説明

高品質の(メタ)アクリルアミド系重合体の製造方法

【課題】高分子量の(メタ)アクリルアミド系重合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のアクリルアミド系重合体の製造方法は、銅の濃度が0.01ppm以下である(メタ)アクリルアミドを単独重合もしくは共重合、または該(メタ)アクリルアミドを、(メタ)アクリルアミドと共重合可能な少なくとも一種の不飽和単量体と共重合させることを特徴とする。上記(メタ)アクリルアミドは、上記水和反応により得られた反応液を陽イオン交換樹脂により処理して、銅の濃度が0.01ppm以下に低減された(メタ)アクリルアミドであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高品質の(メタ)アクリルアミド系重合体を製造する方法に関する。より詳しくは、本発明は、(メタ)アクリルアミド中の銅濃度を特定量以下とすることにより、高分子量の(メタ)アクリルアミド系重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルアミド系重合体は、紙力増強剤、凝集剤などに幅広く利用されている。近年、この(メタ)アクリルアミド系重合体の原料である(メタ)アクリルアミドを製造する方法として、反応条件が温和であり、副生成物も極めて少ないなどの利点を有するため、銅触媒に代えて微生物触媒を用いる方法が注目されている。この方法では、微生物に含まれる酵素ニトリルヒドラターゼにより、(メタ)アクリロニトリルが水和されて(メタ)アクリルアミドに変換される。
【0003】
しかしながら、原料のアクリロニトリル中に青酸およびオキサゾールなどの不純物が含まれていると、微生物触媒に含まれるニトリルヒドラターゼの活性は低下することが知られていた。また、上記不純物を含むアクリロニトリルから製造されたアクリルアミドは品質が悪く、これを単量体として用いる場合は、高い水溶性および高分子量を有し、かつ凝集性能に優れた高品質の重合体は得られないことも知られていた。
【0004】
このため、例えば、特許文献1では、青酸濃度を低減したアクリロニトリルを用いて、ニトリルヒドラターゼの失活を抑制し、アクリルアミドの生産性の向上が図られている。ここでは、青酸濃度を低減する方法として、イオン交換樹脂を用いる方法、青酸を金属錯体として除去する方法、アルカリ条件下でアクリロニトリルに青酸を付加して除去する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、青酸とともにオキサゾール濃度を低減したアクリロニトリルを原料として、高品質のアクリルアミド系重合体を得る試みがされている。オキサゾール濃度を低減する方法として、イオン交換樹脂を用いる方法、精製蒸留による方法が開示されている。
【特許文献1】特開平11−123098号公報
【特許文献2】国際公開第2004/004847号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アクリロニトリル中に含まれる青酸およびオキサゾールの量を低減するのみでは、分子量の点で改善の余地があった。
本発明の目的は、高い重合速度で、高品質、特に高分子量の(メタ)アクリルアミド系重合体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(メタ)アクリルアミド中の銅の濃度を0.01ppm以下とすることにより、高い重合速度で高分子量の(メタ)アクリルアミド系重合体が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の(メタ)アクリルアミド系重合体の製造方法は、
水性媒体中で、(メタ)アクリロニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒により水和反応させて得られ、かつ、銅の濃度が0.01ppm以下である(メタ)アク
リルアミドを単独重合もしくは共重合して、または
該(メタ)アクリルアミドを、(メタ)アクリルアミドと共重合可能な少なくとも一種の不飽和単量体と共重合して、上記重合体を製造することを特徴とする。
【0009】
上記(メタ)アクリルアミドは、陽イオン交換樹脂により処理した水性媒体中で、(メタ)アクリロニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒により水和反応させて得られ、かつ、銅の濃度が0.01ppm以下に低減された(メタ)アクリルアミドであることが好ましい。
【0010】
また、上記(メタ)アクリルアミドは、水性媒体中で、陽イオン交換樹脂により処理した(メタ)アクリロニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒により水和反応させて得られ、かつ、銅の濃度が0.01ppm以下に低減された(メタ)アクリルアミドであることも好ましい。
【0011】
また、上記(メタ)アクリルアミドは、上記水和反応により得られた反応液を陽イオン交換樹脂により処理して、銅の濃度が0.01ppm以下に低減された(メタ)アクリルアミドであることも好ましい。
【0012】
本発明に係る(メタ)アクリルアミド系重合体は、上記(メタ)アクリルアミド系重合体を製造する方法によって得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い重合速度で高品質の(メタ)アクリルアミド系重合体が製造できる。特に、アクリルアミド系重合体の場合は、優れた水溶性を有し、凝集性能に優れた高分子量の重合体が高い重合速度で得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る(メタ)アクリルアミド系重合体の製造方法では、銅の濃度が0.01ppm以下である(メタ)アクリルアミドを用いる。この(メタ)アクリルアミドは、(メタ)アクリロニトリルを銅系の触媒により水和反応させて製造してもよいが、水性媒体中で、(メタ)アクリロニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒により水和反応させて製造することが好ましい。以下に、微生物触媒により水和反応させて得られる(メタ)アクリルアミドの製造方法について具体的に説明する。
【0015】
<水性媒体>
本発明に用いられる水性媒体とは、(メタ)アクリロニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒により水和反応させるときに用いる水をいう。なお、後述するように、(メタ)アクリロニトリルが水溶液の状態で添加されるときや微生物触媒が水溶液・懸濁液の状態で添加されるときは、これらの水溶液・懸濁液に含まれる水も上記水性媒体に該当する。さらに、水和反応の際に、リン酸塩等の緩衝剤、硫酸塩、炭酸塩等の無機塩、アルカリ金属の水酸化物、アミド化合物などを適当な濃度で溶解させた水溶液が添加されるときは、これらの水溶液に含まれる水も上記水性媒体に該当する。
【0016】
本発明に用いられる(メタ)アクリルアミドの銅の濃度は0.01ppm以下であり、好ましくは0.005ppm以下、より好ましくは0.002ppm以下であることが望ましい。本明細書において、銅の濃度とは、Cu+、Cu2+などとして(メタ)アクリル
アミドに含まれる銅の濃度をすべて合計した量をいう。また、銅の濃度が0.01ppm以下である(メタ)アクリルアミドとは、(メタ)アクリルアミド1kg中に含まれる銅の量が0.01mg以下であることを意味する。
【0017】
なお、上記(メタ)アクリルアミド中における銅の濃度の測定方法としては、銅イオンがN、N-ジエチルカルバミド酸ナトリウム・三水和物と反応して生じるキレート化合物
を酢酸n−ブチルで抽出し、波長430nmにて吸光度を測定し、銅の定量を行う方法を用いる。
【0018】
銅の濃度が上記の範囲に抑えられている(メタ)アクリルアミドを用いると、高品質、特に高分子量の(メタ)アクリルアミド系重合体が製造できる。アクリルアミド系重合体の場合は、優れた水溶性および高分子量を有し、凝集性能に優れた重合体が十分な重合速度で得られる。
【0019】
上記(メタ)アクリルアミド中の銅の濃度を0.01ppm以下とする方法は特に限定されない。上記(メタ)アクリルアミド中の銅は、例えば、後述するような上記水和反応に用いられる水性媒体、(メタ)アクリロニトリル、微生物の培養液などに由来する。
【0020】
したがって、具体的には、陽イオン交換樹脂により処理した水性媒体を用い、(メタ)アクリロニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒により水和反応させて、得られた(メタ)アクリルアミド中の銅の濃度を0.01ppm以下に低減することが好ましい。また、後述する(メタ)アクリロニトリルを陽イオン交換樹脂により処理した後、水性媒体中で、該(メタ)アクリロニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒により水和反応させて、得られた(メタ)アクリルアミド中の銅の濃度を0.01ppm以下に低減することも好ましい。また、後述する水和反応により得られた反応液を陽イオン交換樹脂により処理して、(メタ)アクリルアミド中の銅の濃度を0.01ppm以下に低減することも好ましい。なお、上記反応液は、水和反応後、さらに活性炭処理などにより微生物触媒が除去された溶液であってもよい。
【0021】
また、上記培養液に含まれる銅については、例えば、微生物の培養終了後に、微生物を含む培養液を、生理食塩水で洗浄する方法により低減できる。また、微生物の培養終了後に、微生物を含む培養液を、イオン交換樹脂と接触させて銅イオンを除去してもよい。
【0022】
上記イオン交換樹脂としては、例えば、陽イオン交換樹脂などが挙げられる。
<(メタ)アクリロニトリル>
本発明においては、市販されている(メタ)アクリロニトリルを適宜用いればよい。(メタ)アクリロニトリルは、あらかじめ(メタ)アクリロニトリル水溶液としておき、上記水和反応に用いてもよい。
【0023】
<ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒>
本発明に用いられるニトリルヒドラターゼを含む微生物は、ニトリルヒドラターゼを産生する微生物であれば特に制限されない。ここで、ニトリルヒドラターゼとは、(メタ)アクリロニトリルを水和させて(メタ)アクリルアミドを生成する能力を有する酵素である。
【0024】
上記微生物としては、例えば、ノカルディア(Nocardia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、バチルス(Bacillus)属、好熱性のバチルス属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ロドクロウス(rhodochrous)種に代表されるロドコッカス(Rhodococcus)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、キサントバクター(Xanthobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、リゾビウム(Rhizobium)属、ク
レブシエラ(Klebsiella)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、エルウィニア(Erwinia)属、エアロモナス(Aeromonas)属、シトロバクター(Citrobacter)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、サーモフィラ(thermophila)
種に代表されるシュードノカルディア(Pseudonocardia)属に属する微生物などが挙げられる。これらの微生物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また、上記微生物には、該微生物からクローニングしたニトリルヒドラターゼ遺伝子を任意の宿主で発現させた形質転換体も含まれる。なお、ここでいう任意の宿主としては、大腸菌(Escherichia coli);枯草菌(Bacillus subtilis)等のバチルス属菌;酵母、放線
菌等の他の微生物菌株などが挙げられる。上記菌株としては、具体的には、MT−10822(本菌株は、1996年2月7日に茨城県つくば市東1丁目1番3号の通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現:独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター))に受託番号FERM BP−5785として、特許手続き上の微生物の寄託
の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて寄託されている。)が挙げられる。
【0026】
また、組換えDNA技術を用いて、酵素の構成アミノ酸の1個または2個以上を他のアミノ酸で置換、欠失、削除または挿入し、アクリルアミド耐性、アクリロニトリル耐性および温度耐性を向上した変異型のニトリルヒドラターゼを発現させた形質転換体も、本発明でいう微生物に含まれる。
【0027】
本発明に用いられるニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒には、上記のような微生物を培養して得られた微生物菌体のほか、上記微生物菌体の抽出物、上記微生物菌体の磨砕物、該抽出物または該磨砕物のニトリルヒドラターゼ活性画分を分離精製して得られる分離物、該微生物菌体、該菌体の抽出物、該菌体の磨砕物、該後分離物等を適当な担体を用いて固定化した固定化物などの菌体処理物も含まれる。これらは、1種類を用いてもよく、2種類以上を同時に用いてもよく、また、交互に用いてもよい。さらに、上記ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒には、これらのうち少なくとも1つを含む水溶液、緩衝液等の溶液、これらのうち少なくとも1つを含む懸濁液なども含まれる。これら微生物触媒の使用形態は、ニトリルヒドラターゼの安定性、生産規模などにより適宜選択すればよい。
【0028】
上記のような微生物は、公知の方法によって調製すればよい。例えば、LB培地、M9培地などの液体培地に該微生物を植菌した後、適当な培養温度(通常20℃〜50℃であるが、好熱菌の場合は50℃以上であってもよい)で生育させ、次いで、該微生物を遠心分離によって培養液より分離、回収して得られる。
【0029】
<水和反応>
上記水和反応による(メタ)アクリルアミドの製造は常法により行われるが、例えば、以下のように実施できる。
【0030】
本発明に用いられる(メタ)アクリロニトリルの量は、反応開始時において上記水性媒体に対して該(メタ)アクリロニトリルの飽和濃度以上の濃度である。その濃度の上限は特に制限されるものではないが、大過剰の(メタ)アクリロニトリルの供給は、反応を完結させるために多くの触媒量、過大な容積を有する反応器、および除熱のための過大な熱交換器などが必要となり、設備面での経済的負担が大きくなる。このため、(メタ)アクリロニトリルの供給濃度としては、それが全て対応する(メタ)アクリルアミドに転化したときにその理論的な生成液濃度が、アクリルアミドの場合は、得られる反応液中で40〜80重量%の範囲となるように供給することが好ましく、より具体的には水1重量部に対しアクリロニトリルを0.4〜1.5重量部の範囲で供給することが好ましい。また、メタクリルアミドの場合は、その理論的生成液濃度が、得られる反応液中で10〜40重量%の範囲となるように供給することが好ましく、より具体的には水1重量部に対しメタクリロニトリルを0.08〜0.5重量部の範囲で供給することが好ましい。
【0031】
上記微生物触媒の使用量は、反応条件、触媒の種類、その形態により適宜決定すればよいが、該乾燥菌体重量換算で、水性媒体に対し通常10〜50000重量ppm、好ましくは50〜30000重量ppmである。
【0032】
また、上記水和反応での反応時間は、触媒の使用量および温度などの条件にも依存するが、通常1〜80時間の範囲であり、好ましくは2〜40時間の範囲である。上記水和反応は、通常、常圧で行われるが、水性媒体中へのニトリル化合物の溶解度を高めるために加圧下で行ってもよい。反応温度は、水性媒体の氷点以上であれば特に制限されないが、通常0〜50℃の範囲で、好ましくは10〜40℃の範囲で行うことが望ましい。また、上記水和反応での水性媒体のpHは特に制限されず、ニトリルヒドラターゼの活性が維持されていればよいが、好ましくはpH6〜10の範囲であり、より好ましくはpH7〜9の範囲であることが望ましい。上記水和反応は、生成物が反応液中に晶出したスラリー状態で行ってもよく、また、回分式、連続式のいずれで行ってもよい。
【0033】
なお、製造された(メタ)アクリルアミドを、例えば、濃縮、イオン交換、晶析、活性炭処理などの方法によって処理してもよい。
上記のような製造方法により、高品質の(メタ)アクリルアミドが得られる。すなわち、得られた(メタ)アクリルアミドにおいては、上述した銅の濃度の低減方法を適宜用いることにより、銅の濃度が0.01ppm以下に低減されている。
【0034】
<(メタ)アクリルアミド系重合体の製造方法>
本発明の(メタ)アクリルアミド系重合体の製造方法では、上記のようにして得られた(メタ)アクリルアミドを単独重合もしくは共重合、または該(メタ)アクリルアミドを、(メタ)アクリルアミドと共重合可能な少なくとも一種の不飽和単量体と共重合する。
【0035】
(メタ)アクリルアミドと共重合可能な不飽和単量体としては、
アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸およびそれらの塩;
ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸およびそれらの塩;
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートアクリル酸などの(メタ)アクリル酸のアルキルアミノアルキルエステル、またはそれらの第4級アンモニウム誘導体;
N−N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどのN−N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、またはそれらの4級アンモニウム誘導体;
アセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミドなどの親水性アクリルアミド;
N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン;
ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート;
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−ビニル−2−ピロリドン;N,N−ジ−n−プロピルアクリルアミド、N−n−ブチルアクリルアミド、N−n−ヘキシルアクリルアミド、N−n−ヘキシルメタクリルアミド、N−n−オクチルアクリルアミド、N−n−オクチルメタクリルアミド、N−tert−オクチルアクリルアミド、N−ドデシルアクリルアミド、N−n−ドデシルメタクリルアミドなどのN−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体;
N,N−ジグリシジルアクリルアミド、N,N−ジグリシジルメタクリルアミド、N−(
4−グリシドキシブチル)アクリルアミド、N−(4−グリシドキシブチル)メタクリルアミド、N−(5−グリシドキシペンチル)アクリルアミド、N−(6−グリシドキシヘキシル)アクリルアミドなどのN−(ω−グリシドキシアルキル)(メタ)アクリルアミド誘導体;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート誘導体;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン類、スチレン、αメチルスチレン、ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。
【0036】
これら単量体は、1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。また、アクリルアミドおよびメタクリルアミドとこれら他の不飽和単量体とを共重合してもよい。
(メタ)アクリルアミドとこれら不飽和単量体とを共重合する場合の混合比率については特に制限はないが、通常(メタ)アクリルアミド100モルに対して、不飽和単量体が100モル以下であり、好ましくは50モル以下である。
【0037】
上記(メタ)アクリルアミド系重合体の製造方法は特に限定されず、水溶液重合、乳化重合などの周知の方法で行われるが、ラジカル重合開始剤を用いた水溶液重合が好適に用いられる。水溶液重合の場合は、通常、(メタ)アクリルアミドと必要に応じて添加する不飽和単量体との合計濃度を5〜90重量%とすることが好ましい。
【0038】
重合開始剤としては、例えば、ラジカル重合開始剤が用いられ、具体的には、
過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、過酸化ベンゾイル等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(4−アミジノプロパン)2塩酸塩、4
,4'−アゾビス(4−シアノバレリアン酸ナトリウム)等のアゾ系遊離基開始剤;上記
過酸化物と、重亜硫酸ナトリウム、トリエタノールアミン、硫酸第一鉄アンモニウム等の還元剤とを併用するいわゆるレドックス系触媒などが挙げられる。
【0039】
上記した重合開始剤は1種単独で用いてもよいが、2種以上併用してもよい。重合開始剤の量は、通常、単量体の総重量に対し、0.001〜5重量%の範囲である。
重合温度は、単一重合開始剤の場合には、通常−10〜120℃の範囲であり、レドックス系重合開始剤の場合の重合開始温度は、通常0〜90℃の範囲である。また、重合温度は常に一定の温度に保つ必要はなく、重合の進行に伴い適宜変更してもよいが、通常は重合の進行に伴い、重合熱が発生して重合温度が上昇する傾向にあるため、必要に応じ、冷却する場合もある。
【0040】
重合時の雰囲気は特に限定はないが、重合を速やかに進行する観点からは、例えば窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で重合することが好ましい。
重合時間は特に限定はないが、通常1〜20時間の範囲である。
【0041】
また重合時の水溶液のpHも特に限定はないが、必要に応じpHを調整して重合してもよい。その場合使用可能なpH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどのアルカリ;硫酸、塩酸などの鉱酸;蟻酸、酢酸等の有機酸などが挙げられる。
【0042】
本発明により得られる重合体の分子量は特に制限はないが、通常10万〜5000万の範囲であり、好ましくは50万〜3000万の範囲である。
1000万以上、特に1500万程度の高分子量の重合体を得るためには、アクリルアミドおよび他の単量体の合計濃度、使用する重合開始剤の種類、その濃度、反応温度など
を適宜調整すればよい。また、未反応アクリルアミドを例えば0.2重量%以下とするための方法としては、例えば、2種類以上の重合開始剤を異なった温度領域で作用させる方法などが挙げられる。
【0043】
このようにして、高い重合速度で、高品質の(メタ)アクリルアミド系重合体が製造できる。また、アクリルアミド系重合体の場合は、優れた水溶性を有し、高分子量化も可能であり、紙力増強剤、凝集剤などに好適に用いられる。
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例]
[実施例1]
[ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒の調製]
特開2001−340091号の実施例1に記載の方法に従い、No.3クローン菌体を取得し、同じく、同実施例1の方法、すなわち下記の方法で培養してニトロリルヒドラターゼを含む湿菌体を得た。
【0045】
500mLのバッフル付三角フラスコに下記の組成の培地100mLを調製し、121℃・20分間のオートクレーブにより滅菌した。この培地に終濃度が50μg/mLとなるようにアンピシリンを添加した後、上記のNo.3クローン菌体を一白菌耳植菌し、37℃・130rpmにて20時間培養した。遠心分離(15000G×15分間)により菌体のみを培養液より分離し、続いて、50mLの生理食塩水に該菌体を再懸濁した後に、再度遠心分離を行って湿菌体を得た。
【0046】
培地組成 酵母エキストラクト 5.0g/L
ポリペプトン 10.0g/L
NaCl 5.0g/L
塩化コバルト・六水和物 10.0mg/L
硫酸第二鉄・七水和物 40.0mg/L
pH7.5
[アクリルアミドの製造]
最終製品として、水溶液中のアクリルアミド濃度が50重量%の製品を得るため、以下の条件で反応を行った。
【0047】
第1反応器として攪拌器を備えた1Lガラス製フラスコ、第2反応器として内径5mmのテフロン(登録商標)製チューブ20mを準備した。第1反応器には、予め400gの水を仕込んだ。
【0048】
上記の培養方法で得られた湿菌体を純水に懸濁した。第1反応器内を撹拌しながら、この懸濁液を、11g/hの速度で連続的にフィードした。アクリロニトリルは、32g/hの速度で、また、純水は37g/hの速度で連続的にフィードした。さらに反応pHが7.5〜8.5となるように、0.1M−NaOH水溶液をフィードした。これらの原料は、各々の貯槽から単独のラインで供給され、反応器内にフィードされるまで、他の原料に接触することはなかった。さらに、第1反応器の液面レベルを一定に保つように、反応液を第1反応器から80g/hの速度で連続的に抜き出し、第2反応器に連続的にフィードして、第2反応器内でさらに反応を進行させた。なお、湿菌体の添加量は、第1反応器のアクリロニトリル転化率が90%となるように調整を行った。
【0049】
第1反応器および第2反応器とも10〜20℃の温度の水浴中に浸漬し、各反応器内部の液温が15℃となるように温度制御を行った。
運転を開始してから2日目に各反応器の反応液(反応液(I))をサンプリングし、以下のHPLC条件にて分析を行ったところ、第1反応器出口でのアクリルアミドへの転化率が90%、かつ第2反応器出口でのアクリルニトリル濃度が検出限界以下(100重量ppm以下)、アクリルアミド濃度が53.5重量%となった。
【0050】
ここで分析条件は以下のとおりであった。
アクリルアミド分析条件:
高速液体クロマトグラフ装置:LC−10Aシステム(株式会社島津製作所製)
(UV検出器波長250nm、カラム温度40℃)
分離カラム :SCR-101H (株式会社島津製作所製)
溶離液 :0.05 %(容積基準)−リン酸水溶液
アクリロニトリル分析条件:
高速液体クロマトグラフ装置:LC−10Aシステム(株式会社島津製作所製)
(UV検出器波長200nm、カラム温度40℃)
分離カラム :Wakosil-II 5C18HG (和光純薬製)
溶離液 :7%(容積基準)−アセトニトリル、
0.1mM−酢酸、0.2mM−酢酸ナトリウムを
各濃度で含有する水溶液
アクリルアミド濃度は以下のようにして求めた。市販のアクリルアミドを、純水に溶解して、濃度既知のアクリルアミド水溶液を調製し、HPLCにおけるアクリルアミド濃度分析用検量線を作成した。これを用いて、被験液のHPLC分析時の面積値を、アクリルアミド濃度に換算した(絶対検量線法)。また、HPLC測定に用いる反応液の量は5μLであった。なお、各反応液の密度の影響はほとんどないため、このようにしてアクリルアミド濃度(重量%)が得られた。
【0051】
この反応を2日目に分析を実施して以降さらに約4日間継続した。この約4日間で約7500gの反応液(反応液(I))が得られた。これに対し、活性炭(三倉化成(株)製
粉状活性炭PM−SX)を30g添加し、0.5重量%−アクリル酸水溶液160gを加えた後、1M−NaOH水溶液でpHを5に調整した。これを25℃で5時間撹拌したあと、濾紙にて濾過を行い、活性炭を除去した。その後、活性炭に付着したアクリルアミドを回収するため、300gの純水で活性炭を洗浄し、先の活性炭処理液と混合して、1M−NaOH水溶液で中和し、pHを7として約7900gの製品(反応液(II))を得た。この活性炭処理後の製品(反応液(II))中の最終アクリルアミド濃度は、50.6重量%であった。
【0052】
さらに、予め1M−HCL水溶液を用いてH型にしておいた陽イオン交換樹脂であるアンバーライトIR120B(ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製)を200mL、ガラスカラムに充填し、これに、SV=1(1/h)の速度で反応液(II)を通液して、不純物を除去した。すなわち、反応液(II)に含まれる金属イオン等の陽イオンの濃度を低減させた。最後に、1M−NaOHで中和を行い、pHを7に調整して、約50重量%のアクリルアミド水溶液を得た。
【0053】
〔銅の測定結果〕
得られたアクリルアミド水溶液を500ml分液ロートに200ml採取し、クエン酸アンモニウム20gを75gの水に溶解した液を10ml取り、混合した。10%-アン
モニア水を加え、pHを9に調整した。これにN、N-ジエチルカルバミド酸ナトリウム・3水和物を0.2g添加したあと混合した。その後酢酸n−ブチルを10ml加え、さらに
シェーカーで1分間振盪したあと10分静置し、酢酸n-ブチル層を分離した。
【0054】
得られた酢酸n-ブチル層を乾燥した5Cのろ紙でろ過し、波長430nm、10mm
セルを用いて吸光度を測定(対象は酢酸n-ブチル)し、また純水200mlを用いて実
施した空試験の吸光度も測定し、予め濃度既知の標準試料(原子吸光度用銅標準溶液等)から求めておいた検量線を用いて分析値を計算した。その結果、分析値は検出限界(0.002ppm)以下であった。
【0055】
[アクリルアミド系重合体の製造]
上記の方法で得られたアクリルアミド水溶液に、水を加え濃度20重量%のアクリルアミド水溶液とした。この20重量%アクリルアミド水溶液500gを1Lポリエチレン容器に入れ、18℃に保ちながら、窒素を通じて液中の溶存酸素を除き、直ちに、発泡スチロール製の保温用ブロックの中に入れた。
【0056】
ついで、200×10-6mpm(アクリルアミドに対するモル比)の4,4’−アゾビス(4−シアノバレリアン酸ナトリウム)、200×10-6mpmのジメチルアミノプロピオニトリル、および80×10-6mpmの過硫酸アンモニウムを各々小量の水に溶解して、この順序に1Lポリエチレン容器中に素早く注入した。これらの試薬には、予め窒素ガスを通じておき、また、注入およびその前後には、上記ポリエチレン容器にも少量の窒素ガスを通じ、酸素ガスの混入を防止した。
【0057】
試薬を注入すると、数分間の誘導期の後、ポリエチレン容器の内部の温度が上昇するのが認められたので窒素ガスの供給をとめた。約100分間、保温用ブロック中で、そのままの状態でポリエチレン容器を保持したところ、ポリエチレン容器の内部の温度が約70℃に達した。そこで、ポリエチレン容器を保温用ブロックから取りだし、97℃の水に2時間浸漬しさらに重合反応を進めた。その後冷水に浸漬して冷却し、重合反応を停止した。
【0058】
このようにして得られたアクリルアミドポリマーの含水ゲルをポリエチレン容器から取り出し、小塊にわけ、肉挽器ですりつぶした。このすりつぶしたアクリルアミドポリマーの含水ゲルを、100℃の熱風で2時間乾燥し、さらに、高速回転刃粉砕器で粉砕して乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを得た。
【0059】
得られた乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを篩にかけ、32〜42メッシュのポリマーを分取した。この分取したアクリルアミドポリマーを後述するアクリルアミドポリマーの試験法により評価した。評価結果を表1に示す。
【0060】
[実施例2、3び比較例1]
アクリルアミド中の銅の濃度が、それぞれ0.005、0.01、0.1ppmであるアクリルアミドを用いた他は実施例1と同様にして、アクリルアミドポリマーを製造した。なお、0.005ppmであるアクリルアミドは、前記「アクリルアミドの製造」で得られたアクリルアミド(純分)に対し硫酸銅(II)・5水和物を0.019ppmとなるように添加し、さらに0.01%−水酸化ナトリウム水溶液でpHを7に調整して得た。0.01ppmであるアクリルアミドは、アクリルアミド(純分)に対し硫酸銅(II)・5水和物を0.039ppmとなるように添加し、0.1ppmであるアクリルアミドは、アクリルアミド(純分)に対し硫酸銅(II)・5水和物を0.39ppmとなるように添加したほかは、銅の濃度が0.005ppmであるアクリルアミドと同様にして調製した。
【0061】
評価結果を表1に示す。
[アクリルアミドポリマーの試験法]
上記ポリマーサンプル製造時の重合速度は最高温度に到達するまでの時間で評価した。
【0062】
また、上記得られたポリマーサンプルの水溶性および標準粘度の評価を以下の方法で行った。
水溶性:水溶性は、1Lビーカーに水600mLを入れ、定められた形状の攪拌羽根で25℃で攪拌しながらポリマーサンプル0.66g(ポリアクリルアミド純分0.6g)を添加し、400rpmで2時間攪拌を行い、得られた溶液を150メッシュの金網で濾過し、不溶解分の量の多少と濾過性とから、水溶性を判断した。即ち、完溶のものを◎、完溶に近いものを○、不溶解分があるが、それを濾別できるものを△、濾液の通過が遅く、不溶解分の濾過が事実上出来ないものを×とした。
【0063】
標準粘度:上記の水溶性試験により得られる濾液は、濃度0.1重量%のポリマー水溶液であるが、これに1M濃度相当の塩化ナトリウムを加え、BL型粘度計でBLアダプターを用いて25℃、ローター回転数60rpmで粘度を測定した(標準粘度)。このような方法で得られる標準粘度は分子量に相関のある値として慣用される。
【0064】
表1に示すように、アクリルアミド中の銅イオンが0.01ppm以下では、重合速度が
高く、得られるポリマーも高分子量であった。
【0065】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中で、(メタ)アクリロニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒により水和反応させて得られ、かつ、銅の濃度が0.01ppm以下である(メタ)アクリルアミドを、単独重合もしくは共重合して、または
該(メタ)アクリルアミドを、(メタ)アクリルアミドと共重合可能な少なくとも一種の不飽和単量体と共重合して、(メタ)アクリルアミド系重合体を製造する方法。
【請求項2】
前記(メタ)アクリルアミドが、陽イオン交換樹脂により処理した水性媒体中で、(メタ)アクリロニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒により水和反応させて得られ、かつ、銅の濃度が0.01ppm以下に低減された(メタ)アクリルアミドである請求項1に記載の(メタ)アクリルアミド系重合体を製造する方法。
【請求項3】
前記(メタ)アクリルアミドが、水性媒体中で、陽イオン交換樹脂により処理した(メタ)アクリロニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒により水和反応させて得られ、かつ、銅の濃度が0.01ppm以下に低減された(メタ)アクリルアミドである請求項1または2に記載の(メタ)アクリルアミド系重合体を製造する方法。
【請求項4】
前記(メタ)アクリルアミドが、前記水和反応により得られた反応液を陽イオン交換樹脂により処理して、銅の濃度が0.01ppm以下に低減された(メタ)アクリルアミドである請求項1に記載の(メタ)アクリルアミド系重合体を製造する方法。
【請求項5】
請求項1に記載の(メタ)アクリルアミド系重合体を製造する方法によって得られる(メタ)アクリルアミド系重合体。

【公開番号】特開2008−247979(P2008−247979A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88082(P2007−88082)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】