説明

ALC埋設アンカー金具、ALCパネルおよびALCパネルの取付構造

【課題】補強鉄筋マットの移動や、梁や柱の撓みなどによって取付位置がずれても、構造物の強度を低下させることなく、適確にALCパネルを建築物躯体に取り付けることができるアンカー金具、該アンカー金具を用いたALCパネル、および該ALCパネルを用いたALCパネルの取付構造を提供する。
【解決手段】ALCパネルに埋設され、パネル取付用ボルト(5)と共に使用してALCパネルを建築物躯体に固定するためのアンカー金具(1)であって、長さ方向に伸長する略長方形の開口部(3)が形成された室内側面を有する略筒状の本体を有し、該本体の内部を開口部(3)に沿ってスライド可能であり、かつ、パネル取付用ボルト(5)が螺合するスライドナット(6)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ALCパネルに埋設され、該ALCパネルを建築物躯体に固定するアンカー金具、該アンカー金具を用いたALCパネル、および該ALCパネルを用いたALCパネルの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ALCパネルを建築物躯体に取り付けて外壁を構成する場合、施工現場にて、各ALCパネルは、次の手順で建築物躯体に取り付けられる。先ず、ALCパネルの小口面に長穴を形成し、長穴にアンカー金具を挿入する。次に、ALCパネルの室内側パネル面から、長穴と直交するボルト挿入穴を形成する。そして、アンカー金具にパネル取付用ボルトをネジ止めし、専用金物を用いて、パネル取付用ボルトを建築物躯体に取り付けている。
【0003】
また、高耐力が必要とされる場合には、アンカー金具が補強鉄筋に固定された状態で埋設されたALCパネルが用いられる。このアンカー金具埋設ALCパネルを用いる場合、施工現場において、ALCパネルの室内側パネル面からアンカー金具に係合するボルトを挿入するためのボルト挿入穴を形成し、次いで、アンカー金具のナットにパネル取付用ボルトをネジ止めし、最後に、専用金物を用いてパネル取付用ボルトを建築物躯体に取り付けている。
【0004】
このようにして埋設されるアンカー金具には、種々の形状のものがあるが、例えば、図3に示すように、水平部と垂直部を有する断面L字状の金物(18)にロングナット(19)を固定して一体化したアンカー金具や、図4に示すように、平鋼板製プレート(20)の中心に起立するようにロングナット(19)を固定して一体化したアンカー金具がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このようなアンカー金具は、補強鉄筋を籠状に組み立てて構成される鉄筋籠の複数の補強鉄筋に溶接により固定され、当該鉄筋籠と一緒にALCパネルに埋設される。
【0006】
従来のアンカー金具は、ロングナット(19)を使用しているが、ロングナット(19)自体が高価であるという問題がある。また、ロングナット(19)をアンカー金具本体に固定する場合に溶接を行うため、アンカー金具の組立作業が煩雑になり、手間を含めたアンカー金具のコストはさらに高価になるという問題がある。
【0007】
また、従来のアンカー金具埋設ALCパネルは、建築物躯体に取り付けられる際に、鉄骨の梁や柱に予め設けられた定規アングルに、アンカー金具のロングナット(19)とZ型形状の専用金物とをパネル取付用ボルトで固定し、該専用金物を定規アングルに溶接して固定することが行われている。
【0008】
一般に、鉄骨の梁や柱は、撓みや傾きにより設計通りの位置に施工されないケースが多く、実際の位置と設計上での位置とのズレは、数十mmに及ぶ場合があった。このような場合、ロングナット(19)の位置を変更することができないので、専用金物に設けられた長穴により該ズレを吸収している。
【0009】
しかし、アンカー金具埋設ALCパネルでは、ALCパネル製造時に発生する補強鉄筋の位置の誤差も必ず発生するため、長穴のみでの吸収が困難な場合がある。このような想定以上の梁や柱のズレに対応するためには、補強鉄筋に溶接で固定されているアンカー金具の位置の誤差をも専用金物で吸収できるように、専用金物に設けられている長穴をさらに大きくする必要がある。
【0010】
従って、このようなアンカー金具埋設ALCパネルを用いる場合には、長穴を大きくするために、専用金物を大型化するか、または、鉄骨の梁や柱の施工およびALCパネル製造における管理を強化する必要があり、コストが増加する。
【0011】
さらに、アンカー金具のロングナット(19)の位置に合わせて、建築物躯体へALCパネルの取付けを行う場合、専用金物の梁や柱への引っ掛り長さが、設計値より小さくなる場合があり、その結果、ALCパネルを用いた壁構造に強度上の問題が生じうる。
【特許文献1】特公平6−33642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、補強鉄筋マットの移動や、梁や柱の撓みなどによって取付位置がずれても、構造物の強度を低下させることなく、適確にALCパネルを建築物躯体に取り付けることができるアンカー金具、該アンカー金具を用いたALCパネル、および該ALCパネルを用いたALCパネルの取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のアンカー金具は、ALCパネルに埋設され、パネル取付用ボルトと共に使用してALCパネルを建築物躯体に固定するためのアンカー金具であって、長さ方向に伸長する略長方形の開口部が形成された室内側面を有する略筒状の本体を有し、該本体の内部を前記開口部に沿ってスライド可能であり、かつ、前記パネル取付用ボルトが螺合するスライドナットが設けられている。
【0014】
また、別の面から述べれば、本発明のアンカー金具は、ALCパネルに埋設され、パネル取付用ボルトと共に使用してALCパネルを建築物躯体に固定するためのアンカー金具であって、長さ方向に伸長する略長方形の開口部が形成された室内側面を有する略筒状の本体と、該本体の内部を前記開口部に沿ってスライドさせるためのスライド部が形成され、かつ、前記パネル取付用ボルトが螺合するスライドナットと、前記略筒状の本体の内側に形成され、前記スライドナットが係合してスライドするガイド部と、を有する。
【0015】
本発明のALCパネルは、複数の補強鉄筋が埋設され、上記のアンカー金具が、2本以上の補強鉄筋に跨るように、該補強鉄筋に固定され、埋設されている。
【0016】
上記アンカー金具は、前記略長方形の開口部の長さ方向がALCパネルの長さ方向と一致するように埋設されていることが好ましい。
【0017】
本発明のALCパネルの取付構造は、上記のALCパネルの前記開口部に対応する任意の位置に、該ALCパネルの室内側パネル面から該開口部までボルト挿入穴が形成され、該挿入穴に挿入された前記パネル取付用ボルトが前記アンカー金具の前記スライドナットと係合している。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、補強鉄筋マットの移動や、鉄骨梁や柱の撓みなどによって、ALCパネルの取付位置がずれた場合でも、該位置ズレがアンカー金具の開口部の長さ方向の許容範囲にあれば、従来通りの施工性と高耐力を確保したまま、位置ズレを吸収して、使い勝手よく、ALCパネルを建築物躯体に取り付けることができる。そのため、コスト面および施工面において、ALCパネルを用いた建築物の外壁の施工に大きく貢献しうる。また、汎用品のボルトを用いることができ、コスト面および部品の入手性において優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明のALCパネルの取付構造の一実施形態を示す断面図で示す。図2に、本発明のアンカー金具の一実施形態を示す三面図である。
【0020】
[アンカー金具]
先ず、アンカー金具について説明する。一実施形態におけるアンカー金具(1)は、断面長方形の筒状の本体からなり、鋼製であり、断面の外枠形状が23×33mm、枠の肉厚が1.6mm、該金具の長さが150mmである。
【0021】
なお、本体の形状はこれに限られず、断面円形や断面半円の筒状の形態を採ることもでき、また、室外側に配される面を省略して、金属板を屈曲させて断面コ字形状に形成した形態を採ることもできる。本明細書では、これらの形状を総称して略筒状と言う。
【0022】
アンカー金具(1)の室内側には、室内側面である平面状の面(2)が形成される。この一実施形態では、この面(2)の幅方向中央には、その長さ方向に伸長する略長方形(13×60mm)の開口部(3)が形成されている。この開口部(3)もパネル取付用ボルト(5)の取付位置が長さ方向に移動できればよく、長さ方向の端部が円形状に加工してあってもよい。
【0023】
この平面状の面(2)を含む略筒状の本体の内側には、その長さ方向に沿って一対のレールからなるガイド部(11)が形成されている。このガイド部(11)に沿ってスライドナット(6)は、本体の内部を開口部(3)に沿ってスライド可能である。スライドナット(6)は、内部で空回りしない寸法にされる。また、スライドナット(6)をガイド部(11)にスライド可能に保持させるために、スライドナット(6)には、フランジ状のスライド部(12)が形成されている。
【0024】
図示した実施形態では、スライドナット(6)を挿入する断面の幅Hを19.0mmとして、スライドナット(6)には、鋼製のM12の六角ナットを使用している。このようにすると、スライドナット(6)の最小幅が幅Hより小さい17.6mmであり、最大幅が幅Hより大きい19.5mmであることから、内部で空回りしないという関係が得られる。そして、このスライドナット(6)は、六角形の対向する面をアンカー金具(1)の側面と平行にすると、開放端(10)からアンカー金具(1)内に挿入することができ、かつ、ガイド部(11)に沿って移動させることができる。
【0025】
ガイド部(11)の厚さは1.6mmとし、面(2)とガイド部(11)との隙間は、スライドナット(6)のスライド部(12)の厚さより大きい1.5mmとする。
【0026】
また、スライドナット(6)が自由状態で移動しないように、スライド部(12)が弾性変形した状態でガイド部(11)と係合するように、スライド部(12)の寸法を選定した。より具体的には、スライドナット(6)の本体部とスライド部(12)とで、ガイド部(11)を挟持することができるように、スライド部(12)の形成位置を決定し、またスライド部(12)の厚さは、弾性変形可能な厚さ、具体的には0.6mmとした。
【0027】
[アンカー金具埋設ALCパネル]
次に、スライドナット(6)を挿入したアンカー金具(1)を補強鉄筋(7)と共にALC母材に埋設して、ALCパネルを製造する方法について説明する。
【0028】
複数の補強鉄筋(7)を、長手方向および幅方向に交差するように並べ、交差部を溶接することにより格子状の鉄筋マットを製作し、2枚の鉄筋マットを、所定の間隔を置いて並行させた状態でスペーサを用いて連結して、鉄筋籠を作製する。
【0029】
この際、先ず、アンカー金具(1)の開口部(3)が形成された面と反対側の面(室外側面)が、ALCパネルの幅方向に伸びる室外側の2本の補強鉄筋(9)に当接して跨るように、アンカー金具(1)を配置する。次いで、該アンカー金具(1)と補強鉄筋(9)との当接部を溶接し、アンカー金具(1)を補強鉄筋(9)に固定する。
【0030】
一実施形態では、補強鉄筋(9)同士の間隔は、125mmとし、アンカー金具(1)が上側に15mm、下側に10mm突出するようにして固定する。また、アンカー金具(1)の開放端(10)およびボルト取付面(室内側面)に設けられた長方形の開口部(3)には、それぞれの形状に合わせてシール材を貼り合わせておき、後述するALCスラリーがアンカー金具(1)の内部へ流れ込むことを防止する。
【0031】
その後、型枠内にアンカー金具(1)が固定された鉄筋籠を、複数セットした後、ALCスラリーを注入して、アンカー金具(1)が固定された補強鉄筋マットをALC母材に埋設する。ALC母材が半硬化してから、ALC母材を所定の厚さに切断し、さらに、オートクレーブ養生することにより、図1に示すようなALCパネルを得る。アンカー金具(1)に貼り合わせたシール材は、前述のオートクレーブ養生の間に溶解し、アンカー金具(1)の内部には空洞が形成される。
【0032】
なお、必要に応じて、ALCパネルの幅方向の位置ズレを主に吸収する必要がある場合に用いられるALCパネルでは、アンカー金具(1)を、ALCパネルの幅方向に沿って配置するように埋設してもよい。この場合、アンカー金具(1)をALCパネルの長さ方向に沿って配置された室外側の2本の補強鉄筋(7)に跨るように固定すればよい。
【0033】
[ALCパネルの取付け]
アンカー金具(1)が埋設されたALCパネルを建築物躯体に取り付ける手法について説明する。
【0034】
以上のように作製されたALCパネルに対して、先ず、室内側のパネル面から内部に備えられたアンカー金具(1)に達するまで、φ24mmのボルト挿入穴(13)を形成する(図1参照)。すると、パネル取付用ボルト(5)を挿入するためのアンカー金具(1)の開口部(3)が露出する。次に、スライドナット(6)と螺合可能な汎用のパネル取付用ボルト(5)の先端を金物(15)およびボルト挿入穴(13)に挿入させた後、長方形の開口部(3)からスライドナット(6)に回し入れて、パネル取付用ボルト(5)をスライドナット(6)に締着させて、ALCパネルを建築物躯体に固定する。
【0035】
この際、建築物躯体である梁や柱の撓みなどにより、ALCパネルの取付位置が、実際の位置と設計上での位置とで、長さ方向に大きくずれる場合(例えば、数十mm程度)がある。しかし、本実施形態のアンカー金具(1)には長尺状の開口部(3)が形成されている上、スライドナット(6)は開口部(3)に沿ってスライド可能であるので、パネル取付用ボルト(5)を確実にスライドナット(6)に螺合することができる。
【0036】
上述した実施形態では、補強鉄筋マットの移動や、鉄骨梁や柱の撓みなどによって、ALCパネルの取付位置がずれた場合でも、該位置ズレがアンカー金具(1)の開口部(3)の長さ方向の許容範囲にあれば、従来通りの施工性と高耐力を確保したまま、位置ズレを吸収して、使い勝手よく、ALCパネルを建築物躯体に取り付けることができるため、コスト面および施工面において、ALCパネルを用いた建築物の外壁の施工に大きく貢献しうる。また、汎用品のパネル取付用ボルト(5)を用いることができ、コスト面および部品の入手性において優れたものとなる。
【0037】
以上、本発明を説明してきたが、本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、その本質を逸脱しない範囲で、種々の変形が可能であることは言うまでもない。
上述した実施形態では、スライドナット(6)として、スライド部(12)が形成されたナットを用いた形態について説明したが、スライド部の形成されていないナットをアンカー金具(1)に内挿してもよい。この場合、ガイド部11を形成する必要がない。ただし、安定した状態で適度な摺動抵抗を有しながらスムーズにスライドするように、ナットの寸法を決定する必要がある。
【0038】
また、上述した実施形態では、スライドナット(6)を六角ナットとした例について説明したが、四角形、楕円形その他の形状のナットであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のALCパネルの一実施形態を建築物躯体に取り付けた形態を示す断面図である。
【図2】本発明のアンカー金具の一実施形態を示す三面図である。
【図3】従来のALCパネル用のアンカー金具を示す三面図である。
【図4】従来のALCパネル用のアンカー金具を示す三面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 アンカー金具
2 面
3 開口部
5 パネル取付用ボルト
6 スライドナット
7 補強鉄筋
9 幅方向に伸びる室外側の補強鉄筋
10 開放端
11 ガイド部
12 スライド部
13 ボルト挿入穴
15 金物
18 断面L字状の金物
19 ロングナット
20 平鋼板製プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ALCパネルに埋設され、パネル取付用ボルトと共に使用してALCパネルを建築物躯体に固定するためのアンカー金具であって、
長さ方向に伸長する略長方形の開口部が形成された室内側面を有する略筒状の本体を有し、
該本体の内部を前記開口部に沿ってスライド可能であり、かつ、前記パネル取付用ボルトが螺合するスライドナットが設けられていることを特徴とするアンカー金具。
【請求項2】
ALCパネルに埋設され、パネル取付用ボルトと共に使用してALCパネルを建築物躯体に固定するためのアンカー金具であって、
長さ方向に伸長する略長方形の開口部が形成された室内側面を有する略筒状の本体と、
該本体の内部を前記開口部に沿ってスライドさせるためのスライド部が形成され、かつ、前記パネル取付用ボルトが螺合するスライドナットと、
前記略筒状の本体の内側に形成され、前記スライドナットが係合してスライドするガイド部と、
を有することを特徴とするアンカー金具。
【請求項3】
複数の補強鉄筋が埋設され、請求項1または2に記載のアンカー金具が、2本以上の補強鉄筋に跨るように、該補強鉄筋に固定され、埋設されているALCパネル。
【請求項4】
前記略長方形の開口部の長さ方向が、ALCパネルの長さ方向と一致するように、アンカー金具が埋設されている請求項3に記載のALCパネル。
【請求項5】
請求項3または4に記載のALCパネルの前記開口部に対応する任意の位置に、該ALCパネルの室内側パネル面から該開口部までボルト挿入穴が形成され、該挿入穴に挿入された前記パネル取付用ボルトが前記アンカー金具の前記スライドナットと係合しているALCパネルの取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−274651(P2008−274651A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119660(P2007−119660)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】