説明

高周波装置

【課題】本発明の目的は、伝送線路のインピーダンスの不連続によって生ずる放射損失が抑えられ、寄生成分が小さく且つ位相の進行による損失の少ない、高周波信号を伝送する高周波装置を提供することである。
【解決手段】第1の基板(501)と第2の基板(511)との間の空隙を充填する非導電性フィル上部(527)に、印刷・あるいは蒸着法を以ってμmオーダーで精度よく第1のコプレーナ型伝送線路(503)と第2のコプレーナ型伝送線路(513)との信号パターン、及びグラウンドパターンをそれぞれ接続させる。これによって、前記非導電性フィル(527)上部に第3のコプレーナ型伝送線路(523)が形成されて接続部(541)を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波装置に関し、特に複数の基板上にそれぞれ構成されたコプレーナ型伝送線路を互いに接続することによって構成される高周波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信用周波数資源の枯渇のため、又はレーダー、イメージング用途に向け、ミリ波(30〜300GHz)にいたる超高周波を使用する要求が高まっている。この周波数においては、基板間接続部に生ずるわずかな寄生インダクタンス、寄生容量、接続部での位相の進行による損失、又はインピーダンスの不連続による放射損失が最終的な特性に大きな影響を与える。
【0003】
そのため、従来の伝送線路を持つ基板間接続の実装技術としては、極力基板間接続部を短くできるフリップチップによる接続が主流となっている(特許文献1を参照)。
【0004】
以下、特許文献1に係る従来技術について、図を参照しながら説明する。
【0005】
図1は、高周波信号を伝送する信号パターン(131)とその両側に所定の間隔を持って設けられたグラウンドパターン(133)とを備えるコプレーナ型伝送線路(103、113)のフリップチップによる基板間接続方式の上面図である。図2は、図1のb−b'線における断面図である。
【0006】
この基板間接続方式は、第1の基板(101)と、第1の基板の主面上に構成された第1のコプレーナ型伝送線路(103)と、バンプ(121)と、第2の基板(111)と、バンプによって第1のコプレーナ型伝送線路とフリップチップ接続し信号伝播方向は第1のコプレーナ型伝送線路と同一の、第2の基板の主面上に構成された第2のコプレーナ型伝送線路(113)とから構成されている。
【0007】
第1の基板(101)上の第1のコプレーナ型伝送線路(103)は、バンプ(121)を介して第2の基板(111)上の第2のコプレーナ型伝送線路(113)にフェースダウンで実装、及び接続されている。ここで、フェースダウンとは、図2に示すように、第1のコプレーナ型伝送線路(103)が設けられている第1の基板(101)の主面を下側にして、第2のコプレーナ型伝送線路(113)が設けられている第2の基板(111)の主面と対向するように接続することをいう。
【0008】
なお、特許文献1に係る従来技術において、基板は、プリント基板を想定しているが、半導体基板、リードフレーム等であってもよい。
【0009】
他の従来の、伝送線路を持つ基板間接続の実装技術の方式としては、高誘電率を持った接着剤により、基板間接続部を被覆することによって、基板間接続部のインピーダンスを制御する方法が知られている(特許文献2を参照)。
【0010】
特許文献2に係る従来技術について、図を参照しながら説明する。
【0011】
図3は、高誘電率を持った接着剤を用いて接続部を被覆することにより接続部のインピーダンスを制御する方法に係るコプレーナ型伝送線路の基板間接続方式の上面図である。図4は、図3のb−b'線における断面図である。
【0012】
この基板間接続方式は、第1の基板(301)と、第1の基板の主面上に構成された第1のコプレーナ型伝送線路(303)と、接着剤によって被覆されたボンディングワイヤ(323)と、第2の基板(311)と、接着剤によって被覆されたボンディングワイヤによって第1のコプレーナ型伝送線路とフェースアップで実装及び接続され信号伝播方向は第1のコプレーナ型伝送線路と同一の、第2の基板の主面上に構成された第2のコプレーナ型伝送線路(313)とから構成されている。ボンディングワイヤ(323)は、ボンディングリボンであってもよい。また、フェースアップとは、図4に示すように、基板の主面を上側にして回路面が構成されることをいう。
【0013】
第1の基板と第2の基板との間には空隙(325)が存在する。この空隙を誘電率が1以上の接着剤(327)により充填する。これにより、第1のコプレーナ型伝送線路(303)の一部、第2のコプレーナ型伝送線路(313)の一部、及びボンディングワイヤ(323)から構成される、伝送線路接続部(341)の導体をまとめて被覆している。
【0014】
なお、特許文献2に係る従来技術において、コプレーナ伝送線路は、裏面に導体箔を形成した板状誘電体基板の表面に線状の導体箔を形成した構造を持つ、マイクロストリップ型伝送線路であってもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平07−074285号公報
【特許文献2】特開平10−256801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、従来のフリップチップ実装においては、インダクタンスを減らすためにバンプ形状を短くすると、高周波回路基板表面に形成された伝送線路と対向する基板との間に浮遊容量が増大する。即ち、対向する誘電体基板の影響が生ずるため、これが設計ズレの一因となっている。
【0017】
また、上述のフリップチップ実装のバンプを短くする方法ではインダクタンスを少なくすることはできるが、ある特性インピーダンスを持つ伝送線路からバンプへ信号が伝わる際に生ずるインピーダンスの不連続によって生ずる放射損失を解消することはできないため、高周波での損失が大きくなることが予想される。
【0018】
特許文献2に係る方法においては、接続部において高誘電率の接着剤を用いることでインピーダンスの整合を行い、反射損失の抑制を行っている。しかし、接続部導体の不連続部分に対する考慮がなされていないため、結果接続部にインピーダンスの不連続が生じ、放射損失を阻止することができないと予想される。
【0019】
また、全ての接続部線路をまとめて誘電率が1以上の接着剤によって被覆することで、被覆しない場合に比べて接続部で信号の位相が多く回ることとなる。これにより損失が増大する。さらに、被覆部上部の接着剤の厚みのばらつきによって実効誘電率がばらつき、歩留まりが悪化することも予想される。加えて、特許文献2に係る実施形態では、ワイヤボンディング、又はリボンボンディングによる接続部を形成しているが、ワイヤボンディングによる方法ではグラウンド接続部のインダクタンスが大きいため、高周波域での良好なグラウンドを取ることができない。また、リボンボンディングによる方法であっても、信号パターンとグラウンドパターン間の距離の制御をμmオーダーで制御することは難しいため、正確なインピーダンス制御を行うことができない。
【0020】
従って、本発明の目的は、上記課題に鑑みて、接続部をコプレーナ型伝送線路で連続に形成し接続部の反射を抑えることにより、インピーダンスの不連続によって生ずる放射損失を抑え、寄生成分が小さく且つ接着部の位相の進行による損失の少ない、高周波信号を伝送する高周波装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、信号伝播方向をx軸、信号伝播方向に垂直且つ基板に平行な方向をy軸、基板の法線方向をz軸としたとき、第1の基板と、第1の基板の主面上(xy平面上)に設けられた第1のコプレーナ型伝送線路と、第2の基板と、第2の基板の主面上(xy平面上)に設けられた第2のコプレーナ型伝送線路と、第1の基板のyz平面及び第1の基板のyz平面と対向する第2の基板のyz平面の間の空隙を充填する非導電性フィルと、伝送線路とを備える高周波装置である。伝送線路は、第3のコプレーナ型伝送線路であって、非導電性フィル上に設けられ、第1のコプレーナ型伝送線路及び第2のコプレーナ型伝送線路を接続する。
【0022】
また、本発明の一実施形態において、第1のコプレーナ型伝送線路の特性インピーダンスと第2のコプレーナ型伝送線路の特性インピーダンスとは、同一である。
【0023】
さらに、本発明の一実施形態において、第1のコプレーナ型伝送線路の特性インピーダンスと第2のコプレーナ型伝送線路の特性インピーダンスと第3のコプレーナ型伝送線路の特性インピーダンスとは、同一である。
【0024】
また、本発明の一実施形態において、第1のコプレーナ型伝送線路の特性インピーダンスと第2のコプレーナ型伝送線路の特性インピーダンスとが異なるときに、第3のコプレーナ型伝送線路によって、インピーダンス変換が行われる。
【0025】
また、本発明の一実施形態において、非導電性フィルは、誘電率が3以下、且つ誘電正接が0.01以下である。
【0026】
さらに、本発明の一実施形態において、非導電性フィルは、ポリイミドを主成分とする非導電性フィルであってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る接続構造によれば、基板・基板間のコプレーナ型伝送線路の接続において接続部もコプレーナ型伝送線路で導体を連続に結ぶことにより、接続部でのインピーダンス不連続部位をなくすことができる。これにより、放射損失を抑え、位相の進行による損失を少なくし、且つ接続部に生ずる寄生インダクタンスを排除した歩留まりの高い伝送線路接続構造を提供することができる。
【0028】
また、グラウンドパターンを基板・基板間で200μm以上と広く接続することができるため、高周波域での良好なグラウンドを得ることができる。
【0029】
加えて、フェースアップ構造であるため、フリップチップ接続を用いた構造で問題となる浮遊容量が存在しない。
【0030】
また、接続部上の信号線幅、空隙幅、接着剤の誘電率を変更することにより、任意の特性インピーダンスを持つ2つの基板間を整合させて結ぶことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1の従来技術に係る伝送線路接続構造の上面図である。
【図2】図1のb−b'線における断面図である。
【図3】第2の従来技術に係る伝送線路接続構造の上面図である。
【図4】図3のb−b'線における断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る伝送線路接続構造の上面図である。
【図6】図5のb−b'線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[実施例]
以下、本発明の実施形態に係るコプレーナ型伝送線路接続構造について添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0033】
図5は、本発明の実施形態に係る伝送線路接続構造の上面図である。図6は、図5のb−b'線における断面図である。
【0034】
本発明の実施形態に係る高周波装置は、信号伝播方向をx軸、信号伝播方向に垂直且つ基板に平行な方向をy軸、基板の法線方向をz軸としたとき、第1の基板(501)と、第1の基板の主面上(xy平面上)に設けられた第1のコプレーナ型伝送線路(503)と、第2の基板(511)と、第2の基板の主面上(xy平面上)に設けられた第2のコプレーナ型伝送線路(513)と、第1の基板のyz平面及び第1の基板のyz平面と対向する第2の基板のyz平面の間の空隙を充填する非導電性フィル(527)と、伝送線路とを備える。この伝送線路は、第3のコプレーナ型伝送線路(523)であって、非導電性フィル(527)上に設けられ、第1のコプレーナ型伝送線路(503)及び第2のコプレーナ型伝送線路(513)を接続する。上述のように、各々のコプレーナ型伝送線路(503、513、523)は、信号パターン(531)とグラウンドパターン(533)とから構成される。
【0035】
本発明の実施形態に係る高周波装置は、第3のコプレーナ型伝送線路(523)の信号パターンの幅、第3のコプレーナ型伝送線路(523)の信号パターンとグラウンドパターンとの間の空隙幅、第3のコプレーナ型伝送線路(523)のテーパー形状、及び非導電性フィル(527)の誘電率を最適化することにより、第1のコプレーナ型伝送線路(503)と第2のコプレーナ型伝送線路(513)との整合が取れ、且つインピーダンス不連続による放射損失を低減させる。
【0036】
また、第1の基板(501)と第2の基板(511)との間の空隙を充填する非導電性フィル(527)は、誘電率が3以下、誘電正接が0.01以下であり、低誘電率であることによって接続部での位相進行による損失を抑制し、また低誘電正接であることにより誘電損失を抑制する。また、非導電性フィル(527)は、ポリイミドを主成分とするような非導電性フィルであってもよい。
【0037】
また、非導電性フィル部(527)の構成においては、第1の基板(501)と第2の基板(511)との間の空隙をノズルを用いて空隙側部あるいは空隙上部より非導電性フィルが均一な分布となるよう一定の速度をもって、且つz軸方向に非導電性フィルが盛り上がるように注入した後、スキージによって第1の基板(501)の第2の基板(511)に対向する側面の上端(y方向の辺)と、第2の基板(511)の第1の基板(501)に対向する側面の上端(y方向の辺)とを結ぶ平面より上にはみ出した部分の非導電性フィル(527)を取り除き、非導電性フィル(527)にて平面で結ぶことにより、伝送線路に生じうるz軸方向の曲面を抑制することができるため、結果不要なインダクタンスの発生を抑制できる。
【0038】
第1の基板(501)と第2の基板(511)との間の空隙を充填する非導電性フィル上部(527)に、第3のコプレーナ伝送線路(523)が予めパターニングされたスクリーン版に従って導電性ペースト(金あるいは銀ペースト)をスクリーン印刷することによりμmオーダーで精度よく第1のコプレーナ型伝送線路(503)と第2のコプレーナ型伝送線路(513)との信号パターン、及びグラウンドパターンをそれぞれ接続させる。これによって、非導電性フィル(527)上部に第3のコプレーナ型伝送線路(523)が形成され、非導電性フィル(527)と第3のコプレーナ型伝送線路(523)とから成る接続部(541)を構成する。また、第3のコプレーナ伝送線路(523)の構成方法は、金のスパッタリングとフォトレジストを用いたリフトオフ工程を用いた配線構成法であっても良い。
【0039】
第1の基板(501)の特性インピーダンスZ1が50オーム、第2の基板(511)の特性インピーダンスZ2が同じく50オームであるというように両者の特性インピーダンスが等しい場合、接続部(541)の信号パターン幅及び信号パターン・グラウンドパターン間の空隙幅を、その特性インピーダンスZcが同じく50オームであるように取ることができる。テーパーの形状は、物理的な不連続が無い様に形成する。非導電性フィル(527)の誘電率は、各導体のパターンが印刷機によって形成し得る範囲で最小の誘電率とする。
【0040】
また、第1の基板(501)の特性インピーダンスZ1が50オーム、第2の基板(511)の特性インピーダンスZ2が75オームであるというように両者の特性インピーダンスが異なる場合、接続部(541)の信号パターン幅及び信号パターン・グラウンドパターン間の空隙幅を、その特性インピーダンスZc
【0041】
【数1】

【0042】
であるように取ることができる。接続部(541)の長さは、接続部(541)での実効波長λの4分の1に取る。テーパーの形状は、物理的な不連続が無い様に形成する。非導電性フィル(527)の誘電率は、各導体のパターンが印刷機によって形成し得る範囲で最小の誘電率とする。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、高周波回路部品の接続に有用であって、例えばMMIC(Microwave Monolithic IC、モノリシックマイクロ波集積回路)と高周波回路基板間の接続や、MMIC同士、高周波回路基板同士の接続に利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
101 第1の基板
103 第1のコプレーナ型伝送線路
111 第2の基板
113 第2のコプレーナ型伝送線路
121 バンプ
131 信号パターン
133 グラウンドパターン
301 第1の基板
303 第1のコプレーナ型伝送線路
311 第2の基板
313 第2のコプレーナ型伝送線路
323 ボンディングワイヤ
325 空隙
327 接着剤
331 信号パターン
333 グラウンドパターン
341 接続部
501 第1の基板
503 第1のコプレーナ型伝送線路
511 第2の基板
513 第2のコプレーナ型伝送線路
523 第3のコプレーナ型伝送線路
527 非導電性フィル
531 信号パターン
533 グラウンドパターン
541 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号伝播方向をx軸、信号伝播方向に垂直且つ基板に平行な方向をy軸、基板の法線方向をz軸としたとき、
第1の基板と、前記第1の基板の主面上(xy平面上)に設けられた第1のコプレーナ型伝送線路と、第2の基板と、前記第2の基板の主面上(xy平面上)に設けられた第2のコプレーナ型伝送線路と、前記第1の基板のyz平面及び前記第1の基板のyz平面と対向する前記第2の基板のyz平面の間の空隙を充填する非導電性フィルと、伝送線路とを備える高周波装置であって、
前記伝送線路は、第3のコプレーナ型伝送線路であって、前記非導電性フィル上に設けられ、前記第1のコプレーナ型伝送線路及び前記第2のコプレーナ型伝送線路を接続することを特徴とする高周波装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波装置において、
前記第1のコプレーナ型伝送線路の特性インピーダンスと前記第2のコプレーナ型伝送線路の特性インピーダンスとは、同一であることを特徴とする高周波装置。
【請求項3】
請求項2に記載の高周波装置において、
前記第1のコプレーナ型伝送線路の特性インピーダンスと前記第2のコプレーナ型伝送線路の特性インピーダンスと前記第3のコプレーナ型伝送線路の特性インピーダンスとは、同一であることを特徴とする高周波装置。
【請求項4】
請求項1に記載の高周波装置において、
前記第1のコプレーナ型伝送線路の特性インピーダンスと前記第2のコプレーナ型伝送線路の特性インピーダンスとが異なるときに、前記第3のコプレーナ型伝送線路によって、インピーダンス変換が行われることを特徴とする高周波装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の高周波装置において、
前記非導電性フィルは、誘電率が3以下、且つ誘電正接が0.01以下であることを特徴とする高周波装置。
【請求項6】
請求項5に記載の高周波装置において、
前記非導電性フィルは、ポリイミドを主成分とする非導電性フィルであることを特徴とする高周波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−61585(P2011−61585A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210247(P2009−210247)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(303046277)旭化成エレクトロニクス株式会社 (840)
【Fターム(参考)】