説明

(4−ヒドロキシフェニル)フタラジン−1(2H)−オンコモノマー単位を含む高温溶融加工可能な半結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)

【課題】
一般的な有機溶媒及び液体に並びにクロロホルム及び塩素化液体などの攻撃的有機溶媒に耐性を示し、溶解しないポリマーを提供する。さらに、押出し、射出成形、及び圧縮成形などの方法で溶融加工できるポリマーを提供する。
【解決手段】
コモノマー単位としてフタラジノンと4,4’−ビフェノールとを組み込む溶融加工可能な半結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)のための組成物及び方法であって、フタラジノンコモノマーを含有する半結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)は、耐熱性成形系及びその他の物品を製造するのに適した性質を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2008年10月31日付けで出願された米国仮特許出願第61/197,981号の優先権を主張するものである。
序論
本教示は、(4−ヒドロキシフェニル)フタラジン−1(2H)−オン(フタラジノン)コモノマー単位が組み込まれており、高耐熱性成形系及びその他の製造物品を製造するのに適した超高温特性を示す半結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
高耐熱性及び耐薬品性を有するポリ(アリールエーテルケトン)は、自動車、航空宇宙、電子工学及び油田用途に必要とされる成形品の製造に極めて望ましい。ポリ(アリールエーテルケトン)は、その一般的に優れた性質、例えば昇温での良好な機械的性質、有機溶媒並びに強酸及び強塩基に対する並外れた耐薬品性、耐火性並びに電気絶縁性により、重要なエンジニアリング樹脂である。
事実、ポリ(アリールエーテルスルホン)やポリ(アリールエーテルケトン)などのある種のポリ(アリールエーテル)は、耐熱性が要求される場合の種々様々な商業用途に広く使用されている高温エンジニアリング熱可塑性樹脂である。しかし、現在知られているこの種のポリマーは、全てが重大な商業的欠点を有する。例えば、市販のポリ(アリールエーテルスルホン)は、典型的には180℃〜220℃のガラス転移温度(Tg)を有するが、非結晶性であり、従って有機溶媒及び液体への耐性が乏しい。従って、ポリ(アリールエーテルスルホン)は、多数の工業的又は商業的用途において使用するのに適していない。同様に、市販のポリ(アリールエーテルケトン)は、結晶性であり、有機溶媒及び液体への耐性が優れている。しかし、そのTgは、低く、典型的には143℃〜170℃の範囲内にある。これは、商業的に及び工業的にその使用を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4,320,220号
【特許文献2】米国特許第4,717,761号
【特許文献3】米国特許第4,868,273号
【特許文献4】米国特許第5,654,393号
【特許文献5】米国特許第5,824,402号
【特許文献6】米国特許第5,254,663号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry,Vol.37,1781−1788, 1999
【非特許文献2】Journal of Applied Polymer Science,Vol.104,1744−1753,2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、従来のポリ(アリールエーテル)においては、有機溶媒及び液体への耐性が乏しい、あるいは、Tgが低い、といった重大な商業的欠点を有することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本教示は、約185℃〜240℃のTgを有し、有機溶媒及び液体に対する良好な耐薬品性を保持する一群の溶融加工可能な半結晶性ポリマーを開示する。
本発明者らの新規な一群のポリマーの新規性及び有用性を説明するために、公知の合成法の概要が必要である。ポリ(アリールエーテルケトン)ポリマーの合成の一つの経路は、ヒドロキノンのようなジヒドロキシ芳香族化合物の塩と、活性化ジハロ芳香族分子との反応による。Victrex(登録商標)PEEK Polymersから入手できるポリ(エーテルエーテルケトン)の1つの市販の群は、従来、無水炭酸カリウムの存在下で、ヒドロキノンと4,4’−ジフルオロベンゾフェノンとの求核重縮合によって調製され、このような溶媒として例えば米国特許第4,320,220号に記載されているようなジフェニルスルホン中で、高温(320℃)で調製される。このポリマーは、334℃の溶融温度(Tm)及び約143℃のガラス転移温度(Tg)を有する。
【0007】
【化1】


その後に、米国特許第4,717,761号公報において、4,4’−ビフェノールから対応するポリ(ビフェノールエーテルケトン)が合成された。このポリマーは、416℃の融点及び167℃のTgを有し、溶融加工できない。
【0008】
【化2】


また、表Iに例示されるような2つのホモポリマーのTm及びTgの間にあるTm及びTgを有する、ヒドロキノン(I)と4,4’−ビフェノール(II)とのコポリ(エーテルエーテルケトン)も合成された。
【0009】
【化3】

【0010】
【表1】


(a)は、ガラス転移温度である。
(b)は、結晶溶融温度である。
(c)MVは、溶融粘度である。
(米国特許第4,717,761号)
ポリマーの固有粘度(intrinsic viscosity)(IV)は、密度1.84gcm−3の濃硫酸中のポリマーの溶液について25℃で測定した。前記溶液は、溶液100cm当たり0.1gのポリマーを含有する。0.92のIVは、約0.26のMVに相当する。
**ポリマーの還元粘度(RV)は、密度1.84gcm−3の濃硫酸中のポリマーの溶液について25℃で測定した。前記溶液は、溶液100cm当たり1gのポリマーを含有する。測定は、ポリマーの溶解が完了後直ちに行われる。1.78のRVは、約1.2のMVに相当する。1.28のRVは、約0.58のMVに相当する。
【0011】
Danielsに付与された米国特許第4,868,273号において、ポリ(アリールエーテルケトン)が、一般に高結晶性であり、少なくとも300℃のTmを有するが典型的に180℃よりも低いTg、多くの場合には140℃〜160℃の範囲のTgを有することが実証された。Danielsは、従ってこれらのポリマーは、これらの機械的性質のかなりの部分がTg付近の温度で失われることから、高温で機械的性質を必要とする用途には適していないと述べている。これらのポリマーは、180℃以上の温度で弾性率のような機械的性質の保持を必要とする用途には適していない。
Danielsは、4,4’−(4−クロロフェニルスルホニル)ビフェニルと、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンから合成されたポリ(エーテルスルホン)の存在下での4−(4−クロロベンゾイル)−4’−ヒドロキシビフェニルの重合によるポリ(アリールエーテル)ブロックコポリマーの調整を教示している。得られるブロックコポリマーは、213℃のTg及び388℃のTmを有する。この高Tgブロックコポリマーは、2工程で調製される:すなわち、高Tg非結晶性ポリ(アリールエーテルスルホン)ブロックの合成、次いで結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)ブロックを形成するためにケトンモノマーとの共重合で調製される。従って、このブロックコポリマーは、実際には高Tgポリ(アリールエーテルケトン)ではない。それよりもむしろ、このブロックコポリマーは、ポリ(アリールエーテルスルホン)とポリ(アリールエーテルケトン)との混成体(hybrid)である。このブロックコポリマー中にポリ(アリールエーテルスルホン)が存在することに起因して、その耐薬品性は劣る。例えば、このブロックコポリマーのフィルムを、塩素化溶媒ジクロロメタンに室温で24時間浸した場合には、フィルムによる溶媒取り込み量(吸収量)が33重量%と高かった。また、このブロックコポリマーは、分解温度により近い極めて高い溶融温度(388℃)を有し、従って溶融加工することは困難であろう。
【0012】
同様の問題を克服するために、Kemishらに付与された米国特許第5,654,393号及び米国特許第5,824,402号は、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン及び4,4’−ビス(4−クロロフェニルスルホニル)ビフェニル(LCDC)、並びに4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)と、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンとの重合によるポリ(アリールエーテル)コポリマーの調製を教示している。得られるコポリマーは、表IIに例示するような164〜173℃のTg及び356〜358℃のTmを有する。
【0013】
【化4】

【0014】
【表2】


(米国特許第5,654,393号)
【0015】
ポリ(アリールエーテルケトン)の耐熱性を改良するために、Hayに付与された米国特許第5,254,663号は、極性溶媒中、炭酸カリウムの存在下で4,4’−ジフルオロベンゾフェノンと4−(4−ヒドロキシフェニル)フタラジン−1(2H)−オン(フタラジノン)とからのポリ(アリールエーテルケトン)の調製を教示している。得られるポリマーは、254℃のTgを有する非結晶性ポリマーである。
【0016】
【化5】


また、Hayら(Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry,Vol.37,1781−1788, 1999)は、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンと、ヒドロキノンと、4−(4−ヒドロキシフェニル)フタラジン−1(2H)−オン(フタラジノン)とからポリ(アリールエーテルケトン)コポリマーを調製することを教示している。
【0017】
【化6】

【0018】
4−(4−ヒドロキシフェニル)フタラジン−1(2H)−オンを組み込むことにより、得られるポリ(アリールエーテルケトン)コポリマーは、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)よりも高いガラス転移温度を有する。しかし、このコポリマーの結晶性は、劇的に低下する。その結果、このより高いTgを有するコポリマーの耐薬品性は、著しく低下する。例えば、フタラジノンモノマーとヒドロキノンのモル比が35/65である場合には、得られるコポリマーは、クロロホルムに完全に溶解する。(表IIIの内部粘度(inherent viscosity)及び分子量は、溶媒としてクロロホルムを使用して測定した。)このコポリマーは、194℃のTg及び252℃の融点を有し、表IVに示すように溶融後に0.5J/gの弱い融解吸熱を有する。これは、このコポリマーが溶融処理後に有機溶媒に対して極めて不十分な耐薬品性を有することを示す。フタラジノンモノマーとヒドロキノンのモル比を20/80に低下させた場合であっても、得られるコポリマーは、288℃の低い融点を有し、溶融後に0.1J/gの極めて弱い融解吸熱を有する(表IV)。十分な結晶性を維持するためには、10モル%のフタラジノンを組み込むことができるだけである。得られるコポリ(アリールエーテルケトン)は、161℃のTg及び315℃のTmを有し、溶融後に21.8J/gの強い融解吸熱を有する(表IV)。その結果、そのTgはPEEKよりも18℃高いが、溶融温度は、PEEKよりも28℃低く、熱的性能を有意なほどは向上させない。
【0019】
【表3】


及びMは、溶媒としてクロロホルムを使用してGPCで測定した。
分子量分布指数
98%硫酸中0.5g/dL
CHClに溶解しない
(Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry,Vol.37,1781−1788,1999)
【0020】
【表4】


maxは、TGAで測定されるPAEKの最大損失温度である。
最後に、Jianら(Journal of Applied Polymer Science,Vol.104,1744−1753,2007)は、1,4−ビス(4−フルオロベンゾイル)ベンゼンと、ヒドロキノン(HQ)及び4−(4−ヒドロキシフェニル)フタラジン−1(2H)−オン(DHPZ)(表V)との重合による、表VIに示すような171〜232℃のTg及び292〜355℃のTmを有するポリ(エーテルエーテルケトンケトン)(PEEKK)の調製を教示している。
【0021】
【化7】

【0022】
【表5】


GPCによりクロロホルム中で検出した。
分子量分布指数
クロロホルムを用いて抽出された残留ポリマーを測定することによって調べた。
10FNMRで、濃硫酸中で測定した。
試験しなかった。
クロロホルムから沈殿したポリマーを測定することによって決定した。
(Journal of Applied Polymer Science,Vol.104,1744−1753,2007.)
【0023】
【表6】


窒素中で10℃・分−1の加熱速度で行ったDSC測定からの1次スキャンの値
窒素中で10℃・分−1の加熱速度で行ったDSC測定からの2次スキャンの値
Fox式から算出した。
明瞭なピークが検出されなかった。
(Journal of Applied Polymer Science,Vol.104,1744−1753,2007.)
【0024】
この一群のポリマーにおいて、得られるポリマーの良好な耐薬品性を維持するためには、フタラジノン/ヒドロキノンの比は、40/60よりも小さいものでなければならない。表VIIに例示されるように、40/60のフタラジノン/ヒドロキノン比を有するポリマー(例えば、PAEK46)又はそれよりも高いフタラジノン/ヒドロキノン比を有するポリマー(PAEK55、PAEK64、PAEK73、PAEK82及びPAEK91)は、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)及びテトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒に部分的に又は完全に溶解する。従って、これらのポリマーは、有機溶媒又は液体に対する良好な耐薬品性を有していない。
30/70以下のフタラジノン/ヒドロキノン比を有するポリマー(例えば、表VIIのPAEK37、PAEK28及びPAEK19)は、これら上記の有機溶媒に溶解しないが、得られるポリマーは、典型的には、6700〜11,000のMnを有する低分子量オリゴマーである(表V)。従って、これらのポリマーは、不十分な機械的性質を有し、脆い。これらのオリゴマー、例えばPAEK37は、98%硫酸中でわずか0.35g/dL以下の内部粘度(IV)を有する。結果として、前記オリゴマーは、その不十分な機械的性質に起因して実用性を有していない。
【0025】
【表7】


a溶媒1mL中に50mgのポリマーを用いて試験した:+は、25℃、12時間で完全に溶解することを表す;±は、25℃、12時間で部分的に溶解することを表す;−は、25℃、12時間で溶解しないことを表す。
(Journal of Applied Polymer Science,Vol.104,1744−1753,2007)
【0026】
従って、溶融加工可能であり、特に以下の定義する特性を示す超高温半結晶性ポリマー(UHTSP)に対する要求がある:
A.優れた耐環境性
i. 塩素化溶媒及び強極性溶媒、例えばメチルエーテルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン(MPK)、強酸及び強塩基などに対する耐性;
ii. 耐放射線性;及び
iii.耐加水分解性。
B.機械的性能
i. 耐摩耗性;
ii. 適切な剛性、強度及び耐衝撃性;並びに
iii.破断まで十分な伸びを有する適切な延性。
C.高い熱転移
i. 高いガラス転移温度(>180℃);及び
ii.高い溶融温度(>300℃)。
【0027】
また、商業的に有用な材料について合理的な機械的性質を達成するために、UHTSPは、典型的に固有粘度(IV)によって測定される十分な重合度を達成しなければならない。0.5のIVを有するUHTSPは、通常は閾値であるが、典型的には≧0.7のIVが、商業的に実現可能なポリマーであるために要求される。
ポリマーが押出し、射出成形及び圧縮成形などの商業的に利用できる方法を使用してさらに加工される場合には、耐環境性及び耐熱性は典型的に、UHTSPが合理的な結晶性の程度及び結晶化速度を達成することを必要とする。大部分のエンジニアリング用途において、UHTSP製品の合理的な結晶化度は、非結晶性ポリマーのガラス転移温度とは対照的に耐熱性を溶融転移温度により近くまで高めるであろう。また、半結晶性ポリマーも、典型的には過酷な使用条件で大部分の攻撃的な(aggressive)溶媒に対してより良い耐薬品性を示す。
【0028】
上記の制限に基づいて、高分子量、良好な機械的性質を有し且つ0.5よりも大きい内部粘度を有し、及び約400℃の典型的なポリマー分解温度よりも低い温度で溶融加工するために、約300℃よりも高いが、約380℃よりも低い融点を有する高いTg( >180℃)の半結晶性ポリマーを有し、且つポリマーがクロロホルムなどの一般的な有機溶媒に溶解しないポリ(アリールエーテルケトン)に対する要求がある。同様に、押出し、射出成形及びブロー成形などの溶融加工法によって物品、フィルム、シート及び繊維を製造するのに使用できる180℃を超えるガラス転移温度(Tg)を有する高分子量半結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)に対する要求がある。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、コモノマー単位としてフタラジノンと4,4’−ビフェノールとを組み込む溶融加工可能な半結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)を提供することができる。
そして、本教示のフタラジノンコモノマー単位と4,4’−ビフェノールコモノマー単位とを含む半結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)は、約180℃〜約240℃のTgを、約310℃〜約376℃の融点と共に有する。これらのポリマーは、一般的な有機溶媒及び液体に溶解せず、耐性がある。本教示のポリマーはまた、クロロホルム及び塩素化液体などの攻撃的な有機溶媒に溶解しない。本ポリマーは、押出し、射出成形、圧縮成形などによって溶融加工できる。本教示のフタラジノンコモノマー単位を含む半結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)は、耐熱成形系及びその他の製造物品の製造に適した性質を有する。
本教示のこれらの特徴及びその他の特徴は、本明細書に示される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
当業者は、本明細書に記載の図面が単に例示を目的とするものであることを理解するであろう。図面は、本教示の範囲を何ら限定することを意図するものではない。
【図1】図1は、本教示のポリマー群の物理的特徴を説明するスタック(stack)グラフである。
【図2】図2は、本教示のポリマーが示す機械的性質と内部粘度の関係、及び諸性質を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本出願で述べたように、以下の定義及び用語が使用される:
「Tg」は、ガラス転移温度を意味する。
「Tm」は、融解吸熱(melting endotherm)が観察されるピーク温度を意味する。
「IV」は、内部粘度を意味する。それぞれのポリマーの内部粘度は、98%硫酸溶液100cm中に0.5gのポリマーの溶液について30℃で測定した。
「ΔH」は、融解吸熱のエンタルピーを意味する。
「B/P比」は、本教示のポリマーに組み込まれる4,4’−ビフェノールとフタラジノンとのモル比(Q/Cp)を意味する。
「半結晶性」は、図1に示されるように、約30/70〜90/10の間のB/P比を有し且つ約5〜26J/gの間のΔHを有する本教示のポリマーを意味する。
「UHTSP」は、特に以下の特性:高温性能、180℃を超える高いTg、310℃を超えるが380℃未満の高いTm、250℃以上の連続使用温度、200℃以上の加熱撓み温度(HDT)、及び極性有機溶媒や塩素化溶媒、例えばクロロホルムへの不溶性を示す溶融加工可能なポリマーである超高温半結晶性ポリマーを意味する。
【0032】
A.組成及び性質
本教示に従って、本発明者らは、本明細書に記載及び開示されるような、フタラジノンモノマーを含むポリ(アリールエーテルケトン)中にコモノマー単位として4,4’−ビフェノールを組み込むと、意外にも、クロロホルムなどの有機溶媒に溶解しないTg>180℃を有する溶融加工可能な半結晶性ポリマーを得ることができることを見出した。30モル%程度の少ない4,4’−ビフェノールを組み込んだ場合であっても、得られるポリ(アリールエーテルケトン)は、相変わらず、230℃のTg、316℃の溶融温度及び5.0J/gの融解吸熱を有する半結晶である。比較的少量の4,4’−ビフェノールコモノマーが組み込まれたことを考慮に入れると、このような結果は全く予測されない。都合がよいことに、このポリマーは、クロロホルムに溶解せず、圧縮成形フィルムは、良好な耐有機溶媒性を有する。
【0033】
本教示に従って、高いガラス転移温度(Tg)( >180℃)を有する半結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)は、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを、4,4’−ビフェノール及び4−(4−ヒドロキシフェニル)フタラジン−1(2H)−オン(フタラジノン)と重合させることによって調製できることが見出された。これらのポリマーは、押出し及び射出成形などの溶融プロセスによって加工できる。本教示は、下記:
・ 4,4’−ビフェノールとフタラジノンコモノマー単位を含む半結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)、
・ 約30/70〜約90/10の間のB/P比を含む半結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)、
・ 約185℃〜約240℃のTgを有する半結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)、
・ 約310℃〜約380℃の溶融温度(Tm)を有する半結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)、
・ 押出し又は射出成形などの一般的な方法によって溶融加工できるフタラジノンコモノマー単位を含む半結晶性ポリ(アリールエーテルケトン)、
を含むが、これらに限定されない。
【0034】
本教示に従って、フタラジノンコモノマー単位を含む結晶性ポリ(エーテルケトン)のTg及び溶融温度は、4,4’−ビフェノールモノマーの組み込みの量を変化させることによって調節することができ、それによって高Tg半結晶性コポリマーが得られる。例を以下に示す。
それぞれのポリマーのガラス転移温度(Tg)、溶融温度(Tm)、及び融解吸熱のエンタルピー(ΔHm)は、TA Instruments Q−100 DSC装置を使用して示差走査熱量測定法(DSC)で20℃/分の加熱速度で測定した。それぞれのポリマーの内部粘度は、98%硫酸の溶液100cm中に0.5gのポリマーの溶液について30℃で測定した。
フタラジノン単位を有するポリ(アリールエーテルケトン)のフタラジノンの一部を4,4’−ビフェノールに置き換えることによってビフェニル単位を組み込むと、高い溶融温度を保持し、且つ約360℃以下の反応温度でさらに調製できる良好な延性を有する高分子量半結晶性ポリマー12(図2に定義される)が得られる。従来技術の首尾一貫した制限(consistent limitation)並びに4,4’−ビフェノールの分子サイズ及び配向(orientation)により、本明細書に記載のポリマーの商業的に望ましい性質は、予測されないし、期待されるものでもない。
本教示のポリマーは、例えば、図1に示すように、約310℃以上で且つ380℃以下の高い溶融温度、約185℃〜240℃のガラス転移温度、約5J/g〜約26J/gのポリマーの融解吸熱のエンタルピーとして測定される適度〜良好な結晶化度を有し、少なくとも0.7以上の内部粘度(IV)として測定される高分子量で合成することができる。
【0035】
図1(これは、スタックグラフである)に示すように、本教示のポリマー18は、半結晶性であり、約30/70〜約90/10の間のB/P比及び約5〜約26の間のΔHを有する。Bが30%未満のB/P比及び/又は5未満のΔHを有するこれらのポリマーは、非結晶性であり、また90%を超えるB(4,4’−ビフェノール)を有するポリマー20は、結晶性である。
図2に示すように、本教示のポリマー12は、約0.5〜約2.0の間の内部粘度を有し、一般に適切な機械的性質を示す、つまり該ポリマーが、脆性(低分子量)とは対照的に、事実上延性であるか又は低下した加工性を有する(高分子量)ことを意味する。0.5よりも小さい内部粘度を有するこれらのポリマー14は、あまりにも脆く、また2.0よりも大きい内部粘度を有するこれらのポリマー10は、低下した加工性を有し、溶融加工できない。
本教示の新規ポリ(アリールエーテルケトン)は、以下のアリールエーテルケトン反復単位:
【0036】
【化8】


及び
【0037】
【化9】


を含むと特徴づけることができる。
本教示のポリ(アリールエーテルケトン)を調製するのに使用される出発モノマーは、例えば、以下の単位:
【0038】
【化10】


及び
【0039】
【化11】


及び
【0040】
【化12】


又は
【0041】
【化13】


又は
【0042】
【化14】


(式中、Xは、フッ素又は塩素である)
を有する。
【0043】
本教示の種々の実施形態において、本明細書のコポリマーを調製するためのビフェノールの量は、コモノマービフェノール(B)とフタラジノン(P)のモル比(B/P)が約30/70から約90/10までであるような量である。幾つかの実施形態において、前記モル比は、約35/65から約80/20までである。幾つかの実施形態において、前記モル比は、約40/60から約70/30までであり、得られるコポリマーは、約180℃を超えるTg、約310℃よりも大きく且つ約380℃よりも小さいTm、及び少なくとも約5.0J/gのΔHを有する。
【0044】
本教示の種々の実施形態において、溶融加工可能なポリマーは、約2.0dL/g以下の内部粘度(IV)を有する。幾つかの実施形態において、IVは、約1.5以下である。幾つかの実施形態において、IVは、約1.2以下である。加工し易いためには、IVは、少なくとも約0.5〜約1.1dL/gの範囲からなる。より低い範囲は、加工中に少なくとも0.7まで増大させることができる。
本教示の溶融加工可能なポリマーの幾つかの例は、次の性質:すなわち(1)少なくとも約5.0J/gのΔH、幾つかの実施形態においては約15J/g以上のΔHを有する半結晶性である、(2)フィルムに圧縮成形された場合には延性である、(3)広範な有機溶媒に対して耐性がありクロロホルムに25℃で24時間浸した後に、約10重量%を超える重量増加がなく、「本質的に影響を受けない」、並びに(4)約180℃以上のTg及び約380℃以下のTmを有する、という性質の1つ以上によって特徴づけられる。これらの独特な性質により、本教示のポリマーは、耐高温性及び耐有機溶媒性の両方を必要とする用途に特に有用である。
【0045】
本教示のポリマーは、例えば成形品、フィルム、塗膜又は繊維などの所望の形状に製造することができる。特に、このポリマーは、良好な電気絶縁性と、良好な広範な耐化学薬品性と、高温での機械的性質の保持と、有毒ガスの発生が少なく且つ燃焼時の煙濃度が少ない良好な耐燃性との組み合わせを必要とする用途に有用である。
本教示のポリマーはまた、無機充填材(例えば、雲母、ガラス、石英、粘土)及び種々の繊維(例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ポリアリールアミド繊維、セラミック繊維)を含有する及び/又は配合することができる。上記ポリマーは、当該技術で周知の手段によって添加剤、例えば着色剤、顔料、熱安定剤及び紫外線安定剤をさらに含有することができる。
【0046】
本教示のポリマーはまた、以下に限定されないが、ポリベンゾイミダゾール、ポリアリールアミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、フルオロポリマー、ポリエステル及びポリカーボネートを含む1種以上のポリマーと溶融混合することができる。
本教示の重合に対する技術アプローチは、Hayに付与された米国特許第5,254,663号を含め従来技術と著しく異なる。従来技術とは対照的に、本明細書の重合は、非極性溶媒中で行われ、得られるポリマーは半結晶性である。また、4,4’−ビフェノールのコモノマーとしての使用は、当該技術において報告されていない。また、本教示は、著しく高い温度、一般に約280℃〜約320℃の温度で行われる重合反応を開示する。対照的に、当該技術において現在報告されているフタラジノン部分を含有するポリマーは、225℃以下の温度で加工される。重合法及びプロセスにおけるこれらの違いは、新規である。
【0047】
B.調製
本教示のポリマーは、前記モノマーを、アルカリ金属炭酸塩又はアルカリ金属炭酸塩の混合物と加熱することによって溶液中で調製できる。アルカリ金属炭酸塩は、典型的には炭酸ナトリウム、炭酸カリウムであるか又は炭酸ナトリウムと炭酸カリウムと炭酸セシウムの混合物である。
アルカリ金属炭酸塩は、無水物であることができ、水和塩が用いられる場合には、重合温度は約250℃よりも低い。水は、例えば重合温度に到達する前に、減圧下で加熱することによってあるいはトルエン又はo−ジクロロベンゼンなどの有機溶媒との共沸蒸留による脱水によって除去できる。
重合温度が、例えば270℃のように250℃を超える場合には、水は重合反応に悪影響を及ぼす前に迅速に除去されることから、最初に炭酸塩を脱水する必要がない。
使用するアルカリ金属炭酸塩の全体量は、それぞれのフェノールOH基又はフタラジノンNH基に対してアルカリ金属が少なくとも1原子存在するような量であることができる。過剰のアルカリ金属炭酸塩を使用することができ、フェノールOH基又はフタラジノンNH基当たりアルカリ金属が1〜1.2原子であってもよい。
【0048】
本教示の種々の実施形態において、重合は、ジフェニルスルホン及びベンゾフェノンなどの不活性溶媒中で行われる。幾つかの実施形態において、重合は、約200℃から約400℃までの温度で行われる。幾つかの実施形態において、重合温度は、約260℃よりも高い。反応は、一般に大気圧下で行われる;しかし、反応は、それよりも高い圧力又は低い圧力で行うこともできる。
幾つかのポリマーの調製のために、重合をある温度で、例えば約180℃〜約250℃の間の温度で開始し、次いで重合を進めるにつれて温度を高めることが望ましい場合がある。これは、溶媒中で低溶解性を有するポリマーを製造する場合には特に都合がよい。従って、溶液中にて温度を徐々に高め、ポリマーの分子量を増大させることが望ましい。幾つかの実施形態において、前記方法は、約180℃〜約360℃の高温からなる。その他の実施形態において、前記方法は、約220℃〜約340℃の高温からなる。幾つかの実施形態において分解反応を最小限にするために、最大重合温度は、360℃よりも低いものであり得る。
【0049】
以下の実施例は、本教示を例証するものであり、本教示の範囲を何ら限定することを意図するものではない。
C.実施例
4,4’−ビフェノールとフタラジノンモノマーとからのポリ(アリールエーテルケトン)の調製
【0050】
【化15】

【実施例1】
【0051】
4,4’−ビフェノールとフタラジノンのモル比B/P=30/70を有するコポリマー
窒素取り入れ口、熱電対、機械的攪拌装置、ディーン・スタークトラップ及び冷却器(condenser)を取り付けた250mL三つ口丸底フラスコに、21.82g(100.0ミリモル)の乾燥4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、16.76g(70.0ミリモル)の乾燥フタラジノンモノマー、5.59g(30.0ミリモル)の乾燥4,4’−ビフェノール及び14.65g(106.0ミリモル)の無水炭酸カリウムを装填した。次いで、ジフェニルスルホン(132.5g)とクロロベンゼン(30.0mL)を加えた。この反応媒体を、170℃に加熱し、水を除去するためにクロロベンゼンを1時間にわたって蒸留した。次いで、反応混合物を、200℃に加熱し、2時間維持した。この反応混合物を、さらに300℃に加熱し、4時間維持した。反応を停止し、得られた混合物を、ガラス皿のガラス表面でシートに注型し、室温に冷却した。次いで、冷却した固体を、約60メッシュ未満の微細粒子にハンマーミル粉砕した。
この微細粒子を、500mLのアセトンと共にフラスコに入れ、1時間加熱還流し、次いで濾過した。このプロセスを5回繰り返してジフェニルスルホンを除去した。次いで、得られた粉末物質を、500mLの脱イオン水と共にフラスコに入れ、1時間加熱還流し、次いで濾過した。このプロセスを5回反復して無機塩を除去した。
【0052】
次いで、得られた固体ポリマーを、真空下で、120℃で1夜乾燥した。得られた白色ポリマーは、約0.78dL/gの内部粘度(IV)(30℃で98%硫酸中のポリマーの0.5g/dL溶液)、約230℃のガラス転移温度、約316℃の溶融温度及び約5.0J/gの融解吸熱を有する。このポリマーは、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)及びN−シクロヘキシルピロリジノン(CHP)に溶解しない。
前記粉末状ポリマーを、375℃で5分間圧縮成形して、強靭な不透明フィルムを得た。クロロホルムに25℃で24時間浸したフィルムの試料は、1.8%の重量増を示した。このフィルムは、クロロホルムによる攻撃について目に見える影響がなく、相変わらず耐性があった。
【実施例2】
【0053】
4,4’−ビフェノールとフタラジノンのモル比B/P=40/60を有するコポリマー
4,4’−ビフェノールとフタラジノンモノマーのモル比40/60を有するコポリマーを、実施例1に記載の手順に従って調製した。得られたポリマーは、約0.74dL/gの内部粘度(IV)、約225℃のガラス転移温度、約336℃の溶融温度及び約8.0J/gの融解吸熱を有する。このポリマーは、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)及びN−シクロヘキシルピロリジノン(CHP)に溶解しない。
【実施例3】
【0054】
4,4’−ビフェノールとフタラジノンのモル比B/P=60/40を有するコポリマー
4,4’−ビフェノールとフタラジノンモノマーのモル比60/40を有するコポリマーを、実施例1に記載の手順に従って調製した。得られたポリマーは、約0.79dL/gの内部粘度(IV)、約204℃のガラス転移温度、約357℃の溶融温度及び約16.0J/gの融解吸熱を有する。このポリマーは、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)及びN−シクロヘキシルピロリジノン(CHP)に溶解しない。
【実施例4】
【0055】
4,4’−ビフェノールとフタラジノンのモル比B/P=65/35を有するコポリマー
4,4’−ビフェノールとフタラジノンモノマーのモル比65/35を有するコポリマーを、実施例1に記載の手順に従って調製した。得られたポリマーは、約1.48dL/gの内部粘度(IV)、約205℃のガラス転移温度、約347℃の溶融温度及び約14.0J/gの融解吸熱を有する。このポリマーは、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)及びN−シクロヘキシルピロリジノン(CHP)に溶解しない。
【実施例5】
【0056】
4,4’−ビフェノールとフタラジノンのモル比B/P=70/30を有するコポリマー
4,4’−ビフェノールとフタラジノンモノマーのモル比70/30を有するコポリマーを、実施例1に記載の手順に従って調製した。得られたポリマーは、約0.75dL/gの内部粘度(IV)、約200℃のガラス転移温度、約368℃の溶融温度及び約25.0J/gの融解吸熱を有する。このポリマーは、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)及びN−シクロヘキシルピロリジノン(CHP)に溶解しない。
【実施例6】
【0057】
4,4’−ビフェノールとフタラジノンのモル比B/P=75/25を有するコポリマー
4,4’−ビフェノールとフタラジノンモノマーのモル比75/25を有するコポリマーを、実施例1に記載の手順に従って調製した。得られたポリマーは、約0.73dL/gの内部粘度(IV)、約190℃のガラス転移温度、約376℃の溶融温度及び約26.0J/gの融解吸熱を有する。このポリマーは、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)及びN−シクロヘキシルピロリジノン(CHP)に溶解しない。
【実施例7】
【0058】
4,4’−ビフェノールとフタラジノンのモル比B/P=80/20を有するコポリマー
4,4’−ビフェノールとフタラジノンモノマーのモル比80/20を有するコポリマーを、実施例1に記載の手順に従って調製した。得られたポリマーは、約0.95dL/gの内部粘度(IV)、約185℃のガラス転移温度、約367℃の溶融温度及び約24.0J/gの融解吸熱を有する。このポリマーは、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)及びN−シクロヘキシルピロリジノン(CHP)に溶解しない。
【0059】
(比較実施例A)
4,4’−ビフェノールとフタラジノンのモル比B/P=20/80を有する非結晶性コポリマー
4,4’−ビフェノールとフタラジノンモノマーのモル比20/80を有するコポリマーを、実施例1に記載の手順に従って調製した。得られた非結晶性ポリマーは、約1.02dL/gの内部粘度(IV)(25℃でクロロホルム中のポリマーの0.5g/dL溶液)及び約240℃のガラス転移温度を有する。このポリマーは、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)及びN−シクロヘキシルピロリジノン(CHP)に室温で溶解する。
【0060】
(比較実施例B)
4,4’−ビフェノールとフタラジノンのモル比B/P=25/75を有する非結晶性コポリマー
4,4’−ビフェノールとフタラジノンモノマーのモル比25/75を有するコポリマーを、実施例1に記載の手順に従って調製した。得られた非結晶性ポリマーは、約0.78dL/gの内部粘度(IV)(30℃で98%硫酸中のポリマーの0.5g/dL溶液)及び約232℃のガラス転移温度を有する。このポリマーは、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)及びN−シクロヘキシルピロリジノン(CHP)に室温で溶解しない。
【0061】
(比較実施例C)
重合溶媒としてN−シクロヘキシルピロリジノン(CHP)を使用する4,4−ビフェノールとフタラジノンのモル比B/P=70/30を有する低分子量コポリマー
窒素取り入れ口、熱電対、機械的攪拌装置、ディーン・スタークトラップ及び冷却器を取り付けた100mL三つ口丸底フラスコに、8.77g(40.0ミリモル)の乾燥4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、2.87g(12.0ミリモル)の乾燥フタラジノンモノマー、5.24g(28.0ミリモル)の乾燥4,4’−ビフェノール及び5.88g(42.4ミリモル)の無水炭酸カリウムを装填した。次いで、N−シクロヘキシルピロリジノン(CHP)(31.1mL)とクロロベンゼン(19.0mL)を加えた。この反応媒体を、170℃に加熱し、水を除去するためにクロロベンゼンを1時間にわたって蒸留した。次いで、反応混合物を230℃に加熱し、4時間維持した。反応の終わりに、反応混合物を、メタノールと水の混合物(1:4の比率)200mLに注いだ。濾過した後に、ポリマー粉末を、メタノールで3回洗浄して残留CHPを除去した。次いで、得られたポリマー粉末を、150mLの脱イオン水と共に250mLフラスコに入れた。この混合物を、3時間加熱還流して、残存カリウム塩を除去した。濾過した後に、白色ポリマー粉末を、真空下で、120℃で24時間乾燥した。
得られたポリマーは、約0.23dL/gの内部粘度(IV)(30℃で98%硫酸中のポリマーの0.5g/dL溶液)、約185℃のガラス転移温度、約340℃の溶融温度及び約37.0J/gの融解吸熱を有する。このポリマーは、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)及びN−シクロヘキシルピロリジノン(CHP)に溶解しない。粉末状ポリマーを、二枚の金属シートの間で、375℃で5分間圧縮成形して、脆い不透明フィルムを得た。このフィルムは、脆いので金属シートから離型した際に小片に割れた。
本明細書で使用するこのセクションの見出しは、単なる構成の目的のためのものであり、記載の主題を限定すると何ら解釈されるべきではない。
本教示は種々の実施形態に関連して記載されるが、本教示がこのような実施形態に限定されることを意図するものではない。それどころか、本教示は、当業者によって認識されるように、種々の代替、変更及び等価物を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】


〔式中、Cpは、式(II):
【化2】


のフタラジノン単位であり、
Qは、式(III):
【化3】


のビフェノール単位であり、
Zは、式(IV)又は(V):
【化4】


(bは、0〜1の値である)
【化5】


の芳香族ケトン単位であり、
xは、少なくとも1の値であり;及び
yは、少なくとも1の値である〕
のポリマーを含有してなる溶融加工可能な半結晶性芳香族ポリエーテルケトン組成物。
【請求項2】
Qが式(III):
【化6】


のビフェノール単位であり、
Zが式(VI):
【化7】


の芳香族ケトン単位である、請求項1に記載の半結晶性ポリエーテルケトン組成物。
【請求項3】
x及びyが、QとCpのモル比が約30/70〜90/10の間にあるような値である、請求項1又は2に記載の半結晶性芳香族ポリエーテルケトン。
【請求項4】
x+y=nであり、nが、前記ポリマーが少なくとも約0.5dL/gの内部粘度を有するような値である、請求項1又は2に記載の半結晶性芳香族ポリエーテルケトン。
【請求項5】
約180℃〜240℃の間のガラス転移温度を有する、請求項1又は2に記載の半結晶性芳香族ポリエーテルケトン。
【請求項6】
約310℃〜376℃の間の溶融温度を有する、請求項1又は2に記載の半結晶性芳香族ポリエーテルケトン。
【請求項7】
少なくとも約5.0J/gの融解吸熱のエンタルピ−を有する、請求項1又は2に記載の半結晶性芳香族ポリエーテルケトン。
【請求項8】
少なくとも約0.5dL/gの内部粘度を有する、請求項1又は2に記載の半結晶性芳香族ポリエーテルケトン。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の半結晶性芳香族ポリエーテルケトンからなる、押出し、射出成形、遠心成形、ブロー成形、回転成形、トランスファ−成形、熱成形又は圧縮成形によって形成される造形品。
【請求項10】
請求項1に記載の半結晶性芳香族ポリエーテルケトンと繊維状支持体とからなる、複合構造物。
【請求項11】
請求項1に記載の半結晶性芳香族ポリエーテルケトンと粒状充填材とからなる、複合構造物。
【請求項12】
請求項1に記載の半結晶性芳香族ポリエーテルケトンと、繊維状支持体と、粒状充填材とからなる、複合構造物。
【請求項13】
請求項2に記載の半結晶性芳香族ポリエーテルケトンと繊維状支持体とからなる、複合構造物。
【請求項14】
請求項2に記載の半結晶性芳香族ポリエーテルケトンと粒状充填材とからなる、複合構造物。
【請求項15】
請求項2に記載の半結晶性芳香族ポリエーテルケトンと、繊維状支持体と、粒状充填材とからなる、複合構造物。
【請求項16】
芳香族ジハロゲン化合物からなる反応剤と、4,4’−ビフェノール及び4−(4−ヒドロキシフェニル)−1(2H)−フタラジノンとを、高沸点溶媒中にアルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属炭酸塩のいずれかあるいはこれらの組み合わせを含有する反応媒体の存在下で高温で、重合で生じる水を除去することによって前記反応媒体を実質的に無水に維持しながら重合させることからなる、半結晶性芳香族ポリエーテルケトンの製造方法。
【請求項17】
4,4’−ジフルオロベンゾフェノンからなる反応剤と、4,4’−ビフェノール及び4−(4−ヒドロキシフェニル)−1(2H)−フタラジノンとを、高沸点溶媒中にアルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属炭酸塩のいずれかあるいはこれらの組み合わせを含有する反応媒体の存在下で高温で、重合で生じる水を除去することによって前記反応媒体を実質的に無水に維持しながら重合させることからなる、半結晶性芳香族ポリエーテルケトンの製造方法。
【請求項18】
前記高沸点溶媒がジフェニルスルホン又はベンゾフェノンからなる、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記高温が約180℃〜約360℃である、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項20】
前記高温が約220℃〜約340℃である、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項21】
式(I):
【化8】


〔式中、Cpは、式(II):
【化9】


のフタラジノン単位であり、
Qは、式(III):
【化10】


のビフェノール単位であり、
Zは、式(IV)又は(V):
【化11】


(bは、0〜1の値である)
【化12】


の芳香族ケトン単位であり、
xは、少なくとも1の値であり;及び
yは、少なくとも1の値である〕
のポリマーからなる、ポリエーテルケトン。
【請求項22】
Zが式(VI)
【化13】


の芳香族ケトン単位である、請求項1に記載のポリエーテルケトン。
【請求項23】
溶融加工可能な半結晶性芳香族組成物からなる、請求項21又は22に記載のポリエーテルケトン。
【請求項24】
QとCpのモル比が、約30/70〜90/10の間にある、請求項21又は22に記載のポリエーテルケトン。
【請求項25】
少なくとも約0.5dL/gの内部粘度を有する、請求項21又は22に記載のポリエーテルケトン。
【請求項26】
約180℃〜240℃の間のガラス転移温度を有する、請求項21又は22に記載のポリエーテルケトン。
【請求項27】
約310℃〜376℃の間の溶融温度を有する、請求項21又は22に記載のポリエーテルケトン。
【請求項28】
少なくとも約5.0J/gの融解吸熱のエンタルピ−を有する、請求項21又は22に記載のポリエーテルケトン。
【請求項29】
請求項21又は22に記載のポリエーテルケトンを含有する組成物。
【請求項30】
請求項21又は22に記載のポリエーテルケトンからなる、押出し、射出成形、遠心成形、ブロー成形、回転成形、トランスファ−成形、熱成形又は圧縮成形によって形成される造形品。
【請求項31】
請求項21に記載のポリエーテルケトンと繊維状支持体とからなる、複合構造物。
【請求項32】
請求項21に記載のポリエーテルケトンと粒状充填材とからなる、複合構造物。
【請求項33】
請求項21に記載のポリエーテルケトンと、繊維状支持体と、粒状充填材とからなる、複合構造物。
【請求項34】
請求項22に記載のポリエーテルケトンと繊維状支持体とからなる、複合構造物。
【請求項35】
請求項22に記載のポリエーテルケトンと粒状充填材とからなる、複合構造物。
【請求項36】
請求項22に記載のポリエーテルケトンと、繊維状支持体と、粒状充填材とからなる、複合構造物。
【請求項37】
芳香族ジハロゲン化合物からなる反応剤と、4,4’−ビフェノール及び4−(4−ヒドロキシフェニル)−1(2H)−フタラジノンとを、高沸点溶媒中にアルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属炭酸塩のいずれかあるいはこれらの組み合わせを含有する反応媒体の存在下で、高温で、重合で生じる水を除去しながら反応が完了するまで重合させることからなる、ポリエーテルケトンの製造方法。
【請求項38】
4,4’−ジフルオロベンゾフェノンからなる反応剤と、4,4’−ビフェノール及び4−(4−ヒドロキシフェニル)−1(2H)−フタラジノンとを、高沸点溶媒中にアルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属炭酸塩のいずれかあるいはこれらの組み合わせを含有する反応媒体の存在下で、高温で、重合で生じる水を除去しながら反応が完了するまで重合させることからなる、ポリエーテルケトンの製造方法。
【請求項39】
前記高沸点溶媒がジフェニルスルホン又はベンゾフェノンからなる、請求項37又は38に記載の方法。
【請求項40】
前記高温が約180℃〜約360℃である、請求項37又は38に記載の方法。
【請求項41】
前記高温が約220℃〜約340℃である、請求項37又は38に記載の方法。
【請求項42】
式(I):
【化14】


〔式中、Cpは、式(II):
【化15】


のフタラジノン単位であり、
Qは、式(III):
【化16】


のビフェノール単位であり、
Zは、式(IV)又は(V):
【化17】


(式(IV)中のbは、0〜1の値である)
【化18】


の芳香族ケトン単位であるか、又は
式(V)のビフェニルジケトン単位であり;
xは、少なくとも1の値であり;及び
yは、少なくとも1の値である〕
のポリマーからなる、ポリエーテルケトン。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−507596(P2012−507596A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534519(P2011−534519)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/005902
【国際公開番号】WO2010/062361
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(511103661)ポリミックス,リミテッド (1)
【Fターム(参考)】