説明

ABS制御装置、及びプログラム

【課題】装着されたタイヤが規定サイズでない場合であっても、ABS制御精度の低下を防止するABS制御装置、及びプログラムを提供する。
【解決手段】ABS制御装置は、車体の前輪速度値を取得する前輪速度値取得部(110)と、前記車体の後輪速度値を取得する後輪速度値取得部(112)と、前記前輪速度値及び前記後輪速度値から前記車体の推定車体速度値を推定する車体速度値推定部(114)と、前記前輪速度値又は後輪速度値が、前記推定車体速度値を基準とした一定の範囲に近づくように、前記前輪速度値又は前記後輪速度値を補正する速度値補正部(116)と、前記前輪速度値又は補正された前記後輪速度値と、前記推定車体速度値とを用いて前輪又は後輪のスリップ率を算出するスリップ率算出部(124、126)と、前記前輪又は前記後輪の前記スリップ率を判定してABS制御を行うABS制御部(128)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ABS制御装置、及びプログラムに関し、特に、装着されたタイヤが規定サイズでない場合であっても、適切にABS制御を行うABS制御装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等において、従来から、通常発生する車輪の振動を誤検出することなく、また車輪の外乱によって生じるABS制御の精度の低下を防止するためのABS(Antilock Brake System)制御が提案されている。この技術的思想を特許文献1として例示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−147232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の技術的思想では、特定の車体に対して予め定められたタイヤとは異なるサイズのタイヤを装着した場合に、前輪と後輪とで検出される車輪速の差が大きくなってしまうことが考えられる。ABS制御を行う上で、車体速を基準にスリップ状態を判定しているが、車体速は、前後輪の車輪速を基準に演算されて求められているものであり、車輪速の差が大きい状態においては、演算された車体速が前輪の車輪速に近い場合は、車体速と後輪の車輪速との差が大きく、逆の場合には、車体速と前輪の車輪速との差が大きくなってしまう。
【0005】
したがって、当該差が大きくなった側の車輪のスリップ率判定おいて、規定のサイズのタイヤで設定されたABSの作動タイミングが、所望のタイミングに対してズレてしまうことが考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、係る従来の問題点に鑑みてなされたものであり、装着されたタイヤが規定サイズでない場合であっても、ABS制御精度の低下を防止するABS制御装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、ABS制御装置であって、車体の前輪速度値(fvw)を取得する前輪速度値取得部(110)と、前記車体の後輪速度値(rvw)を取得する後輪速度値取得部(112)と、前記前輪速度値(fvw)及び前記後輪速度値(rvw)から前記車体の推定車体速度値(vr)を推定する車体速度値推定部(114)と、前記前輪速度値(fvw)又は後輪速度値(rvw)が、前記推定車体速度値(vr)を基準とした一定の範囲に近づくように、前記前輪速度値(fvw)又は前記後輪速度値(rvw)を補正する速度値補正部(116)と、前記前輪速度値(fvw、fvw2)又は補正された前記後輪速度値(rvw2)と、前記推定車体速度値(vr)とを用いて前輪又は後輪のスリップ率を算出するスリップ率算出部(124、126)と、前記前輪又は前記後輪の前記スリップ率を判定してABS制御を行うABS制御部(128)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のABS制御装置であって、前記推定車体速度値(vr)から、該推定車体速度値(vr)を基準とした前記一定の範囲内にあるリア推定車体速度値(rvr)を算出するリア推定車体速度値算出部(120)を備え、前記スリップ率算出部(126)は、前記補正された後輪速度値(rvw2)と、前記リア推定車体速度値(rvr)とから前記後輪の前記スリップ率を算出することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のABS制御装置であって、前記推定車体速度値(vr)から、該推定車体速度値(vr)を基準とした前記一定の範囲内にあるフロント推定車体速度値(fvr)を算出するフロント推定車体速度値算出部(122)を備え、前記スリップ率算出部(126)は、前記前輪速度値(fvw)又は前記補正された前輪速度値(fvw2)と、前記フロント推定車体速度値(fvr)とから前記前輪の前記スリップ率を算出することを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のABS制御装置にあって、前記前輪速度値(fvw)又は後輪速度値(rvw)が、前記推定車体速度値(vr)を基準とした前記一定の範囲に近づくように、オフセット補正値を算出するオフセット補正値算出部(118)を備え、前記速度値補正部(116)は、前記オフセット補正値を用いて、前記前輪速度値(fvw)又は前記後輪速度値(rvw)を補正することを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のABS制御装置であって、前記オフセット補正値算出部(118)は、算出する前記オフセット補正値が、前回算出した前記オフセット補正値より補正上限リミット値以上大きい場合は、前回算出した前記オフセット補正値と前記補正上限リミット値とを加算した値に制限し、算出する前記オフセット補正値が、前回算出した前記オフセット補正値より補正下限リミット値以下小さい場合は、前回算出した前記オフセット補正値から前記補正下限リミット値を減算した値に制限することを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成するために、請求項6に係る発明は、プログラムであって、コンピュータを、車体の前輪速度値(fvw)を取得する前輪速度値取得部(110)、前記車体の後輪速度値(rvw)を取得する後輪速度値取得部(112)、前記前輪速度値(fvw)及び前記後輪速度値(rvw)から前記車体の推定車体速度値(vr)を推定する車体速度値推定部(114)、前記前輪速度値(fvw)又は後輪速度値(rvw)が、前記推定車体速度値(vr)を基準とした一定の範囲に近づくように、前記前輪速度値(fvw)又は前記後輪速度値(rvw)を補正する速度値補正部(116)、前記前輪速度値(fvw、fvw2)又は補正された前記後輪速度値(rvw2)と、前記推定車体速度値(vr)とを用いて前輪又は後輪のスリップ率を算出するスリップ率算出部(124、126)、前記前輪又は前記後輪の前記スリップ率を判定してABS制御を行うABS制御部(128)、として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、推定車体速度値を基準とした一定の範囲に近づくように、後輪速度値を補正するので、規定サイズと異なるサイズの後輪タイヤを後輪に装着した場合であっても、スリップ率を検出できるタイミングを従来よりも早くすることができ、適切にABS制御を行うことが可能となる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、推定車体速度値から、該推定車体速度値を基準とした前記一定の範囲内にあるリア推定車体速度値を算出し、補正された後輪速度値と、前記リア推定車体速度値とから求められる後輪のスリップ率を判定してABS制御を行うので、適切にABS制御を行うことができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、推定車体速度値から、該推定車体速度値を基準とした前記一定の範囲内にあるフロント推定車体速度値を算出し、前輪速度値又は補正された前輪速度値と、フロント推定車体速度値とから求められる前輪のスリップ率を判定してABS制御を行うので、適切なABS制御を行うことができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、算出する前記オフセット補正値が、前回算出した前記オフセット補正値より補正上限リミット値以上大きい場合は、前回算出した前記オフセット補正値と前記補正上限リミット値とを加算した値に制限し、算出する前記オフセット補正値が、前回算出した前記オフセット補正値より補正下限リミット値以下小さい場合は、前回算出した前記オフセット補正値から前記補正下限リミット値を減算した値に制限するので、補正後の前輪速度値又は補正後の後輪速度値が瞬時に大幅に変更することはなく、補正の精度を安定させることができる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、規定サイズとは異なるサイズのタイヤが装着された場合であっても、適切なABS制御を行うことができるプログラムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態のABS制御装置として機能するブレーキ装置の概略構成図である。
【図2】図1に示すブレーキ装置の中のコントローラの構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示すコントローラの動作を示すフローチャートである。
【図4】車体速度値推定部が推定車体速度値を推定する動作を示すサブフローチャートである。
【図5】推定される推定車体速度値vrの時間的変化を示す図である。
【図6】推定される推定車体速度値vrの時間的変化を示す図である。
【図7】オフセット補正値算出部がオフセット補正値を算出する動作を示すサブフローチャートである。
【図8】オフセット補正値算出部がオフセット補正値を算出する動作を示すサブフローチャートである。
【図9】図9Aは、前回のオフセット補正値offset1によって補正された後輪速度値rvw2と、補正前の後輪速度値rvw、及び推定車体速度値vrの時間における変動の一例を示すグラフである。図9Bは、補正後のrvw2によって算出される次回のオフセット補正値offset1の時間における変動の一例を示すグラフである。
【図10】推定車体速度値vrと、推定車体速度値上限係数VRLMTUPとの関係を示すグラフである。
【図11】リア推定車体速度値算出部がリア推定車体速度値を算出する動作を示すサブフローチャートである。
【図12】フロント推定車体速度値算出部がフロント推定車体速度値を算出する動作を示すサブフローチャートである。
【図13】後輪のABS制御が行われるタイミングを示すタイムチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るABS制御装置及びABS制御装置として機能させるプログラムについて、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。
【0020】
図1は、本実施の形態のABS制御装置として機能する自動二輪車用のブレーキ装置10の概略構成図である。ブレーキ装置10は、自動二輪車の前輪を制動する前輪ブレーキ装置12と、自動二輪車の後輪を制動する後輪ブレーキ装置14と、これらの前輪ブレーキ装置12及び後輪ブレーキ装置14にそれぞれ備えるブレーキ液通路に設けられた複数の電磁バルブの開閉を制御するコントロールユニット16と、前輪ブレーキ装置12、後輪ブレーキ装置14、及びコントロールユニット16に電力を供給するバッテリ18とを備える。ブレーキ装置10は、前輪ブレーキ装置12に設けられたブレーキレバー20、後輪ブレーキ装置14に設けられたブレーキペダル22の操作量をそれぞれ電気的に検出し、これらの検出量に応じたブレーキ液圧を発生させて前輪、後輪を独立又は連動させて制動させるバイワイヤ方式のものである。
【0021】
前輪ブレーキ装置12は、ブレーキレバー20と、このブレーキレバー20に連結されてブレーキレバー20の操作によりブレーキ液圧を発生させる前輪マスターシリンダ24と、この前輪マスターシリンダ24内に出入りするブレーキ液を貯めたリザーバタンク26と、前輪マスターシリンダ24にブレーキ配管28を介して接続されたストロークシミュレータ30と、ブレーキ配管28の途中に設けられた第1電磁バルブ32と、この第1電磁バルブ32を迂回するようにブレーキ配管28に設けられたバイパス配管34と、バイパス配管34の途中に設けられた一方向弁36と、前記前輪マスターシリンダ24に接続された第1圧力センサ38と、バイパス配管34に接続された第2圧力センサ40と、ブレーキ配管28にブレーキ配管42を介して接続された前輪ディスクブレーキ装置44と、ブレーキ配管42の途中に設けられた第2電磁バルブ46と、ブレーキ配管42にブレーキ配管48を介して接続されたパワーユニット50と、ブレーキ配管48の途中に設けられた第3電磁バルブ52と、この第3電磁バルブ52を迂回するようにブレーキ配管48に接続されたバイパス配管54と、このバイパス配管54の途中に設けられた一方向弁56と、バイパス配管54に接続された第3圧力センサ58とを有する。なお、符号18A、18Bは、コントロールユニット16とバッテリ18とを接続する導線である。
【0022】
ストロークシミュレータ30は、ブレーキレバー20の操作量に応じて前輪マスターシリンダ24に発生した液圧により擬似的な反力を発生させて、ブレーキレバー20を操作する運転手の手に、バイワイヤ方式ではない通常の液圧式ブレーキ装置のブレーキレバー20に発生する遊び等の操作感覚と同様な操作感覚を発生させる。
【0023】
第1電磁バルブ32は、通常は圧縮コイルばね32aの弾性力で閉じられており、コントロールユニット16から出力される制御信号を導線32Aを介して受けることで圧縮コイルばね32aの弾性力に抗して開かれる。
【0024】
バイパス配管34及び一方向弁36は、ストロークシミュレータ30に発生したブレーキ液の残圧を逃がすものであり、一方向弁36は、ストロークシミュレータ30側から前輪マスターシリンダ24側へのブレーキ液の流れのみを許容する。
【0025】
第1圧力センサ38は、ブレーキ配管28を介して前輪マスターシリンダ24内の圧力を検出するものであり、コントロールユニット16に導線38Aを介して接続されている。第2圧力センサ40は、バイパス配管34を介してストロークシミュレータ30内の圧力を検出するものであり、コントロールユニット16に導線40Aを介して接続されている。
【0026】
前輪ディスクブレーキ装置44は、ブレーキディスク60と、ブレーキディスク60を制動するブレーキキャリパ62とを有し、ブレーキキャリパ62は、上記のブレーキ配管42に接続されている。なお、符号64は、ブレーキディスク60の回転速度値を検出することで前輪速度値を求めるための前輪速度センサであり、コントロールユニット16に導線64Aを介して接続されている。
【0027】
第2電磁バルブ46は、通常は圧縮コイルばね46aの弾性力で開かれており、コントロールユニット16から出力される制御信号を導線46Aを介して受けることで圧縮コイルばね46aの弾性力に抗して閉じられる。
【0028】
パワーユニット50は、電動モータ66と、電動モータ66の回転軸66aに取り付けられた第1ギア68と、第1ギア68に噛み合う第2ギア70と、第2ギア70に一体的に取り付けられたナット部材72と、このナット部材72に複数のボール(不図示)を介してねじ結合されたねじ軸74と、ねじ軸74に押圧部材76を介して当てられたパワーシリンダ装置78とを有する。なお、符号66A、66Bは、電動モータ66に通電するためにコントロールユニット16と電動モータ66とを接続する導線である。ナット部材72、複数のボール及びねじ軸74は、ボールねじ機構80を構成する。
【0029】
パワーシリンダ装置78は、シリンダ本体82と、シリンダ本体82内に移動自在に挿入されるとともに一端に押圧部材76が当てられたパワーピストン84と、パワーピストン84の他端及びシリンダ本体82の底のそれぞれの間に配置された圧縮コイルばね86とを有し、シリンダ本体82の底にブレーキ配管48が接続されている。
【0030】
第3電磁バルブ52は、通常は圧縮コイルばね52aの弾性力で閉じられており、コントロールユニット16から出力される制御信号を導線52Aを介して受けることで圧縮コイルばね52aの弾性力に抗して開かれる。
【0031】
バイパス配管54及び一方向弁56は、パワーユニット50のシリンダ本体82内に発生したブレーキ液の残圧を逃がすものであり、一方向弁56は、パワーユニット50側からブレーキキャリパ62側へのブレーキ液の流れのみを許容する。第3圧力センサ58は、シリンダ本体82内の液圧を検出するものであり、コントロールユニット16に導線58Aを介して接続されている。
【0032】
コントロールユニット16は、第1圧力センサ38、第2圧力センサ40、及び第3圧力センサ58からの圧力信号、前輪速度センサ64からの前輪速度値に基づいて、第1電磁バルブ32、第2電磁バルブ46、及び第3電磁バルブ52の開閉と、電動モータ66の駆動を制御する。
【0033】
後輪ブレーキ装置14は、基本構成として前輪ブレーキ装置12と同一であるが、ブレーキレバー20に代えてブレーキペダル22、前輪マスターシリンダ24に代えて後輪マスターシリンダ88、リザーバタンク26に代えてリザーバタンク90、ストロークシミュレータ30に代えてストロークシミュレータ92、前輪ディスクブレーキ装置44に代えて後輪ディスクブレーキ装置94、前輪速度センサ64に代えて後輪速度センサ96、導線64Aに代えて導線96Aを設けたものである。後輪ブレーキ装置14の他の構成については、前輪ブレーキ装置12と同一符号を付けている。
【0034】
後輪ディスクブレーキ装置94は、ブレーキディスク98と、ブレーキディスク98を制動するブレーキキャリパ100とを有し、ブレーキキャリパ100は、ブレーキ配管42に接続されている。後輪速度センサ96は、ブレーキディスク98の回転速度を検出することで前輪速度値を求めるためのセンサであり、コントロールユニット16に導線96Aを介して接続されている。
【0035】
ここで、ブレーキ装置10の基本的な動作について説明する。車両が停止している場合には、前輪ブレーキ装置12、及び後輪ブレーキ装置14の第1電磁バルブ32は開状態、第2電磁バルブ46は開状態、第3電磁バルブ52は閉状態である。
【0036】
そして、車両が走行を開始し、後述する推定車体速度値vrが所定の速度値に達すると、コントロールユニット16は、前輪ブレーキ装置12、後輪ブレーキ装置14の第1電磁バルブ32を開状態及び第2電磁バルブ46を閉状態にする。これにより、ブレーキ配管42が遮断されるとともに、前輪マスターシリンダ24とストロークシミュレータ30とが通導する。また、後輪ブレーキ装置14の後輪マスターシリンダ88とストロークシミュレータ92とが導通する。
【0037】
その後、ブレーキレバー20、ブレーキペダル22が操作されると、コントロールユニット16は、前輪ブレーキ装置12及び後輪ブレーキ装置14の第3電磁バルブ52を開状態にする。これにより、前輪ブレーキ装置12のシリンダ本体82とブレーキキャリパ62とが通導し、又、後輪ブレーキ装置14のシリンダ本体82とブレーキキャリパ100とが導通する。この結果、運転手は、前輪ブレーキ装置12及び後輪ブレーキ装置14のストロークシミュレータ30、92によって擬似的に再現されたブレーキ感を前後輪側の両方で感じることが可能となると同時に、パワーユニット50の作動によるシリンダ本体82内の液圧変動は、第2電磁バルブ46が閉状態なので、ライダー側には伝わらない。
【0038】
また、前輪ブレーキ装置12、及び後輪ブレーキ装置14のパワーユニット50の電動モータ66が、ブレーキレバー20、ブレーキペダル22の操作量に応じて制御されて、押圧部材76によりパワーピストン84が押圧されシリンダ本体82を加圧し、加圧された液圧がブレーキキャリパ62、100に供給される。ABS制御を行う場合は、コントロールユニット16は、電動モータ66を制御して、シリンダ本体73内の液圧を減圧、又は昇圧して、適正な制動力を確保する。コントロールユニット16は、後述する前輪のスリップ率、後輪のスリップ率に応じて、前輪のABS及び後輪のABS制御の作動開始時を判定する。そして、前輪のスリップ率が第1閾値以上の場合に前輪のABS制御を行い、後輪のスリップ率が第2閾値以上の場合に後輪のABS制御を行う。
【0039】
図2は、コントロールユニット16の構成を示すブロック図である。コントロールユニット16は、入力部102、CPU104、出力部106、及びメモリ(記録媒体)108を備える。入力部102は、外部からの信号を受ける。入力部102は、前輪速度値取得部110と、後輪速度値取得部112とを有する。前輪速度値取得部110は、前輪ブレーキ装置12に設けられた前輪速度センサ64が検出した前輪速度値fvwを取得して、メモリ108に記録する。後輪速度値取得部112は、後輪ブレーキ装置14に設けられた後輪速度センサ96が検出した後輪速度値rvwを取得してメモリ108に記録する。
【0040】
CPU104は、ブレーキ装置10の各部を制御する。特に、CPU104は、ABS制御を行う。CPU104は、車体速度値推定部114、速度値補正部116、オフセット補正値算出部118、リア推定車体速度値算出部120、フロント推定車体速度値算出部122、前輪スリップ率算出部124、後輪スリップ率算出部126、及びABS制御部128を有する。
【0041】
車体速度値推定部114は、前輪速度値fvw及び後輪速度値rvwから車体の車体速度値(推定車体速度値)vrを推定する。車体速度値推定部114は、推定した車体速度値vrをメモリ108に記録する。
【0042】
速度値補正部116は、後述するオフセット補正値算出部118が前回算出したオフセット値offset1を用いて、後輪速度値rvwを補正して、補正後の後輪速度値rvw2を得る。速度値補正部116は、補正後の後輪速度値rvw2をメモリ108に記録する。
【0043】
オフセット補正値算出部118は、次回の速度値補正部116による速度値補正に用いられるオフセット補正値offset1を算出する。オフセット補正値算出部118は、推定車体速度値vrを用いて、オフセット補正値offset1を算出する。詳しくは、オフセット補正値算出部118は、補正後の後輪速度値rvw2が、推定車体速度値vrの±数%の範囲(一定の範囲)に近づくように、オフセット補正値offset1を算出する。オフセット補正値算出部118は、算出したオフセット補正値offset1をメモリ108に記録する。
【0044】
リア推定車体速度値算出部120は、リア推定車体速度値rvrを算出する。リア推定車体速度値算出部120は、補正後の後輪速度値rvw2と推定車体速度値vrとを用いて、リア推定車体速度値rvrを算出する。リア推定車体速度値算出部120は、算出したリア推定車体速度値rvrをメモリ108に記録する。フロント推定車体速度値算出部122は、フロント推定車体速度値fvrを算出する。フロント推定車体速度値算出部122は、前輪速度値fvwと推定車体速度値vrとを用いて、フロント推定車体速度値fvrを算出する。フロント推定車体速度値算出部122は、算出したフロント推定車体速度値fvrをメモリ108に記録する。
【0045】
前輪スリップ率算出部124は、フロント推定車体速度値fvrと前輪速度値fvwとから前輪のスリップ率を算出する。前輪スリップ率算出部124は、フロント推定車体速度値fvrから前輪速度値fvwを減算して得られた値を、フロント推定車体速度値fvrで割った値に100を乗算して、前輪のスリップ率を算出する。つまり、前輪のスリップ率(%)=(fvr−fvw)/fvr×100、の式から、前輪のスリップ率を算出する。前輪スリップ率算出部124は、算出した前輪のスリップ率をメモリ108に記録する。
【0046】
後輪スリップ率算出部126は、リア推定車体速度値rvrと補正後の後輪速度値rvw2とから後輪のスリップ率を算出する。後輪スリップ率算出部126は、リア推定車体速度値rvrから補正後の後輪速度値rvw2を減算して得られた値を、リア推定車体速度値rvrで割った値に100を乗算して、後輪のスリップ率を算出する。つまり、後輪のスリップ率(%)=(rvr−rvw2)/rvr×100の式から、後輪のスリップ率を算出する。後輪スリップ率算出部126は、算出した後輪のスリップ率をメモリ108に記録する。
【0047】
ABS制御部128は、前輪のスリップ率及び後輪のスリップ率に基づいてABS動作を開始する時期を判定し、ABS動作を開始する場合には、ABS動作を制御する制御信号を生成する。出力部106は、該制御信号を電動モータ66等に出力する。
【0048】
図3は、本実施の形態におけるコントロールユニット16の動作を示すフローチャートである。ステップS1で、前輪速度値取得部110及び後輪速度値取得部112は、前輪ブレーキ装置12の前輪速度センサ64、及び後輪ブレーキ装置14の後輪速度センサ96が検出した前輪速度値fvw及び後輪速度値rvwを取得する。
【0049】
次いで、ステップS2で、車体速度値推定部114は、前輪速度値fvw及び後輪速度値rvwから推定車体速度値vrを推定する。推定車体速度値vrの推定については後で詳しく説明する。
【0050】
次いで、ステップS3で、オフセット補正値算出部118が算出した前回のオフセット補正値offset1を用いて後輪速度値を補正する。具体的には、後輪速度値rvwからオフセット補正値offset1を減算することで、補正後の後輪速度値rvw2を算出する。つまり、rvw2=rvw−offset1の式から、補正後の後輪速度値rvw2を算出する。なお、オフセット補正値offsetが未だ算出されていない場合は、前回のオフセット補正値offset1がないので、前回のオフセット補正値offset1として0を用いる。
【0051】
次いで、ステップS4で、オフセット補正値算出部118は、次回の速度値補正部116による速度値補正に用いられるオフセット補正値offset1を、推定車体速度値vrを用いて算出する。オフセット補正値offsetの算出については後で詳しく説明する。
【0052】
次いで、ステップS5で、リア推定車体速度値算出部120は、補正後の後輪速度値rvw2と推定車体速度値vrとを用いて、リア推定車体速度値rvrを算出する。リア推定車体速度値rvrの算出については後で詳しく説明する。
【0053】
次いで、ステップS6で、フロント推定車体速度値算出部122は、前輪速度値fvwと推定車体速度値vrとを用いて、フロント推定車体速度値fvrを算出する。フロント推定車体速度値fvrの算出については後で詳しく説明する。
【0054】
次いで、ステップS7で、前輪スリップ率算出部124は、フロント推定車体速度値fvrと前輪速度値fvwとから前輪のスリップ率を算出する。前輪スリップ率算出部124は、前輪のスリップ率(%)=(fvr−fvw)/fvr×100の式から、前輪のスリップ率を算出する。
【0055】
次いで、ステップS8で、後輪スリップ率算出部126は、リア推定車体速度値rvrと補正後の後輪速度値rvw2とから後輪のスリップ率を算出する。後輪スリップ率算出部126は、後輪のスリップ率(%)=(rvr−rvw2)/rvr×100の式から、後輪のスリップ率を算出する。
【0056】
次いで、ステップS9で、ABS制御部128は、前輪のスリップ率及び後輪のスリップ率に基づいてABS制御を行う。
【0057】
図4は、図3のステップS2で、車体速度値推定部114が推定車体速度値vrを推定する動作を示すサブフローチャートである。ステップS11で、図3のステップS1で取得した前輪速度値fvw及び後輪速度値rvwのうち、より速い速度値を車体代表値vwmとする。
【0058】
次いで、ステップS12で、車体代表値vwmが前回推定した推定車体速度値vrより大きいか否かを判断する。ステップS12で車体代表値vwmが前回推定した推定車体速度値vrより大きいと判断すると、ステップS13に進み、該取得した前輪速度値fvwが前回推定した推定車体速度値vrより小さいか否かを判断する。
【0059】
ステップS13で、前輪速度値fvwが前回推定した推定車体速度値vrより小さいと判断すると、新たに推定する推定車体速度値vrを前回推定した推定車体速度値vrとする(ステップS14)。つまり、推定車体速度値vr=前回推定した推定車体速度値vr、とする。
【0060】
一方、ステップS13で、前輪速度値fvwが前回推定した推定車体速度値vrより小さくないと判断すると、前回推定した推定車体速度値vrに第1所定値を加算して、新たに推定車体速度vrを推定する(ステップS15)。つまり、推定車体速度値vr=前回推定した推定車体速度値vr+第1所定値、とする。第1所定値は、車体加減速度値に応じた値である。
【0061】
ステップS12で、車体代表値vwmが前回推定した推定車体速度値vrより大きくないと判断すると、推定車体速度値vrを非更新又は更新して新たに推定車体速度値vrを推定する(ステップS16)。具体的には、推定車体速度値vrを非更新しない場合は、新たに推定した推定車体速度値vrとして前回の推定車体速度値vrをそのまま用いる。また、推定車体速度値vrを更新する場合は、前回の推定車体速度値vrから第2所定値を減算した値を新たに推定した推定車体速度値vrとして用いる。また、推定車体速度値vrを更新又は非更新するかどうかの判断は、前輪速度値fvw及び後輪速度値rvwの条件にしたがって行う。この第2所定値は、車体加減速度値に応じた値であり、第1所定値と同じ値であってもよく、第1所定値とは異なる値であってもよい。なお、前回の推定車体速度値vrがない場合、つまり、初めて推定車体速度値vrを推定する場合は、車体代表値vwmを推定車体速度値vrとして用いる。
【0062】
図5及び図6は、推定される推定車体速度値vrの時間的変化を示す図である。なお、図5及び図6は、前輪に予め定められた規定サイズの前輪タイヤが装着されており、後輪に予め定められた規定サイズより系が小さい後輪タイヤが装着されている場合を例にしている。
【0063】
図5は、車体が減速している場合に、推定される推定車体速度値vrの時間的変化を示している。車体の速度値が一定の場合は、前輪速度値fvw及び後輪速度値rvwも一定である。ここで、前後輪ともに規定サイズのタイヤを装着している場合は、前輪速度値fvw及び後輪速度値rvwは同じ値となるが、後輪は規定サイズより径が小さい後輪タイヤを装備しているので、後輪タイヤの回転数が大きくなり、後輪速度値rvwは、前輪速度値fvwより大きくなっている。
【0064】
車体が減速し始め、車体代表値vwmが前回の推定車体速度値vrより小さくなると、ステップS12でNoに分岐して、ステップS16の動作によって、推定車体速度値vrは、後輪速度値rvwに追従するように減少し始める。推定車体速度値vrは、第2所定値ずつ減少する。減速中も、前輪タイヤ及び後輪タイヤがスリップしていない場合は、両者の速度値の差は一定である。
【0065】
図6は、車体が加速している場合に、推定される車体速度値vrの時間的変化を示している。車体が加速し始め、ステップS13で前輪速度値fvwが前回の推定車体速度値vrより小さくないと判断されると、ステップS15の動作によって、推定車体速度値vrは、前輪速度値fvwに追従するように増加し始める。推定車体速度値vrは、第1所定値ずつ増加する。つまり、前回の推定車体速度値vrが前輪速度値fvwより小さくなると(ステップS13でNo)、前回の推定車体速度値vrに第1所定値を加算した値を推定車体速度値vrとして新たに推定する(ステップS15)。また、前回の推定車体速度値vrが前輪速度値fvwより小さくない場合は(ステップS13でYes)、推定車体速度値vrを新たに推定する推定車体速度値vrとしてそのまま用いる(ステップS14)。以上のことから、推定車体速度vrは、原則的に、後輪速度値rvwより前輪速度値fvwに近い値であることがわかる。
【0066】
図7及び図8は、図3のステップS4で、オフセット補正値算出部118がオフセット補正値を算出する動作を示すサブフローチャートである。図7のステップS22で、現在車体が停止している状態が否かを判断する。具体的には、図3のステップS2で推定された推定車体速度値vrが「0」か否かを判断する。
【0067】
次いで、ステップS22で、車体が停止していると判断した場合には、ステップS24に進み、今回のオフセット補正値offsetを、offset=0にする。
【0068】
一方、ステップS22で、車体が停止していないと判断した場合は、ステップS26に進み、ブレーキ操作が行われているか否かを判断する。この判断は、第1圧力センサ38及び第2圧力センサ40が検出した信号に基づいて、ブレーキレバー20、及びブレーキペダル22が操作されている否かに基づく。
【0069】
ステップS26で、ブレーキ操作が行われていると判断すると、図8のステップS28に進み、今回のオフセット補正値offsetとして、前回算出したオフセット補正値(前回のオフセット補正値)offset1を用いる。つまり、offset=offset1とする。そして、ステップS54に進む。
【0070】
一方、ステップS26で、ブレーキ操作が行われていないと判断すると、ステップS30に進み、図3のステップS2で推定された推定車体速度値vrと推定車体速度値上限係数VRLMTUPとを乗算した値が、図3のステップS3で求めた補正後の後輪速度値rvw2より小さいか否かを判断する。つまり、vr×VRLMTUP<rvw2、の関係式が成り立つか否かを判断する。このvr×VRLMTUPは、推定車体速度値vrを+数%増加した値である。
【0071】
ステップS30で、vr×VRLMTUP<rvw2、の関係式が成り立たないと判断した場合は、図8のステップS32に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値下限係数VRLMTDWNとを乗算した値が、補正後の後輪速度値rvw2より大きいか否かを判断する。つまり、vr×VRLMTDWN>rvw2、の関係式が成り立つか否かを判断する。このvr×VRLMTDWNは、推定車体速度値vrを−数%減少した値である。
【0072】
ステップS32で、vr×VRLMTDWN>rvw2、の関係式が成り立たないと判断した場合は、ステップS28に進み、今回のオフセット補正値offsetを、offset=offset1にする。
【0073】
一方、ステップS32で、vr×VRLMTDWN>rvw2、の関係式が成り立つと判断した場合は、ステップS34に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値下限係数VRLMTDWNとを乗算した値から、補正後の後輪速度値rvw2を減算した値が、補正下限リミット値DWNLMTより大きいか否かを判断する。つまり、vr×VRLMTDWN−rvw2>DWNLMT、の関係式が成り立つか否かを判断する。補正下限リミット値DWNLMTは、予め定められた値である。
【0074】
ステップS34で、vr×VRLMTDWN−rvw2>DWNLMT、の関係式が成り立つと判断した場合は、ステップS36に進み、前回のオフセット補正値offset1から補正下限リミット値DWNLMTを減算してオフセット補正値offsetを求める。つまり、offset=offset1−DWNLMTの式から今回のオフセット補正値offsetを求める。
【0075】
次いで、ステップS38で、該求めたオフセット補正値offsetがオフセット補正値offsetのミニマム値MINより小さいか否かを判断する。ステップS38でオフセット補正値offsetがオフセット補正値offsetのミニマム値MINより小さいと判断された場合は、ステップS40に進み、オフセット補正値をミニマム値MINにして、ステップS54に進む。一方、ステップS38でオフセット補正値offsetがミニマム値MINより小さくないと判断された場合は、そのままステップS54に進む。
【0076】
一方、ステップS34で、vr×VRLMTDWN−rvw2>DWNLMT、の関係式が成り立たないと判断した場合は、ステップS42に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値下限係数VRLMTDWNとを乗算した値から補正後の後輪速度値rvw2を減算した値を、前回のオフセット補正値offset1から減算して、今回のオフセット補正値offsetを求める。つまり、今回のoffset=offset1−(vr×VRLMTDWN−rvw2)の式から、オフセット補正値offsetを求める。そして、ステップS54に進む。なお、rvw2=rvw−offset1なので、ステップS42では、offset=rvw−vr×VRLMTDWNの式から、今回のオフセット補正値offsetを求めてもよい。
【0077】
一方、図7のステップS30で、vr×VRLMTUP<rvw2、の関係式が成り立つと判断した場合は、図8のステップS44に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値上限係数VRLMTUPを乗算した値を、補正後の後輪速度値rvw2から減算した値が、補正上限リミット値UPLMTより大きいか否かを判断する。つまり、rvw2−(vr×VRLMTUP)>UPLMT、の関係式が成り立つか否かを判断する。補正上限リミット値UPLMTは、予め定められた値である。
【0078】
ステップS44で、rvw2−(vr×VRLMTUP)>UPLMT、の関係式が成り立つと判断した場合は、ステップS46に進み、前回のオフセット補正値offset1と補正上限リミット値UPLMTとを加算してオフセット補正値offsetを求める。つまり、offset=offset1+UPLMTの式から、今回のオフセット補正値offsetを求める。
【0079】
次いで、ステップS48で、該求めたオフセット補正値offsetがオフセット補正値offsetのマックス値MAXより大きいか否かを判断する。ステップS48でオフセット補正値offsetがオフセット補正値offsetのマックス値MAXより大きいと判断された場合は、ステップS50に進み、オフセット補正値をマックス値MAXにして、ステップS54に進む。一方、ステップS48でオフセット補正値offsetがマックス値MAXより大きくないと判断された場合は、そのままステップS54に進む。
【0080】
一方、ステップS44で、rvw2−(vr×VRLMTUP)>UPLMT、の関係式が成り立たないと判断した場合は、ステップS52に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値上限係数VRLMTUPとを乗算した値を補正後の後輪速度値rvw2から減算した値と、前回のオフセット補正値offset1とを加算して今回のオフセット補正値offsetを求める。つまり、offset=offset1+(rvw2−vr×VRLMTUP)の式から、今回のオフセット補正値offsetを求める。そして、ステップS54に進む。なお、rvw2=rvw−offset1なので、ステップS52では、offset=rvw−vr×VRLMTUPの式から、今回のオフセット補正値offsetを求めてもよい。
【0081】
ステップS54に進むと、算出した今回のオフセット補正値offsetを、前回のオフセット補正値offset1にする。
【0082】
このように、前回のオフセット補正値offset1と、後輪速度値rvwとから補正後の後輪速度値rvw2を求め、該求めた後輪速度値rvw2が、推定車体速度値vrの±数%(推定車体速度値上限係数VRLMTUP及び推定車体速度値下限係数VRLMTDWNによって定まる)増減した値の範囲内に近づくように、オフセット補正値offsetを求める。
【0083】
また、オフセット補正値offsetの補正上限リミット値UPLMTを設ける。そして、補正後の後輪速度値rvw2が推定車体速度値vrを+数%増加した値より大きい場合であって、補正後の後輪速度値rvw2から、推定車体速度値vrを+数%増加した値を減算した値が、補正上限リミット値UPLMTより大きい場合は、今回算出されるオフセット補正値offsetと、前回のオフセット補正値offset1との差の絶対値が補正上限リミット値UPLMTを越えてしまうので、補正上限リミット値UPLMTを越えないように制限する。
【0084】
また、オフセット補正値offsetの補正下限リミット値DWNLMTを設ける。そして、補正後の後輪速度値rvw2が推定車体速度値vrの−数%減少した値より小さい場合であって、推定車体速度値vrを−数%減少した値から補正後の後輪速度値rvw2を減算した値が、補正下限リミット値DWNLMTより大きい場合は、今回算出されるオフセット補正値offsetと、前回のオフセット補正値offset1との差の絶対値が補正下限リミット値DWNLMTを越えてしまうので、補正下限リミット値DWNLMTを越えないように制限する。
【0085】
これにより、補正後の後輪速度値rvw2が推定車体速度値vr×推定車体速度値上限係数VRLMTUPより大きい場合であって、その絶対値の差が補正上限リミット値UPLMTより大きい場合は、オフセット補正値offset1に補正上限リミット値UPLMTが加算されていくので(ステップS42)、rvw2の値は、補正上限リミット値UPLMTずつ減少してvr方向に近づき、ステップS44の動作によって、最終的にrvw2は、推定車体速度値vr×推定車体速度値上限係数VRLMTUPの値に収束する。
【0086】
また、補正後の後輪速度値rvw2が推定車体速度値vr×推定車体速度値加減係数VRLMTDWNより小さい場合であって、その絶対値の差が補正下限リミット値DWNLMTより大きい場合は、オフセット補正値offset1から補正下限リミット値DWNLMTが減算されていくので(ステップS36)、rvw2の値は、補正下限リミット値DWNLMTずつ増加してvr方向に近づき、ステップS38の動作によって、最終的にrvw2は、推定車体速度値vr×推定車体速度値下限係数VRLMTDWNの値に収束する。
【0087】
また、補正後の後輪速度値rvwが、推定車体速度値vr×推定車体速度値上限係数VRLMTUPと推定車体速度値vr×推定車体速度値加減係数VRLMTDWNとの間にある場合は、オフセット補正値offset1は変化しないので、補正後の後輪速度値rvw2は、後輪速度値rvwのみに応じて変化する。このように、後輪速度値rvwが、推定車体速度を±増減した範囲に近づくように、補正して後輪速度値rvw2を得る。
【0088】
図9は、後輪速度値rvw、補正後の後輪速度値rvw2、及びオフセット補正値offset1の時間における変動の一例を示すグラフである。図9Aは、前回のオフセット補正値offset1によって補正された後輪速度値rvw2、補正前の後輪速度値rvw、及び推定車体速度値vrの時間における変動の一例を示すグラフであり、図9Bは、補正後のrvw2によって算出される次回のオフセット補正値offset1の時間における変動の一例を示すグラフである。
【0089】
図9Aの2つの破線のうち、上の破線は、推定車体速度値vr×推定車体速度値上限係数VRLMTUPを示し、下の線は、推定車体速度値vr×推定車体速度値下限係数VTLMTDWNを示す。本実施の形態では、2つの破線で囲まれる範囲を、便宜上、補正目標範囲と呼ぶ。
【0090】
補正後の後輪速度値rvw2が補正目標範囲より低い場合は、オフセット補正値offset1を減少させることで、補正後の後輪速度値rvw2をvr×VRLMTDWNの値に収束させる。このとき、補正後の後輪速度値rvw2が徐々にvr×VRLMTDWNの値に近づくように、つまり、補正後の後輪速度値rvwが瞬時的にvr×VRLMTDWNの値に到達しないように、オフセット補正値offset1の減少量を補正下限リミット値DWNLMTで制限している。そして、補正後の後輪速度値rvw2が補正目標範囲内に入ると、オフセット補正値offset1をキープする。オフセット補正値offset1がキープされると、補正後の後輪速度値rvw2は、後輪速度値rvwのみに応じて変化する。
【0091】
そして、補正後の後輪速度値rvw2が補正目標範囲より高くなると、補正後の後輪速度値rvw2が目標範囲から外れてしまうので、オフセット補正値offset1を増加させることで、補正後の後輪速度値rvw2をvr×VRLMTUPの値に収束させる。このとき、補正後の後輪速度値rvw2が徐々にvr×VRLMTUPの値に近づくように、つまり、補正後の後輪速度値rvwが瞬時的にvr×VRLMTUPの値に到達しないように、オフセット補正値offset1の増加量を補正上限リミット値UPLMTで制限している。この制限するオフセット補正値offset1の増加量及び減少量を調整することで、補正ゲイン(補正スピード)を調整することができる。
【0092】
なお、オフセット補正値offsetの補正上限リミット値UPLMT及び補正下限リミット値DWNLMTを設けないようにしてもよい。この場合は、図7のステップS30で、vr×VRLMTUP<rvw2、の関係式が成り立つと判断すると、図8のステップS52に進む。また、図8のステップS32で、vr×VRLMTDWN>rvw2、の関係式が成り立つと判断すると、ステップS42に進む。この場合は、ステップS34〜ステップS40、及び、ステップS44〜ステップS50の動作は不要となる。
【0093】
また、推定車体速度値上限係数VRLMTUP及び推定車体速度値下限係数VRLMTDWNは、推定車体速度値vrに応じて変化するようにしてもよい。例えば、図10に示すように、推定車体速度値上限係数VRLMTUPは、推定車体速度値vrが大きくなるにつれ増加し、推定車体速度値vrが閾値になるとそれ以上増加しないようにしてもよい。具体的には、1.05〜1.10の間で推定車体速度値上限係数VRLMTUPが変化するようにしてもよい。また、推定車体速度値上限係数VRLMTUPも同様に、推定車体速度値vrが大きくなるにつれ減少し、推定車体速度値vrが前記閾値になるとそれ以上減少しないようにしてもよい。具体的には、0.95〜0.90の間で、推定車体速度値上限係数VRLMTUPが変化するようにしてもよい。
【0094】
図11は、図3のステップS5で、リア推定車体速度値算出部120がリア推定車体速度値rvrを算出する動作を示すサブフローチャートである。ステップS60で、補正後の後輪速度値rvw2が前回算出したリア推定車体速度値(前回のリア推定車体速度値)rvr1より大きいか否かを判断する。なお、リア推定車体速度値rvrが未だ算出されていない場合は、前回のリア推定車体速度値rvr1はないので、図3のステップS2で推定した推定車体速度値vrを前回のリア推定車体速度値rvr1とする。
【0095】
ステップS60で、補正後の後輪速度値rvw2が、前回のリア推定車体速度値rvr1より大きいと判断されると、ステップS62に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値上限係数VRLMTUPとを乗算した値が、前回のリア推定車体速度値rvr1と推定車体速度値加算量GRP_VRとを加算した値より小さいか否かを判断する。つまり、vr×VRLMTUP<rvr1+GRP_VR、の関係式が成り立つか否かを判断する。推定車体速度値加算量GRP_VRは、予め定められた値である。
【0096】
ステップS62で、vr×VRLMTUP<rvr1+GRP_VR、の関係式が成り立つと判断した場合は、ステップS64に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値上限係数VRLMTUPとを乗算して、今回のリア推定車体速度値rvrを算出する。つまり、rvr=vr×VRMLMTUPの式から、今回のリア推定車体速度値rvrを求める。これにより、リア推定車体速度値rvrを、補正後の後輪速度値rvw2と所定の範囲内で一致させることができる。つまり、上述したように、補正後の後輪速度値rvw2が、vr×VRMLMTUPが大きい場合には、補正後の後輪速度値rvw2は、vr×VRMLMTUPに収束するからである。
【0097】
一方、ステップS62で、vr×VRLMTUP<rvr1+GRP_VR、の関係式が成り立たないと判断した場合は、ステップS66に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値下限係数VRLMTDWNとを乗算した値が、前回のリア推定車体速度値rvr1と推定車体速度値加算量GRP_VRとを加算した値より大きいか否かを判断する。つまり、vr×VRLMTDWN>rvr1+GRP_VR、の関係式が成り立つか否かを判断する。
【0098】
ステップS66で、vr×VRLMTDWN>rvr1+GRP_VR、の関係式が成り立つと判断した場合は、ステップS68に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値下限係数VRLMTDWNとを乗算して、今回のリア推定車体速度値rvrを算出する。つまり、rvr=vr×VRLMTDWNの式から、今回のリア推定車体速度値rvrを求める。これにより、リア推定車体速度値rvrを、補正後の後輪速度値rvw2と所定の範囲内で一致させることができる。つまり、上述したように、補正後の後輪速度値rvw2が、vr×VRMLMTUPより小さい場合には、補正後の後輪速度値rvw2は、vr×VRMLMTDWNに収束するからである。
【0099】
一方、ステップS66で、vr×VRLMTDWN>rvr1+GRP_VR、の関係式が成り立たないと判断した場合は、ステップS70に進み、前回のリア推定車体速度値rvr1と推定車体速度値加算量GRP_VRを加算して、今回のリア推定車体速度値rvrを求める。つまり、rvr=rvr1+GRP_VRの式から、今回のリア推定車体速度値rvrを求める。これにより、リア推定車体速度値rvrを、補正後の後輪速度値rvw2と所定の範囲内で一致させることができる。上述したように、補正後の後輪速度値rvw2は、vr×VRMLMTDWNからvr×VRMLMTUPの範囲に近づくようにに補正され、rvrもvr×VRMLMTDWNからvr×VRMLMTUPの範囲内となるからである。
【0100】
ステップS60で、補正後の後輪速度値rvw2が、前回のリア推定車体速度値rvr1より大きくないと判断されると、ステップS72に進み、補正後の後輪速度値rvw2が前回のリア推定車体速度値rvr1より小さいか否かを判断する。
【0101】
ステップS72で、補正後の後輪速度値rvw2が前回のリア推定車体速度値rvr1より小さくないと判断されると、ステップS74に進み、今回のリア推定車体速度値rvrを、rvr=rvr1とする。つまり、前回のリア推定車体速度値rvr1を、今回のリア推定車体速度値rvrとしてそのまま用いる。
【0102】
ステップS72で、補正後の後輪速度値rvw2が前回のリア推定車体速度値rvr1より小さいと判断した場合は、ステップS76に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値上限係数VRLMTUPとを乗算した値が、前回のリア推定車体速度値rvr1から推定車体速度値減算量GRM_VRを減算した値より小さいか否かを判断する。つまり、vr×VRLMTUP<rvr1−GRM_VR、の関係式が成り立つか否かを判断する。推定車体速度値減算量GRM_VRは、予め定められた値である。
【0103】
ステップS76で、vr×VRLMTUP<rvr1−GRM_VR、の関係式が成り立つと判断した場合は、ステップS78に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値上限係数VRLMTUPとを乗算して、今回のリア推定車体速度値rvrを求める。つまり、rvr=vr×VRLMTUPの式から、今回のリア推定車体速度値rvrを求める。これにより、リア推定車体速度値rvrを、補正後の後輪速度値rvw2と所定の範囲内で一致させることができる。
【0104】
一方、ステップS76で、vr×VRLMTUP<rvr1−GRM_VR、の関係式が成り立たないと判断されると、ステップS80に進み、車体推定速度値vrと推定車体速度値下限係数VRLMTDWNとを乗算した値が、前回のリア推定車体速度値rvr1から推定車体速度値減算量GRM_VRを減算した値より大きいか否かを判断する。つまり、vr×VRLMTDWN>rvr1−GRM_VR、の関係式が成り立つか否かを判断する。
【0105】
ステップS80で、vr×VRLMTDWN>rvr1−GRM_VR、の関係式が成り立つと判断されると、ステップS82に進み、車体推定速度値vrと推定車体速度値下限係数VRLMTDWNとを乗算して、今回のリア推定車体速度値rvrを求める。つまり、rvr=vr×VRLMTDWNの式から、今回のリア推定車体速度値rvrを求める。これにより、リア推定車体速度値rvrを、補正後の後輪速度値rvw2と所定の範囲内で一致させることができる。
【0106】
一方、ステップS80で、vr×VRLMTDWN>rvr1−GRM_VR、の関係式が成り立たないと判断されると、ステップS84に進み、前回のリア推定車体速度値rvr1から推定車体速度値減算量GRM_VRを減算して、今回のリア推定車体速度値rvrを求める。つまり、rvr=rvr1−GRM_VRの式から、今回のリア推定車体速度値rvrを求める。これにより、リア推定車体速度値rvrを、補正後の後輪速度値rvw2と所定の範囲内で一致させることができる。上述したように、補正後の後輪速度値rvw2は、vr×VRMLMTDWNからvr×VRMLMTUPの範囲に近づくようにに補正され、rvrもvr×VRMLMTDWNからvr×VRMLMTUPの範囲内となるからである。
【0107】
図12は、図3のステップS6で、フロント推定車体速度値算出部122がフロント推定車体速度値を算出する動作を示すサブフローチャートである。ステップS100で、前輪速度値fvwが前回算出したフロント推定車体速度値(前回のフロント推定車体速度値)fvr1より大きいか否かを判断する。なお、フロント推定車体速度値fvrが未だ算出されていない場合は、前回のフロント推定車体速度値fvr1がないので、図3のステップS2で推定した推定車体速度値vrを前回のフロント推定車体速度値fvrとする。
【0108】
ステップS100で、前輪速度値fvwが前回のフロント推定車体速度値fvr1より大きいと判断されると、ステップS102に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値上限係数VRLMTUPとを乗算した値が、前回のフロント推定車体速度値fvr1と推定車体速度値加算量GRP_VRとを加算した値より小さいか否かを判断する。つまり、vr×VRLMTUP<fvr1+GRP_VR、の関係式が成り立つか否かを判断する。
【0109】
ステップS102で、vr×VRLMTUP<fvr1+GRP_VR、の関係式が成り立つと判断されると、ステップS104に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値上限係数VRLMTUPとを乗算して、今回のフロント推定車体速度値fvrを求める。つまり、fvr=vr×VRLMTUPの式から、今回のフロント推定車体速度値fvrを求める。これにより、フロント推定車体速度値fvrを、前輪速度値fvwと所定の範囲内で一致させることができる。上述したように、原則として、推定車体速度値vrは、後輪速度値rvwより前輪速度値fvwに近い値となるように推定されるからである。
【0110】
一方、ステップS102で、vr×VRLMTUP<fvr1+GRP_VR、の関係式が成り立たないと判断されると、ステップS106に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値下限係数VRLMTDWNとを乗算した値が、前回のフロント推定車体速度値fvr1と推定車体速度値加算量GRP_VRとを加算した値より大きいか否かを判断する。つまり、vr×VRLMTDWN>fvr1+GRP_VR、の関係式が成り立つか否かを判断する。
【0111】
ステップS106で、vr×VRLMTDWN>fvr1+GRP_VR、の関係式が成り立つと判断されると、ステップS108に進み、推定車体速度値vrとVRLMTDWNとを乗算して今回のフロント推定車体速度値fvrを求める。つまり、fvr=vr×VRLMTDWNの式からフロント推定車体速度値fvrを求める。これにより、フロント推定車体速度値fvrを、前輪速度値fvwと所定の範囲内で一致させることができる。上述したように、原則として、推定車体速度値vrは、後輪速度値rvwより前輪速度値fvwに近い値となるように推定されるからである。
【0112】
一方、ステップS106で、vr×VRLMTDWN>fvr1+GRP_VR、の関係式が成り立たないと判断されると、ステップS110に進み、前回のフロント推定車体速度値fvr1と推定車体速度値加算量GRP_VRとを加算して、今回のフロント推定車体速度値fvrを求める。つまり、fvr=fvr1+GRP_VRの式から、今回のフロント推定車体速度値fvrを求める。このように、fvrは、vr×VRMLMTDWNからvr×VRMLMTUPの範囲内となり、上述したように、原則として、推定車体速度値vrは、後輪速度値rvwより前輪速度値fvwに近い値となるように推定されるからである。
【0113】
ステップS100で、前輪速度値fvwが前回のフロント推定車体速度値fvr1より大きくないと判断されると、ステップS112に進み、前輪速度値fvwが前回のフロント推定車体速度値fvr1より小さいか否かを判断する。
【0114】
ステップS112で、前輪速度値fvwが前回のフロント推定車体速度値fvr1より小さくないと判断されると、ステップS114に進み、今回のフロント推定車体速度値fvrを、fvr=fvr1とする。つまり、前回のフロント推定車体速度値fvr1を、今回のフロント推定車体速度値fvrとしてそのまま用いる。
【0115】
一方、ステップS112で、前輪速度値fvwが前回のフロント推定車体速度値frv1より小さいと判断されると、ステップS116に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値上限係数VRLMTUPとを乗算した値が、前回のフロント推定車体速度値fvr1から推定車体速度値減算量GRM_VRを減算した値より小さいか否かを判断する。つまり、vr×VRLMTUP<fvr1−GRM_VR、の関係式が成り立つか否かを判断する。
【0116】
ステップS116で、vr×VRLMTUP<fvr1−GRM_VR、の関係式が成り立つと判断されると、ステップS118に進み、推定車体速度値vr×推定車体速度値上限係数VRLMTUPとを乗算して、今回のフロント推定車体速度値fvrを求める。つまり、fvr=vr×VRLMTUPの式から、今回のフロント推定車体速度値fvrを求める。これにより、フロント推定車体速度値fvrを、前輪速度値fvwと所定の範囲内で一致させることができる。上述したように、原則として、推定車体速度値vrは、後輪速度値rvwより前輪速度値fvwに近い値となるように推定されるからである。
【0117】
一方、ステップS116で、vr×VRLMTUP<fvr1−GRM_VR、の関係式が成り立たないと判断されると、ステップS120に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値下限係数VRLMTDWNとを乗算した値が、前回のフロント推定車体速度値fvr1から推定車体速度値減算量GRM_VRを減算した値より大きいか否かを判断する。つまり、vr×VRLMTDWN>frv1−GRM_VR、の関係式が成り立つか否かを判断する。
【0118】
ステップS120で、vr×VRLMTDWN>frv1−GRM_VR、の関係式が成り立つと判断されると、ステップS122に進み、推定車体速度値vrと推定車体速度値下限係数VRLMTDWNとを乗算して、今回のフロント推定車体速度値係数fvrを求める。つまり、fvr=vr×VRLMTDWNの式から、今回のフロント推定車体速度値fvrを求める。これにより、フロント推定車体速度値fvrを、前輪速度値fvwと所定の範囲内で一致させることができる。上述したように、原則として、推定車体速度値fvrは、後輪速度値rvwより前輪速度値fvwに近い値となるように推定されるからである。
【0119】
一方、ステップS120で、vr×VRLMTDWN>frv1−GRM_VR、の関係式が成り立たないと判断されると、ステップS124に進み、前回のフロント推定車体速度値fvr1から推定車体速度値減算量GRM_VRを減算して、今回のフロント推定車体速度値fvrを求める。つまり、fvr=fvr1−GRM_VRの式から、今回のフロント推定車体速度値fvrを求める。このように、fvrは、vr×VRMLMTDWNからvr×VRMLMTUPの範囲内となり、上述したように、原則として、推定車体速度値vrは、後輪速度値rvwより前輪速度値fvwに近い値となるように推定されるからである。このように、フロント推定車体速度値fvrと前輪速度値fvwとは互いに近い値なので、前輪のスリップ率を検出できるタイミングを従来よりも早くすることができる。
【0120】
図13は、後輪のABS制御が行われるタイミングを示すタイムチャート図である。図13では、前輪には、予め定められた規定サイズの前輪タイヤが装着されており、後輪には、予め定められた規定サイズより系が小さい後輪タイヤが装着されている場合を例にしている。ブレーキ操作が行われるタイミングt1が経過するまでは、補正後の後輪速度値rvr2及びリア推定車体速度値rvrは、推定車体速度値vr×推定車体速度値上限係数VRLMTUPとする。
【0121】
前輪及び後輪がスリップせずに車体が一定の速度値で走っている場合は、前輪速度値fvw、後輪速度値rvw、補正後の後輪速度値rvw2、リア推定車体速度値rvrは一定の速度値となっている。このとき、補正後の後輪速度値rvw2は、後輪速度値rvwよりオフセット補正値offset1分小さい速度値となっている。
【0122】
ブレーキがかけられると(タイミングt1を経過すると)、後輪速度値rvwは減少していく。また、ブレーキがかけられている状態では、オフセット補正値offset1は更新されないので(図8のステップS28)、補正後の後輪速度値rvw2は、後輪速度値rvwと平行して減少していく。
【0123】
ブレーキがかけられても、推定車体速度値vrは、後輪速度値rvwが推定車体速度値vr以下になるまでは更新されずに一定の値を保ち続ける(図5参照)。また、ブレーキがかけられると、補正後の後輪速度値rvw2は、前回のリア推定車体速度値rvr1より小さくなり(図11のステップS72)、ステップS76及びステップS80でNoに分岐し、リア推定車体速度値rvrは、前回のリア推定車体速度値rvr1から推定車体速度値減算量GRM_VRを減算した値となる(ステップS84)。推定車体速度値vr×推定車体速度値下限係数VRLMTDWNが、前回のリア推定車体速度値rvr1から推定車体速度値減算量GRM_VRを減算した値より大きくなるまで、リア推定車体速度値rvrは、推定車体速度値減算量GRM_VRずつ減少していき、最終的に、リア推定車体速度値rvrは、推定車体速度値vr×推定車体速度値下限係数VRLMTDWNとなる(ステップS82)。タイミングt2は、このリア推定車体速度値rvrが、推定車体速度値vr×推定車体速度値下限係数VRLMTDWNとなったときのタイミングを示している。
【0124】
タイミングt3は、リア推定車体速度値rvrより大きかった補正後の後輪速度値rvw2が、該リア推定車体速度値rvrと一致したときのタイミングを示している。タイミングt3を境に、補正後の後輪速度値rvw2は、リア推定車体速度値rvrより小さくなり、後輪のスリップ率を検出することができる。後輪のスリップ率が第2閾値以上となると後輪がスリップしていると判断して、ABS制御を行うことができる。
【0125】
タイミングt4は、推定車体速度値vrより大きかった後輪速度値rvwが、該推定車体速度値vrと一致したときのタイミングを示している。タイミングt4は、タイミングt3より遅いタイミングであることがわかる。従来は、後輪速度値rvwと推定車体速度vrに基づいて、スリップ率を検出していたので、タイミングt4以降にならないと後輪のスリップ率を検出することができなかった。
【0126】
つまり、後輪に規定サイズと異なるサイズの後輪タイヤを装着した場合に、従来では、タイミングt4以降でしかスリップ率を検出できなかったのに対し、本実施の形態では、タイミングt4より早いタイミングt3以降でスリップ率を検出することができので、ABS制御が遅れることなく、ABS制御精度が低下することを防止することができる。なお、ABS制御を行うタイミングは、前記第2閾値の値によって定まる。
【0127】
このように、本実施の形態では、後輪速度値rvwが、推定車体速度値vrを基準とした一定の範囲外にある場合は、前記一定の範囲に近づくように、後輪速度値rvwを補正するので、規定サイズとことなるサイズの後輪タイヤを後輪に装着した場合であっても、スリップ率を検出できるタイミングを従来よりも早くすることができ、適切にABS制御を行うことが可能となる。
【0128】
また、推定車体速度値(vr)から、該推定車体速度値(vr)を基準とした前記一定の範囲内にあるリア推定車体速度値(rvr)を算出することで、補正後の後輪速度値(rvw2)及びリア推定車体速度値(rvr)は、従来の後輪速度値(rvw)及び推定車体速度値(vr)より互いに近づいた値となるなので、補正後の後輪速度値(rvw2)及びリア推定車体速度値(rvr)からスリップ率を検出できるタイミングを従来よりも早くすることができる。
【0129】
なお、上記実施の形態は、以下のような態様に変形してもよい。
【0130】
(1)後輪速度値rvwを補正するようにしたが、同様に、前輪速度値fvwを補正して、補正後の前輪速度値fvw2を求めるようにしてもよい。この場合は、補正後の前輪速度値fvw2とフロント推定車体速度fvrとから前輪のスリップ率を求めて、前輪のABS制御を行う。
【0131】
(2)フロント推定車体速度fvr及びリア推定車体速度rvrを求め、該求めたフロント推定車体速度fvr及びリア推定車体速度rvrを用いて、前輪及び後輪のスリップ率を算出するようにしたが、フロント推定車体速度fvr及び(又は)リア推定車体速度rvrを算出しなくてもよい。この場合は、補正後の後輪速度値rvw2と推定車体速度値vrとから後輪のスリップ率を算出する。また、前輪速度値fvrと推定車体速度値vrとから前輪のスリップ率を算出する。この場合でも、従来よりもスリップ率の検出を早く行うことができるからである。
【0132】
(3)上記変形例(1)及び(2)を組み合わせた態様であってもよい。
【0133】
以上、本発明について好適な実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。また、特許請求の範囲に記載された括弧書きの符号は、本発明の理解の容易化のために添付図面中の符号に倣って付したものであり、本発明がその符号をつけた要素に限定して解釈されるものではない。なお、括弧書きの符号は、本発明の理解の容易化のために添付図面中の符号に倣って付したものであり、本発明がその符号をつけた要素に限定して解釈されるものではない。
【符号の説明】
【0134】
10…ブレーキ装置 12…前輪ブレーキ装置
14…後輪ブレーキ装置 16…コントロールユニット
20…ブレーキレバー 22…ブレーキペダル
30、92…ストロークシミュレータ 38…第1圧力センサ
40…第2圧力センサ 50…パワーユニット
58…第3圧力センサ 62、100…ブレーキキャリパ
64…前輪速度センサ 66…電動モータ
78…パワーシリンダ装置 96…後輪速度センサ
102…入力部 104…CPU
106…出力部 110…前輪速度値取得部
112…後輪速度値取得部 114…車体速度値推定部
116…速度値補正部 118…オフセット補正値算出部
120…リア推定車体速度値算出部 122…フロント推定車体速度値算出部
124…前輪スリップ率算出部 126…後輪スリップ率算出部
128…ABS制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前輪速度値(fvw)を取得する前輪速度値取得部(110)と、
前記車体の後輪速度値(rvw)を取得する後輪速度値取得部(112)と、
前記前輪速度値(fvw)及び前記後輪速度値(rvw)から前記車体の推定車体速度値(vr)を推定する車体速度値推定部(114)と、
前記前輪速度値(fvw)又は後輪速度値(rvw)が、前記推定車体速度値(vr)を基準とした一定の範囲に近づくように、前記前輪速度値(fvw)又は前記後輪速度値(rvw)を補正する速度値補正部(116)と、
前記前輪速度値(fvw、fvw2)又は補正された前記後輪速度値(rvw2)と、前記推定車体速度値(vr)とを用いて前輪又は後輪のスリップ率を算出するスリップ率算出部(124、126)と、
前記前輪又は前記後輪の前記スリップ率を判定してABS制御を行うABS制御部(128)と、
を備えることを特徴とするABS制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のABS制御装置であって、
前記推定車体速度値(vr)から、該推定車体速度値(vr)を基準とした前記一定の範囲内にあるリア推定車体速度値(rvr)を算出するリア推定車体速度値算出部(120)を備え、
前記スリップ率算出部(126)は、前記補正された後輪速度値(rvw2)と、前記リア推定車体速度値(rvr)とから前記後輪の前記スリップ率を算出することを特徴とするABS制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のABS制御装置であって、
前記推定車体速度値(vr)から、該推定車体速度値(vr)を基準とした前記一定の範囲内にあるフロント推定車体速度値(fvr)を算出するフロント推定車体速度値算出部(122)を備え、
前記スリップ率算出部(126)は、前記前輪速度値(fvw)又は前記補正された前輪速度値(fvw2)と、前記フロント推定車体速度値(fvr)とから前記前輪の前記スリップ率を算出することを特徴とするABS制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のABS制御装置にあって、
前記前輪速度値(fvw)又は後輪速度値(rvw)が、前記推定車体速度値(vr)を基準とした前記一定の範囲に近づくように、オフセット補正値を算出するオフセット補正値算出部(118)を備え、
前記速度値補正部(116)は、前記オフセット補正値を用いて、前記前輪速度値(fvw)又は前記後輪速度値(rvw)を補正することを特徴とするABS制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のABS制御装置であって、
前記オフセット補正値算出部(118)は、算出する前記オフセット補正値が、前回算出した前記オフセット補正値より補正上限リミット値以上大きい場合は、前回算出した前記オフセット補正値と前記補正上限リミット値とを加算した値に制限し、算出する前記オフセット補正値が、前回算出した前記オフセット補正値より補正下限リミット値以下小さい場合は、前回算出した前記オフセット補正値から前記補正下限リミット値を減算した値に制限することを特徴とするABS制御装置。
【請求項6】
コンピュータを、
車体の前輪速度値(fvw)を取得する前輪速度値取得部(110)、
前記車体の後輪速度値(rvw)を取得する後輪速度値取得部(112)、
前記前輪速度値(fvw)及び前記後輪速度値(rvw)から前記車体の推定車体速度値(vr)を推定する車体速度値推定部(114)、
前記前輪速度値(fvw)又は後輪速度値(rvw)が、前記推定車体速度値(vr)を基準とした一定の範囲に近づくように、前記前輪速度値(fvw)又は前記後輪速度値(rvw)を補正する速度値補正部(116)、
前記前輪速度値(fvw、fvw2)又は補正された前記後輪速度値(rvw2)と、前記推定車体速度値(vr)とを用いて前輪又は後輪のスリップ率を算出するスリップ率算出部(124、126)、
前記前輪又は前記後輪の前記スリップ率を判定してABS制御を行うABS制御部(128)、
として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−131656(P2011−131656A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291471(P2009−291471)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】