説明

(チオ)フェノキシフェニルシラン組成物およびその製造方法

【課題】本発明は、(チオ)フェノキシフェニルシラン組成物、およびその(チオ)フェノキシフェニルシラン組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物を開示する。本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物の製造方法も開示し、本方法は精製工程をさらに含む。高輝度発光装置用の封入剤の調製への使用に好適な高純度(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物もさらに開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(チオ)フェノキシフェニルシラン組成物、およびその(チオ)フェノキシフェニルシラン組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学用途において透明で高屈折率のシリコーンが必要とされている。熱安定性シリコーンも必要とされている。さらに、液体であるポリシロキサンおよび他のケイ素系ポリマーまたは硬化前、一部の硬化中、もしくはその両方で液体である硬化性組成物を形成するポリシロキサンおよび他のケイ素系ポリマーであって、高屈折率、良好な熱安定性、および透明性を有するポリシロキサンおよび他のケイ素系ポリマーが必要とされている。多くの場合、硬化してエラストマーとなることができるシリコーンが必要とされている。これらの場合、架橋して硬化組成物を形成することができる液体シリコーン系前駆体を有することが好都合である。
【0003】
高屈折率ポリマーは、光学装置の封入、医療用光学装置、例えばコンタクトレンズまたは眼内レンズなどの医療用光学装置、ならびにプラスチック光学部品、例えばレンズおよび導波路などのプラスチック光学部品に関して関心が持たれている。これらの場合の多くでは、液体ケイ素含有反応物質を使用して所定の位置でポリマーを硬化させること、および例えばポリシロキサンなどの高屈折率ポリマーであるケイ素含有反応物質を使用することが望ましい。
【0004】
高輝度LEDの製造業者は、可視領域における高い透明性、高屈折率(すなわち約1.60以上の屈折率)、および数万時間の稼働を超える優れた熱安定性を有する光学ポリマーを望んでいる。さらに、LED産業では、液体プレポリマーが使用されており、装置の大部分を組み立てた後でそのプレポリマーを所定の位置で硬化させている。したがって、硬化性ポリマー系は、最小の収縮を示す必要があり、かつ、組み立てたられた装置を損傷しない条件下で硬化可能である必要がある。現時点では、製造業者は本目的のためにエポキシおよびシリコーンを使用している。しかし、エポキシは、150℃のジャンクション温度で稼働可能な新しい高出力LED装置で使用すると激しい黄変を示す。そのため、一部のシリコーンは優れた熱安定性を示し、黄変がわずかであるので、シリコーンがLEDの主要な封入剤となってきている。現在の商業的なシリコーン封入剤は、1.41〜1.57の範囲の屈折率を有する。
【0005】
LED装置からどれだけ多くの光を引き出すかを決定する場合に、封入剤の屈折率が重要な役割を果たす。このことは、固体高屈折率LEDから低屈折率ポリマー媒体を通過するときの光の全内部反射または非常に強い内部反射に起因する。典型的なLED装置は約2.5の屈折率を有する。したがって、長期にわたって優れた熱安定性を維持しつつ、より高い屈折率を有するシリコーン封入剤を得ることに非常に関心が持たれている。
【特許文献1】米国特許第3,114,759号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリマーの屈折率は、その成分の基のモル屈折度によって決定される。商業的なシリコーンモノマーは、主として脂肪族基およびフェニル基の組み合わせである。このため、従来の液体シリコーンの屈折率は約1.57〜1.58の上限に事実上限定される。ポリ(ジフェニルシロキサン)の屈折率は1.61であるが、これは固体ポリマーである。多くの用途では液体プレポリマーが必要となるので、液体を得るために、より低いガラス転移温度(T)のモノマーをジフェニルシロキサンモノマーとブレンドする必要があり、これは屈折率の低下をもたらす。これがRIの上限を前述のように1.57〜1.58へと導く。硬化ポリシロキサン組成物中に組み込んだ場合に、ジフェニルシロキサンモノマーと同等以上の屈折率を有し、ジフェニルシロキサンモノマーよりも低いTに寄与するモノマーが必要とされている。
【0007】
米国特許第3,114,759号明細書には、「連鎖停止高温流体オルガノポリシロキサン」を形成するためのキャッピング剤として使用可能なアリールオキシアリールアリールアルキルハロシラン(aryloxyaryl aryl alkyl halosilanes)が開示されている。残念ながら、これらのハロシランのケイ素結合有機基としてのアルキル基が存在が、ハロシランの屈折率を限定し、これらを出発物質として使用して製造したポリシロキサンの屈折率も限定する。さらに、これらのアリールオキシアリールアリールアルキルハロシランは単官能性であり、末端キャッピング単位としてのみ使用することができ、それらのポリシロキサンへの組み込みの範囲が限定される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、式Iを有する(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを見出した。
Ph−Q−Ph−Si(Ph)(OR) (I)
(式中:Phは、Ph−Q−、−Si(Ph)(OR)、および4つの水素原子を置換基として有するフェニル環であり;Ph−Qは(チオ)フェノキシ基であり、ここでPhはフェニルであり、およびQは、酸素原子、硫黄原子およびそれらの組み合わせから選択され;Ph−Qは、Si原子に対してオルト、メタまたはパラの位置でPhフェニル環上にあり;Phはフェニルであり;並びに、Rは、水素原子であるか、あるいは、線状、分岐もしくは環状のC〜C10アルキル、フェニル、置換フェニル、アラルキルおよびそれらの組み合わせから独立に選択されるC〜C10炭化水素基である。本発明らはさらに、これらの(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを高収率で生成する合成方法も見出した。この合成方法はさらに、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを非常に高純度で生成することも可能であり、それらを、過酷な稼働条件下で長期間使用可能な高輝度発光装置用のための硬化(チオ)フェノキシフェニルポリシロキサン封入剤中に組み込むことを可能とする。
【0009】
本発明の一態様は、下記式Iを有する(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを含む(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物に関する。
Ph−Q−Ph−Si(Ph)(OR) (I)
(式中:
Phは、Ph−Q−、−Si(Ph)(OR)、および4つの水素原子を置換基として有するフェニル環であり;
Ph−Qは(チオ)フェノキシ基であり、ここで、Phはフェニルであり、およびQは、酸素原子、硫黄原子およびそれらの組み合わせから選択され;
Ph−Qは、Si原子に対してオルト、メタ、またはパラの位置でPhフェニル環上にあり;
Phはフェニルであり;並びに、
Rは、水素原子、C〜C10炭化水素基、およびそれらの組み合わせから独立に選択され、
ここで、該C〜C10炭化水素基は、線状、分岐または環状のC〜C10アルキル、フェニル、置換フェニル、アラルキルおよびそれらの組み合わせから独立に選択される。)
【0010】
本発明の第2の態様は、上記の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物の製造方法であって:
A.式IIを有する(チオ)フェノキシフェニルハライドを提供する工程と、
Ph−Q−Ph−X (II)
(式中:
Phは、Ph−Q−、X、および4つの水素原子を置換基として有するフェニル環であり;
Ph−Qは(チオ)フェノキシ基であり、ここでPhはフェニルであり、およびQは、酸素原子、硫黄原子およびそれらの組み合わせから選択され;
Ph−Qは、Xに対してオルト、メタまたはパラの位置でPhフェニル環上にあり;並びに、
Xは、Cl、Brおよびそれらの組み合わせから選択されるハライドである。);
B.式IIIを有するフェニルトリオキシシランを提供する工程と、
Ph−Si(OR)(OR’) (III)
(式中:
各Rは、水素原子;あるいは、線状、分岐もしくは環状のC〜C10アルキル、フェニル、置換フェニル、アラルキル、およびそれらの組み合わせから独立に選択されるC〜C10炭化水素基;であり;並びに、
R’は、線状、分岐もしくは環状のC〜C10アルキル、フェニル、置換フェニル、アラルキル、およびそれらの組み合わせから独立に選択されるC〜C10炭化水素基である。);
C.前記(チオ)フェノキシフェニルハライドと、金属原子Mを含む活性金属試薬とを反応させて式IVを有する(チオ)フェノキシフェニル金属中間体を形成する工程と、
Ph−Q−Ph−M−X (IV)
(式中:
Mは、マグネシウムおよびリチウムから選択され;
Xは、Cl、Brおよびそれらの組み合わせから選択され;並びに、
n=0または1である。);
D.前期(チオ)フェノキシフェニル金属中間体を前期フェニルトリオキシシランと反応させて(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを形成する工程と;
を含む方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書の用語は、本明細書において具体的に言及される単語、それらの派生語、および類似の意味の単語を含む。
【0012】
本明細書において使用される場合、以下の用語は以下の定義を有する。
【0013】
「範囲」。本明細書における範囲の開示は、下限および上限の形態をとっている。1つ以上の下限が存在することができ、独立に、1つ以上の上限も存在することができる。所与の範囲は、1つの下限および1つの上限を選択することによって画定される。このとき、選択された下限および上限によって、特定の範囲の境界が画定される。この方法で画定することができるすべての範囲は、両端の値を含み、組み合わせ可能であり、これは、任意の下限を任意の上限と組み合わせることで、ある範囲を表すことが可能であることを意味する。例えば、60〜120および80〜110の範囲が特定のパラメーターに関して記載されている場合には、60〜110および80〜120の範囲も考慮されることが理解される。さらに、1および2の最小範囲値が記載されており、3、4および5の最大範囲値が記載されている場合には、次の範囲、1〜3、1〜4、1〜5、2〜3、2〜4、および2〜5のすべてが考慮される。
【0014】
用語「ppm」は、「百万部当たりの部」を意味し、これは、言い換えると「百万重量部当たりの重量部」を意味する。百万部当たりの部は重量を基準としている。したがって、組成物y中の所与の成分xの量は、成分xの重量を組成物yの重量で割った後、百万倍することによって計算される。例えば、0.005グラムの不純物Xが100グラムの本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン中に存在する場合、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランの全重量を基準にして、不純物Xは50ppmで存在する。さらに、0.002gの不純物Yおよび0.0001gの不純物Zも存在する場合、それらの対応するppm値はそれぞれ20ppmおよび1ppmとなる。
【0015】
純度および不純物レベルは、重量パーセント(「重量%」、「wt%」)で表される。純度レベルの分析的な決定は、後述の実験の項で説明するGC−FIDを使用して行われる。CG−FID法では、各溶出ピークの面積パーセントを基準として結果が得られる。このGC−FID分析における化合物の組成が類似しているため、ピークの面積%結果は重量パーセント(重量%)の良い推定値に相当する。したがって、本明細書においては重量パーセント値を面積パーセント値と同等と見なしている。
【0016】
「ケイ素結合有機基」はケイ素原子に結合した有機基であり、「有機基」は、少なくとも1つの炭素を含有するか、または水素原子もしくはヒドロキシ基であるかである。
【0017】
「ケイ素結合フェノキシフェニル基」は、そのフェニル環の炭素原子がケイ素原子に直接結合し、かつ同じフェニル環の別の炭素が「フェノキシ置換基」の酸素原子に直接結合しているケイ素結合フェニル基である。したがって、フェノキシ置換基のこの酸素原子は、ケイ素結合フェノキシフェニル基の「エーテル結合」(すなわち、「ジフェニルエーテル結合」)である。「ケイ素結合チオフェノキシフェニル基」は、そのフェニル環の炭素原子がケイ素原子に直接結合し、かつ同じフェニル環の別の炭素が「チオフェノキシ置換基」の硫黄原子に直接結合しているケイ素結合フェニル基である。用語「(チオ)フェノキシ」は、「フェノキシ」と「チオフェノキシ」との両方を包含する。用語「ケイ素結合(チオ)フェノキシフェニル」は、「ケイ素結合フェノキシフェニル」と「ケイ素結合チオフェノキシフェニル」との両方を包含する。
【0018】
「炭化水素基」は、炭素原子と水素原子とからなる基である。本発明の炭化水素基はC〜C10炭化水素基から選択される。
【0019】
「(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン」は式Iを有するシランである。
Ph−Q−Ph−Si(Ph)(OR) (I)
(式中:
Phは、Ph−Q−、−Si(Ph)(OR)、および4つの水素原子を置換基として有するフェニル環であり;
Ph−Qは(チオ)フェノキシ基であり、ここで、Phはフェニルであり、およびQは、酸素原子、硫黄原子、およびそれらの組み合わせから選択され;
Ph−Qは、Si原子に対してオルト、メタまたはパラの位置でPhフェニル環上にあり;
Phはフェニルであり;並びに、
Rは、水素原子(あるいは「水素」または「H」)、C〜C10炭化水素基、およびそれらの組み合わせから独立に選択され、
ここで、前記C〜C10炭化水素基は、線状、分岐または環状のC〜C10アルキル;フェニル;置換フェニル;アラルキル;およびそれらの組み合わせから独立に選択される。)
さらに各Rは、水素原子、メチル、エチル、イソ−プロピル、フェニル、およびそれらの組み合わせから独立に選択することができる。さらに各Rは、水素原子、メチル、エチル、およびそれらの組み合わせから独立に選択することができる。さらに各Rは、水素原子、メチル、およびそれらの組み合わせから独立に選択することができる。Rはメチルであってもよい。
【0020】
したがって、本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランとしては:各R基が、独立に、線状、分岐、または環状のC〜C10炭化水素基である(チオ)フェノキシフェニルフェニルジアルコキシシラン、例えば、フェノキシフェニルフェニルジメトキシシラン、チオフェノキシフェニルフェニルジメトキシシラン、(チオ)フェノキシフェニルフェニルジエトキシシラン、(チオ)フェノキシフェニルフェニルジ−(イソ−プロポキシ)シラン、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシクロヘキシルオキシメトキシシラン、および(チオ)フェノキシフェニルフェニルエトキシメトキシシラン;各R基のフェニルが、独立に、非置換であるか又は合計1〜4個の炭素を有するアルキル基で置換されている(チオ)フェノキシフェニルフェニルジフェノキシシラン、例えば、(チオ)フェノキシフェニルフェニルジフェノキシラン、および(チオ)フェノキシフェニルフェニルジ(p−トリルオキシ)シラン;各アラルキルR基が、独立に、合計1〜4個のアルキル炭素原子を有し、それらの1〜4個が、フェニル基とケイ素原子との間の架橋アルキルセグメント中に含まれ、0〜3個がフェニル環のさらなるアルキル置換基中に含まれてもよい(チオ)フェノキシフェニルフェニルジ(アラルキル)シラン、例えば、(チオ)フェノキシフェニルフェニルジ(2−フェニルエトキシ)シラン、(チオ)フェノキシフェニルフェニルジ(2−p−トリルエトキシシラン);および(チオ)フェノキシフェニルフェニル2−フェニルエトキシ2−p−トリルエトキシシラン;および(チオ)フェノキシフェニルフェニルジヒドロキシシランが含まれる。本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランは、上記R基の分類の1つより多くから選択されるR基の組み合わせをさらに含み、例えば、(チオ)フェノキシフェニルフェニルヒドロキシメトキシシラン;(チオ)フェノキシフェニルフェニルエトキシヒドロキシシラン;(チオ)フェノキシフェニルフェニルエトキシフェノキシシラン;(チオ)フェノキシフェニルフェニルメトキシフェノキシシラン;および(チオ)フェノキシフェニルフェニルメトキシ2−フェニルエトキシシランが含まれる。さらに、これらの種類の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランのいずれについても、(チオ)フェノキシフェニル基は、オルト−(チオ)フェノキシフェニル、メタ−(チオ)フェノキシフェニル、パラ−(チオ)フェノキシフェニル、またはそれらの組み合わせであってよいことが理解される。さらに本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランは、上述のフェノキシフェニルフェニルシランの任意の種類、およびそれらの組み合わせから選択することができる。本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランは、上述のチオフェノキシフェニルフェニルシランの任意の種類、およびそれらの組み合わせからさらに選択することができる。本発明の(チオ)フェノキシフェニルシランは、フェノキシフェニルフェニルシランとチオフェノキシフェニルフェニルシランとの組み合わせから選択することもできる。
【0021】
以下の「構造A」、「構造B」および「構造C」は、Ph−Q−Ph−が、本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランのケイ素基の結合位置に対してそれぞれオルト−(チオ)フェノキシフェニル、メタ−(チオ)フェノキシフェニル、およびパラ−(チオ)フェノキシフェニルである(チオ)フェノキシフェニル基(Qが酸素原子または硫黄原子)である場合の式Iの構造である。
【0022】
【化1】

【0023】
「(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物」は、本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを含む。本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物は、式Iを有する(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを任意の量で含む組成物である。典型的には、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを調製するための反応後に反応混合物から回収される(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物は、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物の重量を基準にして少なくとも80重量パーセント、および99.90重量パーセント以下の量の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを含有する。
【0024】
本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物を、例えば発光ダイオード(LED)などの発光装置の封入剤として好適な硬化(チオ)フェノキシフェニルポリシロキサン組成物の調製に使用することが望ましい場合、フェノキシフェニルフェニルシラン組成物中の式Iを有する(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランの、精製後でいかなる希釈剤も含まない場合の量は、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物の重量を基準にして、少なくとも99.0重量パーセント、少なくとも99.5重量パーセント、または少なくとも99.9重量パーセントであり、100重量パーセント以下、99.999重量パーセント以下、99.998重量パーセント以下である。
【0025】
さらに、本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物を、例えば高輝度LED(HBLED)などの発光装置の封入剤として好適であり、後述の加速熱老化試験に合格可能な硬化(チオ)フェノキシフェニルポリシロキサン組成物の調製に使用することが望ましい場合、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物中の式Iを有する(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランの、精製後でいかなる希釈剤も含まない場合の量は、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物の重量を基準にして、少なくとも98重量パーセント、少なくとも99重量パーセント、少なくとも99.5重量パーセント、または少なくとも99.9重量パーセントであり、100重量パーセント以下、99.999重量パーセント以下、99.998重量パーセント以下である。
【0026】
「(チオ)フェノキシフェニルハライド」(あるいは「ハロ(チオ)フェノキシベンゼン」)は、式IIを有するフェニルハライドである。
Ph−Q−Ph−X (II)
(式中:
Phは、Ph−Q、X、および4つの水素原子を置換基として有するフェニル環であり;
Ph−Qは(チオ)フェノキシ基であり、ここでPhはフェニルであり、およびQは、酸素原子、硫黄原子、およびそれらの組み合わせから選択され;
Ph−Qは、Xに対してオルト、メタ、またはパラの位置でPhフェニル環上にあり;並びに、
Xは、Cl、Br、およびそれらの組み合わせから選択されるハライドである。)
【0027】
以下の「構造D」、「構造E」および「構造F」は、(チオ)フェノキシフェニル基 Ph−Q−Ph−が、Phのハライド原子の結合位置に対して、それぞれオルト−(チオ)フェノキシフェニル、メタ−(チオ)フェノキシフェニル、およびパラ−(チオ)フェノキシフェニルである場合の式IIの構造である。R、R、R、R、およびRはすべて水素である。
【0028】
【化2】

【0029】
式IIで表される(チオ)フェノキシフェニルハライドが、本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランの調製の出発物質として使用される場合、単一の異性体(すなわち、オルト、メタ、またはパラのいずれか)として使用することもできるし、またはオルト、メタ、およびパラ異性体の任意の組み合わせとして使用することもできる。さらに、(チオ)フェノキシフェニルハライドのいずれかの異性体のハライドは、クロリド、ブロミド、およびそれらの組み合わせから選択することができる。
【0030】
式IIで表される(チオ)フェノキシフェニルハライドは、本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物中に存在することもできる。(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物が、中間体および/または最終生成物を生成するためのさらなる反応に使用される場合、その(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物中の(チオ)フェノキシフェニルハライドの存在が、それらの中間体、それらの最終生成物、あるいはそれらの最終生成物が単独または別の生成物もしくは物品とともにさらされる性能条件によって十分に許容される場合もあるし、許容されない場合もある。(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物中の(チオ)フェノキシフェニルハライドの存在が十分に許容される場合、式IIを有する(チオ)フェノキシフェニルハライドは、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物の重量を基準にして、0重量パーセント以上、少なくとも0.0001重量パーセント、少なくとも0.0005重量パーセント、少なくとも0.001重量パーセント、または少なくとも0.005重量パーセント、および10重量パーセント以下、5重量パーセント以下、1重量パーセント以下、0.1重量パーセント以下、または0.01重量パーセント以下の量で存在することができる。
【0031】
本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物を、例えば発光ダイオード(LED)などの発光装置の封入剤として好適な硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物の調製に使用する(すなわち、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物を、硬化性組成物の一成分として、または硬化性組成物の一成分の前駆体として使用する)ことが望ましい場合、精製後の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物中の式IIを有する(チオ)フェノキシフェニルハライドの量は、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物の重量を基準にして、0ppmもしくは0ppmより多く、または少なくとも0.5ppm、少なくとも1ppm、少なくとも5ppm、または少なくとも10ppmであり、および1000ppm以下、500ppm以下、100ppm以下、または50ppm以下である。
【0032】
さらに、本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物を、例えば高輝度LED(HBLED)などの発光装置用の150〜200℃の温度に耐えることが可能な封入剤として好適な硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物の調製に使用する(すなわち、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物を、硬化性組成物の一成分として、または硬化性組成物の一成分の前駆体として使用する)ことが望ましい場合、精製後の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物中の式IIを有する(チオ)フェノキシフェニルハライドフェニルの量は、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物の重量を基準にして、0ppmもしくは0ppmより多く、または少なくとも0.001ppm、少なくとも0.1ppm、少なくとも0.5ppm、または少なくとも1ppmであり、および500ppm以下、200ppm以下、100ppm以下、50ppm以下、または20ppm以下である。
【0033】
本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物は;
A.式IIを有する(チオ)フェノキシフェニルハライドを提供する工程と、
Ph−Q−Ph−X (II)
(式中:
Phは、Ph−Q−、X、および4つの水素原子を置換基として有するフェニル環であり;
Ph−Qは(チオ)フェノキシ基であり、ここでPhはフェニルであり、およびQは、酸素原子、硫黄原子、およびそれらの組み合わせから選択され;
Ph−Qは、Xに対してオルト、メタ、またはパラの位置でPhフェニル環上にあり;並びに、
Xは、Cl、Br、およびそれらの組み合わせから選択されるハライドである。);
B.式IIIを有するフェニルトリオキシシランを提供する工程と、
Ph−Si(OR)(OR’) (III)
(式中:
Rは、水素原子、あるいは、線状、分岐もしくは環状のC〜C10アルキル、フェニル、置換フェニル、アラルキル、およびそれらの組み合わせから独立に選択されるC〜C10炭化水素基であり;並びに、
R’は、線状、分岐、または環状のC〜C10アルキル;フェニル;置換フェニル;アラルキル;およびそれらの組み合わせから独立に選択されるC〜C10炭化水素基である。);
C.上記(チオ)フェノキシフェニルハライドと、金属原子Mを含む活性金属試薬とを反応させて式IVを有する(チオ)フェノキシフェニル金属中間体を形成する工程と、
Ph−Q−Ph−M−X (IV)
(式中:
Mは、マグネシウムおよびリチウムから選択され;
Xは、Cl、Br、およびそれらの組み合わせから選択され;並びに、
n=0または1である。);並びに、
D.上記(チオ)フェノキシフェニル金属ハライド中間体と上記フェニルトリオキシシランとを反応させて(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを形成する工程;を含むプロセスによって製造することができる。
好適な活性金属試薬としては、金属マグネシウム、ハロゲン化アルキルマグネシウム、例えばヨウ化メチルマグネシウム、およびアルキルリチウム化合物、例えばメチルリチウムなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。例えば、触媒量のヨウ化メチルを、本発明の(チオ)フェノキシフェニルハライドおよびマグネシウムを含有する反応混合物中に含むことができる。ヨウ化メチルと金属マグネシウムとは容易に反応して、触媒量のヨウ化メチルマグネシウムを形成し、これが(チオ)フェノキシフェニルハライドと交換して、(チオ)フェノキシフェニルマグネシウムハライドを形成し、これはフェニルトリオキシシランとさらに反応して、本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを形成することができる。
【0034】
本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを製造するための好適な方法の1つは、「ワンポット」超音波化学バルビエ(Barbier)型反応であり、この方法では、(チオ)フェノキシフェニルハライド、金属マグネシウム、およびフェニルトリアルコキシシランを無水エーテル溶媒中、典型的には微量のヨウ化メチルの存在下で組み合わせる。(チオ)フェノキシフェニルマグネシウムハライドの形成を伴う超音波処理によって、本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランが生成される。この方法を例示する、臭化p−フェノキシフェニル(あるいは臭化4−フェノキシフェニル)と、金属マグネシウムおよびフェニルトリメトキシシランとによってp−フェノキシフェニルフェニルジメトキシシランが生成される反応の反応スキームは以下の通りである。
【0035】
【化3】

【0036】
当業者は、試薬添加順序、水および酸素の排除、溶媒および試薬の純度、反応の時間、温度、および撹拌、ならびに金属マグネシウムの活性化方法のすべてが反応収率に影響し得ることを理解するであろう。例えば、超音波化学バルビエ型反応を使用して種々の臭化アリールをアリールトリエトキシシランに変換するための、試薬添加順序を変更することによる収率の改善をはじめとする実験条件が、Lee,A.S.−Y.ら,Tetrahedron Letters 2006 47,7085−7087に開示されている。
【0037】
本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを製造するための別の好適な方法の1つは、グリニャール試薬[(チオ)フェノキシフェニルマグネシウムハライド]の逐次形成の後にフェニルトリアルコキシシランを導入することである。この方法を例示する、臭化p−フェノキシフェニルを金属マグネシウムと反応させて臭化p−フェノキシフェニルマグネシウムを形成する反応スキームを以下に示す。その後、この臭化p−フェノキシフェニルマグネシウム中間体をフェニルトリメトキシシランと反応させることで、p−フェノキシフェニルフェニルジメトキシシランが生成される。典型的には、このグリニャール法は、無水エーテル溶媒、例えばテトラヒドロフラン(「THF」)またはジエチルエーテル中で行われる。
【0038】
【化4】

【0039】
実施者は、試薬添加順序、水および酸素の排除、溶媒および試薬の純度、反応の時間、温度、および撹拌、ならびに金属マグネシウムの活性化方法のすべてが反応収率に影響し得ることを理解するであろう。例えば、2つのグリニャール部分が1つの分子のフェニルトリメトキシシランに付加するのを防止するために、グリニャール試薬を、少なくとも1当量のフェニルトリメトキシシランの溶液にゆっくりと加えることが望ましい。過剰のフェノキシフェニルグリニャール試薬がフェニルトリメトキシシランに対して存在する場合は、ビス(フェノキシフェニル)フェニルメトキシシランがより生成されやすくなる。
【0040】
本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを製造するためのさらに別の好適な方法の1つは、(チオ)フェノキシフェニルハライドフェニルをアルキルリチウムと低温(約−76℃)において無水エーテル溶媒中で反応させて、(チオ)フェノキシフェニルリチウムを形成することによる(チオ)フェノキシフェニルリチウムの逐次形成後、続いてフェニルトリアルコキシシランを投入して(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを形成するものである。この方法を例示する、臭化p−フェノキシフェニルをn−ブチルリチウムと反応させてp−フェノキシフェニルリチウムを形成する反応スキームを、以下に示す。その後、このp−フェノキシフェニルリチウム中間体をフェニルトリメトキシシランと反応させることで、p−フェノキシフェニルフェニルジメトキシシランが生成される。
【0041】
【化5】

【0042】
(チオ)フェノキシフェニルマグネシウムハライドおよび(チオ)フェノキシフェニルリチウムは、本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランの製造方法の式IVを有する(チオ)フェノキシフェニル金属中間体の例である。
【0043】
本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを製造するための別の方法の1つは、塩化アリール、臭化アリール、ヨウ化アリール、またはそれらの組み合わせと、ヒドリドシランとの金属触媒カップリングである。この場合、触媒量のパラジウムまたはロジウムの有機金属錯体をフェノキシフェニルハライドと、好適な置換されたシラン種、例えば1つのSi−H結合を含有するフェニルジメトキシシランなどの存在下で反応させる。この種のカップリングの条件は当技術分野において公知である。例えば、Y.ヤマノイ(Yamanoi),J.Org.Chem.70(2005),9607−9609およびそれに記載の参考文献を参照されたい。多種多様なホスフィン配位子、アルシン配位子、アミン配位子、およびそれらの組み合わせを使用して、反応に対する金属触媒中心の活性を制御することができる。好適な方法の1つでは、アリールホスフィン配位子を使用してそのような制御が行われる。
【0044】
本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランの製造方法によって生成された反応混合物の後処理は、当業者に公知の任意の技術によって達成される得る。実例となる好適な方法としては、反応混合物を水性洗浄媒体で洗浄し、続いて、溶媒を減圧下で除去することによって、抽出した有機相(通常は反応溶媒、例えば、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフランであり、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを含有する)を濃縮することが含まれる。次にこの(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランのショートパス蒸留を行うことで、GC−FID分析によって決定した場合に99重量%の純度の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランが得られる。さらなる精製はカラム蒸留によって達成される。例えば、約300グラムの純度99重量パーセントのp−フェノキシフェニルフェニルジメトキシシランを、スピンバースターラーを取り付けた500mLの丸底フラスコに入れる。この丸底フラスコに、温度計を取り付けた40トレイ真空断熱蒸留カラムを取り付ける。圧力を0.2mmHgまで低下させ、丸底フラスコの内容物を加熱する。蒸気温度が170℃に達してから、蒸留物を捕集する。このカラム蒸留法は、GC−FIDによって決定した場合に99.95重量パーセントを超える純度でp−フェノキシフェニルフェニルジメトキシシランを調製することができる。さらにこのカラム蒸留法は、p−フェノキシフェニルフェニルハライドの量を、GC−FIDによって決定した場合に、フェノキシフェニルフェニルジメトキシシランの重量を基準にして0.02重量パーセント未満(200ppm未満)まで減少させることができる。実施者は、蒸留カラムトレイ数(したがって理論段数)を40を超えて増加させることによって、還流分割(reflux splitting)法を使用することによって、カラム蒸留を繰り返すことによって、および分取高圧液体クロマトグラフィーなどの技術を使用することによってまださらに精製することができることを理解するであろう。
【0045】
用語「モルパーセント」および「mol%」は、全体を通して交換可能に使用される。所与のケイ素化合物、例えばポリシロキサンまたはシランの「ケイ素結合(チオ)フェノキシフェニル基のmol%」は、そのケイ素化合物中に含有されるケイ素結合(チオ)フェノキシフェニル基のモル数を、全ケイ素結合有機基のモル数で割ったものである。例えば、4つのケイ素結合(チオ)フェノキシフェニル基、4つのケイ素結合フェニル基、および2つのケイ素結合メトキシ基を有し、合計で10個のケイ素結合有機基を有するケイ素系前駆体(後述の定義参照)は、ケイ素系前駆体の全ケイ素結合有機基を基準にして、40mol%のケイ素結合(チオ)フェノキシフェニル基、40mol%のケイ素結合フェニル基、および20mol%のケイ素結合メトキシ基を含有する。
【0046】
ポリシロキサンは、介在する酸素原子を介した隣接するケイ素原子へのケイ素原子の結合パターンに基づいて命名された「第1級シロキサン単位」という分類単位によって、当技術分野においては説明される。第1級シロキサン単位は、1つのケイ素原子を有し、そのケイ素原子は4つの置換基と結合しており、その置換基の1つ以上が酸素であり、その酸素はさらに別のケイ素原子に直接結合している。したがって、これら2つのケイ素原子のそれぞれは、この酸素を別のケイ素原子と共有している。例えば、(CHSi−O−Si(CHOHは、2つの第1級シロキサン単位を有するポリシロキサンであり、そのそれぞれが、1つの酸素原子に結合した1つのケイ素原子を有し、その酸素原子は他方の第1級シロキサン単位のケイ素原子に結合している。ヒドロキシ基の酸素は、第2のケイ素原子には結合しておらず、そのため、それが属する第1級シロキサン単位がM単位またはD単位(後述参照)であるかを決定するための第2の酸素原子としては数えられない。したがって、ヒドロキシ基はケイ素結合有機基として扱われ、それが属する第1級シロキサン単位はM単位である。
【0047】
用語「M単位」は、その単位のケイ素が、1つのすぐ隣接する−O−Si−部分に、その−O−Si−部分の酸素原子への共有結合を介して結合している、ポリシロキサンの第1級シロキサン単位を指す。
【0048】
同様に、用語「D単位」、「T単位」、および「Q単位」は、それぞれ、その単位のケイ素が2、3、または4つのすぐ隣接する−O−Si−部分に、それらの−O−Si−部分のそれぞれの酸素原子への共有結合を介して結合している、シロキサンの第1級シロキサン単位を指す。
【0049】
本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物は、(チオ)フェノキシフェニルフェニル第1級シロキサン単位を含有する「ケイ素系前駆体成分」(「ケイ素系前駆体」)の調製のための出発物質として使用することができる。本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランから誘導される(チオ)フェノキシフェニルフェニル第1級シロキサン単位を含有するこのようなケイ素系前駆体成分は、硬化性(チオ)フェノキシフェニルフェニルケイ素組成物の一成分としてさらに使用することができる。さらに(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物は、硬化性(チオ)フェノキシフェニルフェニルケイ素組成物の一成分として使用することもできる。硬化性(チオ)フェノキシフェニルフェニルケイ素組成物を硬化させることによって、同様に、硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物が形成される。米国仮特許出願第60/872,094号明細書には、ケイ素系前駆体成分、硬化性(チオ)フェノキシフェニルフェニルケイ素組成物、および硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物が開示されており、さらにそれらすべての製造方法も開示されている。
【0050】
本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物を出発物質として使用して製造可能なケイ素系前駆体成分は、平均組成式の式Vで表される。
(RSiO1/2(RSiO2/2(RSiO3/2(SiO4/2 (V)
(式中:
SiO1/2、RSiO2/2、RSiO3/2、およびSiO4/2はそれぞれ、M単位、D単位、T単位、およびQ単位であり、これらすべてが第1級シロキサン単位であり;
下付き文字c、d、e、およびfはそれぞれ、RSiO1/2、RSiO2/2、RSiO3/2、およびSiO4/2のモル分率に一致するように選択され;
0.001≦c≦1、0≦d≦0.999、0≦e≦0.50、0≦f≦0.10であり;
c+d+e+f=1であり;並びに、
ここで式中:
、R、およびRはそれぞれ独立に、アルケニル、水素原子、フェニル、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、フェノキシ、フェノキシフェニル、チオフェノキシ、チオフェノキシフェニル、その他の炭化水素基、およびそれらの組み合わせから選択されるケイ素結合有機基を含み;
組み合わされるR、R、およびRの少なくとも2つのケイ素結合基が、アルケニル、水素原子、アルコキシ、およびそれらの組み合わせから選択されるケイ素結合基であり;
上記ケイ素結合アルケニル基は、ケイ素中に、ケイ素前駆体成分のケイ素結合有機基の全モル数を基準にして、0モルパーセントから60モルパーセント以下の量で存在し;
上記ケイ素結合水素原子は、ケイ素中に、ケイ素前駆体成分のケイ素結合有機基の全モル数を基準にして0モルパーセントから60モルパーセント以下の量で存在し;
少なくとも1つの第1級シロキサン単位が、(チオ)フェノキシフェニルおよびフェニルの両方をケイ素結合有機基として含む。)
少なくとも1つの(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン単位を重合単位として含むこの式Vのケイ素系前駆体成分は、本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物を唯一の重合性単位として使用して形成され得る。あるいは、本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン以外の重合性単位をさらに含むことが望ましい場合もある。
【0051】
少なくとも1つの(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン単位を重合単位として含む式Vのケイ素系前駆体成分は、硬化性(チオ)フェノキシフェニルフェニルケイ素組成物の一成分として使用することができる。この硬化性(チオ)フェノキシフェニルフェニルケイ素組成物は、場合により;本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランから誘導された第1級シロキサン単位を含まない式Vを有するケイ素系前駆体成分;ヒドロシリル化触媒;他の重合触媒、および式VIを有する「キャッピング剤」をさらに含むことができる。
Si (VI)
(式中、Rは、アルケニル、水素原子、フェニル、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、フェノキシ、フェノキシフェニル、チオフェノキシ、チオフェノキシフェニル、その他の炭化水素基、およびそれらの組み合わせから選択されるケイ素結合有機基を含む。)
【0052】
米国仮特許出願第60/872,094号明細書に開示されている方法を使用して、硬化性(チオ)フェノキシフェニルフェニルケイ素組成物を硬化させて、硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物を形成することができる。本発明の硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物は、半導体をはじめとする電気及び電子製品用のアンダーフィル材、保護コーティング剤、ポッティング剤、または接着剤(例えば、ダイ−ボンディング用途)を含む多くの用途を有する。封入可能な半導体の種類に関しては特に制限はない。例えば、発光ダイオード(LED)装置を、硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物で封入することができる。本発明の硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物の高光透過率は、光学用途に使用される半導体素子にけるアンダーフィル材、保護コーティング剤、ポッティング剤、または接着剤としての使用に、硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物を特に適するものとする。(チオ)フェノキシフェニルフェニルケイ素部分は、コンタクトレンズおよび眼内レンズの分野において非常に有用となり得る。適切なガラス転移温度(T)の維持は、眼内レンズおよびコンタクトレンズの重要な技術的制約であるが、高い透明性および屈折率も望まれる。本発明の硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物は、高RIおよび低Tであるためにこれらの用途に有用である。低粘度の硬化性(チオ)フェノキシフェニルフェニルケイ素組成物は、眼科用レンズ、眼内レンズ、コンタクトレンズ、および光学装置のレンズをはじめとするレンズのキャスティングおよびモールディングに有用である。硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物は、フリップチップ実装用の高熱伝導性熱伝達アンダーフィルとして使用することもできる。
【0053】
本発明の硬化性(チオ)フェノキシフェニルフェニルケイ素組成物の屈折率は、少なくとも1.50、少なくとも1.55、または少なくとも1.58であり、および1.66以下、1.63以下、1.62以下である。屈折率のこれらの限度は、例えば高RIナノ粒子などの高RI添加剤が存在しない場合の限度である。
【0054】
本発明の硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物の屈折率は、少なくとも1.50、少なくとも1.55、または少なくとも1.58であり、および1.66以下、1.63以下、1.62以下である。屈折率のこれらの限度は、例えば高RIナノ粒子などの高RI添加剤が存在しない場合の限度である。
【0055】
本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物が重合単位として、高輝度発光装置(HBLED)のための封入剤として有益に使用できる硬化(チオ)フェノキシフェニルポリシロキサン組成物中に組み込まれる場合、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物の純度は、高温で長時間の使用中の劣化を回避するために高い必要がある。このような場合、硬化(チオ)フェノキシフェニルポリシロキサン組成物は、長時間(例えば数千時間)、100℃〜130℃またはそれ以上の使用温度において空気中で安定である必要がある。硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサンが性能低下せずに機能する能力の試験が「加速熱老化試験」である。加速熱老化試験に合格する硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物は、空気中200℃における少なくとも3日間の熱老化の過程において変色せず、これはCIE b値によって示され、CIE 1976 Lab D65(照射角)/10(観測角)カラー試験法(後述の表2を含む実験の項参照)を使用して決定される。材料がより黄色くなるとCIE b値が増加し、これを透明試料中の黄色の外観の定量化に使用することができる。変色の開始および程度は、目視検査によって決定することもできる(後出の表1参照)。
【0056】
本発明の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物を使用して調製したケイ素系前駆体成分を使用してそれぞれ調製した一連の硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物のメンバーは、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物中の(チオ)フェノキシフェニルハライドのレベルが減少すると、光学的性質の低下に対する抵抗性が顕著に改善される(例えば、黄変が大きく軽減される)。加速熱老化試験を使用して行った観察に基づくと、硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物の製造に使用される(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物中に含有される(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランのレベルは、(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物の重量を基準にして、0ppmもしくは0ppmより多く、または少なくとも0.001ppm、少なくとも0.1ppm、少なくとも0.5ppm、または少なくとも1ppm、および500ppm以下、200ppm以下、100ppm以下、50ppm以下、または20ppm以下となるべきである。
【実施例】
【0057】
〔実験〕
本発明の一部の実施形態を、以下の実施例において詳細に説明する。
【0058】
〔材料〕
大部分のシロキサンモノマーおよびポリマーは、Gelest,Incより購入した。溶媒およびその他の化学物質は、AldrichまたはFisher Scientificより購入した。化学物質は入手した状態のまま使用した。白金濃度は、X線蛍光分光法を白金ストック溶液に対して行うことにより計算する。ポリマーの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによってポリスチレン標準物質を使用して決定し、したがってこれらは相対分子量である。
【0059】
〔屈折率測定〕
以下の合成反応で形成されたケイ素系前駆体の屈折率は、ライヘルト・アッベ・マークIIデジタル屈折計(Reichert Abbe Mark II Digital Refractometer)を使用して決定した。
【0060】
〔GC−FID分析の手順〕
GC−FID分析は、HP 6890ガスクロマトグラフ上でアジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies)7683オートインジェクターを使用して行った。分離は、15Mレステック(Restek)Rtx−5カラムを使用し、10℃/分で100から300℃までの温度プロファイルで行った。注入量は1.0μLであった。試料は、0.10gの生成物(例えば後述の実施例1の生成物)を約1.0mLのジエチルエーテル中に溶解させることによって調製した。結果は面積%結果である。化合物の組成が類似しているため、ピークの面積%結果は重量パーセント(重量%)の良い推定値に相当する。したがって、本明細書においては重量パーセント値を面積パーセント値と同等である。
【0061】
〔加速熱老化試験〕熱老化後の硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物のCIE(国際照明委員会(Commission Internationale de l clairage))分析
試料は、SPIサプライズ(SPI Supplies)より入手可能なガラス製マイクロビーカー中で硬化させた。これらの試料を、200℃の空気オーブン中で、実施例において特定された時間の間老化させた。マイクロビーカーは平底であり、一般に0.4〜1.5グラムの間の材料が入れられる。マイクロビーカーは内径が約18ミリメートルであるため、≧0.4グラムの材料が存在する場合、観察者は1.8cmの経路長部分を通して材料を見て色を判断することができる。試料のCIE色を測定するため、ひっくり返したときにシロキサン試料がビーカーから落ちるまで、試料をドライアイスに繰り返し浸すことによって、試料をマイクロビーカーから取り出した。b座標の大きさは、観察の経路長に依存する。試料を、較正した白色背景に対して観察し、すべての試料は同様の経路長(〜2ミリメートル)を有した。試料のLAB色はX−ライト500シリーズ・スペクトロデンシトメーター(X−Rite 500 Series Spectrodensitometer)を使用して分析した。CIE測定空間はCIE1976Labスペース(CIE 1976 Lab space)であり、D65/10設定(すなわち、65度の照射角、10度の観測角)を使用した。試験体を空気中200℃で3日間熱老化させ、これについて、このCIE1976LabスペースD65(照射角)/10(観測角)カラー試験法を使用して観察して、CIE b値が2.0以下の場合に「加速熱老化試験」に合格となる。表2は目視検査結果を含む。
【0062】
〔加速熱老化試験〕 硬化(チオ)フェノキシフェニルフェニルポリシロキサン組成物の目視検査による透明性および色の決定
小型のガラス製マイクロビーカー中の試料を使用して目視検査(表1)を行った(CIE Lab試験用試料の調製を参照)。試料は、〜1.8cmの経路長を通して端部を観察した。
【0063】
カラム蒸留によって(4−フェノキシ−フェニル)−フェニルシランを純度が99.9重量パーセントを超えるまで精製するための手順
複数アリコートの生成物4−フェノキシ−フェニルフェニルシラン(例えば、実施例1の99重量%の純度の生成物)を、スピンバースターラーを取り付けた500mLの丸底フラスコ中で1つにまとめた。0.2mmHgの圧力下で、温度計を取り付けた40トレイ真空断熱カラムを使用して材料を蒸留した。蒸気温度が170℃に達してから蒸留物を捕集した。GC−FIDによって生成物の純度(実施例1のアリコートの蒸留)を測定すると99.95を超えた。
【0064】
〔実施例1.a〕グリニャールに基づく手順を使用した4−フェノキシ−フェニルフェニルジメトキシシランの調製
500mLのシュレンク(Schlenk)フラスコに、約400mLのジエチルエーテルおよび3.3g(135mmol)のマグネシウム(Mg)金属粉末および約0.1mLのヨウ化メチルを投入した。4−ブロモジフェニルエーテル(32.161g、129mmol)をこのフラスコに加え、その反応混合物を4時間撹拌した。次にフェニルトリメトキシシラン(25.601g、129mmol)をフラスコに加え、内容物を1時間撹拌した。シュレンクフラスコの内容物を1Lの分液漏斗に移し、材料を400mLの蒸留水で2回洗浄した。そのエーテル層を回収し、揮発成分を減圧下で除去した。粗生成物の純度をGC−FID分析により96面積%と決定した。繰り返し合成を行うと、粗生成物の純度は85〜96面積%の範囲であった。生成物をショートパス蒸留によって純度99%までさらに精製した。さらなる精製をカラム蒸留によって達成した。
【0065】
〔実施例1.b〕 粗4−フェノキシ−フェニルフェニルジメトキシシランの精製
実施例1.aの方法で作製した粗4−フェノキシ−フェニルフェニルジメトキシシランを、実施例1.aの方法で精製して、97ppmの臭化p−フェノキシフェニルを含有する精製4−フェノキシ−フェニルフェニルジメトキシシランを得た。
【0066】
〔実施例2〕バルビエに基づく手順を使用した4−フェノキシ−フェニルフェニルジメトキシシランの調製
1Lのシュレンクフラスコに、800mLのジエチルエーテル、ならびに4.74g(195mmol)のMg粉末、約0.1mLのヨウ化メチル、37.564g(189mmol)のフェニルトリメトキシシラン、および47.190g(189.4mmol)の4−ブロモジフェニルエーテルを投入した。このフラスコの内容物について、超音波浴中35℃で2時間混合および加熱を行った。シュレンクフラスコの内容物を2Lの分液漏斗に移し、材料を400mLの蒸留水で2回洗浄した。そのエーテル層を回収し、揮発成分を減圧下で除去した。粗生成物の純度をGC−FID分析によって80%と決定した。生成物をショートパス蒸留によって純度99%までさらに精製した。さらなる精製をカラム蒸留によって達成した。
【0067】
〔実施例3〕4−ブロモジフェニルエーテルのリチオ化による4−フェノキシ−フェニルフェニルジメトキシシランの調製
500mLのシュレンクフラスコに、400mLのジエチルエーテルおよび30.00g(120mmol)の4−ブロモジフェニルエーテルを投入する。フラスコの内容物を−76℃まで冷却する。ジエチルエーテル中1.6Mのブチルリチウム75.2mL(120.4mmol)を滴下添加する。フラスコの内容物を15分間撹拌する。1Lのシュレンクフラスコ中で、23.88g(120mmol)のフェニルトリメトキシシランを100mLのジエチルエーテル中に溶解させることによってフェニルトリメトキシシラン溶液を調製する。カニューレ移送(canuula transfer)を使用してゆっくりと添加することによって、ブロモジフェニルエーテルが入ったフラスコの内容物を、フェニルトリメトキシシラン溶液が入ったフラスコに移す。その反応混合物を30分間混合した後、2Lの分液漏斗に移す。材料を400mLの蒸留水で2回洗浄する。そのエーテル層を回収し、揮発成分を減圧下で除去する。粗生成物の純度をGC−FID分析によって決定すると70%となる。生成物を、ショートパス蒸留によってさらに精製すると、純度は、GC−FID分析によって測定して99%となる。さらなる精製をカラム蒸留によって達成する。
【0068】
〔実施例4〕ジフェニルエーテルのリチオ化によるフェノキシ−フェニルフェニルジメトキシシランの調製
500mLのシュレンクフラスコに、400mLのジエチルエーテルおよび20.50g(120mmol)のジフェニルエーテルを投入する。フラスコの内容物を−76℃まで冷却する。ブチルリチウム(75.2mL、120mmol、ヘキサン中1.6M溶液として)を滴下添加する。フラスコの内容物を15分間撹拌する。1Lのシュレンクフラスコ中で、23.88g(120mmol)のフェニルトリメトキシシランを100mLのジエチルエーテル中に溶解させることによってフェニルトリメトキシシラン溶液を調製する。カニューレ移送を使用してゆっくりと添加することによって、ジフェニルエーテルが入ったフラスコの内容物を、フェニルトリメトキシシラン溶液が入ったフラスコに移す。その反応混合物を30分間混合した後、2Lの分液漏斗に移す。そのエーテル層を回収し、揮発成分を減圧下で除去する。粗生成物(オルト−、メタ−およびパラ−フェノキシフェニル異性体の混合物)の純度はGC−FID分析によって測定して50%となる。生成物を、ショートパス蒸留によってさらに精製すると、純度は、GC−FID分析によって99%と決定される。さらなる精製をカラム蒸留によって達成する。
【0069】
〔実施例5〕
パラジウム触媒を使用したカップリングによるフェノキシ−フェニルフェニルジメトキシシランの調製
1Lのフラスコに、400mLのジメチルホルムアミド、30.00g(120mmol)の4−ブロモジフェニルエーテル、および36.36g(360mmol)のトリエチルアミンを投入する。0.69g(1.2mmol)のパラジウムジベンジリデンアセトンおよび1.82g(6mmol)のトリ−o−トリルホスフィンの混合物から形成したパラジウム触媒を上記フラスコに加える。フェニルジメトキシシラン(20.26g、120mmol)を上記フラスコに加え、内容物を80℃で16時間加熱する。フラスコの内容物を室温まで冷却した後、濾過する。揮発成分を減圧下で除去する。濃縮生成物の混合物を約400のジエチルエーテル中に溶解させ、2Lの分液漏斗に移す。材料を400mLの蒸留水で2回洗浄する。そのエーテル層を回収し、揮発成分を減圧下で除去する。抽出し濃縮した生成物の純度をGC−FID分析によって決定すると80%となる。生成物を、ショートパス蒸留によってさらに精製すると、純度は、GC−FID分析によって決定して99%となる。さらなる精製をカラム蒸留によって達成する。
【0070】
〔実施例6〕
ロジウム触媒を使用したカップリングによるフェノキシ−フェニルフェニルジメトキシシランの調製
1Lのフラスコに、400mLのジメチルホルムアミド、30.00g(120mmol)の4−ブロモジフェニルエーテル、および36.36g(360mmol)のトリエチルアミンを投入する。ロジウム触媒のビス(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロホウ酸塩(1.46g、3mol%、0.004mol)を上記フラスコに加える。フェニルジメトキシシラン(20.26g、120mmol)を上記フラスコに加え、内容物を80℃で16時間加熱する。フラスコの内容物を室温まで冷却した後、濾過する。揮発成分を減圧下で除去する。濃縮生成物の混合物を約400のジエチルエーテル中に溶解させ、2Lの分液漏斗に移す。材料を400mLの蒸留水で2回洗浄する。そのエーテル層を回収し、揮発成分を減圧下で除去する。抽出し濃縮した生成物の純度をGC−FID分析によって決定すると80%となる。生成物を、ショートパス蒸留によってさらに精製すると、純度は、GC−FID分析によって決定して99%となる。さらなる精製をカラム蒸留によって決定する。
【0071】
ポリフェノキシフェニル(フェニル)シロキサンの光学特性に対するモノマー精製の効果
ポリ(フェノキシフェニル)フェニルシロキサンの合成中に使用したフェノキシフェニルフェニルジメトキシシランの純度は、結果として得られるポリマーの光学特性に作用することが見出された。これらの作用について以下の実施例で説明する。
【0072】
〔実施例7〕十分に精製したp−フェノキシフェニルフェニルジメトキシシランを使用した無色透明ポリマーの生成
〔実施例7a〕
p−フェノキシフェニルフェニルジメトキシシランのバッチA
実施例1に記載されるように、フェニルトリメトキシシランを臭化p−フェノキシフェニルマグネシウム(グリニャール試薬)に加えることによって、p−フェノキシフェニルフェニルジメトキシシランを調製した。記載のように反応の後処理を行い、残留するフェニルトリメトキシシランおよび臭化p−フェノキシ−フェニルは、1回のショートパス蒸留によって除去した。得られたモノマー原料は、GC(面積%)によって測定すると以下の組成を有した。
p−フェノキシフェニル(フェニル)ジメトキシシラン:92.62%
フェニルトリメトキシシラン:6.36%
ブロモジフェニルエーテル:0.22%
その他のピーク:0.80%
【0073】
〔実施例7b〕
p−フェノキシフェニルフェニルジメトキシシランのバッチB
実施例1に記載されるように、フェニルトリメトキシシランに臭化p−フェノキシフェニルマグネシウムのグリニャール試薬を加えることによって、p−フェノキシフェニルフェニルジメトキシシランを調製した。記載のように反応の後処理を行い、フェニルトリメトキシシランおよび臭化p−フェノキシ−フェニルを、1回のショートパス蒸留によって除去した。次にモノマーについて、ショートパス蒸留ヘッドを使用して2回目の蒸留を行った。得られたモノマー原料は、GCによって決定すると以下の組成を有していた。
p−フェノキシフェニル(フェニル)ジメトキシシラン:98.92%
フェニルトリメトキシシラン:0.087%
ブロモジフェニルエーテル:0.064%
その他のピーク:0.92%
【0074】
〔実施例7c〕
バッチAモノマー(黄色生成物)およびバッチBモノマー(無色生成物)からのp−フェノキシフェニルフェニルジメトキシシランの重合
バッチAおよびBのp−フェノキシフェニルフェニルジメトキシシランモノマーを用いて2つの同一の重合を行った。p−フェノキシフェニルフェニルジメトキシシラン(18.47グラム)、21.10グラムのジフェニルジメトキシシラン、2.93グラムのジビニルテトラメチルジシロキサンを互いに混合して溶液を形成した。この混合物を、加熱マントル、マグネチックスターラー、温度計、および冷却器を取り付けた100mLの3口丸底フラスコに加えた。次に水(6.65グラム)および3.06グラムの水酸化テトラブチルアンモニウムをこの反応混合物に加えた。還流が観察されるまで(〜77〜80℃の容器温度)まで反応物を加熱した。還流状態で1時間反応させた。次に還流冷却器を取り外し、窒素気流を反応混合物中に吹き込んでメタノールおよび水を除去した。この窒素スパージを1時間行った。窒素スパージ終了後、反応容器温度は90℃であった。反応物を室温まで冷却し、100mLのトルエンを加えた。得られた混合物を、200mLの5%HClで3回洗浄し、続いて250mLの水で2回洗浄した。トルエン−シロキサン相を次に5グラムの無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾紙で濾過した。そのトルエン−シロキサン溶液を次にロータリーエバポレーター上、高真空および85℃で蒸発させた。バッチAモノマーの場合、32グラムの透明であるが黄色がかった生成物が得られた。バッチBモノマーの場合、31グラムの非常に無色透明の材料が得られた。
【0075】
〔実施例8〕
ポリ(p−フェノキシフェニル)フェニルシロキサンの空気中200℃における熱老化に対する臭化p−フェノキシ−フェニルの影響
ポリ(フェノキシフェニル)フェニルシロキサンは、数千時間高温条件に耐えられるのであれば固体LED用封入剤として有用である。これらの封入剤は、固体LED中で使用される場合のジャンクション温度の120〜150℃に曝露することができる。ポリ(フェノキシフェニル)フェニルシロキサン配合物を、空気中の200℃のオーブンで老化させることからなる加速熱老化試験は、多くのLED装置が稼働する50,000時間の寿命にわたる老化特性を予測するために開発した。以下の配合物で、ポリ(p−フェノキシフェニル)フェニルシロキサン中の残留p−ブロモジフェニルエーテル不純物の影響を示す。これらの配合物は、ポリマーA(真空下の40トレイカラムでの蒸留を2回行った後のビニル含有p−フェノキシフェニルフェニルポリマーであり、そのため残留臭化p−フェノキシ−フェニルをGCによって測定するとモノマー中97ppmであった)、ポリマーB(商業的に入手可能な水素化シリコーン)、ヒドロシリル化用白金触媒(Ptの発色に対する影響は米国仮特許出願第60/851,945号明細書において議論されている)、および種々の量のp−ブロモジフェニルエーテルを含有する。ポリマーBはGelestからのHPM−502であり、ポリ(メチルヒドロシロキサン−co−フェニルメチルシロキサン)であり、ジメチルシリル末端を有した。ポリマーBの水素化物当量は、NMRにより決定すると196グラム/Si−H結合の当量であった。白金触媒は、オスコ(Ossko)触媒である、ビニルメチルシクロシロキサン中の白金カルボニルシクロビニルメチルシロキサン錯体であり、Gelestから供給された状態のまま使用した。X線蛍光測定より、このGelest溶液の元素白金は20850ppmであることが示された。以下の配合物用に、このPt溶液を、分配のためにキシレンで100倍に希釈した。臭化p−フェノキシ−フェニルは、Aldrichから入手したままの状態で使用した。
【0076】
〔実施例8a〕
ポリマーAの合成
残留臭化p−フェノキシ−フェニルをGCによって測定した場合にモノマー中97ppmとなるように、この実施例で使用する高純度p−フェノキシフェニルフェニルジメトキシシランモノマーを、真空下の40トレイカラムで2回蒸留した。ジフェニルジメトキシシラン(19.94g、0.082mol、51mol%)、ジメトキシ−(4−フェノキシ−フェニル)−フェニル−シラン(18.29g、0.054mol、34mol%)、およびジビニルテトラメチルジシロキサン(4.47g、0.024mol、15mol%、モノマー合計が100mol%となる)を、テフロン(登録商標)撹拌子を入れた100mLの丸底二口フラスコ(「フラスコA」)に加えた。脱イオン水(4.51g、0.251mol、158mol%)および水酸化テトラブチルアンモニウム、水中40重量%(2.07g、0.0032mol、2mol%)を瓶の中で組み合わせた後、瓶の内容物をフラスコAに加えた。ショートパス蒸留ヘッドを、フラスコAの一方の口に取り付け、他方の口に熱電対を取り付けて反応温度を監視した。加熱マントルをフラスコAの加熱源として使用し、コントローラーを温度制御に使用した。温度計を使用して蒸留物の温度を測定した。フラスコAを85℃で1時間30分加熱撹拌し、8.52gの蒸留物を捕集した。フラスコAの内容物を80℃でさらに1時間10分、還流状態で加熱した。約150mLのトルエンをフラスコAの内容物に加えた。フラスコAの内容物を、次に分液フラスコ(「フラスコB」)に移し、内容物を150mLの5%HCl溶液で洗浄した。その水相を廃棄し、有機層を150mLの5%HCl溶液でさらに2回洗浄し、150mLの脱イオン水で2回洗浄した。その有機層を、次に無水硫酸マグネシウムで一晩乾燥させた後、硫酸マグネシウムを濾過により除去した。室内真空(house vacuum)下80〜90℃の水浴を加熱源として使用した1時間の回転蒸発によって、トルエンを除去した。ポリマー収率は29.60g(収率81.3%)であった。NMRは、このポリマーAが1342g/molのビニル基を含有することを示した。
【0077】
〔実施例8b〕
種々の量の臭化p−フェノキシ−フェニルを有する配合物。配合物を以下のように調製した
撹拌子を使用して、ポリマーAを適切な量のPt触媒と80℃において混合した。次に、ポリマーBおよび臭化p−フェノキシ−フェニルを室温で加えた後、撹拌子を使用して80℃で激しく撹拌した。配合物は、約0.5グラムの材料が入れられたガラス製マイクロビーカー中で調製した。配合物をオーブン中150℃で18時間硬化させた。すべての試料は、目視観察によると透き通った無色透明であった。次に、試料を200℃のオーブンに入れて老化させた。表1および2は、処方および結果を示している。CIE Labカラースケールでは、b値は、試料中に存在する黄色/褐色の量にしっかりと一致することが分かった。b座標の大きさは、観察の経路長に依存する。試料(表2)は、較正した白色背景に対して観察し、すべての試料は同様の経路長(〜2mm)を有していた。目視検査(表1)は、小型のガラス製マイクロビーカー中の試料を使用して行い、経路長は〜1.8cmであった。表1に記載の結果は、〜18ミリメートルの経路長を通した目視観察によって、フェノキシフェニルフェニルビニルケイ素系前駆体を基準にして0ppm、500ppm、および1,000ppmのレベルで加えた臭化p−フェノキシ−フェニルを含有する試料は、空気中200℃で1日後も澄んだ無色透明のままであることを示している。空気中200℃で3日後には、500ppmおよび1,000ppmで加えた臭化p−フェノキシ−フェニルを含有する試料は、それぞれ極わずかな黄色、およびわずかな黄色を示している。表2に示す結果は、フェノキシフェニルフェニルビニルケイ素系前駆体を基準にして0ppm、500ppm、および1,000ppmで加えたレベルの臭化p−フェノキシ−フェニルを含有する試料のCIE b値(経路〜2mm)を示しており、空気中200℃で3日後にDIE Lab b値は「合格」範囲(すなわち2.0未満の値)を維持することを示している。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iを有する(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを含む(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物。
Ph−Q−Ph−Si(Ph)(OR) (I)
(式中:
Phは、Ph−Q−、−Si(Ph)(OR)および4つの水素原子を置換基として有するフェニル環であり;
Ph−Qは(チオ)フェノキシ基であり、ここで、Phはフェニルであり、およびQは、酸素原子、硫黄原子およびそれらの組み合わせから選択され;
Ph−Qは、前記Si原子に対してオルト、メタ、またはパラの位置で前記Phフェニル環上にあり;
Phはフェニルであり;並びに、
Rは、水素原子、C〜C10炭化水素基、およびそれらの組み合わせから独立に選択され、
ここで、前記C〜C10炭化水素基は、線状、分岐もしくは環状のC〜C10アルキル、フェニル、置換フェニル、アラルキルおよびそれらの組み合わせから独立に選択される。)
【請求項2】
Rが、水素原子、メチルおよびエチルから選択される、請求項1記載の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物。
【請求項3】
前記(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランが、前記(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物の重量を基準にして、前記組成物中に、少なくとも99.0重量パーセントから100重量パーセント以下の量で存在する、請求項1記載の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物。
【請求項4】
式IIを有する(チオ)フェノキシフェニルハライドをさらに含み、
Ph−Q−Ph−X (II)
(式中:
Phは、Ph−Q−、Xおよび4つの水素原子を置換基として有するフェニル環であり;
Ph−Qは(チオ)フェノキシ基であり、ここでPhはフェニルであり、およびQは、酸素原子、硫黄原子およびそれらの組み合わせから選択され;
Ph−Qは、前記Xに対してオルト、メタ、またはパラの位置で前記Phフェニル環上にあり;
Xは、Cl、Brおよびそれらの組み合わせから選択されるハライドである。)
並びに、
前記(チオ)フェノキシフェニルハライドは、前記(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物の重量を基準にして、少なくとも0.001ppmおよび500ppm以下の量で存在する、請求項1記載の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物。
【請求項5】
前記(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物が、式IIを有するいずれの(チオ)フェノキシフェニルハライドを含有しない、請求項1記載の(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物。
Ph−Q−Ph−X (II)
(式中:
Phは、Ph−Q−、Xおよび4つの水素原子を置換基として有するフェニル環であり;
Ph−Qは(チオ)フェノキシ基であり、ここでPhはフェニルであり、およびQは、酸素原子、硫黄原子、およびそれらの組み合わせから選択され;
Ph−Qは、前記Xに対してオルト、メタ、またはパラの位置で前記Phフェニル環上にあり;並びに、
Xは、Cl、Brおよびそれらの組み合わせから選択されるハライドである。)
【請求項6】
請求項1記載の前記(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物を製造する方法であって:
A.式IIを有する(チオ)フェノキシフェニルハライドを提供する工程と;
Ph−Q−Ph−X (II)
(式中:
Phは、Ph−Q−、Xおよび4つの水素原子を置換基として有するフェニル環であり;
Ph−Qは(チオ)フェノキシ基であり、ここでPhはフェニルであり、およびQは、酸素原子、硫黄原子およびそれらの組み合わせから選択され;
Ph−Qは、Xに対してオルト、メタ、またはパラの位置で前記Phフェニル環上にあり;並びに、
Xは、Cl、Brおよびそれらの組み合わせから選択されるハライドである)、
B.式IIIを有するフェニルトリオキシシランを提供する工程と;
Ph−Si(OR)(OR’) (III)
(式中:
各Rは、水素原子、あるいは、線状、分岐もしくは環状のC〜C10アルキル、フェニル、置換フェニル、アラルキルおよびそれらの組み合わせから独立に選択されるC〜C10炭化水素基であり;
R’は、線状、分岐もしくは環状のC〜C10アルキル、フェニル、置換フェニル、アラルキルおよびそれらの組み合わせから独立に選択されるC〜C10炭化水素基である。)、
C.前記(チオ)フェノキシフェニルハライドと、金属原子Mを含む活性金属試薬とを反応させて式IVを有する(チオ)フェノキシフェニル金属中間体を形成する工程と;
Ph−Q−Ph−M−X (IV)
(式中:
Mは、マグネシウムおよびリチウムから選択され;
Xは、Cl、Br、およびそれらの組み合わせから選択され;及び
n=0または1である)、
D.前記(チオ)フェノキシフェニル金属中間体と前記フェニルトリオキシシランとを反応させて(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを形成する工程と;
を含む方法。
【請求項7】
E.前記(チオ)フェノキシフェニルフェニルシランを精製する工程をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記精製工程によって、前記(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物の重量を基準にして、前記フェノキシフェニルフェニルシランを少なくとも99.0重量パーセントから100重量パーセント以下の量で含む前記(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物が生成される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記精製工程によって、前記(チオ)フェノキシフェニルフェニルシラン組成物が生成され、前記(チオ)フェノキシフェニルハライドが、前記フェノキシフェニルシラン組成物の重量を基準にして、0ppmもしくは0ppmより多くおよび500ppm以下の量で存在する、請求項7記載の方法。

【公開番号】特開2009−102297(P2009−102297A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−190794(P2008−190794)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】