説明

高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法

【解決課題】高強度中空ばね用シームレス鋼管の製造時にその内面表層部における粗大な内面疵の発生を抑制し、高品質のシームレス鋼管用素管の製造方法を提供すること。
【解決手段】
C:0.2〜0.7質量%、Si:0.5〜3質量%、Mn:0.1〜2質量%、Al:0.1質量%以下(0%を含まない)、P:0.02質量%以下(0%を含まない)、S:0.02質量%以下(0%を含まない)及びN: 0.02質量%以下(0%を含まない)を含有する鋼からなり、且つ、その内面表層部における鋼組織の平均結晶粒径が15μm以下に調整された中空ビレットを用いて熱間押出加工を行い、中空シームレス鋼管用の素管を製造することを特徴とする高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度の中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法に関し、特に自動車などに使用される中空形状の鋼製懸架ばねなどの製造に適した高品質のシームレス鋼管用素管の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、排ガス低減や燃費改善を目的とする自動車の軽量化や高出力化の要請が高まるにつれて、サスペンション、エンジン、クラッチ等に使用される懸架ばね、弁ばね、クラッチばね等においても高応力設計が志向されている。そのため、これらのばねは、高強度化・細径化していく方向であり、負荷応力がさらに増大する傾向にある。こうした傾向に対応するため、耐疲労性や耐へたり性においても一段と高性能なばね鋼が強く望まれている。また、耐疲労性や耐へたり性を維持しつつ軽量化を実現するために、ばねの素材としてこれまで用いられている棒状の線材(即ち、中実の線材)ではなく、中空にしたパイプ状の鋼材であって溶接部分のないもの(即ち、シームレスパイプ)をばねの素材として用いられるようになっている。上記のような中空シームレス鋼管を製造するための技術についても、これまでにも様々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、マンネスマン穿孔の後、マンドレルミル圧延を行う、ばね用の継目無鋼管の製造方法が開示されているが、マンネスマン穿孔時に深い内面疵が発生しやすい問題がある。また特許文献2には円筒状のビレットを用い、静水圧押出することで表面疵の浅いシームレス鋼管を製造する方法が開示されているものの、粗大な内面疵の発生を確実に抑制することができない問題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2512984号公報
【特許文献2】特開2007−125588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたものであり、高強度中空ばね用シームレス鋼管の製造時、特にその熱間押出工程の加熱時に、中空ビレットの中空表層部における粗大な内面疵の発生を抑制するシームレス鋼管用素管の製造方法を提供することをその課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.C:0.2〜0.7質量%、Si:0.5〜3質量%、Mn:0.1〜2質量%、Al:0.1質量%以下(0%を含まない)、P:0.02質量%以下(0%を含まない)、S:0.02質量%以下(0%を含まない)及びN: 0.02質量%以下(0%を含まない)を含有する鋼からなり、且つ、その内面表層部における鋼組織の平均結晶粒径が15μm以下に調整された中空ビレットを用いて熱間押出加工を行い、中空シームレス鋼管用の素管を製造することを特徴とする高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【0007】
2.前記中空ビレットの内面表層部における鋼組織の結晶粒径の調整を、鍛造仕上げ温度が900℃以上、1000℃未満の熱間鍛造によって行なう請求項1に記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【0008】
3.前記中空ビレットの内面表層部における鋼属組織の結晶粒径の調整を、熱間鍛造後に行う、900℃以上、1000℃未満の焼ならし処理によって行う請求項1に記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【0009】
4.C:0.2〜0.7質量%、Si:0.5〜3質量%、Mn:0.1〜2質量%、Al:0.1質量%以下(0%を含まない)、P:0.02質量%以下(0%を含まない)、S:0.02質量%以下(0%を含まない)及びN: 0.02質量%以下(0%を含まない)を含有する鋼からなる中空ビレットを、50〜600℃の温度に一旦予熱してから、熱間押出加工を行って中空シームレス鋼管を製造することを特徴とする高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【0010】
5.前記鋼が、さらに、Cr:3質量%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【0011】
6.前記鋼が、さらに、B:0.015質量%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【0012】
7.前記鋼が、さらに、V:1質量%以下(0%を含まない)、Ti:0.3質量%以下(0%を含まない)及びNb:0.3質量%以下(0%を含まない)から選ばれる1以上を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【0013】
8.前記鋼が、さらに、Ni:3質量%以下(0%を含まない)及びCu:3質量%以下(0%を含まない)から選ばれる1以上を含有する請求項1〜7のいずれかに記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【0014】
9.前記鋼が、さらに、Mo:2質量%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜8のいずれかに記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【0015】
10.前記鋼が、さらにCa:0.005質量%以下(0%を含まない)、Mg:0.005質量%以下(0%を含まない)及びREM:0.02質量%以下(0%を含まない)から選ばれる1以上を含有する請求項1〜9のいずれかに記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【0016】
11.前記鋼が、さらに、Zr:0.1質量%以下(0%を含まない)、Ta:0.1質量%以下(0%を含まない)及びHf:0.1質量%以下(0%を含まない)から選ばれる1種以上を含有する請求項1〜10のいずれかに記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内面表層部における粗大な内面疵の発生を抑制し、高品質の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の内容につき、詳述する。
先ず、本発明高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法(以下、本発明法製造方法、本製造方法、本方法、本発明などと略称する場合がある)においてその素材(中空ビレット)となる鋼の化学成分について、その基本成分(元素)であるC、Si、Mn、Al、P、S、Nからその成分範囲と限定理由を説明する。なお、以下の各成分についての%表示は全て質量%を意味する。
【0019】
(1)C:0.2〜0.7%
Cは、高強度を確保するのに必要な元素であり、そのためには0.20%以上含有させる必要がある。C含有量は、好ましくは0.3%以上であり、より好ましくは0.35%以上である。しかしながら、C含有量が過剰になると、延性の確保が困難になので、0.7%以下とする必要がある。C含有量は、好ましくは0.65%以下であり、より好ましくは0.6%以下である。
【0020】
(2)Si:0.5〜3%
Siは、ばねに必要な耐へたり性の向上に有効な元素であり、本発明で対象とする強度レベルのばねに必要な耐へたり性を得るには、Si含有量を0.5%以上とする必要がある。好ましくは1%以上、より好ましくは1.5%以上である。しかしながら、Siは脱炭を促進させる元素でもあるため、Siを過剰に含有させると鋼材表面の脱炭層形成を促進させる。その結果、脱炭層削除のためのピーリング工程が必要となるので、製造コストの面で不都合である。こうしたことから、本発明ではSi含有量の上限を3%とした。好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.2%以下である。
【0021】
(3)Mn:0.1〜2%
Mnは、脱酸元素として利用されると共に、鋼材中の有害元素であるSとMnSを形成して無害化する有益な元素である。この様な効果を有効に発揮させるには、Mnは0.1%以上含有させる必要がある。好ましくは0.15%以上、より好ましくは0.2%以上である。しかしながら、Mn含有量が過剰になると、偏析帯が形成されて材質のばらつきが生じる。こうしたことから、本発明ではMn含有量の上限を2%とした。好ましくは1.5%以下であり、より好ましくは1%以下である。
【0022】
(4)Al:0.1%以下(0%を含まない)
Alは、主に脱酸元素として添加される。また、NとAlNを形成して固溶Nを無害化すると共に組織の微細化にも寄与する。特に固溶Nを固定させるには、N含有量の2倍を超えるようAlを含有させることが好ましい。しかしながら、AlはSiと同様に脱炭を促進させる元素でもあるため、Siを多く含有するばね鋼ではAlの多量添加を抑える必要があり、本発明では0.1%以下とした。好ましくは0.07%以下、より好ましくは0.05%以下である。
【0023】
(5)P:0.02%以下(0%を含まない)
Pは、鋼材の靭性や延性を劣化させる有害元素であるため、極力低減することが重要であり、本発明ではその上限を0.02%とする。好ましくは0.01%以下、より好ましくは0.008%以下に抑えるのが良い。尚、Pは鋼材に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%にすることは工業生産上困難である。
【0024】
(6)S:0.02%以下(0%を含まない)
Sは、上記Pと同様に鋼材の靭性や延性を劣化させる有害元素であるため、極力低減することが重要であり、本発明では0.02%以下に抑える。好ましくは0.01%以下、より好ましくは0.008%以下である。尚、Sは鋼に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%とすることは工業生産上困難である。
【0025】
(7)N:0.02%以下(0%を含まない)
Nは、Al、Ti等が存在すると窒化物を形成して組織を微細化させる効果があるが、固溶状態で存在すると、鋼材の靭延性及び耐水素脆化特性を劣化させる。本発明では、N量の上限を0.02%とする。好ましくは0.01%以下、より好ましくは0.005%以下である。
【0026】
本発明の対象とする素材は上記の基本成分を必須とするが、さらにこれに選択成分としてCr、B、[V、Ti、Nb]、[Ni、Cu]、Mo、[Ca、Mg、REM]、[Zr、Ta及びHf]などを適宜添加、含有させることもできる。これらの選択成分について、その成分範囲と限定理由を説明する。なお、[]で括った成分は同効の元素であることを示している。
【0027】
Cr:3%以下(0%を含まない)
Crは焼戻し後の強度確保や耐食性向上に有効な元素であり、特に高レベルの耐食性が要求される懸架ばねに重要な元素である。こうした効果は、Cr含有量が増大するにつれて大きくなるが、こうした効果を優先的に発揮させるためには、Crは0.2%以上含有させることが好ましい。さらに好ましくは0.5%以上とするのがよい。しかしながら、Cr含有量が過剰になると、過冷組織が発生し易くなると共に、セメンタイトに濃化して塑性変形能を低下させ、冷間加工性の劣化を招く。またCr含有量が過剰になると、セメンタイトとは異なるCr炭化物が形成されやすくなり、強度と延性のバランスが悪くなる。こうしたことから、本発明で用いる鋼材では、Cr含有量を3%以下に抑えることが好ましい。より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1.7%以下である。
【0028】
B:0.015%以下(0%を含まない)
Bは、鋼材の焼入れ・焼戻し後において旧オーステナイト粒界からの破壊を抑制する効果がある。この様な効果を発現させるには、Bを0.001%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Bを過剰に含有させると、粗大な炭硼化物を形成して鋼材の特性を害する。またBは、必要以上に含有させると圧延材の疵の発生原因にもなる。こうしたことから、B含有量の上限を0.015%とした。より好ましくは0.010%以下、さらに好ましくは0.005%以下とするのが良い。
【0029】
[V:1%以下(0%を含まない)、Ti:0.3%以下(0%を含まない)およびNb:0.3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上]
V、TiおよびNbは、C、N、S等と炭・窒化物(炭化物、窒化物および炭窒化物)、或は硫化物等を形成して、これらの元素を無害化する作用を有する。また上記炭・窒化物を形成して組織を微細化する効果も発揮する。更に、耐遅れ破壊特性を改善するという効果も有する。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、粗大な炭・窒化物が形成されて靭性や延性が劣化する場合がある。よって本発明では、V、TiおよびNbの含有量の上限を、夫々1%、0.3%、0.3%とすることが好ましい。より好ましくは、V:0.5%以下、Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下である。更には、コスト低減の観点からして、V:0.3%以下、Ti:0.05%以下、Nb:0.05%以下とすることが好ましい。
【0030】
[Ni:3%以下(0%を含まない)および/またはCu:3%以下(0%を含まない)]
Niは、コスト低減を考慮した場合には、添加を控えるためその下限を特に設けないが、表層脱炭を抑制したり耐食性を向上させる場合には、0.1%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Ni含有量が過剰になると、圧延材に過冷組織が発生したり、焼入れ後に残留オーステナイトが存在し、鋼材の特性が劣化する場合がある。こうしたことから、Niを含有させる場合には、その上限を3%とする。コスト低減の観点からは、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下とするのが良い。
【0031】
Cuは、上記Niと同様に表層脱炭を抑制したり耐食性を向上するのに有効な元素である。この様な効果を発揮させるには、Cuを0.1%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Cuの含有量が過剰になると、過冷組織が発生したり、熱間加工時に割れが生じる場合がある。こうしたことから、Cuを含有させる場合には、その上限を3%とする。コスト低減の観点からは、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下とするのが良い。
【0032】
Mo:2%以下(0%を含まない)
Moは焼戻し後の強度確保、靭性向上に有効な元素である。しかしながら、Mo含有量が過剰になると靭性が劣化する。こうしたことからMo含有量の上限は2%とすることが好ましい。より好ましくは0.5%以下とするのが良い。
【0033】
[Ca:0.005%以下(0%を含まない)、Mg:0.005%以下(0%を含まない)およびREM:0.02%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上]
Ca,MgおよびREM(希土類元素)は、いずれも硫化物を形成し、MnSの伸長を防ぐことで、靭性を改善する効果を有し、要求特性に応じて添加することができる。しかしながら、夫々上記上限を超えて含有させると、逆に靭性を劣化させる。夫々の好ましい上限は、Caで0.003%、Mgで0.003%、REMで0.01%である。
尚、本発明において、REMとは、ランタノイド元素(LaからLnまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味である。
【0034】
[Zr:0.1%以下(0%を含まない)、Ta:0.1%以下(0%を含まない)およびHf:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上]
これの元素は、Nと結びついて窒化物を形成し、安定で加熱時のオーステナイト(γ)粒径の成長を抑制し、最終的な組織を微細化し、靭性を改善する効果がある。但し、いずれも0.1%を超えて過剰に含有させると窒化物が粗大化し、疲労特性を劣化させるため好ましくない。こうしたことから、いずれもその上限を0.1%とした。より好ましい上限はいずれも0.05%であり、更に好ましい上限は0.025%である。
【0035】
そして、本発明法においては、上記成分を有する高強度ばね用鋼を素材として基本的には熱間押出加工法を適用してシームレス鋼管用素管を製造する。全体の製造工程としては、同成分の鋼を転炉などの精錬炉により溶製し、連続鋳造法により鋳片とし、この鋳片を熱間圧延して素ビレット(角または丸)とする。この素ビレットを熱間鍛造及び/または熱間圧延し、更に必要によって焼ならしなどの熱処理を実施した後、機械加工を行って中空ビレットを成形する。この中空ビレットを熱間押出加工して熱間押出鋼管(シームレス鋼管用素管)を造る。さらに得られたシームレス鋼管用素管に抽伸やピルガーミル圧延などの冷間加工、および軟質化目的の焼鈍、更には焼鈍スケール除去を目的とした酸洗を、通常、複数回繰り返し実施して、製品であるシームレス鋼管形状に成形する。
【0036】
本発明者らは、かかるシーレス鋼管の製造において発生する粗大な内面疵の原因について種々、検討行なったところ、上記熱間押出加工前の中空ビレットの加熱時に、ビレット内面に割れが発生し、これがその後の冷間加工を経た製品の内面疵として残存することを発見した。このビレット内面の割れは、加熱時に中空部の内面に生じる熱応力によるものであると共に、本発明で対象とする高強度ばね用鋼を用いて熱間押出用ビレットを作製する際には、機械加工性確保のためにフェライト・パーライト組織に制御するが、中炭素鋼のフェライト・パーライト組織は切欠き靭性に乏しいことが要因であることが判明した。
【0037】
こうした知見から、ビレット材質の切欠き靭性の改善がシームレス鋼管の内面疵発生抑制に有効であることを着想するにいたった。この切欠き靭性を向上させるためには、熱間押出加工前の中空ビレットの鋼組織を適切な結晶粒径の範囲に微細化、調整すること、あるいは中空ビレットを熱間押出加工前に適切な温度範囲に予熱することが重要であることが分かった。これらの条件についてより具体的に説明する。
【0038】
(A)中空ビレットの鋼組織(平均結晶粒径:15ミクロン以下)
本発明の対象とする前記鋼成分の高強度ばね用鋼からなる中空ビレットの組織サイズと、熱間押出加工後の割れ発生に関して調査したところ、同ビレットの内面表層部(中空内面表層部)における鋼組織の平均結晶粒径が15μmを超える場合に内面割れが発生し、一方、この平均結晶粒径が15μm以下であれば割れが発生しないことが確認された。この結果から、本発明では内面表層部における平均結晶粒径が予め15μm以下に調整された中空ビレットを用いて熱間押出加工を行なうことを必須とするものである。また、平均結晶粒径を好ましく12μm以下、さらに好ましくは10μm以下に調整された中空ビレットとすることにより鋼の切り欠靭性はより改善され、内面割れの発生をさらに確実に抑制することが可能となる。ここで、内面表層部とは内面からの厚みが0.1mm以下の範囲の領域を示すものである。
【0039】
そして、この内面表層部の平均結晶粒径を15μm以下に調整する具体的な方法としては、前記中空ビレットの成形工程における熱間鍛造または熱間圧延の際に、仕上げ温度を900℃以上、1000℃未満とするか、熱間鍛造または熱間圧延の後に900℃以上、1000℃未満の温度で焼ならし処理を行えば良い。勿論、中空ビレットの上記の平均結晶粒径を15μm以下に調整できる方法であれば、これらの方法に限定されるものではない。なお、熱間鍛造または熱間圧延の際に、仕上げ温度を900℃以上、1000℃未満とする場合、加工前の加熱温度は前記仕上げ温度の条件に制御しやすいようにすればよい。具体的には900〜1250℃程度に加熱をすればよい。また、熱間鍛造または熱間圧延の後に900℃以上、1000℃未満の温度で焼ならし処理を行う場合、熱間鍛造または熱間圧延は通常の条件で行えばよい。通常、熱間鍛造や熱間圧延は加熱温度が1000〜1250℃程度、仕上げ温度が1000℃以上となるような条件で行われる。
【0040】
(B)中空ビレットの予熱(予熱温度:50〜600℃)
一方、高強度ばね溶鋼の切欠き靭性は比較的低温での加熱状態の影響が大きいことから、熱間押出加工時の加熱の前に予熱することが切欠き靭性を向上に有効ではないかと考え、中空ビレットの予熱温度と熱間押出加工後の割れ発生の関係について調査したところ、この予熱温度が50〜600℃とすることにより内面割れが生じないこと分かった。
この結果に基づき、本発明では前記の鋼組織の結晶粒度の調整とは別の手段として、熱間押出加工時の加熱の前に、一旦50〜600℃の予熱を行なうことも必須とするものである。また、この中空ビレットの予熱温度の下限を好ましくは100℃さらに好ましくは300℃とすることにより、鋼の切り欠靭性はより改善され、内面割れの発生をさらに確実に抑制することができる。
【0041】
そして、本発明ではこれら(A)及び/または(B)の条件により処理された後は、中空ビレットを通常の条件で熱間押出加工を行えばよい。通常、熱間押出加工はビレットを950〜1150℃程度に加熱した後、押出加工を行う。
【0042】
(実施例)
以下に、本発明の優れた効果を実証するために実施例を挙げる。
供試鋼として表1に示す化学成分を有する中炭素ばね用鋼を溶製し、これを連続鋳造により製造した鋳片を熱間圧延し、155角のビレット(鋼片)を作製した後、900〜1250℃の種々の鍛造加熱温度及び鍛造仕上げ温度で熱間鍛造を行って150φの丸棒に成形した。一部については、熱間鍛造後に900℃、950℃で焼きならし処理を行った。次に150φの丸棒を機械加工して外径143φ×内径40φの押出用中空ビレット作成し、この中空ビレットを高周波加熱により1000〜1050℃に加熱した後、熱間押出加工を行って、外径54φ×内径38φの熱間押出鋼管(シームレス鋼管用素管)を得た。
【0043】
そして、このようにして得られた各シームレス鋼管用素管の軸方向中央部から組織観察用サンプルを湿式切断により採取し、鋼管横断面(押出軸方向と垂直な面)を観察するように観察試料を調整した。この際、金属組織を現出させるための腐食液として、ナイタール(硝酸+アルコール)を使用した。作製した試料の内面表層部(内面から0.1mm以下の領域)の鋼組織を、光学顕微鏡を用いて倍率100〜400倍で観察し、フェライトパーライト組織の結晶粒度を、フェライト粒度の測定方法(JISG0552)に準拠して、結晶粒度番号を小数点以下第1位まで測定した。各試料につき5視野の結晶粒度番号を測定して、それらの平均の粒度番号Gを算出し、次の式によってμmの単位に換算した結晶粒径を求めた。
結晶粒径D(μm)=10×2(10-G)/2
また、超音波探傷検査により疵の有無をチェックした。超音波探傷検査により、疵信号が認められた場合は、信号部を切断して、疵サイズを測定した。この際、超音波探傷検査で100μm以上の疵が認められなかったものを○、疵信号があり切断検査で100μm以上200μm以下だったものを×、200μm超だったものを××として評価した。これらの結果を、前記中空ビレットの製造条件と合わせて表2に示した。
【0044】
表2の本発明法による実施例(発明例)と比較例との対比から明らかなように、熱間押出加工前の中空ビレット(内面表層部)の平均結晶粒径を15μm以下に調整すること、または同中空ビレットを50〜600℃に予熱することによって、熱間押出加工時の加熱によっても割れが発生せず、内面疵のない高品質の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管が得られることが分かる。

【表1】


【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.2〜0.7質量%、Si:0.5〜3質量%、Mn:0.1〜2質量%、Al:0.1質量%以下(0%を含まない)、P:0.02質量%以下(0%を含まない)、S:0.02質量%以下(0%を含まない)及びN: 0.02質量%以下(0%を含まない)を含有する鋼からなり、且つ、その内面表層部における鋼組織の平均結晶粒径が15μm以下に調整された中空ビレットを用いて熱間押出加工を行い、中空シームレス鋼管用の素管を製造することを特徴とする高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【請求項2】
前記中空ビレットの内面表層部における鋼組織の結晶粒径の調整を、鍛造仕上げ温度が900℃以上、1000℃未満の熱間鍛造によって行なう請求項1に記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【請求項3】
前記中空ビレットの内面表層部における鋼属組織の結晶粒径の調整を、熱間鍛造後に行う、900℃以上、1000℃未満の焼ならし処理によって行う請求項1に記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【請求項4】
C:0.2〜0.7質量%、Si:0.5〜3質量%、Mn:0.1〜2質量%、Al:0.1質量%以下(0%を含まない)、P:0.02質量%以下(0%を含まない)、S:0.02質量%以下(0%を含まない)及びN: 0.02質量%以下(0%を含まない)を含有する鋼からなる中空ビレットを、50〜600℃の温度に一旦予熱してから、熱間押出加工を行って中空シームレス鋼管用の素管を製造することを特徴とする高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【請求項5】
前記鋼が、さらに、Cr:3質量%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【請求項6】
前記鋼が、さらに、B:0.015質量%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【請求項7】
前記鋼が、さらに、V:1質量%以下(0%を含まない)、Ti:0.3質量%以下(0%を含まない)及びNb:0.3質量%以下(0%を含まない)から選ばれる1以上を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【請求項8】
前記鋼が、さらに、Ni:3質量%以下(0%を含まない)及びCu:3質量%以下(0%を含まない)から選ばれる1以上を含有する請求項1〜7のいずれかに記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【請求項9】
前記鋼が、さらに、Mo:2質量%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜8のいずれかに記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【請求項10】
前記鋼が、さらにCa:0.005質量%以下(0%を含まない)、Mg:0.005質量%以下(0%を含まない)及びREM:0.02質量%以下(0%を含まない)から選ばれる1以上を含有する請求項1〜9のいずれかに記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。
【請求項11】
前記鋼が、さらに、Zr:0.1質量%以下(0%を含まない)、Ta:0.1質量%以下(0%を含まない)及びHf:0.1質量%以下(0%を含まない)から選ばれる1種以上を含有する請求項1〜10のいずれかに記載の高強度中空ばね用シームレス鋼管用素管の製造方法。



【公開番号】特開2012−166238(P2012−166238A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29259(P2011−29259)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(591081055)神鋼メタルプロダクツ株式会社 (17)
【Fターム(参考)】