説明

3次元構造体の製造方法

【課題】酸化チタン化合物などの紫外線を吸収する誘電体材料を用いて微細な3次元構造体を製造する。
【解決手段】光硬化性樹脂とアルミナ粉末とを混合してアルミナ混合光造形用樹脂を得、光造形法によりアルミナ混合光造形用樹脂で光造形型1を構成し、アルミナ粉末とは反応しない酸化チタンを光造形型1の型内に圧入して酸化チタン注入体5を構成する。この酸化チタン注入体5を、アルミナ粉末が焼結しない条件で焼成することによって、酸化チタンを焼結させるとともに光硬化性樹脂を除去させる。その後、アルミナ粉末を除去することによって、酸化チタンからなる3次元構造体4を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光造形法を用いた3次元構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屈折率もしくは誘電率が周期的に変化するフォトニック結晶構造を有する3次元構造体や、高誘電率材料による複雑な形状の3次元構造体は、電磁波に対する干渉作用や共振作用を示し、特定周波数領域の電磁波に対する作用素子として用いることができる。
【0003】
これらの3次元構造体は微細加工が必要であるので、従来、光造形法によって製造することが試みられている。
【0004】
また、電磁波に対する作用素子以外には、マイクロマシーンなどの3次元部品加工および組立技術にも光造形法が用いられようとしている。(特許文献1参照)
ここで、特許文献1の3次元構造体の製造方法を図1を参照して説明する。
まず、光により硬化する光硬化性樹脂に無機粉末材料を混合(混練)して第1の粉末混合光硬化性樹脂を作成する。次に、その第1の粉末混合光硬化性樹脂を用い、光造形装置によって造形し硬化させることによって、図1の(A)に示すような段差を有する柱状の粉末混合樹脂成形体41を形成する。
【0005】
次に、相対的に可動する部品が配置される、粉末混合樹脂成形体41の表面に、後工程の焼結での温度で焼結されないタングステン粉末を混合した第2の粉末混合光硬化性樹脂を用い、光造形装置によって造形し硬化させることによって、図1(B)に示すような犠牲層42を形成する。
【0006】
続いて第1の粉末混合光硬化性樹脂を用い、光造形装置によって造形し硬化させることによって、図1の(C)に示すようなリング上の粉末混合樹脂成形体41を形成する。
その後、再び第2の粉末混合光硬化性樹脂を用い、光造形装置によって造形し、硬化させることによって、図1(D)に示すような犠牲層42を拡張形成する。
【0007】
さらに、再び第1の粉末混合光硬化性樹脂を用い、光造形装置によって造形し、硬化させることによって、図1(E)に示すような2ヶ所に段差を有する柱状の粉末混合樹脂成形体41を形成する。
その後、この構造体全体を焼成して樹脂部分を除去するとともに無機粉末材料を焼結させる。
最後に、犠牲層42のタングステン粉末を除去する。
これによって、糸巻型の軸受けにリング型の可動部品が回転自在に嵌め込まれた部品が構成できる。
【特許文献1】特許3537161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記電磁波に対する作用素子として用いる場合、例えば酸化チタン化合物などの比誘電率の高い誘電体材料を用いて3次元構造体を構成することが重要であるが、酸化チタンや酸化チタン化合物であるチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウムなどは紫外線を吸収するため、従来の光造形法では作成することが困難であった。
【0009】
また、特許文献1に示されている3次元構造体の製造方法では、タングステン粉末を混合した樹脂の犠牲層を形成するが、タングステン粉末混合樹脂の犠牲層は仮止めの層として作用するだけであり、強度が非常に弱く、単独でその形状を維持することができない。また、タングステンは酸素雰囲気中で焼成すると酸化タングステンとなるが、この酸化タングステンは酸化チタンなどと容易に反応するため、その点でも適さない。
【0010】
そこで、この発明の目的は、酸化チタン化合物などの紫外線を吸収する誘電体材料を用いて微細な3次元構造体を製造する3次元構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の3次元構造体の製造方法は、光硬化性流動樹脂とアルミナ粉末とを混合する工程と、前記光硬化性樹脂とアルミナ粉末との混合物から光造形法により型を得る工程と、前記アルミナ粉末とは反応しない無機材料を含むスラリーを前記型に注入する工程と、前記アルミナ粉末が焼結しない条件で、前記無機材料を含むスラリーを注入した前記型内で前記無機材料を焼結させるとともに前記光硬化性樹脂を前記型内から除去する工程と、前記アルミナ粉末を除去して、焼結した前記無機材料を構造体として得る工程とによって製造する。
【0012】
前記無機材料としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウムのうちいずれかを用いる。
【0013】
また、前記無機材料としては酸化チタンを用いる。
【発明の効果】
【0014】
(1)アルミナ粉末を分散させた光硬化性樹脂は紫外線が透過し易いので、光硬化性樹脂とアルミナ粉末との混合物から光造形法により型を作成することは容易である。その型に、アルミナ粉末とは反応しない無機材料を含むスラリーを注入し、無機材料を含むスラリーを注入した型内で、アルミナ粉末が焼結しない条件で無機材料を焼結させることによって、上記型以外の空間を占める無機材料による構造体が構成でき、その後にアルミナ粉末を除去することによって、空間部に不要な物質のない3次元構造体が構成できる。
【0015】
このように構成した3次元構造体は例えば多孔質構造となるが、その孔部分に、光硬化性樹脂にアルミナ粉末が分散されたものが充填されるので、高価な光硬化性樹脂の使用量を削減でき、製造に要するコストを削減できる。また、光硬化性樹脂の使用量が低減されることで、焼成によって光硬化性樹脂に含まれる炭素分が残存しにくくなる。
【0016】
なお、光硬化性樹脂のみを用いて光造形法によりそのまま型を形成することも可能ではあるが、上述のように焼成によって光硬化性樹脂に含まれる炭素分が残存しやすいという問題が生じる。また光造形後の硬化時または焼結時の型の収縮率が大きいので、最終的に得ようとする無機材料による3次元構造体が歪むという問題が生じる。
【0017】
アルミナ粉末を分散させた光硬化性樹脂を用いて光造形した型によれば、このような問題が避けられる。
【0018】
(2)前記無機材料として、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウムのうちいずれかを用いることによって、紫外線を吸収する材料であるにも関わらず比誘電率の高い材料からなる3次元構造体が得られる。
【0019】
(3)また、前記無機材料として酸化チタンを用いれば、紫外線を吸収する材料であるにも関わらず比誘電率の高い材料からなる3次元構造体が得られる。しかも、上述の酸化チタン化合物の場合と異なり、数GHz帯域でも比較的高いQが得られるという特有の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明の3次元構造体の製造方法について図2・図3を参照して説明する。
図2は、3次元構造体を製造する各工程での構造体の外観を図示したものである。また図3は3次元構造体の製造方法を加工プロセスの流れ図として示したものである。
【0021】
この3次元構造体の製造の手順は次のとおりである。
〔A〕平均粒径10μmで比重4.0の球状アルミナからなるアルミナ粉末60gに対して比重1.1の光硬化性樹脂95gを加え、撹拌脱泡装置に入れて10分間撹拌脱泡して、アルミナ混合光造形用樹脂を得る。
【0022】
このアルミナ混合光造形用樹脂を用い、光造形装置によって図2の(a)に示すようなアルミナ混合光造形用樹脂による型(以下、「光造形型」という。)1を作成する。この光造形型は多孔質構造を有し、孔部分を3次元的に且つ周期的に配置している。
【0023】
3次元構造体の形状および寸法はCADにより設計する。但し、光造形装置に与えるデータは3次元構造体のネガティブ構造体であるので、その構造体を光造形するに必要な形式で作成し光造形装置に適するデータ形式で与える。例えば、孔部分がダイヤモンド結晶構造となるように前記光造形型1を作成する。
図2の(a)に示した立方体形状の各辺は例えば5mm、孔の内径は1.155mmである。
【0024】
アルミナ混合光造形用樹脂は、そのアルミナ粉末の含有量が多い程、粘性が増すが、実用的には60vol%までの成形体を作成することができる。一方、アルミナ粉末の含有量が10vol%以下では樹脂分が相対的に多いため、出来上がる型に亀裂が入り易い。したがって、アルミナ粉末の含有量は10vol%を超え、50vol%以下の範囲であることが望ましい。
【0025】
〔B〕図2の(b)に示すように、アルミナセラミック製または樹脂製の外枠2の内部に前記光造形型1を入れ、平均粒径1.5μmの酸化チタン粉末200gに水60mlおよび分散剤を加えたスラリーをインジェクション加工機で外枠内で且つ前記光造形型の空間(孔部)内に圧入する。これによって酸化チタン注入体を構成する。
【0026】
〔C〕図2の(c)に示すように、乾燥させた上記酸化チタン注入体3を外枠2から取り出し、電気炉に投入し、大気中雰囲気で350℃4時間の焼成の後、さらに700℃で4時間焼成し、脱脂を行う。これにより、光硬化性樹脂の樹脂成分を酸化(燃焼・気化)して除去(消失)する。続いて、1250℃で4時間本焼成を行う。これにより酸化チタン粉末が焼結する。
【0027】
アルミナ粉末は高温焼結材料(融点は2000℃以上)であって、1400℃以下では焼結しないので、この本焼成でもアルミナ粉末は焼結しない。また、この酸化チタン粉末は焼成時に前記光造形型内でアルミナ粉末とは反応しない。
【0028】
アルミナ粉末の焼結条件を最も左右するのは焼成温度であるが、焼成温度以外に焼成雰囲気や粒径も関係があるので、上記アルミナ粉末を焼結させない条件には、上記酸化チタン注入体3の焼成温度以外に焼成雰囲気や粒径を入れてもよい。例えばアルミナ粉末の純度が高くなる程、焼結温度が高くなるので、上記酸化チタン注入体3を高温焼結させるためには、高純度アルミナを用いることが望ましい。また、アルミナ粉末の粒径が大きくなる程、焼結に要する温度が高くなるので、上記酸化チタン注入体3を高温焼結させるためには、アルミナ粉末の粒径をできる限り大きくすることが重要である。しかし、その反面、型としての精度が低下するので、得るべき3次元構造体の精度に応じてアルミナ粉末の粒径を定める。例えば前記孔の内径が1〜10mm程度の3次元構造体を製造する場合には数10μm以下の粒径とすることが望ましい。
【0029】
〔D〕その後、酸化チタン注入体3のアルミナ粉末部分を超音波洗浄にて除去する。これにより図2の(d)に示すように酸化チタンの焼結体からなる3次元構造体4を得る。
【0030】
以上のようにして、アルミナ粉末と光硬化性樹脂が酸化チタンに対して悪影響を与えることなく、酸化チタンの焼結体による3次元構造体が得られ、酸化チタン本来の電気的特性をそのまま活かすことができる。
【0031】
なお、以上に示した実施形態では無機材料として酸化チタンを用いたが、その他にチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウムなどの酸化チタン化合物を用いて同様に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】特許文献1に示されている3次元構造体の製造方法を示す図である。
【図2】この発明の実施形態に係る3次元構造体の各工程での構造体の外観を示す図である。
【図3】同3次元構造体の加工プロセスの流れ図である。
【符号の説明】
【0033】
1−光造形型
2−外枠
3−酸化チタン注入体
4−3次元構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性樹脂とアルミナ粉末とを混合する工程と、
前記光硬化性樹脂とアルミナ粉末との混合物から光造形法により型を得る工程と、
前記アルミナ粉末とは反応しない無機材料を含むスラリーを前記型に注入する工程と、
前記アルミナ粉末が焼結しない条件で、前記無機材料を含むスラリーを注入した前記型内で前記無機材料を焼結させるとともに前記光硬化性樹脂を前記型内から除去する工程と、
前記アルミナ粉末を除去して、焼結した前記無機材料を構造体として得る工程と、
を有する3次元構造体の製造方法。
【請求項2】
前記無機材料は、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウムのうちいずれかである請求項1に記載の3次元構造体の製造方法。
【請求項3】
前記無機材料は酸化チタンである請求項1に記載の3次元構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−290248(P2007−290248A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120810(P2006−120810)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】