説明

高圧水素試験設備や高圧水素充填設備での充填制御方法およびその装置

【課題】簡単な構成で、試験体の温度が過度に上昇することがなく、一定の昇圧率で圧力を印加することの出来る高圧水素試験設備や高圧水素充填設備での充填制御方法を提供する。
【解決手段】高圧圧縮機1、冷却部2、試験体3、高圧バッファタンク4をガス供給路5で接続して閉回路を形成し、高圧圧縮機1の吐出口1aと吸込口1bとを圧力調整弁7を介装したバイパス路8で接続し、高圧圧縮機1の吐出側でのバイパス路分岐部8aよりも下流側に流路開閉弁9を配置し、試験体3への流入口よりも上流側に圧力調整弁10を配置し、この圧力調整弁10の開度を昇圧率が一定となるように制御するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水素使用設備を構成する機器や配管類の圧力変化に伴う耐久性を把握するための試験設備や、高圧水素を充填する設備での充填制御方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧ガス使用設備を構成する構成部品の圧力変化に伴う耐久性を検査するために、大気圧から設定圧力まで、繰り返し圧力を変化させて耐久性を確認するいわゆるインパルス試験を課している。この場合、油等の非圧縮性流体による圧力印加が一般的である。
【0003】
高圧ガス設備向けの高圧ホースを試験体とした場合については、非圧縮性流体によるインパルス試験だけでなく、その影響を評価するために、実際に使用される気体による試験が望ましいが、遮断弁の開閉により急速に圧力を印加すると、断熱圧縮により試験体の内部に温度上昇が生じることから、圧力サイクル、温度サイクルのいずれが高圧ホースの耐久性に影響しているのか、正確な評価が出来ないという問題がある。このため、試験体の温度が過度に上昇しないよう、一定の昇圧率で圧力を印加することが求められる。
【0004】
燃料電池車等への水素充填設備においても、車載容器の温度上昇を防止するために一定の昇圧率での充填が提案されており、この一定の昇圧率で充填を行う方法として、たとえば、特許文献1に示されているように、充填対象物(車載容器)の内容積から、一定昇圧率となる充填流量を計算し、その流量を制御するものが提案されている。
【0005】
また、充填対象物の内容積を把握しなくても、一定時間内における充填流量と、その間の圧力上昇幅から次の一定時間内の目標充填流量を設定する方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−98474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述のいずれの方式にあっても、充填中の流量を流量計で計測する必要があり、高圧水素用の流量計の設置は試験設備費用が高くなるという問題があり、また、既存の流量計では対応できないさらに高圧の試験においては、流量計が使えないという課題がある。
【0008】
また、試験体の内容積が常に一定であれば、内容積から充填流量を決めてもよいが、試験体の内容積が特定されていない場合、その都度、内容積から充填流量を設定することになり、その作業が煩雑となるという問題もあった。
【0009】
本発明は、このような点に着目してなされてもので、簡単な構成で、試験体の温度が過度に上昇することがなく、一定の昇圧率で圧力を印加することの出来る高圧水素試験設備や高圧水素充填設備での充填制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するために、請求項1に記載の本発明は、高圧水素試験設備に高圧水素を充填するに当たり、試験体に充填供給する高圧水素の供給路に冷却部と圧力調整弁を介在させ、この圧力調整弁の開度を調整することにより、試験体が温度上昇の熱的影響を受けない一定昇圧率を設定するようにしたことを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の本発明は、高圧水素試験設備に高圧水素を充填する装置を、高圧圧縮機、冷却部、試験体、高圧バッファタンクをガス供給路で接続して閉回路を形成し、高圧圧縮機の吐出口と吸込口とを圧力調整弁を介装したバイパス路で接続し、高圧圧縮機の吐出側でのバイパス路分岐部よりも下流側に流路開閉弁を配置し、試験体への流入口よりも上流側に圧力調整弁を配置し、この圧力調整弁の開度を昇圧率が一定となるように制御するように構成したことを特徴としている。
【0012】
また、請求項5に記載の本発明は、高圧水素充填設備に高圧水素を充填するに当たり、充填容器に充填供給する高圧水素ガスの供給路に圧力調整弁を介在させ、この圧力調整弁の開度を調整することにより、充填容器が温度上昇の熱的影響を受けない昇圧率となるように設定するようにしたことを特徴としている。
【0013】
さらにまた、請求項7に記載の本発明は、高圧水素貯蔵タンク、高圧圧縮機、充填容器をガス供給路で接続してガス充填回路を形成し、高圧圧縮機の吐出口と吸込口とを圧力調整弁を介装したバイパス路で接続し、高圧圧縮機の吐出側でのバイパス路分岐部よりも下流側に流路開閉弁を配置し、試験体への流入口よりも上流側に圧力調整弁を配置し、この圧力調整弁の開度を昇圧率が一定となるように制御するように構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、試験体あるいは充填容器への充填を開始し、その後予め定めた時間(たとえば1秒間)での圧力上昇幅から直接、圧力調整弁の開度を開閉制御して、一定の昇圧率となるように圧力を調整することが出来るから、試験体や充填容器の内容積が変わっても、高価な流量計を用いることなく一定の昇圧率で高圧水素を充填することが出来るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】インパルス試験設備の概略フローを示す図である。
【図2】インパルス試験での圧力と時間との関係を示す図でする。
【図3】水素ガスの充填制御の一例を示す圧力変化図である。
【図4】水素充填設備の概略フローを示す図でする。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は容器類・配管類やフィッティング類を試験体とし、高圧水素を作用させてインパルス試験を行う試験設備の概略を示す構成図である。
この試験設備は、高圧圧縮機(1)、冷却部(2)、試験体(3)、高圧バッファタンク(4)をそれぞれガス供給路(5)で接続して閉回路を形成し、高圧圧縮機(1)の吐出口(1a)に配置したクーラー(6)の出口(6a)と高圧圧縮機(1)の吸込口(1b)とを圧力調整弁(7)を介装したバイパス路(8)で接続し、クーラー(6)の出口(6a)側でのバイパス路分岐部(8a)よりも下流側に位置するガス供給路(5)に流路開閉弁(9)が配置してある。
【0017】
冷却部(2)と試験体(3)との間のガス供給路(5)には、圧力調整弁(10)が介装してあり、この圧力調整弁(10)は制御装置(11)からの制御信号によりその開度を調整するように構成してある。制御装置(11)には試験体(3)の入口部(3a)で検出した温度と圧力および試験体(3)の出口部(3b)で検出した温度が検出データとして入力されるようになっている。
【0018】
試験体(3)と高圧バッファタンク(4)との間のガス供給路(5)には流路開閉弁(12)、および高圧バッファタンク(4)と高圧圧縮機(1)の吸込口(1b)との間のガス供給路(5)にはそれぞれ流路開閉弁(13)と圧力調整弁(14)とがそれぞれ介装してある。
【0019】
次に、上述の構成からなる試験設備を用いて、インパルス試験を行う手順を説明する。ガス供給路(5)に試験体(例えば高圧ホース)(3)を接続し、試験体(3)と高圧バッファタンク(4)との間の流路開閉弁(13)を閉弁した状態で高圧圧縮機(1)と冷却部(2)との間に配置した流路開閉弁(9)を開弁して、高圧圧縮機(1)で加圧された高圧水素ガスを冷却部で冷却した状態で試験体(3)に供給する。このとき、高圧圧縮機(1)で90MPa程度の圧力に加圧された水素ガスは、高圧圧縮機(1)の吐出口(1a)に配置されたクーラー(6)で40℃程度に冷却され、さらに、冷却部(2)で液体窒素などの冷媒と熱交換して、233K(−40℃)程度の温度に冷却されて、試験体(3)に供給される。
【0020】
試験体(3)では、高圧水素ガスが急速に流入すると、断熱圧縮により温度上昇が生じることから、試験体(3)の温度が過度に上昇しないようにするため、一定の昇圧率となるように圧力調整弁(10)の開度を調整して高圧水素ガスを充填する。そして、試験体(3)の内圧が所定の圧力(例えば70MPa)に達すると、高圧圧縮機(1)と冷却部(2)との間に配置した流路開閉弁(9)を閉弁するとともに、試験体(3)と高圧バッファタンク(4)との間の流路開閉弁(13)を開弁して、試験体(3)と高圧バッファタンク(4)とを連通させることにより、試験体(3)内の高圧水素ガスを高圧バッファタンク(4)内に移送することで、試験体(3)を大気圧程度まで脱圧させる。このガス充填−ガス脱圧の1サイクルの全体所要時間は5分程度で、インパルス試験ではこのガス充填−ガス脱圧サイクルを図2に示すように短時間ピッチで連続的に数千回繰り返す。
【0021】
高圧バッファタンク(4)と高圧圧縮機(1)とは、圧力調整弁(14)を介して基本的に常時連通されている。また、高圧圧縮機(1)は常時回転しており、高圧圧縮機(1)と冷却部(2)との間に配置した流路開閉弁(9)が閉弁した際には、バイパス路(8)を介して循環するように構成してある。そして、バイパス路(8)に配置した圧力調整弁(7)および高圧バッファタンク(4)と高圧圧縮機(1)との間のガス供給路(5)に配置した圧力調整弁(14)はいずれも二次側圧力が0.7〜0.8MPa程度の圧力になるように設定してある。
【0022】
試験体(3)に供給される高圧水素ガス流量は、圧力調整弁(10)の開度を制御することにより行われる。この高圧水素ガス流量制御は、試験体(3)の出入口部分に配置した温度計(15a)(15b)と試験体(3)の圧力を検出する圧力計(16)から制御装置(11)に入力される温度および圧力から、昇圧率を算出し、この刻々と変化する時間当たりの圧力上昇があらかじめ設定されている昇圧率に合致するように圧力調整弁(10)の開度を制御するようにしてある。
【0023】
この実施形態において、あらかじめ設定されている昇圧率とは、温度上昇の熱的影響を受けない昇圧率をいい、例えば水素ガスの場合、17〜18MPa/minの範囲の昇圧率である。
【0024】
インパルス試験をこのようにして行うと、試験体に供給する高圧水素ガスを冷却することで、充填対象物(試験体)の温度上昇を低減させて、検出結果に対する温度上昇の影響を抑制することが出来る。
【0025】
また、試験体(3)に充填した水素ガスを高圧バッファタンク(4)に回収し、圧縮機の吸入ラインに戻すことで、水素ガスを大気放出せず、試験費用を低減することが出来ることになる。さらに回収により、試験体内の水素脱圧を短時間に行うことができ、全体のガス充填―ガス脱圧のサイクルを短時間ピッチで繰り返すインパルス試験が容易となる。
【0026】
さらに常時運転する高圧圧縮機の吐出ラインに圧力調整弁(7)を配置することで、インパルス試験において試験体(3)への圧力印加を行わない脱圧工程時に、余剰分水素を大気へ放出することなく高圧圧縮機の吸入側へ回収することができ、試験用水素の無駄をなくすことができる。
【0027】
図4は、高圧水素を充填する設備の概略を示す構成図を示す。
この高圧水素充填設備は、水素供給源(17)を圧力調整弁(14)を介して高圧圧縮機(1)の吸入口(1b)に連通接続するとともに、高圧圧縮機(1)の吐出口(1a)をクーラー(6)、流路開閉弁(9)、圧力調整弁(10)を介して充填容器(18)に連通接続したものであり、クーラー(6)と流路開閉弁(9)との間から分岐導出したバイパス路(8)を圧力調整弁(7)を介して高圧圧縮機(1)の吸入口(1b)に連通接続してある。
【0028】
水素供給源(17)としては、高圧水素を貯蔵するタンクや天然ガス、LPG、灯油等を改質することで水素を発生させる水素発生装置が用いられる。
【0029】
図示しないが、本実施形態においては、流路開閉弁(9)と圧力調整(10)との間のガス供給路(5)に水素ガスを冷却する冷却部や、高圧圧縮機(1)からクーラー(6)を介して吐出される高圧水素を貯蔵する高圧バッファタンクを夫々単独にあるいは両方を設けてもよい。
【0030】
そして、本実施形態でも前述の実施形態と同様に、充填容器(18)での内圧上昇があらかじめ設定されている昇圧率に合致するように圧力調整弁(10)の開度を制御するようにしてある。昇圧率は充填容器の内容積、充填容器内にあるガスの初期温度・初期圧力により異なるが、たとえば水素ガスの場合、1〜30MPa/minの範囲の昇圧率である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、水素ガス充填設備や、高圧水素使用設備を構成する機器や配管類の実使用ガスを用いた試験設備での水素充填に利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1…高圧圧縮機(1a…吐出口、1b…吸込口)、2…冷却部、3…試験体(3a…流入口)、4…高圧バッファタンク、5…ガス供給路、7…圧力調整弁、8…バイパス路(8a…バイパス路分岐部)、9…流路開閉弁、10…圧力調整弁、17…水素供給源、18…充填容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧水素試験設備に高圧水素を充填するに当たり、試験体(3)に充填供給する高圧水素の供給路(5)に冷却部(2)と圧力調整弁(10)を介在させ、この圧力調整弁(10)の開度を調整することにより、試験体(3)が温度上昇の熱的影響を受けない昇圧率を設定するようにしたことを特徴とする高圧水素試験設備での充填制御方法。
【請求項2】
温度上昇の熱的影響を受けない一定昇圧率が17〜18MPa/minである請求項1に記載の高圧水素試験設備での充填制御方法。
【請求項3】
高圧圧縮機(1)、冷却部(2)、試験体(3)、高圧バッファタンク(4)をガス供給路(5)で接続して閉回路を形成し、高圧圧縮機(1)の吐出口(1a)と吸込口(1b)とを圧力調整弁(7)を介装したバイパス路(8)で接続し、高圧圧縮機(1)の吐出側でのバイパス路分岐部(8a)よりも下流側に流路開閉弁(9)を配置し、試験体(3)への流入口(3a)よりも上流側に圧力調整弁(10)を配置し、この圧力調整弁(10)の開度を昇圧率が一定となるように制御するように構成したことを特徴とする高圧水素試験設備での充填制御装置。
【請求項4】
試験体(3)での昇圧率が17〜18MPa/minである請求項3に記載の高圧水素試験設備での充填制御装置。
【請求項5】
高圧水素充填設備に高圧水素を充填するに当たり、充填容器(18)に充填供給する高圧水素の供給路(5)に圧力調整弁(10)を介在させ、この圧力調整弁(10)の開度を調整することにより、充填容器(18)が温度上昇の熱的影響を受けない昇圧率となるように設定するようにしたことを特徴とする高圧水素充填設備での充填制御方法。
【請求項6】
温度上昇の熱的影響を受けない昇圧率が1〜30MPa/minである請求項5に記載の高圧水素充填設備での充填制御方法。
【請求項7】
水素供給源(17)、高圧圧縮機(1)、充填容器(18)をガス供給路(5)で接続してガス充填回路を形成し、高圧圧縮機(1)の吐出口(1a)と吸込口(1b)とを圧力調整弁(7)を介装したバイパス路(8)で接続し、高圧圧縮機(1)の吐出側でのバイパス路分岐部(8a)よりも下流側に流路開閉弁(9)を配置し、充填容器(18)への流入口よりも上流側に圧力調整弁(10)を配置し、この圧力調整弁(10)の開度を昇圧率が一定となるように制御するように構成したことを特徴とする高圧水素充填設備での充填制御装置。
【請求項8】
充填容器(18)での昇圧率が1〜30MPa/minである請求項3に記載の高圧水素試験設備での充填制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−117481(P2011−117481A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273159(P2009−273159)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【出願人】(000158301)岩谷瓦斯株式会社 (56)
【Fターム(参考)】