説明

高圧ガス安全装置

【課題】高圧ガスの封止機能と安全機能を兼ねる高圧ガス安全装置で、常時のシール性と異常高温時の安全性を簡単な構成で両立できるものが求められている。
【解決手段】本発明に係る高圧ガス安全装置は本体(1)に設けられた一次ガスの通路(2)上に該通路(2)を開閉する弁ピン(8)用の弁匣(4)を介装する。該弁匣(4)と該本体(1)の対向側面に環状溝(17)を設け、該環状溝(17)を放出路(18)に連通させると共に該環状溝(17)に一次ガスの漏れ流路上で上流側にOリング(19)をまた下流側に可溶バックアップリング(20)を装入する。該弁ピン(8)により制御されるガスの供給孔(13)を備えた抑止部材(12)を該本体(1)に取付けて該弁匣(4)と該可溶バックアップリング(20)を抑止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高圧ガス安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
異常高圧の発生時にガス圧を外部へ逃がして容器本体の爆発を防ぐ手段としては、以下の(1)〜(3)に示すものが周知となっている。
(1)バネ等の弾性材を用いた安全弁
異常高圧発生時に弾性材がたわみ、弁を解放してガスを逃がすもの。
(2)破裂板
異常高圧発生時に破裂板が破裂してガスを逃がすもの。
(3)可溶栓
異常高圧発生時に低融点合金が溶け出してガスを逃がすもの。
また、本件出願人の開発した高圧ガス安全装置に関しては、特開平7−167321号に示されたものがある。
【特許文献1】特開平7−167321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
周知となっている手段の場合、いずれも独立要素として製品に付置されるため、製品構成が複雑化し、大型化してしまい、コスト高になるという欠点がある。その上、可溶栓の場合、低融点合金を採用するため、機械的強度が弱くなり、クリープ現象を起こす可能性があり、常時のシール欠如(モレ)が懸念される。
【0004】
本件出願人が開発した前記の安全手段は、常時のシール機能と異常時の安全機能を兼ねており、小スペースで製品内部に設置されるという利点や特徴が挙げられるが、その反面、圧縮パッキンとしては、「ゴム弾性がない」、「耐熱性が悪い(低温収縮、硬化)等の欠点があり、その使用範囲が制限されてしまう。例えば、低温、高圧下においてシール性の低下が懸念される。
(例)実験上
窒素ボンベ取付時、0℃の低温下(内圧約15MPa)において、モレが発生した。
本発明は高圧ガスの封止機能と安全機能を兼ねる機構であって、常時のシール性と異常高温時の安全性を簡単な構成で両立することができる高圧ガス安全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る高圧ガス安全装置は、本体に設けられた一次ガスの通路上に該通路を開閉する弁ピン用の弁匣を介装する。該弁匣と該本体の対向側面に環状溝を設ける。該環状溝を、自身の内端が該環状溝に連設された該環状溝より大径の環状開口部に開口している放出路に連通させると共に該環状溝に一次ガスの漏れ流路上で上流側にOリングをまた下流側に熱可塑性樹脂製の可溶バックアップリングを装入する。そして、該弁ピンにより制御されるガスの供給孔を備えた抑止部材を該本体に取付けて該弁匣と該可溶バックアップリングを抑止する。
【0006】
本体には高圧ガス容器が直接取り付けられ、その通路に一次(高圧)ガスが供給される。
弁ピンが移動して供給孔を開閉することによりこのガス通路が開閉され、高圧ガスはこの通路を通って需要側へ流れ、又は、停止するようになっている。
一次ガスは通路が閉鎖されているとき、弁匣と本体間の隙間にも漏れ出るが、Oリングにより遮断されてそれを越えて外部へ漏れ出ることはない。このOリングは通常の材質のものを採用できる。
このOリングには一次ガスの漏れ流路上で下流側に可溶バックアップリングが配置され、この可溶バックアップリングは抑止部材により抑止されている。本体が加熱される等によりその温度が異常に高くなると、可溶バックアップリングは溶融し、変形し、さらにはこれらが原因して破断するので、異常に高圧となった一次ガス圧を受けたOリングの押圧力に対抗できず、Oリングの変形を許すことになる。そのためOリングはシール機能を失い、ガスは放出路を通って外部へ放出され、ガス容器の爆発を防止する。
【0007】
該抑止部材は該可溶バックアップリングの抑止面に該放出路に連通する開口溝を備えていてもよい。
こうすると、該可溶バックアップリングが過熱されて変形したときに、この開口溝との関連部分に局部的な応力集中を発生させることができ、この部分で該可溶バックアップリングを破断させ、Oリングの一部にはみ出しを起こさせて、異常高圧を大気に放出させることができる。
【0008】
該可溶バックアップリングは低密度ポリエチレン樹脂製又はエチレン酢酸ビニル共重合樹脂製であってもよい。
こうすると、圧縮パッキンとして単独で使用するのは、ゴム弾性がない、低温収縮や硬化等耐熱性が悪い等の欠点により、低温や高圧においてのシール性の低下の恐れがあるため控えられていたのを、通常のOリングとの併用により解決でき、安全に供用できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る高圧ガス安全装置によれば、本体に設けられ高圧ガスの通路が閉鎖されているとき、高圧ガスは弁匣と本体間の隙間に漏れ出るが、Oリングにより遮断されてそれを越えて外部へ漏れ出ることはなく、このOリングは安全機能が要求されないので、通常の材質のものを採用でき、このOリングには一次ガスの漏れ流路上で下流側に可溶バックアップリングが配置され、この可溶バックアップリングは抑止部材により抑止されているので、本体が加熱される等によりその温度が異常に高くなると、可溶バックアップリングは溶融し、変形し、さらにはこれらが原因して破断し、異常に高圧となった一次ガス圧を受けたOリングの押圧力に対抗できず、Oリングの変形を許してそのシール機能を失わせ、ガスは放出路を通って外部へ放出され、ガス容器の爆発を防止する。
【0010】
請求項2によれば、該抑止部材は該可溶バックアップリングの抑止面に該放出路に連通する開口溝を備えているので、該可溶バックアップリングが過熱されて変形したときに、この開口溝との関連部分に局所的な応力集中を発生させることができ、この部分で該可溶バックアップリングを破断させ、Oリングの一部にはみ出しを起こさせて、異常高圧を大気に放出させることができる。
【0011】
請求項3によれば、該可溶バックアップリングは低密度ポリエチレン樹脂製又はエチレン酢酸ビニル共重合樹脂製なので、圧縮パッキンとして単独で使用するのは、ゴム弾性がない、低温収縮や硬化等耐熱性が悪い等の欠点により、低温や高圧においてのシール性の低下の恐れがあるため控えられていたのを、通常のOリングとの併用により解決でき、安全に供用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明に係る高圧ガス安全装置の具体例を示す切断側面図、図2は同じく別の態様の切断側面図、図3は図2のA矢視図で、全図を通し、同一符号は同一若しくは相応部分を示す。
【0013】
開閉弁機構は通常の構成である。即ち、1は本体、2は一次ガスの通路でこの本体1に設けられ、この通路2の上流側3は一次ガスの供給源(図示省略)、例えば高圧ガスボンベに導通している。4は弁匣で、自身の上流側で通路2と連通する制御路5を軸線X上に備えている。この制御路5は下流側端部に収容室6が設けられ、この収容室6にOリング7が収容される。8は弁ピンで、円錐台部9を挟んで一方に大径部10を、他方に小径部11を備えている。この弁ピン8はその大径部10が制御路5に摺動自在に装入され、また小径部11はOリング7を緩通して本体1に取付けた抑止部材12の供給孔13を摺動自在に緩通している。
【0014】
この制御路5にばね14が装入され、このばね14は一端が本体1に抑止され、他端で弁ピン8の大径部10を押圧している。一般的には、フィルター15が制御路5の上流側入り口に設けられ、ばね14はこのフィルター15で抑止され、弁匣4の側壁にこのフィルター15の側面に開口する逃げ孔16がガスの大量放出のために穿たれている。弁ピン8はばね14の押圧力によりOリング7を円錐台部9と抑止部材12の双方の面に圧接させ、一次ガスの流れを遮断している。
【0015】
通常のように、弁ピン8をばね14に逆らって押し込むことによりOリング7が円錐台部9の面から離別し、制御路5、即ち供給孔13が開放されて高圧ガスが流出し、需要側に供給される。
【0016】
本発明の開閉弁機構では、弁匣4と本体1の対抗側面に環状溝17を設ける。この環状溝17は、弁匣4に設けてもよいが、本体1に設けてもよい。本体1には大気に開放する放出路18を設け、環状溝17をこの放出路18に連通させる。この環状溝17にOリング19と可溶バックアップリング20を、一次ガスの漏れ流路上で上流側にOリング19が位置し、下流側に可溶バックアップリング20が位置するように、装入する。そして、抑止部材12を本体1に取り付け、この抑止部材12により弁匣4と可溶バックアップリング20を抑止する。抑止部材12は螺栓形式が好ましいが、螺子等で取付ける蓋板状のものでもかまわない。
【0017】
常時は、ガス供給源からのガスは本体1の通路2を流れて弁匣4の制御路5に入り、抑止部材12の供給孔13を通って需要側に流れようとするが、ばね14の作用により弁ピン8、Oリング7及び抑止部材12が協働して供給孔13を遮断し、需要側へは流れない。ガスの一部は弁匣4と本体1の隙間を通ってOリング19に到達するが、このOリング19により遮断されて下流側へは流れない。
【0018】
火災などでガス容器が加熱され、ガス圧が異常に高くなると、このOリング19に高圧がかかる。可溶バックアップリング20が過熱により、溶融、変形、破断等を起こすと、可溶バックアップリング20はOリング19にかかる高圧を支えきれず、その変形を許容し、高圧ガスはこのOリング19の変形で現出した隙間を通って放出路から大気中へ放出される。これにより、高圧ガス容器の破裂が防止される。
【0019】
抑止部材12は可溶バックアップリング20の抑止面31に、放出路18に連通する開口溝32を備えている。
この場合、可溶バックアップリング20が過熱されて変形したときに、この開口溝32との関連部分に局部的な応力集中を発生させることができ、この部分で可溶バックアップリング20を破断させ、Oリング19の一部にはみ出しを起こさせて、異常高圧を大気に放出させることができる。
【0020】
可溶バックアップリング20は低密度ポリエチレン樹脂製又はエチレン酢酸ビニル共重合樹脂製となっている。
この場合、圧縮パッキンとして単独で使用するのは、ゴム弾性がない、低温収縮や硬化等耐熱性が悪い等の欠点により、低温や高圧においてのシール性の低下の恐れがあるため控えられていたのを、通常のOリングとの併用により解決でき、安全に供用できる。
【0021】
本発明に即して製作した安全装置の気密特性と作動特性を検証したところ、次の結果が得られた。これらの検証から、この安全装置は実用性が十分であると判断される。
【0022】
「実施例1(気密特性)」
表1はこの安全装置と従来型安全装置にそれぞれ窒素ボンベを取付け、放置したときの気密性能の検証結果を示すものである。検体<1>はこの安全装置を、検体<2>は従来型の安全装置を使用したガス供給器である。
なお、両検体とも低密度ポリエチレン樹脂製のリングを構成部品としているが、検体<1>は可溶バックアップリング、検体<2>は可溶パッキンとして使用している。
この表1から分かるとおり、検体<1>については、検体<2>でモレ発生した条件より過酷な条件下で試験を行ったが、検体<1>にモレは起こらなかった。即ち、シール性が強化されていることが分かる。
【0023】
(表1)

【0024】
「実施例2(作動特性)」
本発明に即して試作された安全装置に、温度変動に対し圧力変化の大きい液化炭酸ガスボンベ(充填比1.3)を取付け、約90℃の恒温槽に放置したところ、ボンベの表面温度が70〜80℃になったとき、放出路よりガス放出(安全装置作動)した。
また、作動後の安全装置を分解して検査したところ、可溶バックアップリング20が開口溝32との対向部分で破断し、Oリング19がはみ出し、あるいは切断されており、これらがガス漏れの原因であるという判断に誤りはないと考える。
【0025】
この安全装置が遭遇すると想定される温度範囲(保管から使用)の0〜40℃においては、モレ等の問題は見受けられず、安全装置として十分に実用性があると考える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかる高圧ガス安全装置の具体例を示す縦断正面図である。
【図2】本発明にかかる高圧ガス安全装置の別の具体例を示す縦断正面図である。
【図3】図2のA矢視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 本体
2 通路
3 上流側
4 弁匣
5 制御路
6 収容室
7 Oリング
8 弁ピン
9 円錐台部
10 大径部
11 小径部
12 抑止部材
13 供給孔
14 ばね
15 フィルター
16 逃げ孔
17 環状溝
18 放出路
19 Oリング
20 可溶バックアップリング
31 抑止面
32 開口溝
33 環状開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体(1)に設けられた一次ガスの通路(2)上に該通路(2)を開閉する弁ピン(8)用の弁匣(4)を介装し、該弁匣(4)と該本体(1)の対向側面に環状溝(17)を設け、該環状溝(17)を、自身の内端が該環状溝(17)に連設された該環状溝(17)より大径の環状開口部(33)に開口している放出路(18)に連通させると共に該環状溝(17)に一次ガスの漏れ流路上で上流側にOリング(19)をまた下流側に熱可塑性樹脂製の可溶バックアップリング(20)を装入し、該弁ピン(8)により制御されるガスの供給孔(13)を備えた抑止部材(12)を該本体(1)に取付けて該弁匣(4)と該可溶バックアップリング(20)を抑止して成ることを特徴とする高圧ガス安全装置。
【請求項2】
該抑止部材(12)は該可溶バックアップリング(20)の抑止面(31)に該放出路(18)に連通する開口溝(32)を備えている請求項1に記載の高圧ガス安全装置。
【請求項3】
該可溶バックアップリング(20)は低密度ポリエチレン樹脂製又はエチレン酢酸ビニル共重合樹脂製である請求項1又は2に記載の高圧ガス安全装置。


【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−298128(P2008−298128A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143191(P2007−143191)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(390009818)日本炭酸瓦斯株式会社 (11)
【Fターム(参考)】