説明

DLC皮膜容器の製造装置、DLC皮膜容器及びDLC皮膜容器の製造方法

【課題】 真空設備を用いずにDLC膜の成膜処理を行うものであって、製造装置の構成の簡略化、安全管理の容易さ及びDLC皮膜容器に係る生産効率の向上を実現するDLC皮膜容器の製造装置、DLC皮膜容器及びDLC皮膜容器の製造方法を提供する。
【解決手段】 DLC皮膜容器の製造装置は、プラスチック容器Bを収容し、そのプラスチック容器B表面にDLC膜を成膜するチャンバ10と、そのチャンバ10内に設けられた電極に電圧を印加する電源部20と、上記チャンバ10内に窒素ガスを給気してガス置換を行った後に、DLC膜の原料となる原料ガスを供給するガス供給排出部30とを有して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DLC皮膜容器の製造装置、DLC皮膜容器及びDLC皮膜容器の製造方法に関し、特に、大気圧下におけるDLC膜の成膜に係るDLC皮膜容器の製造装置、DLC皮膜容器及びDLC皮膜容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で加工が容易であるという理由から、プラスチック容器が様々な用途で用いられており、それら各用途において要求される特性を備えたものが適宜選択されて用いられている。
例えば、薬品等のように、ガスバリア性や耐薬品性等といった内容物品質保持機能が高いレベルで要求されるものもある。
このような内容物品質保持機能の要求に応えて、包装容器業界では、ガスバリア性、耐薬品性に優れた多層成形容器のニーズが高くなっている。しかしながら、多層成形容器を製造するには、複数多種の合成樹脂が必要となるとともに、成形加工法も単層容器に比して複雑になるという問題がある。
【0003】
そのような問題を解決するものとして、DLC(Diamond Like Carbon)皮膜容器が提案されている。
このDLC皮膜容器は、多層の樹脂を重ねて成形するものではなく、プラスチック容器の内外表面にメタンなどの原料ガスを蒸着させて、炭素や水素からなるDLC膜を成膜するというものである。このように容器表面にDLC膜を成膜させることにより、容器のガスバリア性及び耐薬品性等を著しく向上させることが可能となっている。
【0004】
そのDLC皮膜容器に関する従来技術の1つとして、特許文献1が開示するところのDLC膜コーティングプラスチック容器及びその製造装置が提案されている。
このDLC膜コーティングプラスチック容器及びその製造装置は、プラスチック容器がセットされた減圧室内を所定の真空度まで減圧した後にDLC膜の原料ガスを導入し、その減圧室内でプラズマ放電を発生させることにより、その減圧室内にセットしたプラスチック容器の表面にDLC膜を成膜するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2003/101847号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1におけるDLC膜コーティングプラスチック容器及びその製造装置では、DLC膜を成膜するために、所定の真空度まで減圧可能な減圧室内を設ける必要があり、装置全体の構成が複雑化するとともに、真空の取り扱いについても高度な安全管理技術が必要となるという問題が生じる。
さらに、各プラスチック容器1個に成膜処理を行うごとに、「減圧→大気圧に戻す」という工程が必要となることから、成膜に莫大な時間を要し、十分な生産効率が得られないという問題も生じる。このことが大量生産を行う際の障壁となる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、真空設備を用いずにDLC膜の成膜処理を行うものであって、製造装置の構成の簡略化、安全管理の容易さ及びDLC皮膜容器に係る生産効率の向上を実現するDLC皮膜容器の製造装置、DLC皮膜容器及びDLC皮膜容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明は、炭化水素又は炭素の同素体による非晶質の硬質膜であるDLC膜を、一部が開口したプラスチック容器の表面に成膜したDLC皮膜容器を製造する装置であって、プラスチック容器を収容するチャンバと、チャンバ内に窒素ガスを供給する窒素ガス供給部と、窒素ガス供給部により窒素ガスが供給されたチャンバ内に、DLC膜の原料となる原料ガスを供給する原料ガス供給部と、原料ガス供給部により原料ガスが供給されたチャンバ内において、大気圧下でプラズマ放電を発生させるために電圧を印加する電源部とを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明におけるDLC皮膜容器の製造装置において、そのチャンバは、当該チャンバの壁部の一部を形成し、プラスチック容器の外側に配置される外部電極と、プラスチック容器の開口部内に配置される棒状の内部電極とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明におけるDLC皮膜容器の製造装置において、その電源部は、交流電圧を印加する交流電源と、正負いずれかの電圧値が断続的に進行するパルス状電圧を生成するパルス発信部と、交流電源による交流電圧にパルス発信部により生成されたパルス状電圧を重畳する重畳部とを有し、重畳部により重畳され生成された電圧は、外部電極及び内部電極のいずれか一方に接続されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明におけるDLC皮膜容器の製造装置において、そのパルス発振部は、−3.5kV〜−8.0kVのパルス状電圧を生成し、重畳部は、外部電極及び内部電極のいずれか一方に0.1kV〜1.0kVの重畳した電圧を印加することを特徴とする。
【0012】
また、本発明におけるDLC皮膜容器の製造装置において、原料ガス供給部は、容量が略2Lのチャンバへ原料ガスを0.1SLM〜1.0SLMの流量で供給することを特徴とする。
【0013】
また、本発明におけるDLC皮膜容器の製造装置において、チャンバは、一部が開口した中空容器体と、開口部を閉塞する蓋体とから構成され、中空容器体は、外部電極と内部電極とが絶縁体を介して連設されて構成されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明におけるDLC皮膜容器の製造装置は、蓋体は、プラスチック容器を載置する台状の部材であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前述の製造装置を用いて製造されるDLC皮膜容器であって、窒素ガスによりガス置換が行われた後に原料ガスが導入されたチャンバ内において、大気圧下でプラズマ放電によりDLC膜が成膜されたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、密封可能なチャンバを備えたDLC皮膜容器の製造装置を用いて、チャンバ内にセット済みの一部が開口したプラスチック容器の表面に対し、炭化水素又は炭素の同素体による非晶質の硬質膜であるDLC膜を成膜するDLC皮膜容器を製造方法であって、チャンバ内に窒素ガスを供給してガス置換を行う窒素ガス供給工程と、窒素ガス供給工程において窒素ガスを供給したチャンバ内に、DLC膜の原料となる原料ガスを供給する原料ガス供給工程と、原料ガス供給工程において原料ガスを供給したチャンバ内において、大気圧下でプラズマ放電を行って、プラズマ化した原料ガスイオンをプラスチック容器の表面に蒸着させてDLC膜を成膜するDLC膜成膜工程と、チャンバ内の気圧調整を行うことなく、DLC膜成膜工程において成膜されたプラスチック容器を取り出し、次にDLC成膜を行うプラスチック容器をチャンバ内にセットするプラスチック容器セット工程とを有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明におけるDLC皮膜容器の製造方法において、チャンバは、チャンバの壁部の一部を形成し、プラスチック容器の外側に配置される外部電極と、プラスチック容器の開口部内に配置される棒状の内部電極とを有し、DLC成膜工程は、外部電極及び内部電極のいずれかに、交流電源による高周波交流電圧と、正負いずれかの電圧値が断続的に進行するパルス状電圧とを重畳させた重畳電圧を印加して、チャンバ内でプラズマ放電を行うことを特徴とする。
【0018】
また、本発明におけるDLC皮膜容器の製造方法において、DLC膜成膜工程は、交流電圧を印加するとともに、−3.5kV〜−8.0kVのパルス状電圧を生成し、交流電圧にパルス状電圧を重畳し、0.1kV〜1.0kVの重畳電圧を外部電極及び内部電極のいずれか一方に印加して、チャンバ内において大気圧下でプラズマ放電を行うことを特徴とする。
【0019】
また、本発明におけるDLC皮膜容器の製造方法において、原料ガス供給工程は、容量が略2Lのチャンバへ原料ガスを0.1SLM〜1.0SLMの流量で供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、窒素ガスを供給したチャンバ内にDLC膜の原料となる原料ガスを供給して、大気圧下でプラズマ放電を行い、プラズマ化した原料ガスイオンをプラスチック容器の表面に蒸着させてDLC膜を成膜するので、チャンバ内を真空にするための設備を設ける必要がなく、簡易な構成でプラスチック容器表面にDLC膜を成膜して優れたガスバリア性及び耐薬品性を備えたDLC皮膜容器を製造することができるとともに、安全管理も容易となり、さらには、「真空→大気圧条件下に戻す」という工程を要しないので、DLC皮膜容器1個当たりの製造に要する時間を効果的に短縮させることができ、DLC皮膜容器の生産効率を著しく向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるDLC皮膜容器の製造装置の構成を示す側面断面図である。
【図2】図1のA−A断面を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における各ガスの流れを示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態におけるDLC皮膜容器の製造装置によるDLC皮膜容器の製造動作の流れを示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施の形態におけるチャンバの密封空間の形成前後を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態において、所定の条件下で成膜したDLC膜についてラマン分光法によりスペクトル測定を行ったときの測定結果を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態におけるDLC皮膜容器の製造装置の構成を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1の実施の形態>
(第1の実施の形態における概要)
本発明の第1の実施の形態におけるDLC皮膜容器の製造装置は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により、プラスチック容器表面にDLC膜を成膜するものである。
このDLC膜とは、アモルファス炭素膜の一種であり、グラファイトに代表されるsp結合とダイヤモンドに代表されるsp結合からなる炭化水素又は炭素の同素体による非晶質(アモルファス)構造をなす硬質膜をいう。
本実施の形態では、このDLC膜をボトル状のプラスチック容器の内側表面に成膜して、DLC皮膜容器を製造する。
【0023】
(第1の実施の形態における構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるDLC皮膜容器の製造装置の構成を示す側面断面図である。また、図2は、その図1のA−A断面を示す断面図である。以下、これら図を用いて、その構成について説明を進める。
【0024】
図に示すように、DLC皮膜容器の製造装置は、プラスチック容器Bを収容し、そのプラスチック容器B表面にDLC膜を成膜するチャンバ10と、そのチャンバ10内に設けられた電極に電圧を印加する電源部20と、上記チャンバ10内にDLC膜の原料となる原料ガス等を供給するガス供給排出部30とを有して構成される。
【0025】
チャンバ10は、内部が中空に形成され一部が開口した容器体であって、一部が開口したボトル状のプラスチック容器Bを収容する収容部11と、その収容部11の壁面の一部又は全部に配置される外部電極12と、プラスチック容器Bの開口部Ba内に配置され上記外部電極12との間でプラズマ放電を行う棒状の内部電極13と、その外部電極12と内部電極13との間に介設されるアルミナ等の絶縁体であって両電極12,13を支持する電極支持部14と、前述の収容部11の開口部11aを閉塞する蓋部15と、前述の収容部11を構成する壁面の一部に設けられ、その収容部11内部へ後述する窒素ガス又は原料ガスを供給するガス給気口16と、前述の内部電極13に設けられ、収容部11内部へ窒素ガス又は原料ガスを供給するガス給気口17と、その収容部11内部へ供給された窒素ガス又は原料ガスを排出するガス排気口18とを有して構成される。
【0026】
図に示す例では、収容部11は下面が開口部11aを形成しており、その開口部11aの周囲に沿って図示しないOリング等の密封手段が設けられている。蓋部15は、開口部11a全体を閉塞するように、その密封手段に当接して、プラスチック容器Bを収容する密封空間を形成する。
【0027】
DLC膜の成膜処理時には、外部電極12は、その成膜対象のプラスチック容器Bを囲い込むように配置され、棒状の内部電極13は、そのプラスチック容器Bの開口部Ba内に挿入されて配置される。すなわち、DLC膜の成膜処理時には、外部電極12と内部電極13との間にプラスチック容器Bの壁面が位置することになる。
また、内部電極13は、中空筒状の導体であって、ガス供給排出部30から供給されるガスがその中空筒状空間を通過してプラスチック容器B内部に給気されるよう構成されている。
【0028】
電源部20は、交流電圧を印加する交流電源21と、正負いずれかの直流電圧を断続的に出力するパルス波を発信するパルス発信部22と、前述の交流電源21による交流電圧と前述のパルス発信部22から発信されたパルス電圧とを重畳し、その重畳した電圧を前述の外部電極12へ印加する重畳部23とを有して構成される。
【0029】
本実施の形態では、パルス発信部22は、負の直流電圧を断続的に出力するパルス波を発信し、このパルス波による電圧と、交流電源21による交流電圧とが重畳部23において重畳されて高周波の負電圧が生成され、外部電極12に印加される。
この高周波の負電圧は、チャンバ10内で原料ガスをプラズマ化するためのエネルギーを発生させるものであって、その周波数は、例えば、100kHz〜1000MHz程度である。
【0030】
ガス供給排出部30は、チャンバ10内の空気とガス置換を行うための窒素ガスを貯留する窒素ガス貯留室31と、チャンバ10内に収容されているプラスチック容器Bの表面に成膜するDLC膜の原料ガスを貯留する原料ガス貯留室32と、前述の窒素ガス貯留室31及び原料ガス貯留室32とチャンバ10とを接続し、これら各貯留室31,32に貯留されているガスをチャンバ10へ供給するガス給気管33と、チャンバ10内の空気、窒素ガス又は原料ガスをチャンバ10外へ排気するガス排気管34とを有して構成される。
なお、このガス給気管33及びガス排気管34には、図示しないガス弁が複数設けられており、これらガス弁の開閉により各ガスのチャンバ10内への給気及びチャンバ10内からの排気が行われる。
【0031】
図3は、その各ガスの流れを示す図である。
図に示すように、窒素ガス貯留室31及び原料ガス貯留室32に貯留されている各ガスは、ガス給気管33を介してガス給気口16,17からチャンバ10の密封空間内へ給気される。
すなわち、ガス給気管33を通過したガスは、一方は、ガス給気口16からプラスチック容器Bの外側へ給気され、他方は、中空筒状の内部電極13内の通気路を通過して内部電極13に設けられたガス給気口17からプラスチック容器Bの内部へ給気される。
【0032】
前述のガス給気管33に設けられたガス弁の開閉を調整することにより、窒素ガス及び原料ガスは、その用途に応じて、ガス給気口16,17のいずれか、又は双方から選択的に給気することができる。
例えば、本実施の形態のようにプラスチック容器Bの内側にDLC膜を成膜する場合には、ガス給気口17からプラスチック容器Bの内側へ原料ガスを給気する。反対に、外側に成膜する場合には、ガス給気口16からプラスチック容器Bの外側へ給気すればよい。
【0033】
(第1の実施の形態における動作)
次に、本発明の第1の実施の形態におけるDLC皮膜容器の製造装置によるDLC皮膜容器の製造方法について説明する。
図4は、本発明の第1の実施の形態におけるDLC皮膜容器の製造装置によるDLC皮膜容器の製造動作の流れを示すフローチャートである。以下、本図に沿って説明を進める。
【0034】
まず、台状の蓋部15上にDLC膜の成膜対象のプラスチック容器Bを載置する。そして、この蓋部15を、収容部11の下方から上昇させて、収容部11下面の開口からプラスチック容器Bを収容部11内部にプラスチック容器Bを内挿し、セットする(ステップS101)。
このとき、蓋部15は、収容部11下面の開口を完全に閉塞し、収容部11とともに、密封空間を形成する。
【0035】
図5は、そのチャンバ10の密封空間の形成前後を示す図であって、(a)はその形成前、(b)は形成後を示している。
ここで、本図を用いて、その密封空間の形成時におけるDLC皮膜容器の製造装置の動作について説明する。
図5の(a)に示すように、プラスチック容器Bを載置した台状の蓋部15を、図示しないベルトコンベア等の搬送手段により収容部11の下方まで搬送した後に、プラスチック容器Bが収容部11内に収容されるように上昇させる。
そして、蓋部15を上昇させると、図5の(b)に示すように、その収容部11側の密封手段と蓋部15の上面側とが当接して、収容部11の開口部11aを密封閉塞する。こうしてチャンバ10には密封空間が形成され、その密封空間内にプラスチック容器Bが収容される。
このとき、プラスチック容器Bの開口部Baには、棒状の内部電極13が挿入される。また、この収容されたプラスチック容器Bを囲い込むようにその外側に、外部電極12が配置される。
【0036】
ここで、再び図4に戻って説明を進める。
次に、図示しないガス弁を開弁して窒素ガス貯留室31に貯留されている窒素ガスを、ガス給気管33を経てガス給気口16,17からその密封空間内へ給気し、Nパージを行う(ステップS102)。すなわち、ガス給気口16,17から給気される窒素ガスにより、密封空間内に存在する空気をガス置換してガス排気口18からガス排気管34を経てチャンバ10外部へ排気する(図4の(b)参照)。
【0037】
上記Nパージを行って、密封空間内の空気を窒素ガスにガス置換した後、図示しないガス弁を開弁して原料ガス貯留室32に貯留されている原料ガスを、ガス給気管33を経てガス給気口17からプラスチック容器B内部へ導入する(ステップS103,図4の(b)参照)。
【0038】
次に、パルス発信部22を作動させて、負の高電圧を断続的に印加するパルス波を発信させるとともに(ステップS104)、交流電源21を作動させて、高周波の交流電圧の印加を開始する(ステップS105)。
重畳部23は、上記交流電源21による高周波交流電圧に、上記パルス発信部22によるパルス状の負の高電圧を重畳し、その重畳した電圧を外部電極12に印加する。ここで、この重畳電圧は、断続的に負電圧を印加する高周波電圧である。
【0039】
上記重畳電圧が印加され、その負の重畳電圧が印加された外部電極12と、内部電極13との間の電位差が所定値以上になると、外部電極12と内部電極13との間にプラズマ放電が発生する。
このプラズマ放電により、プラスチック容器Bの中空内部へ導入された原料ガスが正イオン化し、負極である外部電極12側へ引き寄せられる。このとき、原料ガスイオンと外部電極12との間には、プラスチック容器Bの壁面が存在するため、原料ガスイオンは、外部電極12へ到達することなく、プラスチック容器Bの内側表面上に蒸着し、DLC膜の成膜を開始する(ステップS106)。
【0040】
DLC膜の成膜が完了すると、上記交流電源21及びパルス発信部22による印加を停止し(ステップS107)、ガス弁を閉弁して密封空間への原料ガスの給気を停止する(ステップS108)。
【0041】
そして、再度窒素ガスを、ガス給気管33を経てガス給気口16,17からその密封空間内へ給気するとともに、密封空間内に存在する原料ガスをガス排気口18からガス排気管34を経てチャンバ10外部へ排気し、Nパージを行う(ステップS109)。
【0042】
原料ガスを排気してNパージが完了すると、蓋部15を下降させて、DLC皮膜容器(DLC膜成膜後のプラスチック容器B)を収容部11から取り出し、次に成膜を行うプラスチック容器Bをセットする(ステップS110)。
以上で、DLC皮膜容器の製造の1サイクルが終了する。
【0043】
本実施の形態において、大気圧下でDLCを成膜する際の各条件の一例を以下に示す。
・重畳電圧:0.1kV〜1.0kV
・パルス電圧:−3.5kV〜−8.0kV
・原料ガスの流量:0.1SLM〜1.0SLM
・チャンバ10の容量:2L
・チャンバの素材:ポリ塩化ビニル樹脂
・チャンバ10内の温度:室温(20℃〜30℃)
上記条件下において成膜処理を行うことにより、良好な状態のDLC膜を成膜することができる。
【0044】
図6は、上記条件下で成膜したDLC膜についてラマン分光法によりスペクトル測定を行ったときの測定結果を示す図である。
本図では、上記条件下において成膜処理を4回行ったときの試料をそれぞれ010〜013で示し、成膜を行っていない試料をコントロールで示している。
図中、G bandで示す波数1560cm−1のラマンピークはsp結合に起因するピークであり、符号D bandで示す波数1360cm−1のラマンピークはsp結合に起因するピークである。
図に示すように、上記条件下でDLC成膜処理を行った試料010〜013については、全てDLC膜が成膜したことを表すG band及びD bandのラマンピークが確認できた。すなわち、良好な状態のDLC膜を成膜したことが確認できた。
【0045】
(第1の実施の形態におけるまとめ)
以上説明したように、本実施の形態におけるDLC皮膜容器の製造装置は、プラスチック容器Bに対しDLC膜の成膜を行うチャンバ10内の気圧を所定の真空度まで減圧することなく、窒素ガスによりガス置換した後に原料ガスをチャンバ10内へ給気して大気圧下でDLC膜の成膜を行うので、チャンバ10内を真空にするための設備を設ける必要がなく、簡易な構成でプラスチック容器Bの内側表面にDLC膜を成膜して優れたガスバリア性及び耐薬品性を備えたDLC皮膜容器を製造することができるとともに、安全管理も容易となり、さらには、「真空→大気圧条件下に戻す」という工程を要しないので、DLC皮膜容器1個当たりの製造に要する時間を効果的に短縮させることができ、DLC皮膜容器の生産効率を著しく向上させることが可能となる。
加えて、本実施の形態におけるDLC皮膜容器の製造装置は、DLC膜とプラスチック容器Bとの間の密着性に優れたDLC皮膜容器を製造することができる。また、プラスチック容器Bを構成する物質が、その容器内の内容物に溶け出したり、反対に、その内容物がプラスチック容器Bを侵食したりといったことのない優れた耐溶出性を備えたDLC皮膜容器を製造することが可能となる。
【0046】
なお、本実施の形態においては、チャンバ10内の空気をガス置換するために窒素ガスを用いているが、これに限定されない。例えば、炭酸ガス(CO)を使用することも可能である。
【0047】
DLC膜の原料となる原料ガスとしては、常温で気体又は液体の脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、含酸素炭化水素類、含窒素炭化水素類などが使用される。例えば、メタンCH、エタンC、プロパンC、ブタンC10、エチレンC、プロピレンC、ブチレンC、アセチレンC、メチルアセチレンC、エチルアセチレン(C)、ノルマルヘキサンC14、シクロヘキサンC12、ベンゼンC、トルエンCCH、キシレンC(CHが使用できる。
また、原料ガスとして、上記の炭素化合物ガスに窒素含有ガス又は(及び)フッ素含有ガスを添加したガスを用いることができる。これらのガスとしては、例えば、窒素(N)ガス、1酸化窒素(NO)ガス、3フッ化窒素(NF)ガス、フッ素(F)ガス、3フッ化窒素(NF)ガス、6フッ化硫黄(SF)ガス、4フッ化炭素(CF)ガス、4フッ化ケイ素(SiF)ガス、6フッ化2ケイ素(Si)ガス、3フッ化塩素(ClF)ガス、フッ化水素(HF)ガス等を用いることができる。
また、原料ガスは、単独で用いても良いが、2種以上の混合ガスとして使用するようにしても良い。さらにこれらのガスをアルゴンやヘリウムの様な希ガスで希釈して用いる様にしても良い。また、ケイ素含有DLC膜を成膜する場合には、Si含有炭化水素系ガスを使用する。
【0048】
また、DLC膜成膜の対象となるプラスチック容器Bに使用する樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンテレフタレート系コポリエステル樹脂(ポリエステルのアルコール成分にエチレングリコールの代わりに、シクロヘキサンディメタノールを使用したコポリマーをPETGと呼んでいる、イーストマン製)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP)、シクロオレフィンコポリマー樹脂(COC、環状オレフィン共重合)、アイオノマ樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、又は、4弗化エチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂等を用いることができる。
【0049】
また、そのプラスチック容器Bは、植物等の天然物由来のデンプン、セルロース繊維、タンパク質を用いた生分解性を有する容器であってもよい。
例えば、デンプンとしては、米デンプン、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、サツマイモデンプン、小麦デンプン、タピオカデンプン、ソルガムデンプンなど各種植物から得られるデンプン等を用いることができる。
この他、上記天然物由来のデンプンを化学的に処理し、化学修飾を行った化学修飾デンプンを用いることができる。例えば、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルデンプン、アセチル化高アミロースデンプン、酢酸デンプン、マレイン酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、コハク酸デンプン、フタル酸デンプン、ヒドロキシプロピル高アミロースデンプン、架橋デンプン(リン酸塩化物、エピクロルヒドリン、リン酸誘導体等の種々の架橋剤によりデンプン分子を架橋したもの)、リン酸デンプン、リン酸ヒドロキシプロピルジデンプン等を用いることができる。
【0050】
また、生分解性を有するプラスチック容器Bに使用するタンパク質としては、例えば、米タンパク、大豆タンパク、小麦タンパク、乳タンパク、グルテン、ゼイン、ホルデイン、アベニン、カフィリン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン、ゼラチン、ケラチン等を例示することができる。
【0051】
また、生分解性を有するプラスチック容器Bに使用するセルロース繊維としては、各種の植物、例えば籾殻などの穀類の種皮、草、木材、わら、さとうきび、綿、葉、トウモロコシの皮やさとうきびの絞り滓から得られたガバス、新聞紙などの加工品が例示できる。
【0052】
また、本実施の形態では、内部電極13は、電極支持部14を介して外部電極12と一体に構成されているが、内部電極13を、外部電極12及び電極支持部14とは独立して別体で構成するようにしてもよい。
この場合、電極支持部14中央に内部電極13挿入用の孔を設け、DLC膜成膜処理時には、棒状の内部電極13をその孔に挿入するように構成する。
【0053】
<第2の実施の形態>
(第2の実施の形態における概要)
以上説明したように、第1の実施の形態におけるDLC皮膜容器の製造装置は、プラスチック容器Bの内側表面にDLC膜を成膜するものである。
これに対し、第2の実施の形態では、プラスチック容器Bの外側表面にDLC膜を成膜するものである。
以下、特記しない限り、本実施の形態における構成及び動作は、第1の実施の形態と同様であるものとする。
【0054】
(第2の実施の形態における構成)
図7は、本発明の第2の実施の形態におけるDLC皮膜容器の製造装置の構成を示す側面断面図である。
図に示すように、第1の実施の形態では、重畳部23の出力が外部電極12に接続されるのに対し、本実施の形態では、内部電極13に接続される。
これにより、本実施の形態では、内部電極13が負極となり、外部電極12が正極となる。
【0055】
(第2の実施の形態における動作)
また、第1の実施の形態では、プラスチック容器Bの内側表面にDLC膜を成膜するため、ガス給気口17からプラスチック容器B内部へ原料ガスを給気して、その内部において原料ガスの密度を高くするものである。
これに対し、本実施の形態では、プラスチック容器Bの外側表面にDLC膜を成膜するため、ガス給気口16からプラスチック容器Bの外部かつチャンバ10の密封空間内へ原料ガスを給気し、プラスチック容器Bの外部において原料ガスの密度を高くする。
【0056】
そして、内部電極13に負電圧を印加し、プラズマ放電が発生すると、プラスチック容器Bの外部に存在する正に帯電した原料ガスイオンは、その内部電極13側に引き寄せられるが、その原料ガスイオンと内部電極13との間には、プラスチック容器Bの壁面が存在するため、原料ガスイオンは、内部電極13へ到達することなく、プラスチック容器Bの外側表面上に蒸着し、DLC膜が成膜される。
【0057】
(第2の実施の形態におけるまとめ)
以上説明したように、本実施の形態では、第1の実施の形態とは反対に、内部電極13へ負電圧を印加し、プラスチック容器Bの外側に原料ガスを給気することで、プラスチック容器Bの内側表面だけでなく外側表面にも大気圧下でDLC膜を成膜することができる。従って、第1の実施の形態と同様に、真空のための設備を設ける必要がなく、簡易な構成でプラスチック容器Bの内側表面にDLC膜を成膜して優れたガスバリア性及び耐薬品性を備えたDLC皮膜容器を製造することができるとともに、安全管理も容易となり、さらには、「真空→大気圧条件下に戻す」という工程を省き、DLC皮膜容器の生産効率を著しく向上させることが可能となる。
【0058】
なお、上記の実施例は本発明の好適な実施の一例であり、本発明の実施例は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
10 チャンバ
11 収容部
11a,Ba 開口部
12 外部電極
13 内部電極
14 電極支持部
15 蓋部
16,17 ガス給気口
18 ガス排気口
20 電源部
21 交流電源
22 パルス発信部
23 重畳部
30 ガス供給排出部
31 窒素ガス貯留部
32 原料ガス貯留部
33 ガス給気管
34 ガス排気管
B プラスチック容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素又は炭素の同素体による非晶質の硬質膜であるDLC膜を、一部が開口したプラスチック容器の表面に成膜したDLC皮膜容器を製造する装置であって、
前記プラスチック容器を収容するチャンバと、
前記チャンバ内に窒素ガスを供給する窒素ガス供給部と、
前記窒素ガス供給部により前記窒素ガスが供給されたチャンバ内に、前記DLC膜の原料となる原料ガスを供給する原料ガス供給部と、
前記原料ガス供給部により前記原料ガスが供給された前記チャンバ内において、大気圧下でプラズマ放電を発生させるために電圧を印加する電源部とを有することを特徴とするDLC皮膜容器の製造装置。
【請求項2】
前記チャンバは、
前記チャンバの壁部の一部を形成し、前記プラスチック容器の外側に配置される外部電極と、
前記プラスチック容器の開口部内に配置される棒状の内部電極とを有することを特徴とする請求項1記載のDLC皮膜容器の製造装置。
【請求項3】
前記電源部は、
交流電圧を印加する交流電源と、
正負いずれかの電圧値が断続的に進行するパルス状電圧を生成するパルス発信部と、
前記交流電源による交流電圧に前記パルス発信部により生成されたパルス状電圧を重畳する重畳部とを有し、
前記重畳部により重畳され生成された電圧は、
前記外部電極及び前記内部電極のいずれか一方に接続されることを特徴とする請求項1又は2記載のDLC皮膜容器の製造装置。
【請求項4】
前記パルス発振部は、−3.5kV〜−8.0kVの前記パルス状電圧を生成し、
前記重畳部は、前記外部電極及び前記内部電極のいずれか一方に0.1kV〜1.0kVの前記重畳した電圧を印加することを特徴とする請求項3記載のDLC皮膜容器の製造装置。
【請求項5】
前記原料ガス供給部は、容量が略2Lの前記チャンバへ前記原料ガスを0.1SLM〜1.0SLMの流量で供給することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のDLC皮膜容器の製造装置。
【請求項6】
前記チャンバは、
一部が開口した中空容器体と、該開口部を閉塞する蓋体とから構成され、前記中空容器体は、前記外部電極と前記内部電極とが絶縁体を介して連設されて構成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のDLC皮膜容器の製造装置。
【請求項7】
前記蓋体は、前記プラスチック容器を載置する台状の部材であることを特徴とする請求項6記載のDLC皮膜容器の製造装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の製造装置を用いて製造されるDLC皮膜容器であって、
前記窒素ガスによりガス置換が行われた後に原料ガスが導入されたチャンバ内において、大気圧下でプラズマ放電によりDLC膜が成膜されたことを特徴とするDLC皮膜容器。
【請求項9】
密封可能なチャンバを備えたDLC皮膜容器の製造装置を用いて、該チャンバ内にセット済みの一部が開口したプラスチック容器の表面に対し、炭化水素又は炭素の同素体による非晶質の硬質膜であるDLC膜を成膜するDLC皮膜容器を製造方法であって、
前記チャンバ内に窒素ガスを供給してガス置換を行う窒素ガス供給工程と、
前記窒素ガス供給工程において前記窒素ガスを供給したチャンバ内に、前記DLC膜の原料となる原料ガスを供給する原料ガス供給工程と、
前記原料ガス供給工程において前記原料ガスを供給した前記チャンバ内において、大気圧下でプラズマ放電を行って、プラズマ化した前記原料ガスイオンを前記プラスチック容器の表面に蒸着させて前記DLC膜を成膜するDLC膜成膜工程と、
前記チャンバ内の気圧調整を行うことなく、前記DLC膜成膜工程において成膜されたプラスチック容器を取り出し、次にDLC成膜を行うプラスチック容器をチャンバ内にセットするプラスチック容器セット工程とを有することを特徴とするDLC皮膜容器の製造方法。
【請求項10】
前記チャンバは、前記チャンバの壁部の一部を形成し、前記プラスチック容器の外側に配置される外部電極と、前記プラスチック容器の開口部内に配置される棒状の内部電極とを有し、
前記DLC成膜工程は、前記外部電極及び前記内部電極のいずれかに、
交流電源による高周波交流電圧と、正負いずれかの電圧値が断続的に進行するパルス状電圧とを重畳させた重畳電圧を印加して、前記チャンバ内でプラズマ放電を行うことを特徴とする請求項9記載のDLC皮膜容器の製造方法。
【請求項11】
前記DLC膜成膜工程は、前記交流電圧を印加するとともに、−3.5kV〜−8.0kVの前記パルス状電圧を生成し、前記交流電圧に前記パルス状電圧を重畳し、0.1kV〜1.0kVの前記重畳電圧を前記外部電極及び前記内部電極のいずれか一方に印加して、前記チャンバ内において大気圧下でプラズマ放電を行うことを特徴とする請求項10記載のDLC皮膜容器の製造方法。
【請求項12】
前記原料ガス供給工程は、容量が略2Lの前記チャンバへ前記原料ガスを0.1SLM〜1.0SLMの流量で供給することを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載のDLC皮膜容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−42872(P2011−42872A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163824(P2010−163824)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(303066390)株式会社日本興産 (4)
【Fターム(参考)】