説明

DNAの検出方法

【課題】交流インピーダンスを測定するDNAの一塩基多型を検出する方法を提供する。
【解決手段】(1)プローブDNA(SプローブDNA)を固定した電極表面において、非固定プローブDNA(BプローブDNA)およびターゲットDNAを、ハイブリダイゼーションおよびライゲーションし得る条件下におき、次いで(2)電極表面の交流インピーダンスを測定するDNAの検出方法。SプローブDNAとターゲットDNAとは、少なくともSプローブDNAの非固定末端の一塩基を除き相補的であり、BプローブDNAとターゲットDNAとは相補的であり、かつSプローブDNA、BプローブDNAおよびターゲットDNAは、ターゲットDNAとハイブリダイズしたSプローブDNAの非固定末端とBプローブDNAのSプローブDNA側末端とが連続するような塩基配列をそれぞれ有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流インピーダンス測定を利用するDNAの検出方法に関し、特に、ターゲットDNAの対立遺伝子の型の判定を含む一塩基多型の検出が簡易にできる方法に関する。さらに、本発明は、この方法を利用したアドレナリンレセプターの一塩基多型の検出方法およびPPARγの一塩基多型の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存のSNP検出のための技術を表1に示す。
【0003】
【表1】

【0004】
蛍光法に関しては、様々な手法が開発されており、taq man法やインベーター法がその代表的な方法である。その他の手法では、マススペクトルによる質量変化を測定したり、制限酵素により切断し電気泳動を行ったり、直接DNAの配列決定を行うシーケンス法などがある。
【0005】
また、電気化学的手法に関しては、インターカレーターを用いたサイクリックボルタメトリーによる測定や本手法に用いたや交流インピーダンスを用いた方法がある。
【0006】
また、インピーダンスを用いたSNPの検出法は、すでにいくつか報告されておりその手法は、ビオチン修飾したジデオキシヌクレオチドをプローブDNAに取り込ませ、ビオチンとアビオジン修飾したリポソームを結合させ検出する方法である。(非特許文献1)
【0007】
上記方法以外に特開2004−177399号公報(特許文献1)には、交流インピーダンスを測定することで目的核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションを検出する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2004−177399号公報
【非特許文献1】Patolsky F, Lichtenstein A, Willner I., Electronic transduction of sensing processes on surfaces: amplification of DNA detection and analysis of single-base mismatches by tagged liposomes., Journal of the American Chemical Society., 2001,123, 5194-205.
【非特許文献2】Alfonta L, Bardea A, Khersonsky O, Katz E, Willner I., Chronopotentiometry and Faradaic impedance spectroscopy as signal transduction methods for the biocatalytic precipitation of an insoluble product on electrode supports: routes for enzyme sensors, immunosensors and DNA sensors., Biosens Bioelectron. 2001, 16, 675-87.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
交流インピーダンスを測定することで目的核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションを検出する方法は、方法自体は簡便で、測定しやすい方法である。しかし、特許文献1に記載の方法では、ハイブリダイゼーションの効率の違いを測定しているので、正常型のプローブDNAとSNP型のプローブDNAのハイブリダイゼーションの非常にわずかな差を測定しているのでSNPを検出することは非常に困難である。正常型のプローブDNAとSNP型のプローブDNAのハイブリダイゼーションの効率の差は非常にわずかだからである。
【0009】
さらに、実際のSNPの検出においては、ヒトから抽出したゲノムDNAを用いてSNPの異常タイプ(正常型、異常型(ヘテロとホモ))の判定が必要である。しかし、上記特許文献1に記載の方法では、SNPの検出自体が非常に難しいことから、SNPの異常タイプ(正常型、異常型(ヘテロとホモ))の判定も事実上できなかった。
【0010】
そこで本発明の目的は、交流インピーダンスを測定することで目的核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションを検出する方法であって、正常型のプローブDNAとSNP型のプローブDNAの識別が容易に行え、ヒトから抽出したゲノムDNAを用いてSNPの異常タイプ(正常型、異常型(ヘテロとホモ))の判定も可能な方法を提供することにある。
【0011】
さらに本発明の目的は、交流インピーダンス測定により、アドレナリンレセプターの一塩基多型を検出する方法およびPPARγの一塩基多型を検出する方法を提供することにある。
【0012】
本発明者らは、電極表面に固定したプローブDNAをターゲットDNAとハイブリダイゼーションさせるに当たり、電極表面に固定していないプローブDNA、例えば、ビオチン修飾したプローブDNAを用い、この非固定プローブDNAを電極表面に固定したプローブDNAとライゲーションさせた上で、交流インピーダンス測定することで、一塩基多型の検出を容易に行えることを見いだして、本発明を完成させた。
【0013】
また、別の方法は、ビオチン修飾したジデオキシヌクレオチドをプローブDNAに取り込ませ、ビオチンとアビオジン修飾した酵素を結合させ、酵素反応を利用し感度の向上を行った報告はある。(非特許文献2)
【0014】
しかしながら、交流インピーダンスを用いた方法においては、ビオチン修飾したプローブDNAを利用すること、およびそのようなプローブDNAを利用し、さらにライゲーションを組み合わせることで、予想外にも、交流インピーダンス測定により一塩基多型の検出を容易に行えることを本発明者らは見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以下の通りである。
[1](1)プローブDNA(以下、SプローブDNAという)を固定した電極表面において、非固定プローブDNA(以下、BプローブDNAという)およびターゲットDNAを、ハイブリダイゼーションおよびライゲーションし得る条件下におき、次いで
(2)電極表面の交流インピーダンスを測定するDNAの検出方法であって、
SプローブDNAとターゲットDNAとは、少なくともSプローブDNAの非固定末端の一塩基を除き相補的であり、
BプローブDNAとターゲットDNAとは相補的であり、かつ
SプローブDNA、BプローブDNAおよびターゲットDNAは、ターゲットDNAとハイブリダイズしたSプローブDNAの非固定末端とBプローブDNAのSプローブDNA側末端とが連続するような塩基配列をそれぞれ有する方法。
[2]BプローブDNAが、10〜150bpのDNAである[1]に記載の方法。
[3]BプローブDNAが、ビオチンを固定したプローブDNAである[1]に記載の方法。
[4]BプローブDNAが、陽電荷あるいは負電荷を有する分子、または嵩高い分子を固定化したDNAである[1]に記載の方法。
[5]BプローブDNAが、5〜100bpのDNAである[3]または[4]に記載の方法。
[6]交流インピーダンス測定は、ハイブリダイズしたDNAを変性した後に実施するか、ハイブリダイズしたDNAを変性することなしに実施する[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]交流インピーダンス測定は、室温で行う[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]非固定末端の一塩基が、ターゲットDNA中の前記一塩基と対向する塩基と相補的であるSプローブDNAを用いる、[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]非固定末端の一塩基が、ターゲットDNA中の前記一塩基と対向する塩基と非相補的であるSプローブDNAを用いる、[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[10]ターゲットDNAが一塩基多型であるか否かを判定する、[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11]同一の検体由来のターゲットDNAを、
非固定末端の一塩基が、ターゲットDNA中の前記一塩基と対向する塩基と相補的であるSプローブDNA(以下、正常型プローブという)を用いる方法と、
非固定末端の一塩基が、ターゲットDNA中の前記一塩基と対向する塩基と非相補的であるSプローブDNA(以下、異常型プローブという)を用いる方法に供し、
両方の方法で得られた交流インピーダンス測定結果に基づいて、ターゲットDNAが一塩基多型であるか否かを判定する、[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[12]ターゲットDNAの対立遺伝子の型を判定する[11]に記載の方法。
[13]ターゲットDNAの対立遺伝子の型が、ホモ接合体AAまたはaaであるか、ヘテロ接合体Aaであるかを判定する[12]に記載の方法。
[14] 一塩基多型であるか否かの判定を以下の判定値を算出して行う[11]〜[13]のいずれかに記載の方法
【数1】

完全一致のRet: 正常型プローブを用いた交流インピーダンス測定により得られた電荷移動抵抗
一塩基違いのRet: 異常型プローブを用いた交流インピーダンス測定により得られた電荷移動抵抗
[15]アドレナリンレセプターの一塩基多型の検出に用いる[1]〜[14]のいずれかに記載の方法。
[16]SプローブDNAとして、配列表の配列番号7および/または8に示す塩基配列を含むDNAを用い、かつBプローブDNAとして、配列表の配列番号9に示す塩基配列を含むDNAを用いる[15]に記載の方法。
[17]PPARγの一塩基多型の検出に用いる[1]〜[14]のいずれかに記載の方法。
[18]SプローブDNAとして、配列表の配列番号10および/または11に示す塩基配列を含むDNAを用い、かつBプローブDNAとして、配列表の配列番号12に示す塩基配列を含むDNAを用いる[17]に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、一塩基違いを確実に再現良く検出することが可能であり、ヒトから抽出したゲノムDNAを用いてSNPの異常タイプ(正常型、異常型(ヘテロとホモ))の判定がそれぞれに関して判別できる。
さらに、本発明の方法によれば、アドレナリンレセプターの一塩基多型の検出、およびPPARγの一塩基多型の検出も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の方法では、まず、電極表面にプローブDNA(SプローブDNA)を固定した電極を用意する。電極は、例えば、金電極であることができ、金電極上にチオール修飾したターゲットDNAを加えることで、SプローブDNAを電極に固定化させることができる。電極としては、金以外に銀やプラチナを用いることもできる。銀やプラチナ電極表面への固定化は、金電極への固定化と同様に、チオール修飾したターゲットDNAを加えることで実施できる。SプローブDNAは、5〜100bpのDNAであることが適当である。プローブDNAの塩基数は、常法により適宜制御できる。
【0018】
電極表面へのプローブDNAの固定化量およびプローブDNAを固定化した電極の面積は、それぞれについて良好に実施できるものであれば特に制限はない。DNAの固定化量については、電極上にほぼ100%プローブDNAを固定化することができる。例えば、10μMのSプローブDNAを1時間金電極上に固定化したところ、固形化量は約10分で飽和に達する。
【0019】
さらに、SプローブDNAを固定化する電極の形状等は、交流インピーダンス測定が良好に実施できるものであれば特に制限はない。例えば、電極間が80〜5000μm程度の範囲であり、電極面積が1〜10mm2の範囲の電極を基板上に設けた装置を用いることができる。
【0020】
図1に、本発明で使用することができる装置の一例を示す。上側の(1)は平面図、下側の(2)は断面図である。金電極チップについて:1インチ角のパイレックスガラス上にクロム(膜厚50 nm)金(膜厚200 nm)の順番にスパッタ装置を用い蒸着を行い、8電極(500μm 面積1.4mm2の平行電極)(Mask20050602-01)を、半導体微細加工技術を用いて作製した。この金電極に中蓋として厚さ7mmの8穴のシリコン樹脂をのせ、さらに上蓋として8穴のテフロン樹脂、底蓋としてアルミニム板をねじあるいはバネ構造ではさみ込むことで電極上に電解液が保持されこれをDNAチップとし測定に用いた。
【0021】
SプローブDNAとしては、SプローブDNAとターゲットDNAとが、少なくともSプローブDNAの非固定末端(電極に固定されたと反対側の末端)の一塩基を除き相補的であるDNAを用いる。より具体的には、SプローブDNAは、非固定末端の一塩基が、ターゲットDNA中の前記一塩基と対向する塩基と相補的であることができる。また、SプローブDNAは、非固定末端の一塩基が、ターゲットDNA中の前記一塩基と対向する塩基と非相補的であることができる。
【0022】
上記SプローブDNAを固定した電極表面において、非固定プローブDNA(BプローブDNA)およびターゲットDNAを、ハイブリダイゼーションおよびライゲーションし得る条件下におく。非固定プローブDNA(BプローブDNA)のターゲットDNAとハイブリダイゼーションする領域の塩基数は、例えば、5〜150bpの範囲であることができる。非固定プローブDNA(BプローブDNA)は、本発明における交流インピーダンス測定により、ライゲーションしたDNAとライゲーションしなかったDNAとを区別するという観点からは、比較的分子量が大きいことが適当である。非固定プローブDNAは、DNA自身である程度の大きさであれば、上記区別は可能であり、その場合、非固定プローブDNA(BプローブDNA)は、10〜150bpのDNAであることが適当である。プローブDNAの塩基数は、常法により適宜制御できる。
【0023】
非固定プローブDNA(BプローブDNA)は、陽電荷あるいは負電荷を有する分子、または嵩高い(体積の大きい)分子を固定化したDNAであることもできる。非固定プローブDNA(BプローブDNA)が、陽電荷あるいは負電荷を有する分子、または嵩高い(体積の大きい)分子を固定化したDNAである場合、プローブDNAは、5〜100bpのDNAであることが適当である。嵩高い(体積の大きい)分子を固定化したDNAとしては、例えば、ビオチンを固定したプローブDNAであることができる。ビオチンを固定したプローブDNAは、ビオチン修飾したジデオキシヌクレオチドをプローブDNAに取り込ませることで作成することができる。
【0024】
陽電荷を有する分子としては、ポリマー系の物質として、例えば、分子量500〜1000000の範囲のポリアリルアミン、ポリ(N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート)、ポリ(N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリリジン、ポリエチレンイミン、キトサン、末端アミノ基修飾デンドリマーを挙げることができる。これらの物質を修飾したDNAは、例えば、DNAの3'末端にカルボキシル基有するアルカンを修飾し、このカルボキシル基とそれぞれの化合物のアミノ基がアミド結合により結合することで得ることができる。
【0025】
陽電荷を有する分子としては、ミセル、リポソーム系として、例えば、長鎖アルキル鎖を有するアミン(ステアリルアミンなど)を用いたものを挙げることができる。これらの物質を修飾したDNAは、例えば、リポソームを作製するときにビオチン修飾した長鎖アルキル鎖を有するアミンを加えることでビオチン修飾したリポソームを作製し、アビジンを介してビオチン修飾したDNAを修飾させることで得ることができる。
【0026】
陽電荷を有する分子としては、微粒子系として、例えば、粒系10nm〜10μmの範囲のアミノ基修飾金微粒子、アミノ基修飾ポリスチレン微粒子、アミノ基修飾シリカ微粒子を挙げることができる。これらの物質を修飾したDNAは、例えば、DNAの3'末端にカルボキシル基有するアルカンを修飾しこのカルボキシル基とそれぞれの化合物のアミノ基がアミド結合により化合物が修飾されることで得ることができる。
【0027】
負電荷を有する分子としては、ポリマー系として例えば、分子量500〜1000000の範囲のポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、末端カルボン酸修飾デンドリマーを挙げることができる。これらの物質を修飾したDNAは、例えば、DNAの3'末端にアミノ基有するアルカン鎖(炭素数1−10)を修飾しこのアミノ基とそれぞれの化合物のカルボキシル基とアミド結合により化合物が修飾されることで得ることができる。
【0028】
負電荷を有する分子としては、ミセル、リポソーム系として、例えば、長鎖アルキル鎖を有するカルボン酸(ステアリル酸)を用いたもの、長鎖アルキル鎖を有するスルホン酸(ドデシル硫酸)を用いたもの、長鎖アルキル鎖を有するリン酸(ホスファチジルコリン)を用いたものを挙げることができる。これらの物質を修飾したDNAは、例えば、リポソームを作製するときにビオチン修飾した長鎖アルキル鎖を有するリン脂質等を加えることでビオチン修飾したリポソームを作製し、アビジンを介してビオチン修飾したDNAを修飾させることで得ることができる。
【0029】
負電荷を有する分子としては、微粒子系として、例えば、粒系10nm〜10μmの範囲のカルボン酸修飾金微粒子、カルボン酸修飾ポリスチレン微粒子、カルボン酸修飾シリカ微粒子を挙げることができる。これらの物質を修飾したDNAは、例えば、DNAの3'末端にアミノ基有するアルカン鎖(炭素数1−10)を修飾しこのアミノ基とそれぞれの化合物のカルボキシル基とアミド結合により化合物が修飾されることで得ることができる。
【0030】
嵩高い(電荷的に中性の)分子としては、ポリマー系として、例えば、分子量500〜1000000の範囲のポリエステル、ポリエチレングリコール、ポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロース、デンドリマーを挙げることができる。これらの物質を修飾したDNAは、例えば、DNAの3'末端にリン酸基を導入しそれぞれの化合物のヒドロキシル基と脱水反応により化合物が修飾されることで得ることができる。
【0031】
嵩高い(電荷的に中性の)分子としては、微粒子系として、例えば、粒系5nm〜10μmの範囲の金微粒子、ポリスチレン微粒子、シリカ微粒子、フラーレンを挙げることができる。これらの物質を修飾したDNAは、例えば、金微粒子の場合、DNAの3'末端に導入し、またヒドロキシル基を修飾した金微粒子が脱水反応により化合物が修飾されることで得ることができる。ポリスチレン微粒子の場合、DNAの3'末端に導入し、ヒドロキシル基を修飾したポリスチレン微粒子と脱水反応により化合物が修飾されることで得ることができる。シリカ微粒子の場合、DNAの3'末端に導入し、シリカ微粒子のヒドロキシル基とリン酸基が脱水反応により化合物が修飾されることで得ることができる。フラーレンの場合、DNAの3'末端に導入し、ヒドロキシル基を修飾したフラーレンが脱水反応により化合物が修飾されることで得ることができる。
【0032】
BプローブDNAは、ターゲットDNAと相補的な塩基配列を有するものを用意する。さらに、前記SプローブDNA、BプローブDNAおよびターゲットDNAは、ターゲットDNAとハイブリダイズしたSプローブDNAの非固定末端とBプローブDNAのSプローブDNA側末端とが連続するような塩基配列をそれぞれ有するように、SプローブDNAおよびBプローブDNAの塩基配列を、ターゲットDNAの塩基配列に基づいて決定する。SプローブDNAおよびBプローブDNAの塩基数は、ターゲットDNAの塩基数を考慮して、前記範囲で適宜決定することができる。例えば、SプローブDNAおよびBプローブDNAの塩基数の合計とターゲットDNAの塩基数とが等しくなるように各DNAの塩基数を設定することもできるし、SプローブDNAおよびBプローブDNAの塩基数の合計より、ターゲットDNAの塩基数が短くなるように各DNAの塩基数を設定することもできる。
【0033】
ハイブリダイゼーションおよびライゲーションは、この順番に逐次行うこともできるが、同時進行で行うこともできる。逐次行う場合は、例えば、以下のように実施できる。SプローブDNAを固定化した電極上にBプローブDNA、ターゲットDNAを加え94℃で3分間熱変性し、しばらく放置し、その後ライガーゼを加え60℃で20分間ライゲーション反応を行う。
【0034】
同時進行で行う場合は、SプローブDNAを固定化した電極上にBプローブDNA、ターゲットDNAおよびライガーゼを逐次または同時に添加し、例えば、94℃で3分間熱変性を行い、次いで60℃で20分間ライゲーション反応を行う。この際、溶液の蒸発を防ぐために、反応前にミネラルオイルを加えることが好ましい。BプローブDNA、ターゲットDNAおよびライガーゼは適当な緩衝液とともに添加することができ、適当な緩衝液としては、例えば、20 mM Tris-HCl (pH 8.3), 25 mM KCl, 10mM MgCl2, 0.5 mM NAD, and 0.01% Triton X-100を挙げることができる。
【0035】
ライガーゼとしては、熱耐性に強いAmpligase(登録商品) Thermostable DNA Ligase(EPICENTRE社)を用いることができる。高い熱安定性は高いハイブリダイゼーション強度をもたらし、非特異的結合を除き、ターゲットDNAの熱変性からライゲーション反応まで同時に行うことが可能になるため好ましい。
【0036】
逐次行う場合および同時進行で行う場合とも、電極には、等モル、例えば、10μMのSプローブDNAを固定し、これに対して、10μMのBプローブDNAおよび10μMのターゲットDNAを加えることができる。電極に固定したSプローブDNAの量に応じて、BプローブDNAおよびターゲットDNAの量は変化させることができる。
【0037】
ハイブリダイゼーションおよびライゲーション条件においた後に、電極表面の交流インピーダンスを測定する。交流インピーダンス測定は、ハイブリダイズしたDNAを変性した後に実施するか、ハイブリダイズしたDNAを変性することなしに実施することができる。ハイブリダイズしたDNAを変性することなしに実施しても、交流インピーダンス測定は良好に実施することができることから、工程を省略できるという観点からもハイブリダイズしたDNAを変性することなしに実施することが好ましい。
【0038】
交流インピーダンス測定は、適当な電解液を電極表面に添加して行うことが好ましい。電解液の組成は、電極表面に固定されたDNAを変質や変性させないものであり、適度の導電性を有するものであることが好ましく、そのような観点から、電解液としては、例えば、5 mM K3[Fe(CN)6] / K4[Fe(CN)6](1:1)リン酸緩衝溶液を用いることができる。ただし、これに限定されることはなく、種々の電解液を適宜使用することができる。
【0039】
また、上記電解液は、ハイブリダイゼーションおよびライゲーションに用いた溶液を除去することなく、そのまま電極上に添加して利用することができる。ただし、ハイブリダイゼーションおよびライゲーションに用いた溶液を除去し、次いで、必要により洗浄等した後に、上記電解液を添加することもできる。
【0040】
交流インピーダンス測定は、電極間の交流インピーダンス測定を常法により行うことで実施できる。具体的には、測定は、室温(例えば、10〜30℃の範囲)、周波数10-600k Hzの範囲でAC電圧50mVを印可することにより、ネイキストプロット描画・解析することにより行うことができる。
【0041】
本発明の方法によれば、ターゲットDNAが一塩基多型であるか否かを判定することができる。ターゲットDNAは、正常配列である場合と一塩基多型である場合とがある。
【0042】
SプローブDNAの非固定末端の一塩基が、正常配列のターゲットDNA中のSプローブDNA非固定末端一塩基と対向する塩基と相補的である場合、正常配列のターゲットDNAはSプローブDNAおよびBプローブDNAとハイブリダイズし、かつライゲーションされ、ターゲットDNAとSプローブDNAおよびBプローブDNA(BプローブDNAとしてビオチンが固定されたBプローブDNAを用いた場合を例に説明する)との2本鎖DNAの末端にビオチンが固定された鎖が電極表面に維持される。図2の上図(perfect match)。それに対して、一塩基多型であるターゲットDNAは、SプローブDNAおよびBプローブDNAとハイブリダイズするが、ライゲーションされず、ハイブリダイゼーションは維持できず、電極表面には、SプローブDNAのみが残る。図2の下図(mismatch)。
【0043】
尚、図2の検出(detection)においては、ターゲットDNAはプローブDNAから解離している状態が記載されているが、実際は、一部のターゲットDNAは、perfect matchの場合(上図)もmismatchの場合(下図)も、プローブDNAとハイブリダイゼーションを維持し、一定の平衡状態を保っていると考えられる。そのような平衡状態を保っていても本発明では、交流インピーダンス測定を行うことで、perfect matchとmismatchの場合を識別できる。
【0044】
電極表面に、ターゲットDNA(正常配列)とSプローブDNAおよびBプローブDNAとの2本鎖DNAの末端にビオチンが固定された鎖が維持されている場合と、SプローブDNAのみが電極表面に固定されている場合とを、交流インピーダンス測定により検出する。
【0045】
SプローブDNAの非固定末端の一塩基が、一塩基多型のターゲットDNA中のSプローブDNA非固定末端一塩基と対向する塩基と相補的である場合、一塩基多型のターゲットDNAはSプローブDNAおよびBプローブDNAとハイブリダイズし、かつライゲーションされ、ターゲットDNAとSプローブDNAおよびBプローブDNAとの2本鎖DNAの末端にビオチンが固定された鎖が電極表面に維持されさる。それに対して、正常配列であるターゲットDNAは、SプローブDNAおよびBプローブDNAとハイブリダイズするが、ライゲーションされず、ハイブリダイゼーションは維持できず、電極表面には、SプローブDNAのみが残る。
【0046】
電極表面に、ターゲットDNA(一塩基多型)とSプローブDNAおよびBプローブDNAとの2本鎖DNAの末端にビオチンが固定された鎖が維持されている場合と、SプローブDNAのみが電極表面に固定されている場合とを、交流インピーダンス測定により検出する。
【0047】
SプローブDNAの非固定末端の一塩基が、正常配列のターゲットDNA中のSプローブDNA非固定末端一塩基と対向する塩基と非相補的である場合、一塩基多型のターゲットDNAはSプローブDNAおよびBプローブDNAとハイブリダイズし、かつライゲーションされ、ターゲットDNAとSプローブDNAおよびBプローブDNAとの2本鎖DNAの末端にビオチンが固定された鎖が電極表面に維持される。それに対して、正常配列であるターゲットDNAは、SプローブDNAおよびBプローブDNAとハイブリダイズするが、ライゲーションされず、ハイブリダイゼーションは維持できず、電極表面には、SプローブDNAのみが残る。
【0048】
電極表面に、ターゲットDNA(一塩基多型)とSプローブDNAおよびBプローブDNAとの2本鎖DNAの末端にビオチンが固定された鎖が維持されている場合と、SプローブDNAのみが電極表面に固定されている場合とを、交流インピーダンス測定により検出する。
【0049】
SプローブDNAの非固定末端の一塩基が、一塩基多型のターゲットDNA中のSプローブDNA非固定末端一塩基と対向する塩基と非相補的である場合、正常配列のターゲットDNAはSプローブDNAおよびBプローブDNAとハイブリダイズし、かつライゲーションされ、ターゲットDNAとSプローブDNAおよびBプローブDNAとの2本鎖DNAの末端にビオチンが固定された鎖が電極表面に維持される。それに対して、一塩基多型であるターゲットDNAは、SプローブDNAおよびBプローブDNAとハイブリダイズするが、ライゲーションされず、ハイブリダイゼーションは維持できず、電極表面には、SプローブDNAのみが残る。
【0050】
電極表面に、ターゲットDNA(正常配列)とSプローブDNAおよびBプローブDNAとの2本鎖DNAの末端にビオチンが固定された鎖が維持されている場合と、SプローブDNAのみが電極表面に固定されている場合とを、交流インピーダンス測定により検出する。
【0051】
上記原理を利用して本発明では、同一の検体由来のターゲットDNAを、
非固定末端の一塩基が、ターゲットDNA中の前記一塩基と対向する塩基と相補的であるSプローブDNAを用いる方法と、
非固定末端の一塩基が、ターゲットDNA中の前記一塩基と対向する塩基と非相補的であるSプローブDNAを用いる方法に供し、
両方の方法で得られた交流インピーダンス測定結果に基づいて、ターゲットDNAが一塩基多型であるか否かを判定することができる。
【0052】
この方法を利用することで、ターゲットDNAの対立遺伝子の型を判定することができる。より具体的には、ターゲットDNAの対立遺伝子の型が、ホモ接合体AAまたはaaであるか、ヘテロ接合体Aaであるかを判定することができる。
【0053】
図3にターゲットDNAの対立遺伝子の型の判定についての測定原理を示す。
いずれの場合も、正常型と相補的な配列を有するSプローブDNA(perfect match DNA)を固定した電極と、非固定末端の一塩基が、ターゲットDNA中の対向する塩基と非相補的であるSプローブDNA(mismatch DNA)を固定した電極を用いる。
【0054】
尚、図3の検出(detection)においては、図2とは逆に、ターゲットDNAはプローブDNAとハイブリダイゼーションを維持した状態が記載されている。しかし、実際は、一部のターゲットDNAは、perfect matchの場合(上図)もmismatchの場合(下図)も、プローブDNAと解離し、一定の平衡状態を保っていると考えられる。そのような平衡状態を保っていても本発明では、交流インピーダンス測定を行うことで、perfect match(完全一致)とmismatch(一塩基違い)の場合を識別できる。
【0055】
ホモ接合体AAの場合を(1)に示す。(1)では、ターゲットDNAの対立遺伝子はいずれも正常型であるため、perfect match DNAとはハイブリダイゼーションおよびライゲーションを起こす((1)の上図)が、mismatch DNAとはハイブリダイゼーションおよびライゲーションを起こさない((1)の下図)。
ホモ接合体aaの場合を(2)に示す。(2)では、ターゲットDNAの対立遺伝子はいずれも一塩基多型であるため、perfect match DNAとはハイブリダイゼーションおよびライゲーションを起さない((2)の上図)が、mismatch DNAとはハイブリダイゼーションおよびライゲーションを起す((2)の下図)。
ヘテロ接合体Aaの場合を(3)に示す。(3)では、ターゲットDNAの対立遺伝子の一方は正常型であり、他方が一塩基多型であるため、perfect match DNAとはハイブリダイゼーションおよびライゲーションを起さず((3)の上図)、かつmismatch DNAともハイブリダイゼーションおよびライゲーションを起さない((3)の下図)。
【0056】
ターゲットDNAが一塩基多型であるか否かを判定する場合、以下の判定式により得られる判定値を用いることもできる。
【数2】

完全一致のRet: 正常型プローブを用いた交流インピーダンス測定により得られた電荷移動抵抗
一塩基違いのRet: 異常型プローブを用いた交流インピーダンス測定により得られた電荷移動抵抗
【0057】
即ち、ネイキストプロットから求めた正常型プローブを用いた交流インピーダンス測定により得られた電荷移動抵抗と異常型プローブを用いた交流インピーダンス測定により得られた電荷移動抵抗を上記式に従って一塩基多型の判定を行う。電荷移動抵抗(Ret)は、描写したネイキストプロットの実数のインピーダンス(x軸)における交点間の距離(半円の直径)を求めることよりを決定することができる。
【0058】
一塩基多型の判定は、正常型では正の値を示し、異常型(ヘテロ)では0付近の値を示し、また異常型(ホモ)では負の値を示すことに基づいて行うことができる。
【0059】
本発明の上記方法を利用することでアドレナリンレセプターの一塩基多型の検出が可能である。その場合、SプローブDNAとして、配列表の配列番号7または8に示す塩基配列を含むDNAを用い、かつBプローブDNAとして、配列表の配列番号9に示す塩基配列を含むDNAを用いる。
【0060】
本発明の上記方法を利用することでPPARγの一塩基多型の検出が可能である。その場合、SプローブDNAとして、配列表の配列番号10または11に示す塩基配列を含むDNAを用い、かつBプローブDNAとして、配列表の配列番号12に示す塩基配列を含むDNAを用いる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を、具体例を挙げてさらに詳細に説明する。
例1
[電極間隔と電荷移動抵抗の関係について]
(1)半導体微細加工技術を用いて電極間を60μm、500μm、4500μmとして電極を作製した。それぞれの電極の面積は1.4 mm2とした。
(2)金電極を硫酸過酸化水素(7:3)に加え電極表面を洗浄し、10μMチオール修飾DNA10μlを添加し、30分放置し、金電極上に固定化した。
〈チオール修飾DNA〉
チオール修飾DNA:HS-(CH2) 6-tctcctattgacgcagaaagcgatt(配列番号1)
(3)固定化溶液を取り除き、TEバッファー(0.01 M, pH8.0)を電極チャンバー内に加えた。
(4)各電極間の交流インピーダンスを測定した。測定は、20℃、周波数10-600k Hzの範囲でAC電圧50mVを印可することにより、ネイキストプロット描画・解析することにより行った。
【0062】
図4より電極間60μmの金電極では電荷移動抵抗を得ることができなかったが、電極間500μm以上の金電極では電荷移動抵抗を得ることができた。すなわち、DNAを固定化した金電極チップを用いて交流インピーダンスを用いて電荷移動抵抗求めるには電極間が500μm以上であれば、良好に測定可能であることが示された。本発明ではこれ以降、電極間500μm電極面積1.4 mm2の金電極を用いる。
【0063】
例2
[電極界面におけるDNA連結反応と電荷移動抵抗の関係について]
金電極、チオール修飾したDNAを固定化した金電極、ライゲーション反応した金電極における電荷移動抵抗を比較検討した。
【0064】
(a)金電極:金電極を硫酸過酸化水素(7:3)に加え電極表面を洗浄した。
(b)金電極へのチオール修飾したDNA:(a)の電極に10μMのチオール修飾したDNA10μlを電極に添加し、30分静置して固定化した。
(c)ライゲーション反応を起こした電極:(b)の電極に100μMビオチン修飾したプローブDNA2μlを加え(終濃度10μM)、更に100μMターゲットDNA2μlを加えた(終濃度10μM)。さらに、2.5U/μlリガーゼ0.5μl(終濃度0.5U/μl)、リガーゼ緩衝液2μlおよび滅菌蒸留水で全量を20μlにした。最後にミネラルオイル20μlを加え溶液の蒸発を防ぎ、94℃で3分間熱変性を行い、60℃で20分間ライゲーション反応を行った。
【0065】
〈プローブDNA〉
チオール修飾DNA:
HS-(CH2) 6-ccaccgtgggaggcaacctgctggtcatcgtggccatcgcct(配列番号2)
ビオチン修飾DNA: ggactccgactccagaccat-biotin(配列番号3)
【0066】
〈ターゲットDNA〉
cagtgaaggaatcgctttctgggtcaataggagaatcgcccagagtttcacccataacagcat(配列番号4)
【0067】
(a)(b)(c)それぞれの電極の交流インピーダンスを測定した。測定は、周波数10-600k Hzの範囲でAC電圧50mVを印可することにより、ネイキストプロット描画・解析することにより行った。測定溶液は、20℃で5 mM K3[Fe(CN)6] / K4[Fe(CN)6](1:1)リン酸緩衝溶液を用いた。尚、(c)では、ライゲーション反応後、反応液を20℃にし、20 mM K3[Fe(CN)6] / K4[Fe(CN)6](1:1)リン酸緩衝溶液(0.1M、pH7.8)4μlを添加して(終濃度5 mM)から測定を行った。
【0068】
図5より金電極の電荷移動抵抗は、459±239Ω 金電極へのチオール修飾したDNAの電荷移動抵抗は2023±441Ω ライゲーション反応を起こした電極の電荷移動抵抗は4612±523Ωを示した。金電極とチオール修飾したDNAの金電極の電化移動抵抗を比較したところ約4.4倍の増加が見られ、さらにチオール修飾したDNAの金電極とライゲーション反応をした金電極の電化移動抵抗を比較したところ約2.3倍の増加が見られた。すなわち、電荷移動抵抗は連結したDNAが最も抵抗が高く、次に連結していないDNAとなった。この結果、交流インピーダンスを用いて一塩基違いによるDNAの連結反応有無が検出可能であること示された。
【0069】
例3
[リガーゼによる連結反応と電荷移動抵抗の関係について]
(1)プローブDNAの固定化は例2と同様にして行った。
【0070】
〈プローブDNA〉
チオール修飾DNA:例2と同じオリゴDNA
(2)固定化溶液を取り除いた。
(3)ハイブリダーゼーションおよびライゲーション反応を行った。電極内にリガーゼ溶液(0.5μl)を加え、一方の電極ではリガーゼ溶液(0.5μl)を加えなかった。また、反応条件は例2と同じである。
【0071】
〈プローブDNAおよびターゲットDNA〉
ビオチン修飾DNA:例2と同じオリゴDNA
ターゲットDNA:例2と同じオリゴDNA
(4)交流インピーダンス測定を行った。測定条件は例2と同じである。
【0072】
図6よりリガーゼ加えることで4293±680Ωの電荷移動抵抗を示した。一方リガーゼを加えなかった時では、1543±184Ωの電荷移動抵抗を示した。つまりリガーゼが存在しないとDNAの連結反応が生じないことが示され、すなわち本発明の手法においてリガーゼによりDNAの連結反応が生じ、これを交流インピーダンスに用いることで検出できることが示された。
【0073】
例4
[PCR産物を用いた測定感度の検討]
(1)DNAの固定化および測定条件は、例2と同じである。
〈チオール修飾プローブDNA〉
チオール修飾プローブDNA:例2と同じオリゴDNA
(2)固定化溶液を取り除いた。
(3)ハイブリダーゼーションおよびライゲーション反応を行った。電極内にリガーゼを加え一方の電極ではリガーゼを加えなかった。また、反応条件は例2と同じである。PCR産物であるターゲットDNA終濃度を0.3 ng/μl、1.0 ng/μl、3.0 ng/μlとした。終濃度0.3ng/ ml の場合、30ng/ml PCR産物を0.20 mlを加えPCR産物の終濃度を0.3ng/ mlとし、終濃度1.0ng/ mlの場合、30ng/ml PCR産物を0.66 mlを加えPCR産物の終濃度を1.0ng/ mlとし、終濃度3.0ng/ ml : 30ng/ml PCR産物を2.00 mlを加えPCR産物の終濃度を3.0ng/ mlとした。
【0074】
〈プローブDNA〉
ビオチン修飾DNA:例2と同じオリゴDNA
【0075】
〈ターゲットDNA〉
PCR産物としてのターゲットDNA:
フォワードプライマー:ccaataccgccaacaccagt(配列番号5)
リバースプライマー:aggagtcccatcaccaggtc(配列番号6)
【0076】
上記2種類のプライマーを用い、テンプレートには血液から抽出したヒトゲノムDNAを使用して下記の条件でPCRを行った。
1.94 ℃, 5 min
2.94 ℃, 30 sec
3.67 ℃, 30 sec
4.72 ℃, 30 sec
5.2.〜4.を30回
6.72 ℃, 10 min
7.4 ℃, ∞
上記の条件の下、合成されたPCR産物をカラム精製し、ターゲットDNAとして使用した。
【0077】
(4)20mM K3[Fe(CN)6] / K4[Fe(CN)6](1:1)リン酸緩衝溶液を、終濃度が5mMとなるように4μlそれぞれの電極に加えた。
(5)ハイブリダーゼーションおよびライゲーション反応後の正常型と変異型の電極の交流インピーダンスを測定した。測定は、例2と同様の条件で行った。即ち、20℃で周波数10-600k Hzの範囲でAC電圧50mVを印可することにより、ネイキストプロット描画・解析することにより行った。
【0078】
図7よりPCR産物の終濃度は1.0 ng/μl以上におい電荷移動抵抗は一定になっており、本例の実験系では、一塩基多型を検出するにはPCR産物であるターゲットDNAは1.0 ng/μlであると良好な結果が得られることが示された。
【0079】
例5
[β3アドレナリンレセプターの一塩基多型の検出]
(1)本手法は2電極を使って一塩基多型を判定するものである。一電極を正常型のプローブDNAをもう一方の電極に変異型のプローブDNAを金電極上に固定化した。DNAの固定化測および定条件は、例2と同じである。即ち、10μMの正常型のプローブDNAと変異型のプローブDNA溶液を、各電極にそれぞれ20μl載せ、固定化処理を行った。
【0080】
〈固定化プローブ〉
正常型プローブ:HS-(CH2) 6-ccgtgggaggcaacctgctggtcatcgtggccatcgcct(配列番号7)
変異型プローブ:HS-(CH2) 6-ccgtgggaggcaacctgctggtcatcgtggccatcgccc(配列番号8)
【0081】
(2)固定化溶液を取り除いた。
(3)ハイブリダーゼーションおよびライゲーション反応を行うための反応溶液を調節し、それぞれの電極に20μlの反応溶液と20μlのミネラルオイルを加え94 ℃で3 min 熱変性させたのち60 ℃で20 min ハイブリダーゼーションおよびライゲーション反応を行った。反応溶液は、100μMビオチン修飾プローブDNA2μl(終濃度10μM)と30ng/ml PCR産物であるターゲットDNA0.66 ml(終濃度1 ng/μl)、2.5 U/μlのリガーゼ0.5μl(終濃度0.5 U/μl)、DNAリガーゼバッファー2μlを用いた。
【0082】
ビオチン修飾プローブDNA:ggactccgactccagaccat-biotin(配列番号9)
〈ターゲットDNA〉
PCR産物としてのターゲットDNA:例4と同じ
【0083】
(4)5 mM K3[Fe(CN)6] / K4[Fe(CN)6](1:1)リン酸緩衝溶液をそれぞれの電極に加えた。
【0084】
(5)ハイブリダーゼーションおよびライゲーション反応後の正常型と変異型の電極の交流インピーダンスを測定した。測定は、20℃、周波数10-600k Hzの範囲でAC電圧50mVを印可することにより、ネイキストプロット描画・解析することにより行った。
【0085】
図8に示すように正常型DNAを持つサンプルにおいて正常型プローブでは5642±689 Ωの電荷移動抵抗を示し、変異型プローブでは3091±81 Ωの電荷移動抵抗を示し、約2500Ωの変化量を得ることができた。次に変異型(ヘテロ)DNAを持つサンプルにおいては、は4470±134 Ωの電荷移動抵抗を示し、変異型プローブでは4428±213 Ωの電荷移動抵抗を示し、両者においてほぼ変化がなかった。最後に、変異型(ホモ)DNAを持つサンプルにおいては、は3179±260 Ωの電荷移動抵抗を示し、変異型プローブでは5056±174 Ωの電荷移動抵抗を示し、約2000Ωの変化量を得ることができた。つまり正常型と異常型のホモとヘテロを、本発明を用いることで判断できることが示された。また本発明の手法を用いてPCR産物を用いても一塩基多型を判定することは可能であること示された。
【0086】
例6
[PPARγ2の一塩基多型の検出]
実験方法は、例5と同じである。
以下に各種プローブの配列を示す。
〈固定化プローブ〉
正常型プローブ:HS-(CH2) 6-atgctgttatgggtgaaactctgggagattcrccrattgacc(配列番号10)
変異型プローブ:HS-(CH2) 6-atgctgttatgggtgaaactctgggagattctcctattgacg(配列番号11)
ビオチン修飾プローブDNA:cagaaagcgattccttcactg-biotin(配列番号12)
【0087】
〈ターゲットDNA〉
PCR産物としてのターゲットDNA:
フォワードプライマー:tgatgtcttgactcatgggtgt(配列番号13)
リバースプライマー:cccaatagccgtatctggaa(配列番号14)
【0088】
上記2種類のプライマーを用い、テンプレートには血液から抽出したヒトゲノムDNAを使用して下記の条件でPCRを行った。
1.94 ℃, 5 min
2.94 ℃, 30 sec
3.55 ℃, 30 sec
4.72 ℃, 1 min
5.2.〜4.を30回
6.72 ℃, 7 min
7.4 ℃, ∞
上記の条件の下合成されたPCR産物をカラム精製し、ターゲットDNAとして使用した。
【0089】
図9に示すように正常型DNAを持つサンプルにおいて正常型プローブでは6460±1331 Ωの電荷移動抵抗を示し、変異型プローブでは3078±691 Ωの電荷移動抵抗を示し、約3400Ωの変化量を得ることができた。次に変異型(ヘテロ)DNAを持つサンプルにおいては、は2736±481 Ωの電荷移動抵抗を示し、変異型プローブでは3647±442電荷移動抵抗を示し、両者に約900Ωの変化が合ったが、正常と変異型を判定することは可能であった。すなわち、本発明の手法を用いて例4と同様に一塩基多型を検出することが可能であり、また異なる一塩基多型においても同様に検出することができることが示された。
【0090】
例7
[一塩基多型の判定]
例5および6で得られた結果から、以下の式に従って一塩基多型の判定を行った。
【数3】

【0091】
完全一致のRet: 正常型プローブにおけるライゲーション後の電荷移動抵抗
一塩基違いのRet: 異常型プローブにおけるライゲーション後の電荷移動抵抗
【0092】
β3アドレナリン受容体における一塩基多型の判定
式1の判定式を用いて例5で得た図8の測定結果より一塩基多型の判定を行った。結果を図10に示す。正常型DNAを持つサンプルではでは、0.25±0.07 の判定値(正の値)を示し、さらに変位型(ヘテロ)では、0±0.04 の判定値(0付近)を示し、また変位型(ホモ)では、-0.24±0.06 の判定値(負の値)を示した。式1を用いてβ3アドレナリン受容体における一塩基多型の判定を行うことができた。
【0093】
PPARにおける一塩基多型の判定
式1の判定式を用いて例6で得た図9の測定結果より一塩基多型の判定を行った。結果を図11に示す。正常型DNAを持つサンプルでは、0.30±0.11 の判定値(正の値)を示し、さらに変位型(ヘテロ)では、-0.12±0.03 の判定値(0付近)を示した。式1を用いてPPARにおける一塩基多型の判定を行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、DNAの検出方法に関する分野に利用できる。特に、アドレナリンレセプターの一塩基多型の検出方法およびPPARγの一塩基多型の検出方法に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明で使用する装置の一例。上側の(1)は平面図、下側の(2)は断面図である。
【図2】本発明の方法の原理を示す図。
【図3−1】本発明の方法の原理を示す図。
【図3−2】本発明の方法の原理を示す図。
【図3−3】本発明の方法の原理を示す図。
【図4】交流インピーダンスと電極間距離との関係を示す結果。
【図5】電極界面におけるDNAの連結の検討結果。
【図6】リガーゼによるDNAの連結の検討結果。
【図7】PCR産物を用いた測定感度の検討結果。
【図8】β3アドレナリンレセプターの一塩基多型の検出結果。
【図9】PPARγ2の一塩基多型の検出結果。
【図10】β3アドレナリン受容体における一塩基多型の判定結果。
【図11】PPARγ2の一塩基多型の判定結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)プローブDNA(以下、SプローブDNAという)を固定した電極表面において、非固定プローブDNA(以下、BプローブDNAという)およびターゲットDNAを、ハイブリダイゼーションおよびライゲーションし得る条件下におき、次いで
(2)電極表面の交流インピーダンスを測定するDNAの検出方法であって、
SプローブDNAとターゲットDNAとは、少なくともSプローブDNAの非固定末端の一塩基を除き相補的であり、
BプローブDNAとターゲットDNAとは相補的であり、かつ
SプローブDNA、BプローブDNAおよびターゲットDNAは、ターゲットDNAとハイブリダイズしたSプローブDNAの非固定末端とBプローブDNAのSプローブDNA側末端とが連続するような塩基配列をそれぞれ有する方法。
【請求項2】
BプローブDNAが、10〜150bpのDNAである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
BプローブDNAが、ビオチンを固定したプローブDNAである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
BプローブDNAが、陽電荷あるいは負電荷を有する分子、または嵩高い分子を固定化したDNAである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
BプローブDNAが、5〜100bpのDNAである請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
交流インピーダンス測定は、ハイブリダイズしたDNAを変性した後に実施するか、ハイブリダイズしたDNAを変性することなしに実施する請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
交流インピーダンス測定は、室温で行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
非固定末端の一塩基が、ターゲットDNA中の前記一塩基と対向する塩基と相補的であるSプローブDNAを用いる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
非固定末端の一塩基が、ターゲットDNA中の前記一塩基と対向する塩基と非相補的であるSプローブDNAを用いる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ターゲットDNAが一塩基多型であるか否かを判定する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
同一の検体由来のターゲットDNAを、
非固定末端の一塩基が、ターゲットDNA中の前記一塩基と対向する塩基と相補的であるSプローブDNA(以下、正常型プローブという)を用いる方法と、
非固定末端の一塩基が、ターゲットDNA中の前記一塩基と対向する塩基と非相補的であるSプローブDNA(以下、異常型プローブという)を用いる方法に供し、
両方の方法で得られた交流インピーダンス測定結果に基づいて、ターゲットDNAが一塩基多型であるか否かを判定する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ターゲットDNAの対立遺伝子の型を判定する請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ターゲットDNAの対立遺伝子の型が、ホモ接合体AAまたはaaであるか、ヘテロ接合体Aaであるかを判定する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
一塩基多型であるか否かの判定を以下の判定値を算出して行う請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法
【数1】

完全一致のRet: 正常型プローブを用いた交流インピーダンス測定により得られた電荷移動抵抗
一塩基違いのRet: 異常型プローブを用いた交流インピーダンス測定により得られた電荷移動抵抗
【請求項15】
アドレナリンレセプターの一塩基多型の検出に用いる請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
SプローブDNAとして、配列表の配列番号7および/または8に示す塩基配列を含むDNAを用い、かつBプローブDNAとして、配列表の配列番号9に示す塩基配列を含むDNAを用いる請求項15に記載の方法。
【請求項17】
PPARγの一塩基多型の検出に用いる請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
SプローブDNAとして、配列表の配列番号10および/または11に示す塩基配列を含むDNAを用い、かつBプローブDNAとして、配列表の配列番号12に示す塩基配列を含むDNAを用いる請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−20451(P2007−20451A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205884(P2005−205884)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
2.テフロン
【出願人】(503117829)財団法人富山県新世紀産業機構 (12)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(591124721)立山マシン株式会社 (36)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】