説明

高抵抗材複合酸化物超電導テープ

【課題】酸化物超電導テープに高抵抗材を貼り合わせた、電気抵抗値が均一な高抵抗材複合酸化物超電導テープの提供。
【解決手段】金属テープ基材の表面に、酸化物からなる中間層が成膜され、該中間層の表面に酸化物超電導層が成膜され、該酸化物超電導層上に厚さ10μm以下の銀層が成膜された酸化物超電導テープと、体積抵抗率が1μΩm以上である電気抵抗合金からなる高抵抗テープとを貼り合わせてなる高抵抗材複合酸化物超電導テープであって、この高抵抗材複合酸化物超電導テープは、室温での電気抵抗が0.2Ω/m以上、限流時の電気抵抗が0.1Ω/m以上であり、長手方向の電気抵抗の分布ばらつきが10%以下であることを特徴とする高抵抗材複合酸化物超電導テープ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導層の表面に銀のコーティング層が設けられた酸化物超電導テープと高抵抗テープをハンダを介して接合した高抵抗材複合酸化物超電導テープに関する。本発明の高抵抗材複合酸化物超電導テープは、主に超電導限流器の導体などとして用いられる。超電導限流器は、超電導状態と常伝導状態の導体電気抵抗の差を利用し、限流動作を行うため、常伝導状態では高い導体抵抗が求められる。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導線材を限流器導体に用いるためには、常伝導状態での電気抵抗を大きくする必要があるが、一般的な超電導導体は、安定化のために酸化物超電導層にAgスパッタ層をコーティングしたり、銅を接合して抵抗を下げることが行われており(例えば、特許文献1,2参照)、限流器に特化した導体技術は知られていない。
【0003】
また、非特許文献1には、導体の補強のために構造材のステンレス鋼材を複合化した構造が開示されており、このステンレス鋼材の複合化によって、導体の電気抵抗値は大きくなる。
【0004】
一方、機械的強度の強い基板を用い、その表面にイオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と記す。)によって酸化物からなる中間層を成膜し、該中間層の表面に、パルスレーザ蒸着法などによって酸化物超電導薄膜を成膜し、該酸化物超電導薄膜の表面に銀からなる保護膜を成膜した酸化物超電導線材(以下、IBAD法線材と記す。)においては、保護膜として使われる銀膜をできるだけ薄く形成するだけで、高抵抗の線材を実現する試みがなされている(非特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第3403465号公報
【特許文献2】特許第3568561号公報
【非特許文献1】http://www.amsuper.com/products/htsWire/344SS.cfm
【非特許文献2】http://www.superpower-inc.com/pdf/2006_ASC+2LX04+2G+for+SFCL+Paper+YYXie.pdf
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的にイットリウム系酸化物超電導線材は、酸化物超電導層の保護及び電気的安定化のために、酸化物超電導層の表面に銀層をスパッタリング等により成膜する。超電導限流器に用いる導体の場合、限流時(ノーマル時(非超電導状態))には、より高い電気抵抗が求められる。安定化のための銀層が厚い場合は、より長尺の導体が必要になる。
【0006】
そのため、超電導限流器に用いられるイットリウム系酸化物超電導線材は、銀層を薄くする必要がある。しかしながら、銀層を薄くしていくと、ノーマル時の電気抵抗値にばらつきが生じる。これは、酸化物超電導線材特有の現象であると考えられる。線材作製の工程では、酸化物超電導層の表面に銀層をスパッタリングなどで成膜した後、酸素中で500℃前後の熱処理を行い、酸素アニールをする必要がある。この際、熱処理超電導層との界面反応を生じるため、銀層が薄い場合は酸化物超電導層の結晶性の影響を大きく受ける。このため、長尺線材においては、部分的に酸化物超電導層の結晶性の不均一化が、常伝導状態の通電挙動に影響を与えていると考えられる。また、銀層を薄くすると、酸化物超電導層を保護する効果が小さくなり、経年変化の影響を受けやすい欠点がある。
【0007】
酸化物超電導線材の強度を高めるために、構造材として用いられるステンレステープを複合したもの(非特許文献1)等があり、一般的な銅を複合したものよりも電気抵抗値は高いと考えられる。しかしながら、スズ(Sn)でテープをラミネートするタイプに比べ、製造方法が煩雑となり、製造装置も大型化してしまう。
ステンレス鋼は、一般的に構造材として用いられている材料であるため、電気抵抗値が規定されておらず、テープの加工度、熱処理により電気抵抗値が変わることにより、テープのロット毎により電気抵抗値にばらつきが生じる可能性がある。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、酸化物超電導テープに高抵抗材を貼り合わせた、電気抵抗値が均一な高抵抗材複合酸化物超電導テープの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、金属テープ基材の表面に、酸化物からなる中間層が成膜され、該中間層の表面に酸化物超電導層が成膜され、該酸化物超電導層上に厚さ10μm以下の銀層が成膜された酸化物超電導テープと、体積抵抗率が1μΩm以上である電気抵抗合金からなる高抵抗テープとを貼り合わせてなる高抵抗材複合酸化物超電導テープであって、
この高抵抗材複合酸化物超電導テープは、室温での電気抵抗が0.2Ω/m以上、限流時の電気抵抗が0.1Ω/m以上であり、長手方向の電気抵抗の分布ばらつきが10%以下であることを特徴とする高抵抗材複合酸化物超電導テープを提供する。
【0010】
本発明の高抵抗材複合酸化物超電導テープにおいて、前記高抵抗テープは、Ni−Cr合金テープであることが好ましい。
【0011】
本発明の高抵抗材複合酸化物超電導テープにおいて、前記酸化物超電導テープは、ハステロイ製テープ基材の表面に、イオンビームアシスト蒸着法によって酸化物からなる中間層が成膜され、該中間層の表面に、パルスレーザ蒸着法によってイットリウム系酸化物超電導体からなる酸化物超電導層が成膜され、該酸化物超電導層上に厚さ10μm以下の銀スパッタ層が成膜されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高抵抗材複合酸化物超電導テープは、限流時(ノーマル時)の電気抵抗が0.1Ω/m以上であり、長手方向の電気抵抗の分布ばらつきが10%以下であり、超電導限流器の導体材料などとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の高抵抗材複合酸化物超電導テープの一実施形態を示す要部斜視図である。この図中、符号1はハステロイ製テープ基材、2はIBAD中間層、3はCeO中間層、4は酸化物超電導層、5はAgスパッタ層、6は高抵抗テープ、7は酸化物超電導テープ、8は高抵抗材複合酸化物超電導テープである。
【0014】
この高抵抗材複合酸化物超電導テープ8は、ハステロイ製テープ基材1の表面に、IBAD法によって酸化物(例えば、GdZr)からなるIBAD中間層2が成膜され、該IBAD中間層2の表面に、パルスレーザ蒸着法(以下、PLD法と記す。)によってCeO中間層3が成膜され、該CeO中間層3の表面に、PLD法によってイットリウム系酸化物超電導体からなる酸化物超電導層4が成膜され、該酸化物超電導層4上に厚さ10μm以下のAgスパッタ層5が成膜された酸化物超電導テープ7と、体積抵抗率が1μΩm以上である電気抵抗合金からなる高抵抗テープ6とをハンダで貼り合わせた構造になっている。
【0015】
この高抵抗材複合酸化物超電導テープ8は、室温時の電気抵抗が0.2Ω/m以上、限流時(ノーマル時)の電気抵抗が0.1Ω/m以上であり、且つ電気抵抗の長手方向分布が10%以下、好ましくは5%以下である電気抵抗特性を有している。
【0016】
この高抵抗材複合酸化物超電導テープ8において、限流時(ノーマル時)の電気抵抗が0.1Ω/m以上あれば、導体長を長くすることなく安定した限流動作が可能である。この電気抵抗が0.1Ω/m未満であると、導体長が長くなってしまう。
また、電気抵抗の長手方向分布が10%以下であれば、テープの部分的な発熱によるバーンアウト(溶断)がないので、好ましい。電気抵抗の長手方向分布が10%を超えると、部分的な発熱によるバーンアウト(溶断)の発生確率が高くなる。
【0017】
酸化物超電導テープ7に貼り合わせる高抵抗テープ6の材料は、体積抵抗率が1μΩm以上である電気抵抗合金を用いる。電気抵抗合金は、ステンレス鋼等の構造材料と違い、電気抵抗である体積抵抗値が明確に定められており、ロット毎にばらつくことが無い。体積抵抗率が1μΩm以上の電気抵抗合金からなる高抵抗テープ6を用いると、導体長を短くできる。
【0018】
電気抵抗合金のうち、Cu−Mn−Ni系、Cu−Ni系は、電気抵抗(体積抵抗率)が0.5μΩm以下と小さい。また、合金材料に鉄(Fe)を含むFe−Cr系、Ni−Cr−Fe系は、貼り合わせ時の熱負荷の影響等により、通電時の磁場によるヒステリシスを生じる可能性があるため、使用できない。
また、使用する高抵抗テープ6は、銅リード線と接続した際に対銅起電力が小さい必要がある。また、薄いテープ状に加工した状態でも、機械的強度が大きくなければならない。
【0019】
前記条件から、本発明の高抵抗材複合酸化物超電導テープ8に用いる高抵抗テープ6としては、各種の電気抵抗合金のうち、電気抵抗(体積抵抗率)が約1.0μΩmであり、Feを含まないNi−Cr合金が好ましく、Ni80−Cr10合金(体積抵抗率1.08μΩmで)が特に好ましい。
【0020】
本実施形態において、酸化物超電導テープ7は、ハステロイ製テープ基材1上に、IBAD中間層2、CeO中間層3、酸化物超電導層4、Agスパッタ層5を順に積層した構造を例示しているが、本発明において基材の材質、中間層の種類や層数、酸化物超電導層の材質、Agスパッタ層5以外の各層の厚さなどは、本例示に限定されるものではなく、適宜設定可能である。また、この酸化物超電導テープ7の中間層2,3及び酸化物超電導層4の成膜方法としては、IBAD−PLD法を例示しているが、これらの成膜方法も本例示にのみ限定されず、当該分野で周知の各種成膜方法により成膜してもよい。
【0021】
この酸化物超電導テープ7のAgスパッタ層5の厚さは、10μm以下である。このAgスパッタ層5の厚さが10μm以下であれば、複合後のテープの電気抵抗値が大きくなり、複合酸化物超電導テープの長さを短くできるので好ましい。Agスパッタ層5を10μmより厚くすると、電気抵抗が小さくなり、複合酸化物超電導テープの長さが長くなってしまい、好ましくない。
【0022】
前述した酸化物超電導テープ7と、高抵抗テープ6とを貼り合わせ、高抵抗材複合酸化物超電導テープ8を製造する方法としては、高抵抗テープ6の一方の面にハンダをメッキしておき、この高抵抗テープ6のハンダメッキ面と酸化物超電導テープ7のAgスパッタ層5とを向かい合わせにした状態で、予熱炉内に搬送し、これらのテープ6,7をハンダ溶融温度以上に加熱し(250℃以上)、続いて一対の加熱・加圧ロールを通過させ、加圧すると共に、ハンダ溶融温度以下に冷却し(ロール表面で160−220℃)、加圧下でハンダを凝固させて貼り合わせ、高抵抗材複合酸化物超電導テープ8を高速で連続生産する方法が好ましい。
【0023】
加熱・加圧ロールの材質としては、シリコーンゴム等の軟質材が望ましい。金属等の硬い素材を用いることもできるが、得られる高抵抗材複合酸化物超電導テープ8の超電導特性劣化を防ぐためには、テープ上での押しつけ圧(ロール圧)を100MPa以下とすることが望ましい。
【実施例】
【0024】
[実験1:実施例1及び比較例1]
(酸化物超電導テープの作製)
厚さ100μmのハステロイ製テープ基材1上に、IBAD法により厚さ1.0μmのGdZrからなるIBAD中間層2を成膜し、このIBAD中間層2上に、パルスレーザ蒸着法によって厚さ1.0μmのCeO中間層3を成膜し、このCeO中間層3上に、パルスレーザ蒸着法によってイットリウム系酸化物超電導体(YBaCu7−x)からなる厚さ1.0μmの酸化物超電導層4を成膜し、さらに酸化物超電導層4上に、厚さ10μmのAgスパッタ層5を成膜して酸化物超電導テープ7を作製した。
【0025】
(高抵抗テープ)
前記酸化物超電導テープ7に貼り合わせる高抵抗テープ
サンプル(1):Ni−Cr合金製、0.04mm厚の高抵抗テープ。
サンプル(2):(比較用)厚さ0.1mmの銅テープ。
【0026】
(高抵抗材複合酸化物超電導テープの作製)
サンプル(1),サンプル(2)のテープの片面に、ハンダ(スズに微量のCu、銀等を添加したもの、融点230℃)を厚さ5μmとなるようにメッキした。
内部を250〜260℃に保温した長さ20cmの予熱炉と、その出口側に配置した一対の加熱・加圧ロールを備えた製造装置を用意した。
前記サンプル(1)のテープのハンダメッキ面と、酸化物超電導テープのAgスパッタ層5とが向かい合わせになるように供給し、予熱炉を通過させて予熱し、予熱炉から引き出された被複合化材を加熱・加圧ロールで加圧しながら冷却し、高抵抗材複合酸化物超電導テープ(実施例1)を作製した。
サンプル(2)のテープを用い、実施例1と同様にして酸化物超電導テープ(比較例1)を作製した。
【0027】
前記の通り作製した実施例1と比較例2のテープを液体窒素中に入れ、電気抵抗を調べて比較した。結果を図2に記す。
図2中のx軸は、I(電流)/Ic(臨界電流)なので、1以上は過電流を流して電圧を発生させた状態(限流動作状態)である。
液体窒素中で実施例1のテープは、0.1Ω/m以上の抵抗値が得られた。
一方、銅テープを貼り合わせた比較例1のテープの抵抗値は、1/100程度小さかった。
【0028】
[実験2:実施例2]
厚さ0.04mmのNi−Cr合金テープを貼り合わせ、その他は実施例1と同様にして実施例2のテープを作製した。このテープの室温での抵抗値は0.28Ω/mであった。
【0029】
[実験3:実施例3及び比較例2]
比較例2として、実施例1での酸化物超電導テープの作製と同様にして、酸化物超電導層上に、厚さ5μmのAgスパッタ層を成膜し、高抵抗テープの貼り合わせは行わないテープを作製した。
実施例3として、前記酸化物超電導テープに、厚さ0.05mmのNi−Cr合金製の高抵抗テープを実施例1と同様に貼り合わせたテープを作製した。
【0030】
前記比較例2及び実施例3の各テープを、それぞれ1m長とし、各々の1m長テープに、5つの電圧タップを長手方向等間隔でセットし、これらに電圧を印加し、測定電圧と比較した(ノーマル時)。結果を表1に記す。
【0031】
【表1】

【0032】
例えば、表1の比較例2において、60V/mでは、(MAX−MIN)÷60×100=(78−37)÷60×100=68%となり、比較例2は60V/mにおいて長手方向の電気抵抗の分布ばらつきが約68%であった。
一方、表1の実施例3において、60V/mでは、(MAX−MIN)÷60×100=(62−58)÷60×100=6.7%となり、実施例3は60V/mにおいて長手方向の電気抵抗の分布ばらつきが約6.7%であった。
【0033】
表2に示す結果より、比較例2では、電圧タップによって電圧のリニア性が得られないものがあり、またタップ間のバラツキが大きかった。
一方、本発明に係る実施例3では、電圧のリニア性が得られ、タップ間のばらつきも少なかった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の高抵抗材複合酸化物超電導テープの一実施形態を示す要部斜視図である。
【図2】実施例の結果を示し、実施例1と比較例1の抵抗値を比較したグラフである。
【符号の説明】
【0035】
1…ハステロイ製テープ基材、2…IBAD中間層、3…CeO中間層、4…酸化物超電導層、5…Agスパッタ層、6…高抵抗テープ、7…酸化物超電導テープ、8…高抵抗材複合酸化物超電導テープ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属テープ基材の表面に、酸化物からなる中間層が成膜され、該中間層の表面に酸化物超電導層が成膜され、該酸化物超電導層上に厚さ10μm以下の銀層が成膜された酸化物超電導テープと、体積抵抗率が1μΩm以上である電気抵抗合金からなる高抵抗テープとを貼り合わせてなる高抵抗材複合酸化物超電導テープであって、
この高抵抗材複合酸化物超電導テープは、室温での電気抵抗が0.2Ω/m以上、限流時の電気抵抗が0.1Ω/m以上であり、長手方向の電気抵抗の分布ばらつきが10%以下であることを特徴とする高抵抗材複合酸化物超電導テープ。
【請求項2】
前記高抵抗テープは、Ni−Cr合金テープであることを特徴とする請求項1に記載の高抵抗材複合酸化物超電導テープ。
【請求項3】
前記酸化物超電導テープは、ハステロイ製テープ基材の表面に、イオンビームアシスト蒸着法によって酸化物からなる中間層が成膜され、該中間層の表面に、パルスレーザ蒸着法によってイットリウム系酸化物超電導体からなる酸化物超電導層が成膜され、該酸化物超電導層上に厚さ10μm以下の銀スパッタ層が成膜されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高抵抗材複合酸化物超電導テープ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−110906(P2009−110906A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285007(P2007−285007)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】