説明

PLL周波数シンセサイザ、無線通信装置およびPLL周波数シンセサイザの制御方法

【課題】安価な構成とするとともに、性能を向上させることができるPLL周波数シンセサイザ、無線通信装置およびPLL周波数シンセサイザの制御方法を提供する。
【解決手段】PLL周波数シンセサイザは、基準周波数信号と分周信号との位相を比較する位相比較部101からの信号と位相誤差補償信号とに応じて、電流パルス信号を生成するCPDAC102と、電流パルス信号を電圧信号に変換するループフィルタ103と、電圧信号に応じた発振周波数の信号を出力するVCO104と、VCO104からの出力を分周して分周信号として出力する分周器105と、分数分周のための分周比のデータに基づいて、分周比制御信号を生成するデルタシグマ変調器107および加算器106と、分周比のデータから少なくとも2つの位相誤差補償用のデータを生成し、生成したデータを異なるタイミングで利用して、位相誤差補償信号を生成する制御部108とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL周波数シンセサイザ、無線通信装置およびPLL周波数シンセサイザの制御方法に関し、特に、基準周波数を非整数の変換係数で逓倍することが可能な分数分周PLL周波数シンセサイザに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置や放送設備には、PLL(Phase Locked Loop)回路で構成されたPLL周波数シンセサイザが、周波数変換器(ミキサ)の局部発振器として一般的に用いられている。
【0003】
上記PLL回路の一例として、整数分周型PLL回路では、基準発振源からの基準周波数信号を分周した信号と、電圧制御発振器(VCO)からの周波数信号を分周した信号とを、位相比較器に入力して位相ロック動作を得るようになされている。したがって、VCOの発振周波数は、位相比較器に入力される比較周波数の整数倍の周波数となされている。
【0004】
すなわち、無線通信システムで必要とされるチャネルステップが細かくなるにつれて、比較周波数を低く設定しなければならないことを意味する。一般的に、比較周波数を低くするにつれて、チャネル切り替えに必要な時間(ロックアップタイム)は大きくなるため、比較周波数とロックアップタイムはトレードオフの関係にある。また、雑音性能の観点からも、比較周波数をなるべく高く設定し、分周比Nを小さくすることが好ましい。つまり、比較周波数と雑音性能の間にも、トレードオフの関係がある。
【0005】
これらトレードオフから脱却するための技術として、比較周波数よりも小さいチャネルステップでの動作を可能とする、分数分周(Fractional−N)PLLが知られている。また、当該分数分周PLLを実現する手法の一つとして、デルタシグマ変調器を用いた技術が知られている。
【0006】
デルタシグマ変調器は、入力信号を積分し、それを1ビットまたは多ビットで量子化する構成を有しており、例えば、A/D(アナログ/ディジタル)変換器、D/A(ディジタル/アナログ)変換器、PLL回路などに応用されている。
【0007】
ここで、デルタシグマ変調器の量子化ノイズに対する伝達関数は、低周波領域では小さく、高周波領域では大きいという特徴がある。すなわち、デルタシグマ変調器によれば、出力信号の量子化雑音成分が高周波領域へ偏るようになり、したがって、帯域内のノイズ成分が抑圧された出力信号が得られることが特徴となっている。このようなノイズ成分の抑圧効果は、一般にノイズシェイピングと呼ばれている。
【0008】
図12は、米国特許第6960947号明細書に記載の、従来の分数分周PLL周波数シンセサイザの構成を概略的に示すブロック図である。
【0009】
図12において、位相比較器1101には、基準周波数信号REFCLKが入力される。位相比較器1101は、後段の電圧制御発振器(VCO)1104の出力信号VCOCLKが分周器1105によりN分周された分周信号DIVCLKと、基準周波数信号REFCLKとの位相を比較する。基準周波数信号REFCLKの位相(エッジ)が先行しているときには、遅れている分周信号DIVCLKの位相(エッジ)が到来するまでの期間、位相比較器1101のUP(アップ)信号出力には、Highレベルが出力される。分周信号DIVCLKの位相(エッジ)が到来すると、位相比較器1101はリセットされ、UP信号出力はLowレベルとなる。一方、分周信号DIVCLKの位相(エッジ)が先行しているときには、遅れている基準周波数信号REFCLKの位相(エッジ)が到来するまでの期間、位相比較器1101のDN(ダウン)信号出力には、Highレベルが出力される。基準周波数信号REFCLKの位相(エッジ)が到来すると、位相比較器1101はリセットされ、DN信号出力はLowレベルとなる。当該位相比較器1101から出力された信号は、チャージポンプ1102へ送られる。
【0010】
チャージポンプ1102は、位相比較器1101からの上記UP信号、DN信号に応じた電流を流入または流出することにより、上記位相の差に比例した電流パルス信号ICPを生成する。当該チャージポンプ1102の電流パルス信号ICPは、ループフィルタ1103へ送られる。
【0011】
ループフィルタ1103は、チャージポンプ1102の電流パルス信号ICPを積分、平滑化して、電圧信号に変換する。このループフィルタ1103の出力電圧信号VTは、VCO1104の制御電圧となる。
【0012】
VCO1104は、ループフィルタ1103からの出力電圧信号VTに応じた発振周波数の信号VCOCLKを出力する。この出力信号VCOCLKは、当該分数分周PLL周波数シンセサイザの出力信号として、図示しない後段の構成(例えば周波数変換器)に送られると共に、分周器1105により分周された後に、位相比較器1101へフィードバックされる。
【0013】
デルタシグマ変調器1107は、図示しないレジスタ等のデータ供給手段から供給された、分周比の分数部データKを積分し、それを量子化した後、出力信号Xを加算器1106へ出力する。デルタシグマ変調器1107の出力信号Xは、その平均値が入力値K/Mに等しい(MはKのビット深さ)擬似ランダムの整数で表現される系列であり、系列のパターンは、デルタシグマ変調器1107の次数とビット幅と入力値とによって決定される。加算器1106は、当該デルタシグマ変調器1107の出力信号Xを、上記データ供給手段から供給された分周比の整数部データNに加算し、分周比制御信号N+Xを分周器1105へ供給する。すなわち、上記分周比制御信号N+Xは、平均値がN+K/Mに等しい擬似ランダムの整数系列となる。
【0014】
分周器1105は、供給されたデータに応じて複数の分周比を取りうる、プログラマブル分周器であり、変調された分周比制御信号N+Xを受け、それに応じた分周比で出力信号VCOCLKを分周する。
【0015】
このように、図12に示した分数分周PLL周波数シンセサイザは、VCO1104の出力を分周する分周器1105を、デルタシグマ変調器1107の出力信号に応じて変調することで、平均として分数分周を実現している。
【0016】
一般に、分数分周PLL周波数シンセサイザでは、位相比較器1101において、基準周波数信号REFCLKと分周信号DIVCLKとの位相が平均的には一致するものの、両者の位相が完全に一致することはない。ゆえに、位相比較のたびに、上記UP信号またはDN信号が出力され、チャージポンプ1102は電流の流入または流出動作を行う。その結果、VCO1104の制御電圧としての出力電圧信号VTは変調を受け、ひいては出力信号VCOCLKの周波数が変調される。上記変調成分は、デルタシグマ変調器1107のノイズシェイピングにより、高周波領域に偏っているため、ループフィルタ1103により抑圧することが可能であるが、当該変調成分を効果的に抑圧するためには、ループフィルタ1103の帯域を、整数分周PLL周波数シンセサイザのループフィルタの帯域と比べて相対的に狭くする必要があり、比較周波数を高くした分数分周PLL周波数シンセサイザの利点を十分に生かしきれない。
【0017】
これを打開するために、分数分周PLL周波数シンセサイザの位相比較器1101が出力する瞬時位相誤差を、D/A(ディジタル/アナログ)変換器1109を用いて打ち消す方法が、米国特許第6960947号明細書に開示されている。
【0018】
引き続き図12を参照して説明する。デルタシグマ変調器1107の出力する量子化雑音は、次数とビット幅と入力値とによって決定されるため、位相比較器1101で発生する瞬時位相誤差は予測することが可能である。当該瞬時位相誤差は、基準周波数信号REFCLKの周期を2πとしたとき、下記式1で与えられる。
【0019】


ここで、nは自然数、Kは分周比の分数部データ、Mは分数部データKのビット深さ、Nは分周比の整数部データ、Xはデルタシグマ変調器1107の出力信号である。
【0020】
上記式1に基づき、制御部1108は、分数部データKと、デルタシグマ変調器1107の出力信号Xの差を積分し、分周比によってスケーリングすることで、瞬時位相誤差補償信号APERをD/A変換器1109に供給する。
【0021】
D/A変換器1109は、一例として、電流出力D/A変換器であり、チャージポンプ1102の出力としての電流パルス信号ICPに、基準周波数信号REFCLKの周期に関連した時間幅を持つ位相誤差補償電流パルス信号IDACを加算する。位相誤差補償電流パルス信号IDACにより供給される電荷量は、チャージポンプ1102の出力としての電流パルス信号ICPにより供給される電荷量の絶対値に等しく、逆の極性を持つ。したがって、ループフィルタ1103に流入または流出する電荷量はゼロとなる。その結果、VCO1104の制御電圧としての出力電圧信号VTの変動が抑えられるため、ループフィルタ1103の帯域幅を広くすることが可能となり、分数分周PLL周波数シンセサイザの利点を生かすことができる。
【0022】
ところで、上記瞬時位相誤差補償機能の有無に関わらず、分数分周PLL周波数シンセサイザにおいては、微小な位相差を正確に電流パルスに変換する必要があるため、良好な位相雑音性能を得るためには、チャージポンプを含めた位相比較器が、高い線形性を有することが重要である。
【0023】
よく知られた位相比較器の非線形性として、(1)位相差ゼロ付近の利得不連続(デッドゾーン、利得過多)、(2)UP電流とDN電流のミスマッチ、が挙げられる。これらは、PLL回路を一定の位相差を持つ状態にロックさせること、すなわち、位相比較器の動作点を線形な領域にシフトさせることで、回避可能である。
【0024】
米国特許第4970475号明細書には、位相比較器の動作点を線形な領域にシフトさせる方法が開示されている。
【0025】
図13は、米国特許第4970475号明細書に記載の、チャージポンプを含めた位相比較器の構成を概略的に示すブロック図である。図14は、図13の位相比較器における各信号のタイミングチャートである。
【0026】
図13に示す位相比較器のブロック図と、図14に示すタイミングチャートとを参照し、位相比較器の線形性を改善する方法について説明する。
【0027】
分周信号DIVCLKの位相(エッジ)において、フリップフロップ1202がセットされ、DN信号はHighレベルとなる。上記DN信号により、電流源1206が起動され、電流Idownを、図示しないループフィルタから引き抜く。
【0028】
基準周波数信号REFCLKの位相(エッジ)において、フリップフロップ1201がセットされ、UP信号はHighレベルとなる。上記UP信号により、電流源1205が起動され、電流Iupを、図示しないループフィルタへ供給する。このとき、ANDゲート1203の入力は、いずれもHighレベルであるため、出力R2にHighレベルを出力し、フリップフロップ1202がリセットされる。
【0029】
ANDゲート1203の出力R2は、遅延回路1204に接続されている。したがって、フリップフロップ1201は、基準周波数信号REFCLKの位相が到来してから、遅延回路1204の遅延時間Tdly経過した後に、リセットされる。
【0030】
PLL回路は、ループフィルタに出入りする電荷がゼロとなる状態に収束するため、定常状態における分周信号DIVCLKの位相は、基準周波数信号REFCLKの位相よりも、遅延回路1204の遅延時間Tdlyと等しい時間だけ進んでいる。遅延回路1204の遅延時間Tdlyを、分数分周動作に起因する瞬時位相誤差のダイナミックレンジよりも大きく選ぶことで、位相比較器の動作点を線形な領域にシフトすることができ、良好な位相雑音性能の分数分周PLL周波数シンセサイザを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】米国特許第6960947号明細書
【特許文献2】米国特許第4970475号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
従来の分数分周PLL周波数シンセサイザの瞬時位相誤差補償方法においては、D/A変換器1109の出力する位相誤差補償電流パルス信号IDACは、基準周波数信号REFCLKの周期に関連した時間幅を持つため、上記式1に示すように、(M・N+K)によるスケーリングを必要とする。論理回路で除算を実装することは、無視できない回路規模の増大につながり、経済的な実装を困難にさせる。また、(M・N+K)によるスケーリングを、M・Nで近似することも提案されているが、これは、位相誤差補償動作に誤差を生じさせることになる。この誤差は、多くの場合、長い周期で蓄積される性格のものであり、PLL帯域内雑音の許容しがたい劣化につながる危険性がある。
【0033】
また、制御部1108において、瞬時位相誤差補償信号APERの下位ビットを四捨五入またはデルタシグマ変調器(図示しない)で処理することで、D/A変換器1109に必要とされるビット数を削減する提案がなされている。下位ビットを処理した情報を、上位ビットに加算する構成をとっているため、その加算分だけ、D/A変換器1109に必要とされるビット数(階調数)は、増大する。
【0034】
また、上述のように、D/A変換器1109の出力する位相誤差補償電流パルス信号IDACは、基準周波数信号REFCLKの周期に関連した時間幅を持つ。補償されるべき微小な位相誤差と比較して長い時間幅を持つパルスを用いて、補償に必要な微量な電荷を供給するためには、位相誤差補償電流パルス信号IDACの電流振幅を小さくする必要がある。つまり、D/A変換器1109には、非常に高い分解能が要求される。D/A変換器1109のビット数を削減する工夫がなされているとはいえ、高精度のアナログ回路の実装は、コストの増大を招く。
【0035】
また、位相誤差補償電流パルス信号IDACの振幅は、チャージポンプ1102の出力としての電流パルス信号ICPの振幅と関連があるため、チャージポンプ1102の出力としての電流パルス信号ICPを大きくすれば、D/A変換器1109の分解能に対する要求を緩和することは可能である。しかし、その条件で同じループ特性を得るためには、ループフィルタ1103の容量を大きくする必要がある。これは、集積回路にループフィルタ1103を実装することを困難とさせる。
【0036】
従来の位相比較器の線形性改善方法においては、遅延回路1204によって位相比較器の動作点シフト量を決めているため、ジッタの蓄積による位相雑音の劣化が懸念される。
【0037】
また、遅延回路1204の遅延量は、半導体プロセス、温度、電源電圧の変動によって、大きくばらつく。遅延量が最小となる条件においても、分数分周動作に起因する瞬時位相誤差のダイナミックレンジをカバーするのに十分な遅延を持たせた設計をする必要がある。しかし、その結果、Typcal条件や、遅延量最大となる条件においては、過大な遅延量を与えることになる。したがって、ジッタの影響が増大するのに加え、チャージポンプの電流ノイズの影響も大きくなり、位相雑音の劣化につながる。さらに、遅延時間が必要以上に長いと、位相比較時のループフィルタ電圧の変動が増大するため、リファレンススプリアスの増大にもつながる。
【0038】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、安価な構成とするとともに、性能を向上させることが可能な、新規かつ改良されたPLL周波数シンセサイザ、無線通信装置およびPLL周波数シンセサイザの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0039】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、基準周波数信号と分周信号との位相を比較する位相比較部と、前記位相比較部からの信号と位相誤差補償信号生成部からの位相誤差補償信号とに応じて、電流パルス信号を生成する電流パルス信号生成部と、前記電流パルス信号生成部からの前記電流パルス信号を電圧信号に変換する変換部と、前記変換部からの前記電圧信号に応じた発振周波数の信号を出力する出力部と、前記出力部からの出力を分周比制御信号に応じた分周比で分周して、前記分周信号として出力する分周部と、分数分周のための分周比のデータに基づいて、前記分周比制御信号を生成する分周比制御信号生成部と、前記分周比のデータから少なくとも2つの位相誤差補償用のデータを生成し、生成した少なくとも2つの前記位相誤差補償用のデータを異なるタイミングで利用して、前記位相誤差補償信号を生成する前記位相誤差補償信号生成部と、を備える、PLL周波数シンセサイザが提供される。
【0040】
前記位相誤差補償信号生成部は、前記位相誤差補償用のデータに固定値を加算する加算部を備えてもよい。
【0041】
前記位相誤差補償信号生成部は、前記位相誤差補償用のデータをバイナリコードから温度計コードに変換する温度計コード変換部を備えてもよい。
【0042】
前記位相誤差補償信号生成部は、前記位相誤差補償用のデータの利用順序をランダム化させるランダム化部を備えてもよい。
【0043】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上記PLL周波数シンセサイザを備える、無線通信装置が提供される。
【0044】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、基準周波数信号と分周信号との位相を比較する位相比較ステップと、前記位相比較ステップで生成された信号と位相誤差補償信号生成ステップで生成された位相誤差補償信号とに応じて、電流パルス信号を生成する電流パルス信号生成ステップと、前記電流パルス信号生成ステップで生成された前記電流パルス信号を電圧信号に変換する変換ステップと、前記変換ステップで生成された前記電圧信号に応じた発振周波数の信号を出力する出力ステップと、前記出力ステップの出力を分周比制御信号に応じた分周比で分周して、前記分周信号として出力する分周ステップと、分数分周のための分周比のデータに基づいて、前記分周比制御信号を生成する分周比制御信号生成ステップと、前記分周比のデータから少なくとも2つの位相誤差補償用のデータを生成し、生成した少なくとも2つの前記位相誤差補償用のデータを異なるタイミングで利用して、前記位相誤差補償信号を生成する前記位相誤差補償信号生成ステップと、を有する、PLL周波数シンセサイザの制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0045】
以上説明したように本発明によれば、安価な構成とするとともに、性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る分数分周PLL周波数シンセサイザの構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】図1におけるデルタシグマ変調器107および制御部108の構成を概略的に示すブロック図である。
【図3】図1におけるCPDAC102の構成を概略的に示す回路図である。
【図4】図1の分数分周PLL周波数シンセサイザにおける、瞬時位相誤差補償の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図5】図2における位相誤差信号PEに与えるオフセット値を説明するための説明図であり、図2の一部を抜粋したものである。
【図6】図1の分数分周PLL周波数シンセサイザの分周比のデータのうち、分数部データをゼロとした場合、すなわち整数分周動作させた場合のタイミングチャートである。
【図7】図1における位相比較器101の入出力特性を説明するためのグラフである。
【図8】図1の分数分周PLL周波数シンセサイザの、SSB位相雑音特性のシステムシミュレーション結果を説明するためのグラフである。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る分数分周PLL周波数シンセサイザにおける制御部の構成を概略的に示すブロック図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態に係る分数分周PLL周波数シンセサイザにおけるCPDACの構成を概略的に示すブロック図である。
【図11】本発明の第4の実施の形態に係る無線通信装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【図12】米国特許第6960947号明細書に記載の、従来の分数分周PLL周波数シンセサイザの構成を概略的に示すブロック図である。
【図13】米国特許第4970475号明細書に記載の、チャージポンプを含めた位相比較器の構成を概略的に示すブロック図である。
【図14】図13の位相比較器における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0048】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.第1の実施の形態
2.第2の実施の形態
3.第3の実施の形態
4.第4の実施の形態
5.まとめ
【0049】
[1.第1の実施の形態]
まず、本発明の第1の実施の形態に係る分数分周PLL周波数シンセサイザについて説明する。図1は、本実施の形態に係る分数分周PLL周波数シンセサイザの構成を概略的に示すブロック図である。
【0050】
図1において、位相比較器101には、基準周波数信号REFCLKが入力される。位相比較器101は、本発明の位相比較部の一例であり、後段の電圧制御発振器(VCO)104の出力信号VCOCLKが分周器105によりN分周された分周信号DIVCLKと、基準周波数信号REFCLKとの位相を比較する。基準周波数信号REFCLKの位相(エッジ)が先行しているときには、遅れている分周信号DIVCLKの位相(エッジ)が到来するまでの期間、位相比較器101のUP(アップ)信号出力には、Highレベルが出力される。分周信号DIVCLKの位相(エッジ)が到来すると、位相比較器101はリセットされ、UP信号出力はLowレベルとなる。分周信号DIVCLKの位相(エッジ)が先行しているときには、遅れている基準周波数信号REFCLKの位相(エッジ)が到来するまでの期間、位相比較器101のDN(ダウン)信号出力には、Highレベルが出力される。基準周波数信号REFCLKの位相(エッジ)が到来すると、位相比較器101はリセットされ、DN信号出力はLowレベルとなる。当該位相比較器101から出力された信号は、CPDAC102へ送られる。
【0051】
CPDAC102は、本発明の電流パルス信号生成部の一例であり、チャージポンプの機能とD/A(ディジタル/アナログ)変換器の機能とを併せ持つ回路であり、位相比較器101からの上記UP信号、DN信号と、制御部108からの位相誤差補償信号PECOMPとに応じた電流を流入または流出することにより、上記位相の差に比例した電流パルス信号ICPDACを生成する。当該CPDAC102の電流パルス信号ICPDACは、ループフィルタ103へ送られる。
【0052】
ループフィルタ103は、本発明の変換部の一例であり、CPDAC102の電流パルス信号ICPDACを積分、平滑化して、電圧信号に変換する。このループフィルタ103の出力電圧信号VTは、VCO104の制御電圧となる。
【0053】
VCO104は、本発明の出力部の一例であり、ループフィルタ103からの出力電圧信号VTに応じた発振周波数の信号VCOCLKを出力する。この出力信号VCOCLKは、当該分数分周PLL周波数シンセサイザの出力信号として、図示しない後段の構成(例えば周波数変換器)に送られると共に、分周器105により分周された後に、位相比較器101へフィードバックされる。
【0054】
デルタシグマ変調器107は、図示しないレジスタ等のデータ供給手段から供給された、分数分周のための分周比の分数部データKを積分し、それを量子化した後、出力信号Xを加算器106へ出力する。デルタシグマ変調器107の出力信号Xは、その平均値が入力値K/Mに等しい(MはKのビット深さ)擬似ランダムの整数で表現される系列であり、系列のパターンは、デルタシグマ変調器107の次数とビット幅と入力値とによって決定される。加算器106は、当該デルタシグマ変調器107の出力信号Xを、上記データ供給手段から供給された分周比の整数部データNに加算し、分周比制御信号N+Xを分周器105へ供給する。すなわち、上記分周比制御信号N+Xは、平均値がN+K/Mに等しい擬似ランダムの整数系列となる。デルタシグマ変調器107および加算器106は、本発明の分周比制御信号生成部の一例である。
【0055】
分周器105は、本発明の分周部の一例であり、供給されたデータに応じて複数の分周比を取りうる、プログラマブル分周器であり、変調された分周比制御信号N+Xを受け、それに応じた分周比で出力信号VCOCLKを分周する。
【0056】
このように、図1に示した分数分周PLL周波数シンセサイザは、VCO104の出力を分周する分周器105を、デルタシグマ変調器107の出力信号に応じて変調することで、平均として分数分周を実現している。
【0057】
分数分周PLL周波数シンセサイザでは、位相比較器101において、基準周波数信号REFCLKと分周信号DIVCLKとの位相が平均的には一致するものの、両者の位相が完全に一致することはない。
【0058】
デルタシグマ変調器107の出力する量子化雑音は、次数とビット幅と入力値とによって決定されるため、位相比較器101で発生する瞬時位相誤差を予測し、補償することが可能である。当該瞬時位相誤差は、出力信号VCOCLKの周期を2πとしたとき、下記式2で与えられる。
【0059】


ここで、nは自然数、Kは分周比の分数部データ、Mは分数部データKのビット深さ、Xはデルタシグマ変調器107の出力信号である。
【0060】
上記式2に基づき、デルタシグマ変調器107は、分数部データKと、デルタシグマ変調器107の出力信号Xの差を積分し、分数部データKのビット深さMでスケーリングすることで、または、それと等価な結果を得られる別の方法で、位相誤差信号PEUを生成し、制御部108に供給する。上記ビット深さMは2のべき乗であるため、Mによる除算は、論理回路においてはビットシフトとして実現でき、このために追加されるハードウェアは、実質的に不要である。
【0061】
制御部108に入力された位相誤差信号PEUは、少なくとも2つの部分に分解され、それぞれが、VCO104の周期と等しい時間幅を持つパルス状の信号に成形され、位相誤差補償信号PECOMPとして、順次あるいは時間間隔を置いて、異なるタイミングで、CPDAC102に出力される。制御部108は、本発明の位相誤差補償信号生成部の一例である。
【0062】
次に、図1におけるデルタシグマ変調器107および制御部108の詳細について説明する。図2は、図1におけるデルタシグマ変調器107および制御部108の構成を概略的に示すブロック図である。
【0063】
図2において、デルタシグマ変調器107は、一例として、1−1−1MASH(MultisTage noise SHaping)と呼ばれる構成をとる。第1の累積加算器201は、入力データKを累積し、オーバーフロー信号OVF1を出力する一方、残余すなわち量子化雑音N1を、第2の累積加算器202へ供給する。第2の累積加算器202は、第1の累積加算器201の量子化雑音N1を累積し、オーバーフロー信号OVF2を出力する一方、量子化雑音N2を、第3の累積加算器203へ供給する。第3の累積加算器203は、第2の累積加算器202の量子化雑音N2を累積し、オーバーフロー信号OVF3を出力する。第1の累積加算器201、第2の累積加算器202、第3の累積加算器203のオーバーフロー信号OVF1、OVF2、OVF3は、差分および加算処理を経て、出力信号Xとして、図1における分周器105に供給される。入力データKから出力信号Xへの伝達関数は、下記式3で与えられる。
【0064】

上記式3によれば、入力データKは、なんら作用を受けずに通過し、一方で、量子化雑音は、3次のノイズシェイピングを受ける。第1の累積加算器201によって付加される量子化雑音N1と、第2の累積加算器202によって付加される量子化雑音N2とは、オーバーフロー信号を差分および加算処理する過程においてキャンセルされ、出力信号Xに現れる雑音には、第3の累積加算器203によって付加される量子化雑音N3のみが寄与する。
【0065】
上記式2をz変換の式として書き直し、上記式3を代入すると、下記式4のようになる。
【0066】

ここで、PEは位相誤差、Kは分周比の分数部データ、Mは分数部データKのビット深さ、Nは分周比の整数部データである。
【0067】
上記式4を、PE(z)について解くと、下記式5を得る。
【0068】

すなわち、位相誤差PEは、上記第3の累積加算器203の量子化雑音N3の2階差分をとることで、得ることができる。位相誤差信号生成回路204に示すように、2階差分回路の一部として、第3の累積加算器203の遅延回路を利用することができるため、小規模な回路の追加で、所望の動作を実現することが可能である。位相誤差信号生成回路204は、上記位相誤差PEに、定められたオフセット値OFFSET1を加算し、位相誤差信号PEUを、制御部108に供給する。
【0069】
制御部108に入力された位相誤差信号PEUは、上位ビットの信号PEU1と、下位ビットの信号PEU2とに分割され、上位ビットの信号PEU1は、第1の温度計エンコーダ205に供給され、下位ビットの信号PEU2は、デルタシグマ変調器207に供給される。下位ビットの信号PEU2は、デルタシグマ変調器207で処理され、定められたオフセット値OFFSET2を加算され、信号PEU2’として、第2の温度計エンコーダ206に供給される。信号PEU1および信号PEU2’は、本発明の位相誤差補償用のデータの一例である。
【0070】
第1の温度計エンコーダ205は、入力されたバイナリコードの信号PEU1を、温度計コードの信号PEUT1に変換し、パルスシェイパ208に供給する。第2の温度計エンコーダ206は、入力されたバイナリコードの信号PEU2’を、温度計コードの信号PEUT2に変換し、パルスシェイパ208に供給する。第1の温度計エンコーダ205と第2の温度計エンコーダ206は、本発明の温度計コード変換部の一例である。
【0071】
パルスシェイパ208は、入力された信号PEUT1および信号PEUT2を、VCO104の周期と等しい時間幅を持つパルス状の信号に成形し、位相誤差補償信号PECOMPとして、順次あるいは時間間隔を置いて、異なるタイミングで、図1におけるCPDAC102に出力する。
【0072】
なお、位相誤差補償信号PECOMPのパルス幅を、VCO104の出力を整数分周したクロックの周期に等しくさせてもよい。この場合、上記式2でのスケーリング量を変える必要がある。ビットシフトによる簡便なスケーリングを可能とするためには、上記整数分周比を2のべき乗とすることが好ましい。
【0073】
なお、第1の温度計エンコーダ205および第2の温度計エンコーダ206を、パルスシェイパ208の後段、あるいは、CPDAC102の内部に備えるような構成を採ることも可能である。
【0074】
次に、図1におけるCPDAC102の詳細について説明する。図3は、図1におけるCPDAC102の構成を概略的に示す回路図である。
【0075】
図3において、CPDAC102は、一例として、電源とループフィルタ出力端子との間に接続され、位相比較器101からのUP信号を受けて、電流パルス信号Iupを出力する、UP電流セル301と、接地電位とループフィルタ出力端子との間に接続され、位相比較器101からのDN信号や、制御部108からの位相誤差補償信号PECOMPを受けて、電流パルス信号Idownを出力する、DN電流セルアレイ302とを備える。
【0076】
DN電流セルアレイ302は、複数の単位電流セルからなるアレイであり、一部の単位電流セルは、位相比較器101からのDN信号によって制御され、一部の単位電流セルは、制御部108からの位相誤差補償信号PECOMPによって制御される。これにより、位相誤差補償動作の線形性を良好にするとともに、DN信号による動作電流と、位相誤差補償動作による動作電流とのマッチングを良好にすることができる。
【0077】
また、UP電流セル301とDN電流セルアレイ302とに与えるバイアス電圧を生成するための、図示しないバイアス回路には、UP電流セル301とDN電流セルアレイ302とのマッチングを良好にするための手段を備えることが好ましい。
【0078】
次に、図1の分数分周PLL周波数シンセサイザにおける、瞬時位相誤差補償の動作について説明する。図4は、図1の分数分周PLL周波数シンセサイザにおける、瞬時位相誤差補償の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【0079】
図4において、CPDAC102のUP電流セル301は、基準周波数信号REFCLKと分周信号DIVCLKとの位相差に相当する時刻t1から時刻t2までの期間、電流パルス信号Iupを、ループフィルタ103に出力する。
【0080】
制御部108のパルスシェイパ208は、分周信号DIVCLKのエッジの時刻t2から次のVCOCLKのエッジの時刻t3までの期間、第1の温度計エンコーダ205の出力信号PEUT1を、位相誤差補償信号PECOMPとしてCPDAC102に出力する。同様に、パルスシェイパ208は、時刻t3から次のVCOCLKのエッジの時刻t4までの期間、第2の温度計エンコーダ206の出力信号PEUT2を、位相誤差補償信号PECOMPとしてCPDAC102に出力する。時刻t4以降、次の基準周波数信号REFCLKのエッジが到来する時刻t5までの期間、位相誤差補償信号PECOMPとしては何も出力しない。CPDAC102のDN電流セルアレイ302は、位相誤差補償信号PECOMPに応じて、電流パルス信号Idownを、ループフィルタ103に出力する。
【0081】
ループフィルタ103には、電流パルス信号Iupと電流パルス信号Idownとの合計の電流パルス信号Icpdacが供給される。電流パルス信号Icpdacにより、時刻t1から時刻t2までの期間に供給される電荷量Qaは、時刻t2から時刻t3までの期間に供給される電荷量Qbと、ほぼ等しい。ただし、制御部108で位相誤差信号PEUから上位ビットの信号PEU1を取り出す際に発生する、打ち切り誤差を含んでいる。したがって、時刻t1から時刻t3までの期間にループフィルタ103に供給されるトータルの電荷量は、当該打ち切り誤差に等しい。時刻t3から時刻t4までの期間に供給される電荷量Qcは、上記打ち切り誤差を高周波領域にノイズシェイプする。
【0082】
時刻t5から時刻t8までの期間についても、同様に、電流パルス信号Icpdacにより、時刻t5から時刻t6までの期間に供給される電荷量Qdは、時刻t6から時刻t7までの期間に供給される電荷量Qeと、ほぼ等しい。時刻t7から時刻t8までの期間に供給される電荷量Qfは、上記打ち切り誤差を高周波領域にノイズシェイプする。
【0083】
次に、図2における位相誤差信号PEに与えるオフセット値について説明する。図5は、図2における位相誤差信号PEに与えるオフセット値を説明するための説明図であり、図2の一部を抜粋したものである。
【0084】
図5において、第3の累積加算器203のビット幅が11ビットであるとした場合、第3の累積加算器203の量子化雑音N3を2階差分することで得た位相誤差信号PEは、13ビットのビット幅を持ち、その値は、2の補数表現で−212から212−1までの範囲を取りうる。加算器209は、上記位相誤差信号PEに、定められたオフセット値OFFSET1=212を加算する。これにより、加算器209の出力としての位相誤差信号PEUは、0から213−1までの範囲を取りうる、単一極性のデータとなる。上記加算器209の出力としての位相誤差信号PEUの下位ビットの信号PEU2は、デルタシグマ変調器207によって処理される。上記デルタシグマ変調器207が、一例として1−1−1MASHの構成をとる場合、その出力信号DSMOUTは、2の補数表現で−2から2−1までの範囲を取りうる。加算器210は、上記デルタシグマ変調器207の出力信号DSMOUTに、定められたオフセット値OFFSET2=2を加算する。これにより、加算器210の出力としての信号PEU2’は、0から2−1までの範囲を取りうる、単一極性のデータとなる。
【0085】
次に、図6を参照して、オフセット値OFFSET1およびオフセット値OFFSET2を加算することで得られる効果について説明する。図6は、図1の分数分周PLL周波数シンセサイザの分周比のデータのうち、分数部データをゼロとした場合、すなわち整数分周動作させた場合のタイミングチャートである。
【0086】
図6において、分数部データがゼロであるため、デルタシグマ変調器107はゼロを出力し続ける。したがって、このとき、上記式5で与えられる位相誤差PEも、同様にゼロである。図6中の数値の末尾に(d)を付加しているものは10進表現、(b)を付加しているものは2進表現である。加算器209で、OFFSET1=4096(d)(固定値)を加算し、位相誤差信号PEU=4096(d)を得る。したがって、上記位相誤差信号PEUの上位4ビットを取り出した信号PEU1=8(d)となる。上記位相誤差信号PEUの下位ビットの信号PEU2はゼロであるため、デルタシグマ変調器207の出力信号DSMOUTはゼロであり、加算器210で、OFFSET2=4(d)(固定値)を加算し、信号PEU2’=4(d)を得る。パルスシェイパ208が、信号PEU1と信号PEU2’とを、所定の時刻において、位相誤差補償信号PECOMPとして出力し、CPDAC102は、それに応じた電流パルスを出力する。なお、図2の構成によれば、位相誤差補償信号PECOMPは、温度計コード表現のデータであるが、図6においては、便宜上、バイナリコードとして表現した。加算器209と加算器210は、本発明の加算部の一例である。
【0087】
以上のように、位相誤差PEから位相誤差補償信号PECOMPを生成する過程において、オフセット値OFFSET1やオフセット値OFFSET2を付加することにより、位相誤差補償動作を、単一の極性で行うことが可能となる。これにより、CPDAC102の、位相誤差補償動作に関わる電流セルアレイを、同一の単位セルを用いて構成することができるため、良好な線形性を得ることが可能となる。
【0088】
また、PLL回路は、ループの定常状態において、時刻t2から時刻t3までの期間に供給される電荷量Qn1と時刻t3から時刻t4までの期間に供給される電荷量Qn2との合計と、時刻t1から時刻t2までの期間に供給される電荷量Qpとが、等しくなるような位相差にロックする。これは、位相比較器101の動作点を、線形な領域にシフトさせたことに相当する。
【0089】
さらに、図7を参照して、オフセット値OFFSET1およびオフセット値OFFSET2を加算することで得られる効果について説明する。図7は、図1における位相比較器101の入出力特性を説明するためのグラフである。
【0090】
図7において、横軸は、位相比較器101に入力される基準周波数信号REFCLKと分周信号DIVCLKとの位相差で、基準周波数信号REFCLKが先行している状態を正とする。縦軸は、CPDAC102から出力される電荷量である。理想的には、破線で示すような線形な特性を得られることが望ましいが、実際には、実線で示すような、非線形性を有する特性となる。上述した、位相誤差補償信号PECOMPのオフセット値OFFSET1やオフセット値OFFSET2の効果により、本実施の形態に係るPLL回路は、図7に示す動作点OPにロックする。図5で、位相誤差補償信号PECOMPに加算するオフセット値のうち、加算器209で加算するオフセット値OFFSET1は、分数分周動作により発生する位相誤差のダイナミックレンジの半分であり、原理的には、分数分周動作により発生する位相誤差が位相比較器101の入出力特性の原点を横切ることを防止するオフセット量として、必要最小限の量である。実際には、位相比較器101の入出力特性の非線形領域は、図7に示すように、原点付近に、ある幅をもって存在する。これは、加算器210でオフセット値OFFSET2を加算し、位相比較器101の動作点をさらにシフトさせることで、回避できる。
【0091】
以上のように、位相誤差補償信号PECOMPにオフセット値OFFSET1やオフセット値OFFSET2を与えることにより、新たなハードウェアを追加することなく、位相比較器101の動作点を線形な領域にシフトさせることができ、良好な雑音性能を得ることができる。
【0092】
次に、図1の分数分周PLL周波数シンセサイザの、SSB(シングルサイドバンド)位相雑音特性のシステムシミュレーション結果について説明する。図8は、図1の分数分周PLL周波数シンセサイザの、SSB位相雑音特性のシステムシミュレーション結果を説明するためのグラフである。図8では、位相誤差補償機能を動作させた場合と、当該機能を動作させない場合とを、重ねて示す。本シミュレーション結果には、位相比較器101のジッタと、CPDAC102の電流雑音と、CPDAC102の電流セルのミスマッチと、ループフィルタ103の抵抗性雑音と、VCO104の位相雑音とが、含まれている。
【0093】
本シミュレーション結果によれば、ループ帯域外に出現しているデルタシグマ変調器の量子化雑音が、位相誤差補償機能により、効果的に抑圧されていることがわかる。
【0094】
[2.第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係る分数分周PLL周波数シンセサイザについて説明する。図9は、本実施の形態に係る分数分周PLL周波数シンセサイザにおける制御部の構成を概略的に示すブロック図である。本実施の形態における分数分周PLL周波数シンセサイザは、制御部108が、擬似ランダム信号発生回路901およびセレクタ902をさらに備える点が、上述した第1の実施の形態と異なる。
【0095】
図9において、擬似ランダム信号発生回路901は、分周信号DIVCLKによって駆動され、擬似ランダム信号SELを発生する。セレクタ902は、上記擬似ランダム信号SELに基づいて、信号PEU1と信号PEU2’との供給先を、第1の温度計エンコーダ205と第2の温度計エンコーダ206とのいずれかに切り替える。例えば、擬似ランダム信号SELがLowレベルのときは、信号PEU1を第1の温度計エンコーダ205に供給し、信号PEU2’を第2の温度計エンコーダ206に供給し、擬似ランダム信号SELがHighレベルのときは、信号PEU1を第2の温度計エンコーダ206に供給し、信号PEU2’を第1の温度計エンコーダ205に供給する。擬似ランダム信号発生回路901およびセレクタ902は、本発明のランダム化部の一例である。
【0096】
つまり、パルスシェイパ208からCPDAC102に送られる位相誤差補償信号PECOMPにおいて、位相誤差信号PEUの上位ビットに関する情報と下位ビットに関する情報との供給される順序が、擬似ランダム的に変化する。すなわち、位相誤差補償用のデータの利用順序がランダム化される。その結果、特定の分周比設定で発生しうるスプリアスレベルを低減することができる。
【0097】
なお、ランダム化手段をパルスシェイパ208の中に持たせるなど、本発明にかかる技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計に応じて種々の変更が可能である。
【0098】
[3.第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態に係る分数分周PLL周波数シンセサイザについて説明する。図10は、本実施の形態に係る分数分周PLL周波数シンセサイザにおけるCPDACの構成を概略的に示すブロック図である。本実施の形態における分数分周PLL周波数シンセサイザは、CPDAC102が、ランダム化回路903をさらに備える点が、上述した第1の実施の形態と異なる。
【0099】
図10において、ランダム化回路903は、分周信号DIVCLKによって駆動され、DN信号と位相誤差補償信号PECOMPが使用する単位電流セルを、位相比較のたびに、ランダムに変更する。これにより、DN信号による動作電流と、位相誤差補償動作による動作電流とのマッチングをさらに良好にすることができる。
【0100】
[4.第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態に係る無線通信装置について説明する。図11は、本実施の形態に係る無線通信装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【0101】
図11において、無線通信装置1000は、ベースバンド回路(Base−band BLOCK)1001と、送受信モジュール1002と、アンテナ共用器1003と、電波を送受信するアンテナ1004とを備える。
【0102】
ベースバンド回路1001は、ベースバンド信号を扱う回路であり、送受信モジュール1002との間で信号の授受を行う。送受信モジュール1002は、ベースバンド回路1001との間で信号の授受を行って信号処理を行う。アンテナ共用器1003は、送受信モジュール1002との間で信号の授受を行う。アンテナ1004は、電波の送受信を行う。
【0103】
また、送受信モジュール1002は、送信系と受信系とに分けられ、送信系はPLL1011と、発振器1012と、増幅器1013とを備え、受信系はPLL1021と、発振器1022と、増幅器1023と、ダウンコンバータ1024と、ローパスフィルタ1025と、可変利得変換器1026とを備える。
【0104】
ここで、図11に示したPLL1011,1021に、上述した本発明の第1〜第3の実施の形態に係る分数分周PLL周波数シンセサイザのいずれかを適用することができる。上述した本発明の第1〜第3の実施の形態に係る分数分周PLL周波数シンセサイザのいずれかを無線通信装置1000に適用することで、無線通信装置1000は、上述した各実施の形態の効果を奏することができる。
【0105】
なお、図11に示した無線通信装置1000の構成は、あくまで一例であり、かかる例に限定されないことは言うまでもない。PLLを用いる装置であれば本発明の各実施の形態に係る分数分周PLL周波数シンセサイザを適用することが可能である。
【0106】
[5.まとめ]
上述した各実施の形態によれば、位相誤差補償信号PECOMPを、VCOCLKの周期またはそれに関連した時間幅を持つパルス状とすることにより、除算の実装を不要とすることができる。また、位相誤差補償信号PECOMPを、VCOCLKの周期またはそれに関連した時間幅を持つパルス状とすることにより、位相誤差補償に必要な電流セルアレイの分解能に対する要求を緩和することができる。また、位相誤差補償信号PECOMPを、VCOCLKの周期またはそれに関連した時間幅を持つパルス状とすることにより、チャージポンプ電流を少なく、ループフィルタ103の容量を小さくするループ設計が可能となり、ループフィルタ103を集積回路に実装することができる。
【0107】
また、上述した各実施の形態によれば、位相誤差信号PEを、少なくとも2つの部分に分解し、それぞれを、VCO104の周期と等しい時間幅を持つパルス状の信号に成形し、位相誤差補償信号PECOMPとして、順次あるいは時間間隔を置いて、異なるタイミングで、CPDAC102に出力する構成をとることにより、位相誤差補償動作に必要な電流セルを削減することができ、また、アナログ回路の非線形性の影響を減らすことができる。
【0108】
また、上述した各実施の形態によれば、位相誤差補償信号PECOMPにオフセットを加えることにより、位相誤差補償動作を、単一の極性で実現することができるため、良好な線形性を得ることができる。また、位相誤差補償信号PECOMPにオフセットを加えることにより、位相比較器101の動作点を、位相比較器101の入出力特性の線形な領域にシフトさせ、良好な位相雑音性能を得ることができる。また、位相誤差補償信号PECOMPにオフセットを加えることにより、ゲートの遅延を利用しないため、ジッタの影響を少なくすることができる。また、位相誤差補償信号PECOMPにオフセットを加えることにより、与えるオフセットは、所望の動作点シフトを実現するのに必要最小限のオフセット量であるため、リファレンススプリアスの増加を軽減することができる。また、位相誤差補償信号PECOMPにオフセットを加えることにより、動作点シフト量に対する、プロセスバラツキ、温度、電源電圧の影響が小さいため、良好な位相雑音性能を安定して得ることができる。
【0109】
また、上述した第2の実施の形態によれば、少なくとも2つの位相誤差補償信号PECOMPを、CPDAC102に供給する順序を、擬似ランダム信号により変化させることにより、特定の分周比設定で発生しうるスプリアスレベルを低減することができる。
【0110】
また、上述した第3の実施の形態によれば、DN信号と位相誤差補償信号PECOMPが使用する単位電流セルを、位相比較のたびに、ランダムに変更することにより、DN信号による動作電流と、位相誤差補償動作による動作電流とのマッチングをさらに良好にすることができる。
【0111】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0112】
101 位相比較器
102 CPDAC
103 ループフィルタ
104 電圧制御発振器
105 分周器
106 加算器
107 デルタシグマ変調器
108 制御部
201 第1の累積加算器
202 第2の累積加算器
203 第3の累積加算器
204 位相誤差信号生成回路
205 第1の温度計エンコーダ
206 第2の温度計エンコーダ
207 デルタシグマ変調器
208 パルスシェイパ
209 加算器
210 加算器
301 UP電流セル
302 DN電流セルアレイ
901 擬似ランダム信号発生回路
902 セレクタ
903 ランダム化回路
1000 無線通信装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準周波数信号と分周信号との位相を比較する位相比較部と、
前記位相比較部からの信号と位相誤差補償信号生成部からの位相誤差補償信号とに応じて、電流パルス信号を生成する電流パルス信号生成部と、
前記電流パルス信号生成部からの前記電流パルス信号を電圧信号に変換する変換部と、
前記変換部からの前記電圧信号に応じた発振周波数の信号を出力する出力部と、
前記出力部からの出力を分周比制御信号に応じた分周比で分周して、前記分周信号として出力する分周部と、
分数分周のための分周比のデータに基づいて、前記分周比制御信号を生成する分周比制御信号生成部と、
前記分周比のデータから少なくとも2つの位相誤差補償用のデータを生成し、生成した少なくとも2つの前記位相誤差補償用のデータを異なるタイミングで利用して、前記位相誤差補償信号を生成する前記位相誤差補償信号生成部と、
を備える、PLL周波数シンセサイザ。
【請求項2】
前記位相誤差補償信号生成部は、
前記位相誤差補償用のデータに固定値を加算する加算部を備える、請求項1に記載のPLL周波数シンセサイザ。
【請求項3】
前記位相誤差補償信号生成部は、
前記位相誤差補償用のデータをバイナリコードから温度計コードに変換する温度計コード変換部を備える、請求項1または2に記載のPLL周波数シンセサイザ。
【請求項4】
前記位相誤差補償信号生成部は、
前記位相誤差補償用のデータの利用順序をランダム化させるランダム化部を備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載のPLL周波数シンセサイザ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のPLL周波数シンセサイザを備える、無線通信装置。
【請求項6】
基準周波数信号と分周信号との位相を比較する位相比較ステップと、
前記位相比較ステップで生成された信号と位相誤差補償信号生成ステップで生成された位相誤差補償信号とに応じて、電流パルス信号を生成する電流パルス信号生成ステップと、
前記電流パルス信号生成ステップで生成された前記電流パルス信号を電圧信号に変換する変換ステップと、
前記変換ステップで生成された前記電圧信号に応じた発振周波数の信号を出力する出力ステップと、
前記出力ステップの出力を分周比制御信号に応じた分周比で分周して、前記分周信号として出力する分周ステップと、
分数分周のための分周比のデータに基づいて、前記分周比制御信号を生成する分周比制御信号生成ステップと、
前記分周比のデータから少なくとも2つの位相誤差補償用のデータを生成し、生成した少なくとも2つの前記位相誤差補償用のデータを異なるタイミングで利用して、前記位相誤差補償信号を生成する前記位相誤差補償信号生成ステップと、
を有する、PLL周波数シンセサイザの制御方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−39551(P2012−39551A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180316(P2010−180316)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】