説明

NOx分解用電気化学素子及びそれを用いたNOx浄化方法

【課題】酸素雰囲気下においても少ない消費電力でNOを効率よく電気分解することが可能なNO分解用電気化学素子を提供すること。
【解決手段】固体電解質からなる基板11と、基板11の両面に形成された一対の電極とを備えるNO分解用電気化学素子1であって、
前記電極のうちの一方の電極13が、基板11上に形成された電子伝導性物質からなる第一層13aと、第一層13a上に形成されたジルコニア固溶体からなる第二層13bとを備えるNO分解電極13であり、且つ、
前記ジルコニア固溶体が、正方晶と単斜晶との合計量に対する正方晶の結晶相比率[〔正方晶〕/(〔正方晶〕+〔単斜晶〕)]が50〜80%の範囲にあるものであること、
を特徴とするNO分解用電気化学素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NO分解用電気化学素子及びそれを用いたNO浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸素イオン伝導性を有する固体電解質からなる基板と、前記基板の両面に形成された一対の電極とを備えるNO分解用電気化学素子を用い、前記電気化学素子に電圧を印加することによりNOを浄化させる方法が研究されてきた。
【0003】
例えば、特開平9−299749号公報(特許文献1)においては、固体電解質からなる基板と、前記基板の両面に形成された一対の電極と、カソード電極上に形成されたペロブスカイト型複合酸化物の薄膜とからなるNO分解用電気化学素子が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載されているようなNO分解用電気化学素子においては、酸素雰囲気下で、酸素がイオン化して固体電解質中を流れることから、NOを分解するために多量の電流を流す必要があり、著しく消費電力が大きかった。
【0004】
また、特開2002−333428号公報(特許文献2)においては、固体電解質からなる基板と、前記基板の両面に形成された一対の電極とを備え、前記電極の少なくとも一つが希土類元素単体及び/又は希土類元素を含む酸化物と、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Ag、Ni及びAuから成る群から選択される一種又は二種以上の金属又はそれらの合金とから実質的に構成された電極であるNO分解用電気化学素子が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載されているようなNO分解用電気化学素子においては、貴金属等を使用するためコストの面で必ずしも十分なものではなかった。また、このようなNO分解用電気化学素子においても酸素雰囲気下におけるNOの分解効率は必ずしも十分なものではなかった。
【0005】
更に、特開2003−265926号公報(特許文献3)や特開2004−41975号公報(特許文献4)においては、固体電解質からなる基板と、前記基板の両面に形成された一対の電極とを備え、カソード電極が、電子伝導性物質と酸化イットリア等で安定化させたジルコニアからなる上部カソード(触媒反応部)と下部アノード(電極)とからなるNO分解用電気化学素子が開示されている。しかしながら、特許文献3〜4に記載されているようなNO分解用電気化学素子においては、酸素雰囲気下におけるNOの分解効率が必ずしも十分なものではなかった。
【特許文献1】特開平9−299749号公報
【特許文献2】特開2002−333428号公報
【特許文献3】特開2003−265926号公報
【特許文献4】特開2004−41975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、酸素雰囲気下においても少ない消費電力でNOを効率よく電気分解することが可能なNO分解用電気化学素子及びそれを用いたNO浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、固体電解質からなる基板と、前記基板の両面に形成された一対の電極とを備えるNO分解用電気化学素子において、前記電極のうちの一方の電極を、前記基板上に形成された電子伝導性物質からなる第一層と、前記第一層上に形成され且つ正方晶と単斜晶との合計量に対する正方晶の結晶比率が50〜80%の範囲にあるジルコニア固溶体からなる第二層とを備えるNO分解電極とすることにより、酸素雰囲気下においても少ない消費電力でNOを効率よく電気分解することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のNO分解用電気化学素子は、固体電解質からなる基板と、該基板の両面に形成された一対の電極とを備えるNO分解用電気化学素子であって、
前記電極のうちの一方の電極が、前記基板上に形成された電子伝導性物質からなる第一層と、該第一層上に形成されたジルコニア固溶体からなる第二層とを備えるNO分解電極であり、且つ、
前記ジルコニア固溶体が、正方晶と単斜晶との合計量に対する正方晶の結晶相比率[〔正方晶〕/(〔正方晶〕+〔単斜晶〕)]が50〜80%の範囲にあるものであること、
を特徴とするものである。
【0009】
上記本発明のNO分解用電気化学素子においては、前記ジルコニア固溶体が、ジルコニアと、添加成分としてのプラセオジム及び/又はカルシウムとを含有するものであり、且つ、前記添加成分の含有比率が、前記ジルコニアと前記添加成分の合計量を基準として5〜30モル%の範囲にあることが好ましい。
【0010】
また、上記本発明のNO分解用電気化学素子においては、前記第二層が、前記第一層上に形成されたジルコニア固溶体を800〜1200℃の温度条件で1〜5時間焼成して得られたものであることが好ましい。
【0011】
さらに、上記本発明のNO分解用電気化学素子においては、前記ジルコニア固溶体が、貴金属が担持されたものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明のNO浄化方法は、上記本発明のNO分解用電気化学素子に、電圧を印加し、NOを接触させてNOを電気分解することを特徴とする方法である。
【0013】
なお、本発明のNO分解用電気化学素子によって酸素雰囲気下においても少ない消費電力でNOを効率よく電気分解することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、本発明者らは、上述のような従来技術においては、NO分解用電極に酸素欠陥の少ないイオン伝導性物質を用いているため、NOを効率よく電気分解することができないということを見出した。そして、このような結果から、従来のNO分解用電極ではイオン伝導性物質を用いているため、結晶相が安定化されて酸素欠陥が十分に形成されず、十分なNO分解能が得られないものと推察した。そこで、本発明者らは、更に鋭意研究を重ねた結果、NO分解用電極中に正方晶の結晶相比率が50〜80%の範囲にあるジルコニア固溶体からなる層を形成させることで、その層中に酸素欠陥を適度に形成させることが可能となることを見出した。更に、このようなジルコニア固溶体は、そのジルコニア成分により十分な酸素吸蔵放出量も達成でき、NOの分解に十分に寄与することができるものである。従って、本発明においては、NO分解用電極に正方晶の結晶相比率が50〜80%の範囲にあるジルコニア固溶体からなる層を形成させることで、適度な酸素欠陥と十分な酸素吸蔵放出量の達成を可能とし、これによって酸素雰囲気下においても少ない消費電力でNOを効率よく電気分解できるものと推察される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸素雰囲気下においても少ない消費電力でNOを効率よく電気分解することが可能なNO分解用電気化学素子及びそれを用いたNO浄化方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
先ず、本発明のNO分解用電気化学素子について説明する。本発明のNO分解用電気化学素子は、固体電解質からなる基板と、該基板の両面に形成された一対の電極とを備えるNO分解用電気化学素子であって、
前記電極のうちの一方の電極が、前記基板上に形成された電子伝導性物質からなる第一層と、該第一層上に形成されたジルコニア固溶体からなる第二層とを備えるNO分解電極であり、且つ、
前記ジルコニア固溶体が、正方晶と単斜晶との合計量に対する正方晶の結晶相比率[〔正方晶〕/(〔正方晶〕+〔単斜晶〕)]が50〜80%の範囲にあるものであること、
を特徴とするものである。
【0016】
図1は、本発明のNO分解用電気化学素子の好適な一実施形態の概略縦断面図である。図1に示すNO分解用電気化学素子1は、基板11と、電極12と、第一層13a及び第二層13bからなる電極13を備えるものである。
【0017】
基板11は、固体電解質からなるものである。このような固体電解質としては、酸素イオン導電性を示すものであれば特に制限なく使用することができる。このような酸素イオン導電性を有する固体電解質としては、例えば、ジルコニウム系固体電解質(ZrO−M固溶体やZrO−MO固溶体(前記一般式中、MはY、Yb、Gd、Ca又はMgであることが好ましい。)等)、セリア系固体電解質(CeO−M固溶体又はCeO−M固溶体(前記一般式中、MはY又はSmが好ましい)等)等が挙げられる。このような固溶体電解質の中でも、自動車等の内燃機関から排出される高温のNOを分解する場合の安定性と酸素イオン導電性の観点からジルコニウム系固体電解質が好ましく、3〜8mol%のYを固溶させた安定化ジルコニアが特に好ましい。また、このような基板11の形状や厚み等は特に制限されず、目的とする設計に応じて適宜変更することができる。また、固体電解質からなる基板11の製造方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用することできる。
【0018】
電極12は、電子伝導性物質からなり、基板11上に形成されたものである。このような電子伝導性物質としては特に制限されず、公知の電子伝導性物質を適宜用いることができる。また、このような電子伝導性物質としては、希土類元素から成る単体及び/又は希土類元素を含む酸化物を含有するものを好適に用いることができる。このような希土類元素を含む酸化物としては、例えば、希土類酸化物、希土類を固溶させた前記導電性固体電解質、導電性酸化物に希土類を添加した化合物(例えばLSM(La,Sr,MnO))等が挙げられる。また、このような電子伝導性物質の中でも、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから成る群から選択される希土類元素から成る単体又はその酸化物を含有するものがより好ましい。また、電極12中における前記各成分の含有量、電極12の厚みや形状等は特に制限されず、目的とする設計に応じて適宜変更することができる。また、このような電子伝導性物質においては、他の成分を適宜含有させてもよい。さらに、電極12の形成方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、LSM電極を形成させる場合においては、エチレングリコールに溶かしたLSMを所望の厚みに塗布して乾燥させる方法が挙げられる。
【0019】
電極13は、電子伝導性物質からなる第一層13aと、ジルコニア固溶体からなる第二層13bとを備えるものであり、NO分解電極として機能するものである。このような電子伝導性物質からなる第一層13aは基板11上に形成されたものである。また、第一層13aを形成する電子伝導性物質は、電極12において説明した電子伝導性物質と同様のものである。また、第一層13aの形成方法も特に制限されず、上述の電極12の形成方法と同様の方法を採用することができる。
【0020】
また、第二層13bは、ジルコニア固溶体からなるものであり、第一層13a上に形成されたものである。本発明において、前記第二層13bは、正方晶と単斜晶との合計量に対する正方晶の結晶相比率[〔正方晶〕/(〔正方晶〕+〔単斜晶〕)]が50〜80%(より好ましくは55〜65%)の範囲にあるものである。このような正方晶の結晶相比率が50%未満では、酸素欠陥が十分に形成されず、NOを効率よく電気分解することが困難となる傾向にあり、他方、正方晶の結晶相比率が80%を超えても、同様に酸素欠陥が十分に形成されず、NOを効率よく電気分解できなくなる傾向にある。このような結晶相比率は、X線回折装置(リガク社製の商品名「RINT−TTR」)を用いたX回折測定により得られたデータから、正方晶と単斜晶にそれぞれ特有のピークの強度を測定することにより正方晶の量(モル)と単斜晶の量(モル)をそれぞれ求め、モル比として算出することができるものである。
【0021】
さらに、このようなジルコニア固溶体としては、ジルコニアと、添加成分としてのプラセオジム及び/又はカルシウムとを含有するものが好ましい。このような添加成分としてのプラセオジムやカルシウムは、ジルコニア固溶体中においてNOの分解能に寄与する酸素欠陥を生成させ易い。そのため、このような添加成分を含有させることで、NO分解効率が向上する傾向にある。また、このような添加成分の含有比率としては、ジルコニアと添加成分の合計量を基準として5〜30モル%(より好ましくは10〜20モル%)の範囲にあることが好ましい。前記添加成分の含有比率が前記下限未満では、酸素欠陥を十分に生成することができない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ジルコニア固溶体中において添加成分の結晶構造が支配的になるため、酸素欠陥を生成することが困難となる傾向にある。
【0022】
また、第二層13bとしては、前記第一層13a上に形成されたジルコニア固溶体を800〜1200℃(より好ましくは800〜1000℃)の温度条件で1〜5時間焼成して得られたものであることが好ましい。このような条件を満たす焼成を行って得られた第二層13bを備えるNO分解用電気化学素子によって、長期に亘り十分にNOx分解能を発揮することが可能となる傾向にある。また、このような条件を満たす焼成によって、前記ジルコニア固溶体中の正方晶の結晶相比率が効率よく50〜80%の範囲となる傾向にある。
【0023】
また、第二層13bとしては、貴金属が担持された前記ジルコニア固溶体からなることが好ましい。このような貴金属としては、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等が挙げられ、NO分解活性が高いという観点から、Pt、Rh、Pdが好ましい。また、ジルコニア固溶体に貴金属を担持させる方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、貴金属のイオンを含有する水溶液(例えば、ジニトロジアンミン白金水溶液、硝酸ロジウム水溶液)を所定量含浸させ、これを蒸発乾固もしくは選択担持により濾過させた後、250〜500℃程度で0.5〜5時間焼成する方法等を挙げることができる。
【0024】
さらに、第二層13bの厚みとしては、NO分解用電気化学素子自体の設計に応じて適宜変更できるものであるため特に制限されるものではないが、20〜500μmであることが好ましく、100〜200μmであることがより好ましい。第二層13bの厚みが前記下限未満では、第一層が直接反応ガスに接触することや触媒能を発揮するジルコニア固溶体の量が不足するため、NO分解能が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、反応ガスが接触する第二層表面まで電気的な効果を及ぼせなくなる傾向にある。
【0025】
また、このような第二層13bの製造方法としては特に制限されないが、例えば、前記ジルコニア固溶体を含有するスラリー又はペーストを所望の厚みとなるようにして前記第一層13a上に塗布した後、第一層上に形成されたジルコニア固溶体を焼成する方法を挙げることができる。このようなスラリーやペースト中における前記ジルコニア固溶体の大きさは特に制限されず、目的とする第二層の設計に応じて適宜変更することができるが、粒状のものを用いる場合には平均粒径が0.1〜10μm程度のものを用いることが好ましい。また、スラリー又はペーストを形成させる際の液体成分としては特に制限されず、水や公知の有機溶剤等を適宜用いることができ、また、必要に応じて各種添加剤を含有させてもよい。更に、このようなスラリーやペーストを塗布する方法も特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、スクリーン印刷法を採用することができる。
【0026】
また、第二層13bを製造する際の焼成の方法としては、800〜1200℃(より好ましくは800〜1000℃)の温度条件で1〜5時間焼成する方法を採用することが好ましい。このような焼成温度及び焼成時間が前記下限未満では、得られたNO分解用電気化学素子を使用する際に、例えば、自動車の排ガス浄化用の触媒として利用する場合においては、900℃程度の高温下で使用される場合に、前記正方晶の結晶相比率が変化する場合があり、高度なNO分解能を長期に亘り発揮することが困難となる傾向にある。他方、焼成温度及び焼成時間が前記上限を超えると、ジルコニア固溶体と固体電解質からなる基板との間で反応が起こったり、前記基板が破壊されてしまったりするため、高度なNO分解能を有するNO分解用電気化学素子が得られなくなる傾向にある。また、このような条件を満たす焼成を行うことで、前記ジルコニア固溶体の正方晶と単斜晶との合計量に対する正方晶の結晶相比率を50〜80%の範囲とすることが達成される。すなわち、このような条件を満たす焼成を行うことで、本発明にかかるジルコニア固溶体からなる第二層を製造することが可能となる。
【0027】
以上、本発明のNO分解用電気化学素子の好適な実施形態について説明したが、本発明のNO分解用電気化学素子は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、NO分解用電気化学素子においては、特に制限なく、必要に応じて、前記基板11と電極12との間、前記基板11と第一層13aとの間、第一層13aと第二層13bとの間、第二層13bの外表面等に他の層を更に形成させてもよい。このような他の層としては、例えば過剰な酸素イオンの生成を抑止するために形成する表面被覆層等が挙げられる。このような他の層は公知の方法を採用して形成させることが可能である。
【0028】
以上、本発明のNO分解用電気化学素子について説明したが、以下、本発明のNO浄化方法について説明する。
【0029】
本発明のNO浄化方法は、上記本発明のNO分解用電気化学素子に、電圧を印加し、NOを接触させてNOを電気分解することを特徴とする方法である。以下、本発明のNO浄化方法の好適な実施形態について、前記NO分解用電気化学素子として、上述のような図1に示すNO分解用電気化学素子を用いた場合を例にして説明する。
【0030】
NO分解用電気化学素子1は、用いる際に電極12及び電極13間に直流電圧が印加できるように配線して電源に接続する。また、電極13への配線は、第一層13aに接続することが好ましい。このようにしてNO分解用電気化学素子1と電源とを接続した後、電極12側が正極、電極13側が陰極となるようにして直流電圧を印加し、電極13側にNOを含有する排ガスを接触させることにより、電極13上でNOを窒素と酸素に分解できる。そして、このような分解により生成された酸素は、電源により印加した直流電圧を駆動力として、電極13上から固体電解質を通して電極12側に移動し、電極12から酸素分子として気相へ排出される。
【0031】
ここで、印加する電圧の大きさは、用いたNO分解用電気化学素子の設計等によって異なるものであり、特に制限されるものではないが、固体電解質からなる基板11の厚みに対して2〜10V/mm程度であることが好ましい。このような印加電圧が前記下限未満では、前述のような電極13側から電極12側への酸素の移動が遅すなりすぎて、NOの分解反応が十分進行しなくなる傾向にある。他方、前記上限を超えると、気相からの酸素の拡散が追いつかず、固体電解質自身の酸素が移動してしまい、最後には固体電解質が破壊されてしまう傾向にある。
【0032】
なお、このようにしてNOを浄化する際の温度条件としては、特に制限されないが、400〜1000℃程度であることが好ましく、500〜800℃であることがより好ましい。このような温度条件が前記下限未満では、窒素酸化物の分解反応の速度が遅く、しかも固体電解質中の酸素移動速度も極めて小さいため、NOを効率よく分解できなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、逆反応が起こり易くなり、電極13上で生成されたNが再びOと反応してNOに戻ってしまい、NOを効率よく分解できなくなる傾向にある。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1〜2及び比較例1〜6)
図1に示すようなNO分解用電気化学素子1を製造した。すなわち、先ず、固体電解質からなる基板11として、1500℃で大気中1時間焼成したイットリア安定化ジルコニア板(縦10mm、横50mm、厚み2mm)を用いた。そして、このような基板11の両面にエチレングリコールに溶かしたLSM[La(0.98)Sr(0.02)MnO]を乾燥後のLSM電極の厚さがそれぞれ0.1mmとなるようにして塗布し、200℃で乾燥させて、基板11の両面に電極12及び第一層13aを形成させた。次いで、下記一般式(1):
Zr0.950.05 (1)
[式(1)中、Xは、Pr(実施例1)、Ca(実施例2)、ZrO(比較例1)、Ba(比較例2)、Ce(比較例3)、La(比較例4)、Nd(比較例5)、Y(比較例6)をそれぞれ示す。]
で表されるジルコニア固溶体(ZrとXとのモル比は全て0.95:0.05、粒径2〜3μmの粒状のものを使用)をそれぞれ用い、前記ジルコニア固溶体を含有するエチレングリコールのスラリーを準備し、これを乾燥後のジルコニア固溶体からなる層の厚みが0.1mmとなるようにして第一層13a上に塗布した。その後、第一層13a上に形成されたジルコニア固溶体を、大気中、1000℃の温度条件で1時間焼成して、第一層13a上に第二層13bを形成せしめ、NO分解用電気化学素子1を得た。なお、電線としてPt線を電極12及び第一層13aに接続し、両電極間に電圧を印加可能とした。
【0035】
(比較例7)
第二層13bを形成しない以外は実施例1と同様にしてNO分解用電気化学素子を得た。このようなNO分解用電気化学素子は、基板の両面にLSM電極が形成されたものである。
【0036】
[実施例1〜2及び比較例1〜7で得られたNO分解用電気化学素子の特性評価]
<NO転化率の測定1>
実施例1〜2及び比較例1〜7で得られたNO分解用電気化学素子をそれぞれ用い、印加電圧を0Vから15Vまで10分ごとに2.5V刻みで増加させて各NO分解用電気化学素子に電圧を印加し、700℃の温度条件下において、1000ppmNOと0.5体積%のOを含むHeガス(流量60cc/min)を接触させて、NOの減少量をNO計により測定した。このような測定の結果、全てのNO分解用電気化学素子において電圧の増加に伴って、電流とNO転化率(浄化率)が向上した。
【0037】
<NO転化率の測定2>
実施例1〜2及び比較例1〜7で得られたNO分解用電気化学素子をそれぞれ用い、電極13が陰極となるようにしてNO分解用電気化学素子の両電極間に1.5Aの電流を流し、700℃の温度条件下において、1000ppmNOと0.5体積%のOを含むHeガス(流量60cc/min)を接触させて、NOの減少量をNO計により測定し、NO転化率を求めた。NO転化率と正方晶の結晶相比率との関係を示すグラフを図2に示す。なお、正方晶の結晶相比率は、X線回折装置(リガク社製の商品名「RINT−TTR」)を用いたXRD測定により得られたデータに基づいて正方晶の量(モル)と単斜晶の量(モル)を測定した後、正方晶と単斜晶との合計量に対する正方晶の比率を計算して求めたものである。
【0038】
図2に示す結果からも明らかなように、Pr(実施例1)、Ca(実施例2)を添加成分として含有し、正方晶の結晶相比率が50〜80%の範囲にあるジルコニア固溶体からなる第二層が形成された本発明のNO分解用電気化学素子においては、NOを効率よく電気分解できることが確認された。一方、ZrO(比較例1)、Ba(比較例2)、Ce(比較例3)La(比較例4)、Nd(比較例5)、Y(比較例6)等を添加成分として含有し、正方晶の結晶相比率が50〜80%の範囲外にあるジルコニア固溶体からなる第二層が形成された比較のためのNO分解用電気化学素子においては、十分にNOを電気分解できなかった。このような結果は、比較のためのNO分解用電気化学素子においては、正方晶の結晶相比率が50〜80%の範囲外となったため、第二層中に酸素欠陥を十分に形成させることができなくなったことに起因するものと推察される。
【0039】
このような結果から、本発明のNO分解用電気化学素子においては、酸素雰囲気下においても、少ない消費電力でNOを効率よく電気分解できることが確認された。
【0040】
(実施例3〜4及び比較例8〜12)
ジルコニア固溶体として、ロジウムが0.5wt%担持された下記一般式(2):
0.5wt%Rh/Zr0.950.05 (2)
[式(2)中、Xは、Pr(実施例3)、Ca(実施例4)、Ba(比較例8)、Ce(比較例9)、La(比較例10)、Nd(比較例11)、Y(比較例12)をそれぞれ示す。]
で表されるジルコニア固溶体をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして、NO分解用電気化学素子(実施例3〜4及び比較例8〜12)をそれぞれ製造した。
【0041】
[実施例3〜4及び比較例7〜12で得られたNO分解用電気化学素子の特性評価]
<NO転化率の測定3>
実施例3〜4及び比較例7〜12で得られたNO分解用電気化学素子をそれぞれ用い、印加電圧を0Vから15Vまで10分ごとに2.5V刻みで増加させて各NO分解用電気化学素子に電圧を印加し、700℃の温度条件下において、1000ppmNOと0.5体積%のOを含むHeガス(流量60cc/min)を接触させて、NOの減少量をNO計により測定した。このような測定の結果、全てのNO分解用電気化学素子において電圧の増加に伴って、電流とNO転化率(浄化率)が向上した。
【0042】
<NO転化率の測定4>
実施例3〜4及び比較例7〜12で得られたNO分解用電気化学素子をそれぞれ用い、電極13が陰極となるようにしてNO分解用電気化学素子の両電極間に0.15Aの電流を流し、700℃の温度条件下において、1000ppmNOと0.5体積%のOを含むHeガス(流量60cc/min)を接触させて、NOの減少量をNO計により測定し、NO転化率を求めた。NO転化率と正方晶の結晶相比率との関係を示すグラフを図3に示す。また、NO転化率と添加成分との関係を示すグラフを図4に示す。なお、図3中の正方晶の結晶相比率は、NO分解用電気化学素子を製造した直後の値であって、X線回折装置(リガク社製の商品名「RINT−TTR」)を用いたXRD測定により得られたデータに基づいて正方晶の量(モル)と単斜晶の量(モル)を測定した後、正方晶と単斜晶との合計量に対する正方晶の比率を計算して求めたものである。
【0043】
図3及び図4に示す結果からも明らかなように、Pr(実施例3)、Ca(実施例4)を添加成分として含有し、正方晶の結晶相比率が50〜80%の範囲にあるジルコニア固溶体からなる第二層が形成された本発明のNO分解用電気化学素子においては、NOを効率よく電気分解できることが確認された。また、前述の図2に示す結果と比較すると、NO分解用電気化学素子においては、ジルコニア固溶体にロジウム(貴金属)を担持させることでNO分解効率が向上することが確認された。一方、Ba(比較例8)、Ce(比較例9)La(比較例10)、Nd(比較例11)、Y(比較例12)を添加成分として含有し、且つ、正方晶の結晶相比率が50〜80%の範囲外であるジルコニア固溶体からなる第二層が形成された比較のためのNO分解用電気化学素子においては、十分にNOを電気分解できないことが確認された。
【0044】
このような結果から、本発明のNO分解用電気化学素子においては、酸素雰囲気下においても、少ない消費電力でNOを効率よく電気分解できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したように、本発明によれば、酸素雰囲気下においても少ない消費電力でNOを効率よく電気分解することが可能なNO分解用電気化学素子及びそれを用いたNO浄化方法を提供することが可能となる。
【0046】
したがって、本発明のNO分解用電気化学素子は、効率よくNOを浄化することができるため、自動車の排ガス中に含まれるNOを浄化するための触媒等として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明のNO分解用電気化学素子の好適な一実施形態の概略縦断面図である。
【図2】実施例1〜2及び比較例1〜7で得られたNO分解用電気化学素子のNO転化率と正方晶の結晶相比率との関係を示すグラフである。
【図3】実施例3〜4及び比較例7〜12で得られたNO分解用電気化学素子のNO転化率と正方晶の結晶相比率との関係を示すグラフである。
【図4】実施例3〜4及び比較例7〜12で得られたNO分解用電気化学素子のNO転化率と添加成分との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1…NO分解用電気化学素子、11…基板、12…電極、13…電極、13a…第一層、13b…第二層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質からなる基板と、該基板の両面に形成された一対の電極とを備えるNO分解用電気化学素子であって、
前記電極のうちの一方の電極が、前記基板上に形成された電子伝導性物質からなる第一層と、該第一層上に形成されたジルコニア固溶体からなる第二層とを備えるNO分解電極であり、且つ、
前記ジルコニア固溶体が、正方晶と単斜晶との合計量に対する正方晶の結晶相比率[〔正方晶〕/(〔正方晶〕+〔単斜晶〕)]が50〜80%の範囲にあるものであること、
を特徴とするNO分解用電気化学素子。
【請求項2】
前記ジルコニア固溶体が、ジルコニアと、添加成分としてのプラセオジム及び/又はカルシウムとを含有するものであり、且つ、前記添加成分の含有比率が、前記ジルコニアと前記添加成分の合計量を基準として5〜30モル%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のNO分解用電気化学素子。
【請求項3】
前記第二層が、前記第一層上に形成されたジルコニア固溶体を800〜1200℃の温度条件で1〜5時間焼成して得られたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のNO分解用電気化学素子。
【請求項4】
前記ジルコニア固溶体が、貴金属が担持されたものであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のNO分解用電気化学素子。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のNO分解用電気化学素子に、電圧を印加し、NOを接触させてNOを電気分解することを特徴とするNO浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−68182(P2008−68182A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247749(P2006−247749)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】