説明

2自由度ボディ傾斜をなす微小電気機械装置

本発明は、担体素子3と薄膜4とを有する2自由度でボディ2を傾斜させるための微小電気機械装置1´であって、ボディ2は、薄膜4を介して担体素子3に接続され、ボディ2び担体素子3の各々は、少なくとも1つの電極5,6を有する。ボディ2は、電圧源から電極5,6への電圧V,Vの印加によるボディ2の少なくとも1つの電極5と担体素子3の少なくとも1つの電極6との間の静電気力7によって傾斜される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2自由度でボディを傾斜させるための微小電気機械装置、及び当該ボディ傾斜用微小電気機械装置を有する光学走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査装置、光ネットワーク用光学カプラ、投射ディスプレイ又はこれらに類似のもののような光学装置は、しばしば、光学素子特に例えば光ビームを反射して偏向させるための微小電気機械システム(MEMS;micro electromechanical system)としての偏向ミラーの光学素子のボディをそれぞれ作動又は傾斜させるためのデバイスを必要とする。
【0003】
基本的に2つのタイプの傾斜偏向ミラー装置があり、共振型と開ループ制御型である。
【0004】
共振型偏向ミラー装置は、ディスプレイなどの走査機器に用いられる。その懸架装置におけるミラーは、機械的固有振動数となるスプリング上の質量として作用する。減衰係数は、これらミラーが弾性的に懸架されるので大抵は低い。これらシステムは、共振周波数での動作に対しては理想であり、低い作動力の入力で大きな偏向振幅を奏する。
【0005】
開ループ制御型偏向ミラー装置においては、偏向角が外部で測定され或いは全く測定されず、2つの制御位置、すなわち安定状態又は最大偏向角状態となる。このようなシステムは、位置情報を受信もしないし位置情報について動作もしない。
【0006】
既知の2自由度偏向ミラー装置は、偏向(角剛性は過度に高い)及び制御帯域幅(質量は過度に大きい)を制限する2つの個別の懸架装置を用いて構成される。現在の懸架装置の方策は、専ら、1自由度の被制御偏向ミラー、又は低帯域幅の2自由度の偏向ミラーに対して適切なものとなっている。
【0007】
Trey Roessig氏らの"Mirrors with Integrated Position Sense Electronics for Optical-Switching Applications", Analog Dialogue, Volume 36, Number 4, July-August, 2002には、帰還制御ループに用いられる位置センサを備えた全光学スイッチのための移動可能な微小電気機械ミラーが記述されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い制御帯域幅により2自由度でボディを傾斜させ、大なる偏向角を提供する微小電気機械装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様において、本発明は、担体素子と薄膜とを有する2自由度でボディを傾斜させるための微小電気機械装置であって、前記ボディは、前記薄膜を介して前記担体素子に接続され、前記ボディ及び前記担体素子の各々は、少なくとも1つの電極を有し、前記ボディは、電圧源から前記電極への電圧の印加による前記ボディの少なくとも1つの電極と前記担体素子の少なくとも1つの電極との間の静電気力によって傾斜される、装置を提供する。
【0010】
薄膜を用いたボディの懸架装置は、2自由度での当該ボディの作動又は傾斜を、低い減衰力で大きな偏向角をもたらす低剛性で可能にする。作動方向における所望の2つの低い固有振動数と妨害する高い固有振動数との分離は、最大で20倍にすることができ、制御安定性を向上させる。
【0011】
好適実施例において、前記薄膜はポリマ薄膜とされる。このポリマ薄膜は、丈夫で耐久性があり、高い変形歪力に耐えることができる。この薄膜は、例えば、ポリイミド又はパリレンにより作ることができる。
【0012】
他の実施例において、前記薄膜は、異なる傾斜方向に対し異なる固有振動数を有する。傾斜ボディが異なる傾斜方向において異なる固有振動数を有することが望まれる場合、共振動作モードが用いられることになる。したがってこの薄膜は、楕円形又は矩形の形のような非回転対称形状を有する。
【0013】
他の実施例において、前記ボディの傾斜は、位置検出を伴う閉じたフィードバックループにより制御される。これにより、衝撃や振動に対して装置の抵抗力が向上する。当該位置検出のために、電極の容量性の測定が適用可能である。
【0014】
他の実施例において、前記ボディの少なくとも1つの電極は、前記薄膜にわたる少なくとも1つのリード線を介して前記電圧源に接続される、当該薄膜にわたるこの少なくとも1つのリード線は、ジグザグ形状とされる。この実施例において、当該ボディの移動部分に何ら配線を付ける必要がない。当該薄膜にわたる、特にその表面上の電気リード線は、当該薄膜特性に大きく影響を与え、傾斜する微小電気機械装置の偏向角を小さくすることができる。薄く(250nm)細い(5ミクロン)リード線の使用は、薄膜の従順性に依然として影響を及ぼす。これは、ポリマ薄膜のヤング係数が銅のヤング係数よりも概して2桁小さいからである。低い剛性を有する高い従順性のポリマ薄膜は、当該薄膜上の比較的に高い剛性の電気的リード線により影響され易い。ジグザグ状のリード線を用いることによって、当該リード線の変形歪力は減少するという重要なものとなる。何故なら、この変形歪力は、主として当該薄膜の不要な剛性増加を見越すものであるからである。
【0015】
好適な実施例において、傾斜されるボディは、特に偏向ミラーなどの光学素子とされる。
【0016】
他の態様において、本発明は、光源と、偏向ミラーと、当該偏向ミラーを傾斜するための微小電気機械装置とを有し、前記偏向ミラーが、前記光源から投射される光ビームを反射により偏向させて表面を走査するようにした光学走査装置を提供する。
【0017】
光学走査装置の他にも、ボディ傾斜をなす装置は、インクジェットヘッド、レーザ偏向器、光ネットワークのための光学カプラ、プロジェクタ、バーコードリーダ、投射ディスプレイ、補償光学、識別システムなどの装置において、また天文学的イメージング、トラッキング、視覚化又はマスクレスのリソグラフィのためにも用いることができる。
【0018】
以下、本発明のこれらの態様及びその他の態様を、以下に記述され添付図面に示される実施例に基づいて例証として詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下では、光学素子につき、特に偏向ミラーを傾斜ボディとして本発明を説明する。他の実施例では、他のボディ又は光学素子も用いることができる。
【0020】
図1から分かるように、2自由度でボディ、特に偏向ミラー2を傾斜させるための微小電気機械装置1は、偏向ミラー2がポリマ薄膜4を介して接続される担体素子3を有する。偏向ミラー2及び担体素子3の各々は、電極5,6を有しており、偏向ミラー2は、電圧源Vから電極5,6への電圧の印加によって偏向ミラー2の電極5と担体素子3の電極6との間の静電気力(矢印7として示される電界)により傾斜される。例えばポリイミド又はパリレンにより作られるポリマ薄膜を用いた偏向ミラー2の懸架は、低い減衰力で大きな偏向角をもたらす低い剛性で2自由度での偏向ミラー2の作動又は傾斜を可能にする。
【0021】
偏向ミラー2の傾斜は、位置検出を伴う閉じたフィードバックループにより制御される。これにより、衝撃や振動に対しての微小電気機械装置1の抵抗力が向上する。この位置検出のために、電極5,6の容量性測定が適用される(図示せず)。すなわち、このような位置検出は、例えば、Trey Roessig氏らの"Mirrors with Integrated Position Sense Electronics for Optional-Switching Applications", Analog Dialogue, Volume 36, Number 4, July-August, 2002により知られている。
【0022】
他の実施例(図示せず)において、ポリマ薄膜4は、異なる傾斜方向に対して異なる固有振動数を有するものとすることができる。傾斜ボディ2が異なる傾斜方向において異なる固有振動数を有することが望まれる場合、共振動作モードが用いられることになる。この場合、ポリマ薄膜4は、楕円若しくは矩形形状又は他の非回転対称形を有するのが良い。
【0023】
図2は、偏向ミラー2を傾斜するための微小電気機械装置1´の概略的側面図を示している。偏向ミラー2の電極5は、リード線8を介して電圧Vに接続されるのに対し、担体素子3の電極6は、電圧源の電圧Vに接続される。この実施例では、偏向ミラー2の移動部分に何ら配線を付ける必要がない。ポリマ薄膜4をわたって延びるリード線8の部分8´は、ジグザグ形状とされる。ポリマ薄膜4の表面上の電気リード線8´は、ポリマ薄膜4の特性に大きく影響を与えることになり、傾斜装置1´の偏向角を小さくすることができる。低い剛性の高い従順性のポリマ薄膜4は、ポリマ薄膜4上の比較的に高い剛性の電気リード線8´により影響され易い。ジグザグ形状のリード線8´を用いることによって、リード線8´における引張応力は緩和され、これは、この引張応力が主としてポリマ薄膜4の不要な剛性の増加を見越すものなので重要である。
【0024】
図3は、光ビーム11を放出する特にレーザ10などの光源を有する光学走査装置9を示している。レーザ10は、基部13上に取り付けられたヒートシンク12上に配される。光学走査装置9はさらに、偏向ミラー2と偏向ミラー2を傾斜させる微小電気機械装置1とを有し、偏向ミラー2は、表面(図示せず)を走査するようパースペクス(R)レンズ14から投射された光ビーム11を反射により偏向する。
【0025】
他の実施例(図示せず)において、ボディを傾斜させるこの装置は、インクジェットヘッド、レーザ偏向器、光ネットワーク用の光学カプラ、プロジェクタ、バーコードリーダ、投射ディスプレイ、補償光学、識別システム又はこれらに類似のもののような装置において、さらには天文学的イメージング、トラッキング、視覚化又はマスクレス型リソグラフィのためにも用いることができる。
【0026】
本発明は、微小電気機械システム(MEMS)に限定されない。他の実施例においては、本発明による装置をより大型の(従来の)装置として用いることもできる。
【0027】
図4は、他の実施例1´´の偏向ミラー2aを傾斜させる微小電気機械装置の透視図を示しており、担体素子3a上に、薄いポリマ層15とその表面上の電極6aとを有している。
【0028】
図5は、装置1´´から切り取った拡大図を示している。担体素子3aは、孔16を露呈する切取部を有する。さらに、ジグザグ状リード線8a´を伴うポリマ薄膜4aを見て取ることができる。図6は、装置1´´のさらなる拡大切取図を示している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】偏向ミラーを傾斜するための微小電気機械装置の概略的側面図。
【図2】第2の実施例における偏向ミラーを傾斜する微小電気機械装置の概略的側面図。
【図3】図1による偏向ミラーを傾斜する微小電気機械装置を有する光学走査装置の概略的側面図。
【図4】偏向ミラーを傾斜する微小電気機械装置の他の実施例の透視図。
【図5】図4による装置から取り出した拡大図。
【図6】図4による装置から取り出したさらなる拡大図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体素子と薄膜とを有する2自由度でボディを傾斜させるための微小電気機械装置であって、前記ボディは、前記薄膜を介して前記担体素子に接続され、前記ボディ及び前記担体素子の各々は、少なくとも1つの電極を有し、前記ボディは、電圧源から前記電極への電圧の印加による前記ボディの少なくとも1つの電極と前記担体素子の少なくとも1つの電極との間の静電気力によって傾斜される、装置。
【請求項2】
請求項1に記載の微小電気機械装置であって、前記薄膜は、ポリマ薄膜である、装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の微小電気機械装置であって、前記薄膜は、異なる傾斜方向に対し異なる固有振動数を有する、装置。
【請求項4】
請求項1,2又は3に記載の微小電気機械装置であって、前記薄膜は、非回転対称な形状を有する、装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちいずれか1つに記載の微小電気機械装置であって、前記薄膜は、楕円形状を有する、装置。
【請求項6】
請求項1ないし4のうちいずれか1つに記載の微小電気機械装置であって、前記薄膜は、矩形形状を有する、装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちいずれか1つに記載の微小電気機械装置であって、前記ボディの傾斜は、位置検出を伴う閉じたフィードバックループにより制御される、装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のうちいずれか1つに記載の微小電気機械装置であって、前記ボディの少なくとも1つの電極は、前記薄膜にわたる少なくとも1つのリード線を介して前記電圧源に接続される、装置。
【請求項9】
請求項8に記載の微小電気機械装置であって、前記薄膜にわたる前記少なくとも1つのリード線は、ジグザグ状である、装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のうちいずれか1つに記載の微小電気機械装置であって、前記ボディは、光学素子である、装置。
【請求項11】
請求項10に記載の微小電気機械装置であって、前記光学素子は、偏向ミラーである、装置。
【請求項12】
光源と、偏向ミラーと、請求項11に記載の偏向ミラーを傾斜するための微小電気機械装置とを有する光学走査装置であって、前記偏向ミラーは、表面を走査するように前記光源から投射される光ビームを反射により偏向する、装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−527455(P2008−527455A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550901(P2007−550901)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【国際出願番号】PCT/IB2006/050089
【国際公開番号】WO2006/075292
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】