説明

高耐圧振動吸収ホース及びその製造方法

【課題】振動吸収性能が良好で流体輸送の際においても所要流量を確保でき、なお且つかしめ部のかしめ性能も良好な、軸端部に継手具がかしめ付け固定により装着されて成る高耐圧振動吸収ホースを提供する。
【解決手段】内面層16と、補強線材を編組密度50%以上の高密度で編組して成る補強層18と、カバー層としての外面層20とを有し、軸端部にインサートパイプ及びソケット金具を有する継手金具がかしめ付け固定により装着されて成る破裂圧が5MPa以上の高耐圧振動吸収ホースにおいて、継手金具の装着前のホース本体12の形状を、軸端部のかしめ部12Bが主部12Aに対して拡径形状を成すようにし、且つ補強層18における補強線材の編角を、主部18Aにおいては53〜57°、拡径形状のかしめ部18Bにおいては53超〜62°となす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は高耐圧振動吸収ホース、特に自動車のエンジンルーム内に配管用として配設されるものに適用して好適な高耐圧振動吸収ホース及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、筒状のゴム層を主体として構成されたホースが産業用,自動車用のホースとして各種用途に広く使用されている。
このようなホースを用いる主たる目的は振動を吸収することにある。
例えば自動車のエンジンルーム内に配設される配管用ホースの場合、エンジン振動やエアコンのコンプレッサ振動(冷媒輸送用ホース即ちエアコンホースの場合),車両の走行に伴って発生する各種の振動をホース部分で吸収し、ホースを介して接続されている一方の部材から他方の部材へと振動が伝達されるのを抑制する役割を担っている。
【0003】
ところで産業用,自動車用を問わずオイル系,燃料系,水系,冷媒系ホースの構造は、例えば下記特許文献1に開示されているように内面ゴム層(内面層)と外面ゴム層(外面層)との中間に補強糸(補強線材)を編組して成る補強層を有する構造をなしている。
【0004】
図7(イ)は下記特許文献1に開示された冷媒輸送用ホース(エアコンホース)の構造を示したもので、図中200は筒状の内面ゴム層で内表面が樹脂内層202で被覆されている。
内面ゴム層200の外側には補強糸をスパイラル巻きして成る第1補強層204が、更にその外側に中間ゴム層206を介して補強糸を第1補強層204とは逆向きにスパイラル巻きして成る第2補強層208が積層され、そして最外層としてカバー層としての外面ゴム層210が積層された構造をなしている。
【0005】
この例は補強糸をスパイラル編組して補強層を構成した例であるが、かかる補強層を、補強糸をブレード編組して構成することも行われている。
図7(ロ)はその例を示したもので、図中212は補強糸をブレード編組して成る補強層で、内面ゴム層200と外面ゴム層210との間に形成されている。
尚内面ゴム層200の内表面は樹脂内層202で被覆されている。
【0006】
ところでこのような直筒状のホースの場合、良好な振動吸収性を確保するため従来所定の長さを必要としていた。
特に燃料系や水系等の低圧用のホースに比べてオイル系(例えばパワーステアリング用ホース)や冷媒系(冷媒輸送用ホース)等の耐高圧用のホースでは、ホース剛性が高い分、振動吸収,車室内への音,振動の伝播低減のための必要長さが長くなる。
例えば冷媒輸送用ホースの場合、接続しなければならない直線距離が200mmであったとしても、一般的に300〜600mmの長さのホースを用いて振動吸収,音,振動の伝播低減を図っていた。
【0007】
しかしながらエンジンルーム内には各種の装置や部品が所狭しと組み込まれており、特に近年にあってはエンジンルームがますますコンパクト化されて来ており、そのような中でそこに配設されるホース長が長いと、他との干渉を避けるための配管設計やホース取付時の取回しが大変な作業となり、しかも車種ごとにそれら配管設計や取回しを工夫しなければならず、大きな負担となっていた。
【0008】
このようなことから、ホース長が短尺で良好に振動吸収することのできるホースの開発が求められている。
ホースにおける振動吸収性を確保しながらこれを短尺化する手段として、ホースを蛇腹形状化することが考えられる。
【0009】
しかしながらホースを蛇腹形状化すると可撓性は飛躍的に向上するものの、その内部に流体の高い圧力が作用するとホース全体が軸方向に大きく伸びてしまう。
この場合ホースの両端が固定状態にあると(普通はそうなっている)、ホース全体が大きく曲ってしまい、周辺の部品と干渉を起す問題が発生する。
即ち蛇腹形状化による対策は十分なものとは言えない。
【0010】
ところでエアコンホース等の高耐圧ホースの場合、内部に流体が高い圧力で導かれた状態では、そのような圧力がかかっていない場合に比べてホースと流体とが一体化してより剛体に近い挙動を示すようになる。
その剛性化の程度はホース及び流体を含めた横断面の断面積が大きくなるほど大となる。
逆に言えばホース及び流体の断面積が小さくなれば剛性化の程度は小さくなり、振動吸収性能はそれだけ増すことになる。
従ってホースを蛇腹形状化しないで、なおかつ短尺で振動吸収性能を高めるためにはホース径を小さくすることが有効な手段である。
【0011】
しかしながら単に軸端部を含むホース全体を細くし、また併せて継手具も細径とすると、継手具におけるインサートパイプの内径が小さいものとなって、流体の輸送時に同部分で圧損(圧力損失)を生じたり、また所要の流量を確保することができなくなってしまう。
【0012】
一方で軸端部のかしめ部を細くした上で、内径の大きなインサートパイプを有する大径の継手具を用いると、その装着に際してインサートパイプを軸端部のかしめ部に挿入するときに、挿入抵抗が著しく大きくなってインサートパイプの挿入性が悪化し、継手金具を装着するといったことが実際上難しい。
従ってホース径を小さくするにしても軸端部のかしめ部はそのままとし、他の主部のみを細径化することが望ましい。
この場合、軸端部のかしめ部は主部に対して相対的に拡径形状となる。
このような軸端部が拡径形状のホースを製造する手段として、一旦未加硫ホースを直筒状に成形しておき、その後に軸端部のみを拡径変形させた上で加硫処理するといったことが考えられる。
【0013】
例えば下記特許文献2,特許文献3には、ラジエータホース等の水系ホースにおいて、押出成形した未加硫ホースの端部にマンドレル型を挿入し、その状態で加硫成形することによってホースの軸端部を拡径形状とする点が開示されている。
【0014】
しかしながら特許文献2,特許文献3に開示のホースは水系のホースであって破裂圧が小さく、補強層の編組密度も約15〜25%と低いものであって、この場合には拡径作業に際しての困難性はそれほど大きくない。
しかしながら破裂圧が5MPa以上で補強層の編組密度が50%以上もあるような高密度の高耐圧ホースとなると、マンドレル型挿入の際に補強層による抵抗が飛躍的に増大し、拡径作業が一挙に困難化する。
【0015】
詳述すると、水系ホース等の低耐圧ホース及び編組密度が高密度の高耐圧ホースの何れにあっても、通常は補強層における補強糸の編角を静止角(54.7°)近辺とする。
【0016】
その理由は、例えば編角が静止角よりも大角度であると、図8(イ)に示しているように内圧がかかったときに補強層がその内圧を受けて補強糸の編角を静止角とする方向に全体が長手方向に伸長して(このとき補強層は径方向に縮み変形する)ホースの長手方向の変形量が大となり、また一方同図(ハ)に示しているように補強層における補強糸の編角が静止角よりも小角度であると内圧がかかったときに編角を静止角度とする方向に補強層が径方向に膨張変形(このとき補強層は長手方向に縮小する)して、ホース自体の径方向の膨張変形が大となり、これに対して編角を静止角ないしその近辺としておけば、同図(ロ)に示しているように内圧がかかってもホースの長手方向及び径方向の変形を防止ないし抑制できるからである。
【0017】
しかしながら一方で、補強層における補強糸の編角をこのような静止角ないしその近辺としておくと、特に破裂圧が5MPa以上で補強層の編組密度が50%以上もあるような高密度の高耐圧ホースの場合、ホースの軸端部にマンドレル型を挿入して拡径する際の作業が困難化してしまう。
【0018】
【特許文献1】特開平7−68659号公報
【特許文献2】特許第3244183号公報
【特許文献3】特公平8−26955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は以上のような事情を背景とし、振動吸収性能が良好で流体輸送の際においても所要流量を確保でき、なお且つかしめ部のかしめ性能も良好な、軸端部に継手具がかしめ付け固定により装着されて成る高耐圧振動吸収ホース及びその製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
而して請求項1のものは、高耐圧振動吸収ホースに関するものであって、このホースは、内面層と、その外側の補強線材を編組密度50%以上の高密度で編組して成る補強層と、更に外側のカバー層としての外面層とを有し、軸端部のかしめ部に対して剛性のインサートパイプ及びスリーブ状のソケット金具を有する継手具を、該インサートパイプを該かしめ部内部に挿入し、且つ該ソケット金具を該かしめ部の外面に嵌挿した状態で該ソケット金具を縮径方向にかしめ付けることで固定して成る、破裂圧が5MPa以上の高耐圧振動吸収ホースであって、前記継手具をかしめ付け固定する前の形状において前記軸端部のかしめ部が他の主部に対して拡径形状をなしているとともに、前記補強層における補強線材の編角が、該主部においては53〜57°、該拡径形状のかしめ部においては53超〜62°をなしていることを特徴とする。
ここで編組密度とは補強層における補強線材の面積の割合で、補強線材間の隙間がゼロであるとき編組密度は100%となる。
【0021】
請求項2は請求項1の高耐圧振動吸収ホースの製造方法に係るものであって、(a)前記内面層としての内面ゴム層,補強糸を編角53〜57°で編組して成る前記補強層及び前記外面層としての外面ゴム層を積層したホースを製造する工程と、(b)該ホースの軸端部の内部にマンドレル型を押し込んで該軸端部を拡径変形させ、且つ該拡径変形によって該軸端部の補強層における補強線材の編角を53超〜62°の範囲内でより大きい角度となす工程と、(c)その拡径状態を保持して加熱処理を行う工程とを含んでいることを特徴とする。
【0022】
請求項3の製造方法は、請求項2において、前記マンドレル型の押込みに際して前記主部の外面を保持型により拘束保持し、その状態で該マンドレル型を押し込んで前記軸端部を拡径変形させることを特徴とする。
【0023】
請求項4の製造方法は、請求項3において、前記マンドレル型の押込みを前記ホースに内圧をかけた状態で行うことを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0024】
以上のように本発明は、補強線材を編組密度50%以上の高密度で編組して補強層を形成し、また軸端部のかしめ部に継手具をかしめ付け固定して成る、破裂圧が5MPa以上の高耐圧振動吸収ホースにおいて、その継手具をかしめ付け固定する前の形状において軸端部のかしめ部を他の主部に対して拡径形状となすとともに、補強層における補強線材の編角を主部においては53〜57°、拡径形状のかしめ部においては53超〜62°となしたものである。
【0025】
本発明の高耐圧振動吸収ホースでは、継手具をかしめ付け固定する前の形状において軸端部のかしめ部が拡径形状をなしているため、そこに継手具を装着する際に容易にこれを行うことができるとともに、継手具におけるインサートパイプの内径とホースの主部の内径との差を可及的に小さく或いは同一内径とすることが可能で、このことにより流体輸送時において継手具の部分で圧損を生じるのを抑制でき、また所要の流量を容易に確保することができる。
【0026】
また本発明では振動吸収の主体となる主部における補強層の編角、具体的には補強線材の編角が静止角に対して約±2°の範囲内に抑えてあることから、流体輸送時において高い内圧が作用したときホースの長手方向及び径方向の変形を良好に抑制することができる。
一方軸端部のかしめ部においては補強線材の編角が53°超となしてあり、継手具をかしめ付固定したときのかしめ性能は良好である。
【0027】
本発明者は、かしめ部における補強線材の編角が53°超であってもマンドレル型挿入により軸端部を拡径作業することが可能であるとの知見を得、特にかしめ部における補強線材の編角をより大きくすることによって、却ってかしめ性能が向上するとの重要な知見を得た。
即ちかしめ部の補強線材の編角をより大きくすると、継手具の抜け力がより大となり、また併せて破裂圧が大きくなるとの知見を得た。
【0028】
その理由は、編角が大きくなることによって、特に静止角超の大きな編角となした場合に、流体の高い内圧が作用したときにかしめ部及びその内部の補強層が軸方向の伸びを伴って縮径、即ち中心側に絞られるように変形し、継手具とかしめ部との密着力或いは締結力が高まって継手具の抜け力が高くなり、また編角が大角度となることによって編組密度が部分的に高まり、破裂圧がより高まるものと考えられる。
この意味において軸端部即ちかしめ部の補強線材の編角は、静止角である54.7°超となしておくことが望ましく、より望ましくは57°以上とする。
【0029】
但しかしめ部の補強線材の編角を一定以上に大きくする場合には、マンドレル型挿入による軸端部の拡径作業時にマンドレル型の挿入作業性が著しく悪化し、現実には拡径作業が困難化してしまう。
この意味においてかしめ部の編角の上限は62°までとしておく。
【0030】
尚、かしめ部における内面層の肉厚は拡径後において1mm以上となしておくことが望ましい。
そのようにしておくことで、継手具をかしめ付け固定したときに内面層がかしめ切れを起こすのを良好に防止することができる。
【0031】
請求項2は上記高耐圧振動吸収ホースの製造方法に関するもので、内面層としての内面ゴム層,補強線材を編角53〜57°で編組してなる補強層及び外面層としての外面ゴム層を積層したホースを製造する工程と、その後において軸端部の内部にマンドレル型を押し込んで軸端部を拡径変形させ、その際に軸端部の補強層における補強線材の編角を大角度且つ53超〜62°とする工程と、その拡径状態を保持して加熱処理を行う工程と、を含んでホースを製造するもので、この製造方法により容易に上記請求項1の高耐圧振動吸収ホースを製造することができる。
【0032】
次に請求項3の製造方法は、上記のマンドレル型の押込みに際して、上記主部の外面を保持型により拘束保持し、その状態でマンドレル型を軸端部に押し込んで拡径させるもので、この製造方法によれば、マンドレル型を軸端部且つ内部に押し込んで同軸端部を拡径させる際、主部の外面が保持型により拘束保持されているため、マンドレル型の軸方向の押込力によって軸端部が座屈を起すのを良好に防止し得て、軸端部を良好に拡径変形させることができる。
【0033】
補強層における補強線材がホースに高耐圧性能を付与するために編組密度50%以上の高密度で編組されていると、その軸端部且つ内部にマンドレル型を押し込んで拡径させる際の抵抗が大きく、そのためにマンドレル型の押込みにともなって軸端部が軸方向に座屈を起してしまう問題を生じ易いが、本発明によればこうした不具合を生じることなく、保持型による拘束保持作用によってマンドレル型を円滑に軸端部の内部に押し込むことができ、これにより同軸端部を良好に拡径変形させることができる。
【0034】
一方請求項4の製造方法は、マンドレル型を押込む際にホースに内圧をかけて径方向に膨張力を作用させ、その状態でマンドレル型を押し込むもので、このようにすることでマンドレル型の押込みによる軸端部の拡径変形をより容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は例えば冷媒輸送用ホース(エアコンホース)等として用いられる高耐圧振動吸収ホース(以下単にホースとする)で、ホース本体12と、軸端部のかしめ部12B(図2参照)にかしめ付固定された一対の継手金具14とを有している。
ホース本体12は、図2に示しているように内面ゴム層(内面層)16と、その外側の補強糸をブレード編組して成る補強層18と、最外層のカバー層としての外面ゴム層(外面層)20とを積層して構成してある。
【0036】
ここで補強層18を構成する補強糸としてPET,PEN,アラミド,PA(ポリアミド),ビニロン,レーヨン,金属ワイヤ等を用いることができる。
【0037】
また内面ゴム層16としてIIR,ハロゲン化−IIR(Cl−IIR,Br−IIR),NBR,CR,EPDM,EPM,FKM,ECO,シリコンゴム,ウレタンゴム,アクリルゴム等の単独材若しくはブレンド材を用いることができる。
但しHFC系冷媒輸送用ホースの場合には特にIIR,ハロゲン化−IIRの単独材又はブレンド材が好ましい。
【0038】
また外面ゴム層20として、上記内面ゴム層16で列挙した各種ゴム材を用いることができるが、それ以外にも熱収縮チューブや熱可塑性エラストマー(TPE)を使用することも可能で、材質としてはアクリル系,スチレン系,オレフィン系,ジオレフィン系,塩化ビニル系,ウレタン系,エステル系,アミド系,フッ素系等を用いることができる。
【0039】
図2に示しているように上記継手金具14は、金属製の剛性のインサートパイプ22と、スリーブ状のソケット金具24とを有しており、そのインサートパイプ22をホース本体12における軸端部のかしめ部12B内に挿入し、またソケット金具24をかしめ部12Bの外面に嵌挿してこれを縮径方向にかしめ付けることで、それらインサートパイプ22とソケット金具24とでかしめ部12Bを内外方向に挟圧する状態に、ホース本体12にかしめ付固定されている。
ここでソケット金具24には内向きの環状の係止部26が設けられていてその係止部26の内周端部が、インサートパイプ22の外周面の環状の係止溝28に係止させられている。
尚図1中15は、インサートパイプ22に回転可能に取り付けられた袋ナットである。
【0040】
本実施形態ではまた、図2に示しているようにホース本体12における主部12Aの内径、具体的には内面ゴム層16における主部16Aの内径dと、インサートパイプ22の内径dとが同一内径とされている。
【0041】
図3は継手金具14をかしめ付ける前のホース本体12の形状を表している。
同図において12Aはホース本体12における主部を、12Bは軸端部のかしめ部を表しており、図示のようにこの実施形態では主部12Aの外径dが、かしめ部12Bの外径dよりも細径をなしている。
即ち従来のこの種ホースにあっては、主部12Aの外径がかしめ部12Bの外径と同一外径であったのが、ここでは主部12Aのみが細径化されている。
その結果として、かしめ部12Bは主部12Aに対して拡径形状をなしている。
【0042】
尚図3において、16Aは内面ゴム層16における主部を、16Bはかしめ部を表しており、また18Aは補強層18における主部を、18Bはかしめ部を表している。
更に20Aは外面ゴム層20における主部を、20Bはかしめ部を表している。
【0043】
本実施形態においては、図3に示しているように補強層18における主部18Aの補強糸の編角θが53〜57°の範囲内の編角とされており、また一方拡径形状の軸端部のかしめ部18Bにおいては、補強糸の編角θがθよりも大角度且つ53超〜62°の範囲内の編角とされている。
【0044】
尚内面ゴム層16は、主部16Aの肉厚tに対してかしめ部16Bの肉厚tが小さくなっている。但しtは1mm以上の厚みを有している。
【0045】
図4及び図5は本実施形態のホース10の製造方法を表したもので、図4に示しているようにこの製造方法では先ず内面ゴム層16,補強層18及び外面ゴム層20を積層したホース12-1を筒状に成形する。
ここで補強層18における補強糸の編角は、図5における主部18Aの補強糸の編角θと同じである。
【0046】
次に図5(I)に示しているように、先端部に小径部30を有するマンドレル型32を用いて、ホース12-1の軸端部を拡径変形させる。
このとき、円筒状の保持型34を用いて拡径を行うことができる。詳しくは円筒状の保持型34をホース12-1の主部12Aに嵌挿してその外面を拘束保持しておき、その状態で軸端部且つ内部にマンドレル型32を軸方向に押し込んで、軸端部をマンドレル型32の形状,外径に対応した形状に拡径変形させる。この拡径変形によって補強層18における軸端部、即ちかしめ部18Bの補強糸の編角はθよりも大角度であるθとなる(図3及び図5(II)参照)。
【0047】
このとき、主部12Aが保持型34にて拘束保持されていることにより、補強層18(詳しくは補強層18におけるかしめ部18A)の拡径方向の抵抗に抗してマンドレル型32を押し込んだ場合であっても軸端部が挫屈を起こさず、マンドレル型32によって良好に拡径変形させることができる。
【0048】
その際、拡径変形後の内面ゴム層16におけるかしめ部16Bの肉厚はその拡径変形によって薄くなるが、上記のようにかしめ部16Bの肉厚tは拡径変形後において1mm以上が確保されている。
換言すれば、マンドレル型32の挿入によって所定の拡径率で軸端部を拡径させたとき、内面ゴム層16におけるかしめ部16Bの肉厚tが1mm以上となるように、内面ゴム層16の肉厚、具体的には主部16Aの肉厚tが定められている。
【0049】
以上のようにしてマンドレル型32を挿入して軸端部を拡径変形させたところで、マンドレル型32を挿入した状態のままホース12-1を加熱処理する(図5(III))。
そして(III)の加熱処理が済んだらマンドレル型32を抜き取って、その拡径されたホース本体12のかしめ部12Bに対し継手金具14をかしめ付け固定する。
ここにおいて図1に示すホース10が得られる。
【0050】
尚本実施形態において、内面ゴム層16における主部16Aの肉厚tは、ホース10に対して良好な振動吸収性を与え、また一方で内部流体の耐透過性,透水性を与えるのに必要な肉厚としておく。
【0051】
図5では単にマンドレル型32をホース12-1の軸端部に押込み挿入するようにしているが、補強層18による抵抗によってマンドレル型32を挿入し辛い場合には、図6に示しているように管体36,マンドレル型32を貫通して設けた通路38を通じてホース12-1の内部に加圧流体を導き、内圧をかけた状態でマンドレル型32をホース12-1内に押込み挿入するようになしてもよい。
例えば拡径率10%まではマンドレル型32を挿入することは比較的可能であるが、拡径率がそれ以上になるとそのままではマンドレル型32を押込み挿入することが難しくなる場合があり、そのような場合にはホース12-1に内圧をかけた状態でマンドレル型32を挿入することができ、これにより更に円滑にマンドレル型32を挿入することができる。
【0052】
以上のように本実施形態によれば、継手金具14をかしめ付け固定する前のホース本体12の形状において軸端部のかしめ部12Bが拡径形状をなしているため、そこに継手金具14を装着する際に容易にこれを行うことができるとともに、継手金具14におけるインサートパイプ22の内径とホース本体12の主部12Aの内径とを同一内径とすることができ、これにより流体輸送時において継手金具14の部分で圧損を生じるのを抑制でき、また所要の流量を容易に確保することができる。
【0053】
また本実施形態では振動吸収の主体となる主部12Aにおける補強層18の編角、具体的には補強糸の編角が静止角に対して約±2°の範囲内に抑えてあることから、流体輸送時において高い内圧が作用したときにホース10の長手方向及び径方向の変形を抑制することができる。
【0054】
一方補強層18における軸端部のかしめ部18Bにおいては、補強糸の編角が53°超とされており、継手金具14をかしめ付固定した後のかしめ性能は良好である。
【0055】
また本実施形態の製造方法によれば、容易に上記高耐圧振動吸収ホース10を製造することができる。
【実施例】
【0056】
表1に示す各種構成のホース10を製造し、かしめ部性能(継手金具抜き力,高温破裂圧),加圧時長さ変化率,マンドレル挿入性のそれぞれを特定し、評価した。
ここで継手金具はかしめ率35%でかしめ付固定を行った。
【0057】
尚表1において、補強層の打込み本数3本揃え×48打とあるのは、1000de(デニール)の補強糸を3本並べて48個のキャリアでブレード編組したことを表している。
また表1における継手金具抜き力,高温破裂圧の各測定はそれぞれ以下の条件で行った。
<継手金具抜き力>
引張速度10mm/分で継手金具を引張り、継手金具14がホース本体から抜けるときの引抜き力を測定した。
<高温破裂圧>
油温,槽温100℃でホースを取り付けて30分放置し、そして0.98MPa毎に30秒保持しながら昇圧して、破裂に到った圧力を求めた。
【0058】
【表1】

【0059】
表1の結果において、比較例Bではホース主部における補強糸の編角が45°と本発明の下限値よりも低く、更にまたかしめ部における補強糸の編角が50°と本発明の下限値である53°よりも小さく、このために加圧時の長さ変化率が目標範囲を超えていると共に、継手金具抜き力,高温破裂圧等のかしめ性能も悪いものとなっている。
【0060】
また比較例Cでは、かしめ部における補強糸の編角が55°で本発明の条件を満たしてはいるものの、主部における補強糸の編角が50°と本発明の下限値よりも小さく、このために加圧時の長さ変化率が目標範囲を超えている。
【0061】
更に比較例Dでは、主部における補強糸の編角が60°で本発明の上限値を超えており、またかしめ部における補強糸の編角が65°と本発明の上限値を超えて大きいことから、かしめ性能については良好であるものの、加圧時長さ変化率が目標範囲を超えている。またマンドレル型の挿入はできるものの、拡径作業が困難であるため、挿入作業性は悪いものとなっている。
【0062】
これに対して実施例1,2,3,4の何れのものも、かしめ性能,加圧時長さ変化率,マンドレル型の挿入性何れの特性も良好なものとなっている。
尚、比較例Aは実施例4に対して拡径率を大きくし、これに伴ってかしめ部における補強糸の編角が62°から64°と大きくなったもので、実施例4ではマンドレル型の挿入性が良好であったものが、比較例Aではマンドレル型の挿入性が悪いものとなっている。
【0063】
このことから、マンドレル型の挿入性を考えるとかしめ部における補強糸の編角は上限を62°までとするのが良いこと、換言すれば編角を62°以下とすることによって、マンドレル型の良好な挿入性を確保できることが分る。
【0064】
また実施例1,2と実施例3,4との比較から明らかなように、かしめ部における補強糸の編角が大きい方が、かしめ性能(継手金具抜き力)が向上することが分かる。
【0065】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態のホースを示す図である。
【図2】同実施形態のホースの要部を拡大して示す断面図である。
【図3】図1のホース本体の図である。
【図4】図1のホース本体を拡径前の状態で表した図である。
【図5】本発明の実施形態の製造方法の一工程を表した図である。
【図6】図5とは異なる製造方法の要部工程を表した説明図である。
【図7】従来公知のホースの一例を示す図である。
【図8】補強層の編角による伸び縮みの関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0067】
10 高耐圧振動吸収ホース
12 ホース本体
12-1 ホース
12A,16A,18A,20A 主部
12B,16B,18A,20A かしめ部
14 継手金具(継手具)
16 内面ゴム層(内面層)
18 補強層
20 外面ゴム層(外面層)
22 インサートパイプ
24 ソケット金具
32 マンドレル型
34 保持型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面層と、その外側の補強線材を編組密度50%以上の高密度で編組して成る補強層と、更に外側のカバー層としての外面層とを有し、軸端部のかしめ部に対して剛性のインサートパイプ及びスリーブ状のソケット金具を有する継手具を、該インサートパイプを該かしめ部内部に挿入し、且つ該ソケット金具を該かしめ部の外面に嵌挿した状態で該ソケット金具を縮径方向にかしめ付けることで固定して成る、破裂圧が5MPa以上の高耐圧振動吸収ホースであって
前記継手具をかしめ付け固定する前の形状において前記軸端部のかしめ部が他の主部に対して拡径形状をなしているとともに、前記補強層における補強線材の編角が、該主部においては53〜57°、該拡径形状のかしめ部においては53超〜62°をなしていることを特徴とする高耐圧振動吸収ホース。
【請求項2】
請求項1の高耐圧振動吸収ホースの製造方法であって
(a)前記内面層としての内面ゴム層,補強糸を編角53〜57°で編組して成る前記補強層及び前記外面層としての外面ゴム層を積層したホースを製造する工程と
(b)該ホースの軸端部の内部にマンドレル型を押し込んで該軸端部を拡径変形させ、且つ該拡径変形によって該軸端部の補強層における補強線材の編角を53超〜62°の範囲内でより大きい角度となす工程と
(c)その拡径状態を保持して加熱処理を行う工程と
を含んでいることを特徴とする高耐圧振動吸収ホースの製造方法。
【請求項3】
請求項2において、前記マンドレル型の押込みに際して前記主部の外面を保持型により拘束保持し、その状態で該マンドレル型を押し込んで前記軸端部を拡径変形させることを特徴とする高耐圧振動吸収ホースの製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記マンドレル型の押込みを前記ホースに内圧をかけた状態で行うことを特徴とする高耐圧振動吸収ホースの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−97716(P2006−97716A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281276(P2004−281276)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】