説明

OH、ODレベルの低いガラス

OHおよびODの内の少なくとも一方の合計濃度が約50ppmまでである溶融シリカガラスおよび溶融シリカ物品。この溶融シリカガラスは、溶融シリカスートブランクまたはプリフォームを、乾燥剤を含有する不活性雰囲気内で乾燥させ、その後、乾燥したスートブランクを、不活性ガスおよび酸素を含む雰囲気内で加熱することによって、乾燥したスートブランクから残留する乾燥剤を除去することによって、形成される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、2007年5月9日に出願された米国仮特許出願第60/928471号の、米国特許法第119条(e)の下で優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、溶融シリカガラスおよびそれから製造された物品に関する。より詳しくは、本発明は、低濃度の水酸(OH)基、重水酸(deuteroxyl)(OD)基、塩素(Cl)、臭素(Br)、およびフッ素(F)を有する溶融シリカガラスに関する。さらにより詳しくは、本発明は、低レベルの光誘起波面歪みおよび偏光誘起複屈折をもたらす上述した種を低濃度で有する溶融シリカガラスに関する。
【背景技術】
【0003】
半導体分野、特にリソグラフィーの分野に用いられる光学成分には、動的性質および静的性質の両方に厳しい要件がある。関心のある動的性質としては、光誘起波面歪み(LIWFD)、誘起吸収(IA)、偏光誘起複屈折(PIB)、およびフルエンス依存性透過率(FDT)が挙げられる。関心のある静的性質としては、特に、屈折率均一性、複屈折、および透過率が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在入手できる溶融シリカ光学素子が、半導体リソグラフィー用途にとって屈折率均一性の要件を満たすのは難しい。その上、次世代のリソグラフィー光学素子には、改善されたLIWFD、PIB、および屈折率均一性が必要であろう。したがって、屈折率均一性、光誘起波面歪み、および偏光誘起複屈折が改善された溶融シリカガラスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、OHおよびODの内の少なくとも一方の総濃度または合計濃度が約50ppmまでである溶融シリカガラスおよび溶融シリカ物品を提供することによって、これらと他の必要性を満たすものである。この溶融シリカ物品は、OHおよびOD濃度の複合変動が約25ppm未満である方向において、入射光に対して垂直なサンプルの寸法に沿って少なくとも約50mmの距離に亘り、633nmの波長での屈折率変動(ここでは、屈折率均一性とも称される)が約5ppm未満である。ある実施の形態において、この溶融シリカガラスは、溶融シリカスートブランクまたはプリフォームを、少なくとも1種類の乾燥剤を含有する不活性雰囲気内で乾燥させ、その後、乾燥したスートブランクを、不活性ガスおよび酸素を含む雰囲気内で加熱することによって、乾燥したスートブランクから残留する乾燥剤を除去することによって、形成される。
【0006】
したがって、本発明の1つの態様は、溶融シリカ物品を提供することにある。この溶融シリカ物品は、OHおよびODの内の少なくとも一方を含み、OHおよびODは、約50ppmまでの合計濃度で存在する。OD濃度とOH濃度の合計に対するOD濃度の比は、重水素の天然の同位体存在度よりも大きい。溶融シリカ物品は、i)OHおよびOD濃度の複合変動が約25ppm未満である方向において、ii)入射光に対して垂直なサンプルの寸法に沿って少なくとも約50mmの距離に亘り:633nmの波長での屈折率変動が約5ppm未満である。
【0007】
本発明の第2の態様は、溶融シリカガラスを提供することにある。この溶融シリカガラスは、OHを実質的に含まず、約50ppmまでのODを含む。この溶融シリカガラスは、i)OD濃度の変動が約25ppm未満である方向において、ii)入射光に対して垂直なサンプルの寸法に沿って少なくとも約50mmの距離に亘り:633nmの波長での屈折率変動が約5ppm未満である。
【0008】
本発明の第3の態様は、溶融シリカ物品を提供することにある。この溶融シリカ物品は、OHを実質的に含まず、約50ppmまでのODを含む。この溶融シリカ物品は、i)OD濃度の変動が約25ppm未満である方向において、ii)入射光に対して垂直なサンプルの寸法に沿って少なくとも約50mmの距離に亘り:633nmの波長での屈折率変動が約5ppm未満である。
【0009】
本発明の第4の態様は、リソグラフィーシステムを提供することにある。このリソグラフィーシステムは、光路を有し、その光路に配置された少なくとも1つの溶融シリカ光学部材を含む。この少なくとも1つの溶融シリカ光学部材は、OHおよびODの内の少なくとも一方を含み、OHおよびODは、約50ppmまでの合計濃度で存在し、溶融シリカ光学部材は、i)OHおよびOD濃度の複合変動が約25ppm未満である方向において、ii)入射光に対して垂直なサンプルの寸法に沿って少なくとも約50mmの距離に亘り:633nmの波長での屈折率変動が約5ppm未満である。
【0010】
本発明の第5の態様は、OHおよびODの内の少なくとも一方を含む溶融シリカガラスであって、OHおよびODは、約50ppmまでの合計濃度で存在し、OD濃度とOH濃度の合計に対するOD濃度の比が、重水素の天然の同位体存在度よりも大きい溶融シリカガラスを製造する方法を提供することにある。この方法は、OHおよびODの内の少なくとも一方を含むシリカスートブランクを提供する工程;このスートブランクを、所定の温度で、不活性ガスおよび所定の濃度の少なくとも1種類の乾燥剤を含む雰囲気において乾燥させて、乾燥したスートブランクを形成する工程であって、ハロゲン含有種によってスートブランクからOHおよびODを除去するものである工程;乾燥したスートブランクから少なくとも1種類の乾燥剤を除去する工程;および、このスートブランクを焼結して、OHおよびODの内の少なくとも一方を含む溶融シリカガラスを形成する工程であって、OHおよびODが、約50ppmまでの合計濃度で存在するものである工程を有してなる。
【0011】
本発明の第6の態様は、溶融シリカガラスから構成された物品を提供することにある。この溶融シリカガラスは、OHおよびODの内の少なくとも一方を含み、OHおよびODは、約50ppmまでの合計濃度で存在し、OD濃度とOH濃度の合計に対するOD濃度の比が、重水素の天然の同位体存在度よりも大きい。この溶融シリカ物品は、i)OHおよびOD濃度の複合変動が約25ppm未満である方向において、ii)入射光に対して垂直なサンプルの寸法に沿って少なくとも約50mmの距離に亘り:633nmの波長での屈折率変動が約5ppm未満である。この溶融シリカ物品は、OHおよびODの内の少なくとも一方を含むシリカスートブランクを提供する工程;このスートブランクを、所定の温度で、不活性ガスおよび所定の濃度の少なくとも1種類の乾燥剤を含む雰囲気において、乾燥させて、乾燥したスートブランクを形成する工程であって、乾燥剤がスートブランクからOHおよびODを除去するものである工程;乾燥したスートブランクから少なくとも1種類の乾燥剤を除去する工程;およびスートブランクを焼結して、溶融シリカガラスを形成することによって、形成される。
【0012】
本発明のこれらと他の態様、利点、および顕著な特徴は、以下の詳細な説明、添付の図面および特許請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】平均OH濃度の関数としての屈折率における1ppmの変化当たりのOH濃度の変化をプロットしたグラフ
【図2】溶融シリカブランクの斜視図
【図3】屈折率の変動が入射光に対して垂直である方向を示す、溶融シリカ物品の斜視図
【図4】従来技術の溶融シリカガラスにおいて規則的に発生した放射状脈理の干渉計画像
【図5】従来技術の溶融シリカにおけるイベント脈理の干渉計画像
【図6】本発明の溶融シリカガラスの干渉計画像
【図7】ピストンと傾斜が除かれた、本発明の溶融シリカガラスの干渉計画像
【図8】実施例1に記載された溶融シリカガラスにおける塩素とOH分布をプロットしたグラフ
【図9】比較例1(従来技術)に記載された溶融シリカガラスに関するOH分布をプロットしたグラフ
【図10】比較例2に記載された溶融シリカガラスに関するOHおよびF分布をプロットしたグラフ
【図11】実施例3に記載された溶融シリカガラスにおけるOH分布をプロットしたグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明において、図面に示されたいくかの図に亘って、同様な参照文字が、同様または対応する部品を指す。また、別記しない限り、「上」、「底」、「外に向かう」、「内へ向かう」などの用語は、便宜上の単語であり、制限する用語と考えるべきではないことが理解されよう。その上、群が、複数の要素およびそれらの組合せの群の内の少なくとも1つを含むと記載されている時はいつでも、その群は、個々または互いの組合せのいずれかで、列記されたそれらの要素のいくつを含んでもよいと理解されよう。同様に、群が、複数の要素またはそれらの組合せの群の内の少なくとも1つからなると記載されている時は、その群は、個々または互いの組合せのいずれかで、列記されたそれらの要素のいくつからなっていてもよいことが理解されよう。
【0015】
ここに用いたように、「水酸(基)」またはOHという用語は、各々が酸素原子および軽水素原子(11H、ここでは「H」と称される)からなる部分または部分の群を意味する。酸素原子は、酸素の天然に生じる同位体(16O、17O、または18O)、または任意の比率でのその混合物のいずれであってもよい。ここに用いたように、n(OH)は、材料中のOH部分の総数を意味する。
【0016】
ここに用いたように、「重水酸(基)」またはODという用語は、各々が、酸素原子および重水素原子(21Hまたは21D、ここでは「D」と称される)から成る部分または部分の群を意味する。酸素原子は、酸素の天然に生じる同位体(16O、17O、または18O)、または任意の比率でのその混合物のいずれであってもよい。ここに用いたように、n(OD)は、材料中のOD部分の総数を意味する。この材料中のn(OH)/(n(OD)+n(OH))の比は、重水素(またはOD)の天然の同位体存在度以上である。
【0017】
図面を一般に、特に、図1を参照すると、例図は、本発明の特定の実施の形態を説明する目的のためであり、本発明をそれに制限することを意図するものではないことが理解されよう。
【0018】
半導体分野に用いられる光学素子、特に、投射用光学素子列に関連するものには、動的性質および静的性質の両方について非常に厳しい要件がある。そのような動的性質の例としては、光誘起波面歪み(LIWFD)および偏光誘起複屈折(PIB)が挙げられる。これらの系に一般に用いられる光源は、ランプまたはレーザである。使用されるレーザは、KrF(248nmの発光波長)、ArF(193nmの発光波長)、およびF2(157nmの発光波長)である。使用されるランプとしては、重水素(D2)およびキセノンランプが挙げられ、その両方とも、200nm未満の発光波長を有する。レーザは、最も一般的に用いられている光源である。したがって、LIWFDは、レーザ誘起波面歪みと呼ばれることもある。静的性質の例としては、均一性、複屈折、および透過率が挙げられる。次世代の光学素子には、溶融シリカにおいて現在得られるものよりも改善された、LIWFD、PIB、屈折率均一性、およびより低いOHおよびODレベルが必要であろう。
【0019】
低レベルの添加剤、特に、OH、OD、塩素、臭素、およびフッ素を含ませた結果として、非常に均質な溶融シリカガラスを得ることができる。これらの成分は、2つの様式で溶融シリカの屈折率に影響を与える。第1に、屈折率に材料自体の組成の影響がある。第2に、これらの成分は、特に低レベルで、ガラスの構造および移動度に影響を与える。後者の挙動は、図1においてOHについて示されている。この図は、OH濃度の関数としての屈折率の1ppmの変化当たりのOH濃度における変化をプロットしたグラフである。図1に戻ると、屈折率の変化は、約400ppmより大きいOH濃度では比較的一定である。400ppm未満では、屈折率の変化は、OH濃度が増加するに連れて急激に減少する。図1は、OH濃度への屈折率の依存性しか示していないが、OD、塩素、臭素、およびフッ素の各々は、構造と組成に同様の影響を有するであろう。実際の影響は、上述した添加剤の各々に特有であろう。
【0020】
溶融シリカガラスおよびこの溶融シリカガラスから形成された物品が提供される。この溶融シリカガラスは、OHおよびODの内の少なくとも一方を含む。OHおよびODの総濃度または合計濃度は、約50ppm未満である。ある実施の形態において、OHおよびODの合計濃度は、約50ppmから約0.1ppmの範囲にある。ここに用いたように、「総濃度」および「合計濃度」は、OD(n(OD))およびOH(n(OH))の濃度の合計を意味する。すなわち、合計濃度=n(OD)+n(OH)。重水酸種は、重水素の天然の同位体存在度以上の量で存在する。すなわち、材料中のn(OH)/(n(OD)+n(OH))の比は、2×10-4以上である。別の実施の形態において、溶融シリカガラスは、ODおよびOHの合計濃度が約20ppm未満である。第3の実施の形態において、溶融シリカガラス中のOHおよびODの合計濃度は約10ppm未満である。
【0021】
ある実施の形態において、OHおよびODの内の少なくとも一方が、溶融シリカガラスに意図的に添加される。別の実施の形態において、溶融シリカガラスは、OHを実質的に含まず、約50ppm未満のODを含む。ここに用いたように、「OHを実質的に含まない」とは、OHが、溶融シリカガラスの形成に至る処理工程のいずれの最中にも、溶融シリカガラスに意図的に添加されないことを意味する。OHを実質的に含まない溶融シリカガラスまたは溶融シリカ物品は、処理中の水または水素(H2)蒸気への曝露のために、少量のOHを不慮に含んでもよいと理解される。
【0022】
ある実施の形態において、溶融シリカガラスはさらに、種H2、D2、およびHDの内の少なくとも1つを含む。これらの種は、約5×1015分子/cm3から約5×1019分子/cm3の範囲の合計濃度で存在してよい(すなわち、5×1015分子/cm3≦[n(H2)+n(D2)+n(HD)]≦5×1019分子/cm3)。
【0023】
溶融シリカガラスは、ODおよびOHの合計濃度の変動が約25ppm未満であるときに、633nmの波長での屈折率変動が約5ppm未満である。ここに用いたように、「変動が約25ppm未満」という語句は、OHおよびODの最大合計濃度と最小合計濃度との間の差が、約25ppm未満であることを意味する:[(n(OH)+n(OD))max−(n(OH)+n(OD))min]<25ppm。ある実施の形態において、溶融シリカガラスは、OD濃度の変動が約25ppm未満である方向に、633nmの波長での屈折率変動が約5ppm未満である。ここに用いたように、「変動が約25ppm未満」という語句は、ODの最大濃度と最小濃度との間の差が、約25ppm未満であることを意味する:[n(OD)max−n(OD)min]<25ppm。屈折率変動は、入射光に対して垂直なサンプルの寸法に沿って少なくとも約50mmの距離に亘っても、約5ppm未満である。ある実施の形態において、溶融シリカ物品は、入射光に対して垂直なサンプルの寸法に沿って少なくとも約100mmの距離に亘り、屈折率変動が約5ppm未満である。別の実施の形態において、溶融シリカ物品は、入射光に対して垂直なサンプルの寸法に沿って少なくとも約200mmの距離に亘り、屈折率変動が約5ppm未満である。図2は、屈折率変動が入射光220に対して垂直である寸法210が示されている、溶融シリカ物品200の斜視図である。ここに用いたように、「屈折率の変動」、「屈折率変動」、および「Δn」という用語は、所定の方向に沿った、溶融シリカ材料または溶融シリカ光学部材の光軸に対して垂直な面における屈折率の最大変動を称する。屈折率変動は、傾斜(tilt)およびピストン(piston)が引かれている、約633nm(He−Neレーザ)での干渉計を用いて測定される。したがって、ここに記載するように、例えば、外付け(OVD)法により調製されたサンプルにおける半径方向などの、ある方向に沿った屈折率変動は、傾斜またはピストンを含まない。
【0024】
xyzの直交座標系に置かれた溶融シリカブランクが、図3に概略的に示されている。ブランク310のサンプリングは、光軸zを有する。軸zに垂直な面xOyは、ブランクの断面を得るためにブランク310のサンプリングと交差する。屈折率の均一性を測定するときに、採取されたサンプル(例えば、図3に示されたサンプル330)は、均一な厚さを有する。断面に亘り測定したときに、傾斜とピストンが除かれた、所望の方向(外付け法(OVD)を用いて調製されたサンプルの半径方向、すなわち、図3に示されたx方向などの)における屈折率の変動は、5ppm未満である。別の実施の形態において、傾斜とピストンの除かれた、屈折率変動は、2ppm未満であり、さらに別の実施の形態においては、1ppm未満である。屈折率の均一性は、コネチカット州ミドルフィールド所在のZYGO(商標)社により製造されているものなどの、干渉分光装置を用いて測定できる。
【0025】
スート生成プロセスにより形成された溶融シリカが、多数の脈理およびイベント的脈理などの不均一性を含むことが一般的である。イベント的脈理としては、半径方向の屈曲や不連続性が挙げられる。ここに用いたように、「脈理」という用語は、例えば、屈折率の変動などの周期的出来事または不均一性を称する。そのような出来事の周期は、約5mmの距離までに及ぶ。ここに用いたように、「イベント的脈理」という用語は、少なくとも1mmの尺度で非反復性すなわち無作為な1つまたは多数のイベントまたは出来事を称する。そのような出来事としては、0.5mm以上の範囲に亘って生じ、少なくとも0.01ppmの振幅を有する屈折率の変化が挙げられる。多数の規則的に生じる脈理402を有する従来技術の溶融シリカガラスの例が図4に示されている。この図は、高バイパスフィルタにより633nmの光を用いて得られた干渉計画像である。規則的に生じる脈理402が、図4に示された32mmの直径の領域に亘り見られる。ピストンと傾斜のみが除かれた、633nmの光を用いて得られた干渉計画像である図5は、従来技術のガラスにおけるイベント的脈理502を示している。図4および5は、位置の関数として屈折率変動をプロットしたものである。
【0026】
しかしながら、本発明の溶融シリカガラスは、半径方向の脈理を実質的に含まない。図6および7は、633nmの光を用いて得られた本発明の溶融シリカの干渉計画像であり、本発明の溶融シリカガラスのサンプルに関する位置の関数としての屈折率変動のプロットを示している。図6は、図4に用いたものと同じ高バイパスフィルタを用いて得られたものであるが、図4に示されたサンプルと比較して、本発明の溶融シリカガラスのサンプルには、明白な脈理がなく、それゆえ、均一性が改善されていることを示している。図7では、ピストンと傾斜のみが除かれており(図5におけるように)、この図は、イベント的脈理が含まれていない本発明の溶融シリカガラスのサンプルを示している。
【0027】
光誘起波面歪みは、深紫外線および真空紫外線範囲においてエキシマレーザにより生じるものなどの、特定の波長の光の照射への長期間の曝露による、シリカなどの材料の波面歪み挙動を表す。ある実施の形態において、溶融シリカガラスは、約70μJ・cm-2・パルス-1のフルエンスおよび約25nsのパルス長を有する、約193nmで動作するレーザビームに100億パルス曝されたときに、633nmで測定したレーザ誘起波面歪みが、−1.0および1.0nm/cmの間にある。
【0028】
偏光誘起複屈折は、ある期間またはレーザパルス(パルスレーザビームが用いられる場合、)の後の溶融シリカガラスの均一に曝露された区域の中央部において測定されたピーク複屈折レベルと、照射に曝露される前のそのガラスの初期複屈折との間の数字上の差を称する。溶融シリカガラスのサンプルのPIBレベルは、所定のフルエンスおよびパルス長を有し、約193nmの波長および約3mmのビーム直径を持つ直線偏光パルスレーザビームを、溶融シリカガラスのサンプルの所定の区域に向けることによって測定してよい。曝露区域の中央部で測定された複屈折は、所定の数のパルス後に測定される。次いで、測定した中心の複屈折から、ガラスの初期の複屈折を除算することにより、PIB値を計算する。
【0029】
1つの実施の形態において、前記溶融シリカガラスは、約40μJ・cm-2・パルス-1のフルエンスおよび約25nsのパルス長を有する、約193nmで動作する直線偏光パルスレーザビームに5×109パルス曝されたときに、約633nmで測定した偏光誘起複屈折が、約1nm/cm未満である。第2の実施の形態において、前記溶融シリカガラスは、約40μJ・cm-2・パルス-1のフルエンスおよび約25nsのパルス長を有する、約193nmで動作する直線偏光パルスレーザビームに1×1010パルス曝されたときに、約633nmで測定した偏光誘起複屈折が、約0.1nm/cm未満である。第3の実施の形態において、前記溶融シリカガラスは、約40μJ・cm-2・パルス-1のフルエンスおよび約25nsのパルス長を有する、約193nmで動作する直線偏光パルスレーザビームに2×1010パルス曝されたときに、約633nmで測定した偏光誘起複屈折が、約0.1nm/cm未満である。第4の実施の形態において、前記溶融シリカガラスは、約40μJ・cm-2・パルス-1のフルエンスおよび約25nsのパルス長を有する、約193nmで動作する直線偏光パルスレーザビームに2×1010パルス曝されたときに、約633nmで測定した偏光誘起複屈折が、約0.04nm/cm未満である。
【0030】
本発明は、ここに上述した溶融シリカガラスから形成された溶融シリカ物品も提供する。溶融シリカ物品は、ある実施の形態において、リソグラフィーステッパ/スキャナシステム内の光路に含まれるものなどの、光学素子であってよい。
【0031】
リソグラフィーステッパ/スキャナシステムの光路内に使用できるようにするために、溶融シリカガラス、またはそれから形成された光学素子は、汚染物のレベルが低いべきである。アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、および遷移金属イオンなどの特定の金属イオンは、深紫外線および真空紫外線波長で溶融シリカガラスの光学性能にとって有害である。そのような有害な影響は、初期透過率、誘起吸収、PIB、LIWFD、FDTなどに関して明らかにされる。したがって、低レベルのOH、OD、Cl、およびFに加え、深紫外線および/または真空紫外線において動作するリソグラフィー装置の屈折素子に用いられるここに記載された溶融シリカガラスおよび溶融シリカ物品は、Li、Na、K、Rb、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、第14族金属(Ge、Sn、Pb)、第15族金属(As、Sb、Bi)、遷移金属などの望ましくない汚染物のレベルが低いことが望ましい。特に、本発明のシリカガラスは、Na濃度が、約50質量ppb未満、別の実施の形態においては、約20ppb未満、ある実施の形態において、約10ppb未満、他の実施の形態において、約5ppb未満、ある他の実施の形態において、約1ppb未満である。
【0032】
本発明のシリカガラスが、Na以外の少なくとも1種類の金属Mを含み、1つ1つの金属Mについて、Mの濃度([M])は、約100質量ppb未満であることが望ましく、ある実施の形態において、[M]≦10ppb、またある実施の形態において、[M]<1ppbである。本発明のシリカガラスが、Na以外に少なくとも1種類の金属Mを含む場合、ある実施の形態において、全ての金属Mについて、Σ[M]≦200質量ppb、ある実施の形態において、Σ[M]≦100ppb、ある実施の形態において、Σ[M]≦50ppbであることが望ましい。本発明のシリカガラスがNaおよび少なくとも1種類の他の金属Mを含む場合、ある実施の形態において、全ての金属について、Σ([Na]+[M])≦100pb、他の実施の形態において、Σ([Na]+[M])≦50pbであることが望ましい。
【0033】
ここに記載された溶融シリカガラスを製造する方法も提供される。第1の工程において、溶融シリカスートブランク、または、プリフォームを提供する。スートブランクは、例えば、ケイ素含有化合物を含むガス流が生成される気相成長法によって形成される。このケイ素含有化合物を含むガス流は燃焼バーナの火炎中に通されて、溶融シリカスートの非晶質粒子が形成される。これらの溶融シリカ粒子は、支持体上に堆積されて、溶融シリカスートブランクが形成される。その支持体は、典型的な外付け法(OVD)、平面スート堆積法(PSD)、または軸付け法(VAD)に用いられるものなどの支持コアケインまたはマンドレルであってよい。マンドレルを使用する場合、そのマンドレルは堆積後に取り除かれて、中空の円筒形多孔質スート体が形成される。
【0034】
スート粒子は、典型的に、少なくとも1種類のケイ素前駆体化合物の火炎加水分解により提供される。ケイ素前駆体化合物としては、SiCl4、SiBr4、SiF4などのハロゲン含有化合物が挙げられるが、それらに限られない。ケイ素前駆体化合物としては、例えば、ポリメチルシロキサンなどのハロゲン化物を含まないシクロシロキサン化合物が挙げられるが、それらに限られない。そのようなポリメチルシロキサンとしては、ヘキサメチルジシロキサン、ポリメチルシクロシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、ハロゲン化ケイ素、およびそれらの組合せが挙げられる。ケイ素前駆体化合物は、天然の同位体存在度よりも高いレベルでDを含んでもよく(例えば、D−含有OMCTSなどの)、その場合には、スート粒子には、元々生成されたときに、ODが通常ドープされる。あるいは、天然の同位体存在度以下のレベルでDを含むケイ素前駆体化合物が、天然の同位体存在度より高いレベルでDを含む雰囲気内で火炎反応を経てもよい。そのような雰囲気は、その雰囲気に加えられたD2OまたはCD4、CDH3、CD22、D2、HDなどの、重水素含有燃料の燃焼により生成したD2Oのいずれかを含むであろう。別の実施の形態において、重水素は、ここのその内容の全てを引用する、2006年2月6日に出願された、デーナ・クレイグ・ブックバインダー(Dana Craig Bookbinder)等による、「Deuteroxyl-Doped Silica Glass, Optical Member and Lithographic System Comprising Same and Method of Making Same」と題する米国特許出願第11/348956号に記載されているものなどの、水素添加プロセス中に、D2としてスートまたは溶融シリカに加えてもよい。ある実施の形態において、水素および/または重水素の添加は、約800℃までの温度で行われるのに対して、別の実施の形態において、そのような添加は、約500℃までの温度で行われ、さらに別の実施の形態において、添加は約200℃未満の温度で行われる。いくつかの例において、D2添加中に、ODが形成される。特に、そのようなODは、溶融シリカスートが、酸素含有雰囲気中で焼結されるときに形成される。例えば、10%のO2を含有するヘリウム雰囲気内で焼結され、次いで、475℃でD2が添加された溶融シリカスートは、ガラス中の過剰のO2とD2との反応のために、約1〜5ppmのODを含有する溶融シリカガラスを形成する。
【0035】
ある実施の形態において、スートブランクは、約0.3から約1.4g/cm3までの範囲の密度を有する。別の実施の形態において、スートブランクは、約100kgまでの重さであってよい。
【0036】
OHおよび/またはODの有効性を確実にするために、溶融シリカスートブランクは、このスートブランクを不活性雰囲気下で800℃および1275℃の間の温度で炉内において加熱することにより、必要に応じて前処理してもよい。この不活性ガスは、ヘリウム、窒素、アルゴン、またはそれらの組合せを含んでよく、ヘリウムガスが好ましい。不活性ガス雰囲気は、30体積%まで酸素を含有してもよい。別記しない限り、ここに記載したガス混合物中の濃度は、体積パーセントで表される。不活性ガス雰囲気の圧力は、0および5気圧の間にあり、約1気圧が好ましい。スートブランクは、熱平衡に到達するために、0から20日間くらいに亘り不活性ガス下に所定の温度に保持される。ある特定の実施の形態において、スートブランクは、熱平衡に到達するために、2から4時間に亘り所定の温度に保持される。
【0037】
スートブランクは、OHおよびODの内の少なくとも一方を初期濃度で有する。次に、スートブランクを、以下に限られないが、Cl2、Br2、F2、CF4、SiF4、C26などの、これに限定されないが、ハロゲン含有種などの乾燥剤、少なくとも1種類を所定の濃度を含む不活性ガス雰囲気中で乾燥させる。他の乾燥剤としては、CO、CO2、それらの組合せなどが挙げられる。不活性ガスは、ヘリウム、窒素、アルゴン、それらの組合せなどを含んでよい。その上、この雰囲気は、乾燥プロセスにおけるある時点で、スートブランク中に還元されたシリカが存在しないことを確実にするために、酸素をさらに含んでもよい。
【0038】
乾燥剤により、スートブランク中のOHおよび/またはOD濃度が約10ppm未満に減少する。ある実施の形態において、OHおよび/またはODレベルは1ppm未満に減少する。
【0039】
特にハロゲン含有乾燥剤の場合に、乾燥剤の濃度は、スートブランクとの反応を最少にし、かつガラス中の塩素、臭素およびフッ素の内の少なくとも1つの結果としての保持率を最少にするために、低く維持される。不活性ガス雰囲気中の乾燥剤の濃度は、約0.01体積%から約10体積%の範囲にある。ある実施の形態において、不活性ガス雰囲気中の乾燥剤の濃度は、約0.1体積%から約3体積%の範囲にある。
【0040】
乾燥工程は、所定の温度で行われる。ある実施の形態において、その温度は、約850℃から約1300℃までの範囲にある。ある特定の実施の形態において、乾燥工程は1260℃で行われる。
【0041】
次の工程において、残留する乾燥剤が、乾燥したスートブランクから除去される。ある実施の形態において、残留乾燥剤は、乾燥したスートブランクを、ヘリウム、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、および所定の濃度の酸素を含む雰囲気中で第2の所定の温度で加熱することによって、除去される。この酸素の濃度は、約3体積%から約30体積%までの範囲にある。酸素濃度が高いと、最終的なガラス製品中に酸素ガスが捕捉されてしまうであろう(「糠泡」としても知られている)。第2の所定の温度は、約850℃から約1300℃までの範囲にある。ある特別な実施の形態において、第2の所定の温度は、約11200℃から約1300℃までの範囲にある。次の工程において、溶融シリカスートブランクは、スートブランクを、10%のO2を含むヘリウム雰囲気中で、約1350℃から約1450℃の範囲の温度で焼結することによって、糠泡を含まないガラスに形成される。ある実施の形態において、本発明の方法は、溶融シリカガラスに、H2、D2、およびHDの内の少なくとも1種類を添加する工程をさらに含んでもよい。そのような添加は、本明細書中に先に挙げた、デーナ・クレイグ・ブックバインダー等による、「Deuteroxyl-Doped Silica Glass, Optical Member and Lithographic System Comprising Same and Method of Making Same」と題する米国特許出願第11/348956号に記載されている。これらの種H2、D2、およびHDは、約5×1015分子/cm3から約5×1019分子/cm3の範囲の合計濃度で存在する。
【0042】
ガラス中の乾燥剤の量を減少させる工程の最中に、溶融シリカガラス中のOHおよびODの存在を避けるまたは最少にし、それゆえ、SiOH種の形成を最少にするために、水またはD2Oのレベルを、乾燥剤の除去が行われる炉内で200ppm未満に維持しなければならない。ある実施の形態において、水またはD2Oのレベルは100ppm未満に維持される。別の実施の形態において、水またはD2Oのレベルは500ppm未満に維持される。炉内の漏れにより、周囲空気から水分が入り得る。ある実施の形態において、炉を大気圧よりも高い圧力に維持しながら、スートブランクを加熱することによって、塩素の除去が行われる。正の圧力差により、スートブランクの水蒸気への曝露が最少になる。
【0043】
ここに上述した方法を用いて形成された溶融シリカ物品も提供される。溶融シリカ物品は、ある実施の形態において、リソグラフィーステッパ/スキャナシステムに含まれるものなどの光学素子であってよい。
【実施例】
【0044】
以下の実施例は、本発明の様々な特徴および利点を例示しており、本発明をそれに制限することを意図するものでは全くない。
【0045】
実施例1
OHおよび塩素の含有量の少ない溶融シリカガラスを製造するために、以下のプロセスを用いた。オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)を用いて、約47kgの質量および約0.5g/cm3の嵩密度を有するスートプリフォームを形成し、固結炉に入れた。次いで、スートプリフォームを、0.4体積%の濃度のCl2を有するヘリウム雰囲気内において、4時間に亘り1260℃で乾燥させた。次いで、炉へのCl2流を停止した。次いで、スートプリフォーム中の残留Cl2を、1260℃で、さらに13時間に亘り、ヘリウム雰囲気に10体積%の濃度のO2を添加することによって、除去した。次いで、このプリフォームを、その後の17時間に亘り炉の温度を約1400℃まで上昇させることによって、ヘリウム中10%のO2の同じ雰囲気内で完全に固結させた。塩素とOHの濃度を、それぞれ、電子マイクロプローブおよびFTIR測定技法により測定した。この溶融シリカガラスの塩素とOHの分布が図8にプロットされている。これらの結果は、OHレベルが、ガラス製品全体で6質量ppm未満に減少し、Cl濃度が、ガラス製品全体で35質量ppm未満に減少したことを示している。このガラスには、脈理はなく(図6)、イベント的脈理もなかった(図7)。
【0046】
以下の3つの例は、実施例1の比較例である。
【0047】
比較例1
以下のプロセスを用いて溶融シリカガラスを製造した。OMCTSを使用して製造され、実施例1に記載したスートプリフォームと特徴が似ている溶融シリカスートプリフォームを固結炉に入れた。次いで、スートプリフォームを、22.5時間に亘り、酸素濃度が0.5%から3.0%の範囲にあるヘリウム雰囲気内に保持した。次いで、プリフォームを、ヘリウム中で0.5%の酸素および約400ppmの水蒸気を含む雰囲気内で完全に固結した。得られたガラスは、45〜60ppmのOHを含有し、Clも、Fも、ODも含んでいなかった。このガラスは、脈理とイベント的脈理も含んでいた。このガラスに得られたOH分布が図9にプロットされている。その結果は、このガラスが、本発明の実施例1において得られたレベルよりも高いレベルのOHを有することを示している。
【0048】
比較例2
以下のプロセスを用いて溶融シリカガラスを製造した。OMCTSを使用して製造され、実施例1に記載したスートプリフォームと特徴が似ている溶融シリカスートプリフォームを固結炉に入れた。次いで、スートプリフォームを、4時間に亘り、1000℃で、CF4濃度が0.1%であるヘリウム雰囲気内に保持した。次いで、プリフォームを、酸素濃度が3.0%のヘリウム雰囲気内で完全に固結した。得られたガラスは、25ppm未満のOH、および約500ppm未満のFを含有し、ClとODは含まなかった。このガラスに得られたOHおよびフッ素分布が図10にプロットされている。その結果は、フッ素およびフッ素含有化合物を乾燥剤として用いてよいことを示している。
【0049】
実施例2
この実施例により、ガラスからの塩素の除去に酸素を使用することを実証する。OMCTSを使用して製造され、実施例1に記載したスートプリフォームと特徴が似ているスートプリフォームを用いて、溶融シリカガラスを製造した。次いで、スートプリフォームを、固結炉に入れ、4時間に亘り、1225℃で、0.4%の濃度でCl2を有するヘリウム雰囲気内に保持した。次いで、プリフォームを、酸素濃度が3.0%のヘリウム雰囲気内で、9時間で1225℃から1450℃まで温度を上昇させながら、完全に固結した。得られたガラスは、0〜6ppmのOHおよび約0〜200ppmのClを含有し、ODとFは含まなかった。
【0050】
以下は、実施例2の比較例である。
【0051】
比較例3
OMCTSを使用して製造され、実施例1に記載したスートプリフォームと特徴が似ている溶融シリカスートプリフォームからガラスを調製した。このスートプリフォームを固結炉に入れ、4時間に亘り、1225℃で、0.4%の濃度でCl2を有するヘリウム雰囲気内に保持した。次いで、プリフォームを、酸素を加えていないヘリウム雰囲気内で、9時間で1225℃から1450℃まで温度を上昇させながら、完全に固結した。得られたガラスは、0〜6ppmのOH、および約0〜500ppmのClを含有し、ODとFは含まなかった。これらの結果は、ガラス中のOHレベルを著しく変えずに、ガラス中の塩素の量を減少させるために、酸素を使用してよいことを示している。塩素、臭素、およびフッ素のレベルを減少させるために、水蒸気およびD2O蒸気などの他の物質を使用してもよい。
【0052】
実施例3
以下のプロセスを用いて、OHと臭素の含有量が少ない溶融シリカガラスを製造した。SiO2スートプリフォーム(1メートル長、5000gの質量、約0.5g/cm3の嵩密度)を、SiCl4の火炎加水分解を用いて、12mmのシリカ製マンドレル上に形成した。このプリフォームを、上側区域が1240℃に設定され、下側区域(焼結区域)が1550℃に設定された、下方駆動固結炉の上部に装填した。次いで、このスートプリフォームを、純粋なヘリウム雰囲気内で2時間に亘り1240℃で予熱し、次いで、臭素蒸気を含有するヘリウム雰囲気(8SLPMのHeおよび約2.5グラム/分のBr2)内で2時間に亘り1240℃で乾燥させた。次いで、乾燥工程からの残留臭素および臭素副生成物は、プリフォームを2時間に亘り15SLPMの純粋なヘリウムの下で1240に保持し続け、その後、15SLPMのHeに5SLPMの酸素を加えた雰囲気(25%の酸素を含有するHe)内で1時間に亘り1240℃で保持することによって、乾燥したスートプリフォームから除去した。次いで、乾燥したスートプリフォームを、このスートプリフォームを1550℃に設定された高温区域に5mm/分の速度で下方に駆動することによって、25体積%の酸素を含有するヘリウム雰囲気内で糠泡のない透明なガラスに固結して、スートプリフォームから臭素を確実に除去した。
【0053】
焼結したガラス中の臭素および塩素の濃度を、電子マイクロプローブおよび銀滴定法によって測定した。塩素濃度は5ppmの検出限界未満であるのに対し、臭素は両方の技法の20ppmの検出限界未満であった。
【0054】
OH濃度は、FTIR測定技法により測定した。この溶融シリカガラスのOH分布が、図11に、マンドレルの縁から半径方向位置の関数としてプロットされている。その結果は、OHレベルが、ガラス物品全体で20質量ppm未満まで減少させられ、ClもBrも検出できなかった(それぞれ、<5および<20ppm)ことを示している。このサンプル中の少量のOHは、乾燥工程後の再湿潤の結果であると考えられる。この再湿潤は、He/酸素雰囲気中の少量の水によって生じたのかもしれない。そのような再湿潤は、スートを酸素に曝露する前に臭素の乾燥生成物(例えば、HBr)を除去するためにHeのみを含有する雰囲気内での乾燥工程後に、より乾いたガス(すなわち、残留含水量が少ないガス)またはより長いパージを使用することによって、減少できるであろう。後者の手法によって、SiOHおよびBr2を形成するHBrと酸素との潜在的な逆反応が防がれる。OH濃度は、例えば、SiODを含有するスートブランクを製造するために、最初にスートプリフォームを予熱工程において、固結炉内でD2Oに曝露することによって、減少させてもよい。その結果、最終的に焼結されたプリフォームは、OHが1ppm未満であり、ODが20ppm未満であり、ClもBrも含まない(すなわち、ClおよびBrの濃度はそれぞれ5ppmおよび20ppmの検出限界未満)であろう。その上、この実施例に記載されたガラスのいずれも、OD濃度が1ppmと20ppmの間であり、OHが1ppm未満であり、ClもFもBrも含まないガラスを製造するために、約200℃と約800℃の間、または好ましくは約400℃と約500℃の間の温度で、D2含有雰囲気に曝露しても差し支えない。
【0055】
典型的な実施の形態を、説明の目的のために述べてきたが、先の説明は、本発明の範囲への制限と考えるべきではない。したがって、本発明の精神および範囲から逸脱せずに、様々な改変、適用、および代替が当業者に考えられるであろう。
【符号の説明】
【0056】
200 溶融シリカ物品
210 入射光に対して垂直な寸法
220 入射光
310 溶融シリカブランク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
OHおよびODの内の少なくとも一方を含む溶融シリカ物品であって、OHおよびODが約50ppmまでの合計濃度で含まれ、OD濃度とOH濃度の合計に対するOD濃度の比が、重水素の天然の同位体存在度よりも大きく、前記溶融シリカ物品が、
i. 前記OHおよび前記OD濃度の複合変動が約25ppm未満である方向において、
ii. 入射光に対して垂直なサンプルの寸法に沿って少なくとも約50mmの距離に亘り、
633nmの波長での屈折率変動が約5ppm未満であることを特徴とする溶融シリカ物品。
【請求項2】
OHを実質的に含まず、約50ppmまでのODを含むことを特徴とする請求項1記載の溶融シリカ物品。
【請求項3】
脈理が実質的にないことを特徴とする請求項1または2記載の溶融シリカ物品。
【請求項4】
入射光に対して垂直なサンプルの寸法に沿って少なくとも約100mmの距離に亘り、633nmの波長での屈折率変動が約5ppm未満であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の溶融シリカ物品。
【請求項5】
a. OHおよびODの内の少なくとも一方を含むシリカスートブランクを提供する工程、
b. 所定の温度で、不活性ガスおよび所定の濃度の少なくとも1種類の乾燥剤を含む雰囲気内で前記スートブランクを乾燥させる工程であって、前記乾燥剤が前記スートブランクからOHおよびODを除去し、前記少なくとも1種類の乾燥剤が、CO、CO2、少なくとも1種類のハロゲン含有種、およびそれらの組合せの内の少なくとも1つである工程、
c. 乾燥した前記スートブランクから前記少なくとも1種類の乾燥剤を除去する工程、および
d. 前記スートブランクを焼結して、前記溶融シリカ物品を形成する工程、
の各工程により形成されることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の溶融シリカ物品。
【請求項6】
2、D2、およびHDの内の少なくとも1種類をさらに含み、H2、D2、およびHDが、約5×1015分子/cm3から約5×1019分子/cm3の範囲の合計濃度で含まれることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の溶融シリカ物品。
【請求項7】
OHおよびODの内の少なくとも一方を含む溶融シリカガラスを製造する方法であって、OHおよびODが約50ppmまでの合計濃度で含まれ、OD濃度とOH濃度の合計に対するOD濃度の比が、重水素の天然の同位体存在度よりも大きいものである方法において、
a. OHおよびODの内の少なくとも一方を含むシリカスートブランクを提供する工程、
b. 所定の温度で、不活性ガスおよび所定の濃度の少なくとも1種類の乾燥剤を含む雰囲気内で前記スートブランクを乾燥させる工程であって、前記乾燥剤が前記スートブランクからOHおよびODを除去するものである工程、
c. 乾燥した前記スートブランクから前記少なくとも1種類の乾燥剤を除去する工程、および
d. 前記スートブランクを焼結して、OHおよびODの内の少なくとも一方を含む前記溶融シリカガラスを形成する工程であって、OHおよびODが約50ppmまでの合計濃度で含まれるものである工程、
を有してなる方法。
【請求項8】
前記乾燥剤が、CO、CO2、少なくとも1種類のハロゲン含有種、およびそれらの組合せの内の少なくとも1つであることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記乾燥したスートブランクから前記少なくとも1種類の乾燥剤を除去する工程が、第2の所定の温度で、前記乾燥したスートブランクを、不活性ガスおよび所定の濃度の酸素を含む雰囲気内で加熱する工程を含むことを特徴とする請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
前記溶融シリカガラスがOHを実質的に含まないことを特徴とする請求項7から9いずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−528960(P2010−528960A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507398(P2010−507398)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/005487
【国際公開番号】WO2008/140676
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】