説明

3Dデータ解析装置および3Dデータ解析方法

【課題】多数のヒストグラムあるいはサイトグラムを参照したり、三次元分布図を想起したりすることなく、容易かつ直感的なゲーティング操作が可能で、高精度に解析を行うことができるデータ解析装置を提供。
【解決手段】微小粒子の測定データを保存するデータ格納部130と、前記測定データから独立した3種の変数を選択する入力部141と、前記3種の変数を座標軸とする座標空間内における位置と図形を計算し、前記微小粒子の特性分布を表す3D立体画像を作成するデータ処理部120と、前記3D立体画像を表示する表示部142と、を有し、入力部141からの入力信号に基づいて前記座標空間内に分画領域を変更可能に設定し、前記3D立体画像中に表示する3Dデータ解析装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dデータ解析装置および3Dデータ解析方法に関する。より詳しくは、解析対象とする微小粒子の指定を3D立体画像中で行うことができる3Dデータ解析装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞、微生物およびリポソーム等の生体関連粒子や、ラテックス粒子、ゲル粒子および工業用粒子等の合成粒子などの微小粒子を解析するため、微小粒子の分散液を流路内に導入して、微小粒子を光学的、電気的あるいは磁気的に測定する微小粒子測定装置が用いられている。
【0003】
一例として、合成粒子を大きさや形状に応じて判別するパーティクルアナライザーがある。パーティクルアナライザーで測定可能なパラメータ(変数)には、微小粒子の元素組成および粒径などがある。
【0004】
また、生体関連粒子の解析では、フローサイトメータ(フローサイトメトリー)が用いられている。フローサイトメータで測定可能なパラメータには、微小粒子の前方散乱光(FS)、側方散乱(SS)、蛍光(FL)およびインピーダンスなどがある。前方散乱光(FS)、側方散乱(SS)および蛍光(FL)は細胞や微生物(以下、単に「細胞」という)の光学的特性を示すパラメータとして、インピーダンスは細胞の電気的特性を示すパラメータとして用いられる。
【0005】
具体的には、まず、前方散乱光は、レーザー光の軸に対して前方向の小さい角度で散乱する光であり、細胞の表面で生じるレーザー光の散乱光や回折光、屈折光からなる。前方散乱光は、主として細胞の大きさを示すパラメータとして用いられている。次に、側方散乱は、レーザー光の軸に対して約90度の角度で散乱する光であり、細胞の内部の顆粒や核などで生じるレーザー光の散乱光である。側方散乱は、主として細胞の内部構造を示すパラメータとして用いられている。また、蛍光は、細胞に標識された蛍光色素から発生する光であり、蛍光色素標識抗体が認識する細胞表面抗原の有無や蛍光色素が結合した核酸の量などを示すパラメータとして用いられている。また、インピーダンスは、電気抵抗法によって測定され、細胞の容積を示すパラメータとして用いられている。
【0006】
フローサイトメータにおける測定データの解析のため、これらの測定パラメータを軸にとって各細胞の測定値をプロットすることにより、細胞集団中における細胞の特性分布を表す図を作成して表示するデータ解析装置が用いられている。測定パラメータを1つとした一次元分布図はヒストグラムとも称され、測定パラメータをX軸にとり、細胞数(カウント)をY軸にとったグラフとして作成される。また、測定パラメータを2つとした二次元分布図はサイトグラムとも称され、一方の測定パラメータをX軸とし、他方の測定パラメータをY軸とした座標面内に、各細胞をその測定値に基づいてプロットしていくことにより作成される。
【0007】
サンプルとする細胞集団の中には、解析の対象としない不要な細胞も含まれているため、測定データの解析は、サンプルとする細胞集団の中から解析対象とする細胞小集団を選び出した後に行われている。解析対象とする細胞小集団の選択は、ヒストグラム上あるいはサイトグラム上において該細胞小集団が存在する領域を指定することによって行われている。この操作は、ヒストグラム上あるいはサイトグラム上で指定する領域内に目的とする細胞を囲い込むことから、「ゲーティング」と呼ばれている。
【0008】
一つの測定パラメータを軸としたヒストグラム上あるいは一つの組み合わせの測定パラメータを軸としたサイトグラム上においては、解析対象とする細胞小集団と不要な細胞とが重なり合う領域に存在している場合がある。例えば、ヒト抹消血をサンプルとしてリンパ球の解析を行う際、前方散乱光(FS)と側方散乱(SS)を軸にとったサイトグラム上では、一部の単球がリンパ球と同一の領域に存在する場合がある。従って、ゲーティングを行う際、ユーザは、単球が囲い込まれないようにしてリンパ球のみが存在する領域を指定してやる必要がある。
【0009】
不要な細胞を囲い込むことなく、解析対象とする細胞小集団のみを囲い込むことができるように領域を指定するため、従来、ユーザは複数のヒストグラムあるいはサイトグラムを参照しながらゲーティングを行う必要があった。フローサイトメータの性能向上に伴って測定可能なパラメータ数も増加しており、ユーザはより多くのヒストグラムあるいはサイトグラムを参照する必要が生じていた。また、この際、ユーザは、2つのサイトグラムを組み合わせた立体的な分布図(三次元分布図)を想起しながらゲーティング操作を行うことが求められていた。
【0010】
ユーザのゲーティング操作を支援するため、特許文献1には、「分析物から第1、第2および第3の測定データを取得する測定データ取得手段と、前記第1、第2および第3の測定データを軸とし、分析物に含まれる有形成分の分布を示す3次元分布図を作成する3次元分布図作成手段と、前記3次元分布図上に分画領域を変更可能に設定する領域設定手段と、前記領域設定手段によって設定された前記分画領域に属する有形成分について、前記第1および第2の測定データを軸とする2次元分布図および前記第1の測定データを軸とする度数分布図の少なくとも一方を作成する参考用分布図作成手段と、を備える分析装置。」が提案されている(当該文献請求項9参照)。この分析装置によれば、3次元分布図とともに表示される2次元分布図(サイトグラム)および度数分布図(ヒストグラム)を参照しながら、3次元分布図上に分画領域を設定することができる。なお、この分析装置の3次元分布図は、ディスプレイ上に平面的に表示されるものであり、立体視されるものではない。
【0011】
本発明に関連して、二眼式ステレオ立体画像技術(3D立体画像技術)について説明する。二眼式ステレオ立体映像では、まず、対象物を右眼および左眼で見たときの2つの映像を用意する。そして、これらの映像を同時に表示した上で、右眼用映像を右眼だけに、左眼用映像を左眼だけに提示する。これにより、三次元空間で対象物を見ている際に目に映る映像を再現し、ユーザに対象物を立体視させる。
【0012】
立体視が可能な3Dディスプレイには、(a)メガネ方式、(b)裸眼方式、(c)ビューア方式が主に採用されている。(a)メガネ方式には、さらにアナグリフ方式、偏光フィルタ方式、時分割方式がある。また、(b)裸眼方式にはパララックスバリア方式、レンティキュラ方式があり、(c)ビューア方式にはステレオスコープ方式、ヘッドマウント方式がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−17497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、従来、フローサイトメータに用いられているデータ解析装置では、ゲーティングの際、不要な細胞を囲い込むことなく、解析対象とする細胞小集団のみを囲い込むため、ユーザは多数のヒストグラムあるいはサイトグラムを参照したり、2つのサイトグラムを組み合わせた立体的な分布図(三次元分布図)を想起したりしながら操作を行う必要があった。このため、従来のデータ解析装置では、ゲーティングの操作に時間がかかり、ユーザが操作に習熟していない場合には不要な細胞が混入してしまい、解析精度に問題が生じていた。
【0015】
そこで、本発明は、多数のヒストグラムあるいはサイトグラムを参照したり、三次元分布図を想起したりすることなく、容易かつ直感的なゲーティング操作が可能で、高精度に解析を行うことができるデータ解析装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題解決のため、本発明は、微小粒子の測定データを保存するデータ格納部と、前記測定データから独立した3種の変数を選択する入力部と、前記3種の変数を座標軸とする座標空間内における位置と図形を計算し、前記微小粒子の特性分布を表す3D立体画像を作成するデータ処理部と、前記3D立体画像を表示する表示部と、を有し、前記入力部からの入力信号に基づいて前記座標空間内に分画領域を変更可能に設定し、前記3D立体画像中に表示する3Dデータ解析装置を提供する。
この3Dデータ解析装置によれば、任意に選択した3種のパラメータを座標軸とした三次元分布図を立体視しながら、その座標空間において解析対象とする微小粒子ならびに微小粒子小集団のゲーティングを行うことができる。
【0017】
また、本発明は、微小粒子の測定データから独立した3種の変数を選択する手順と、前記3種の変数を座標軸とする座標空間内における位置と図形を計算し、前記微小粒子の特性分布を表す3D立体画像を作成する手順と、前記3D立体画像を表示させる手順と、前記3D立体画像中の前記座標空間内に分画領域を設定する手順と、を含む3Dデータ解析方法をも提供する。
【0018】
本発明において、「微小粒子」には、細胞、微生物およびリポソーム等の生体関連粒子、ラテックス粒子、ゲル粒子、工業用粒子等の合成粒子などの微小粒子が広く含まれるものとする。
細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌等の細菌類、タバコモザイクウイルス等のウイルス類、イースト菌等の菌類などが含まれる。生体関連粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)なども含まれる。さらに、生体関連粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。工業用粒子は、有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼンおよびポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカおよび磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイドおよびアルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるが、非球形であってもよい。また、微小粒子の大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、多数のヒストグラムあるいはサイトグラムを参照したり、三次元分布図を想起したりすることなく、容易かつ直感的なゲーティング操作が可能で、高精度に解析を行うことができるデータ解析装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】フローサイトメータに連設された本発明に係る3Dデータ解析装置の構成を説明するブロック図である。
【図2】本発明に係る3Dデータ解析装置の機能的構成を説明するブロック図である。
【図3】本発明に係る3Dデータ解析装置により表示される三次元分布図を説明する模式図である。
【図4】本発明に係る3Dデータ解析装置により表示される二眼式ステレオ立体画像(3D立体画像)を説明する模式図である。
【図5】本発明に係る3Dデータ解析装置において設定され得る分画領域の具体例を説明する模式図である。
【図6】本発明に係る3Dデータ解析装置において設定され得る分画領域の具体例を説明する模式図である。
【図7】3D立体画像中の微小粒子に対応する図形の形状を説明する模式図である。
【図8】シェード処理された図形の立体観察像を説明する概念図である。
【図9】シェード処理の処理方法を説明する模式図である。
【図10】座標軸の立体観察像を説明する概念図である。
【図11】微小粒子に対応する図形を揺動させた動画像の立体観察像を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序で行う。

1.3Dデータ解析装置の構成
2.3D立体画像の表示
3.ゲーティング
4.3D立体画像の特徴
(4−1)図形の形状
(4−2)図形のシェード処理
(4−3)座標軸
(4−4)動画像

【0022】
1.3Dデータ解析装置の構成
図1に、本発明に係る3Dデータ解析装置の装置構成を示す。ここでは、3Dデータ解析装置を微小粒子測定装置に連設して微小粒子解析システムとして構成した実施形態を示す。また、図2に、この微小粒子解析システムの機能的構成を示す。以下では、微小粒子測定装置としてフローサイトメータを用いる場合を例に説明する。
【0023】
図中符号1で示す3Dデータ解析装置は、通信ケーブル4によりフローサイトメータ2と接続されて微小粒子解析システム3を構成している。3Dデータ解析装置1は、中央処理装置(CPU)10、メモリ20、ハードディスク30、ユーザインターフェイスなどを含んでいる。ハードディスク30には、3Dデータ解析プログラム31、微小粒子の測定データ32およびオペレーティングシステム(OS)33などが格納・保持されている。ユーザインターフェイスには、ユーザからの情報の入力を受け付けるマウス41およびキーボード42などの入力デバイスと、ユーザに対して情報を出力するディスプレイ43およびプリンタ44などの出力デバイスが含まれる。なお、マウス41およびキーボード42に替えて、あるいはこれらとともに、スティックコントローラおよびペンタブレットなどの入力デバイスを設けてもよい。
【0024】
データ格納部130(ハードディスク30)は、フローサイトメータ2から出力される微小粒子(細胞)の測定データ32を保存する。フローサイトメータ2の入出力インターフェイス250から出力される測定データは、通信ケーブル4を介して3Dデータ解析装置1の入出力インターフェイス150に入力され、データ格納部30(ハードディスク30)に格納される。
【0025】
測定データ32は、データ処理部120において処理される。データ処理部120は、入力部141(マウス41あるいはキーボード42など)からのユーザの入力を受けて処理を開始する。すなわち、データ処理部120は、ユーザによって測定データ32から独立した3種の変数(パラメータ)が選択され入力されると、選択されたパラメータを座標軸として微小粒子の特性分布を表す三次元分布図を作成する。三次元分布図は、選択されたパラメータを座標軸とした座標空間内に微小粒子をプロットすることにより作成される。微小粒子のプロットは、選択されたパラメータの測定値から各微小粒子の座標空間内の位置と図形を計算し、算出された位置に算出された図形を描画することによって行われる。
【0026】
また、データ処理部120は、作成した三次元分布図の座標空間内に、入力部141からのユーザの入力信号に基づいて微小粒子をゲーティングするための分画領域を設定する。入力部141からのユーザの入力は、三次元分布図中に表示されるポインタをマウス41あるいはキーボード42などの入力デバイスを用いて移動、変形、拡大または縮小させることによって行われる。
【0027】
さらに、データ処理部120は、設定された分画領域内に存在する微小粒子の測定データの処理(クラスター解析)を行う。クラスター解析は、例えば、全微小粒子に占める分画領域内に存在する微小粒子の割合、画領域内に存在する微小粒子の数、平均値、標準偏差および変動係数などの統計データが算出される。
【0028】
ここで、「独立したパラメータ」とは、微小粒子の前方散乱光(FS)、側方散乱(SS)、蛍光(FL)およびインピーダンスなどから選択される互いに異なるパラメータを意味する。蛍光(FL)は、微小粒子に標識された蛍光色素の波長域毎に異なるパラメータとして扱うことができ、FL1,FL2〜FLn(nは3以上の整数)などと表記される。独立した3種のパラメータとしては、例えば、前方散乱光(FS)、側方散乱(SS)および蛍光(FL1)の組み合わせや、前方散乱光(FS)、側方散乱(SS)およびインピーダンスの組み合わせが例示される。この他、独立した3種のパラメータは、測定データから任意に選択して組み合わせることができる。
【0029】
データ処理部120により作成された三次元分布図と、その座標空間内に設定された分画領域とは、出力部142(ディスプレイ43)に3D立体画像として表示される。この3D立体画像は、次に詳しく説明する二眼式ステレオ立体画像とされる。出力部142への3D立体画像の表示は、入力部141(マウス41あるいはキーボード42など)からのユーザの入力信号に基づき任意に回転、拡大あるいは縮小させて行ってもよい。また、データ処理部120によるクラスター解析の結果も、出力部142(ディスプレイ43およびプリンタ44など)に出力される。統計データは、出力部142に数値あるいは図表によって表示、印刷等されてよい。
【0030】
フローサイトメータ2は、従来公知の装置と同様の構成あるいはこれを適宜改変した構成とでき、具体的には、制御部210、フロー系220、検出系230、入出力インターフェイス250等から構成される。
【0031】
フロー系220は、フローセルやマイクロチップに形成された流路内において、微小粒子を含むサンプル液層流をシース液層流の中心に流し、層流中に微小粒子を一列に配列させる。検出系230は、流路を通流する微小粒子の特性を示すパラメータ値を取得する。具体的には、光学検出部231は、通流する微小粒子に光を照射し、微小粒子から生じる散乱光や蛍光などを検出し、その強度を取得する。光学検出部231は、レーザー光源、レンズ、ミラー、フィルター、CCDおよびCMOS素子等のエリア撮像素子あるいはPMT(photo multiplier tube)などを含んでなる。また、電気検出部232は、通流する微小粒子に対向して配された電極を含んでなり、微小粒子のインピーダンス、容量値(キャパシタンス)およびインダクタンスなどを取得する。フローサイトメータ2は、解析の結果所望の特性を有すると判定された微小粒子を分取するための分取系240を備えていてもよい。分取系240には、例えば、微小粒子を含む液滴をフローセル外の空間に吐出し、液滴の移動方向を制御することにより、所望の微小粒子のみを容器に回収する方式を採用できる。
【0032】
検出系230において検出された散乱光および蛍光などの強度の測定値、あるいはインピーダンス、容量値(キャパシタンス)およびインダクタンスなどの測定値は、電気信号に変換され、測定データとして入出力インターフェイス250から出力される。
【0033】
2.3D立体画像の表示
図3に、本発明に係る3Dデータ解析装置により表示される三次元分布図を模式的に示す。この三次元分布図は、出力部142に3D立体画像により表示され、ユーザによって立体的に視認され得るものである。
【0034】
三次元分布図5は、ユーザにより選択された3種のパラメータを座標軸とした座標空間6内に微小粒子の特性分布を示す。三次元分布図5では、選択されたパラメータの測定値から算出される位置に各微小粒子に対応する図形7が描画される。
【0035】
図では、3種のパラメータを、前方散乱光(FS-Lin:X軸)、側方散乱(SS-Lin:Y軸)および第一の蛍光(FL1-Lin:Z軸)の組み合わせとした場合を例示した。各座標軸にとるパラメータは、任意に選択される組み合わせとできる。例えば、X軸に第一の蛍光(FL1)、Y軸に第二の蛍光(FL2)、Z軸にインピーダンスをとることもできる。
【0036】
三次元分布図5の座標空間6内には、微小粒子をゲーティングする際に分画領域を設定するために使用されるポインタ50が表示されている。ポインタ50も3D立体画像においてユーザにより立体的に視認され得るものである。ポインタ50は、入力部141からのユーザの入力信号により、座標空間6内で任意に移動、変形、拡大または縮小される。
【0037】
ポインタ50の形状は、3D立体画像の立体観察時に所定の立体形状として視認されれば特に限定されないが、例えば、図3(A)に示すような球体や、(B)に示すような立方体を採用できる。
【0038】
三次元分布図5の3D立体表示は、二眼式ステレオ立体画像により行われる。図4に、本発明に係る3Dデータ解析装置により表示される二眼式ステレオ立体画像を模式的に示す。
【0039】
データ処理部120は、ユーザによってパラメータが選択されると三次元分布図5を作成して、該分布図を左眼で見たときの画像(左眼用画像5L)と、右眼で見たときの画像(右眼用画像5R)を作成する。出力部142(ディスプレイ43)は、左眼用画像5Lおよび右眼用画像5Rを同時に表示し、左眼用画像5Lを左眼だけに、右眼用画像5Rを右眼だけに分離提示する。
【0040】
分離提示は、例えばメガネ方式の一つである時分割方式では、左眼用画像5Lと右眼用画像5Rとをわずかな時間差で交互に表示させ、これにシャッタメガネ8を同期させることによって行うことができる。この他、分離提示は、アナグリフ方式および偏光フィルタ方式などの他のメガネ方式、パララックスバリア方式およびレンティキュラ方式などの裸眼方式、ステレオスコープ方式およびヘッドマウント方式などのビューア方式を採用してもよい。
【0041】
ディスプレイ43は、左眼用画像5Lおよび右眼用画像5Rを分離提示することによって、三次元空間で三次元分布図を見ている際に目に映る映像を再現し、ユーザに分布図を立体視させる。
【0042】
3.ゲーティング
微小粒子をゲーティングするための分画領域の設定は、三次元分布図中に表示されるポインタ50をマウス41あるいはキーボード42などの入力デバイスを用いて移動、変形、拡大または縮小させることによって行われる。分画領域は、移動等されたポインタ50の内部空間に設定される。図5に設定され得る分画領域の具体例を示す。
【0043】
図5(A)は、楕円の球体とされたポインタ50の内部空間に設定された分画領域51を示している。この分画領域51は、図3(A)に示したポインタ50を、解析対象とする微小粒子に対応する図形7が存在する領域に移動し、正円から楕円の球体に変形させて拡大し、当該領域とポインタ50の内部空間とを全部一致あるいは一部一致させることによって設定できる。分画領域51は複数設定することができ、解析対象とする2以上の微小粒子小集団を各分画領域内に囲い込むことができる。
【0044】
また、図5(B)は、移動されるポインタ50の内部空間の軌跡にそって連続的に設定された分画領域51を示している。この分画領域51は、図3(A)に示したポインタ50を、その内部空間が、解析対象とする微小粒子に対応する図形7が存在する領域を通過するように移動させ、当該領域とポインタ50の内部空間の軌跡とが全部一致あるいは一部一致するようにすることで設定できる。分画領域51は不連続な2以上の軌跡により複数設定することができ、解析対象とする2以上の微小粒子小集団を各分画領域内に囲い込むことができる。
【0045】
ポインタ50は任意の形状に変形され、任意の大きさ(体積)に拡大あるいは縮小されて三次元分布図中を移動され、解析対象とする微小粒子に対応する図形7をポインタ50の内部空間に設定される分画領域51内に囲い込む。この際、分画領域内に囲い込まれた図形7は、分画領域51外に存在する図形7と異なる色(色相、彩度、明度)によって3D立体画像中に表示されるようにしてもよい。図5では、分画領域51内にゲートされた図形7を黒色で、分画領域外の図形7を白色で示した。
【0046】
分画領域内に囲い込まれた図形7と分画領域51外に存在する図形7は、図6に示すように、異なる形状によって3D立体画像中に表示されるようにしてもよい。図6では、分画領域51内にゲートされた図形7を8面体(図7(B)参照)で、分画領域外の図形7を6面体(図7(A)参照)で示した。
【0047】
分画領域内に囲い込まれた図形7と分画領域51外に存在する図形7は、色および形状の双方が異なるように表示されてもよい。例えば、分画領域内に囲い込まれた図形7に対応する微小粒子が白血球である場合は、図形を白血球の形態を模した色および形とすることができる。これに対して、例えば、分画領域51外に存在する図形7が赤血球である場合には、図形を赤血球の形態を模した色および形とすることができる。
【0048】
さらに、ゲートされた以外の図形7(分画領域51外に存在する図形7)は、3D立体画像中に表示しないようにすることもできる。あるいは、逆に、解析対象としない微小粒子に対応する図形7をゲーティングする場合には、ゲートされた図形7(分画領域内に存在する図形7)を3D立体画像中に表示しないようにすることもできる。
【0049】
このように、3Dデータ解析装置1では、ユーザは、任意に選択した3種のパラメータを座標軸とした三次元分布図とその座標空間に表示されるポインタを立体視しながら、解析対象とする微小粒子ならびに微小粒子小集団のゲーティングを行うことができる。このため、3Dデータ解析装置1では、従来のように多数のヒストグラムあるいはサイトグラムを参照したり、三次元分布図を想起したりすることなく、分布図上において解析対象とする微小粒子ならびに微小粒子小集団を容易かつ直感的に特定してゲーティングすることができる。また、座標軸に用いるパラメータを任意に組み合わせて三次元分布図を表示させることで、一つのグラフで微小粒子の3つの特性に関する情報を得ることができる。このため、3Dデータ解析装置1では、解析対象とする微小粒子ならびに微小粒子小集団を高精度にゲートすることができ、かつ、従来のヒストグラムあるいはサイトグラムによる表示に比べて参照すべきグラフ数を減らしてゲーティング操作を効率化できる。
【0050】
4.3D立体画像の特徴
以下、本発明に係る3Dデータ解析装置により表示される3D立体画像の特徴について順に説明する。
【0051】
(4−1)図形の形状
図3中符号7で示した微小粒子に対応する図形は、所定形状のポリゴンの組み合わせからなる多面体として計算され、3D立体画像中に表示される。上記のように、データ処理部120は、ユーザが選択したパラメータの測定値に基づいて各微小粒子の座標空間内の位置と図形7を計算し、三次元分布図を作成する。この際、図形7を所定形状のポリゴンの組み合わせからなる多面体として計算することで、データ処理部120における計算負荷を軽減できる。また、図形7を所定形状のポリゴンの組み合わせからなる多面体として3D立体画像中に表示することで、立体視した際の画像の立体感を増強することができる。
【0052】
所定形状のポリゴンの組み合わせからなる多面体としては、例えば、図7(A)に示すような、三角形のポリゴンが6つ組み合わされてなる6面体や、(B)に示す該ポリゴンが8つ組み合わされてなる8面体を採用できる。図形7の形状は、分画領域内外で異なる形状とされ得るものであり、所定形状のポリゴンの組み合わせからなる多面体である限りにおいて特に限定されないが、計算負荷の軽減と立体感の観点から6面体あるいは8面体が好ましい。
【0053】
(4−2)図形のシェード処理
3D立体画像において、図形7は、立体視した際に手前に観察される図形ほど濃く、奥に観察される図形ほど淡く表示される。このように図形7の濃淡を変化させる処理を、以下「シェード処理」と称するものとする。
【0054】
シェード処理された図形7の立体観察像(以下単に「立体像」という)の概念図を図8に示す。図中矢印の方向に従って、手前に観察される図形7ほど濃く、奥に観察される図形7ほど淡くなっている。このように、図形7のシェード処理を行うことによって、3D立体画像の立体像に奥行きを与えて立体感を向上できる。
【0055】
図9を参照して、シェード処理の処理方法を説明する。ディスプレイ43には左眼用画像と右眼用画像が同時に表示され、立体視した際にディスプレイ43の画面の位置に観察される図形70の左眼用画像と右眼用画像は重なった状態で表示される(図9(B)参照)。
【0056】
ディスプレイ43に表示される左眼用画像が右眼用画像よりも右側にある場合(図9(A)参照)、図形は、ディスプレイ43の画面の位置よりも手前に立体視される。画面位置から飛び出して観察される図形の立体像を図中符号71で示し、ディスプレイ43に表示される図形71の左眼用画像を符号71Lで、右眼用画像を符号71Rで示す。一方、ディスプレイ43に表示される左眼用画像が右眼用画像よりも左側にある場合(図9(C)参照)、図形は、ディスプレイ43の画面の位置よりも奥に立体視される。画面位置から飛び出して観察される図形の立体像を図中符号72で示し、ディスプレイ43に表示される図形71の左眼用画像を符号72Lで、右眼用画像を符号72Rで示す。
【0057】
シェード処理では、手前に観察される図形71の左眼用画像71Lおよび右眼用画像71Rをより濃く、奥に観察される図形72の左眼用画像72Lおよび右眼用画像72Rをより淡く表示するようにする。
【0058】
(4−3)座標軸
3D立体画像において、座標軸は、立体視した際に手前に観察される部分ほど太く、奥に観察される分ほど細く表示される。太さを変化させた座標軸の立体像の概念図を図10に示す。このように、座標軸の太さを変化させることによって、3D立体画像の立体像に奥行きを与えて立体感を向上できる。
【0059】
また、図10に示すように、座標軸の目盛間隔を立体視した際に手前に観察される部分ほど広く、奥に観察される分ほど狭く表示することによって、立体像にさらに奥行きを与えられる。また、座標軸名(図ではSS-Lin)および目盛数値(図では200, 400, 600, 800, 1000)の文字を手前ほど大きく、奥ほど小さく表示したりすることによっても同様の効果が得られる。なお、座標軸の太さ、目盛間隔および文字の大きさを変化させる処理は、上述のシェード処理を応用して行うことが可能である。
【0060】
(4−4)動画像
既に説明したように、出力部142(ディスプレイ43)への3D立体画像の表示は、入力部141(マウス41あるいはキーボード42など)からのユーザの入力信号に基づき任意に回転、拡大あるいは縮小させて行ってもよい。3D立体画像を回転する際には、図3に示したように、座標空間6を構成する立体形状(図では立方体)の各辺に座標軸が表示されていることが好ましい。これらの座標軸により座標空間6の立体形状が明確になるため、3D立体画像を回転させた際の三次元分布図の向きの変化を認識し易くなる。
【0061】
ディスプレイ43に表示される3D立体画像は、ユーザからの入力により随意に回転される他、常時一定方向にゆっくりと回転していてもよい。3D立体画像を常時回転する動画像により表示することで、静止画像による表示に比べて立体感を高められる。
【0062】
さらに、ディスプレイ43に表示される3D立体画像は、微小粒子に対応する図形が揺動する動画像により表示されてもよい。この際、立体視した際に奥に観察される図形に比して手前に観察される図形を大きく揺動させて表示させる。揺動動作が付与された図形の立体像の概念図を図10に示す。図形71,72は、図中矢印に示すように左右に揺動し、左右への揺動幅は手前に観察される図形71で大きく、奥に観察される図形72で小さくなっている。このように、立体視した際に奥に観察される図形に比して手前に観察される図形をより大きく揺動させて表示することで、3D立体画像の立体像に奥行きを与えて立体感を向上できる。
【0063】
以上のように、本発明に係る3Dデータ解析装置は、表示される3D立体画像の立体感を向上させるための工夫がなされている。従って、点(微小粒子に対応する図形)と線(座標軸)のみからなる三次元分布図であっても、ユーザはその立体像を良好に視認しながら測定データの解析を行うことができ、分布図上において解析対象とする微小粒子ならびに微小粒子小集団を容易かつ直感的に特定できる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る3Dデータ解析装置によれば、多数のヒストグラムあるいはサイトグラムを参照したり、三次元分布図を想起したりすることなく、容易かつ直感的なゲーティング操作が可能で、高精度に解析を行うことができる。従って、本発明に係る3Dデータ解析装置は、例えばフローサイトメータとともに用いられて、医療分野、公衆衛生分野あるいは創薬分野等において、細胞や微生物の特性を容易かつ高精度に解析するために用いられ得る。
【符号の説明】
【0065】
1:3Dデータ解析装置、10:中央処理装置、110:制御部、120:データ処理部、130:データ格納部、141:入力部、142:表示部、150:入出力インターフェイス、2:フローサイトメータ、210:制御部、220:フロー系、230:検出系、
231:光学検出部、232:電気検出部、240:分取系、250:入出力インターフェイス、3:微小粒子解析システム、30:ハードディスク、31:3Dデータ解析プログラム、32:測定データ、33:オペレーティングシステム、4:通信ケーブル、41:マウス、42:キーボード、43:ディスプレイ、44:プリンタ、5:三次元分布図、50:ポインタ、51:分画領域、6:座標空間、7:図形、8:シャッタメガネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小粒子の測定データを保存するデータ格納部と、
前記測定データから独立した3種の変数を選択する入力部と、
前記3種の変数を座標軸とする座標空間内における位置と図形を計算し、前記微小粒子の特性分布を表す3D立体画像を作成するデータ処理部と、
前記3D立体画像を表示する表示部と、を有し、
前記入力部からの入力信号に基づいて前記座標空間内に分画領域を変更可能に設定し、前記3D立体画像中に表示する3Dデータ解析装置。
【請求項2】
前記分画領域は、前記3D立体画像の立体像観察時に所定の立体形状として視認されるポインタの内部空間に設定され、
前記入力部は、前記座標空間内で前記ポインタを移動、変形、拡大または縮小させる入力デバイスを含む請求項1記載の3Dデータ解析装置。
【請求項3】
前記分画領域は、前記座標空間内を移動される前記ポインタの軌跡に沿って連続的に設定される請求項2記載の3Dデータ解析装置。
【請求項4】
前記3D立体画像において、前記分画領域内に存在する前記図形を、前記分画領域外に存在する前記図形と異なる色で表示する請求項3記載の3Dデータ解析装置。
【請求項5】
前記3D立体画像において、前記分画領域内に存在する前記図形の形状を、前記分画領域外に存在する前記図形と異なる形状で表示する請求項3記載の3Dデータ解析装置。
【請求項6】
前記3D立体画像において、前記分画領域内に存在する前記図形を非表示とする請求項3記載の3Dデータ解析装置。
【請求項7】
前記表示手段がディスプレイであり、
該ディスプレイに表示される前記3D立体画像を立体視するためのメガネを備える請求項1〜6のいずれか一項に記載の3Dデータ解析装置。
【請求項8】
請求項1〜6に記載のいずれか一項に記載の3Dデータ解析装置と微小粒子測定装置とを連設してなる微小粒子解析システム。
【請求項9】
微小粒子の測定データから独立した3種の変数を選択する手順と、
前記3種の変数を座標軸とする座標空間内における位置と図形を計算し、前記微小粒子の特性分布を表す3D立体画像を作成する手順と、
前記3D立体画像を表示させる手順と、
前記3D立体画像中の前記座標空間内に分画領域を設定する手順と、を含む3Dデータ解析方法。
【請求項10】
前記3D立体画像の立体像観察時に所定の立体形状として視認されるポインタを前記座標空間内で移動、変形、拡大または縮小させ、前記ポインタの内部空間に前記分画領域を設定する請求項9記載の3Dデータ解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−117993(P2012−117993A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269945(P2010−269945)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】