説明

高周波電力増幅器

【課題】歪特性を改善することができる高周波電力増幅器を得る。
【解決手段】複数のトランジスタセル11を電気的に並列接続することで、マルチフィンガー型のトランジスタが形成されている。複数のトランジスタセル11のゲート電極は入力側整合回路13に接続されている。各トランジスタセル11のゲート電極と入力側整合回路13の間に共振回路17がそれぞれ接続されている。共振回路17は、トランジスタの動作周波数の2次高調波の周波数又は2次高調波の周波数を中心とした所定の範囲内で共振して、2次高調波に対して高インピーダンス負荷又は開放負荷となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信、衛星通信用などのマイクロ波、ミリ波帯の通信機に用いられる高周波電力増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マルチキャリア信号又は近年のCDMA方式等の変調波信号を用いるマイクロ波通信システムでは、高周波電力増幅器の非線形性によって生じる歪の影響をできるだけ小さくする必要がある。これに対し、2次高調波に対して開放負荷又は高インピーダンス負荷となる共振回路を入力側に設ければ、高周波電力増幅器を高効率化できることが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、移動体通信、衛星通信用の高出力電力増幅器では、大電力を得るため、複数のトランジスタセルを電気的に並列接続してゲート幅を大きくしたマルチフィンガー型のトランジスタが用いられる。
【0003】
【特許文献1】特開2002−164753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図19,20は、共振回路を入力側に設けた高周波電力増幅器の参考例を示す回路図である。複数のトランジスタセル11が電気的に並列接続され、そのゲート電極に調整用線路16及びボンディングワイヤ12を介して入力側整合回路13が接続され、そのドレイン電極にボンディングワイヤ14を介して出力側整合回路15が接続されている。そして、図19,20の回路には、入力側整合回路13の前段に共振回路17が設けられている。図19の共振回路17は2次高調波に対して開放負荷となり、図20の共振回路17は2次高調波に対して高インピーダンス負荷となる。
【0005】
図19の回路では、ゲート電極を合成して入力側整合回路13に接続した後に共振回路17を接続していたため、各トランジスタセル11から入力側整合回路13を見た場合、セル間に位相差が生じる。従って、各トランジスタセル11のゲート電極からみた2次高調波負荷を同等に高インピーダンス負荷にすることができなかった。また、マルチフィンガー型のトランジスタを用いた場合、必然的にトランジスタの入カインピーダンスが非常に小さくなる。このため、図20の回路では、伝播損失が生じて共振回路17からの反射波が減衰するため、2次高調波負荷を開放負荷に制御することができなかった。従って、図19,図20の回路では、歪特性が悪いという問題があった。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、歪特性を改善することができる高周波電力増幅器を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る高周波電力増幅器は、複数のトランジスタセルを電気的に並列接続したマルチフィンガー型のトランジスタと、複数のトランジスタセルのゲート電極に接続された入力側整合回路と、各トランジスタセルのゲート電極と入力側整合回路の間にそれぞれ接続された共振回路とを備え、共振回路は、トランジスタの動作周波数の2次高調波の周波数又は2次高調波の周波数を中心とした所定の範囲内で共振して、2次高調波に対して高インピーダンス負荷又は開放負荷となる。本発明のその他の特徴は以下に明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、歪特性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る高周波電力増幅器を示す上面図であり、図2はその回路図である。
【0010】
複数のトランジスタセル11を電気的に並列接続することで、マルチフィンガー型のトランジスタが形成されている。複数のトランジスタセル11のゲート電極は、ボンディングワイヤ12を介して入力側整合回路13に接続されている。複数のトランジスタセル11のドレイン電極は、ボンディングワイヤ14を介して出力側整合回路15に接続されている。複数のトランジスタセル11のソース電極は接地されている。ボンディングワイヤ12,14はインダクタとして機能する。
【0011】
各トランジスタセル11のゲート電極と入力側整合回路13の間に、調整用線路16及び共振回路17がそれぞれ接続されている。即ち、各トランジスタセル11のゲート電極にそれぞれ共振回路17が付加されてから、ボンディングワイヤ12により入力側整合回路13に接続されて合成されている。
【0012】
共振回路17は、トランジスタと同一チップ18上に形成され、互いに並列に接続されたボンディングワイヤ19とMIMキャパシタ20を有する。ボンディングワイヤ19はインダクタとして機能する。共振回路17は、トランジスタの動作周波数の2次高調波の周波数又は2次高調波の周波数を中心とした所定の範囲内で共振し、2次高調波に対して高インピーダンス負荷となる。これにより、各トランジスタセル11のゲート電極からみた2次高調波負荷を同等に高インピーダンス負荷にすることができるため、歪特性を改善することができる。
【0013】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2に係る高周波電力増幅器を示す上面図である。回路図は実施の形態1と同じである。
【0014】
実施の形態1と異なり、共振回路17のインダクタとして、ボンディングワイヤ19の代わりに、トランジスタと同一チップ18上に形成されたスパイラルインダクタ21を用いている。その他の構成は、実施の形態1の構成と同じである。
【0015】
実施の形態1では、動作周波数が高い場合、ボンディングワイヤ19のワイヤ長のバラツキによるインダクタンスの変動によって、共振回路17の共振周波数が大きく変動する。これに対し、本実施の形態では、スパイラルインダクタ21のインダクタンスのバラツキを抑え、共振回路17の共振周波数の変動を抑えることができる。
【0016】
実施の形態3.
図4は、本発明の実施の形態3に係る高周波電力増幅器を示す上面図であり、図5はその回路図である。ボンディングワイヤ19の一端は入力側整合回路13に接続されている。その他の構成は実施の形態1と同じである。これによりボンディングワイヤ19を長くすることができるため、インダクタンスを大きくする必要がある場合に有効である。
【0017】
実施の形態4.
図6は、本発明の実施の形態4に係る高周波電力増幅器を示す上面図であり、図7はその回路図である。MIMキャパシタ20は、トランジスタとは別のチップ22上に形成されている。MIMキャパシタ20の一端はボンディングワイヤ12を介して入力側整合回路13に接続され、MIMキャパシタ20の他端はボンディングワイヤ23を介して調整用線路16に接続されている。その他の構成は実施の形態1と同様である。トランジスタを形成しているチップ18のコストが高い場合に、別の安価なチップ22上にMIMキャパシタを形成することで、コストを下げることができる。
【0018】
実施の形態5.
図8は、本発明の実施の形態5に係る高周波電力増幅器を示す上面図であり、図9はその回路図である。共振回路17の内部構成以外は実施の形態1と同じである。
【0019】
共振回路17は、電気長調整用線路24と開放端スタブ25とを有する。開放端スタブ25の一端は電気長調整用線路24に接続され、開放端スタブ25の他端は開放されている。電気長調整用線路24は、ボンディングワイヤ12を介して入力側整合回路13に接続されている。
【0020】
開放端スタブ25と電気長調整用線路24の長さを調整することで、各トランジスタセル11のゲート電極からみた2次高調波負荷を所望の値に調整することができる。例えば、動作周波数信号の波長λに対して、開放端スタブ25の長さをλ/8、電気長調整用線路24の長さをλ/8とした場合に、共振回路17は2次高調波に対して開放負荷となるため、歪特性を改善することができる。
【0021】
実施の形態6.
図10は、本発明の実施の形態6に係る高周波電力増幅器を示す上面図であり、図11はその回路図である。共振回路17の内部構成以外は実施の形態1と同じである。
【0022】
共振回路17は、電気長調整用線路24と短絡端スタブ26とを有する。短絡端スタブ26の一端は電気長調整用線路24に接続され、短絡端スタブ26の他端はキャパシタ27を介して裏面グランドに接続したビアホール28に接続されて短絡されている。電気長調整用線路24は、ボンディングワイヤ12を介して入力側整合回路13に接続されている。
【0023】
短絡端スタブ26と電気長調整用線路24の長さを調整することで、各トランジスタセル11のゲート電極からみた2次高調波負荷を所望の値に調整することができる。例えば、動作周波数信号の波長λに対して、短絡端スタブ26の長さをλ/4、電気長調整用線路24の長さをλ/8とした場合に、共振回路17は2次高調波に対して開放負荷となるため、歪特性を改善することができる。
【0024】
実施の形態7.
図12は、本発明の実施の形態7に係る高周波電力増幅器を示す回路図である。各共振回路17a〜17fの共振周波数は、インダクタンス又は容量を変えることにより、2以上の異なる周波数に分けられている。ここでは、共振回路17a,17c,17eの共振周波数はfa,共振回路17b,17d,17fの共振周波数はfbである。その他の構成は実施の形態1の構成と同じである。
【0025】
図13は、規格化周波数に対するPAEの変化を示す図である。規格化周波数とは規格化された動作周波数であり、PAEとは電力付加効率である。動作周波数帯域は規格化周波数0.9〜1.1である。共振周波数faの共振回路のみをトランジスタに装荷した場合、共振周波数fbの共振回路のみをトランジスタに装荷した場合、共振周波数fa,fbの共振回路をセル数比1:1で混在させた場合(図12の回路)の3つのケースについて計算を行った。
【0026】
共振回路17a〜17fの共振周波数のみがPAEに影響すると仮定すると、共振周波数fa,fbの共振回路を混在させた場合は、共振周波数fa又はfbのみの共振回路を用いた場合と比較して、PAEが中間的な値をとる。このため、2つの共振周波数を適切に選択すれば、広い帯域で歪特性を改善することができる。
【0027】
また、各共振回路17の共振周波数の種類の数は、複数のトランジスタセル11の数の約数であることが望ましい。これにより、トランジスタ全体の均一な動作を実現することができる。
【0028】
また、図14〜図16は共振周波数の設定の例を示す図である。ここで、トランジスタの動作周波数の下限をf1、上限をf2とする。図14では共振周波数fa,fbをそれぞれ2次高調波の下限2f1近傍の周波数、2次高調波の上限2f2近傍の周波数に設定している。図15では共振周波数fa,fbをそれぞれ(3f1+f2)/2近傍の周波数、(f1+3f2)/2近傍の周波数に設定している。図16では共振周波数fa,fb,fcをそれぞれ2f1近傍の周波数、f1+f2近傍の周波数、2f2近傍の周波数に設定している。共振回路のQ値を考慮した上で、より平坦な歪特性が得られる組み合わせを選択すればよい。
【0029】
実施の形態8.
図17は、本発明の実施の形態8に係る高周波電力増幅器を示す回路図である。各共振回路17に、共振回路17の共振周波数faとは異なる共振周波数fbを持つ第2の共振回路29をそれぞれ直列に接続している。その他の構成は実施の形態1と同じである。これにより、セル単位で歪特性を広帯域化することができる。
【0030】
例えば、第2の共振回路29が、トランジスタの動作周波数の3次以上の高調波の周波数又は3次以上の高調波の周波数を中心とした所定の範囲内で共振して、3次以上の高調波に対して高インピーダンス負荷又は開放負荷となるようにしても良い。
【0031】
実施の形態9.
図18は、本発明の実施の形態9に係る高周波電力増幅器を示す回路図である。共振回路17の内部構成以外は実施の形態1と同じである。
【0032】
共振回路17は、ボンディングワイヤ19とMIMキャパシタ20以外にダイオード30とDC給電端子31を有する。ダイオード30は、ボンディングワイヤ19に並列接続され、MIMキャパシタ20に直列接続されている。DC給電端子31は、ダイオード30とMIMキャパシタ20の接続点に接続されている。外部からDC給電端子31にDCバイアスを印加することで、共振回路17のキャパシタの容量を外部から調整し、共振周波数を調整することができる。なお、ボンディングワイヤ19の長さを調整してインダクタンスを変えることで、共振周波数を調整してもよい。これにより素子作製後の共振周波数の調整が可能であるため、回路素子やパターンでキャパシタやインダクタを作るよりも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態1に係る高周波電力増幅器を示す上面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る高周波電力増幅器を示す回路図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る高周波電力増幅器を示す上面図である。
【図4】本発明の実施の形態3に係る高周波電力増幅器を示す上面図である。
【図5】本発明の実施の形態3に係る高周波電力増幅器を示す回路図である。
【図6】本発明の実施の形態4に係る高周波電力増幅器を示す上面図である。
【図7】本発明の実施の形態4に係る高周波電力増幅器を示す回路図である。
【図8】本発明の実施の形態5に係る高周波電力増幅器を示す上面図である。
【図9】本発明の実施の形態5に係る高周波電力増幅器を示す回路図である。
【図10】本発明の実施の形態6に係る高周波電力増幅器を示す上面図である。
【図11】本発明の実施の形態6に係る高周波電力増幅器を示す回路図である。
【図12】本発明の実施の形態7に係る高周波電力増幅器を示す回路図である。
【図13】規格化周波数に対するPAEの変化を示す図である。
【図14】共振周波数の設定の例を示す図である。
【図15】共振周波数の設定の例を示す図である。
【図16】共振周波数の設定の例を示す図である。
【図17】本発明の実施の形態8に係る高周波電力増幅器を示す回路図である。
【図18】本発明の実施の形態9に係る高周波電力増幅器を示す回路図である。
【図19】共振回路を入力側に設けた高周波電力増幅器の参考例を示す回路図である。
【図20】共振回路を入力側に設けた高周波電力増幅器の参考例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0034】
11 トランジスタセル
13 入力側整合回路
17,17a〜17f 共振回路
19 ボンディングワイヤ(インダクタ)
18,22 チップ
20 MIMキャパシタ(キャパシタ)
21 スパイラルインダクタ(インダクタ)
24 電気長調整用線路
25 開放端スタブ
26 短絡端スタブ
29 第2の共振回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のトランジスタセルを電気的に並列接続したマルチフィンガー型のトランジスタと、
前記複数のトランジスタセルのゲート電極に接続された入力側整合回路と、
各トランジスタセルのゲート電極と前記入力側整合回路の間にそれぞれ接続された共振回路とを備え、
前記共振回路は、前記トランジスタの動作周波数の2次高調波の周波数又は2次高調波の周波数を中心とした所定の範囲内で共振して、2次高調波に対して高インピーダンス負荷又は開放負荷となることを特徴とする高周波電力増幅器。
【請求項2】
前記共振回路は、並列に接続されたインダクタとキャパシタを有することを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅器。
【請求項3】
前記共振回路のインダクタはボンディングワイヤであることを特徴とする請求項2に記載の高周波電力増幅器。
【請求項4】
前記共振回路のインダクタはスパイラルインダクタであることを特徴とする請求項2に記載の高周波電力増幅器。
【請求項5】
前記共振回路のインダクタ及びキャパシタは、前記トランジスタと同一チップ上に形成されていることを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載の電力増幅器。
【請求項6】
前記共振回路のキャパシタは、前記トランジスタとは別のチップ上に形成されていることを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載の電力増幅器。
【請求項7】
前記共振回路は、
電気長調整用線路と、
前記電気長調整用線路に一端が接続され、他端が開放された開放端スタブとを有することを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅器。
【請求項8】
前記共振回路は、
電気長調整用線路と、
前記電気長調整用線路に一端が接続され、他端が短絡された短絡端スタブとを有することを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅器。
【請求項9】
各共振回路の共振周波数は2以上の異なる周波数に分かれることを特徴とする請求項1に記載の電力増幅器。
【請求項10】
各共振回路の共振周波数の種類の数は、前記複数のトランジスタセルの数の約数であることを特徴とする請求項9に記載の電力増幅器。
【請求項11】
各共振回路の共振周波数は、前記2次高調波の下限近傍の周波数と、前記2次高調波の上限近傍の周波数とに分かれることを特徴とする請求項9に記載の電力増幅器。
【請求項12】
前記トランジスタの動作周波数の下限をf1、上限をf2とすると、
各共振回路の共振周波数は、(3f1+f2)/2近傍の周波数と、(f1+3f2)/2近傍の周波数とに分かれることを特徴とする請求項9に記載の電力増幅器。
【請求項13】
前記トランジスタの動作周波数の下限をf1、上限をf2とすると、
各共振回路の共振周波数は、2f1近傍の周波数と、f1+f2近傍の周波数と、2f2近傍の周波数とに分かれることを特徴とする請求項9に記載の電力増幅器。
【請求項14】
各共振回路にそれぞれ直列に接続され、前記共振回路とは異なる共振周波数を持つ第2の共振回路を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅器。
【請求項15】
前記第2の共振回路は、前記トランジスタの動作周波数の3次以上の高調波の周波数又は3次以上の高調波の周波数を中心とした所定の範囲内で共振して、3次以上の高調波に対して高インピーダンス負荷又は開放負荷となることを特徴とする請求項14に記載の高周波電力増幅器。
【請求項16】
前記共振回路のキャパシタは、容量を外部から調整できることを特徴とする請求項2に記載の高周波電力増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−232076(P2009−232076A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73931(P2008−73931)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】