説明

高強度電縫鋼管およびその製造方法

【課題】自動車衝撃吸収部材用として好適な、高強度電縫鋼管を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.5〜2.0%、Mn:1.0〜3.0%、Al:0.01〜0.1%、N:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物かなる組成と、フェライト相とマルテンサイト相からなる二相組織で、マルテンサイト相が体積率で20〜60%である組織とを有し、引張強さTSが1180MPa以上、管軸方向の伸びElが10%以上、降伏比が90%未満で、2%歪付与−170℃×10minの塗装焼付け処理後のBH量が100MPa以上で、かつ降伏比が90%以上となる優れた衝撃吸収特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアインパクトビームや、クロスメンバー、ピラー等の自動車の衝突部材用として好適な、高強度電縫鋼管に係り、とくに、加工性および衝撃吸収特性がともに優れた高強度電縫鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の安全性向上、とくに乗員の安全性確保を目的として、自動車車体には、衝突時の衝撃エネルギーを吸収するための衝撃吸収用部材が配設されるようになり、例えば、衝撃吸収用部材であるドアインパクトビームに、例えば特許文献1に示されるように、焼入れ処理を施され、マルテンサイト組織を有し、所望の高強度を有する高強度鋼管が適用されている。
【0003】
特許文献1に記載された技術は、C:0.15〜0.22%、Mn:1.5%以下、Si:0.5%以下、Ti:0.04%以下、B:0.0003〜0.0035%、N:0.0080%以下を含み、あるいはさらに、Ni:0.5%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、の1種または2種以上を含有する鋼管に焼入れ処理を行ない、引張強さ:120kgf/mm以上の機械構造用高強度鋼管を得るという機械構造用高強度鋼管の製造方法である。特許文献1に記載された技術によれば、自動車補強用鋼管である、ドアインパクトバー(ドアインパクトビーム)、バンパー用芯材として適用可能な、10%以上の良好な伸びを有し、引張強さ:120kgf/mm以上の高強度鋼管を、一度の熱処理で得ることができるとしている。
【0004】
また、引張強さ:120 kgf/mm以上を有する鋼板として、特許文献2〜7には、自動車構造部材に使用される引張強さが900MPa以上の高強度冷延鋼板に関する技術が記載されている。これら鋼板はいずれも、フェライト相とマルテンサイト相の二相組織あるいは、さらにベイナイト相、残留オーステナイト相を含む組織を有し、ベイナイト相、残留オーステナイト相の面積率の上限値を規定している。このような組織とすることにより、加工性と高強度とを兼備した鋼板となるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−122219号公報
【特許文献2】特開2010−255094号公報
【特許文献3】特開2010−126787号公報
【特許文献4】特開2009−242816号公報
【特許文献5】特開2009−203550号公報
【特許文献6】特開2007−100114号公報
【特許文献7】特開2005−163055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された技術では、特別な加工を施すことなく直管で使用する、ドアインパクトビームのような場合には大きな問題にならないが、各種形状への複雑な加工を必要とするクロスメンバー、ピラー等の他の自動車衝撃吸収用部材では、使用される鋼管には、高強度に加えて、さらに優れた加工性を具備することが要望されている。
また、特許文献2〜5に記載された技術では、焼鈍時の加熱保持後の冷却速度が遅いため、炭化物が析出し、フェライトの固溶C量が不十分となり、予歪付与−塗装焼付け処理による強度増加量(BH量)が少なく、BH量:100MPa以上を確保できていないという問題がある。
【0007】
また、特許文献6に記載された技術では、焼鈍時の加熱保持から水焼入れ開始するまでの冷却速度が考慮されておらず、例えば、製造ラインのレイアウトから、水焼入れを開始するまでの時間が長く、冷却速度が遅くなる場合には、フェライトとオーステナイトでのC量分配が進行し、BH特性に寄与すると考えられるフェライト中に残存する固溶C量が不十分となる。したがって、特許文献6には、BH量が100MPa以上を確保することが全く、記載されておらず、また、予期できるものではない。
【0008】
また、特許文献7に記載された技術では、仕上焼鈍時の冷却速度が、実施例に示された値で最大550℃/minと遅く、8%程度の伸びしか得られていない。また、伸びは全体に低く、最大でも11%である。したがって、特許文献7に記載された技術で製造された鋼板を電縫鋼管に加工した場合、造管時の加工歪を考慮すると、さらに伸びが低下して、鋼管として10%以上の伸びを確保できないという問題がある。
【0009】
本発明は、かかる要望に鑑み、優れた加工性を有し、さらに自動車衝撃吸収部材用として好適な、優れた衝撃吸収特性を確保することが可能な、高強度電縫鋼管およびその製造方法を提供することを目的とする。
なお、ここでいう「高強度」とは、引張強さTSが1180MPa以上である場合をいうものとする。また、ここでいう「優れた加工性」とは、JIS規格に規定されるJIS 12号引張試験片(GL:50mm)を用いた引張試験で得られる、管軸方向の伸びElが10%以上、好ましくは12%以上で、かつ管軸方向の降伏比(=(0.2%耐力/引張強さ)×100(%))が90%未満である場合をいうものとする。また、ここでいう「優れた衝撃吸収特性」とは、管に2%の予歪を付与し、さらに170℃×10minの熱処理(塗装焼付け処理)を施したのちの0.2%耐力と、2%の予歪付与時の強度との差、である強度増加量(BH量)が100MPa以上であり、管軸方向の降伏比が90%以上である場合をいうものとする。なお、BH量は、図2に定義される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、高強度を維持したまま、電縫鋼管の加工性を向上させるための各種方策について鋭意研究した。その結果、フェライトとマルテンサイトからなる二相組織を有し、加工性に優れ、かつ所望の塗装焼付け硬化性を有する鋼板(冷延鋼板)を鋼管素材として、素材の優れた加工性を極力低下させることなく造管できる造管方法を採用し、加工性に優れた電縫鋼管とすることに想到した。そして、このような電縫鋼管に、所望の部材形状とする加工を施したのち、熱処理(塗装焼付け処理)を施して降伏強さを増加させることにより、耐力が向上し、部材として優れた衝撃吸収特性を確保できることを見出した。
【0011】
本発明は、かかる知見に基いて、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.5〜2.0%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.1%、N:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相とマルテンサイト相からなる二相組織で、該マルテンサイト相が体積率で20〜60%である組織とを有し、引張強さTSが1180MPa以上、管軸方向の伸びElが10%以上、降伏比が90%未満で、予歪:2%付与したのち170℃×10minの熱処理を施す塗装焼付け処理後の強度増加量(BH量)が100MPa以上で、かつ降伏比が90%以上となることを特徴とする高強度電縫鋼管。
【0012】
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Nb:0.05%以下、Ti:0.05%以下、W:0.05%以下、B:0.0050%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする高強度電縫鋼管。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0050%以下、REM:0.0050%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする高強度電縫鋼管。
【0013】
(4)鋼素材に、該鋼素材を熱間圧延して熱延板とする熱延工程と、該熱延板に酸洗処理を施し、ついで冷間圧延を施し冷延板とする冷延工程と、該冷延板に、焼鈍処理を施し冷延焼鈍板とする焼鈍工程とを施して鋼管用素材とし、ついで該鋼管用素材に、該鋼管用素材を連続的に成形し略円筒状のオープン管とし、該オープン管を電縫溶接して電縫管とする造管工程を施して電縫鋼管とするにあたり、前記鋼素材を、質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.5〜2.0%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.1%、N:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、前記熱延工程を、仕上圧延終了温度がAr変態点以上で、巻取温度が500〜700℃である熱間圧延を施し熱延板とする工程とし、前記焼鈍工程を、前記冷延板に、Ac変態点〜Ac変態点の範囲の二相温度域の温度に、加熱し均熱したのち、600〜750℃の範囲の温度まで、平均で冷却速度10℃/s以上の冷却速度(平均冷却速度1と定義する)で冷却した後、600〜750℃の範囲の温度から室温まで、平均で、500℃/s以上の冷却速度(平均冷却速度2と定義する)で冷却する急冷処理を施し、ついで、150〜300℃の温度範囲に再加熱する焼戻処理を施し、冷延焼鈍板とする工程とし、前記成形を、ケージロール方式のロール成形とし、前記電縫鋼管が、引張強さTSが1180MPa以上、管軸方向の伸びElが10%以上、降伏比が90%未満であり、予歪:2%付与したのち170℃×10minの熱処理を施す塗装焼付け処理後の強度増加量(BH量)が100MPa以上で、かつ降伏比が90%以上となる鋼管である、ことを特徴とする高強度電縫鋼管の製造方法。
【0014】
(5)(4)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Nb:0.05%以下、Ti:0.05%以下、W:0.05%以下、B:0.0050%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする高強度電縫鋼管の製造方法。
(6)(4)または(5)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0050%以下、REM:0.0050%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする高強度電縫鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、自動車の衝撃吸収部材用として好適な、優れた加工性を有し、さらに実部材形状に成形した後に、優れた衝撃吸収特性を確保することが可能な、高強度電縫鋼管を、安価でかつ容易に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明になる高強度電縫鋼管は、ドアインパクトビームに限らず、とくに加工性を要求されるクロスメンバー、ピラー等の他の自動車衝撃吸収用部材、さらには自動車骨格部材など自動車部材全般にわたり、自動車部材用素材として適用できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施に好適なCBR方式のロール成形法を採用した電縫鋼管製造設備の1例を模式的に示す説明図である。
【図2】塗装焼付け処理後の強度増加量(BH量)の定義を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明になる高強度電縫鋼管の組成限定理由について説明する。以下、とくに断わらない限り質量%は、単に%で記す。
C:0.05〜0.20%
Cは、鋼を強化する作用を有する元素であり、所望の強度を確保するために本発明では0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.20%を超える含有は、溶接性を低下させる。このため、本発明では、Cは0.05〜0.20%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.08〜0.18%である。
【0018】
Si:0.5〜2.0%
Siは、脱酸剤として作用するとともに、固溶して鋼を強化し、さらにフェライト形成を促進させる作用を有し、優れた加工性を確保するために重要な元素である。また、Siは、フェライト相を固溶強化することにより、マルテンサイト相分率を少なく抑えて、所望の高強度を達成できる。このような効果を得るためには、0.5%以上の含有を必要とする。一方、2.0%を超えて含有すると、鋼板表面にSi酸化物を多量に形成し、化成処理性を低下させる。このため、本発明では、Siは0.5〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.0〜1.8%である。
【0019】
Mn:1.0〜3.0%
Mnは、焼入れ性を向上させ、マルテンサイト相を生成しやすくして、鋼の強度を増加させる元素であり、所望の強度を確保するために本発明では1.0%以上の含有を必要とする。一方、3.0%を超える含有は、偏析を助長し、鋳造時にスラブ割れを発生しやすくするとともに、マルテンサイト相が過剰に増加して加工性を低下させる。このため、Mnは1.0〜3.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.5〜2.5%である。
【0020】
P:0.1%以下
Pは、本発明では不純物として、加工性への悪影響を回避するため、できるだけ低減することが好ましいが、過度の低減は精錬コストを高騰させる。このため、Pは実質的に悪影響のない0.1%以下に限定した。なお、好ましくは0.05%以下である。
S:0.01%以下
Sは、Pと同様に本発明では不純物として、加工性への悪影響を回避するため、できるだけ低減することが好ましいが、過度の低減は精錬コストを高騰させるため、上限は0.01%とした。なお、好ましくは0.005%以下である。
【0021】
Al:0.01〜0.1%
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超えて含有しても、効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できなくなる。このため、Alは0.01〜0.1%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.01〜0.08%である。
【0022】
N:0.005%以下
Nは、鋼を強化し、成形性を低下させる元素であり、不純物としてできる限り低減することが好ましいが、過度の低減は精錬コストを高騰させる。このため、Nは実質的に悪影響のない0.005%以下に限定した。なお、好ましくは0.004%以下である。
上記した成分が基本の成分であるが、基本の組成に加えてさらに、必要に応じて、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Nb:0.05%以下、Ti:0.05%以下、W:0.05%以下、B:0.0050%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.0050%以下、REM:0.0050%以下のうちから選ばれた1種または2種、を選択して含有することができる。
【0023】
Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、Ti、W、Bは、いずれも、鋼の強度を増加させる元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上含有できる。
Cu:1.0%以下
Cuは、鋼の強度を増加させるとともに、耐食性を向上させる作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果は0.05%以上の含有で認められるが、1.0%を超える含有は、熱間加工性を低下させる。このため、含有する場合は、Cuは1.0%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.08〜0.5%である。
【0024】
Ni:1.0%以下
Niは、鋼の強度を増加させるとともに、耐食性を向上させる作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果は0.05%以上の含有で認められるが、Niは高価な元素であり、1.0%を超える多量の含有は、材料コストを高騰させる。このため、含有する場合は、Niは1.0%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.08〜0.5%である。
【0025】
Cr:0.5%以下
Crは、焼入れ性向上を介して鋼の強度を増加させるとともに、耐食性を向上させる作用を有する元素で、必要に応じて含有できる。このような効果は0.05%以上の含有で認められるが、0.5%を超えて含有すると、加工性を低下させる。このため、含有する場合は、Crは0.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.05〜0.4%である。
【0026】
Mo:0.5%以下
Moは、焼入れ性向上に加えて、析出強化により鋼の強度を増加させる作用を有する元素で、必要に応じて含有できる。このような効果は0.05%以上の含有で認められるが、0.5%を超えて含有すると、延性が低下するとともに、材料コストの高騰を招く。このため、含有する場合は、Moは0.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.1〜0.4%である。
【0027】
Nb:0.05%以下
Nbは、結晶粒を微細化するとともに、析出強化を介して鋼の強度を増加させる作用を有する元素で、必要に応じて含有できる。このような効果は0.005%以上の含有で認められるが、0.05%を超えて含有すると、延性が低下する。このため、含有する場合は、Nbは0.05%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.008〜0.03%である。
【0028】
Ti:0.05%以下
Tiは、結晶粒を微細化するとともに、析出強化を介して鋼の強度を増加させる作用を有する元素で、必要に応じて含有できる。このような効果は0.005%以上の含有で認められるが、0.05%を超えて含有すると、延性が低下する。このため、含有する場合は、Tiは0.05%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.008〜0.03%である。
【0029】
W:0.05%以下
Wは、析出強化を介して鋼の強度を増加させる作用を有する元素で、必要に応じて含有できる。このような効果は0.01%以上の含有で認められるが、0.05%を超えて含有すると、延性が低下する。このため、含有する場合は、Wは0.05%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.01〜0.03%である。
【0030】
B:0.0050%以下
Bは、焼入れ性向上を介してマルテンサイト分率を所定の範囲内に調整するとともに、鋼の強度を増加させる作用を有する元素で、必要に応じて含有できる。このような効果は0.0005%以上の含有で認められるが、0.0050%を超える含有は、効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できないため、経済的に不利となる。このため、含有する場合は、Bは0.0050%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.001〜0.003%である。
【0031】
Ca:0.0050%以下、REM:0.0050%以下
Ca、REMはいずれも、硫化物系介在物の形態制御を介して延性を向上させる作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果はCa、REMともに0.0020%以上の含有で認められるが、0.0050%を超える含有は、介在物量が増加しすぎて、鋼の清浄度が低下する。このため、含有する場合は、Ca、REMはいずれも0.0050%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.0020〜0.0040%である。
【0032】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
つぎに、本発明鋼管の組織限定理由について説明する。
本発明鋼管は、体積率で20〜60%のマルテンサイト相を含み、残部フェライト相からなる二相組織を有する。このような組織とすることにより、所望の高強度と、優れた加工性、優れた塗装焼付け硬化性を兼備することが可能となる。
【0033】
マルテンサイト相が、20体積%未満では、フェライト相主体の組織となり所望の高強度を達成できない。一方、60体積%を超えてマルテンサイト相が多くなると、マルテンサイト主体の組織となり所望の加工性を確保できなくなる。このため、マルテンサイト相の組織分率を体積率で20〜60%の範囲に限定した。好ましくは体積率で40〜55%である。
つぎに、本発明鋼管の好ましい製造方法について説明する。
【0034】
本発明では、鋼素材に、熱延工程と、冷延工程と、焼鈍工程とを施して鋼管用素材とし、ついで該鋼管用素材に、造管工程を施して電縫鋼管とする。
使用する鋼素材の製造方法は、特に限定されないが、上記した組成を有する溶鋼を、転炉等の常用の溶製方法で溶製し、連続鋳造法あるいは造塊−圧延法でスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。
【0035】
得られた鋼素材は、ついで熱間圧延を施されて熱延板とする熱延工程を施される。
得られた鋼素材は、冷却後再加熱するか、あるいは鋼素材が所定量の熱を保有している場合には、再加熱することなくそのまま、直送して熱間圧延を行なってもよい。再加熱する場合には、加熱温度は1000〜1250℃とすることが好ましい。再加熱時の加熱温度が1000℃未満では、変形抵抗が高く圧延機に与える負荷が大きくなりすぎて、圧延が困難となる場合がある。一方、1250℃を超えて加熱すると、結晶粒の粗大化が進行し、延性等の低下が著しくなる。
【0036】
熱間圧延は、粗圧延および仕上圧延とからなる。粗圧延の条件は所定の寸法形状のシートバーを得ることができればよく、とくにその条件は限定されない。また、仕上圧延は、仕上圧延終了温度が被圧延材である鋼帯のAr変態点以上となる圧延とし、仕上圧延終了後に、巻取温度:500〜700℃で巻き取ることとする。
仕上圧延終了温度がAr変態点未満では、仕上圧延が(α+γ)の二相域圧延となり、著しく粗大な結晶粒と微細な結晶粒とが混在する混粒組織となる。このため、その後に冷延工程−焼鈍工程を施しても、良好な加工性を確保できなかったり、プレス成形、曲げ加工等の加工に際して肌荒れが生じたりする。このため、熱間圧延の仕上圧延終了温度をAr変態点以上に限定した。また、巻取温度が、500℃未満では、冷却中に硬質相が生成するため、冷間圧延時の圧延負荷が大きくなり、生産性が低下する。一方、700℃を超えて高温となると、未変態オーステナイトがパーライトに変態するため、加工性が低下する。このため、巻取温度は500〜700℃の範囲に限定した。なお、好ましくは650℃以下である。
【0037】
ついで、熱延工程を経て得られた熱延板は、酸洗処理を施され、ついで冷間圧延を行って冷延板とする冷延工程を施される。冷間圧延の圧下率などの冷延工程の条件はとくに規定されない。
得られた冷延板は、ついで、焼鈍工程を施され、冷延焼鈍板とされる。
焼鈍工程は、本発明では所望の加工性と所望の塗装焼付け硬化性(BH性)を確保するうえで重要な工程である。焼鈍工程は、連続焼鈍ラインを利用することが好ましい。
【0038】
焼鈍工程は、冷延板に、Ac変態点〜Ac変態点の範囲の二相温度域の温度に、加熱し均熱保持したのち、600〜750℃の範囲の温度まで平均冷却速度10℃/s以上で冷却(平均冷却速度1)した後、600〜750℃の範囲の温度から室温まで、平均で、500℃/s以上の冷却速度で冷却する急冷処理(平均冷却速度2)を施し、ついで、150〜300℃の温度範囲に再加熱する焼戻処理を施し、冷延焼鈍板とする工程とする。なお、所望の高強度およびBH特性を安定して確保するためには、加熱保持から急冷開始温度までの冷却速度(平均冷却速度1)は15℃/s以上とすることが好ましく、急冷処理における平均冷却速度(平均冷却速度2)は800℃/s以上とすることが好ましい。より好ましくは1000℃/s以上、さらに好ましくは1100℃/s以上である。
【0039】
加熱し均熱保持する温度が、Ac変態点〜Ac変態点の範囲の二相温度域を外れると、その後の急冷で、所望の組織分率の(フェライト+マルテンサイト)組織を確保できなくなる。また、加熱保持温度から急冷開始温度までの冷却速度(平均冷却速度1)が10℃/s未満では、フェライトとオーステナイトのC量の分配が進行し、BH特性に寄与すると考えられるフェライト中の固溶C量が少なくなるため、所望のBH特性が得られなくなる。また、急冷開始温度が、750℃〜600℃の範囲を外れると、所望の組織分率の(フェライト+マルテンサイト)組織を得ることができなくなる。急冷開始温度が、750℃を超えて高くなると延性が低下し、600℃未満では所望の高強度が確保できなくなる。なお、上記した温度で均熱保持する時間は、30s以上とすることが望ましい。
【0040】
また、600〜750℃の範囲の温度から室温までの冷却速度(平均冷却速度2)が、平均で、500℃/s未満では、マルテンサイト変態量が少なく、所望の組織分率の(フェライト+マルテンサイト)組織とすることができず、所望の高強度を確保できなくなることに加えて、BH特性に寄与すると考えられるフェライト中の固溶C量が少なくなるため、所望のBH量が100MPa以上が得られなくなる。なお、急冷処理の冷却速度は、急冷開始温度から200℃の間の平均とする。
【0041】
なお、急冷処理の方法については、とくに限定されないが、鋼板幅方向、長手方向の材質ばらつきを抑制するという観点からは、噴流水を用いた冷却とすることが好ましい。
さらに、本発明の焼鈍工程では、急冷処理後、さらに靭性向上を目的として、150〜300℃の温度範囲に再加熱する焼戻処理を行う。焼戻温度が150℃未満では、靭性改善効果が期待できない。一方、300℃を超えると低温焼戻脆性により延性が低下する。このため、再加熱の温度範囲は150〜300℃に限定した。
【0042】
得られた冷延焼鈍板には、さらに必要に応じて、調質圧延をおこなってもよい。その際、調質圧下率は、0.2%以上1.0%以下とすることが好ましい。調質圧下率が0.2%未満では、形状矯正効果が得られない。一方、1.0%を超えると、伸びの劣化が著しくなる。
上記した工程を経た冷延焼鈍板(冷延焼鈍鋼帯)を鋼管用素材とし、ついで、該鋼管用素材に造管工程を施して、電縫鋼管とする。造管工程は、鋼管用素材を連続的に成形し略円筒状のオープン管とし、該オープン管を電縫溶接して電縫管とする工程である。
【0043】
本発明では、造管工程における成形を、ケージロール方式によるロール成形とする。ケージロール方式によるロール成形は、ケージロールと呼ばれる小型ロールを、管外面となる側に並べて、滑らかに成形する方式のロール成形をいう。なお、ケージロール方式によるロール成形のなかでも、CBR方式のロール成形とすることが好ましい。この方式による成形では、成形時に帯板へ付加される歪を最小限に抑えることができ、加工硬化による材料特性劣化を抑制できる。
【0044】
CBR方式のロール成形を採用した電縫鋼管の製造設備の一例を図1に示す。CBR方式のロール成形は、帯板1の両エッジ部をエッジベンドロール2により予め成形したのち、センターベンドロール3とケージロール4とにより、帯板中央部を曲げ成形し、縦長の小判形の素管をつくり、ついでフィンパスロール5により、管円周方向の4ヶ所をいったんオーバーベンドしたのち、縮径圧縮することにより管サイド部の張出し成形とオーバーベンド部の曲げ戻し成形を行い円形素管とする成形方法である(川崎製鉄技報、vol.32(2000)、pp49〜53参照)。なお、CBR方式のロール成形法は、従来のBD(ブレークダウン)方式に比べて、素材(帯板)に付与される歪が少なく、さらに管円周方向に付与される歪のばらつきが小さいという特徴を有している。このようにして得られた円形素管をスクイズロール7で押圧しながら、突合せ部を溶接手段(高周波抵抗溶接)6により接合し、電縫鋼管8とする。
【0045】
上記したような製造方法で得られた、高強度を有し加工性に優れ、かつ塗装焼付け硬化性に優れた鋼板(鋼管素材)を用いて、上記したような造管工程で造管することにより、造管時に付加される歪を最小限に低減することができ加工硬化を抑制して、優れた加工性を有し、さらに部材となった後に、優れた衝撃吸収特性を確保することが可能な、高強度電縫鋼管を製造できる。
【0046】
得られた高強度電縫鋼管は、引張強さTSが1180MPa以上、管軸方向の伸びElが10%以上、降伏比が90%未満であり、予歪:2%付与したのち170℃×10minの熱処理を施す塗装焼付け処理後の強度増加量(BH量)が100MPa以上で、かつ降伏比が90%以上となる鋼管である。
電縫鋼管の管軸方向の伸びが10%未満では、管としての加工性が低下し、所望の形状への成形が難しくなる。なお、好ましくは伸びは12%以上である、また、電縫鋼管の降伏比が90%を超えると、管としての加工性が低下し、所望の形状への成形が難しくなる。なお、好ましくは降伏比は85%以下である。また、電縫鋼管のBH量が100MPa未満では、衝突時に吸収できるエネルギーが少なくなり、衝撃部材として機能を満足できなくなる。なお好ましくはBH量は110MPa以上である。また、本発明電縫鋼管の製造に当たり採用した造管工程では、造管時に付加される歪を最小限に低減することができ、さらに管円周方向に付与される歪のばらつきも小さくなるため、本発明電縫鋼管における、管円周方向各位置でのBH量のばらつき(最大値と最小値との差)は小さく、電縫部を除く管円周方向各位置でのBH量は、均一で、100〜130MPaの範囲内とすることができる。また、電縫鋼管の降伏比が90%未満では、衝突時に吸収できるエネルギーが少なくなり、衝撃部材として機能できなくなる。
【0047】
なお、本発明では、塗装焼付け処理の熱処理条件を、170℃×10minの熱処理としたが、この条件は、塗装焼付け処理後に100MPa以上の強度増加量(BH量)が得られる最低の熱処理条件であり、これ以外でも好ましい条件であれば、本発明電縫鋼管は、塗装焼付け処理後の強度増加量(BH量)が、100MPa以上を示す。塗装焼付け処理後に100MPa以上の強度増加量(BH量)が得られる熱処理条件としては、170〜250℃の範囲の加熱温度で、10〜30minの範囲の保持時間とすることが好ましい。加熱温度が170℃未満では、所望の強度増加をもたらすに必要な固溶Cが、転位に拡散し、転位を十分に固着するまでに至らないため、所望の塗装焼付け処理後の強度増加量(BH量)を確保できない。一方、250℃を超えて過度に高温とすると、生産性を低下するうえ、青熱脆性域に加熱される恐れがあり、材質が劣化する場合がある。
【0048】
また、保持時間が10min未満と短い場合には、拡散時間が不足し、必要な量の固溶Cが、転位に到達することができないため、所望の塗装焼付け処理後の強度増加量(BH量)を確保できない。一方、保持時間が30minを超えて長くなると、生産性が低下する。好ましくは25min以下である。
【実施例】
【0049】
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブ(鋼素材)とした。これらスラブ(鋼素材)に、表2に示す条件の熱延工程を施し、熱延板(板厚2.4〜3.0mm)としたのち、酸洗し、該熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする冷延工程と、該冷延板に表2に示す条件の焼鈍工程を施し、冷延焼鈍板(板厚1.2〜1.8mm)とし、鋼管素材とした。得られた鋼管素材から試験片を採取して、組織観察、引張試験を実施した。試験方法は次のとおりとした。
(1)組織観察
得られた鋼管素材から、組織観察用試験片を採取し、圧延方向断面を研磨し、ナイタール液を用いて腐食して、走査型電子顕微鏡(倍率:2000倍)を用い組織を観察し、各10視野以上撮像し、画像解析装置を利用して、フェライト、マルテンサイト等組織の種類を同定し、各相の組織分率(体積率)を算出した。
(2)引張試験
得られた鋼管素材から、JIS Z 2201の規定に準拠して、引張方向が圧延方向となるようにJIS 12号引張試験片(標点距離:50mm)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を実施し、0.2%耐力YS(MPa)、引張強さTS(MPa)、伸びEl(%)を求め、降伏比YRを算出し、強度と加工性を評価した。
得られた結果を表3に示す。
【0050】
得られた鋼管素材に、CBR方式のロール成形による成形を施し、略円筒状のオープン管とした。ついで、スクイズロールで突き合せ部を押圧しながら、高周波抵抗溶接により該突合せ部を電縫溶接し、電縫鋼管(大きさ:外径48.6mmφ×肉厚1.2〜1.8mm)とした。一部の鋼管では、造管工程における成形をBD方式による成形とした。
得られた電縫鋼管について、組織観察、引張試験、および塗装焼付け処理試験を実施し、組織、引張特性、塗装焼付け硬化特性を評価した。試験方法は次のとおりとした。
(1)組織観察
得られた鋼管から、組織観察用試験片を採取し、管軸方向断面を研磨し、ナイタール液を用いて腐食して、走査型電子顕微鏡(倍率:2000倍)を用い組織を観察し、各10視野以上撮像し、画像解析装置を利用して、フェライト、マルテンサイト等の組織の種類を同定し、各相の組織分率(体積率)を算出した。
(2)引張試験
得られた鋼管から、JIS Z 2201の規定に準拠して、引張方向が管軸方向となるようにJIS 12号引張試験片(標点距離:50mm)を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を実施し、0.2%耐力YS(MPa)、引張強さTS(MPa)、伸びEl(%)を求め、降伏比YRを算出し、強度と加工性を評価した。
(3)塗装焼付け処理試験
得られた鋼管から、JIS Z 2201の規定に準拠して、引張方向が管軸方向となるようにJIS 12号引張試験片を採取し、ついで予歪として2%の引張歪を付与し、170℃×10minの熱処理を行なう、塗装焼付け処理を施した。なお、引張試験片は、管円周方向各位置(電縫部を0°とし、円周方向に30°ピッチで、計11位置。電縫部は除く)から採取した。
【0051】
そして、処理済み試験片について引張試験を実施して、塗装焼付け処理後の、0.2%耐力YSおよび引張強さTSを求め、塗装焼付け処理後の降伏比(=(YS/TS)×100(%))を算出した。また、塗装焼付け硬化量(BH量)を、図2に示すように、塗装焼付け処理後の0.2%耐力と2%の引張歪を付与後の強度との差として算出した。BH量は円周方向各位置での最大値と最小値を求めた。なお、YS、TSは円周方向各位置での値の算術平均を求めた。
【0052】
得られた結果を表3に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
本発明例はいずれも、引張強さTS:1180MPa以上の高強度と、管軸方向の伸びElが10%以上で、かつ管軸方向の降伏比(=(0.2%耐力/引張強さ)×100(%))が90%未満で、優れた加工性と、さらに、2%以上の予歪を付与し、さらに170℃×10minの熱処理(塗装焼付け処理)を施したのちの、管軸方向の降伏比が90%以上で、かつBH量が100MPa以上と、優れた衝撃吸収特性を有する電縫鋼管となっている。さらに本発明例は、円周方向各位置でのBH量のばらつきは少なく、いずれも100〜130MPaの範囲内に収まっている。
【0059】
一方、本発明の範囲を外れる比較例は、強度が不足しているか、加工性が低下しているか、あるいは衝撃吸収性が低下している。
なお、さらに塗装焼付け処理条件の影響を調査した。
表2に示す鋼管No.1(本発明例)から、JIS Z 2201の規定に準拠して、引張方向が管軸方向となるようにJIS 12号引張試験片を採取し、ついで予歪として2%の引張歪を付与し、加熱温度と保持時間を、100〜250℃×5〜30minの範囲で変化させた熱処理を行う、塗装焼付け処理を施した。なお、引張試験片は、管円周方向各位置(電縫部を0°とし、円周方向に30°ピッチで、計11位置。電縫部は除く)から採取した。そして、塗装焼付け処理済み試験片について引張試験を実施して、塗装焼付け処理後の、0.2%耐力YSおよび引張強さTSを求め、塗装焼付け処理後の降伏比(=(YS/TS)×100(%))を算出した。また、塗装焼付け硬化量(BH量)を、図2に示すように、塗装焼付け処理後の0.2%耐力と2%の引張歪を付与後の強度との差として算出した。BH量は円周方向各位置での最大値と最小値を求めた。なお、YS、TSは円周方向各位置での値の算術平均を求めた。得られた結果を表4に示す。
【0060】
【表6】

【0061】
好ましい塗装焼付け処理の範囲から外れる条件である、熱処理の加熱温度が170℃未満の場合には、生産性の低下を考慮せずに、過剰に長い塗装焼付け処理を行わない限り100MPa以上のBH量を安定して確保できていない。なお、ここでいう過剰に長い塗装焼付け処理時間とは、30minを超える時間をいう。また、加熱温度が170℃以上であっても、保持時間が10min未満である5minの場合には、100MPa以上のBH量を確保できない場合があり、所望のBH量を安定して確保できていない。
【符号の説明】
【0062】
1 帯板
2 エッジベンドロール
3 センターベンドロール
4 ケージロール
5 フィンパスロール
6 溶接手段
7 スクイズロール
8 電縫溶接管
9 切断機
10 オープン管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.05〜0.20%、 Si:0.5〜2.0%、
Mn:1.0〜3.0%、 P:0.1%以下、
S:0.01%以下、 Al:0.01〜0.1%、
N:0.005%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相とマルテンサイト相からなる二相組織で、該マルテンサイト相が体積率で20〜60%である組織とを有し、引張強さTSが1180MPa以上、管軸方向の伸びElが10%以上、降伏比が90%未満で、予歪:2%付与したのち170℃×10minの熱処理を施す塗装焼付け処理後の強度増加量(BH量)が100MPa以上で、かつ降伏比が90%以上となることを特徴とする高強度電縫鋼管。
【請求項2】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Nb:0.05%以下、Ti:0.05%以下、W:0.05%以下、B:0.0050%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の高強度電縫鋼管。
【請求項3】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0050%以下、REM:0.0050%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の高強度電縫鋼管。
【請求項4】
鋼素材に、該鋼素材を熱間圧延して熱延板とする熱延工程と、該熱延板に酸洗処理を施し、ついで冷間圧延を施し冷延板とする冷延工程と、該冷延板に、焼鈍処理を施し冷延焼鈍板とする焼鈍工程とを施して鋼管用素材とし、ついで該鋼管用素材に、該鋼管用素材を連続的に成形し略円筒状のオープン管とし、該オープン管を電縫溶接して電縫管とする造管工程を施して電縫鋼管とするにあたり、前記鋼素材を、質量%で、
C:0.05〜0.20%、 Si:0.5〜2.0%、
Mn:1.0〜3.0%、 P:0.1%以下、
S:0.01%以下、 Al:0.01〜0.1%、
N:0.005%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、
前記熱延工程を、仕上圧延終了温度がAr変態点以上で、巻取温度が500〜700℃である熱間圧延を施し熱延板とする工程とし、
前記焼鈍工程を、Ac変態点〜Ac変態点の範囲の二相温度域の温度で、均熱保持したのち、600〜750℃の範囲の温度まで、平均で冷却速度10℃/s以上の冷却速度で冷却した後、600〜750℃の範囲の温度から室温まで500℃/s以上の冷却速度で急冷し、ついで、150〜300℃の温度範囲で均熱保持する処理を施す工程とし、
前記成形を、ケージロール方式のロール成形とし、
前記電縫鋼管が、引張強さTSが1180MPa以上、管軸方向の伸びElが10%以上、降伏比が90%未満であり、予歪:2%付与したのち170℃×10minの熱処理を施す塗装焼付け処理後の強度増加量(BH量)が100MPa以上で、かつ降伏比が90%以上となる鋼管である、
ことを特徴とする高強度電縫鋼管の製造方法。
【請求項5】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Nb:0.05%以下、Ti:0.05%以下、W:0.05%以下、B:0.0050%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項4に記載の高強度電縫鋼管の製造方法。
【請求項6】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0050%以下、REM:0.0050%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項4または5に記載の高強度電縫鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−167358(P2012−167358A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63779(P2011−63779)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【特許番号】特許第4957854号(P4957854)
【特許公報発行日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】