説明

高周波回路チップを実装した電子装置

【課題】広帯域に渡りインピーダンス整合する接続構造を実現すること。
【解決手段】高周波回路チップ100と伝送線路Fとの間に、高周波回路チップに対してワイヤボンディングされ、誘電体上に形成された第1信号線路61Lと、誘電体上において第1信号線路の両側に形成され、誘電体の裏面全体に形成された裏面接地導体と接続された、表面導体50Lの第1部分51Lから成る第1コプレーナ部Aと、第1コプレーナ部の第1信号線路に接続され、信号の伝送方向に沿った2辺に沿って、裏面接地導体と電気的に接続する複数のビアホールから成る側壁導体と、第1信号線路と連続する表面導体の第2部分と、裏面接地導体と、から成る集積導波管とを有する。第1信号線路と第2部分との接続点を、側壁導体間の幅の中点からずれた位置にすることで、この接続点から高周波回路チップ側を見たインピーダンスと集積導波管側を見たインピーダンスを等しくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板に高周波回路が形成された高周波回路チップを誘電体基板上に実装した電子装置に関する。特に、本発明は、伝送線路と、高周波回路チップとを、単一幅の集積導波管により広帯域でインピーダンス整合が可能なように接続した電子装置に関する。また、高周波回路チップの2本の平行な信号線の間隔が狭い場合にも、接続が可能な集積導波管を有した電子装置に関する。本発明は、これにより、電子装置の使用帯域を拡大する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体基板上に実装される高周波回路チップとマイクロストリップ線路である伝送線路とを接続する技術として、特許文献1、2、3に記載の技術が知られている。特許文献1の技術は、第1のマイクロストリップ線路と、第2のマイクロストリップ線路とを、3本のワイヤで、ボンディング接続する技術である。この技術では、第1のマイクロストリップ線路を、中心の信号線路と、誘電体基板の表面上であってその信号線路の両側に、誘電体基板裏面に形成された裏面接地導体と電気的に接続する表面接地導体とから成るコプレーナ線路に対して、ワイヤボンディングするものである。表面接地導体の長さを適正に設定することにより、第1のマイクロストリップ線路の接地導体と、第2のマイクロストリップ線路の接地導体とをインピーダンスに影響を与えることなく接続できるようにするものである。
【0003】
特許文献2の技術は、第1のマイクロストリップ線路と、第2のマイクロストリップ線路とを、3本のワイヤで、ボンディング接続するのに、それらの間に、変形したコプレーナ線路をを介在させるものである。すなわち、変形したコプレーナ線路は、中心の信号線路と、誘電体の裏面で信号線路の直下に当たる部分には接地導体がなく、信号線路の両側に当たる誘電体の裏面部分に、第1のマイクロストリップ線路の接地導体から延出された第1の接地導体とから成る第1のコプレーナ部と、信号線路と、誘電体表面上であって、その信号線の両側に形成された、裏面の第1の接地導体と接続された第2の接地導体とから成る第2のコプレーナ部とで構成されている。そして、第2のコプレーナ部の信号線路と、その両側に配置された第2の接地導体とを、第2のマイクロストリップ線路の信号線路と、誘電体裏面の接地導体とを3本のワイヤで接続するものである。
【0004】
特許文献3の技術は、第1のマイクロストリップ線路の信号線路と誘電体裏面の接地導体とを、それぞれ、第2のマイクロストリップ線路の信号線路と誘電体裏面の接地導体とに、3本のワイヤで、直接、接続する技術である。
【0005】
一方、特許文献4には、誘電体と、その上下両面に形成された導体と、その両導体とを信号の伝搬方向にとった2つの平行な線に沿って、多数のビアホールで接続することで、導波管を形成することが開示されている。この導波管は、集積導波管(Integrated-Waveguide,IWG)と呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−324934号公報
【特許文献2】特開2008−85796号公報
【特許文献3】特開2007−329192号公報
【特許文献4】特開平6−53711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の技術で、2つのマイクロストリップ線路を接続した場合には、マイクロストリップ線路も、コプレーナ線路も、励起される電磁界モードは、準TEMモードである。このため、線路インピーダンスは、周波数に対して不変となり、位相定数は、周波数に比例した特性となる。このため、インピーダンス整合をする帯域幅を、広くとることができないという問題があった。
【0008】
また、上記特許文献1〜3の方法では、ワンヤボンディングのためのワイヤがインダクタとして作用するために、各部の線路インピーダンスを、電子装置の特性インピーダンスにすることはできない。このため、インピーダンス整合をとるための管内波長λに対して、λ/4又はλ/2の線路長の回路部分が必要となる。
一方、特許文献4の集積導波管を用いる場合においても、電子装置の特性インピーダンスと等しい特性インピーダンスを有した集積導波管と、高周波回路チップとを接続する場合にも、インピーダンス整合のために、幅の異なる集積導波管を間に設けることが必要であった。
さらに、高周波回路チップが2本の平行な信号線路を有している場合、例えば、高周波回路チップが、入力2ポート、出力2ポートのスイッチ素子の場合に、それぞれの信号線路に対して、幅の広い集積導波管を接続するとすると、それらの信号線路の間隔を集積導波管の幅だけ広くする必要があった。実際上、高周波回路チップの信号線路の間隔を、このために、拡大することは困難である。
【0009】
また、近年、ノイズ耐性を向上させるためや、合成により信号電力を2倍とするために、高周波回路チップを差動回路とする要請がある。この場合に、2つの集積導波管と、この差動回路の2つの接近した信号線路とを接続するには、バランや、位相差をπとするためのマッチング線路を必要とする。しかしながら、各回路各導波管の幅のそれぞれの中点からマッチング線路を引き出すとすると、πの位相差を持たせるための線路長が必要以上に長くなる。バランを用いた場合には使用帯域が狭くなるという問題がある。
【0010】
本発明は上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、高周波回路チップと、伝送線路を接続するのに、広帯域に渡りインピーダンス整合する接続構造を実現することである。
また、高周波回路チップと伝送線路とをワイヤで接続するのに、特別なインピーダンス整合回路を介在させることなく、インピーダンス整合を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、半導体基板に高周波回路が形成された高周波回路チップを誘電体基板上に実装した電子装置において、高周波回路チップに対してワイヤボンディングされ、誘電体上に形成された第1信号線路と、誘電体上において第1信号線路の両側に形成され誘電体の裏面全体に形成された裏面接地導体と接続された表面導体の第1部分と、から成る第1コプレーナ部と、第1コプレーナ部の第1信号線路に接続され、信号の伝送方向に沿った2辺に沿って、裏面接地導体と電気的に接続する複数のビアホールから成る側壁導体と、第1信号線路と連続する表面導体の第2部分と、裏面接地導体と、から成る集積導波管と、を有し、第1コプレーナ部の第1信号線路と集積導波管の表面導体の第2部分との接続点を、側壁導体間の幅の中点からずれた位置にすることで、この接続点から高周波回路チップ側を見たインピーダンスと集積導波管側を見たインピーダンスとを整合させたことを特徴とする電子装置である。
【0012】
高周波回路チップは、受動素子で構成された回路や、受動素子、能動素子を有するIC、スイッチング素子などの他、単なる、信号線路であっても良い。伝送線路に接続される高周波回路チップにおける線路は、マイクロストリップ線路でも、コプレーナ線路でも良い。また、高周波回路チップに対して接続される伝送線路も、マイクロストリップ線路でも、コプレーナ線路でも良い。本発明は、高周波回路チップに対してワイヤボンディングされる第1コプレーナ部と、集積導波管を用いて、伝送線路と、高周波回路チップとを広帯域で、インピーダンス整合させたことが特徴である。集積導波管は、高域周波数から遮断周波数に近づくに連れて、一定ではなく、インピーダンスは増加し、位相定数は、周波数に比例する直線から離れて、小さくなる。そして、位相定数の減少率、インピーダンスの増加率が、遮断周波数に近い程、大きくなる。この結果として、インピーダンス整合する周波数範囲を拡大することができる。
【0013】
また、第1信号線路と集積導波管の表面導体の第2部分との接続点におけるインピーダンスは、その接続点が側壁導体間の幅(以下、誘電体基板の基板面に平行で、信号の伝送方向に垂直な幅を、「集積導波管幅」という)の中点に位置する場合に最大となり、その中点からからずれて、側壁導体に近づく位置になるに連れて、その接続点におけるインピーダンスは、低下する。このインピーダンスの値と、接続点の位置との関係により、接続点から両側を見たインピーダンスを等しくすることができる。例えば、高周波回路チップの特性インピーダンスが50Ω、集積導波管の特性インピーダンスが50Ω、集積導波管に接続される伝送線路の特性インピーダンスが50Ωであるとする。第1信号線路を集積導波管幅の中点に接続して、ワイヤで、高周波回路チップの信号線路と接続すると、ワイヤのインダクタンスやワイヤの浮遊容量により、接続点から高周波回路チップを見たインピーダンスは、35Ωに低下する。一方、その接続点から集積導波管を見たインピーダンスは、接続点が集積導波管幅の中点に位置するので、50Ωである。この結果、この接続点で、インピーダンス整合をとることができない。通常、このインピーダンス不整合を解消するには、集積導波管幅がより広い、したがって、インピーダンスが特性インピーダンスに対して小さい他の集積導波管を、第1信号線路と集積導波管との間に介在させる必要がある。しかし、本発明では、この接続点の位置を、集積導波管幅の中点からずらすことにより、集積導波管の特性インピーダンスを50Ωにしたままで、接続点から集積導波管側を見たインピーダンスを、35Ωにすることができる。この結果、接続点において、インピーダンス整合を実現することができる。
【0014】
第2の発明は、第1コプレーナ部と集積導波管との間には、中央部において第1信号線路が通過し、表面導体が信号の伝送方向に垂直な幅方向に欠落して誘電体の表面が露出した第1スロット部を有することを特徴とする。
【0015】
この構造は、第1の発明においては、必須ではない。第1スロット部を設けることなく、集積導波管の表面導体の第1部分と、第1信号線路とが、直接、接続されていても良い。第2の発明は、電磁界モードを変換する第1スロット部と、集積導波管とを用いて、伝送線路と高周波回路チップとを接続することが特徴である。第1スロット部の信号の伝搬方向に垂直な方向の幅は、任意である。第1コプレーナ部では、電磁界モードは、準TEMモード(TEMモードに近いモード)となり、集積導波管では、電磁界モードは、TE10モードとなる。そこで、第1スロット部において、集積導波管から第1スロット部に向けて信号が伝搬する場合には、電磁界モードは、TE10モードとからTEMモードに変換され、第1スロット部から集積導波管に向けて信号が伝搬する場合には、TEMモードからTE10モードに変換される。
【0016】
また、第3の発明は、集積導波管の表面導体の第2部分が、伝送線路の信号線路に接続されていることを特徴とする。この発明は、集積導波管の表面導体を直接、伝送線路の信号線路に接続したものである。
【0017】
また、第4の発明は、集積導波管の表面導体の第2部分と伝送線路の信号線路間を接続し、第2部分に連続した第2信号線路と、第2信号線路が、中央部において通過し、表面導体が信号の伝送方向に垂直な幅方向に欠落し、誘電体の表面が露出した第2スロット部と、誘電体上において第2信号線路の両側に形成され、裏面接地導体と接続された表面導体の第3部分とから成る第2コプレーナ部と、を有することを特徴とする。
【0018】
第1の発明においては、誘電体上には、集積導波管のみが配設されていて、伝送線路は、配設されていなくとも良い。すなわち、集積導波管が高周波回路チップに対する信号の伝送線路となる。また、誘電体上に、伝送線路を配設して、集積導波管の表面導体の第2部分が、直接、伝送線路の信号線路に接続されていても良い。すなわち、第1の発明においては、第2スロット部と第2コプレーナ部とを設けなくとも良い。第4の発明では、次のように、モード変換が行われる。この発明では、集積導波管と、伝送線路との間に、電磁界モードを変換する第2スロット部と、第2コプレーナ部とを設け、第2コプレーナ部の第2信号線路が伝送線路の信号線路に連続していることが特徴である。この発明では、第2スロット部において、第2スロット部から集積導波管に向けて信号が伝搬する場合には、TEMモードからTE10モードに変換され、集積導波管から第2スロット部に向けて信号が伝搬する場合には、電磁界モードは、TE10モードとからTEMモードに変換される。そして、第2スロット部は、第2コプレーナ部を介して伝送線路に接続される。信号線路がコプレーナ線路であれば、第2コプレーナ部に連続して信号線路が形成される。信号線路がマイクロストリップ線路であれば、第2コプレーナ部の第2信号線路がマイクロストリップ線路の信号線路に接続され、マイクロストリップ線路の裏面接地導体は、第2コプレーナ部の裏面接地導体に連続して形成される。
【0019】
第5の発明は、高周波回路チップの信号線路は平行に2本設けられ、それらの信号線路に接続される第1信号線路と集積導波管は、2つ設けられており、それぞれの第1信号線路とそれぞれの集積導波管の表面導体のそれぞれの第2部分との接続点の間隔は、集積導波管の側壁導体間の幅よりも狭いことを特徴とする。すなわち、本発明では、高周波回路チップの信号線路が、信号の入力に対して、又は、信号の出力に対して、平行に2本設けられていることが特徴である。例えば、高周波回路チップを2ポート入力、2ポート出力のスイッチ素子とした場合である。この場合に、第1信号線路と集積導波管との接続点を集積導波管幅の中点からずれた位置にするので、2本の第1信号線路の間隔を、集積導波管幅よりも狭くすることができる。したがって、間隔の狭い2本の平行な信号線路を有する高周波回路チップに対する伝送線路の接続が可能となる。
【0020】
伝送線路は、誘電体上に形成され、第2信号線路と連続する第3信号線路と、裏面接地導体とから成るマイクロストリップ線路で構成しても良い。また、伝送線路は、誘電体上に形成され、第2信号線路と連続する第3信号線路と、誘電体上において、第3信号線路の両側に形成された表面接地導体とから成るコプレーナ線路で構成しても良い。この表面接地導体の下方には、裏面接地導体が存在しても、存在しなくとも良い。また、裏面接地導体が存在する場合には、表面接地導体は、ビアホールなどで、裏面接地導体に接続されていることが望ましい。
【0021】
第6の発明は、第5の発明において、高周波回路チップは信号線路を2本有する差動回路であり、2つ設けられた第1信号線路の長さの差を、動作周波数の管内波長の1/2として、それぞれの第1信号線路と、それぞれの集積導波管のそれぞれの表面導体の第1部分との接続点において、第1信号線路を伝搬する2つの信号を同相としたことを特徴とする。この発明では、集積導波管と差動回路との接続が容易となる。
また、第7の発明は、第6の発明において、2つの集積導波管の第1信号線路が接続されている側とは反対側は、2つの集積導波管が一体となるように連結されていることを特徴とする。これにより、一つの集積導波管を伝搬する信号は、2分岐されて、位相差がπの2つの信号となって、差動回路である高周波回路に入力する。逆に、高周波回路から出力される差動信号は、位相差が零となって2つの集積導波管に出力される。そして、その集積導波管で合成されて、単一の集積導波管を伝搬する。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、高周波回路チップと伝送線路との接続に際して、集積導波管を用いたので、広帯域において、インピーダンス整合を図ることができる。したがって、集積導波管を用いないで、伝送線路と高周波回路チップとを接続した場合に比べて、使用できる周波数帯域が広くなる。集積導波管は、高域周波数から遮断周波数に近づくに連れて、一定ではなく、インピーダンスは増加し、位相定数は、周波数に比例する直線から離れて、小さくなる。そして、位相定数の減少率、インピーダンスの増加率が、遮断周波数に近い程、大きくなる。この結果として、インピーダンス整合する周波数範囲を拡大することができる。
【0023】
また、集積導波管の信号の伝送方向に垂直な断面における電界分布と磁界分布とを考えると、TE10の基本モードにおいては、電界成分は、集積導波管の厚さ方向の成分だけを有し、電界分布は集積導波管幅の中点で最大となり、側壁導体に向かうに連れて減少する。一方、磁界成分は、信号の伝搬する方向の成分と、集積導波管幅方向の成分とを有し、厚さ方向の成分は有しない。磁界の集積導波管の幅方向の成分の磁界分布は、集積導波管幅の中点で最大となり、側壁導体に向かうにつれて小さくなる。後述するように、これらの電界成分の厚さ方向の積分による電位差と、磁界成分の幅方向への積分による電流との比率で決定される集積導波管の特性インピーダンスは、集積導波管幅の中点で最大となり、側壁導体に向かうに連れて小さくなる。この特性インピーダンスの値と、接続点の位置との関係により、接続点から両側を見たインピーダンスを等しくすることができる。また、これらの構造を採用することで、差動回路の高周波回路と、2つの集積導波管との接続が簡単となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の具体的な一実施例に係る電子装置1000の構成を示す断面図。
【図2】同実施例に係る電子装置1000の平面図。
【図3】同実施例に係る電子装置1000の、ワイヤボンディング30Lの近傍の構成を示す詳細図。
【図4】集積導波管と高周波回路チップとを接続する場合の各点におけるインピーダンスの関係を説明するための説明図。
【図5】図4の各点におけるインピーダンスの変化を示すスミスチャート。
【図6】集積導波管の信号の伝送方向に垂直な断面図。
【図7】本発明の他の実施例2に係る電子装置2000の平面図。
【図8】本発明の他の実施例3に係る電子装置3000の平面図。
【図9】本発明の他の実施例4に係る電子装置4000の平面図。
【図10】本発明の他の実施例5に係る電子装置5000の平面図。
【図11】本発明の他の実施例5に係る電子装置5000の伝送損失と反射損失を示した特性図。
【図12】本発明の他の実施例5に係る電子装置5000のポート間の漏れ損失を示した特性図。
【図13】本発明の他の実施例6に係る電子装置6000の平面図。
【図14】本発明の他の実施例7に係る電子装置7000の平面図。
【図15】本発明の実施例7に係る電子装置7000の高周波回路チップの信号線路のワイヤボンディング部と集積導波管のポート1間の伝送特性のシミュレーション結果を示す特性図。
【図16】本発明の実施例7に係る電子装置7000の高周波回路チップのワイヤボンディング部における反射減衰量S(2,2)と、集積導波管のポート1間における反射減衰量S(1,1)のシミュレーション結果を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例には限定されない。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明の具体的な一実施例に係る電子装置1000の構成を示す断面図である。図1の電子装置1000は、誘電体基板20の上に、高周波回路チップ100が設置されている。高周波回路チップ100の構成は以下の通りである。シリコン基板10の表面に、金等の金属から成るグランド層15を形成し、その上にSiO2層16を形成し、その上にマイクロストリップ導体17を形成している。SiO2層16を介してマイクロストリップ導体17とグランド層15とでマイクロストリップ線路が構成される。尚、マイクロストリップ導体17の信号伝搬方向である長手方向を−x軸、信号伝搬方向に垂直な方向であって誘電体基板20の基板面に平行な向きで、紙面に垂直手前向きをy軸、シリコン基板10の厚さ方向の上方向をz軸とする。本実施例では、簡単化するため、高周波回路チップ100は、単に、マイクロストリップ線路で構成しているが、高周波集積回路がシリコン基板10に形成されており、その集積回路とマイクロストリップ線路(信号線路)とが接続されている。本実施例の電子装置は、図1の左端のPort1 から信号を入力して、右端のPort2 から信号を出力する装置である。また、シリコン基板10の裏面には、裏面接地導体26Cが形成されている。
【0027】
上記の誘電体基板20の上には、高周波回路チップ100に対して、入力側、出力側に、それぞれ、その高周波回路チップ100と同一高さである誘電体2L、2Rが設けられている。この誘電体2L、2Rの裏面には、それぞれ、裏面接地導体26L、26Rが形成されている。誘電体基板20の上面には、銅製の接地導体21が形成されており、この接地導体21に、誘電体2L、2Rの裏面接地導体26L、26Rと、シリコン基板10の接地導体26Cが接合されている。
【0028】
図2は、電子装置1000の平面図である。誘電体2L、2Rとは、同一構造であるので、誘電体2Lについてのみ説明する。誘電体2Lの上面には、表面導体50Lが形成されている。表面導体50Lは、高周波回路チップ100に近い側から、信号の伝搬方向に伸びた第1信号線路61Lと、表面導体の第1部分51Lと、中央の表面導体の第2部分52Lと、表面導体の第2部分52Lのy軸方向の中点において、信号を入力する伝送線路の信号線路63Lとで構成されている。
【0029】
図2において、誘電体2Lを、x軸方向に、図示されたA、B、C、Fの領域に分ける。領域Aは第1コプレーナ部、領域Bは分離部、領域Cは集積導波管、領域Fは伝送線路である。
【0030】
第1コプレーナ部Aは、第1信号線路61Lと、その両側に設けられた表面導体の第1部分51Lとで構成されている。表面導体の第1部分51Lは、多数のビア71Lにより、裏面接地導体26Lと電気的に接続されている。第1信号線路61Lは、表面導体50Lの第2部分52Lのy軸方向の幅(集積導波管幅)の中点からずれた位置、幅の3/4の位置において、第2部分52Lと接続されている。2つの第1部分51Lは、y軸方向の幅が異なり、2つの第1部分51Lの全体の幅は、第2部分52Lのy軸方向の幅に等しい。2つの第1部分51Lの幅は、異なるように構成しているが、同じ幅であっても良い。また、2つの第1部分51Lの全幅を決定するx軸方向に平行な2辺は、第2部分52Lの幅を決定するx軸方向に平行な2辺の線上になくとも良い。
【0031】
分離部Bは、中央を通過している第1信号線路61Lを除いて、表面導体が、信号の伝搬方向に垂直な方向において、表面導体の全幅において、欠落した部分である。集積導波管Cは、表面導体の第2部分52Lと、その第2部分52Lと対応した裏面接地導体26Lの部分と、その第2部分52Lと裏面接地導体26Lとを電気的に接続する多数のビア72Lとから構成されている。多数のビア72Lは、信号の伝搬方向に沿った集積導波管幅である間隔Wの2本の線上に配設されており、集積導波管Cの側壁導体を構成する。
【0032】
図1において、高周波回路チップ100のグランド層15の両端が破線で示されているのは次のような事情を示すものである。即ち、この例では、高周波回路チップ100のマイクロストリップ導体17とワイヤ30L及び30Rとの接続部の直下にはグランド層15は存在しないが、その存在しない領域を挟むようにグランド層15が形成されている。
【0033】
図3は、ワイヤ30Lのボンディング近傍の構成を示す詳細図である。図3は高周波回路チップ100の各層の形状を示すために分解して示されている。図3.Aに示すように、シリコン基板10があり、シリコン基板10の上部に、図3.Bに示すような形状にAuから成るグランド層15が形成されている。本実施例では、グランド層15は、後述のマイクロストリップ導体17のワイヤボンディング部17BPの直下に当たる領域BPをやや広げた領域と、高周波回路チップ100の誘電体2Lと対向する外周辺に接する領域には形成されていない。次に、図3.Cのように、グランド層15の2箇所のワイヤボンディング領域を露出させるような孔部を有したSiO2から成る絶縁層16が形成されている。更に、図3.Dのように、絶縁層16の上にマイクロストリップ導体17と、その端点にワイヤボンディング部17BPがAuにより形成されるている。絶縁層16を挟んだマイクロストリップ導体17とグランド層15によりマイクロストリップ伝送線路が形成される。尚、チップグランド層の一部分は、メッキが施されて、マイクロストリップ導体17の表面と同じ高さに揃えたパッド18が形成されている。
【0034】
こうして、図3.Eに示すように、誘電体2Lと、高周波回路チップ100とを、3つのワイヤ30L、30Lg1及び30Lg2により接続する。ワイヤ30Lは、誘電体2Lの第1信号線路61Lと、チップ側のマイクロストリップ導体17の左端に設けられたワイヤボンディング部17BPを接続する。ワイヤ30Lg1と30Lg2は、第1信号線路61Lの両側に存在する誘電体2Lの表面導体の第1部分51Lと、チップ側のグランド層15の2箇所のパッド18とを接続する。
【0035】
次に、第1信号線路61Lと、表面導体50Lの第2部分52Lとの接続位置と、集積導波管Cの特性インピーダンスとの関係について説明する。まず、第1信号線路61Lを集積導波管幅の中点に接続した場合について説明する。図4に示すように、高周波回路チップ100のワイヤボンディング部17BP及び2つのパッド18と、ワイヤ30L及び2本のワイヤ30Lg1、30Lg2との接続点Pから高周波回路側を見たインピーダンスZp は、特性インピーダンスZ0 の50Ωである。第1信号線路61L及び表面導体50Lの2つの第1部分51Lと、ワイヤ30L及び2本のワイヤ30Lg1、30Lg2との接続点Qから高周波回路チップ100側を見たインピーダンスZQ は、ワイヤ30L、30Lg1、30Lg2の分布抵抗、分布インダクタンス及び分布容量と線路長によって決定されるインピーダンスの影響を受けて、特性インピーダンスZ0 からずれる。すなわち、図5(a)に示すように、接続点Qから高周波回路チップ100側を見たインピーダンスZQ は、原点の特性インピーダンスZ0 に対して、インダクタンス成分だけ、比抵抗1の円を右回転して、ワイヤの抵抗成分だけ抵抗値を増加させる方向に移動させた値となる。この結果、接続点Qから高周波回路チップ100側を見たインピーダンスZQ は、抵抗成分が50Ωよりも大きくなり、リアクタンス成分を有するようになる。
【0036】
第1信号線路61Lと表面導体50Lの第2部分52Lとの接続点Rから高周波回路チップ100を見たインピーダンスZR は、次のようになる。接続点QのインピーダンスZQ は、特性インピーダンスZ0 (50Ω)の第1コプレーナ部A、分離部Bによる伝送路の線路長を適正に設定することにより、インピーダンス変換されて、インピーダンスZR となる。線路長だけで、インピーダンスZR を純抵抗にすることができるが、線路長だけで、50Ωの特性インピーダンスZ0 にすることは困難である。したがって、図5(b)に示すように、第1コプレーナ部A、分離部Bによる伝送路の線路長を適正に設定して、特性インピーダンスZ0 よりも低い純抵抗の35Ωとすることができる。しかし、接続点Rから集積導波管C側を見たインピーダンスZR ’は、50Ωの特性インピーダンスZ0 であるので、接続点Rでは、インピーダンス整合は実現されない。
【0037】
次に、第1信号線路61Lと集積導波管Cとの接続点を、集積導波管幅の中点に位置させない場合について説明する。図6に示すように、集積導波管Cの信号の伝送方向に垂直な断面において、集積導波管幅Wに対して、高さをhとする。集積導波管Cにおける基本モードは、TE10モードであるので、この基本モードについて考える。集積導波管断面における電界は、高さ方向(z軸方向)の成分のみとなる。これをEとする。
【0038】
【数1】

となる。z軸方向については、電界成分は一定である。
また、磁界は、y成分とx成分とを有する。ポインティングベクトルに関与する成分は、y成分であるので、y成分のみ考える。y成分磁界をHとおく。
【数2】

となる。z軸方向については、y成分磁界は一定である。
【0039】
ポインティングベクトルを形成する電界Eと磁界Hとの比により、電磁界インピーダンスZF が決定される。
【数3】

【0040】
一方、図6の集積導波管の断面において上下の導体壁面間の電位差Vを考える。
電位差Vは、次式で表される。
【数4】

一方、上下何れかの導体壁面上のx軸方向(電波の進行方向)の電流密度は、Hであるから、x方向の電流Iは、次式で表現される。
【数5】

【0041】
上記で求められたVとIから得られる比V/Iを、集積導波管の特性インピーダンスZc とする。
【数6】

【0042】
すなわち、集積導波管の特性インピーダンスZc は、集積導波管の幅(y軸方向)の関数となる。集積導波管幅の中点(y=0)において、特性インピーダンスZc は、最大値のZF ・(π/2)・(h/W)となり、側壁導体の位置(y=±W/2)で、最小値の0となる。
【0043】
このようにして、集積導波管Cの特性インピーダンスは、その幅方向の位置によって変化することになるので、第1信号線路61Lと表面導体50Lの第2部分52Lとの接続点Rの幅方向の位置によって、接続点Rから伝送線路F側を見たインピーダンスを変化させることができる。特性インピーダンス最大値Zc の最大値ZF ・(π/2)・(h/W)を、伝送線路の特性インピーダンスZ0 の50Ωに、集積導波管Cの幅W、高さhを設定することができる。その結果、接続点Rから伝送線路F側を見たインピーダンスを35Ωにするには、次式を満たす位置に、第1信号線路61Lを第2部分52Lに接続すれば良い。
【数7】

すなわち、y=W/4の位置、集積導波管幅Wの3/4の位置に、第1信号線路61Lと第2部分52Lとの接続点Rを設けることで、この接続点Rから両側を見たインピーダンスは、35Ωとなり、この接続点Rでインピーダンス整合を図ることができる。
【0044】
一方、伝送線路Fと集積導波管Cとの接続点Sの幅方向の位置は、集積導波管幅Wの中点であるので、この接続点Sの両側を見たインピーダンスは、50Ωの特性インピーダンスZ0である。
以上のようにして、本発明では、集積導波管Cと第1信号線路61Lの集積導波管幅方向の位置を変化させることで、各接続点P、Q、R、Sにおいて、インピーダンス整合をとることができる。もしも、集積導波管Cの第1信号線路61Lと第2部分52Lとの接続点を集積導波管幅の中点にした場合には、インピーダンス整合をするために、別の集積導波管を設ける必要がある。すなわち、集積導波管Cよりも特性インピーダンスが小さい、したがって、集積導波管幅のより広い第2の集積導波管を集積導波管Cと第1信号線路61Lとの間に設ける必要がある。このため、高周波回路チップの信号線路が平行に2本設けられる場合には、この線路間隔を幅の広い集積導波管幅にする必要があった。しかし、本発明では、幅の狭い集積導波管だけを用いて、インピーダンス整合させることが可能となる。
【実施例2】
【0045】
図7は、本発明の他の実施例に係る電子装置2000の構成を示す平面図である。実施例1と同一機能部分については、同一符号が付されている。実施例1と異なる点は、第1コプレーナ部Aと集積導波管Cとの間の分離部Bを、第1スロット部B1としたことである。第1スロット部B1は、表面導体の第1部分51Lと第2部分52Lとが、周辺で接続された周辺導体部54Lが形成されている。この第1スロット部B1の信号の伝搬方向に垂直な幅は、任意であり、集積導波管Cの幅Wと同一にする必要はない。しかし、同一であっても良い。第1スロット部B1は、電磁界励振モードをTE10モードからTEMモードに変換するものである。各接続点でのインピーダンスについては、実施例1と同一である。
【実施例3】
【0046】
図8は、本発明の他の実施例に係る電子装置3000の構成を示す平面図である。実 施例1、2と同一機能部分については、同一符号が付されている。誘電体2Lの上面には、表面導体50Lが形成されている。表面導体50Lは、高周波回路チップ100に近い側から、y軸方向の中央部において信号の伝搬方向に伸びた第1信号線路61L、表面導体の第1部分51Lと、中央の表面導体の第2部分52Lと、表面導体の第3部分55Lと、y軸方向の中央部において、信号を入力する第2信号線路62Lとで構成されている。
【0047】
図8において、誘電体2Lを、x軸方向に、図示されたA、B1、C、D、G、Fの領域に分ける。領域Aは第1コプレーナ部、領域B1は第1スロット部、領域Cは集積導波管、領域Dは第2スロット部、領域Gは第2コプレーナ部、領域Fは伝送線路である。
実施例2と異なる点は、次の点である。第1スロット部B1は、信号の進行方向に垂直な幅の両端で、表面導体の第1部分51Lと第2部分52Lとを接続する周辺導体部57Lを有している。そして、両側にある2つの第1スロット部B1の全幅は、集積導波管Cの幅Wと同一である。この点が実施例2と異なる点の一つである。また、集積導波管Cと伝送線路Fとの間に、第2スロット部Dと、第2コプレーナ部Gとを設けたことが異なる。第2スロット部Dは、第1スロット部B1と対称に設けられている。すなわち、第2スロット部Dは、中央を通過している第2信号線路62Lを除いて、表面導体が、信号の伝搬方向に垂直な方向において幅Wで欠落した部分である。第2スロット部Dは、集積導波管Cの表面導体50Lの第2部分52Lと、第2コプレーナ部Gの表面導体の第3部分55Lとを接続する周辺導体部58Lが形成されている。そして、第2スロット部Dの幅は、集積導波管Cの幅Wと同一である。すなわち、信号の伝搬方向の両側にあるスロット部の全幅Wは、集積導波管の遮断周波数に対応する自由空間波長の1/2である。
【0048】
第2コプレーナ部Gは、第2信号線路62Lと、その両側に設けられた表面導体の第3部分55Lとで構成されている。表面導体の第3部分55Lは、多数のビア73Lにより、裏面接地導体26Lと電気的に接続されている。また、第2スロット部Dと第2コプレーナ部Gの幅方向(y軸方向)の中点部をx軸方向に貫通して、集積導波管Cの表面導体の第2部分52Lに接続された第2信号線路62Lが設けられている。この第2信号線路62Lは、伝送線路Fの信号線路63Lに接続されている。この第2スロット部Dの信号の伝搬方向に垂直な幅は、任意であり、集積導波管Cの幅Wと同一にする必要はない。しかし、同一であっても良い。第2スロット部Dは、電磁界励振モードをTEMモードからTE10モードに変換するものである。
【0049】
第2スロット部Dの作用は、電磁界励振モードをTEMモードからTE10モードに変換するものであり、第1スロット部B1は、電磁界励振モードをTE10モードからTEMモードに変換するものである。マイクロストリップ線路で構成された伝送線路Fでは、信号線路63Lから裏面接地導体26Lに向かう電界が生成され、第2コプレーナ部Gでは、表面導体の第3部分55Lはアース電位となり、集積導波管Cの表面導体の第2部分52Lもアース電位であるので、第2スロット部Dでは、電界は、誘電体2Lの表面に平行に、信号の伝搬方向に励起される。このTEMモードが、集積導波管Cにおいて、信号の伝搬方向に垂直で、誘電体2Lの厚さ方向に、電界が励起されるTE10モードに変換される。集積導波管Cと第1スロット部B1との関係も、これと同様である。このようにして、モード変換が円滑に実行される。
【実施例4】
【0050】
図9は、本実施例に係る電子装置4000の構成を示した平面図である。本実施例は、実施例3と異なり、第2スロット部Dと、第2コプレーナ部Gを設けずに、集積導波管Cの表面導体の第2部分52Lを伝送線路Fの信号線路63Lに、直接、接続したことが特徴である。このようにして、マイクロストリップ線路である伝送線路Fの信号線路63Lと裏面接地導体26L間において、厚さ方向(z軸)に誘起される電界モード、そのまま、集積導波管Cに導入することも可能である。
【実施例5】
【0051】
図10は、本実施例に係る電子装置5000の構成を示した平面図である。本実施例は、実施例1の電子装置1000を信号の伝搬方向のx軸について線対称に、2つ平行に誘電体基板20上に設けたことが特徴である。第1系統においては、実施例1と同一構成であり、実施例1の構成部分と対応する本実施例の構成部分は、実施例1と下2桁の数字を同一にして、百番台の数字が付されている。また、第2系統においては、実施例1の構成部分と対応する本実施例の構成部分は、実施例1と下2桁の数字を同一にして、二百番台の数字が付されている。
【0052】
第1系統の第1信号線路161Lと表面導体150Lの第1部分152Lとの接続点Uの幅方向の位置は、集積導波管幅Wの外側の側壁導体172Lから3W/4の位置であり、第2系統の第1信号線路261Lと表面導体250Lの第1部分252Lとの接続点Vの幅方向の位置は、集積導波管幅Wの外側の側壁導体272Lから3W/4の位置である。したがって、第1信号線路161Lと第1信号線路216Lとの間隔は、第1系統の集積導波管の幅の中点と、第2系統の集積導波管の幅の中点間の距離よりも、小さい。第1系統と第2系統とを接近して設けることにより、第1信号線路161Lと第1信号線路216Lとの間隔は、集積導波管幅Wよりも狭く、W/2以上とすることができる。第1系統の集積導波管の内側の側壁導体と、第2系統の集積導波管の内側の側壁導体とを共通化することにより、第1信号線路161Lと第1信号線路216Lとの間隔は、この例の場合では、W/2とすることができる。これにより、第1信号線路116Lと216Lを集積導波管幅の中点に設けた場合に比べて、第1系統の高周波集積回路チップ101の信号線路と、第2系統の高周波集積回路チップ102の信号線路との間隔を狭くすることができる。
【0053】
上記実施例の場合、特性インピーダンス50Ωの集積導波管の幅は、1.61mmである。これに対して、特性インピーダンス35Ωの集積導波管の幅は、2.43mmである。もしも、集積導波管Cの第1信号線路61Lと第2部分52Lとの接続点を集積導波管幅の中点にした場合には、インピーダンス整合をするために、特性インピーダンス35Ωの別の集積導波管を設ける必要がある。すなわち、集積導波管Cよりも特性インピーダンスが小さい、したがって、集積導波管幅のより広い第2の集積導波管を集積導波管Cと第1信号線路61Lとの間に設ける必要がある。このため、高周波回路チップの信号線路が平行に2本設けられる場合には、この線路間隔は、上記の特性インピーダンス35Ωの集積導波管の幅2.43mmよりも狭くはできないことになる。本発明では、幅が1.61mmの集積導波管を用いることができ、しかも、第1信号線路161L、261Lは、各集積導波管の幅の中点にはなく、相互に間隔を狭くする方向に配置されている。したがって、本発明によると、第1信号線路161L、261Lの間隔は、1.61mm以下、0.81mm以上の幅とすることが可能となる。
【0054】
この実施例5の電子装置において、Port1 、Port2での反射特性を図11のS11、S22として示す。また、Port1 からPort2への伝送特性を、図11のS21で示す。 図4から明らかなように、本発明の電子装置5000の損失は、62GHz〜84GHzの22GHzの範囲において、3dB以下である。反射特性を見ても、本発明の電子装置5000の反射損失は、62GHz〜84GHzの22GHzの範囲において、7dB以上となっており、すぐれた特性を示していることが理解される。
【0055】
また、この実施例5の電子装置5000において、Port3 からPort1 への漏れ損失特性を図12のS31で、Port4からPort1 への漏れ損失特性を図12のS41示す。何れも、30dB以上の減衰があることが理解される。
【0056】
2系統設ける図10に示す実施例5の構成は、上記の全実施例1〜4の全ての構成野電子装置にも適用できるものである。
【実施例6】
【0057】
次に、高周波回路チップを差動回路とした実施例について説明する。図13にその電子装置6000を示す。実施例1〜5と対応する部分には、同一の符号を付した。高周波回路チップ102は、図1、図3に示す高周波回路チップ100に対して、SiO2層16上に2つのマイクロストリップ導体17が、微小間隔を設けて配設されている点のみが異なる。すなわち、高周波回路チップ102は、グランド層15を共通とし、信号線路が2本、平行に設けられたマイクロストリップ線路と、これに接続される差動回路(図示略)で構成されている。実施例5の電子装置と異なり、本電子装置6000では、2つの系統の集積導波管の表面導体の第2部分152Lと第2部分252Lとは、中央部で連続している。また、実施例2〜4と同様に、表面導体の第1部分151L、252Lと、第2部分152L、252Lとが、周辺で接続された周辺導体部154L、254Lを有している。そして、第1コプレーナ部Aと集積導波管Cとの間の分離部Bを、第1スロット部B1としている。また、第1系統の第1信号線路181Lと、第2系統の第1信号線路281Lの長さの差は、動作周波数の管内波長の1/2としている。すなわち、第2系統の第1信号線路281Lの長さは、第1系統の第1信号線路181Lの長さよりも、λ/2だけ長くし、第2系統の第1信号線路281Lを伝送する信号は、第1系統の第1信号線路181Lを伝送する信号よりも、πだけ位相変化量が多くなる。高周波回路チップ102のワイヤボンディング部117BPとワイヤ130Lとの接続点J、ワイヤボンディング部217BPとワイヤ230Lとの接続点Kにおける2つの信号の位相差はπである。また、第1系統の第1信号線路181Lと表面導体150Lの第1部分152Lとの接続点Uと、第2系統の第1信号線路281Lと表面導体250Lの第1部分252Lとの接続点Vとにおける、それぞれの信号の位相差はπである。この条件を満たすように、第1系統の第1信号線路181LUと、第2系統の第1信号線路281Lの長さが決定されていく。
【実施例7】
【0058】
本実施例の電子装置は、実施例6の電子装置において、2つの系統の集積導波管Cを高周波回路チップと接続される側とは反対側において、一つのポートに合成したものである。その構成を図14に示す。この電子装置の伝送特性と反射特性のシミュレーション結果を、それぞれ、図15、図16に示す。動作周波数77GHzにおいて、3dBの伝送損失、15dB以上の反射損失が得られていることが理解される。
【0059】
なお、実施例6、7において、実施例1と同様に、周辺導体部154L、254Lを設けることなく、分離部Bとしても良い。また、第3実施例と同様に、伝送線路Fに接続される回路部分に、第2コプレーナ部G、第2スロット部Dを設けても良い。すなわち、図8における中央を通過している第2信号線路62Lを除いて、表面導体が、信号の伝搬方向に垂直な方向において幅Wで欠落した第2スロット部Dを設けても良い。第2スロット部は、集積導波管Cの表面導体50Lの第2部分52Lと、第2コプレーナ部Gの表面導体の第3部分55Lとを接続する周辺導体部58Lを有している。また、図8に示すように、第2信号線路62Lと、その両側に設けられた表面導体の第3部分55Lとで構成された第2コプレーナ部Gを設けても良い。また、周辺導体部58Lはなくとも良い。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、高周波回路チップと伝送路の接続に用いることができる。
【符号の説明】
【0061】
1000,2000,3000,4000,5000,6000,7000:電子装置
100,101,102:高周波回路チップ
10:シリコン基板
15:グランド層
16:絶縁層
17:マイクロストリップ導体
20:誘電体基板
2L、2R:誘電体
26L、26R:裏面接地導体
50L、50R:表面導体
51L、51R、151L、151R、251L、251R:表面導体の第1部分
52L、52R、152L、152R、252L、252R:表面導体の第2部分
54L、54R、154L、254L:周辺導体部
55L、55R:表面導体の第3部分
A:第1コプレーナ部
B:分離部
B1:第1スロット部
C:集積導波管
D:第2スロット部
G;第2コプレーナ部
F:伝送線路
61L、61R、161L、161R、261L、261R、181L、181R、281L、281R:第1信号線路
62L、62R、:第2信号線路
63L、63R、163L、163R、263L、263R:信号線路
71L、71R、72L、72R、73L、73R:ビア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板に高周波回路が形成された高周波回路チップを誘電体基板上に実装した電子装置において、
前記高周波回路チップに対してワイヤボンディングされ、誘電体上に形成された第1信号線路と、前記誘電体上において前記第1信号線路の両側に形成され誘電体の裏面全体に形成された裏面接地導体と接続された表面導体の第1部分と、から成る第1コプレーナ部と、
前記第1コプレーナ部の前記第1信号線路に接続され、信号の伝送方向に沿った2辺に沿って、前記裏面接地導体と電気的に接続する複数のビアホールから成る側壁導体と、前記第1信号線路と連続する前記表面導体の第2部分と、前記裏面接地導体と、から成る集積導波管と、
を有し、
前記第1コプレーナ部の前記第1信号線路と前記集積導波管の前記表面導体の前記第2部分との接続点を、前記側壁導体間の幅の中点からずれた位置にすることで、この接続点から前記高周波回路チップ側を見たインピーダンスと前記集積導波管側を見たインピーダンスとを整合させたことを特徴とする電子装置。
【請求項2】
前記第1コプレーナ部と前記集積導波管との間には、中央部において前記第1信号線路が通過し、前記表面導体が信号の伝送方向に垂直な幅方向に欠落して前記誘電体の表面が露出した第1スロット部を有することを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記集積導波管の前記表面導体の前記第2部分が、伝送線路の信号線路に接続されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記集積導波管の前記表面導体の前記第2部分と前記伝送線路の前記信号線路間を接続し、前記第2部分に連続した第2信号線路と、
前記第2信号線路が、中央部において通過し、前記表面導体が信号の伝送方向に垂直な幅方向に欠落し、前記誘電体の表面が露出した第2スロット部と、
前記誘電体上において前記第2信号線路の両側に形成され、前記裏面接地導体と接続された前記表面導体の第3部分とから成る第2コプレーナ部と、
を有することを特徴とする請求項3に記載の電子装置。
【請求項5】
前記高周波回路チップの信号線路は平行に2本設けられ、それらの信号線路に接続される前記第1信号線路と前記集積導波管は、2つ設けられており、それぞれの前記第1信号線路とそれぞれの前記集積導波管の前記表面導体のそれぞれの前記第2部分との接続点の間隔は、前記集積導波管の前記側壁導体間の幅よりも狭いことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の電子装置。
【請求項6】
前記高周波回路チップは信号線路を2本有する差動回路であり、2つ設けられた前記第1信号線路の長さの差を、動作周波数の管内波長の1/2として、それぞれの第1信号線路と、それぞれの前記集積導波管のそれぞれの前記表面導体の前記第1部分との接続点において、前記第1信号線路を伝搬する2つの信号を同相としたことを特徴とする請求項5に記載の電子装置。
【請求項7】
2つの前記集積導波管の前記第1信号線路が接続されている側とは反対側は、2つの集積導波管が一体となるように連結されていることを特徴とする請求項6に記載の電子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−24198(P2011−24198A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136946(P2010−136946)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】