説明

高配向グラファイト製品

指向性の高い熱伝導性を有するグラファイト製品を提供する。中間相ピッチ(12)の中間相部分(14)が互いに並んで、安定化される延伸中間相ピッチを生成する。必要によっては、前記グラファイト製品をさらに炭化および黒鉛化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は優れた伝導指向性、特には熱伝導指向性を有する高強度グラファイトの製造に関する。1つの実施形態において、配向、安定化された中間相粉末を使用してグラファイトを形成し、また、黒鉛化して、熱および電気伝導指向性に優れたグラファイトを提供する。このようなグラファイトの製造方法も開示する。
【背景技術】
【0002】
グラファイト製品はさまざまな用途向けに非常に大きな潜在能力があり、その中で最も重要なものに、電気熱管理(electronic thermal management)、リチウムイオン電池、電気化学燃料電池、およびグラファイトのような非活性材料を必要とする用途に使用されることがある。しかしながら、従来から生産されたグラファイトは、多くの用途、特には電気熱管理用途に対して、十分な熱伝導性を有していなかった。
【0003】
一般に、グラファイト製品は、カーボン材料とバインダ材、特にはピッチバインダとを組み合わせてストックブレンドにすることによって製造される。微粒子サイズのフィラーに組み込まれる添加物に、パッフィング(puffing、コークス粒子内でカーボンと結合している硫黄が放出されることが原因とされる)を防止する酸化鉄、前記ブレンドの押出しを助長するコークス粉末およびオイルや他の潤滑油がある。
【0004】
ストックブレンドが熱せられてピッチの軟化温度に達し、プレス成型して、「グリーン」ストック体を生成し、連続運転押出しプレスの使用、またはダイ押出し、成形型での成形によって、「グリーン体」を形成する。
【0005】
グリーンストック体は、ピッチを炉中で熱して炭化し、その結果、グリーンストック体は恒久形状および高い機械的強度を得る。グラファイト体の大きさや製造工程の仕様によっては、「焼成」工程において、グリーン体が約700°Cから約1100℃の間の温度で加熱処理されることが必要とされる。酸化を避けるため、グリーンストック体は比較的空気の少ない状態で焼成される。通常、グリーンストック体の温度は一定の割合で最終焼成温度まで昇温される。ある実施形態では、ブリンスストック体の大きさに応じて、最終焼成温度で1週間から2週間、グリーンストック体が保存される。
【0006】
冷却および洗浄の後、コールタール、石油ピッチ、または産業界に知られる他の形式のピッチに焼成体を1回または複数回含侵させて、焼成体の開口している細孔にピッチコークスを付加的に沈積させても良い。含侵の次に、冷却および洗浄を含む、付加的な焼成工程がそれぞれ続く。それぞれの再焼成工程の時間と温度は製造工程個別に依存して変化する。添加剤がピッチに加えられて、グラファイト体の特性が改善されても良い。このような焼きしまり工程(すなわち、付加的な含侵と再焼成)は、一般に、それぞれ、ストック材の濃度を増大させ、機械的強度を増加させる。典型的には、グラファイト体の形成には少なくとも1つの焼きしまり工程がある。多くのこのような製品は、所望の濃度に達する前に、数回の個別の焼きしまり工程を必要とする。
【0007】
焼きしまりの後、物品は、この段階では炭化体と呼ばれ、次に黒鉛化される。黒鉛化とは、約1500℃〜約3400℃の最終温度の、焼成コークスおよびピッチコークスバインダ内の炭素原子が低構造からグラファイトの結晶構造に転移させるに十分な時間で、熱処理されることである。この高温では炭素以外の要素が蒸発し蒸気となって逃げる。
【0008】
黒鉛化が完了すると、物品は切断され、機械加工または他に成形されて最終形態になる。グラファイトは、その性質により、相当の機械加工に耐える。有利なことに、前述のようにバインダ材はピッチである。天然および人工のピッチは、ペンシルバニア原油など、ある石油から抽出したレアパラフィン基ピッチを除いて、基本的には縮合環芳香族炭化水素から作られ、したがって、いわゆる芳香族塩基を有する有機化合物の組み合わせ混合物である。これら有機化合物で構成される分子は比較的小さくて(数百以下の平均分子量)、互いに弱い相互作用なので、このようなピッチは、事実上、等方性である。
【0009】
350〜450℃の温度で不活性な状況下でこれらのピッチを加熱する際、一定温度または徐々に昇温する状態においては、小液体球がピッチ内に出現し、加熱が続くにつれてその大きさが徐々に増加する。電子線回折および偏光技術を用いて調査すると、これら球体は同じ方向に並んだ配向分子の平板層から構成されていることが分かる。これら球体は、加熱が続くにつれて大きさが増大して、相互接触するようになり、徐々に合体して、大きな量の配列平板層が生成される。合体が続くと、初期の球体のドメインよりもかなり大きな配列分子ドメインが形成される。これらドメインが一緒になって、バルク中間相を形成し、そこで、1つの配向ドメインから別のドメインへの転移が、徐々にカービングラメラ(curving lamellae)を介して、時にはさらに急激なカービングラメラを介して、スムーズに連続して発生する場合がある。
【0010】
ドメイン間の配向の相違によって、分子配列における直線的に非連続な様々な型に対応するバルク中間相に、偏光消滅コンター(polarized light extinction contours)の組み合わせアレイが生成される。生成された配向ドメインの最大の大きさは、ドメインが形成される中間相の粘度および粘度の増加する割合に依存し、同様に、それらはピッチおよび加熱の割合に依存する。あるピッチでは、200ミクロンを超えて数100ミクロンのサイズを有するドメインが生成される。他のピッチでは、中間相の粘度が、レイヤの限定された合体および構造的再配置だけが発生する程度で、その結果、最大のドメインサイズでも100ミクロンは超えないようなものもある。
【0011】
このようにピッチを処理して生成される、高度に配向された光学的中間相材は、「中間相」という言葉で呼ばれ、このような材料を含有したピッチは「中間相ピッチ」として知られる。このようなピッチが、軟化点を超えて加熱されると、2つの不混和液体の混合物になり、1つが光学異方性の配向中間平板層部分で、他が等方性の非中間相部分となる。「中間相」という言葉は、ギリシャ語の「メソス」、すなわち「中間」から取られて、この高度な配向性で光学異方性材料の疑似結晶構造の特質を発現する。
【0012】
徐々に熱せられてピッチ内に発現し始める高配向中間相球体は、光学異方性のみならず反磁性異方性を示す、すなわち、配向分子平板層に垂直な方向に大きな反磁化率を示し、それの平行な方向に小さな反磁化率を示す。その結果、このような球体を含有するピッチが磁界に曝されると、球体が磁界の方向に平行な平板層に配列される傾向を示す。この配向効果が磁界の方向に平行な球体の平板層を配列させる一方で、しかしながら、球体の極またはc軸(c-axes)が磁界の方向に垂直な平板層で回転自在に存在することにより、球体の極の軸に平行に配列されることはない。
【0013】
Singerの米国特許第3,991,170号がその詳細が本明細書に援用され、それによれば、中間相ピッチの中間相部の平板層が実質的に1つの平行な方向に配向され、該平板層のc軸が実質的に1つの平行な方向に配向される中間相ピッチが、溶融状態の中間相を磁界の方向に垂直な軸の周りの周囲磁界に対して回転運動に曝されることで生成されることが示されている。磁界が該磁界の方向に平行な方向に該中間相部の平板層を配列させる反磁性力にピッチの中間相部を曝し、また、ピッチが磁界に垂直な軸の周りの磁界に対して同期して回転させられると、この反磁性力が回転軸に平行な平板層のc軸を配列させるように働く。ピッチを磁界中で連続的にスピンさせることで、または、ピッチの周りの磁界を回転させることで、この特有の配向性が得られる。
【0014】
また、Singerの特許は、ピッチの中間相の平板層が実質的に1つの平行な方向に配列され該平板層のc軸が実質的に1つの平行な方向に配列されると、固体のピッチ品が生成され、その結果、熱処理のみで得られるピッチ品の熱および電気伝導性を超える好ましい平板層を有するピッチ物品が生成されることを教示している。
【0015】
Singerの処理のさらに進んだものが、1985年6月25日〜30日、ペンシルバニア州立大学での、第19回カーボンに関する隔年会議で発表されたSingerの「高配向中間相ピッチの熱拡散の異方性(Anisotropy of the Thermal Expansion of a Highly-Oriented Mesophase Pitch)」に示され、その詳細が本明細書に援用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このように、中間相ピッチを用いて形成された改良された熱伝導性を有するグラファイトが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本明細書に、中間相ピッチ先駆体から高配向グラファイト製品を生成する方法を開示する。本明細書に開示される方法の1つは、a)前記物品を配向させる工程と、b)該物品を部分的に安定化させる工程と、c)前記物品を安定化させる工程と、を順次有する。実施され得る別の方法は、a)中間相ピッチの粉砕粒子を所望形状の物品に成形する工程と、b)該物品を部分的に安定化させる工程と、c)前記物品を配向させる工程と、d)前記物品を安定化させる工程と、を順次有する。
【0018】
本明細書に開示されるさらに別の方法は、a)中間相ピッチ成型粉末を部分的に安定化させる工程と、b)該粉末を部品に成形する工程と、c)前記物品を配向させる工程と、d)前記配向された物品を安定化させる工程と、を順次有する。
【0019】
本明細書に開示される別の方法は、a)テンプレートが所望のグラファイト物品のネガの概略形状に犠牲材(sacrificial material)で構成されて加工対象物に形成される、中間相ピッチをテンプレートに鋳造する工程と、b)前記加工対象物を配向させる工程と、c)前記加工対象物を安定化させる工程と、d)少なくとも前記安定化されて配向された中間相ピッチを炭化する工程と、e)前記犠牲材を除去する工程と、を順次有する。さらに本明細書に開示される別の方法は、a)カーボン、グラファイトおよびこれらの組み合わせから選択された少なくとも1つの材料を含有する第1の本体を中間相ピッチで含侵して、含侵体を形成する工程と、b)前記前記含侵体のピッチを配向させる工程と、c)前記含侵体のピッチを炭化することによって圧縮体を形成する工程と、を順次有する。
【発明の効果】
【0020】
前述の方法が実施されて、多孔質または非多孔質カーボンおよび/またはグラファイト体を生成しても良い。前述の方法が実施されて、所望の密度を有するカーボンおよび/またはグラファイト体を生成しても良い。前述の方法が実施されて、少なくとも配向方向に優れた伝導性を有するカーボンおよび/またはグラファイト体を生産しても良い。
【0021】
ある実施形態では、好ましくは配向の前に物品の安定化が施される。1つの実施形態では、成型用粉末が平均で20メッシュ以下の大きさにされる。さらに別の実施形態では、成形用粉末が少なくとも1つの寸法が約1/8インチ(5メッシュ以下)までの大きさとされる。本発明の他の目的、機能、有利な点は、添付の図面を参照しながら以下の説明を読めば、当業者には容易に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の処理の流れ図である。
【図2】a−b面に優れた平面方向熱伝送性を有するグラファイト品の概略説明図である。
【図3】磁界(H)に曝されたピッチ内の中間相球体の配向を示した概略図である。
【図4】磁界(H)に垂直な軸(Z)の周りに回転された溶融ピッチ内の中間相球体の配向を示した概略図である。
【図5】磁界の溶融中間相ピッチの容器を回転させるための装置を示す概略図である。
【図6】ピッチサンプルに相対して回転するように実装された磁石を除いた、図4に類似のピッチサンプルおよび磁石配置をの概略平面図である。
【図7】ピッチサンプルの周辺の周りに配置された一連の磁極の間をスイッチングすることで回転する磁界が提供される、図6に類似の別の実施形態の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書に開示される実施形態が図1に示され、a)中間相ピッチを供給または形成する工程と、b)中間相ピッチを減少させて、その結果、成形粉末を形成する工程と、c)粉末から物品を成形する工程と、d)物品を安定化させる工程と(実施形態では、物品はグリーン体で良い)、e)物品を配向させる工程と、f)任意に、配向された物品を焼成して炭化体を形成する工程と、g)任意に、炭化体を黒鉛化してグラファイト体を形成する工程と、を有する。1つの実施形態では、安定化は物品を空気および/または酸化剤で処理することを含む。別の実施形態では、安定化は物品を処理して物品の多孔質壁を架橋することを含む。異なる実施形態では粉末が安定化される。本明細書で開示されるグラファイトは、化学気相蒸着法(CVD)または熱分解蒸着法により形成されたものではないことが好ましい。さらには、本明細書に開示されるグラファイトは、ポリイミドフィルムのような重合体フィルムを黒鉛化することで形成されたものではないことが好ましい。
【0024】
図2に、図示のように、「a」および「b」の軸に優れた熱伝導性の平面方向を発現するグラファイト製品が概略的に示され、それに対して、「c」方向または軸と呼ばれる平面方向に垂直な方向にはかなり低い熱伝導性しか発現しない。分子平板層が一般にa−b面に平行に配向される。
【0025】
平面方向、すなわち、a−b平面における本発明に基づいて製造されたグラファイトのの熱伝導性は、約200W/mK以上の、好ましくは約400W/mK以上、さらに好ましくは約600W/mK以上、より好ましくは約1200W/mK以上である。別の実施形態では、熱伝導性が約2000W/mK未満で、約1500W/mK未満である。これに対し、「c」方向の熱伝導性が約1〜50W/mKの範囲内である。
【0026】
このグラファイト製品は何れの固有の密度に限定されない。この製品は高密度であっても低密度であっても良い。1つの実施形態では、一緒に成形される粉末の大きさを制御することで密度が制御される。高密度製品を作るために、成形用粉末は平均で約20メッシュを超えない大きさにされて良い。別の実施形態では、粉末が少なくとも約8つの異なる直径までの範囲の大きさの分布を有しても良い。さらに別の実施形態では、高密度製品を製造するために使用される成形用粉末が良く詰まった大きさの粉末の分布であっても良い。ある実施形態では、少なくとも主要粉末、好ましくは実質的に全ての粉末の、粉末サイズが約150マイクロン以下で構成される。
【0027】
低密度グラファイト製品に関して、低密度(別名、多孔質構造で知られる)の成形物品を形成するのに様々は選択肢が利用可能である。1つの実施形態では、粉末を構成する粒子が狭い範囲でスクリーニングされた粒子のサンプルである。粉末が狭い範囲でスクリーニングされた分布の例では、粒子のほとんど、より好ましくは実質上全ての粒子が、5メッシュ未満の範囲内である。別の実施形態では、粒子の分布が最大粒子の直径(Dl)と最小粒子の直径(Ds)との比を単位として定義されて良い。好ましい比率はDl/Dsで約3未満で、さらに好ましくは、約2未満である。低密度の1つの実施形態では、約1.7g/cc以下の密度、または、少なくと約25%以上の多孔質であるグラファイト体に黒鉛化されて良い物品であって良い。好適な多孔質の例では、それぞれ少なくとも30%、40%、および50%の多孔質である。
【0028】
低密度製品を生産する別の方法には、良く詰まっていない形状の粒子を用いることがある。1つの実施形態では、粒子が実質的に小さいサイズであり、好ましくは実質的に同じ形状である。別の実施形態では、粒子がよく詰まっていない形状、たとえば、これに限定しないが、米のような形状、空洞のあるリングのような形状、突起や先端のある、たとえばジャック形状粒子のような形状、を有する。
【0029】
以下に詳述するように、図3〜7に示される第一の実施形態では、好ましくは、(b)、(c)および(e)の工程の何れの1つまたはその組み合わせが実行され、一方で、材料の回転の割合が最適化されるように材料と磁界との間の相対回転がされ、処理を介して様々な相に転移される。別法では、(d)工程が本明細書に開示される処理の間の何れにおいても任意に実行されて良い。
【0030】
本開示の実施形態に基づく物品の配列は、それの任意の溶融状態における、周辺磁界(図3〜5参照)の方向に垂直な軸の周りに物品を回転させることに、あるいは、そのような軸の周りに磁界を回転させる(図6、7参照)ことに、影響を受ける。磁界の強度、本体または磁界の回転比率は、ピッチの中間相部の平板層を磁界の方向に平行な方向に、該平板層のc軸を回転軸に平行に、配列させる反磁力場にピッチを曝すようなものである。このようなパラメータは、したがって、球体またはドメインの中間相の大きさ、ピッチの等方性の相の粘度、使用温度を含む多くのファクタにそのほとんどが依存する。1つの実施形態では、少なくとも1キロガウスの磁界で少なくとも毎分1回転の割合で磁界に対してピッチを回転させることで、所望の配列をもたらしている。さらに別の実施形態では、少なくとも2キロガウスの磁界で毎分2回転から100回転の割合でピッチを回転させる。しかしながら、配向は磁界の強度だけで限定されない。他の好適な磁界強度は、高々約1ガウスであり、別の実施形態では、少なくとも約500ガウスである。あるいは、配向は、物品または粉末の中間相に配列を発現させるように、粉末、成形物品、部分的に安定化された物品の少なくとも1つを物理的に操作することである。このような操作がやはり炭化中の配向にも応用される。
【0031】
中間相ピッチが、知られた技術に基づいて、350°C以上の温度で、所望の量の中間相を生成するに十分な時間、不活性環境の炭素ピッチを加熱して製造される。不活性の環境とは、窒素、アルゴン、キセノン、ヘリウムなどが使用される加熱条件で、ピッチと活性しない環境を意味する。所望の中間相含有量を生成するのに必要な加熱時間は、使用される固有のピッチおよび温度で変わり、高温よりも低温で求められる加熱時間の方が長い。350°Cでは、一般に中間相を生成するのに必要な最低温度であるが、40%の中間相含有量を生成するに少なくとも1週間の加熱時間が通常必要である。約400°C〜450°Cの温度範囲で、中間相への転移が急速に進み、50%に近づくかそれを超える中間相含有量が、通常、その温度で約1〜40時間で生成される。このような温度が好ましいのは次の理由による。というのは、500°Cを超える温度が好ましくなく、この温度ではピッチがコークスに転移することを避けるためには、約5分を超えて加熱してはならないからである。
【0032】
約92〜約96重量%のカーボン含有量、約4〜約8重量%の水素含有量を含む芳香族塩基炭化ピッチが、通常、中間相ピッチの製造に適している。炭素、水素以外の、酸素、硫黄、窒素などの要素は好ましくなく、4重量%を超えて存在してはならない。このような量以上の外来成分が存在すると、ピッチを炭化し黒鉛化させる工程の際に、炭素の結晶の形成を阻害し、グラファイトのような構造に進化することを抑止する。加えて、外来要素が存在することで、ピッチの炭素含有量が減少し、よって、炭化または黒鉛化製品の最大生産が減少する。このような外来要素が、約0.5〜4重量%の量で存在すると、ピッチが、一般に、約92〜95重量%の炭素含有量となり、水素寄りに平衡する。
【0033】
石油ピッチ、コールタールピッチ、コール抽出物、ナフタリンやアセナフチレンなどの合成ピッチが、中間相ピッチを製造する好適な開始材料である。石油ピッチは、言うまでもなく、原油の精製、または石油精製の接触分解から得られる残滓炭素材料である。コールタールも同様にコール精製によって得られる。これら材料が商用的に利用可能な天然ピッチである。コール抽出物は、直接のコール液状化として、コールの水素化によって得られる。ナフタリンピッチがルイス酸(Lewis acids)を用いて触媒重合によって得られる。アセナフチレンピッチが、一方で、Edstromらによる米国特許第3,574,653号に、詳細が本明細書に援用され、記載されるように、アセナフチレンの重合体の熱分解によって製造される。
【0034】
図3が中間相部14を有する中間相ピッチのサンプル12を概略的に示し、中間相部がそれぞれ、配列分子の平板層16を備える。球体全ての平板層が磁界Hと平行に配列され、球体の極またはc軸が互いに任意に配向される。
【0035】
図4において、サンプル12が矢印18で示されるように磁界内で回転しており、磁界Hに平行に配列された球体14の平板層16だけでなく、加わえて、平板層16の極またはc軸が、ピッチサンプル12の回転軸に平行に配列される。回転軸に平行な方向に球体14の極軸が配列されるのは、球体の平板層がピッチの回転による作用がなくても磁界に平行である配列を維持する性質の結果である。
【0036】
図5を参照すると、前記図4に関する磁界内のサンプル12を回転させる1つの装置が概略的に示される。装置20において、サンプル12が回転試験管22の中に含有される。試験管22がボールベアリングシャフト支持26に取り付けらる回転担体24によって支持される。シャフト支持26に取り付けられるのはスプロケット28であり、チェーン30に駆動され、チェーン30が電子モータ34によって駆動される第2スプロケット32によって順に駆動される。
【0037】
窒素噴射管36が回転組立体を介して試験管22の中まで下方に延在して、窒素または他の不活性ガスを試験管22内に供給する。窒素が試験管22から通気口36、38より通気される。試験管22が退避移動管40内で回転される。熱源42は、たとえば、550°Cを超える温度を供給できるレイセオンヒートガンで良く、それが移動管40の下端に実装される。熱源42からの熱が上方に昇って、44で示されるように、移動管40内の試験管およびサンプル12を加熱する。熱が、矢印46で示すように、試験管22と移動管40との間の小さな口環の移動管40の上端から排出される。
【0038】
試験管22およびサンプル12が、磁界組立のN極48、S極50との間に存在する磁界内を回転する。
【0039】
図6は、固定コンテナ22内に包含される固定ピッチサンプル12に対して矢印54に示されるように回転する回転テーブル52上に、N極およびS極の磁石48、50が実装される装置20の代替を概略的に示す。
【0040】
さらに、図7が別の代替の実施形態を示し、ピッチサンプル12が固定コンテナ22内に配され、その中で、複数の磁気極対の間で電気的にスイッチングすることで矢印54の方向に回転する回転磁界が生成される。最初に電磁極N1―S1へ電流を供給し、次いでN2−S2へ、次いでN3−S3、N4−S4、戻ってN1―S1へ連続してスイッチングすることで、何れの構成要素を実際に機械的に回転させることなく、回転磁界が生成される。
【0041】
記載のように、粉末の安定化はモノリシックのグラファイトの生産を可能にするのに有効である。安定化は粉末の表面を酸化し、これによって粉末表面に原子を架橋結合すると言われている。そして、これが癒着を防止し、揮発性物質を逃がす。さらに、物品の成形の後に実施される安定化は物品の表面の原子を架橋結合させることに有利である。もっとも好ましくは、安定化は配列の後が効果的である。1つの実施形態では、安定化の前に、有利なことには、ピッチがたとえば微粉化、他の処理によって20U.S.メッシュを通過するように平均直径を有する粒子に形成される。さらに好ましくは、中間相ピッチは400U.S.メッシュを通過するほどに小さく(約38ミクロン未満)なくて良い。
【0042】
別の実施形態では、物品の安定化には少なくとも部分的に熱硬化性の中間相ピッチを含有し、その結果、安定化中間相材が再溶融することなく、よって、配向性を失われることが防止される。別の実施形態では、実質的にすべての、好ましくは物品中のすべての中間相ピッチを安定化し、その結果、再溶融することがない。別の実施形態では、安定化が物品内の細孔壁で発生する架橋結合の形で起きることでも良い。
【0043】
1つの実施形態では、物品を安定させるため、配向の前あるいはそれに続けて、物品が安定化剤に曝され、それは空気や酸化剤、両者の混合で良い。好適な酸化剤には、硝酸および過酸化物、特には水素過酸化物が含まれる。配列の前に安定化剤を泡だてて物品に安定化剤を通すか、安定化剤とピッチ粒子との間の密な接触を確実にする他の方法によって、物品が安定化剤で処理される。安定化パラメータに関して、さらに、1993年9月19〜22日のコロンビア州デンバーでの北米熱解析学会(「NATAS」)の、Richard T.Lewis筆記の議事録183〜187頁に開示されている。
【0044】
ある実施形態では、炭化される物品が十分な多孔性を有して、炭化中および/または黒鉛化中に形成される何れの多量の気体が物品から漏出し、その結果、小量の泡立ちすらも発生しない。
【0045】
物品を炭化させる炉で物品を加熱して、物品を恒久の形状にし、より高い機械強度を与える。所望のグラファイト体の寸法および特別な製造工程に基づいて、この「焼成」工程において、物品が約700°Cから約1100°Cの間の温度で熱処理される。焼成中の酸化を防止するため、空気の比較的少ない状態で物品が焼成されても良い。物品の温度が一定割合で上昇して最終焼成温度に達する。いくつかの実施形態では、物品の大きさによって、1〜2週間の間、最終焼成温度で部品が維持される。配向の後または磁界中に、炭化処理がなされても良い。
【0046】
焼成の後、この状態を炭化体と呼ぶが、黒鉛化される。黒鉛化は1500〜3400°Cの間の最終の温度で、配向され安定化された中間相ピッチの炭素原子がグラファイトの結晶構造へ転移されるに十分な時間の熱処理により成される。この高温度で、炭素以外の要素が蒸発し蒸気として漏出する。
【0047】
冷却と洗浄の後、焼成体が、好適なタイプには中間相ピッチや従来のコールタール、石油ピッチ、他の産業界で知られるタイプでも良いピッチに一回以上含侵されて、追加のピッチコークスが本体の開口する細孔に付着する。それぞれの含侵の後には、焼成工程が続き、冷却、洗浄される。それぞれの再焼成の時間と温度は、個別の製造工程に依存して変化しても良い。再焼成が回転磁界で実施され、その結果、生本体で中間相の中で配向していたのと同じように、含侵での中間相ピッチが配向される。添加剤がピッチに包含されて、グラファイト体の特殊な性能が改善されても良い。それぞれの緻密化工程(すなわち、追加の含侵および再焼成のサイクル)は、一般にストック材の密度を増加させ、より高い機械強度を与える。通常、それぞれの本体を形成することには、少なくとも1つの緻密化工程が含まれる。このように多くの物品は所望の密度が得れるまで数回の個々の緻密化が必要とされる。
【0048】
緻密化の後、本体が、この状態は炭化体と呼ばれるが、次いで、前述の黒鉛化がされる。
【0049】
黒鉛化が完了されると、本体が切断されて機械加工若しくは成形されて最終形状になる。その性質から、グラファイトは機械加工に高い耐性を示し、よって、グラファイト板などの間を強固に接続できる。
【0050】
1つの実施形態では、好ましくは、配向中間相ピッチを生成する中間相ピッチの中間相部の層プレーンの互いの配列が、米国特許第3,991,170号のSingerの処理に従って得られる。さらに、Singerの処理と同様の方法で、磁界で配向ピッチを回転継続させてやはり炭化工程を実施することで、さらに高度な配列が最適化できる。
【0051】
グラファイト体を製造する工程に実際に適用されるものに、中間相ピッチの粉砕粒子を所望の形状の物品に成形し、物品を配向させ、安定化させることが含まれる。工程には少なくとも配向の一部の間、物品を炭化させることが含まれれても良い。配向には物品を磁気的に配向させることが含まれても良い。配向には、さらに、物品と磁界との間に相対的に回転させることを含まれても良い。ある実施形態においては、好ましくは、最終安定化の前に、中間相ピッチが配向される。
【0052】
前記グラファイト体を製造する第2の工程は、中間相ピッチの粒子を所望の形状の物品に成形し、部分的に物品を安定化させ、物品を配向させ、配向された物品を安定化させることが含まれても良い。この工程は少なくとも配向の一部の間、物品を炭化させることが含まれても良い。配向には物品を磁気的に配向させることが含まれても良い。このような配向には、物品と磁界との間に相対的に回転させることを含まれても良い。
【0053】
別の実施形態は、グラファイト体を製造する工程である。この工程は、中間相ピッチ成型粉末を部分的に安定化させ、粉末を物品に成形し、物品を配向させ、該配向された物品を安定化させることが含まれて良い。この工程は、さらに物品を炭化させ、随意に、続けて、物品を黒鉛化させることが含まれても良い。随意に、物品を配向させることが物品を磁気的に配向させることが含まれても良い。さらに、この工程が、物品と磁界との間で相対的な回転をさせることでも良い。
【0054】
本明細書で開示する別の実施形態では、中間相ピッチを鋳型に鋳造することが含まれる。鋳型は所望のグラファイト体の概略のネガ形状に犠牲材で作られ、これによって加工対象物が形成される。該加工対象物が配向工程の対象となる。さらには、加工対象物が安定化工程の対象となる。加工対象物の中間相ピッチが炭化されても良い。また、犠牲材は除去されても良い。炭化が、犠牲材の除去の前、またはその後にあるかは随意である。
【0055】
本明細書に開示される別の実施形態では、(a)第1の本体を中間相ピッチに含侵し、これにより、含侵体を形成する工程であって、第1の本体に、カーボン、グラファイト、およびそれらの組み合わせの内から少なくとも1つの材料を選択し、(b)含侵体のピッチを配向し、(c)含侵体のピッチを炭化し、これにより、所望の本体を形成する、ことが含まれる。この工程は、やはり、含侵体を安定化することが含まれても良い。1つの実施形態では、配向を安定化の前に開始する。
【0056】
特別な実施形態では、配向工程の前に、成形粉末を構成する粉末を部分的に安定化することは、粉末が凝集する傾向を下げることに有利である。部分的な安定化は、要求があれば、部分的に安定化された粒子が物品外部の周りの表皮を発現させる点で有利である。
【0057】
別の実施形態では、粒子の部分的な接触部の安定化により、別の粒子と接触していない外側部分の表皮が発現する。このような粒子においては、続く配向工程によって、1つの粒子と次の粒子の境界全域が接触する近接の粒子部分に向かって配向する。
【0058】
別の実施形態では、炭化の前に物品を配向および安定化することで、炭化中にさらに配向させなくても物品の伝導性を増加する可能性を高める。
【0059】
開示の実施形態を実施することにより、配向されたピッチを使用してグラファイト物品が用意され、改良された熱伝導性および有効性を有したグラファイト体が提供されて、電気熱管理やリチウムイオン電池、電気化学燃料電池などの用途に使用される。
【0060】
炭化および/または黒鉛化のような工程の物品は、前記工程の加熱冷却に関連して大きさが減少する(縮小する)場合がある。
【0061】
前述の様々な実施形態が、それらの何れかまたはすべての組み合わせで実施されても良い。さらに、前記に引用されたすべて特許は本明細書に完全に援用される。
【0062】
このように、本発明の装置および方法によって、前述したその目的および有利な点、さらにこれに特有なことが容易に達成されるとは自明である。本開示のために、本発明の好適な実施形態が例示、記載されてきたが、部品および工程の構成および配置が種々に変形されることは当業者によって実現され、その変形は特許請求の範囲内に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)中間相ピッチの粉砕粒子を、所望形状の物品に成形する工程と、
b)前記物品を配向させる工程と、
c)前記物品を安定化させる工程と、
を有することを特徴とするグラファイト体を製造する方法。
【請求項2】
前記配向させる工程が磁気的に配向させる工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のグラファイト体を製造する方法。
【請求項3】
前記物品と磁界との間の相対的な回転を提供する工程をさらに有することを特徴とする請求項2に記載のグラファイト体を製造する方法。
【請求項4】
前記物品が平均で20メッシュ以下の大きさであることを特徴とする請求項1〜3に記載のグラファイト体を製造する方法。
【請求項5】
前記配向させる工程の前に前記物品を部分的に安定化させる工程をさらに有し、かつ、前記配向させる工程の後に前記安定化させる工程を有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のグラファイト体を製造する方法。
【請求項6】
前記配向させる工程が磁気的に配向させる工程を含むことを特徴とする請求項5に記載のグラファイト体を製造する方法。
【請求項7】
a)中間相ピッチ成型用粉末を部分的に安定化させる工程と、
b)前記粉末を、物品に成形する工程と、
c)前記物品を配向させる工程と、
d)前記物品を安定化させる工程と、
を有することを特徴とするグラファイト体を製造する方法。
【請求項8】
前記物品を炭化する工程をさらに有し、前記炭化の工程中に前記物品を配向させる工程を行うことを特徴とする請求項7に記載のグラファイト体を製造する方法。
【請求項9】
前記配向させる工程が磁気的に配向させる工程を含むことを特徴とする請求項7に記載のグラファイト体を製造する方法。
【請求項10】
前記物品と磁界との間の相対的な回転を提供する工程をさらに有することを特徴とする請求項7〜9の何れかに記載のグラファイト体を製造する方法。
【請求項11】
a)中間相ピッチを、所望のグラファイト物品の概略のネガ形状に犠牲材から構成されたテンプレートに鋳造して、加工対象物を形成する工程と、
b)前記加工対象物を配向させる工程と、
c)前記加工対象物を安定化させる工程と、
d)少なくとも前記安定化され、かつ、配向された中間相ピッチを炭化する工程と、
e)前記犠牲材を除去する工程と、
を有することを特徴とするグラファイト体を製造する方法。
【請求項12】
a)カーボン、グラファイトおよびこれらの組み合わせから選択された少なくとも1つの材料を含有する第1の本体を中間相ピッチで含侵して、含侵体を形成する工程と、
b)前記含侵体のピッチを配向させる工程と、
c)前記含侵体のピッチを炭化することによって圧縮体を形成する工程と、
を有することを特徴とするグラファイト体を製造する方法。
【請求項13】
前記含侵体を安定化させる工程をさらに有することを特徴とする請求項12に記載のグラファイト体を製造する方法。
【請求項14】
前記安定化させる工程の前に前記配向させる工程を開始することを特徴とする請求項13に記載のグラファイト体を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−530030(P2012−530030A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515193(P2012−515193)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/038369
【国際公開番号】WO2010/144838
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(507393218)グラフテック インターナショナル ホールディングス インコーポレーテッド (22)
【氏名又は名称原語表記】GrafTech International Holdings Inc.
【Fターム(参考)】