説明

LaB6膜、陰極体、及びそれらの製造方法

【課題】ターゲットを長期間に亘って均一に使用できると共に、成膜速度を向上させることができるマグネトロンスパッタ装置によって、LaB膜を下地である基体上に成膜した場合、LaB膜が剥離し易いことが判明した。
【解決手段】基体の表面を窒化した後、引き続き同一処理装置内にて、基体の窒化された前記表面にスパッタによりLaBの膜を形成することによって、基体から剥離し難いLaB膜を成膜することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LaB膜、LaB膜を有する陰極体、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、LaB等の希土類元素を含むホウ化物膜は陰極体を含む冷陰極蛍光管等に用いられている。陰極体を含む冷陰極蛍光管は、モニターや液晶テレビ等における液晶表示装置のバックライト用光源等に使用されている。また、冷陰極蛍光管は、ガラス管によって形成され内壁に蛍光体を塗布した蛍光管体、及び、電子を放出する一対の冷電極体を備え、蛍光管体にはHg−Ar等の混合ガスが封入されている。
【0003】
特許文献1には、円筒カップ形状を有する冷陰極体を備えた冷陰極蛍光管が提案されている。具体的に説明すると、電子放出用の円筒カップ形状の冷陰極体は、ニッケルによって形成された円筒状カップと、当該円筒状カップの内壁面及び外壁面に、希土類元素のホウ化物を主体としたエミッタ層を有している。更に、特許文献1は、希土類元素のホウ化物として、YB、GdB、LaB、CeBを例示しており、これら希土類元素のホウ化物は、微粉末スラリー状に調整して、円筒状カップの内壁面及び外壁面に流し塗り、乾燥、焼結することによって形成されている。
【0004】
一方、特許文献2には、La、ThO、Yから選択された材料を熱伝導率の高い材料、例えば、タングステンと混合することによって円筒カップ形状の冷陰極体を形成することが開示されている。特許文献2に示された円筒カップ形状の冷陰極体は、例えば、Laを含むタングステン合金粉末を射出成形、即ち、MIM(Metal Injection Molding)することによって形成されている。
【0005】
更に、特許文献3は、プラズマディスプレイパネルに用いられる放電陰極装置を開示している。当該放電陰極装置は、ガラス基板上に、下地電極として形成されたアルミニウム層と、アルミニウム層上に形成されたLaB層を有している。また、アルミニウム層は、所定温度に保たれたガラス基板上に、スパッタリング法、真空蒸着法、或いはイオンプレーティング法により形成され、他方、LaB層はアルミニウム層上にスパッタリング法等により形成されている。
【0006】
特許文献1は、希土類元素を主体とするスラリーをNi(ニッケル)製の円筒状カップに塗布、乾燥、焼結することによって、エミッタ層を形成している。
【0007】
特許文献1は、エミッタ層を円筒状カップの開口端側で薄くし、外部引出し電極側で厚くすることを開示している。通常、円筒状カップは、0.6〜1.0mm程度の内径、2〜3mm程度の長さを有しているから、スラリーを塗布、乾燥、及び焼結する手法によって、エミッタ層を形成した場合、所望の厚さに塗布することは難しい。更に、塗布、乾燥、焼結することによって得られたエミッタ層は、Niとの密着性の点で不十分であり、またバインダに含まれる有機物質や水分、酸素を完全に除去するのは困難で、この結果、特許文献1では、高輝度で長寿命の冷陰極体を得ることは困難である。
【0008】
特許文献2は、Laを含むタングステン合金粉末をスチレン等の樹脂と混合して得られたペレットを金型に射出成形することによって、円筒カップ形状の冷陰極体を形成している。タングステンのような熱伝導率の高い材料を使用することによって、冷陰極体における熱伝導を改善できるが、冷陰極体の長寿命化を実現できるが、電子放出特性の点で不十分である。したがって、特許文献2では、高輝度で高効率の冷陰極体を得ることは困難である。
【0009】
特許文献3はLaB層とアルミニウムとを含む放電陰極パターンをガラス基板上にスパッタリング法により形成することを開示している。しかしながら、この手法は、平坦なガラス基板にアルミニウム層及びLaB層をスパッタリングにより形成することを前提としており、凹凸のある円筒カップ形状の冷陰極体にスパッタリングする手法については何等開示していない。また、特許文献3は、ガラス基板以外の材料に、アルミニウムを介することなく、LaB層を密着性良く形成することについて開示していない。更に、特許文献3は、円筒カップ形状の冷陰極体における電子放出効率を向上させることについても指摘していない。
【0010】
そこで、回転マグネット式マグネトロンスパッタ装置を用いて、スパッタによって希土類元素のホウ化物の膜を形成することが提案された(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10-144255公報
【特許文献2】WO2004/075242
【特許文献3】特開平5−250994号公報
【特許文献4】WO/2009/035074
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者等は、先に、ターゲット上のリング状プラズマ領域を時間的に移動させることにより、ターゲットの局所的な磨耗を防止すると共に、プラズマ密度を上昇させ、成膜速度を向上させることができるマグネトロンスパッタ装置を提案した。当該マグネトロンスパッタ装置は、被処理基板と対向してターゲットを配置すると共に、ターゲットに対して被処理基板とは反対側に磁石部材を設けた構成を備えている。
【0013】
具体的に説明すると、上記したマグネトロンスパッタ装置の磁石部材は、回転軸の表面に複数の板磁石を螺旋状に貼り付けた回転磁石群と、回転磁石群の周辺にターゲット面と平行に、且つ、ターゲットに対して垂直に磁化された固定外周板磁石とを有している。この構成によれば、回転磁石群を回転させることにより、回転磁石群と固定外周板磁石とによってターゲット上に形成される磁場パターンを回転軸方向に連続的に移動させ、これによって、ターゲット上のプラズマ領域を時間と共に回転軸方向に連続的に移動させることができる。
【0014】
当該マグネトロンスパッタ装置を使用することにより、ターゲットを長期間に亘って均一に使用できると共に、成膜速度を向上させることができる。
【0015】
このような回転マグネット式マグネトロンスパッタ装置を用いれば、円筒カップ形状であっても容易に膜形成できるが、膜のはがれが生じやすいこと、すなわち下地表面と膜との密着性に問題があることが判明した。
【0016】
そこで、本発明の一技術的課題は、基体表面との密着性がよく剥がれにくい希土類元素のホウ化物の膜を有する陰極体を提供することである。
【0017】
本発明の他の技術的課題は、下地基体表面との密着性がよく剥がれにくいLaB6膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
即ち、本発明の一態様によれば、基体と、該基体の表面に設けられた該基体の成分の窒化物の層と、前記窒化物の層の面にスパッタによって形成された希土類元素のホウ化物の膜とを有することを特徴とする陰極体が得られる。
【0019】
前記基体はタングステン、モリブデン、シリコン、La、ThO、及びYからなる群から選択された少なくとも一つを含むタングステンもしくはモリブデン、樹脂、ガラス、または酸化珪素でありうる。特に、体積比で4〜6%のLaを含むタングステンまたはモリブデンでありうる。
【0020】
また、前記希土類元素のホウ化物は、LaB、LaB、YbB、GaB、CeBからなる群から選択された少なくとも一つのホウ化物でありうる。
【0021】
また本発明によれば、基体の表面を窒化する工程と、引き続き同一処理装置内にて、基体の窒化された前記表面にスパッタによってLaBの膜を形成する工程とを有することを特徴とするLaB膜の製造方法が得られる。前記基体はタングステン、モリブデン、シリコン、4〜6重量%のランタンオキサイドを含むタングステンもしくはモリブデン、樹脂、ガラス、または酸化珪素であってよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、下地との密着性の良いホウ化物膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る陰極体を製造する際に使用されるマグネトロンスパッタ装置を示す概略図である。
【図2】図1の一部を拡大して示す断面図である。
【図3】(A)〜(F)は、本発明の一実施例によって、図1の装置を用いてLaB膜を形成するプロセスを順に示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施例により、基体表面を窒化し、LaB膜を形成する装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施例について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明に使用される回転マグネット式マグネトロンスパッタ装置の一例を示す図であり、図2は、本発明に係る陰極体の製造に使用される陰極体製造用治具を説明するための図である。
【0026】
図1に示されたマグネトロンスパッタ装置は、ターゲット1、多角形形状(例えば、正16角形形状)の柱状回転軸2、柱状回転軸2の表面に螺旋状に貼り付けた複数の螺旋状板磁石群を含む回転磁石群3、回転磁石群3を囲むように、当該回転磁石群3の外周に配置した固定外周板磁石4、固定外周板磁石4に対して、ターゲット1とは反対側に設けられた外周常磁性体5を備えている。更に、ターゲット1には、バッキングプレート6が接着され、柱状回転軸2及び螺旋状板磁石群3のターゲット1側以外の部分は常磁性体15によって覆われ、更に、常磁性体15はハウジング7によって覆われている。
【0027】
固定外周板磁石4は、ターゲット1から見ると、螺旋状板磁石群によって構成された回転磁石群3を囲んだ構造をなし、ここでは、ターゲット2の側がS極となるように磁化されている。固定外周板磁石4と、螺旋状板磁石群の各板磁石はNd -Fe-B系焼結磁石によって形成されている。
【0028】
更に、図示された処理室内の空間11には、プラズマ遮蔽部材16が設けられ、陰極体製造用治具19が設置され、減圧されてプラズマガスが導入される。
【0029】
図示されたプラズマ遮蔽部材16は柱状回転軸2の軸方向に延在し、ターゲット1を陰極製造用治具19に対して開口するスリット18を規定している。プラズマ遮蔽部材16によって遮蔽されていない領域(即ち、スリット18によってターゲット1に対して開口された領域)は、磁場強度が強く高密度で低電子温度のプラズマが生成され、陰極製造用治具19に設けられた陰極部材にチャージアップダメージやイオン照射ダメージが入らない領域であり、且つ、同時に成膜レートが速い領域である。この領域以外の領域をプラズマ遮蔽部材16によって遮蔽することで、成膜レートを実質的に落とすことなくダメージの入らない成膜が可能である。
【0030】
また、バッキングプレート6には冷媒を通す冷媒通路8が形成されており、ハウジング7と処理室を形成する外壁14との間には、絶縁材9が設けられている。ハウジング7に接続されたフィーダ線12は、カバー13を介して外部に引き出されている。フィーダ線12には、DC電源、RF電源、及び、整合器(図示せず)が接続されている。
【0031】
この構成では、DC電源およびRF電源から、整合器、フィーダ線12及びハウジングを介してバッキングプレート6及びターゲット1へプラズマ励起電力が供給され、ターゲット1表面にプラズマが励起される。DC電力のみ、若しくは、RF電力のみでもプラズマの励起は可能であるが、膜質制御性や成膜速度制御性から、両方印加することが望ましい。また、RF電力の周波数は、通常数100kHzから数100MHzの間から選ばれるが、プラズマの高密度低電子温度化という点から高い周波数が望ましく、本実施の形態においては13.56MHzの周波数を使用している。
【0032】
図1に示すように、処理室内の空間11内に設置された陰極体製造用治具19には、陰極体を形成する円筒状カップ30が複数個取り付けられている。
【0033】
図2をも参照すると、陰極体製造用治具19は円筒状カップ30を支持する複数個の支持部32を有している。ここで、円筒状カップ30は、図2に示されているように、円筒状電極部301と、当該円筒状電極部301の底部中央から、円筒状電極部301とは反対方向に引き出されたリード部302とを備え、この例の場合、円筒状電極部301とリード部302とは、例えば、MIM(Metal Injection Molding)等により一体化成形されているものとする。
【0034】
陰極体製造用治具19の支持部32は、円筒状カップ30の円筒状電極部301を受け入れる大きさの開口部を規定する受容部321、受容部321よりも小径の孔を規定する鍔部322、及び、受容部321と鍔部322との間を接続する傾斜部323とを有している。図示されているように、円筒状電極部301は陰極体製造治具19の支持部32に挿入位置づけられている。即ち、円筒状電極部301のリード部302は陰極体製造治具19の鍔部322を通過し、円筒状電極部301の外側端部は陰極体製造治具19の傾斜部323に接触している。
【0035】
ここで、図示された円筒状カップ30は体積比で4%〜6%の酸化ランタン(La)を含むタングステン(W)によって形成され、内径1.4mm、外径1.7mm、長さ4.2mmの円筒状電極部301を有している。一方、円筒状カップ30のリード部302の長さはたとえば1.0mm程度に短くしてもよい。この例では、熱伝導性の良い耐火性金属であるタングステンに、仕事関数が2.8〜4.2eVと小さいLaを混合することによって円筒状カップ30を形成している。タングステンを使用することによって、円筒状カップ30に生じた熱を効率よく排出でき、また、仕事関数の小さい酸化ランタンを混合することによって、当該円筒状カップ30自体からも電子を放出することができる。尚、円筒状カップ30を形成する熱伝導性の高い金属として、タングステンの代わりに、モリブデン(Mo)を使用しても良い。
【0036】
ここで、円筒状カップ30の製造方法について具体的に説明する。まず、Laを体積比で3%含有するタングステン合金粉末と、樹脂粉末と混合した。樹脂粉末としてはスチレンを使用し、タングステン合金粉末とスチレンとの混合比は体積比で0.5:1であった。次に、焼結助剤としてNiを微量添加してペレットを得た。このようにして得られたペレットを用いて、円筒状カップ形状の金型に、150℃の温度で射出成形(MIM)を行なうことによって、カップ形状の成形品を作製する。作製された成形品を水素雰囲気中で加熱することによって脱脂して、円筒状カップ30を得た。
【0037】
このようにして得られた円筒状カップ30を図1及び2に示された陰極製造用治具19に取り付け、ターゲット1としてLaB焼結体がセットされたマグネトロンスパッタ装置の処理室11に搬入した。
【0038】
処理室内11にアルゴンを導入して20mTorr(2.7Pa)程度の圧力にし、陰極製造用治具19の温度を300℃まで加熱して、スパッタリングを行なった。
【0039】
図2に戻ると、スパッタリング後の円筒状カップ30の状態が模式的に示されている。図示されているように、円筒状電極部302の深さと内径との比であるアスペクト比が1の領域には、厚いLaB膜341が形成され、陰極製造用治具19でより下側に位置する部分には、薄いLaB膜342が形成されている。更に、円筒状電極部302の内部底面には、非常に薄いLaB膜(底面LaB膜)343が形成されている。
【0040】
図示された例では、厚いLaB膜341、薄いLaB膜342、及び、底面LaB膜343は、それぞれ300nm、60nm、及び10nmであった。
【0041】
上記したLaB膜を有する陰極体は、長時間に亘って高効率及び高輝度を維持できることが、本発明者等の実験によって確認された。
【0042】
次に、図3を参照して、本発明の一実施例によるプロセスを説明する。ここでは、図1に示された回転マグネット式マグネトロンスパッタ装置を用いた場合のプロセスについて説明する。
【0043】
まず、図3に模式的に示された回転マグネット式マグネトロンスパッタ装置の処理室11内に、被処理基体を搭載したステージ19(ここでは、基体となる円筒状カップ30を搭載した陰極製造用治具19)を導入し(図3(A))、円筒状カップ30の表面を成膜前にクリーニングする。スパッタ装置にはLaBターゲットが取り付けられている。処理室11内にArガスを2,000sccm流入させ、図3(B)に示すように、陰極製造用治具19をターゲットと対向する位置まで移動させ、処理室11内の圧力を270mTorrとし、ターゲットに100WのRFを印加し、ターゲットのセルフバイアス電圧をマイナス100V程度としてアルゴン(Ar)プラズマを発生させ(ターゲット電圧が低いのでLaBはほとんどスパッタされない)Arプラズマにより基体表面のプラズマクリーニングを12秒間行う。次に、処理室内をAr雰囲気に切換えてクリーニングを終了する(図3(C))。
【0044】
次に、図3(D)に示すように、回転マグネット式マグネトロンスパッタ装置の処理室11内で、基体(陰極製造用治具19に取り付けられた円筒状カップ)の表面を窒化する。この場合、ターゲットと対向する位置に、陰極製造用治具19を配置した状態で、窒素ガス(N)を添加したアルゴンを導入し、Arプラズマを発生させて円筒状カップ表面を窒化する。窒化する工程は、窒素を含むガスをプラズマ化して活性な窒素を生成し、基体(円筒状カップ)の表面に前記活性な窒素を照射する。これによって、基体の表面は窒化される。具体的には、窒素を25%添加したアルゴンガスを800sccm(すなわち、窒素ガス200sccm、Arガス600sccm)の流量で流し、処理室11内の圧力を100mTorrとし、ターゲットに100WのRFを印加し、ターゲットのセルフバイアス電圧をマイナス100V程度としてプラズマを発生させ(ターゲット電圧が低いのでLaBはほとんどスパッタされない)プラズマで活性化した窒素原子を照射することによって、基体表面の窒化を12秒間行った。なお、図3(B)および図3(C)のクリーニング工程を省略して、図3(A)から直接図3(D)の窒化工程に進んでもよい。
【0045】
窒化工程が終了すると、基体(本実施例では円筒状カップを取り付けた陰極製造用治具)19をターゲットから離れた位置に移動させ、処理室11内をAr雰囲気に切換えてプラズマを発生させ、空スパッタを行う(図3(E))。前の窒化工程でターゲットのLaB表面が若干窒化してしまうので、この空スパッタ工程でLaB表面の窒化膜を除去してLaB表面をクリーニングするのが、この工程の目的である。
【0046】
次に、図3(F)に示すように、Ar雰囲気で、ターゲットと対向する位置まで、基体(本実施例では円筒状カップを取り付けた陰極製造用治具)19を移動させた。この状態で、LaBターゲットからのLaBのスパッタを18秒間行った。このとき、Arガスの流量は2,000sccm、処理室11の圧力は50mTorrとし、RFの印加パワーを800Wとしてターゲットのセルフバイアス値を−200V〜−300Vとしてスパッタを実行させた。このとき340VくらいのDCを印加してもよい。基体の電位はフローテイングであるが、接地電位としてもよい。
【0047】
なお、図3(E)のクリーニング工程を省略して、図3(D)の窒化工程から直接図3(F)のスパッタ工程に進んでもよい。
【0048】
この結果、窒化された円筒状カップ表面に、LaB膜がスパッタによって成膜された。LaB膜をスパッタ成膜した後、アニールするのが好ましい。アニール温度は400℃〜1000℃が好ましい。アニール時間は30分以上、3時間以下であればよい。アニールの雰囲気は不活性ガスがよい。
【0049】
さらに、LaB膜をスパッタ成膜した後、アニール前にLaB膜のプラズマ酸化を行ってもよい。このプラズマ酸化は、Krガスに3%の酸素ガスを加え、合計流量1,000sccmを流し、圧力は200mTorrとしてRFを100W印加し48秒間プラズマによる酸化を行う。
【0050】
次に、本発明の他の実施例を、図面を参照して説明する。
【0051】
図4は、本発明の他の実施例に係るプラズマ処理装置の構成を説明する断面図である。図示されたプラズマ処理装置は、基板仕込み室101、円筒状カップ(図示せず)を搭載した陰極体製造用治具102、基板取り出し室103、及び、プラズマ処理室109を備えている。また、プラズマ処理室109と基板仕込み室101との間は、ゲートバルブ104によって仕切られており、プラズマ処理室109と基板取り出し室103との間は、ゲートバルブ105によって仕切られている。
【0052】
また、プラズマ処理室109は、平行平板電極を有するプラズマ源を備えた表面処理部106と、第1及び第2の回転マグネット式マグネトロンスパッタ成膜部107及び108とによって構成されている。このうち、表面処理部106は、プラズマ源でプラズマを励起して、図2に示された円筒状カップ表面のプラズマクリーニングを行うユニットである。また、第1のマグネトロンスパッタ成膜部107は、窒素ガス(N)を含むアルゴン(Ar)雰囲気で、陰極製造用治具102上の円筒状カップ(即ち、基体)の表面を窒化し、他方、第2の回転マグネット式マグネトロンスパッタ成膜部108は、アルゴン雰囲気でLaB膜を成膜する。
【0053】
図示された第1及び第2の回転マグネット式マグネトロンスパッタ成膜部107及び108は、それぞれ、マグネトロンスパッタ源を上下に2セット備えた例を示しているが、図2に示すような円筒状カップ30の一表面のみを処理する場合、何れか一方のマグネトロンスパッタ源のみを使用し、他方を不動作状態にしておけば良い。被処理基体が平板状のものである場合は、平らな基体保持部材の表裏両面に基体を取り付けて、上下両方のプラズマ源およびマグネトロンスパッタ源を使用する。
【0054】
この例に示されたプラズマ処理室109には、陰極製造用治具102をゲートバルブ104から、表面処理部106、第1及び第2のマグネトロンスパッタ成膜部107、108を経て、ゲートバルブ105まで移動させる移動機構(図示せず)が設けられている。移動はこの一方向でなく途中で逆方向(戻る方向)に移動も可能である。移動機構は、インラインタイプのプラズマ処理装置に用いられる移動機構を使用することができる。
【0055】
図4では、ゲートバルブ104によって規定される一端からゲートバルブ105で規定される他端までの長さが、陰極製造用治具102の長さの3倍以上の長さであるプラズマ処理室109が用いられている。即ち、プラズマ処理室109は、陰極製造用治具102の移動方向に対する長さと略略同等の長さを備えた表面処理部106、陰極製造用治具102の移動方向に対する長さに略略等しい長さを有する第1及び第2の回転マグネット式マグネトロンスパッタ成膜部107及び108、及び、陰極製造用治具102の長さと同等以上の長さを有する、処理された陰極製造用治具102上の円筒状カップを取り出し室103へ取り出すために待機させる取り出し用スペースによって定まる長さを有している。
【0056】
本プラズマ処理装置において、基板仕込み室101、プラズマ処理室109、基板取り出し室103は全て減圧可能であり、基板仕込み室101及び基板取り出し室103は、基板仕込み時及び取り出し時に大気圧とする。プラズマ処理室109はメンテナンス時以外、基本的に減圧状態に維持されている。基板仕込み室101に、円筒状カップを搭載した陰極製造用治具102をセットし、基板仕込み室101を減圧にした後、陰極製造用治具102は、ゲートバルブ101を開いて、ロボット(図示せず)により、プラズマ処理室109の表面処理部106に導入される。表面処理部106には、導入された陰極製造用治具102をマグネトロンスパッタ成膜部107の方向へ移動させるだけでなく、逆方向への移動させることができる。また、参照番号1061でシンボル化して示されているように、移動方向に対して垂直な方向に移動させる移動機構も設けられている。
【0057】
次に、図4を参照して、図示されたプラズマ処理装置における処理手順を説明する。まず、基体(本実施例では円筒状カップを搭載した陰極製造用治具)102は、基板仕込み室101からゲートバルブ104を介して表面処理部106へ搬送される。表面処理部106では、アルゴン(Ar)雰囲気でプラズマクリーニングが行われる。この場合、プラズマ処理室109内には、アルゴンと水素を流量比9:1で導入し、圧力を50mTorrに設定しておき、表面処理部106に設けられた上部プラズマ励起電極に13.56MHzのRF電力を0.2W/cmの電力密度で、陰極製造用治具102上に搭載された円筒状カップへのイオン照射が40eV程度となるような条件でプラズマを励起し、8秒間プラズマクリーニングを行った。
【0058】
アルゴンのみでプラズマ励起を行っても、酸化被膜の除去効果はあるが、水素も導入することによって、水素ラジカルによる還元効果を利用することで除去効果を増大させることができる。この場合、プラズマ密度を増加させてクリーニング効果を増大させるために下部のプラズマ励起電極にも同時にRF電力を印加しても良い。
【0059】
更に、図4を参照して、陰極製造用治具102に搭載された円筒状カップの窒化処理及びLaB膜形成プロセスについて説明する。第1のマグネトロンスパッタ成膜部107は、成膜を行うこと無く、クリーニングされた円筒状カップ表面を窒素含有雰囲気で窒化する。このため、第1のマグネトロンスパッタ成膜部107の2組のマグネトロンスパッタ源は、この実施例では実際には使用されない。
【0060】
表面を窒化処理された円筒状カップを搭載した陰極製造用治具102は、第1のマグネトロンスパッタ成膜部107から、第2のマグネトロンスパッタ成膜部108に搬送される。第2のマグネトロンスパッタ成膜部108は、上下に2組のマグネトロンスパッタ源(ここでは、LaBターゲット)を備えているが、ここでは、上部のマグネトロンスパッタ源(ここでは、LaBターゲット)のみを使用して、LaB膜の成膜が行われる。
【0061】
これらマグネトロンスパッタ成膜部107、108のスパッタ源のスパッタ方式としては、固定磁石をターゲットの裏面に設置した通常のマグネトロンスパッタ方式でも構わないが、図1に示された回転マグネット式マグネトロンスパッタ装置を用いた方が好ましい。回転マグネット式マグネトロンスパッタ装置を用いることで、成膜レートも向上でき、さらにターゲット利用効率が高いために、ターゲット交換頻度を少なくすることが可能で、スループットを高くし、ランニングコストを安く抑えることができる。このため、図4では、回転マグネット式マグネトロンスパッタ装置を用いた例が示されている。
【0062】
窒化処理した後にLaB膜を形成した場合、LaB膜の剥離が少なくなる。即ち、窒化処理しなかった場合、LaB膜の剥離確率は57%であったのに対し、窒化処理した場合、LaB膜の剥離確率は25%と大幅に改善されていることが判明した。即ち,LaB膜の成膜前に、タングステン等の基体表面を窒化処理した場合、LaB膜の密着性を大幅に改善することができた。
【0063】
以下、本発明の態様を列挙しておく。
【0064】
上に述べた実施例では、タングステンを主成分とする円筒状カップの表面を窒化処理した後、LaB膜をスパッタによって形成すること、及び、これによって得られた陰極体について説明したが、本発明は、円筒状カップに限らず、種々の形状を有する基体に適用することができる。
【0065】
また、本発明に係る基体はタングステンに限らず、モリブデン、シリコン、又は、4〜6重量%のランタンオキサイドを含むタングステン又はモリブデンであっても良いし、体積比で4〜6%のLaを含むタングステン又はモリブデンであっても良い。更に、基体は、樹脂、ガラス、酸化珪素であっても良い。
【0066】
また、基体はタングステン、モリブデン、シリコン、またはLa、ThO、及びYからなる群から選択された少なくとも一つを含むタングステンもしくはモリブデンであっても良い。
【0067】
一方、本発明に係る陰極体は、LaB膜に限定されることなく、他の希土類元素のホウ化物、例えば,LaB,YbB、GaB、及び、CeBからなる群から選択された少なくとも一つのホウ化物を含めば良い。
【0068】
本発明は、これらの陰極体を含む蛍光管にも適用できる。
【符号の説明】
【0069】
1 ターゲット
2 柱状回転軸
3 回転磁石群
4 固定外周磁石
5 外周常磁性体
6 バッキングプレート
7 ハウジング
8 冷媒通路
9 絶縁材
11 処理室内の空間
12 フィーダ線
13 カバー
14 外壁
15 常磁性体
16 プラズマ遮蔽部材
18 スリット
19 陰極体製造用治具
30 円筒状カップ
301 円筒状電極部
302 リード部
321 受容部
322 鍔部
323 傾斜部
341 厚いLaB
342 薄いLaB
343 底面LaB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面を窒化する工程と、引き続き同一処理装置内にて、基体の窒化された前記表面にスパッタによってLaBの膜を形成する工程とを有することを特徴とするLaB膜の製造方法。
【請求項2】
前記基体はタングステン、モリブデン、シリコン、または4〜6重量%のランタンオキサイドを含むタングステンもしくはモリブデンであることを特徴とする請求項1に記載のLaB膜の製造方法。
【請求項3】
前記基体は樹脂、ガラス、または酸化珪素であることを特徴とする請求項1に記載のLaB膜の製造方法。
【請求項4】
基体と、該基体の表面に設けられ、該基体の成分の窒化物を含む層と、前記窒化物を含む層の面にスパッタによって形成された希土類元素のホウ化物の膜とを有することを特徴とする陰極体。
【請求項5】
前記基体はタングステン、モリブデン、シリコン、またはLa、ThO、及びYからなる群から選択された少なくとも一つを含むタングステンもしくはモリブデンであることを特徴とする請求項4に記載の陰極体。
【請求項6】
前記基体は樹脂、ガラス、または酸化珪素であることを特徴とする請求項4に記載の陰極体。
【請求項7】
請求項4〜6において、前記希土類元素のホウ化物は、LaB、LaB、YbB、GaB、CeBからなる群から選択された少なくとも一つのホウ化物を含むことを特徴とする陰極体。
【請求項8】
請求項7において、選択された少なくとも一つの前記希土類元素のホウ化物は、LaBであることを特徴とする陰極体。
【請求項9】
請求項8の陰極体であって、前記基体は体積比で4〜6%のLaを含むタングステンまたはモリブデンであることを特徴とする陰極体。
【請求項10】
請求項4乃至9のいずれかに記載の陰極体を陰極として用いた蛍光管。
【請求項11】
前記窒化する工程は、窒素を含むガスをプラズマ化して活性な窒素を生成し、前記基体の表面の少なくとも一部に前記活性な窒素を照射する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3の一に記載のLaB膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−210426(P2011−210426A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74972(P2010−74972)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】