説明

III族窒化物半導体レーザ、レーザ装置、及びIII族窒化物半導体レーザを製造する方法

【課題】 リッジ部への応力の集中を避けることが可能であると共に傾くことを抑制可能なIII族窒化物半導体レーザを提供する。
【解決手段】 III族窒化物半導体レーザ1は、リッジ部24を含むIII族窒化物半導体積層20と、III族窒化物半導体積層20の上に設けられた絶縁膜60と、リッジ部24の上面24aと接合を成すp電極71と、絶縁膜60及びp電極71の上に設けられたpパッド電極72と、絶縁膜60の上に設けられた第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82とを備える。III族窒化物半導体積層20は、順に配列された第1の部分21、第2の部分22及び第3の部分23を有する。第2の部分22は前記リッジ部24を含む。第1の擬似パッド81は第1の部分21の上に設けられ、第2の擬似パッド82は第3の部分23の上に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体レーザ、レーザ装置、及びIII族窒化物半導体レーザを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、GaN基板を用いた化合物半導体レーザの作製方法が記載されている。特許文献1に記載の作製方法においては、単一のリッジ部(シングルリッジ構造)を有する化合物半導体レーザを作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−98349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シングルリッジ構造を有する半導体レーザの作製方法では、例えば、n型GaN基板上に、アンドープGaNバッファ層、n型GaNコンタクト層、活性層、p型AlGaNキャリアブロック層、p型GaN光ガイド層、p型AlGaNクラッド層、及びp型GaNコンタクト層を順次積層して積層基板を形成する。その積層基板の表面に、p側コンタクト電極層を形成する。そのp側コンタクト電極層の上に、SiNよりなる第1のマスク層、Alよりなる第2のマスク層、及びSiNよりなる第3のマスク層を積層する。
【0005】
続いて、第3のマスク層の上に、ストライプ状のパターンを有するレジストマスクを形成する。そのレジストマスクをマスクとした反応性イオンエッチングにより、第3のマスク層、第2のマスク層、第1のマスク層、及びp側コンタクト電極層を順次エッチングする。このエッチングにより、第3のマスク層、第2のマスク層、及び第1のマスク層からストライプ状の積層マスク部を形成すると共に積層基板の表面を露出させる。続いて、レジストマスクを除去した後に、積層マスク部をマスクとした反応性イオンエッチングによって、積層基板をエッチングする。このエッチングにより、ストライプ状のリッジ部が形成される。これにより、シングルリッジ構造を有する半導体レーザが作製される。
【0006】
このシングルリッジ構造を有する半導体レーザは、pダウン実装によりレーザ装置に実装することができる。pダウン実装では、半導体レーザの基板とレーザ装置の搭載部材との間にリッジ部が配置される。シングルリッジ構造を有する半導体レーザにおいては、pダウン実装の際に生じる応力がリッジ部に集中することがある。また、シングルリッジ構造を有する半導体レーザは、pダウン実装の際に、搭載部材に対して傾くことがある。
【0007】
本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、実装時において、リッジ部への応力の集中を避けることが可能であると共に傾くことを抑制可能なIII族窒化物半導体レーザ、レーザ装置、及びIII族窒化物半導体レーザを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るIII族窒化物半導体レーザは、(a)基板の上に設けられリッジ部を含むIII族窒化物半導体積層と、(b)前記III族窒化物半導体積層の上に設けられた絶縁膜と、(c)前記リッジ部の上面と接合を成す第1の電極と、(d)前記絶縁膜及び前記第1の電極の上に設けられた第2の電極と、(e)前記絶縁膜の上に設けられ前記リッジ部の延在方向に延びる第1及び第2のパッドと、を備える。前記III族窒化物半導体積層は、前記リッジ部の延在方向に交差する方向に順に配列された第1の部分、第2の部分、及び第3の部分を有する。前記第2の部分は前記リッジ部を含む。前記絶縁膜は、前記第1の部分の上面、前記第3の部分の上面、及び前記リッジ部の側面の上に設けられている。前記第1のパッドは前記第1の部分の上に設けられており、前記第2のパッドは前記第3の部分の上に設けられている。前記リッジ部の前記上面は半極性面である。
【0009】
このIII族窒化物半導体レーザは、リッジ部を含むIII族窒化物半導体積層を備えている。III族窒化物半導体積層は、順に配列された第1の部分、第2の部分、及び第3の部分を有している。リッジ部は、第2の部分に含まれている。第1の部分の上に第1のパッドが設けられており、第3の部分の上に第2のパッドが設けられている。このIII族窒化物半導体レーザは、第2の電極をレーザ装置の搭載部材に向けてレーザ装置に実装することができる。このIII族窒化物半導体レーザによれば、その実装の際に生じる応力を、第1のパッドと第2のパッドとリッジ部とで分けることができる。よって、その応力がリッジ部に集中することを避けることが可能となる。また、III族窒化物半導体レーザを、第2の電極をレーザ装置の搭載部材に向けてレーザ装置に実装するとき、第1及び第2のパッドが搭載部材を支持することが可能となるので、III族窒化物半導体レーザが搭載部材に対して傾くことを抑制可能となる。
【0010】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザにおいては、前記第1の部分の前記上面から前記第1のパッドの上面までの距離、及び、前記第3の部分の前記上面から前記第2のパッドの上面までの距離は、前記リッジ部の高さ以上であることができる。このIII族窒化物半導体レーザによれば、第1及び第2のパッドの上面が、リッジ部の上面を基準とする面上となるか、或いは、リッジ部の上面を基準として突出する。このために、当該応力がリッジ部に集中することを確実に避けることが可能となる。また、III族窒化物半導体レーザを、第2の電極をレーザ装置の搭載部材に向けてレーザ装置に実装するとき、III族窒化物半導体レーザが搭載部材に対して傾くことを防止することが可能となる。
【0011】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザにおいては、前記第1及び第2のパッドは、前記リッジ部の前記側面の上の前記絶縁膜から離間していることができる。このIII族窒化物半導体レーザによれば、リッジ部から離間した位置において、第1及び第2のパッドによって搭載部材を支持することが可能となる。
【0012】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザにおいては、前記第1のパッドは、前記第1の部分の前記上面に沿う方向について、前記第1の部分の側面から離間しており、前記第2のパッドは、前記第3の部分の前記上面に沿う方向について、前記第3の部分の側面から離間していることができる。このIII族窒化物半導体レーザによれば、第1及び第2のパッドが素子分離の妨げになることを防止できる。
【0013】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザにおいては、前記第1及び第2のパッドは、金属からなることができる。このIII族窒化物半導体レーザによれば、金属製の第1及び第2のパッドにより放熱性が向上される。
【0014】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザにおいては、前記第1及び第2のパッドは、Pt,Au,Tiの少なくともいずれかを含むことができる。
【0015】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザにおいては、前記リッジ部の前記上面は、III族窒化物半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から10度以上80度以下の範囲の角度で傾斜していることができる。この場合、リッジ部の上面において半極性が強く現れる。
【0016】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザにおいては、第2の電極は、第1及び第2のパッドの上に設けられていることができる。或いは、本発明に係るIII族窒化物半導体レーザにおいては、前記第2の電極は、前記第1及び第2のパッドと前記絶縁膜との間に設けられていることができる。
【0017】
本発明に係るレーザ装置は、(a)上記のIII族窒化物半導体レーザと、(b)主面を有する搭載部材と、(c)前記搭載部材の前記主面の上に配置された導電性接着部材と、を備える。前記III族窒化物半導体レーザは、前記導電性接着部材によって前記搭載部材の前記主面に接着されている。前記リッジ部は、前記基板と前記搭載部材との間に配置されている。
【0018】
このレーザ装置においては、上述したIII族窒化物半導体レーザが、そのリッジ部が基板と搭載部材との間に位置するように実装されている。したがって、このレーザ装置においては、III族窒化物半導体レーザの実装の際に生じる応力を、第1のパッドと第2のパッドとリッジ部とで分けることができる。よって、その応力がリッジ部に集中することを避けることができる。また、このレーザ装置によれば、III族窒化物半導体レーザの実装の際に、第1及び第2のパッドが搭載部材を支持するので、搭載部材に対してIII族窒化物半導体レーザが傾くことを抑制できる。
【0019】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法は、(a)真空チャンバ内において、III族窒化物半導体からなる半導体積層の主面の上に分子線エピタキシ法により金属膜を成膜する工程と、(b)前記金属膜の上にレジスト層を形成する工程と、(c)前記レジスト層の上に第1の絶縁物層を形成する工程と、(d)リッジ部を規定するレジストマスクを前記第1の絶縁物層の上に形成する工程と、(e)前記レジストマスクを用いて前記第1の絶縁物層及び前記レジスト層をエッチングして、多層マスクを形成する工程と、(f)前記多層マスクを用いて前記金属膜及び前記半導体積層をエッチングして、前記金属膜から第1の電極を形成すると共に、前記半導体積層からIII族窒化物半導体積層を形成する工程と、(g)前記III族窒化物半導体積層、及び前記多層マスクの上に第2の絶縁物層を形成する工程と、(h)前記多層マスク及び前記多層マスクの上の前記第2の絶縁物層をリフトオフ法により除去して、前記第1の電極の上に開口部を有する絶縁膜を形成する工程と、(i)前記絶縁膜の上に第1及び第2のパッドを形成する工程と、(j)前記絶縁膜及び前記第1の電極の上に第2の電極を形成する工程と、を備える。前記III族窒化物半導体積層はリッジ部を含む。前記III族窒化物半導体積層は、前記リッジ部の延在方向に順に配列された第1の部分、第2の部分、及び第3の部分を含む。前記第2の部分は前記リッジ部を含む。前記絶縁膜は、前記第1の部分の上面、前記第3の部分の上面、及び前記リッジ部の側面の上に設けられている。前記第1のパッドは、前記第1の部分の上に設けられており、前記第2のパッドは、前記第3の部分の上に設けられている。前記半導体積層の前記主面は半極性面である。前記第1の電極は前記リッジ部の上面と接合をなしている。
【0020】
このIII族窒化物半導体レーザを製造する方法においては、各工程に先立って、半導体積層の半極性の主面の上に第1の電極のための金属膜を成膜する。このため、その後の工程において、半導体積層の主面へ酸素が供給されることが抑制される。この方法においては、半導体積層の主面の上に金属膜を成膜した後に、絶縁膜の形成やリッジ部の形成を行う。すなわち、この方法においては、当該金属膜の上にレジスト層と第1の絶縁物層とを積層する。続いて、リッジ部を規定するレジストマスクを第1の絶縁物層の上に形成した後に、そのレジストマスクを用いたエッチングにより、多層マスクを形成する。その多層マスクを用いたエッチングにより、リッジ部を含むIII族窒化物半導体積層と第1の電極とを形成する。その後、絶縁膜を介して、III族窒化物半導体積層の第1の部分の上に第1のパッドを設けると共に、第3の部分に第2のパッドを設ける。その一方で、第1の電極に接合された第2の電極を設ける。このようにして製造されるIII族窒化物半導体レーザは、第2の電極をレーザ装置の搭載部材に向けてレーザ装置に実装することができる。このIII族窒化物半導体レーザによれば、その実装の際に生じる応力を、第1のパッドと第2のパッドとリッジ部とで分けることができる。つまり、この方法によれば、当該応力がリッジ部に集中することを避けることが可能なIII族窒化物半導体を製造することができる。また、この方法により製造されるIII族窒化物半導体レーザを、第2の電極をレーザ装置の搭載部材に向けてレーザ装置に実装するとき、第1及び第2のパッドが搭載部材を支持することが可能となる。つまり、この方法によれば、実装時において搭載部材に対して傾くことを抑制可能なIII族窒化物半導体レーザを製造することができる。
【0021】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法は、前記金属膜を成膜する工程の前に、前記真空チャンバ内において前記半導体積層の前記主面をガリウム雰囲気にさらす工程をさらに備え、前記半導体積層の前記主面は、窒化ガリウム系半導体からなる半極性面であることができる。この方法によれば、真空チャンバ内で半導体積層の主面をガリウム雰囲気にさらすことにより、半導体積層の主面の酸素濃度を低減することができる。このため、酸素濃度が低減された半導体積層の主面の上に、電極のための金属膜を形成することができる。
【0022】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法は、前記第1及び第2のパッドを形成する工程においては、リフトオフ法によって前記第1及び第2のパッドを形成することができる。
【0023】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法においては、前記第1の部分の前記上面から前記第1のパッドの上面までの距離、及び、前記第3の部分の前記上面から前記第2のパッドの上面までの距離が、前記リッジ部の高さ以上であることができる。この方法により製造されるIII族窒化物半導体レーザにおいては、第1及び第2のパッドの上面が、リッジ部の上面を基準とする面上となるか、或いは、リッジ部の上面を基準として突出する。よって、当該応力がリッジ部に集中することを確実に避けることが可能であると共に、実装時において搭載部材に対して傾くことを防止可能なIII族窒化物半導体レーザを製造することができる。
【0024】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法においては、前記第1及び第2のパッドが前記リッジ部の前記側面の上の前記絶縁膜から離間していることができる。この方法によれば、第1及び第2のパッドによる搭載部材の支持を、リッジ部のから離間した位置において行うことが可能なIII族窒化物半導体レーザを製造することができる。
【0025】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法においては、前記第1及び第2のパッドは、金属からなることができる。この方法によれば、金属製の第1及び第2のパッドにより放熱性が向上されるIII族窒化物半導体レーザを製造することができる。
【0026】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法においては、前記第1及び前記第2のパッドは、Pt,Au,Tiの少なくともいずれかを含むことができる。
【0027】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法においては、前記半導体積層の前記主面及び前記リッジ部の前記上面は、III族窒化物半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から10度以上80度以下の範囲の角度で傾斜していることができる。この場合、半導体層の主面及びリッジ部の上面において半極性が強く現れる。
【0028】
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法においては、前記半導体積層の前記主面は、III族窒化物半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から63度以上80度以下の範囲の角度で傾斜していることができる。半導体積層の主面の傾斜角度が上記の範囲である場合には、半導体層の主面が酸素との結合性に富む。したがって、各工程に先立って半導体積層の主面の上に金属膜を成膜することが重要となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、実装時において、リッジ部への応力の集中を避けることが可能であると共に傾くことを抑制可能なIII族窒化物半導体レーザ、レーザ装置、及びIII族窒化物半導体レーザを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザを示す一部切り欠き斜視図である。
【図2】図1に示されたIII族窒化物半導体レーザの平面図である。
【図3】本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法の主要な工程を示す図である。
【図4】本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法の主要な工程を示す図である。
【図5】本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法の主要な工程を示す図である。
【図6】本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法の主要な工程を示す図である。
【図7】本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法の主要な工程を示す図である。
【図8】本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法の主要な工程を示す図である。
【図9】本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法の主要な工程を示す図である。
【図10】プロセス温度と接触抵抗との関係を示すグラフである。
【図11】本実施の形態に係るレーザ装置を示す模式図である。
【図12】比較例に係るIII族窒化物半導体レーザを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
引き続いて、添付図面を参照しながら、III族窒化物半導体レーザ、レーザ装置、及びIII族窒化物半導体レーザを製造する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0032】
図1は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザを示す一部切り欠き斜視図である。図1には、III族窒化物半導体のc軸、m軸、及びa軸がそれぞれ示されている。図2は、図1に示されたIII族窒化物半導体レーザの平面図である。図1及び図2に示されるように、III族窒化物半導体レーザ1は、基板10を備えている。基板10は、III族窒化物半導体からなる主面10aを有している。基板10は、III族窒化物半導体からなる。基板10のIII族窒化物半導体は、例えばGaNやInNやAlN、或いはそれらの混合物質等からなることができる。
【0033】
主面10aは、III族窒化物半導体のc軸の方向に延びる基準軸(ベクトルVCによって示される)に直交する平面CPから、m軸の方向に傾斜している。したがって、主面10aは半極性を示す。主面10aの平面CPに対する傾斜角度θは、例えば10度以上80度以下の範囲である。傾斜角度θがこの範囲内であると、主面10aの半極性が強く現れる。或いは、傾斜角度θは、例えば、63度以上80度以下の範囲であることができる。
【0034】
III族窒化物半導体レーザ1は、III族窒化物半導体積層20を備えている。III族窒化物半導体積層20は、基板10の主面10aの上に設けられている。III族窒化物半導体積層20は、n型III族窒化物半導体層30といった第1導電型III族窒化物半導体層、活性層40、及びp型III族窒化物半導体層50といった第2導電型III族窒化物半導体層を有している。n型III族窒化物半導体層30、活性層40、及びp型III族窒化物半導体層50は、基板10の主面10aの法線方向に順に積層されている。
【0035】
n型III族窒化物半導体層30は、例えば、n型バッファ層31、n型クラッド層32、及びn型ガイド層33を含むことができる。n型バッファ層31、n型クラッド層32、及びn型ガイド層33は、基板10の主面10aの上に順に積層されている。n型バッファ層31は、例えばGaNやAlGaNやAlInGaN等からなることができる。n型クラッド層32は、例えばGaNやAlGaNやAlInGaN等からなることができる。n型ガイド層33は、例えばGaNやAlGaNやAlInGaN等からなることができる。
【0036】
活性層40は、交互に配列された障壁層41及び井戸層42を含む量子井戸構造を有している。障壁層41は、例えば、GaN、InGaN、InAlGaN等からなることができる。井戸層42は、例えば、GaN、InGaN、InAlGaN等からなることができる。障壁層41のバンドギャップは、井戸層42のバンドギャップよりも大きい。
【0037】
p型III族窒化物半導体層50は、例えば、p型電子ブロック層51、p型ガイド層52、p型クラッド層53、及びp型コンタクト層54を含むことができる。p型電子ブロック層51、p型ガイド層52、p型クラッド層53、及びp型コンタクト層54は、活性層40の上に順に積層されている。p型電子ブロック層51は、例えばGaNやAlGaNやAlInGaN等からなることができる。p型ガイド層52は、例えばGaNやAlGaNやAlInGaN等からなることができる。p型クラッド層53は、例えばGaNやAlGaNやAlInGaN等からなることができる。p型コンタクト層54は、例えばGaNやAlGaNやAlInGaN等からなることができる。
【0038】
III族窒化物半導体積層20は、リッジ部24を有している。III族窒化物半導体積層20は、第1の部分21、第2の部分22、及び第3の部分23を有している。第1の部分21、第2の部分22、及び第3の部分23は、リッジ部24の延在方向に交差する方向に順に配列されている。リッジ部24は、第2の部分22に含まれている。リッジ部24は、例えば、p型ガイド層52の一部、p型クラッド層53、及びp型コンタクト層54を含むことができる。リッジ部24の上面24aは、例えばp型コンタクト層54の上面である。リッジ部24の幅W24は、例えば1〜2μm程度であることができる。
【0039】
リッジ部24の上面24aは、ベクトルVCによって示される基準軸に直交する平面CPから、m軸の方向に傾斜している。リッジ部24の上面24aの平面CPに対する傾斜角度は、例えば10度以上80度以下の範囲であることができる。上面24aの傾斜角度が10度以上80度以下であると、上面24aの半極性が強く現れる。或いは、上面24aの傾斜角度は、例えば、63度以上80度以下の範囲であることができる。上面24aの傾斜角度が63度以上80度以下の範囲内であると、上面24aが酸素との結合性に富む。
【0040】
III族窒化物半導体レーザ1は、絶縁膜60を備えている。絶縁膜60は、III族窒化物半導体積層20の上に設けられている。より具体的には、絶縁膜60は、第1の部分21の上面21a、第3の部分23の上面23a、及びリッジ部24の側面24bの上に設けられている。絶縁膜60は、リッジ部24の上面24aの上において開口部61を有している。絶縁膜60は、例えば酸化シリコン(例えばSiO)や窒化シリコン(SiN)や酸化ジルコニウム(ZrO)等からなることができる。
【0041】
III族窒化物半導体レーザ1は、p電極71といった第1の電極を備えている。p電極71は、絶縁膜60の開口部61において、リッジ部24の上面24aの上に配置されている。p電極71は、リッジ部24の上面24aと接合をなしている。p電極71は、例えば、AuやNiやPt等を含むことができる。一実施例としては、p電極71は、Auからなる。
【0042】
III族窒化物半導体レーザ1は、第1の擬似パッド81といった第1のパッド及び第2の擬似パッド82といった第2のパッドを備えている。第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82は、絶縁膜60の上に設けられている。特に、第1の擬似パッド81は、III族窒化物半導積層体20の第1の部分21の上に設けられており、第2の擬似パッド82は、III族窒化物半導体積層20の第3の部分23の上に設けられている。
【0043】
第1の擬似パッド81は、リッジ部24の延在方向に沿って延びている。第1の擬似パッド81は、ストライプ形状を有している。第1の擬似パッド81は、上面81aを有している。第1の擬似パッド81の上面81aから第1の部分21の上面21aまでの距離D81は、リッジ部24の高さH24以上である。したがって、第1の擬似パッド81の上面81aは、リッジ部24の上面24aを基準とする面上となるか、或いはリッジ部24の上面24aを基準とする面から突出している。第1の擬似パッド81の幅W81は、例えば100μm程度とすることができる。
【0044】
第1の擬似パッド81は、一対の側面81b,81cを有している。側面81b及び側面81cは、リッジ部24の延在方向に交差する方向に沿って配列されている。第1の擬似パッド81の幅W81は、側面81bと側面81cとの距離である。側面81bは、側面81cよりもIII族窒化物半導体レーザ1の外縁側に位置している。側面81bは、第1の部分21の上面21aに沿う方向について、第1の部分21の側面21b(すなわちIII族窒化物半導体レーザ1のエッジE1)から離間している。また、第1の擬似パッド81の側面81cは、リッジ部24の側面24bの上の絶縁膜60から離間している。
【0045】
第1の擬似パッド81は、一対の端面81d,81eを有している。端面81d及び端面81eは、リッジ部24の延在方向に沿って配列されている。端面81dは、第1の部分21の上面21aに沿う方向について、第1の部分21の端面21c(すなわちIII族窒化物半導体レーザ1のエッジE2)から離間している。端面81eは、第1の部分21の上面21aに沿う方向について、第1の部分21の端面21d(すなわちIII族窒化物半導体レーザ1のエッジE3)から離間している。
【0046】
第2の擬似パッド82は、リッジ部24の延在方向に沿って延びている。第2の擬似パッド82は、ストライプ形状を有している。第2の擬似パッド82は、上面82aを有している。第2の擬似パッド82の上面82aから第3の部分23の上面23aまでの距離D82は、リッジ部24の高さH24以上である。したがって、第2の擬似パッド82の上面82aは、リッジ部24の上面24aを基準とする面上となるか、或いはリッジ部24の上面24aを基準とする面から突出している。第2の擬似パッド82の幅W82は例えば100μm程度とすることができる。距離D81と距離D82とは略同一である。
【0047】
第2の擬似パッド82は、一対の側面82b,82cを有している。側面82b及び側面82cは、リッジ部24の延在方向に交差する方向に沿って配列されている。第2の擬似パッド82の幅W82は、側面82bと側面82cとの距離である。側面82bは、側面82cよりもIII族窒化物半導体レーザ1の外延側に位置している。側面82bは、第3の部分23の上面23aに沿う方向について、第3の部分23の側面23b(すなわちIII族窒化物半導体レーザ1のエッジE4)から離間している。また、第2の擬似パッド82の側面82cは、リッジ部24の側面24bの上の絶縁膜60から離間している。
【0048】
第2の擬似パッド82は、一対の端面82d,82eを有している。端面82d及び端面82eは、リッジ部24の延在方向に沿って配列されている。端面82dは、第3の部分23の上面23aに沿う方向について、第3の部分23の端面23c(すなわちエッジE2)から離間している。端面82eは、第3の部分23の上面23aに沿う方向について、第3の部分23の端面23d(すなわちエッジE3)から離間している。
【0049】
第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82は、例えば、金属からなることができる。第1のパッド81及び第2のパッド82が、リッジ部24に沿って延びると共にリッジ部24に比べて幅広であり、且金属からなる場合には、リッジ部24近傍において生じた熱を、第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82を解して速やかにリッジ部24近傍から拡散させることが可能となる(すなわち放熱性が向上する)。
【0050】
第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82は、例えば、Pt,Au,Tiの少なくともいずれかを含むことができる。第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82がPtを含む場合、TiとAuの接触抵抗の高い合金層を防止することができる。第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82がAuを含む場合、電極が厚くなる事での歪を緩和することができる。第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82がTiを含む場合、パッドの密着性確保に役立つ。一実施例としては、第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82は、Pt/Au/Pt/Ti(30nm/450nm/30nm/20nm)といった積層された金属膜であることができる。
【0051】
III族窒化物半導体レーザ1は、pパッド電極72といった第2の電極を備えている。pパッド電極72は、絶縁膜60及びp電極71の上に設けられている。より具体的には、pパッド電極72は、p電極71、第1の擬似パッド81、及び第2の擬似パッド82の上に配置されている。pパッド電極72は、p電極71と接合をなしている。pパッド電極72は、第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82を覆っている。pパッド電極72は、例えば、Au,Pt,Tiの少なくともいずれかを含むことができる。一実施例としては、pパッド電極72は、Au/Pt/Au/Pt/Ti(300nm/30nm/450nm/30nm/20nm)といった積層された金属膜であることができる。なお、pパッド電極72は、p電極71の上、第1の擬似パッド81と絶縁膜60との間、及び第2の擬似パッド82と絶縁膜60との間に設けられていてもよい。
【0052】
III族窒化物半導体レーザ1は、n電極(第3の電極)73を備えている。n電極73は、基板10の裏面10bの上に設けられている。n電極73は、例えば、Au,Ti,Alの少なくともいずれかを含むことができる。一実施例としては、n電極73は、Au/Ti/Al(600nm/50nm/50nm)といった積層された金属膜であることができる。
【0053】
引き続き、III族窒化物半導体レーザ1を製造する方法について説明する。図3〜図9は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザを製造する方法の主要な工程を示す図である。この方法では、まず、図3の(a)部に示されるように、基板11を準備する(工程S101)。基板11は、III族窒化物半導体からなる主面10aを有する。基板11は、III族窒化物半導体からなる。基板11のIII族窒化物半導体は、例えばGaNやInNやAlN、或いはそれらの混合物質等であることができる。一実施例としては、基板11のIII族窒化物半導体は、GaNである。主面10aは、III族窒化物半導体のc軸の方向に延びる基準軸(ベクトルVCによって示される)に直交する平面CPから、m軸方向に傾斜している。したがって、主面10aは、半極性を示す。主面10aの平面CPに対する傾斜角度θは、例えば10度以上80度以下の範囲である。傾斜角度θがこの範囲内であると、主面10aの半極性が強く現れる。或いは、傾斜角度θは、例えば、63度以上80度以下の範囲であることができる。
【0054】
図1の(b)部に示されるように、基板11の主面10aの上にIII族窒化物半導体からなる半導体積層25を成長することにより、エピタキシャル基板Eを形成する(工程S102)。半導体積層25は、n型III族窒化物半導体層30、活性層40、及びp型III族窒化物半導体層50のための半導体層55を含む。n型III族窒化物半導体層30、活性層40、及び半導体層55は、基板11の主面10aの法線方向に順に積層されている。
【0055】
p型III族窒化物半導体層50のための半導体層55は、例えば、p型電子ブロック層51、p型ガイド層52A、p型クラッド層53A、及びp型コンタクト層54Aを含むことができる。p型電子ブロック層51、p型ガイド層52A、p型クラッド層53A、及びp型コンタクト層54Aは、活性層40の上に順に積層されている。p型ガイド層52Aは、例えばGaNやAlGaNやAlInGaN等からなることができる。p型クラッド層53Aは、例えばGaNやAlGaNやAlInGaN等からなることができる。p型コンタクト層54Aは、例えばGaNやAlGaNやAlInGaN等からなることができる。
【0056】
この工程では、基板11を成長炉A1に配置して、n型III族窒化物半導体層30、活性層40、及び半導体層55に含まれる各層を基板11の主面10aの上に順にエピタキシャル成長する。成長炉A1における各層の成長には、例えば、有機金属気相成長法を用いることができる。
【0057】
エピタキシャル基板Eの主面Ea(すなわち半導体積層25の主面25a、例えばp型コンタクト層54Aの上面)は、ベクトルVCによって示される基準軸に直交する平面CPからm軸方向に傾斜している。したがって、主面Eaは、半極性を示す。主面Eaの傾斜角度は、10度以上80度以下の範囲であることができる。主面Eaの傾斜角度が10度以上80度以下であると、主面Eaの半極性が強く現れる。或いは、主面Eaの傾斜角度は、例えば、63度以上80度以下の範囲であることができる。主面Eaの傾斜角度が63度以上80度以下の範囲内であると、主面Eaが酸素との結合性に富む。
【0058】
工程S102でエピタキシャル基板Eを形成した後に、そのエピタキシャル基板Eを成長炉A1から取り出すと、エピタキシャル基板Eの主面Eaが酸素を含む大気にさらされる。このため、例えばエピタキシャル基板Eの表面に露出された窒化ガリウム系半導体面に自然酸化物酸化ガリウムが形成される。
【0059】
続いて、成長炉A1からエピタキシャル基板Eを取り出した後に、図4の(a)部に示されるように、例えば分子線エピタキシ(MBE)装置といった処理装置A2で加熱する(工程S103)。この工程における加熱の条件の一例は、加熱温度は摂氏750度であり、加熱時間は30分であり、雰囲気はGa雰囲気である。加熱温度は、摂氏300度以上であることができる。これは、加熱温度が摂氏300度以下であると、ガリウム酸化物Gaがより蒸気圧の高いGaOに還元されないからである。また、加熱温度は、摂氏900度以下であることができる。これは、活性層40へのダメージを避けるためである。
【0060】
続いて、エピタキシャル基板Eの加熱の後に、真空を破ることなく、ガリウムを含む雰囲気を処理装置A2の真空チャンバ内に形成して、その雰囲気にエピタキシャル基板Eの主面Eaをさらす(工程S104)。この工程S104において、エピタキシャル基板Eの主面Eaをガリウム雰囲気にさらすことは、例えば、エピタキシャル基板Eの主面Eaにガリウムフラックスを照射することにより行うことができる。この工程における雰囲気は、窒化ガリウム系半導体の成長を避けるために、窒素を含まないことが好ましい。この工程における基板温度は、例えば摂氏300度以上であることができる。これは、この温度以下である場合、ガリウム酸化物Gaがより蒸気圧の高いGaOに還元されないからである。また。この工程における温度は、例えば摂氏900度以下とすることができる。これは、活性層40へのダメージを避けるためである。この工程における熱処理のための持続時間は例えば30分である。
【0061】
この加熱工程S103及びさらす工程S104のための基板温度は、エピタキシャル基板Eの形成における成膜温度のうちの最低温度以下であることが好ましい。その場合には、加熱工程S103及びさらす工程S104における改質処理により生じる可能性のある活性層40への熱ストレスを低減できる。活性層40がInGaN層を含むとき、エピタキシャル基板Eの基板温度は、例えば、そのInGaN層の成長温度以下であることが好ましい。その場合、活性層のInGaN層の品質が、加熱工程S103及びさらす工程S104における熱処理により低下することを避けることができる。
【0062】
続いて、ガリウム雰囲気を除いた後に、図4の(b)部に示されるように、真空を破ることなく、処理装置A2の真空チャンバ内において、エピタキシャル基板Eの主面Eaの上にMBE法により金属膜75を成膜して、基板生産物Sを形成する(工程S105)。金属膜75は、例えばAuやNiやPt等を含むことができる。一実施例としては、金属膜75は、Auからなる。
【0063】
この方法によれば、処理装置A2の真空チャンバ内において摂氏300度以上の基板温度で、III族窒化物半導体の成膜を行わずにエピタキシャル基板Eをガリウム雰囲気にさらす。このさらす工程の以前では、エピタキシャル基板EのIII族窒化物半導体の表面に酸化ガリウムGaが形成されているけれども、さらす工程においてガリウムが窒化ガリウム系半導体半極性主面Eaへ供給されて、酸化ガリウムGaが、半極性主面では融点の低いGa酸化物GaOに改質される。このGa酸化物GaOは、その融点に応じて、さらす工程における基板温度の作用により成長炉A2の真空チャンバ内に窒化ガリウム系半導体表面から放出される。これ故に、半極性主面Eaが金属膜75と接合を形成することに先立って半極性主面Ea付近における酸素濃度を低減できる。これ故に、良好なオーミック接触を得ることができる。
【0064】
この工程の後に、基板生産物Sを処理装置A2の真空チャンバから取り出すと、基板生産物Sの表面が酸素を含む大気にさらされる。しがしながら、半極性面主面Eaは、既に金属膜75で覆われている。したがって、この後の工程において、半極性主面Eaに酸素が供給されることを抑制することができる。
【0065】
続いて、図5の(a)部に示されるように、基板生産物Sを処理装置A2から取り出した後に、金属膜75の全面にフォトレジストを塗布して、金属膜75の上にレジスト層91を形成する(工程S106)。図5の(b)部に示されるように、処理装置A3内において、レジスト層91の上に第1の絶縁物層92を形成する(工程S107)。第1の絶縁物層92は、例えば酸化シリコン(例えばSiO)とすることができる。第1の絶縁物層92の形成には、例えば、電子ビーム蒸着を用いることができる。第1の絶縁物層92の厚さは、例えば300nmとすることができる。
【0066】
続いて、図6の(a)部に示されるように、第1の絶縁物層92の上に、リッジ部24を規定するストライプ状のレジストマスク93を形成する(工程S108)。レジストマスク93の幅は、リッジ部24の幅を規定し、例えば2μm程度とすることができる。続いて、図6の(b)部に示されるように、処理装置A4内において、レジストマスク93を用いて第1の絶縁物層92及びレジスト層91をエッチングして、レジスト層91Aと第1の絶縁物層92Aとからなる多層マスク94を形成する(工程S109)。この工程におけるエッチングは、例えば誘導結合型反応性イオンエッチング(ICP−RIE)であることができる。第1の絶縁物層92のエッチングには、例えばCFやCHF等のガスを用いることができる。レジスト層91のエッチングには、例えばCFやCHFやO等のガスを用いることができる。
【0067】
図7の(a)部に示されるように、処理装置A5内において、多層マスク94を用いて金属膜75及び半導体積層25をエッチングする(工程S110)。このエッチングにより、金属膜75からp電極71が形成される。また、半導体積層25からリッジ部24を含むIII族窒化物半導体積層20が形成される。この工程では、ICP−RIEにより、Arガスを用いて金属膜75をエッチングし、BCl、Clガスを用いて導体積層25をエッチングすることができる。半導体積層25のエッチングは、例えばp型ガイド層52Aの途中まで行うことができる。この場合、p型コンタクト層54Aからp型コンタクト層54が形成され、p型クラッド層53Aからp型クラッド層53が形成され、p型ガイド層52Aからp型ガイド層52が形成される。III族窒化物半導体積層20は、上述したように、順に配列された第1の部分21、第2の部分22、及び第3の部分23を有している。リッジ部24は、第2の部分22に含まれる。
【0068】
図7の(b)部に示されるように、レジストマスク93を除去した後に、処理装置A6内において、III族窒化物半導体積層20、p電極71、及び多層マスク94の上に第2の絶縁物層95を形成する(工程S111)。これにより、絶縁物によってリッジ部24の側面24bが埋め込まれる。第2の絶縁物層95は、例えば酸化シリコン(例えばSiO)や窒化シリコン(SiN)や酸化ジルコニウム(ZrO)とすることができる。また、第2の絶縁物層95は、電子ビーム蒸着により形成することができる。第2の絶縁物層95の厚さは、例えば300nm〜400nm程度とすることができる。なお、この工程においては、レジスト層91Aの側面には絶縁物層が形成され難い。このため、後の工程において、このレジスト層91Aに剥離液を浸透させることができる。
【0069】
図8の(a)部に示されるように、リフトオフ法によって、多層マスク94及び多層マスク94の上の第2の絶縁物層95を除去する(工程S112)。これにより、絶縁膜60が形成される。絶縁膜60は、p電極71の上に開口部61を有する。この工程においては、例えば、摂氏120度の剥離液と超音波によって、レジスト層91Aを剥離する。
【0070】
続いて、図8の(b)部に示されるように、第1の部分21及び絶縁膜60の上に第1の擬似パッド81を形成すると共に、第3の部分23及び絶縁膜60の上に第2の擬似パッド82を形成する(工程S113)。第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82は、リフトオフ法により形成することができる。第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82は、金属から形成することができる。第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82は、例えば、Pt,Au,Tiの少なくともいずれかを含むことができる。
【0071】
一実施例としては、第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82は、Pt/Au/Pt/Ti(30nm/450nm/30nm/20nm)といった積層された金属膜とすることができる。その場合には、例えば、第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82のためのパターンを有するレジスト層をリソグラフィによって形成した後に、そのレジスト層及び絶縁膜60の上にPt/Au/Pt/Tiを蒸着し、レジスト層を除去することにより、第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82を形成することができる。
【0072】
図9の(a)部に示されるように、p電極71、第1の擬似パッド81、及び第2の擬似パッド82の上にpパッド電極72を形成する(工程S114)。このとき、リッジ部24の側面24bの上の絶縁膜60と、第1のパッド81及び第2のパッド82との間にもpパッド電極72が形成される。pパッド電極72は、例えば、Au,Pt,Tiのいずれかを含むことができる。一実施例では、pパッド電極72は、Au/Pt/Au/Pt/Ti(300nm/30nm/450nm/30nm/20nm)といったように積層した金属膜とすることができる。pパッド電極72は、例えばリフトオフ法により形成することができる。ここでは、pパッド電極72は、p電極71に接合すると共に、第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82を覆っている。
【0073】
続いて、基板11を裏面側から研磨する。この研磨は、基板11の厚さが例えば80μmとなるように行うことができる。その後、例えばBCl、Clガスを用いたICP−RIEにより、研磨のダメージ層をエッチングする。これにより、基板10を形成する。そして、図9の(b)部に示されるように、基板10の裏面10bにn電極73を形成する(S115)。n電極73は、例えば、Au,Ti,Alのいずれかを含むことができる。一実施例では、n電極73は、Au/Ti/Al(600nm/50nm/50nm)を真空蒸着炉にて蒸着することで形成することができる。その後、以上の工程により生産された生産物をチップ化することによって、図1及び図2に示されるIII族窒化物半導体レーザ1が製造される。
【0074】
なお、上記の方法においては、p電極71がMBE法によりAuから形成される場合、図10に示されるように、プロセス温度が高くなると接触抵抗が大きくなるため、p電極71を形成する工程S105以降の工程を、プロセス温度が摂氏300度を超えないように実施することが好ましい。特に、ICP−RIEによるドライエッチング、電極形成、及び絶縁膜(絶縁物層)形成において、摂氏150度を超えないようにすることが好ましい。
【0075】
また、上記の方法においては、第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82を形成する工程の後に、pパッド電極72を形成する工程を行っている。pパッド電極72を形成する工程の後に、第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82を形成する工程を行ってもよい。その場合には、pパッド電極72は、p電極71の上、第1の擬似パッド81と絶縁膜60との間、及び第2の擬似パッド82と絶縁膜60との間に形成されることとなる。
【0076】
図11は、III族窒化物半導体レーザ1が実装されたレーザ装置の模式図である。図11に示されるように、レーザ装置100は、III族窒化物半導体レーザ1と、III族窒化物半導体レーザ1を搭載するためのサブマウント110といった搭載部材と、III族窒化物半導体レーザ1とサブマウント110とを接着するための半田120といった導電性接着部材とを備えている。サブマウント110は、主面110aを有している。半田120は、サブマウント110の主面110aの上に配置されている。半田120は、例えばAuSn半田とすることができる。III族窒化物半導体レーザ1は、そのような半田120によって、サブマウント110の主面110aに接着されている。III族窒化物半導体レーザ1は、pパッド電極72をサブマウント110に向けて実装されている(pダウン実装)ので、リッジ部24は、基板10とサブマウント110との間に位置している。
【0077】
図12の(a)部は、比較例に係るIII族窒化物半導体レーザを示す図である。このIII族窒化物半導体レーザ1Aは、第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82を有さない点でIII族窒化物半導体レーザ1と異なる。このため、III族窒化物半導体レーザ1Aにおいては、リッジ部24のみが第1の部分21の上面21a及び第3の部分23の上面23aを基準にして突出している。このようなIII族窒化物半導体レーザ1Aをpダウン実装すると、以下のような問題が生じる。
【0078】
すなわち、図12の(b)部に示されるように、III族窒化物半導体レーザ1Aをpダウン実装すると、その実装の際の応力がリッジ部24に集中する。より具体的には、III族窒化物半導体レーザ1Aをpダウン実装するとき、pパッド電極72と半田120とが合金化する際に生じる歪が、リッジ部24に集中する。このため、III族窒化物半導体レーザ1Aにおいては、デバイス不良が生じる場合がある。
【0079】
また、図12の(c)部に示されるように、III族窒化物半導体レーザ1Aをpダウン実装すると、III族窒化物半導体レーザ1Aがサブマウント110の主面110aに対して傾くことがある。III族窒化物半導体レーザ1Aが傾くと、III族窒化物半導体レーザ1Aの電極だけでなく、III族窒化物半導体レーザ1Aの半導体層の側面にも半田120が付着する。その場合には、III族窒化物半導体レーザ1Aの半導体層と電極とが、半田120を解してショートする。このショートにより、リーク不良が生じる。
【0080】
これに対して、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザ1は、第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82を有しているため、上記のような問題を解決することができる。より具体的には、III族窒化物半導体レーザ1は、III族窒化物半導体積層20を備えている。III族窒化物半導体積層20は、順に配列された第1の部分21、第2の部分22、及び第3の部分23を有している。リッジ部24は、第2の部分22に含まれている。そして、第1の部分21の上に第1の擬似パッド81が配置されており、第3の部分23の上に第2の擬似パッド82が配置されている。このために、pダウン実装の際に生じる応力が、第1の擬似パッド81と第2の擬似パッド82とリッジ部24とに分けられる。このため、当該応力がリッジ部24に集中することが避けられる。よって、デバイス不良が生じることが避けられる。また、このIII族窒化物半導体レーザ1をpダウン実装するとき、第1の擬似パッド81及び第2の擬似パッド82によってサブマウント110が支持されるので、III族窒化物半導体レーザ1がサブマウント110の主面110aに対して傾斜することが抑制される。よって、リーク不良が生じることが避けられる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上説明したように、本実施の形態によれば、実装時において、リッジ部への応力の集中を避けることが可能であると共に傾くことを抑制可能なIII族窒化物半導体レーザ、レーザ装置、及びIII族窒化物半導体レーザを製造する方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0082】
1…III族窒化物半導体レーザ、10…基板、20…III族窒化物半導体積層、21…第1の部分、21a…上面、21b…側面、22…第2の部分、23…第3の部分、23a…上面、23b…側面、24…リッジ部、24a…上面、24b…側面、25a,Ea…主面、60…絶縁膜、61…開口部、71…p電極、72…pパッド電極、75…金属膜、81…第1の擬似パッド、81a…上面、82…第2の擬似パッド、82a…上面、91…レジスト層、92…第1の絶縁物層、93…レジストマスク、94…多層マスク、95…第2の絶縁物層、100…レーザ装置、110…サブマウント、110a…主面、120…半田。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体レーザであって、
基板の上に設けられリッジ部を含むIII族窒化物半導体積層と、
前記III族窒化物半導体積層の上に設けられた絶縁膜と、
前記リッジ部の上面と接合を成す第1の電極と、
前記絶縁膜及び前記第1の電極の上に設けられた第2の電極と、
前記絶縁膜の上に設けられ前記リッジ部の延在方向に延びる第1及び第2のパッドと、
を備え、
前記III族窒化物半導体積層は、前記リッジ部の延在方向に交差する方向に順に配列された第1の部分、第2の部分、及び第3の部分を有し、
前記第2の部分は前記リッジ部を含み、
前記絶縁膜は、前記第1の部分の上面、前記第3の部分の上面、及び前記リッジ部の側面の上に設けられ、
前記第1のパッドは、前記第1の部分の上に設けられており、
前記第2のパッドは、前記第3の部分の上に設けられており、
前記リッジ部の前記上面は半極性面である、
III族窒化物半導体レーザ。
【請求項2】
前記第1の部分の前記上面から前記第1のパッドの上面までの距離、及び、前記第3の部分の前記上面から前記第2のパッドの上面までの距離は、前記リッジ部の高さ以上である、請求項1に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項3】
前記第1及び第2のパッドは、前記リッジ部の前記側面の上の前記絶縁膜から離間している、請求項1又は2に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項4】
前記第1のパッドは、前記第1の部分の前記上面に沿う方向について、前記第1の部分の側面から離間しており、
前記第2のパッドは、前記第3の部分の前記上面に沿う方向について、前記第3の部分の側面から離間している、請求項1〜3のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項5】
前記第1及び第2のパッドは、金属からなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項6】
前記第1及び第2のパッドは、Pt,Au,Tiの少なくともいずれかを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項7】
前記リッジ部の前記上面は、III族窒化物半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から10度以上80度以下の範囲の角度で傾斜している、請求項1〜6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項8】
前記第2の電極は、前記第1及び第2のパッドの上に設けられている、請求項1〜7のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項9】
前記第2の電極は、前記第1及び第2のパッドと前記絶縁膜との間に設けられている、請求項1〜7のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザと、
主面を有する搭載部材と、
前記搭載部材の前記主面の上に配置された導電性接着部材と、を備え、
前記III族窒化物半導体レーザは、前記導電性接着部材によって前記搭載部材の前記主面に接着されており、
前記リッジ部は、前記基板と前記搭載部材との間に配置されている、
レーザ装置。
【請求項11】
III族窒化物半導体レーザを製造する方法であって、
真空チャンバ内において、III族窒化物半導体からなる半導体積層の主面の上に分子線エピタキシ法により金属膜を成膜する工程と、
前記金属膜の上にレジスト層を形成する工程と、
前記レジスト層の上に第1の絶縁物層を形成する工程と、
リッジ部を規定するレジストマスクを前記第1の絶縁物層の上に形成する工程と、
前記レジストマスクを用いて前記第1の絶縁物層及び前記レジスト層をエッチングして、多層マスクを形成する工程と、
前記多層マスクを用いて前記金属膜及び前記半導体積層をエッチングして、前記金属膜から第1の電極を形成すると共に、前記半導体積層からIII族窒化物半導体積層を形成する工程と、
前記III族窒化物半導体積層、及び前記多層マスクの上に第2の絶縁物層を形成する工程と、
前記多層マスク及び前記多層マスクの上の前記第2の絶縁物層をリフトオフ法により除去して、前記第1の電極の上に開口部を有する絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜の上に第1及び第2のパッドを形成する工程と、
前記絶縁膜及び前記第1の電極の上に第2の電極を形成する工程と、を備え、
前記III族窒化物半導体積層はリッジ部を含み、
前記III族窒化物半導体積層は、前記リッジ部の延在方向に順に配列された第1の部分、第2の部分、及び第3の部分を含み、
前記第2の部分は前記リッジ部を含み、
前記絶縁膜は、前記第1の部分の上面、前記第3の部分の上面、及び前記リッジ部の側面の上に設けられており、
前記第1のパッドは、前記第1の部分の上に設けられており、
前記第2のパッドは、前記第3の部分の上に設けられており、
前記半導体積層の前記主面は半極性面であり、
前記第1の電極は前記リッジ部の上面と接合をなしている、
III族窒化物半導体レーザを製造する方法。
【請求項12】
前記金属膜を成膜する工程の前に、前記真空チャンバ内において前記半導体積層の前記主面をガリウム雰囲気にさらす工程をさらに備え、
前記半導体積層の前記主面は、窒化ガリウム系半導体からなる半極性面である、請求項11に記載のIII族窒化物半導体レーザを製造する方法。
【請求項13】
前記第1及び第2のパッドを形成する工程においては、リフトオフ法によって前記第1及び第2のパッドを形成する、請求項11又は12に記載のIII族窒化物半導体レーザを製造する方法。
【請求項14】
前記第1の部分の前記上面から前記第1のパッドの上面までの距離、及び、前記第3の部分の前記上面から前記第2のパッドの上面までの距離は、前記リッジ部の高さ以上である、請求項11〜13のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザを製造する方法。
【請求項15】
前記第1及び第2のパッドは、前記リッジ部の前記側面の上の前記絶縁膜から離間している、請求項11〜14のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザを製造する方法。
【請求項16】
前記第1及び第2のパッドは、金属からなる、請求項11〜15のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザを製造する方法。
【請求項17】
前記第1及び前記第2のパッドは、Pt,Au,Tiの少なくともいずれかを含む、請求項11〜16のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザを製造する方法。
【請求項18】
前記金属膜は、Auを含む、請求項11〜17のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザを製造する方法。
【請求項19】
前記半導体積層の前記主面は、III族窒化物半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から10度以上80度以下の範囲の角度で傾斜している、請求項11〜18のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザを製造する方法。
【請求項20】
前記半導体積層の前記主面は、III族窒化物半導体のc軸に沿って延びる基準軸に直交する面から63度以上80度以下の範囲の角度で傾斜している、請求項11〜19のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザを製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−62315(P2013−62315A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198597(P2011−198597)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】