。
【請求項11】
前記システムが、システム電気負荷をさらに備え、前記エネルギー貯蔵および放出装置が、選択的に前記システム負荷に電力を供給する、請求項8に記載の動力システム。
【請求項12】
前記電動発電機が、選択的に前記ルーツ送風機を駆動する、請求項8に記載の動力システム。
【請求項13】
前記エンジンからの排気ガスによって駆動され、前記エンジンの吸入口に入る空気を加圧するターボチャージャをさらに備え、前記電動発電機が前記ルーツ送風機を選択的に駆動してターボチャージャの遅れを補償する、請求項12に記載の動力システム。
【請求項14】
前記ルーツ送風機を制御して実質的に化学量論比を維持するために、前記エンジンの空燃比を測定する装置をさらに備える、請求項6に記載の動力システム。
【請求項15】
空燃比を測定する前記装置が、エンジン電子制御ユニット(ECU)を備える、請求項14に記載の動力システム。
【請求項16】
空燃比を測定する前記装置が、前記エンジンの空気流量に比例する信号を生成するために、前記ルーツ送風機の回転数を測定する装置を備える、請求項15に記載の動力システム。
【請求項17】
空気の吸入口および燃焼生成物の排気口を有し、燃料を消費し空気を吸入する圧縮点火エンジンを作動させる方法において、
前記圧縮点火エンジンを作動させるステップと、
前記エンジン吸入口の空気流量を実質的に化学量論的空燃比に制御するために、前記エンジン吸入口に直列流接続された容積型空気操作装置を使用するステップと
を有する方法であって、
前記圧縮点火エンジンの排気中のNOx排出物を低減するために、三元触媒が使用され得る方法。
【請求項18】
前記容積型空気操作装置がルーツ送風機である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
部分負荷エンジン状態の間、前記エンジン吸入口の空気流量を実質的に化学量論的空燃比まで減少させるために、前記ルーツ送風機に負荷が掛けられる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
部分負荷状態の間は選択的にエネルギーを貯蔵し、他の状態の間はエネルギーを放出するために、前記ルーツ送風機が、エネルギー貯蔵およびエネルギー放出装置に接続されている、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記エネルギー貯蔵およびエネルギー放出装置が、前記ルーツ送風機に連結された電動発電機を備える、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記エネルギー貯蔵およびエネルギー放出装置が、前記電動発電機に電気的に接続されたバッテリをさらに備える、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記ルーツ送風機が、制御装置によって、前記化学量論的空燃比近傍値を維持するように制御される、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記制御装置が、前記ルーツ送風機の回転数に対応する入力を受け取って、前記エンジン吸入口の空気流量に直接対応する信号を発生する、請求項23に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−286191(P2008−286191A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100253(P2008−100253)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(591005165)ディーア・アンド・カンパニー (109)
【氏名又は名称原語表記】DEERE AND COMPANY
【Fターム(参考)】