説明

高熱伝導性成形体の製造方法

【課題】熱伝導性に優れた無機物含有熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂、前駆体であるポリアミド酸を脱水剤とイミド化促進剤を用い
てイミド化して作製される芳香族ポリイミドフィルムを2500℃以上の温度で熱処理し
て得られる、単体での面方向熱伝導率が500W/mK以上の高熱伝導性グラファイト、
を少なくとも含有し、5W/mK以上の熱伝導率を有することを特徴とする、高熱伝導性
熱可塑性樹脂組成物。グラファイトの原料となる芳香族ポリイミドフィルムには、複屈折
0.08以上かつ厚み100μm以下のものを用いるのが好ましく、高熱伝導性グラファ
イトには、線膨張係数0ppm以下、厚み50μm以下、弾性率1GPa以上のものを用
いるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱伝導性と良好な成形加工性とを併せ持つ高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂組成物をパソコンやディスプレーの筐体、携帯型電子機器の外装材、電子デバイス材料、自動車部品、バッテリー周辺部材、など種々の用途に使用する際、プラスチックは金属材料など無機物と比較して熱伝導性が低いため、発生する熱を逃がしづらいことが問題になることがある。このような課題を解決するため、高熱伝導性無機物を大量に熱可塑性樹脂中に配合することで高熱伝導性樹脂組成物を得ようとする試みが広くなされている。
【0003】
上記のように無機物を配合して高熱伝導性樹脂組成物を得る際に、グラファイト、炭素繊維、金属粉末、低融点金属、等の高熱伝導性無機物を樹脂に対して高含有量で添加する方法が知られている。しかしながら、大量に高熱伝導性無機物を熱可塑性樹脂中に配合すると、熱可塑性樹脂の成形加工性が急激に低下してしまうため、樹脂との混合自体が困難になる場合がある。このような課題に対処するため、例えば特許文献1では、樹脂粉末と高熱伝導性無機物粉末とを押し固めて錠剤化する方法が示されている。より高熱伝導性の無機物を用いる方法としては、例えば特許文献2では特定粒径の黒鉛粉末が有効であるとされており、また特許文献3及び特許文献4では、パイログラファイト粉末が有効であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−192917号公報
【特許文献2】特開2007−2231号公報
【特許文献3】特開2002−363421号公報
【特許文献4】特開2006−332305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが特許文献1の方法では錠剤化したとしても、複雑な形状へ射出成形することが困難であることは変わらないうえ、大量の無機物が樹脂の衝撃強度などの実用物性を極端に低下させ非常に脆い材料となってしまうため、大型成形品などへの適用が困難となり、用途が限られてしまう、樹脂組成物の比重が高くなるため、軽量化が求められる用途には適用しづらい、などの問題がある。特許文献3及び特許文献4に示される方法は有効ではあるが、未だグラファイト粉末自体の熱伝導性が不十分であるため、樹脂中で特定方向に黒鉛粉末を配向させるなどの工夫が不可欠である。
【0006】
本発明は上記現状に鑑み、単体での熱伝導率がこれまでに知られているものに比べ大幅に優れているグラファイト粉末を用いることで、熱可塑性樹脂組成物に対して添加される高熱伝導性無機物の添加量を少なく抑えても熱伝導性に優れた、熱可塑性樹脂組成物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、特定の製法で作製された芳香族ポリイミドフィルムを特定温度以上の高温で熱処理することにより得られるグラファイトが、単体での熱伝導率においてもこれまで知られている天然黒鉛や人造黒鉛と比較して大幅に優れていることから、この方法により得られるグラファイトを粉末化して高熱伝導性無機物として用いることにより、熱可塑性樹脂組成物の熱伝導率を大幅に向上させることが可能であること、このような方法にて実現された高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物は成形性など組成物としての諸物性を低下させること無く組成物の高熱伝導化が可能であること、等を見出し本発明にいたった。
【0008】
すなわち本発明は、
熱可塑性樹脂(A)、前駆体であるポリアミド酸を脱水剤とイミド化促進剤を用いてイミド化して作製される芳香族ポリイミドフィルムを2500℃以上の温度で熱処理して得られる、単体での面方向熱伝導率が500W/mK以上の高熱伝導性グラファイト、(B)、を少なくとも含有し、組成物での熱伝導率が5W/mK以上であることを特徴とする、高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物(請求項1)。
高熱伝導性グラファイト(B)が、複屈折0.08以上の芳香族ポリイミドフィルムを2500℃以上の温度で熱処理して得られることを特徴とする、請求項1に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物(請求項2)。
高熱伝導性グラファイト(B)が、厚み100μm以下の芳香族ポリイミドフィルムを2500℃以上の温度で熱処理して得られることを特徴とする、請求項1または2に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物(請求項3)。
高熱伝導性グラファイト(B)の面方向熱伝導率が800W/mK以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物(請求項4)。
高熱伝導性グラファイト(B)の厚みが50μm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物(請求項5)。
高熱伝導性グラファイト(B)の線膨張係数が0ppm以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物(請求項6)。
高熱伝導性グラファイト(B)の引張弾性率が1GPa以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物(請求項7)。
熱可塑性樹脂(A)の一部あるいは全部が、結晶性あるいは液晶性を有する樹脂であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物(請求項8)。
請求項1〜8のいずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物を射出成形して作成された、高熱伝導性成形体(請求項9)。
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法を用いることにより、成形性など樹脂としての諸特性と、金属にも匹敵するほどの高熱伝導性とを兼ね備えた高熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
【0010】
このようにして得られた高熱伝導性樹脂組成物は、樹脂フィルム、樹脂成形品、樹脂発泡体、塗料やコーティング剤、などさまざまな形態で、電子材料、磁性材料、触媒材料、構造体材料、光学材料、医療材料、自動車材料、建築材料、等の各種の用途に幅広く用いることが可能である。本発明で得られた高熱伝導性樹脂組成物は、現在広く用いられている射出成形機や押出成形機等の一般的なプラスチック用成形機が使用可能であるため、複雑な形状を有する製品への成形も容易である。特に成形加工性、耐衝撃性、耐薬品性、熱伝導性、などの重要な諸特性のバランスに優れていることから、発熱源を内部に有するディスプレーやコンピューターなどの筐体用樹脂、携帯型電子機器用外装部材、などとして非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】複屈折測定用試料の形状を示す平面図である。
【図2】複屈折の測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物で用いられる熱可塑性樹脂(A)としては特に限定されず、各種熱可塑性高分子化合物を用いることができる。熱可塑性樹脂(A)は合成樹脂であっても自然界に存在する樹脂であっても良い。
【0013】
熱可塑性樹脂(A)としては、ポリスチレンなどの芳香族ビニル系樹脂、ポリアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニルなどの塩素系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のポリメタアクリル酸エステル系樹脂やポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンや環状ポリオレフィン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びこれらの誘導体樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂やポリアクリル酸系樹脂及びこれらの金属塩系樹脂、ポリ共役ジエン系樹脂、マレイン酸やフマル酸及びこれらの誘導体を重合して得られるポリマー、マレイミド系化合物を重合して得られるポリマー、非晶性半芳香族ポリエステルや非晶性全芳香族ポリエステルなどの非晶性ポリエステル系樹脂、結晶性半芳香族ポリエステルや結晶性全芳香族ポリエステルなどの結晶性ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリアミドや脂肪族−芳香族ポリアミドや全芳香族ポリアミドなどのポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアルキレンオキシド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、フェノキシ系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、液晶ポリマー、及びこれら例示されたポリマーのランダム・ブロック・グラフト共重合体、などが挙げられる。これら熱可塑性樹脂(A)は、それぞれ単独で、あるいは2種以上の複数を組み合わせて用いることができる。2種以上の樹脂を組み合わせて用いる場合には、必要に応じて相溶化剤などを添加して用いることもできる。これら熱可塑性樹脂(A)は、目的に応じて適宜使い分ければよい。
【0014】
これら熱可塑性樹脂(A)の中でも、樹脂の一部あるいは全部が結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂(A)であることが、得られた樹脂組成物の熱伝導率が高くなる傾向がある点や、高熱伝導性グラファイト(B)を樹脂中に含有させることが容易である点から好ましい。これら結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂は、樹脂全体が結晶性であっても、ブロックあるいはグラフト共重合体樹脂の分子中における特定ブロックのみが結晶性や液晶性であるなど樹脂の一部のみが結晶性あるいは液晶性であっても良い。樹脂の結晶化度には特に制限はない。また熱可塑性樹脂(A)として、非晶性樹脂と結晶性あるいは液晶性樹脂とのポリマーアロイを用いることもできる。樹脂の結晶化度には特に制限はない。
【0015】
樹脂の一部あるいは全部が結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂(A)の中には、結晶化させることが可能であっても、単独で用いたり特定の成形加工条件で成形したりすることにより場合によっては非晶性を示す樹脂もある。このような樹脂を用いる場合には、高熱伝導性グラファイト(B)の添加量や添加方法を調整したり、延伸処理や後結晶化処理をするなど成形加工方法を工夫したりすることにより、樹脂の一部あるいは全体を結晶化させることができる場合もある。
【0016】
結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂の中でも好ましい樹脂として、結晶性ポリエステル系樹脂、結晶性ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、液晶ポリマー、結晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリオレフィン系ブロック共重合体、等を例示することができるが、これらに限らず各種の結晶性樹脂や液晶性樹脂を用いることができる。
【0017】
結晶性ポリエステルの具体例としてはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレートおよびポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレートなどのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートおよびポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレートなどの結晶性共重合ポリエステル等が挙げられる。
【0018】
これら結晶性ポリエステルの中でも、成形加工性や機械的特性などの観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、等を用いることが好ましい。
【0019】
結晶性ポリアミド系樹脂の具体例としては、例えば環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物、ジカルボン酸とジアミンとの重縮合物などが挙げられ、具体的にはナイロン6、ナイロン4・6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン6・12、ナイロン11、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド、ポリ(メタキシレンアジパミド)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド、ポリ(テトラメチレンイソフタルアミド)、ポリ(メチルペンタメチレンテレフタルアミド)などの脂肪族−芳香族ポリアミド、およびこれらの共重合体が挙げられ、共重合体として例えばナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン66/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ナイロン6・6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン12/ポリ(ヘキサメチレンテレフタラミド)、ポリ(メチルペンタメチレンテレフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)などを挙げることができる。なお、共重合の形態としてはランダム、ブロックいずれでもよいが、成形加工性の点からランダム共重合体であることが好ましい。
【0020】
結晶性ポリアミド系樹脂の中でも、成形加工性や機械的特性などの観点から、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン12、ナイロン4・6、ポリノナンメチレンテレフタルアミド、ナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン66/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ナイロン6・6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン12/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ナイロン6・6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(メチルペンタメチレンテレフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)などのポリアミド、等を用いることが好ましい。
【0021】
液晶ポリマーとは異方性溶融相を形成し得る樹脂であり、エステル結合を有するものが好ましい。具体的には芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル、あるいは、上記構造単位と芳香族イミノカルボニル単位、芳香族ジイミノ単位、芳香族イミノオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルアミドなどが挙げられ、具体的には、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物および/または脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸およびイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボンから生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステルなど、また液晶性ポリエステルアミドとしては、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位以外にさらにp−アミノフェノールから生成したp−イミノフェノキシ単位を含有した異方性溶融相を形成するポリエステルアミドである。
【0022】
上記液晶ポリマーのうち、好ましい構造の具体例としては、−O−Ph−CO−構造単位(I)、−O−RA−O−構造単位(II)、−O−CH2CH2−O−構造単位(III)および−CO−RB−CO−構造単位(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルが挙げられる。
(ただし式中のRA
【0023】
【化1】

から選ばれた1種以上の基を示し、RB
【0024】
【化2】

から選ばれた1種以上の基を示す。ただし式中Xは水素原子または塩素原子を示す。)。
【0025】
上記構造単位(I)はp−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位であり、構造単位(II)は4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルから選ばれた一種以上の芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位を、構造単位(III)はエチレングリコールから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸から選ばれた一種以上の芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位を各々示す。
【0026】
これらのなかでも、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位の液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位の液晶性ポリエステルを特に好ましく用いることができる。
【0027】
結晶性ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、これら樹脂と各種オレフィン系化合物との共重合体、等が挙げられる。また結晶性ポリオレフィン系樹脂として、結晶性樹脂と非晶性樹脂とのブロックあるいはグラフトコポリマーを用いることもできる。このような樹脂のうち、ブロックコポリマーの具体例としては、SEPS樹脂、SIS樹脂、SEBS樹脂、SIBS樹脂、等が挙げられる。またグラフトコポリマーの具体例としては、特開2003−147032号公報記載の樹脂等が例示される。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いられる高熱伝導性グラファイト(B)は、前駆体であるポリアミド酸を脱水剤とイミド化促進剤を用いてイミド化して作製される芳香族ポリイミドフィルムを2500℃以上の温度で熱処理して得られる、単体での面方向熱伝導率が500W/mK以上の高熱伝導性グラファイトである。
【0029】
単体での面方向熱伝導率が500W/mK未満では、組成物の熱伝導率を向上させる効果に劣るため好ましくない。単体での熱伝導率は、好ましくは700W/mK以上、さらに好ましくは800W/mK以上、特に好ましくは1000W/mK以上、最も好ましくは1200W/mK以上のものが用いられる。高熱伝導性グラファイト(B)単体での熱伝導率の上限は特に制限されず、高ければ高いほど好ましいが、一般的には2000W/mK以下、さらには1900W/mK以下、のものが好ましく用いられる。
【0030】
本発明で用いられる高熱伝導性グラファイト(B)の原料となる芳香族ポリイミドフィルムは、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶液をイミド化促進剤と混合した後、エンドレスベルトまたはステンレスドラムなどの支持体上に流延し、それを乾燥および焼成してイミド化させることにより製造される。
【0031】
本発明に用いられるポリアミド酸の製造方法としては公知の方法を用いることができ、通常は、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種が実質的に等モル量で有機溶媒中に溶解させられる。そして、得られた有機溶液は酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで制御された温度条件下で攪拌され、これによってポリアミド酸が製造され得る。このようなポリアミド酸溶液は、通常は5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に、適当な分子量と溶液粘度を得ることができる。
【0032】
重合方法としてはあらゆる公知の方法を用いることができるが、例えば次のような重合方法(1)−(5)が好ましい。
【0033】
(1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
【0034】
(2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対して過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、芳香族テトラカルボン酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0035】
この好ましい1つの態様は、ジアミンと酸二無水物を用いて前記酸二無水物を両末端に有するプレポリマーを合成し、前記プレポリマーに前記とは異なるジアミンを反応させてポリアミド酸を合成する方法である。
【0036】
(3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いて、このプレポリマーに芳香族ジアミン化合物を追加添加後に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
【0037】
(4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解および/または分散させた後に、その酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0038】
(5)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
【0039】
これらの中でも(2)、(3)に示すプレポリマーを経由する重合方法が好ましい。というのは、この方法を用いることで、複屈折が大きいポリイミドフィルムが得られやすく、このポリイミドフィルムを熱処理することにより、結晶性が高く、密度および熱伝導性が優れたグラファイトを得やすくなるからである。また、規則正しく、制御されることで、芳香環の重なりが多くなり、低温の熱処理でもグラファイト化が進行しやすくなると推定される。また複屈折を高めるために、イミド基含有量を増やすと、樹脂中の炭素比率が減り、黒鉛処理後の炭素化収率が減るが、プレポリマーを経由して合成されるポリイミドフィルムは、樹脂中の炭素比率を落とすことなく、複屈折を高めることが出来るために好ましい。炭素比率が高まるために、分解ガスの発生を抑えることができ、外観上優れたグラファイトフィルムが得られやすくなる。また芳香環の再配列を抑えることができ、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0040】
本発明において芳香族ポリイミドの合成に用いられ得る酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、およびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0041】
本発明において芳香族ポリイミドの合成に用いられ得るジアミンとしては、4,4’−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−オキシジアニリン)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル(3,3’−オキシジアニリン)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−オキシジアニリン)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼンおよびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0042】
特に、複屈折を大きくし得るという観点から、本発明における芳香族ポリイミドフィルムの製造では、下記式(3)で表される酸二無水物を原料に用いることが好ましい。
【0043】
【化3】

ここで、Rは、下記の式(4)〜式(16)に含まれる2価の有機基の群から選択されるいずれかであって、
【0044】
【化4】

ここで、R2、R3、R4、およびR5の各々は−CH3、−Cl、−Br、−F、または−OCH3の群から選択されるいずれかであり得る。
【0045】
上述の酸二無水物を用いることによって比較的低吸水率の芳香族ポリイミドフィルムが得られ、このことはグラファイト化過程において水分による発泡を防止し得るという観点からも好ましい。
【0046】
特に、酸二無水物におけるR1として式(4)〜式(16)に示されているようなベンゼン核を含む有機基を使用すれば、得られる芳香族ポリイミドフィルムの分子配向性が高くなり、複屈折が高くなるという観点から好ましい。
【0047】
さらに複屈折を大きくするためには、本発明における芳香族ポリイミドの合成に下記式(17)で表される酸二無水物を原料に用いればよい。
【0048】
【化5】

【0049】
特に、2つ以上のエステル結合でベンゼン環が直線状に結合された構造を有する酸二無水物を原料に用いて得られる芳香族ポリイミドフィルムは、屈曲鎖を含むけれども全体として非常に直線的なコンフォメーションをとりやすく、比較的剛直な性質を有する。その結果、この原料を用いることによって芳香族ポリイミドフィルムの線膨張係数を小さくすることができる。
【0050】
さらに複屈折を大きくするためには、本発明における芳香族ポリイミドは、p−フェニレンジアミンを原料に用いて合成されることが好ましい。
【0051】
また、本発明において芳香族ポリイミドの合成に用いられる最も適当なジアミンは4,4’−オキシジアニリンとp−フェニレンジアミンであり、これらの単独または2者の合計モルが全ジアミンに対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。さらに、p−フェニレンジアミンが全ジアミンに対して10モル%以上、さらには20モル%以上、さらには30モル%以上、またさらには40モル%以上を含むことが好ましい。これらのジアミンの含有量がこれらのモル%範囲の下限値未満になれば、得られる芳香族ポリイミドフィルムの複屈折が小さくなる傾向になる。但し、ジアミンの全量をp−フェニレンジアミンにすると、発泡の少ない厚みの厚い芳香族ポリイミドフィルムを得るのが難しくなることがある。炭素比率が減り、分解ガスの発生量を減らすことができ、芳香環の再配列の必要が減り、外観、熱伝導性に優れたグラファイトを得ることができるという観点からは、4,4’−オキシジアニリンを全ジアミンに対して好ましくは10モル%以上、さらには30モル%以上、さらには50モル%以上、またさらには70モル%以上を使用するのが良い。
【0052】
本発明において芳香族ポリイミドフィルムの合成に用いられる最も適当な酸二無水物はピロメリット酸二無水物および/または式(15)で表されるp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)であり、これらの単独または2者の合計モルが全酸二無水物に対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。これら酸二無水物の使用量が40モル%未満であれば、得られる芳香族ポリイミドフィルムの複屈折が小さくなる傾向になる。
【0053】
また、芳香族ポリイミドフィルム、ポリアミド酸、ポリイミド樹脂に対して、カーボンブラック、グラファイト等の添加剤を添加しても良い。
【0054】
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、アミド系溶媒であるN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用いられ得る。
【0055】
次に、ポリイミドの製造方法には、ポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤やピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類をイミド化促進剤として用いてイミド転化するケミカルキュア法を用いる。中でも、イソキノリンのように沸点の高いものを用いると、フィルム作製中の初期段階では蒸発せず、乾燥の最後の過程まで、触媒効果が発揮されやすいため好ましい。ケミカルキュア法は、得られるフィルムの複屈折が大きくなりやすく、また比較的低温で迅速なグラファイト化が可能で、品質のよいグラファイトを得ることができるという観点から必要である。特に、脱水剤とイミド化促進剤を併用することは、得られるフィルムの複屈折が大きくなり得るので好ましい。また、ケミカルキュア法は、イミド化反応がより速く進行するので加熱処理においてイミド化反応を短時間で完結させることができ、生産性に優れた工業的に有利な方法である。
【0056】
具体的なケミカルキュアによるフィルムの製造においては、まずポリアミド酸溶液に化学量論以上の脱水剤と触媒からなるイミド化促進剤を加えて、支持板、PET等の有機フィルム、ドラム、またはエンドレスベルト等の支持体上に流延または塗布して膜状にし、有機溶媒を蒸発させることによって自己支持性を有する膜を得る。次いで、この自己支持性膜をさらに加熱して乾燥させつつイミド化させてポリイミド膜を得る。この加熱の際の温度は、150℃から550℃の範囲内にあることが好ましい。加熱の際の昇温速度には特に制限はないが、連続的もしくは段階的に、徐々に加熱して最高温度がその所定温度範囲内になるようにするのが好ましい。加熱時間はフィルム厚みや最高温度によって異なるが、一般的には最高温度に達してから10秒から10分の範囲が好ましい。さらに、ポリイミドフィルムの製造工程中に、収縮を防止するためにフィルムを容器に接触させたり固定・保持したり延伸したりする工程を含めば、得られるフィルムの複屈折が大きくなりやすい傾向にあるので好ましい。
【0057】
本発明の芳香族ポリイミドフィルムのグラファイト化は、炭素化と黒鉛化の2段階で行う。炭素化と黒鉛化は、別々に行っても良いし、連続的に行っても良い。
【0058】
炭素化は、炭素分が主成分となる物質に変化させる過程のことを意味する。出発物質である芳香族ポリイミドフィルムを減圧下もしくは窒素などの不活性ガス中で予備加熱処理して炭素化を行う。この予備加熱は通常800〜1500℃、好ましくは850〜1350℃の温度で行われる。また、炭化の最高温度に達した時点で30分から1時間程度、最高温度のまま温度の保持を行っても良い。例えば10℃/分の速度で昇温した場合には1000℃の温度領域で30分程度の温度の保持を行っても良い。昇温の段階では、芳香族ポリイミドフィルムの分子配向性が失われないように、フィルムの破損が起きない程度に膜面に垂直方向に圧力を加えてもよい。芳香族ポリイミドフィルムを分解温度で熱処理すると結合の開裂が起こり、分解成分は二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、水素等のガスとなって離脱し、約1000℃で熱処理されると、炭素が主成分の材料となる。
【0059】
黒鉛化は、炭素質材料を熱処理し、芳香環が平面状に繋がったグラファイト層が多数積層した構造に変換させる過程のことを意味する。黒鉛化は、炭素化した芳香族ポリイミドフィルムを一度取り出した後、黒鉛化用の炉に移し変えてからおこなっても良いし、炭素化から黒鉛化を連続的におこなっても良い。黒鉛化は、減圧下もしくは不活性ガス中でおこなわれるが、不活性ガスとしてはアルゴン、ヘリウムが適当である。熱処理温度としては最低でも2500℃以上が必要で、最終的には2600℃以上、より好ましくは、2700℃以上、さらに好ましくは2800℃以上で熱処理することが、熱伝導性、表面硬度、密度、表面の接着性、外観に優れたグラファイトを得るためにはよい。
【0060】
熱処理温度が高いほど良質のグラファイトへの転化が可能であるが、経済性の観点からはできるだけ低温で良質のグラファイトに転化できることが好ましい。2500℃以上の超高温を得るには、通常はグラファイトヒーターに直接電流を流して、そのジュ−ル熱を利用した加熱が行なわれる。グラファイトヒーターの消耗は2700℃以上で進行し、2800℃ではその消耗速度が約10倍になり、2900℃ではさらにその約10倍になる。したがって、原材料のポリイミドフィルムの改善によって、良質のグラファイトへの転化が可能な温度を例えば2800℃から2700℃に下げることは大きな経済的効果を生じる。なお、一般に入手可能な工業的炉において、熱処理可能な最高温度は3000℃が限界である。
【0061】
高分子を熱処理して得られた炭素質材料が全て黒鉛になるわけではない。エポキシやフェノール樹脂を熱処理して作製した炭素質材料は、2500℃以上の温度で熱処理しても黒鉛になることはなくガラス状炭素のままである。芳香族ポリイミド、ポリオキサジアゾール等の芳香環を有する高分子で芳香環が面内にある程度配向し、耐熱性が高い限られた高分子材料を熱処理して得られる炭素質材料のみが黒鉛となる。
【0062】
芳香族ポリイミドフィルムのグラファイト化は上述の通り、炭素化と黒鉛化の2段階を経由しておこり、熱処理により炭素化した後、さらに高温で熱処理することでグラファイト構造に転化させられる。この過程では炭素−炭素結合の開裂と再結合が起きなければならない。グラファイト化をできる限り起こしやすくするためには、その開裂と再結合が最小のエネルギーで起こるようにする必要がある。出発原料である芳香族ポリイミドフィルムの分子配向は炭素化フィルム中の炭素原子の配列に影響を与え、その分子配向はグラファイト化の際に炭素−炭素結合の開裂と再結合化のエネルギーを少なくする効果を生じ得る。したがって、高度な分子配向が生じやすくなるように分子設計を行うことによって、比較的低温でのグラファイト化が可能になる。この分子配向の効果は、フィルム面に平行な二次元的分子配向とすることによって一層顕著になる。
【0063】
グラファイトの原料に用いる芳香族ポリイミドフィルムとしては、厚みが100μm以下のものが好ましい。原料フィルムが厚ければ低温でグラファイト化が進行しにくいため、厚い原料フィルムをグラファイト化する場合には、フィルム表面層ではグラファイト構造が形成されているのにフィルム内部ではまだグラファイト構造になっていないという状況が生じ得るためである。原料フィルムとして100μm以下のものを用いることにより、フィルムの表面層と内部とでほぼ同時にグラファイト化が進行するため、内部から発生するガスが表面層に形成されたグラファイト構造を破壊するのを避けることが可能となる。原料芳香族ポリイミドフィルムの厚みは、好ましくは90μm以下、さらに好ましくは80μm以下、最も好ましくは75μm以下である。
【0064】
グラファイトの原料に用いる芳香族ポリイミドフィルムは、分子の面内配向性に関連する複屈折Δnが、フィルム面内のどの方向に関しても0.08以上であることが好ましい。より好ましくは0.09以上、さらに好ましくは0.10以上、最も好ましくは0.12以上である。複屈折0.08以上であると、フィルムの炭化(炭素化)、黒鉛化が進行しやすくなる。その結果、グラファイトの結晶配向性がよくなり、熱伝導性が顕著に改善される。また、黒鉛化温度が低温でも十分高い熱伝導性のグラファイトフィルムとなり、厚みが厚くても、高い熱伝導性を有するグラファイトフィルムとなる。また、炭化が進行しやすいため、炭化中の昇温速度を速く、熱処理時間を短くしても、品質の優れたグラファイトとなる。また、黒鉛化が進行しやすいため、最高温度を下げて熱処理時間を短くしても品質の優れたグラファイトとなる。
【0065】
ここでいう複屈折とは、フィルム面内の任意方向の屈折率と厚み方向の屈折率との差を意味し、フィルム面内の任意方向Xの複屈折Δnxは、次式
複屈折Δnx=(面内X方向の屈折率Nx)−(厚み方向の屈折率Nz)(式1)
で与えられる。ここで、複屈折はナトリウムD線の波長589nmで測定した値を用いる。
【0066】
なお、「フィルム面内の任意方向X」とは、例えばフィルム形成時における材料流れの方向を基準として、X方向が面内の0゜方向、45゜方向、90゜方向、135゜方向のどの方向においても、の意味である。サンプル測定個所・測定回数は、例えば、ロール状の原料フィルム(幅514mm、)から、幅方向で10cm間隔に6カ所サンプリングして、各部位で複屈折を測定し、その平均を複屈折とする。
【0067】
本発明で用いられる高熱伝導性グラファイト(B)は、厚みが50μm以下のものが好ましい。グラファイトの厚みが薄いほど、グラファイト内部までグラファイト化がより進行しているため、より高熱伝導率のグラファイトとなりやすいためである。グラファイトの厚みは、好ましくは45μm以下、より好ましくは40μm以下、さらに好ましくは35μm以下、最も好ましくは30μm以下である。
【0068】
本発明で用いられる高熱伝導性グラファイト(B)は、線膨張係数が0ppm以下であることが、得られる組成物の熱伝導率が高くなるため好ましい。線膨張係数は、熱機械分析装置(TMA)により室温〜400℃の温度範囲で測定された、グラファイトの面方向の平均線膨張係数をいう。線膨張係数が0ppm以下であるグラファイトは、温度上昇に対してグラファイトフィルムの面方向は縮み、厚み方向が膨張していると考えられる。本発明のグラファイトフィルムは面方向にグラファイト層が非常に発達しており、結晶性に優れているため、このような性質を示すと推定される。
【0069】
さらに線膨張係数が0ppm以下であることを特徴とするグラファイトを用いることにより、組成物として用いる際に温度変化に対して優れた寸法安定性を示し、放熱部位の加熱状態と冷却状態の繰り返しにさらされた場合においても、発熱部位との密着性を保つことができるので好ましい。線膨張係数の値は好ましくは−0.005ppm以下、さらに好ましくは−0.01ppm以下である。一方線膨張係数の下限値には特に制限は無いが、樹脂組成物とした際に樹脂との線膨張係数の差が小さい方が好ましいため、一般的には−20ppm以上、好ましくは−10ppm以上、さらに好ましくは−5ppm以上である。
【0070】
本発明で用いられる高熱伝導性グラファイト(B)は、引張弾性率が1GPa以上であることが、得られる組成物の熱伝導率が高くなるため好ましい。引張弾性率は、例えばオートグラフを用いた引張試験により測定されるグラファイトフィルムの面方向の引張弾性率である。これは、本発明のグラファイトが面方向にグラファイト層が非常に発達しており、結晶性に優れているため強度に優れるものである。引張弾性率の好ましい値としては、1GPa以上、さらに好ましくは1.02GPa以上、さらに好ましくは1.05GPa以上である。一方引張弾性率の上限値は特に規定されないが、一般的には100GPa以下のものが用いられる。
【0071】
芳香族ポリイミドフィルムから上記のようにして製造された高熱伝導性グラファイト(B)は、一般的にはフィルム形状で得られる。このグラファイトを樹脂と混合する際には、混合容易なよう、粉末形状に粉砕して用いるのが一般的であるが、混合時の形状は粉末状に限定されるものではなく、フィルム形状のまま混合しても良いし、フレーク形状で混合しても良い。高熱伝導性グラファイト(B)を粉砕して用いる場合の形状については、種々の形状のものを適応可能である。高熱伝導性グラファイト(B)の粒径は、大きいほど樹脂へ容易に高充填可能であり、かつ高熱伝導性が得られるため好ましいが、あまりに大きすぎると、成形体へと成形した際の表面性が低下したり、フィルムなどの薄物へ加工することが困難になる場合がある。これらの点から高熱伝導性グラファイト(B)を粉砕して用いる際の中心径は好ましくは0.01〜2000μm、さらに好ましくは0.1〜1000μm、最も好ましくは1〜700μmである。
【0072】
これら高熱伝導性グラファイト(B)を添加する際には、樹脂と無機化合物との界面の接着性を高めたり、作業性を容易にしたりするため、シラン処理剤等の各種表面処理剤で表面処理がなされたものであってもよい。表面処理剤としては特に限定されず、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、等従来公知のものを使用することができる。中でもエポキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、及び、アミノシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤、ポリオキシエチレンシラン、等が樹脂の物性を低下させることが少ないため好ましい。無機化合物の表面処理方法としては特に限定されず、通常の処理方法を利用できる。
【0073】
これら高熱伝導性グラファイト(B)は、1種類のみを単独で用いてもよいし、形状、平均粒子径、種類、表面処理剤等が異なる2種以上を併用してもよい。
【0074】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における高熱伝導性グラファイト(B)の使用量は、熱可塑性樹脂(A)に対して、(A)/(B)体積比が5/95〜95/5となるよう含有することが好ましい。熱可塑性樹脂(A)の使用量が体積比で5/95より少ないと、得られる成形品の耐衝撃性、表面性、成形加工性が低下するうえ、溶融混練時の樹脂との混練が困難となる傾向がある。体積比の下限は好ましくは10/90以上、より好ましくは15/85以上、さらに好ましくは20/80以上、最も好ましくは30/70以上である。また熱可塑性樹脂(A)の使用量が体積比で95/5より多いと、熱伝導性改善効果が劣る傾向がある。体積比の上限は好ましくは80/20以下、より好ましくは75/25以下、さらに好ましくは70/30以下、最も好ましくは65/35以下である。
【0075】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、樹脂組成物の耐熱性や機械的強度をより高めるため、本発明の特徴を損なわない範囲で(B)以外の無機化合物を更に添加することができる。このような無機化合物としては特に限定ない。但しこれら無機化合物を添加すると、熱伝導率に影響をおよぼす場合があるため、添加量などには注意が必要である。これら無機化合物も表面処理がなされていてもよい。これらを使用する場合、その添加量は、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、100重量以下である。添加量が100重量部を超えると、耐衝撃性が低下するうえ、成形加工性が低下する場合もある。好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは10重量部以下である。また、これら無機化合物の添加量が増加するとともに、成形品の表面性や寸法安定性が悪化する傾向が見られるため、これらの特性が重視される場合には、無機化合物の添加量をできるだけ少なくすることが好ましい。
【0076】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物をより高性能なものにするため、フェノール系安定剤、イオウ系安定剤、リン系安定剤等の熱安定剤等を、単独又は2種類以上を組み合わせて添加することが好ましい。更に必要に応じて、一般に良く知られている、安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、リン系以外の難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、導電性付与剤、分散剤、相溶化剤、抗菌剤等を、単独又は2種類以上を組み合わせて添加してもよい。
【0077】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては特に限定されるものではない。例えば、上述した成分や添加剤等を乾燥させた後、単軸、2軸等の押出機のような溶融混練機にて溶融混練することにより製造することができる。また、配合成分が液体である場合は、液体供給ポンプ等を用いて溶融混練機に途中添加して製造することもできる。
【0078】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形加工法としては特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、真空成形、プレス成形、カレンダー成形等が利用できる。これらの中でも成形サイクルが短く生産効率に優れることから、射出成形法により射出成形することが好ましい。
【0079】
本願発明の組成物は、実施例でも示すとおり良好な熱伝導性を示し、5W/mK以上、好ましくは7W/mK以上、さらに好ましくは10W/mK以上の成形体を得ることが可能である。
【0080】
本発明の高熱伝導性樹脂組成物は、家電、OA機器部品、AV機器部品、自動車内外装部品、等の射出成形品等に好適に使用することができる。特に多くの熱を発する家電製品やOA機器において、外装材料として好適に用いることができる。
【0081】
さらには発熱源を内部に有するがファン等による強制冷却が困難な電子機器において、内部で発生する熱を外部へ放熱するために、これらの機器の外装材として好適に用いられる。これらの中でも好ましい装置として、ノートパソコンなどの携帯型コンピューター、PDA、携帯電話、携帯ゲーム機、携帯型音楽プレーヤー、携帯型TV/ビデオ機器、携帯型ビデオカメラ、等の小型あるいは携帯型電子機器類の筐体、ハウジング、外装材用樹脂として非常に有用である。
【0082】
また、本発明の高熱伝導性樹脂組成物は従来の無機物配合組成物に比べて、成形加工性、耐衝撃性、さらには得られる成形体の表面性が良好であり、上記の用途における部品あるいは筐体用として有用な特性を有するものである。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0084】
(参考例1)高熱伝導性グラファイト1の作製方法
4,4’−オキシジアニリンの1当量を溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、ピロメリット酸二無水物の1当量を溶解してポリアミド酸溶液(18.5wt%)を得た。この溶液を冷却しながら、ポリアミド酸に含まれるカルボン酸基に対して、1当量の無水酢酸、1当量のイソキノリン、およびDMFを含むイミド化触媒を添加し脱泡した。次にこの混合溶液を、乾燥後に所定の厚さになるようにアルミ箔上に塗布し、熱風オーブンで120℃において240秒乾燥し自己支持性を有するゲルフィルムにし、アルミ箔から引き剥がし熱風オーブンにて120℃で30秒、275℃で40秒、400℃で43秒、450℃で50秒、および遠赤外線ヒーターにて460℃で23秒段階的に加熱して乾燥した。以上のようにして、厚さ75μmのポリイミドフィルムA(弾性率3.1GPa、複屈折0.10)を得た。
【0085】
ポリイミドフィルムAを黒鉛板に挟み、電気炉を用いて窒素雰囲気下で、1000℃まで昇温した後、1000℃で1時間熱処理して炭素化処理した。炭素化されたフィルム400cm(縦200mm×横200mm)を、縦270mm×横270mm×厚み3mmの板状の平滑なグラファイトで上下から挟み、縦300mm×横300mm×厚み60mmの直接通電可能な黒鉛容器(A)内に保持した。アルゴン雰囲気下にて容器を3000℃まで加熱し、高熱伝導性グラファイトフィルム1を製造した。高熱伝導性グラファイトフィルム1の面方向熱伝導率は1100W/mK、厚みは40μm、線膨張係数は−2.6ppm、引張弾性率は1.2GPaであった。この高熱伝導性グラファイトフィルム1をシュレッダーにて疎粉砕した後、ミルを用いて微粉砕することにより、中心径250μmの高熱伝導性グラファイト1を得た。
【0086】
(参考例2)高熱伝導性グラファイト2の作製方法
フィルムの厚みを12.5μm、焼成時間を1/6に設定した以外は参考例1と同様にして、厚さ12.5μmのポリイミドフィルムB(弾性率3.3GPa、複屈折0.15)を製造した。
【0087】
このポリイミドフィルムBを参考例1と同様にして炭素化、黒鉛化することにより、高熱伝導性グラファイトフィルム2を得た。高熱伝導性グラファイトフィルム2の面方向熱伝導率は1400W/mK、厚みは5μm、線膨張係数は−1.3ppm、引張弾性率は1.1GPaであった。この高熱伝導性グラファイトフィルム2を参考例1と同様に粉砕することにより、中心径250μmの高熱伝導性グラファイト2を得た。
【0088】
(参考例3)グラファイト3の作製方法
4,4’−オキシジアニリンの1当量を溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、ピロメリット酸二無水物の1当量を溶解してポリアミド酸溶液(18.5wt%)を得た。この溶液を、触媒を添加せずそのまま275℃で40秒、400℃で43秒、450℃で50秒、および遠赤外線ヒーターにて460℃で23秒段階的に加熱されて乾燥することにより、イミド化促進剤を用いないで厚さ75μmのポリイミドフィルムC(弾性率3.0GPa、複屈折0.05)を得た。
【0089】
このポリイミドフィルムCを参考例1と同様にして炭素化、黒鉛化することにより、グラファイトフィルム3を得た。グラファイトフィルム3の面方向熱伝導率は200W/mK、厚みは55μm、線膨張係数は0.1ppm、引張弾性率は0.4GPaであった。このグラファイトフィルム3を参考例1と同様に粉砕することにより、中心径250μmのグラファイト3を得た。
【0090】
(参考例4)グラファイト4の作製方法
フィルムの厚みを150μm、焼成時間を2倍に設定した以外は参考例1と同様にして、厚さ150μmのポリイミドフィルムD(弾性率2.7GPa、複屈折0.06)を製造した。
【0091】
このポリイミドフィルムDを参考例1と同様にして炭素化、黒鉛化することにより、グラファイトフィルム4を得た。グラファイトフィルム4の面方向熱伝導率は450W/mK、厚みは90μm、線膨張係数は0.1ppm、引張弾性率は2.5GPaであった。このグラファイトフィルム4を参考例1と同様に粉砕することにより、中心径250μmのグラファイト4を得た。
【0092】
(参考例5)グラファイト5の作製方法
参考例1と同様にして製造したポリイミドフィルムAを、参考例1と同様にして1000℃で炭素化した後、アルゴン雰囲気下にて黒鉛化する際の加熱温度を2000℃とした以外は参考例1と同様にして、一部グラファイト化したフィルム5を得た。フィルム5の面方向熱伝導率は150W/mK、厚みは45μm、線膨張係数は0.2ppm、引張弾性率は0.7GPaであった。このフィルム5を参考例1と同様に粉砕することにより、中心径250μmのグラファイト5を得た。
【0093】
(実施例1)
熱可塑性樹脂(A)としてポリブチレンテレフタレート系樹脂であるノバデュラン5009L(三菱エンジニアリングプラスチック(株)社製)(RES―1)100重量部に対して、安定剤としてアデカスタブAO−60(旭電化製商品名)0.2重量部をスーパーフローターにて混合した(原料1)。
別途高熱伝導性グラファイト(B)として参考例1で製造されたグラファイト粉末を用いた(原料2)。
【0094】
原料1、原料2、を、テクノベル製KZW15−45同方向噛み合い型二軸押出機のスクリュー根本付近に設けられた第一供給口であるホッパーより投入した。熱可塑性樹脂(A)、高熱伝導性グラファイト(B)を体積比で(A)/(B)=50/50となるよう設定した。設定温度は供給口近傍が100℃で、順次設定温度を上昇させ、ニーディングディスク部手前からスクリュー先端部までを270℃に設定した。本条件にて評価用サンプルペレットを得た。
【0095】
(実施例2〜8、比較例1〜5)
使用する樹脂及びグラファイトの種類や量、押出時設定温度、を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、評価用サンプルペレットを得た。実施例及び比較例に用いた原料は、下記の通りである。
熱可塑性樹脂(A)
(RES―1)(ポリブチレンテレフタレート系樹脂):ノバデュラン5009L(三菱エンジニアリングプラスチック(株)社製)
(RES―2)(ナイロン6系樹脂):ユニチカナイロン6 A1020BRL(ユニチカ(株)社製)
(GRA―1):参考例1で製造された高熱伝導性グラファイト1
(GRA―2):参考例2で製造された高熱伝導性グラファイト2
(GRA―3):参考例3で製造されたグラファイト3
(GRA―4):参考例4で製造されたグラファイト4
(GRA―5):参考例5で製造されたグラファイト5
(GRA―6)(市販の高純度天然鱗状黒鉛粉末):BF−250A((株)中越黒鉛工業所製)、中心径250μm。
【0096】
[グラファイトの中心径]
グラファイトの中心径は、(株)日機装製のレーザー回折散乱法マイクロトラック粒度分布測定装置MT3300EXを用いて測定した。
【0097】
[ポリイミドフィルムの複屈折]
図1と図2において、複屈折の具体的な測定方法が図解されている。図1の平面図において、フィルム1から細いくさび形シート2が測定試料として切り出される。このくさび形シート2は一つの斜辺を有する細長い台形の形状を有しており、その一底角が直角である。このとき、その台形の底辺はX方向と平行な方向に切り出される。図2は、このようにして切り出された測定試料2を斜視図で示している。台形試料2の底辺に対応する切り出し断面に直角にナトリウム光4を照射し、台形試料2の斜辺に対応する切り出し断面側から偏光顕微鏡で観察すれば、干渉縞5が観察される。この干渉縞の数をnとすれば、フィルム面内X方向の複屈折Δnxは、Δnx=n×λ/dで表される。ここで、λはナトリウムD線の波長589nmであり、dは試料2の台形の高さに相当する試料の幅3である。このような測定方法により、フィルム形成時における材料流れの方向を基準として、X方向が面内の0゜方向、45゜方向、90゜方向、135゜方向の4方向において複屈折を測定し、その平均値をポリイミドフィルムの複屈折とした。
【0098】
[グラファイトフィルムの面方向熱伝導率]
アルバック(株)製レーザーピットにて面方向の熱拡散率を測定した。別途水中置換法及びDSC法により測定される密度と熱伝導率から、次式により面方向熱伝導率を算出した。
(熱伝導率)=(熱拡散率)×(密度)×(比熱)
[グラファイトフィルムの線膨張係数]
グラファイトフィルムの面方向の線膨張係数の測定には、(株)島津製作所製の熱機械分析装置TMA―50を用いた。測定は、サンプルを3×20mm長にカットし、引張モードにおいて、窒素雰囲気下、初期加重10g、昇温速度10℃/分で、室温〜400℃まで昇温させた。
【0099】
[ポリイミドフィルム、グラファイトフィルムの引張弾性率]
ポリイミドフィルム、グラファイトフィルムの引張弾性率の測定には、(株)東洋精機製作所製のストログラフVES1Dを用い、ASTM−D−882に準拠して測定を行った。測定は、チャック間距離100mm、引張速度50mm/分、室温下で行い、3回測定した際の平均値を使用した。
【0100】
[射出成形]
得られた各サンプルペレットを乾燥した後、射出成形機にて120mm×120mm×厚み3.2mmの平板を成形した。 射出成形時の成形温度は、表1中の押出時設定温度と同じ温度に設定した。
【0101】
[熱伝導率]
厚み3.2mm平板にて、京都電子工業製ホットディスク法熱伝導率測定装置で4φのセンサーを用い、熱伝導率を算出した。
それぞれの配合および結果を表1に示す。表1より、実施例では高熱伝導率の樹脂組成物が得られることがわかる。
【0102】
【表1】

【0103】
以上から本発明の熱可塑性樹脂組成物は、非常に高熱伝導率の組成物が得られることが分かる。このような樹脂組成物は金属などと比較すると、一般的な射出成形用樹脂組成物と同様に射出成形機にて種々の形状へと容易に成形加工することが可能であるため、電気・電子工業分野、自動車分野、などさまざまな状況で熱対策素材として用いることが可能で、工業的に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)、前駆体であるポリアミド酸を脱水剤とイミド化促進剤を用いてイミド化して作製される芳香族ポリイミドフィルムを2500℃以上の温度で熱処理して得られる、単体での面方向熱伝導率が500W/mK以上の高熱伝導性グラファイト(B)、を少なくとも含有し、組成物での熱伝導率が5W/mK以上であることを特徴とする、高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
高熱伝導性グラファイト(B)が、複屈折0.08以上の芳香族ポリイミドフィルムを2500℃以上の温度で熱処理して得られることを特徴とする、請求項1に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
高熱伝導性グラファイト(B)が、厚み100μm以下の芳香族ポリイミドフィルムを2500℃以上の温度で熱処理して得られることを特徴とする、請求項1または2に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
高熱伝導性グラファイト(B)の面方向熱伝導率が800W/mK以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
高熱伝導性グラファイト(B)の厚みが50μm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
高熱伝導性グラファイト(B)の線膨張係数が0ppm以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
高熱伝導性グラファイト(B)の引張弾性率が1GPa以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
熱可塑性樹脂(A)の一部あるいは全部が、結晶性あるいは液晶性を有する樹脂であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物を射出成形して作成された、高熱伝導性成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−47005(P2013−47005A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−210094(P2012−210094)
【出願日】平成24年9月24日(2012.9.24)
【分割の表示】特願2007−77585(P2007−77585)の分割
【原出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】