説明

PLL回路

【課題】目標周波数の変更に応じて、制御電圧が所定の許容範囲内に収まるようにVCO特性が切り替えられるものであって、かかる切替を極力早いタイミングで実行し得るPLL回路を提供する。
【解決手段】複数のVCO特性に切替可能である電圧制御発振部と、位相比較器と、制御電圧と所定の許容範囲との比較結果に応じてVCO特性の切替を行うVCO切替部と、を備え、現時点で目標周波数に設定されている周波数のクロックを出力するPLL回路であって、VCO切替部は、サンプリングされた電圧が許容範囲内に収まっているか否かを検出するとともに、該検出結果に応じて、前記VCO特性の切替えを行うものであり、このサンプリングのタイミングは、目標周波数が切り替えられた時から、予め定められた時間である第1時間が経過したタイミングとされているPLL回路とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設定された目標周波数のクロックを出力するPLL回路に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される移動体通信は著しい発達を遂げた。移動体通信においては、その用途から、小型化、低消費電力化が非常に重要であり、移動体通信機で使用されている無線回路の小型化、低消費電力化は重要な課題である。
【0003】
無線回路の1つであるPLL[Phase Locked Loop]シンセサイザは移動体通信では必須と言っても過言ではないほど、幅広く使用されており、これらの小型化や低消費電力化も例外なく重要である。また近年、デジタルTVを携帯端末で受信するためのチューナICの開発が盛んになってきた。デジタルTV放送を受信するためには、UHF帯(400MHz〜900MHz)をカバーする必要があり、非常に広帯域な回路設計が求められる。
【0004】
PLLシンセサイザでUHF帯をカバーするにはPLLの構成要素であるVCO[Voltage Controlled Oscillators:電圧制御発振器]の広帯域化が求められる。しかし、1つのVCOでUHF帯全てをカバーすることは非常に困難であるため、適応する発振周波数の範囲が互いに異なる複数のVCO特性を用意しておき、出力させたいクロックの周波数(目標周波数)に応じて、適宜切替える手法が一般的である。
【0005】
なおVCO特性の切替の要否を判断する手法としては、特許文献1に記載されているように、サンプリングされた制御電圧が、所定の許容範囲を逸脱しているか否かの判別を実行するものが挙げられる。つまり目標周波数のクロック出力が実現されているときに制御電圧が許容範囲に入っていれば、現状のVCO特性は適切である(許容範囲に入っていなければ、不適切なために切替えが必要)とするものである。
【0006】
この手法によれば、各VCO特性に共通して適応する制御電圧の範囲を許容範囲としておくことで、目標周波数が変動した場合でも、適切なVCO特性が自動的に採用されることとなる。
【特許文献1】特開2000−4156号公報
【特許文献2】特開2005−295273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
目標周波数が切替えられた直後(過渡状態時)は、VCOの出力周波数を制御するための制御電圧が大きく変動する。そのため上述した手法にて、VCO特性の切替の要否を判断するにあたっては、このような電圧変動を考慮する必要がある。
【0008】
しかし制御電圧が許容範囲を逸脱しているか否かの判別を、例えば特許文献1に記載のように、許容範囲を逸脱していると判定された時間が所定の時間以上連続しているか否かを判断することで実行する場合、かかる判別に要する時間は比較的長く(少なくとも、過渡状態である時間の倍以上に)なると考えられる。過渡状態によって制御電圧が大きく変動する期間では、許容範囲を逸脱した状態が連続しないことから、判別可能となるのは、過渡状態の収束後から更に所定の時間を経過した後となるためである。
【0009】
そのためこのような判別手法によれば、VCO特性の切替を高速に実行することが難しくなり、これに関連する処理の高速応答が難しくなる。例えば、TVチューナに上記のPLL回路を用いた場合、目標周波数の切替直後に画像の乱れが生じる可能性がある。なお特許文献2に記載のものでは、回路や制御が非常に複雑になり、ロックアップタイムも大きくなると考えられる。
【0010】
そこで本発明は上述の問題点に鑑み、目標周波数の変更に応じて、制御電圧が所定の許容範囲内に収まるようにVCO特性が切り替えられるものであって、かかる切替を極力早いタイミングで実行し得るPLL回路の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明に係るPLL回路は、制御電圧と発振周波数の関係を定めるVCO特性が、複数種類のうちから切替可能に設定され、制御電圧に応じた周波数のクロックを出力クロックとして発生させる電圧制御発振部と、所定の基準クロックと前記出力クロックとの位相差に応じた誤差電圧を発生させ、前記電圧制御発振部に前記制御電圧として出力する位相比較器と、前記制御電圧をサンプリングして所定の許容範囲と比較し、該比較結果に応じて前記切替を行う、VCO切替部と、を備え、前記出力クロックを、現時点で目標周波数に設定されている周波数に調整して、外部に出力するPLL回路であって、前記目標周波数を切替える目標周波数切替部を備えているとともに、前記サンプリングのタイミングは、前記目標周波数が切り替えられた時から、予め定められた時間である第1時間が経過したタイミングとされている構成(第1の構成)とする。
【0012】
本構成によれば、制御電圧と許容範囲との比較結果に応じて、VCO特性を切替させることができる。そのため、制御電圧が許容範囲内に収まるようにVCO特性を切り替えさせることが、容易に実現可能となる。
【0013】
またこの場合の制御電圧をサンプリングするタイミングは、目標周波数が切り替えられた時から予め定められた時間(第1時間)が経過したタイミングとなっている。そのため制御電圧の状況を所定時間連続して監視する必要がなく、かかるタイミング(瞬間)で制御電圧をラッチするだけで、VCO特性の切替の要否を判別することでき、ひいては、VCO特性の切替を極力早いタイミングで実行することが可能となる。
【0014】
なお第1時間としては、目標周波数が切り替えられたときの過度状態が収束する時間(或いは、これにある程度の余裕を付加した時間)を採用しておくことにより、VCO特性の切替の要否判断を精度良く実行することが可能である。
【0015】
また上記第1の構成において、前記複数のVCO特性は、VCO(1)、VCO(2)、・・・、VCO(N)(N≧2とする)の各VCO特性からなり、VCO(k)(1≦k≦Nとする)は、前記許容範囲内で制御電圧が変動することによって、周波数がfs(k)からfe(k)までの範囲で連続的に変動する特性であるとともに、fs(k)<fe(k)、fs(k)<fs(k+1)、fe(k)<fe(k+1)、およびfe(k)≧fs(k+1)の各条件を満たしており、前記VCO切替部は、現状のVCO特性がVCO(k)である場合において、前記サンプリングされた電圧が前記許容範囲の上限を超えているときは、VCO特性をVCO(k+1)に切替える一方、前記サンプリングされた電圧が前記許容範囲の下限を下回っているときは、VCO特性をVCO(k−1)に切替える構成(第2の構成)としても良い。
【0016】
本構成によれば、VCO(1)からVCO(N)までのVCO特性が適宜切り替えられることにより、目標周波数がfs(1)からfe(N)までの範囲のどの値に変動しても、制御電圧を許容範囲内に収めることが可能となる。またサンプリングされた制御電圧が許容範囲を逸脱している場合に、制御電圧が許容範囲に近づくように、VCO特性を切り替えることが可能となる。
【0017】
また上記第1または第2の構成において、前記第1時間は、前記目標周波数が切り替えられてから、該切替えにより生じる前記制御電圧の過渡状態が所定状態に収束するまでの時間よりも、長い時間として予め定められている構成(第3の構成)としても良い。
【0018】
本構成によれば、過渡状態が少なくとも所定状態にまで収束した段階で、制御電圧がサンプリングされることとなる。そのため、VCO特性の切替の要否判断を精度良く実行することが可能となる。
【0019】
また上記第1から第3の何れかの構成において、前記VCO切替部は、前記目標周波数が切り替えられたときに、前記サンプリングを複数回行う構成(第4の構成)としても良い。本構成によれば、サンプリングを1度だけ行うものに比べて、VCO特性の切替の要否判断をより精度良く実行することが可能となる。
【0020】
また上記第4の構成において、前記VCO切替部は、前記複数回のサンプリングがなされる毎に、該サンプリングされた電圧と前記許容範囲とを比較し、該比較結果に応じて、前記VCO特性の切替えを行うものであるとともに、ヒステリシス特性を有しており、該ヒステリシス特性は、該VCO特性の切替えがなされた後に、更に該比較がなされた場合においては、前記サンプリングされた電圧が前記許容範囲から逸脱していても、その逸脱量が所定量以下に留まっている限り、前記VCO特性の切替えを行わないようにするものである構成(第5の構成)としても良い。
【0021】
本構成によれば、例えば少しの外乱等により、制御電圧が、許容範囲の閾値近傍で僅かにブレるような場合であっても、VCO特性がむやみに切り替えられるという不具合を回避することができる。
【0022】
また上記第1から第5の何れかの構成において、前記VCO切替部は、前記目標周波数が切り替えられたとき、前記サンプリングの実行に先立ち、前記VCO特性を、該切替後の目標周波数に対応するものとして予め定められているものに切替える構成(第6の構成)としても良い。本構成によれば、目標周波数が切り替えられたときに、現状において最適であると推測されるVCO特性に素早く切り替えることが可能となる。
【0023】
また上記第1から第6の構成に係るPLL回路が用いられた構成(第7の構成)の受信チューナIC(チューナ機能を備えたICチップ)であれば、上記構成における利点を活かしつつ、チューナとしての機能を発揮させることができる。
【0024】
また上記受信チューナICは、第7の構成に係る受信チューナICが用いられた構成(第8の構成)の受信チューナモジュール(チューナ機能を備えたモジュール)や、この受信チューナモジュールが用いられた構成(第9の構成)の携帯端末などに応用可能である。
【発明の効果】
【0025】
上述の通り、本発明に係るPLL回路によれば、制御電圧と許容範囲との比較結果に応じて、VCO特性を切替させることができる。そのため、制御電圧が許容範囲内に収まるようにVCO特性を切り替えさせることが、容易に実現可能となる。
【0026】
またこの場合の制御電圧をサンプリングするタイミングは、目標周波数が切り替えられた時から予め定められた時間(第1時間)が経過したタイミングとなっている。そのため制御電圧の状況を所定時間連続して監視する必要がなく、かかるタイミング(瞬間)で制御電圧をラッチするだけで、VCO特性の切替の要否を判別することでき、ひいては、VCO特性の切替を極力早いタイミングで実行することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施形態について、図1に示す構成のPLL回路を挙げて、以下に説明する。本図のようにPLL回路1は、可変分周器11、基準信号発生装置12、位相比較器13、チャージポンプ14、ループフィルタ15、電圧制御発振部16、制御部17、ラッチ信号出力回路18、タイマー19、VCO切替器20、設定情報入力端子21、およびクロック出力端子22などを備えている。
【0028】
可変分周器11は、電圧制御発振部16からフィードバックされる電圧(出力クロック信号)に対して分周処理を施し、これを比較クロック信号として位相比較器13に出力する。またこの分周処理における分周比は切替自在となっており、制御部17からの指示に応じて切替るようになっている。なお可変分周器11に相当する装置は、PLL回路におけるループ中の別の位置に配置されていてもよく、また複数配置されていても良い。
【0029】
基準信号発生装置12は、例えば周波数固定の発振器などを備えており、所定周波数のクロック信号(基準クロック信号)を生成して、位相比較器13に出力する。
【0030】
位相比較器13は、前段側から入力される比較クロック信号と基準クロック信号との位相比較を行い、この位相差成分を位相差信号(誤差電圧)として後段に出力する。この位相差信号は、チャージポンプ14およびループフィルタ15を経て、電圧制御発振部16に出力クロック信号を出力させるための制御電圧として用いられる。
【0031】
電圧制御発振部16は、ループフィルタ15側から入力される制御電圧に応じた周波数のクロック信号(出力クロック信号)を生成させ、クロック出力端子22を介して外部に出力する。また後述するように、電圧制御発振部16は、制御電圧と発振周波数(出力クロック信号の周波数)との関係を定める特性(以下、「VCO特性」と称する)が複数種類用意されており、そのうちの何れかが切替可能に適用されるものとなっている。電圧制御発振部16の構成については、改めて説明する。
【0032】
制御部17は、PLL回路1においてなされる各種処理を制御する。また制御部17は、外部から設定情報入力端子21を介して、出力クロックの目標とする周波数(目標周波数)を設定するための情報(周波数設定情報)を受取り、処理に反映させることができるものとなっている。
【0033】
ラッチ信号出力部18は、タイマー19を用いて、VCO切替器20が制御電圧をラッチするタイミングを定める信号(ラッチ信号)を生成し、VCO切替器20に出力する。なおラッチ信号を生成するための処理の内容については、改めて説明する。
【0034】
VCO切替器20は、ループフィルタ15から電圧制御発振部16に出力される制御電圧をサンプリング(ラッチして、その値を検出)し、このサンプリング結果に応じて、電圧制御発振部16におけるVCO特性を切替える役割を果たす。なおVCO切替器20が行う処理の内容については、改めて詳しく説明する。
【0035】
設定情報入力端子21およびクロック出力端子22は、PLL回路1の内部と外部との信号の入出力を実現するための端子として備えられている。なお設定情報入力端子21には、周波数設定情報が入力されるようになっている一方、クロック出力端子22からは、電圧制御発振部16によって生成されたクロック信号(出力クロック)が出力されるようになっている。
【0036】
ここで先述したVCO切替器20の構成内容の一例について、図2を参照しながら説明する。本図に示すようにVCO切替器20は、コンパレータ(31a、31b)、ラッチ回路(32a、32b)、およびUP/DWカウンタ33などを有している。
【0037】
コンパレータ31aは、反転入力端子には、ループフィルタ15から出力される制御電圧が入力される一方、非反転入力端子には、所定の上限電圧が入力され、両入力の比較結果を出力する。またコンパレータ31bは、反転入力端子には、ループフィルタ15から出力される制御電圧が入力される一方、非反転入力端子には、所定の下限電圧が入力され、両入力の比較結果を出力する。なおここでの上限電圧および下限電圧は、後述する許容範囲の上限および下限に相当する電圧のことである。
【0038】
ラッチ回路32aは、ラッチ信号出力部18から出力されるラッチ信号を受取り、このラッチ信号により特定されるタイミングでコンパレータ31aの出力をラッチする。またラッチ回路32bは、ラッチ信号出力部18から出力されるラッチ信号を受取り、このラッチ信号により特定されるタイミングでコンパレータ31bの出力をラッチする。
【0039】
UP/DWカウンタ33は、ラッチ回路(32a、32b)によりラッチされた情報を受取り、これに応じて電圧制御発振部16におけるVCO特性を切り替えるための信号(切替信号)を生成し、電圧制御発振部16に出力する。
【0040】
次に先述した電圧制御発振部16の構成内容の一例について、図3を参照しながら説明する。本図に示すように電圧制御発振部16は、スイッチ41、および第1VCO〜第4VCO(42a〜42d)の各VCOなどを備えている。
【0041】
スイッチ41は、入力側端子を、4個の出力側端子のうちの何れかに、切替自在に接続させる。またこの切替は、VCO切替器20から出力される切替信号に応じて実行されるようになっている。
【0042】
第1VCOから第4VCO(42a〜42d)の各VCOは、互いに異なるVCO特性を有するVCOであり、前段から入力される制御電圧に応じた周波数で発振し、出力クロック信号を生成する。なおこれらのVCO(42a〜42d)におけるVCO特性について、図4のグラフを参照しながら説明する。
【0043】
本図では、第1VCO42a〜第4VCO42dのVCO特性を、VCO(1)〜VCO(4)として示している。第1VCO42aは、入力される制御電圧がV1(下限電圧)からV2(上限電圧)まで変動することで、出力クロックの周波数は、fs(1)からfe(1)まで連続的に変動する。また第2VCO42bは、入力される制御電圧がV1からV2まで変動することで、出力クロックの周波数は、fs(2)からfe(2)まで連続的に変動する。また第3VCO42cは、入力される制御電圧がV1からV2まで変動することで、出力クロックの周波数は、fs(3)からfe(3)まで連続的に変動する。また第4VCO42dは、入力される制御電圧がV1からV2まで変動することで、出力クロックの周波数は、fs(4)からfe(4)まで連続的に変動する。
【0044】
また各VCO特性においては、図4のグラフに示す通り、
fs(k)<fe(k)(ただし、1≦k≦4)
fs(k)<fs(k+1)(ただし、1≦k≦3)
fe(k)<fe(k+1)(ただし、1≦k≦3)
fe(k)≧fs(k+1)(ただし、1≦k≦3)
の各条件が満たされている。そのため電圧制御発振部16によれば、目標周波数がfs(1)からfe(4)までの範囲どの値に変動しても、これに応じてVCO特性が切り替えられることにより、制御電圧をV1からV2までの範囲に収めることが可能となっている。
【0045】
なお電圧制御発振部16の構成としては、このようなものの他、例えば図5に示すもの等としても良い。この例の場合は、切替信号によって、2つの可変容量コンデンサ45の各々の接地/非接地を、スイッチ46により切替えることが可能となっている。また制御電圧に応じて、可変容量コンデンサ45の容量が変化するようになっている。かかる構成により、コイル44と可変容量コンデンサ45によるLC共振回路の共振周波数を変更し、出力クロックの周波数を調節することとする。
【0046】
なおこの例の場合は、2個の可変容量コンデンサ45のそれぞれについて接地/非接地を切替えることができるので、VCO特性を22=4通りに切替えることができる。またここでは、切替信号によってLC共振回路でのキャパシタンスを変更するようにしているが、インダクタンスを変更することで共振周波数を調整できるものとしても良い。また可変容量コンデンサを更に追加することで、VCO特性の種類を増やすことも可能である。
【0047】
以上に説明した構成のPLL回路によれば、例えばユーザや外部装置から周波数設定情報が入力されると、これに応じて目標周波数が切替る(つまり、可変分周器11における分周比が変更される)こととなる。その後、PLL回路の作用によって、出力クロックの周波数が目標周波数となるように調整され、この出力クロックが外部に出力される。これにより、PLL回路から所望周波数のクロックを取り出すことがかのうとなっている。
【0048】
次に、先述した電圧制御発振部16におけるVCO特性の切替処理について、図6のフローチャートを参照しながら以下に説明する。
【0049】
制御部17は、出力クロックの周波数を変更させるための周波数設定情報が外部から入力されたか、換言すれば、目標とする出力クロックの周波数(目標周波数)が変更されたか否かを監視している(ステップS11)。そして変更が有ったときは(ステップS11のY)、可変分周器11における分周比を変更させることで目標周波数を切り替えるとともに(ステップS12)、電圧制御発振部16のVCO特性を、目標周波数に対応した初期状態に設定する(ステップS13)。なおこの設定は、制御部17が直接VCO特性を切替えることで実行しても良く、VCO切替器20にVCO特性を切替させることで実行しても良い。
【0050】
この初期状態は、目標周波数のクロックを出力している状態で制御電圧が許容範囲に収まると想定されるものが、予め定められているものである。各VCO特性が図4に示すようなものである場合、初期状態は、例えば図7に示すようなものとなる。この場合、仮に目標周波数が図4中のAであった場合、これに対応する初期状態はVCO(3)となる。
【0051】
以上までの処理により、目標周波数の変更が有った場合でも、新たな目標周波数に適すると考えられるVCO特性(初期状態)が自動的に設定され、通常であれば、出力クロックを目標周波数に調整しながらも、制御電圧を許容範囲内に収めることができる。しかし例えば外乱などの種々の要因により何らかの誤差が生じたり、各VCO特性が本来の特性からズレたりしたときに、制御電圧が許容範囲内に収まらないことが考えられる。こうなると、上述の初期状態に設定された状態では適切なVCO特性が設定されておらず、このままでは安定した周波数の出力が得られなくなるおそれがある。
【0052】
そこで以下に具体的に説明するように、制御電圧をサンプリングし、その結果に基づいて制御電圧が許容範囲内に収まるように、VCO特性を調整することとする。まず制御部17は、ステップS12、S13の処理とともに、ラッチ信号出力部18に対して、目標周波数の変更がなされたことを通知する(ステップS14)。
【0053】
一方、ラッチ信号出力部18は、制御部17から目標周波数の変更があった旨の通知(ステップS14の処理による通知)がなされたか否かを監視している(ステップS21)。そしてかかる通知があった場合は(ステップS21のY)、ラッチのタイミングを示すラッチ信号を発生させ、VCO切替器20に出力することとする(ステップS22)。
【0054】
VCO切替器20は、このラッチ信号に基づいて、制御電圧をラッチするタイミングを監視しており(ステップS31)、かかるタイミングが到来した時に、必要に応じて(制御電圧が許容範囲内に入っていない場合に)、電圧制御発振部16のVCO特性を切替えることとする(ステップS32)。
【0055】
より具体的には、ラッチ信号により特定されるタイミングにおいて制御電圧をラッチし、この値を上限電圧および下限電圧(つまり許容範囲)と比較する。そしてこの比較結果を、電圧制御発振部16に出力する。これにより電圧制御発振部16は、ラッチされた制御電圧が上限電圧を超えていれば、現状より1ランクだけ制御電圧が小さくなるVCO特性に切替える(VCO(k)からVCO(k+1)に切替える)こととし、逆に下限電圧を下回っていれば、現状より1ランクだけ制御電圧が大きくなるVCO特性に切替える(VCO(k)からVCO(k−1)に切替える)こととする。なお制御電圧が下限電圧と上限電圧の間(許容範囲内)に収まっていれば、現状のVCO特性をそのまま維持することとする。
【0056】
以上に説明した一連の処理により、出力クロックを目標周波数としつつ、制御電圧を許容範囲内に収めることが可能となる。特に目標周波数の切替後、電圧制御発振部16のVCO特性は先ず初期状態のものに切り替えられるが、この初期状態にて制御電圧が許容範囲から逸脱していた場合であっても、その後に許容範囲内に収まるよう修正される。
【0057】
ここで上述したステップS22の処理における、ラッチ信号の生成過程について説明する。目標周波数が切替わった直後、つまり、可変分周器11の分周比が切替った直後は、制御電圧は直ちに一定の値に落ち着くのではなく、過渡現象が現れることが分かっている。図8は、この様子を示している。なお横軸は、目標周波数が切替わった時からの経過時間を、縦軸は制御電圧を、それぞれ表している。
【0058】
本図に示すように制御電圧は、切替後のしばらくは、過渡状態(ロックアップタイム)のために電圧値のブレが見られるが、一定時間後(図中の破線部)以降になるとブレは殆どなくなり、実用上は安定状態とみなすことができる。なおこの安定状態とみなせるか否かの判断基準は、過渡状態が所定の状態にまで収束しているか(例えば、制御電圧の振幅の変動が、所定の範囲内に収まっているか)により定めることが可能である。
【0059】
そこで上述したラッチ信号出力部18は、この安定状態に十分入っているものとして予め定められているタイミング(例えば図8中のA点)を示すように、ラッチ信号を発生させることとする。一例としては、一般的にPLL回路のロックアップタイムは300ms程度であるから、これにバラツキ等を考慮して2割程度の余裕を加え、切替後から360msが経過する時を、かかるタイミングとして採用する。
【0060】
以上により、このようなラッチ信号によって特定されるタイミングにて、制御電圧がサンプリングされることとなる。そのため、制御電圧が過渡状態のときにサンプリングされることがなく、目標周波数の切替後における制御電圧を精度良く検出することが可能となっている。その結果、電圧制御発振部16におけるVCO特性の切替も、極力正確に実行することが可能となっている。
【0061】
またVCO特性の切替の要否判断にあたっては、制御電圧をラッチさせるタイミングが予め定められており、このラッチされた制御電圧のみについて、許容範囲内に収まっているか否かを判別すれば良いものとなっている。そのため、例えば制御電圧の過渡状態が治まるタイミングをその都度判断するものに比べて処理負担が軽減され、より高速な処理が実現容易となっている。
【0062】
なお制御電圧をラッチさせるタイミングとして、複数のタイミングが設定されていても良い。例えば図8におけるA点以降、ラッチを行わせるタイミングとして、予め幾つかのタイミングを設定しておく。このようにすれば、制御電圧に対する比較判定の正確性を、更に向上させることが可能となる。
【0063】
またこのようにして制御電圧を複数回ラッチし、それぞれについて制御電圧が許容範囲内に収まっているか否かを判断するものとする場合、VCO切替器におけるコンパレータ(31a、31b)に、図9のグラフに示すようなヒステリシス特性を持たせるようにしても良い。かかるコンパレータによれば、入力電圧が図9のb点に達して出力電圧がHレベルとなった後、入力電圧がブレて僅かに小さいとなっても、図9のa点にまで下がらない限り出力電圧は変動しない。
【0064】
そのため、仮に少しの外乱によって、入力電圧が閾値付近(b点の近傍)でブレる状況となっても、出力電圧がHレベルとLレベルを繰り返し不安定となる不具合を回避することが可能となる。すなわち当該ヒステリシス特性によれば、VCO特性の切替えがなされた後に、更に制御電圧がサンプリングされて許容範囲と比較された場合、このサンプリングされた電圧が許容範囲から逸脱していても、その逸脱量が所定量以下に留まっている限り、VCO特性の切替えがなされないようになっている。
【0065】
また、以上までに説明したPLL回路1は、種々の電子部品や電子機器に応用可能である。ここでPLL回路1を用いて構成されたチューナ装置の一例について、その構成を図10に示す。当該チューナ装置は、ICチップ化されたもの(受信チューナIC)として構成されている。
【0066】
この受信チューナIC50は、PLL回路1の他、低雑音増幅器51、ミキサー52、ローパスフィルタ53、および可変増幅器54などを備えている。受信チューナIC50によれば、低雑音増幅器51から出力される受信信号と、PLL回路1から出力される出力クロック信号が、ミキサー52に入力される。そしてミキサー52から出力される信号は、ローパスフィルタ53を経た後に可変増幅器54に入力され、所定の増幅率で増幅されて外部に出力される。なおチューナの構成や処理内容自体は公知であるため、その詳細な説明は省略する。
【0067】
また受信チューナIC50を用いた受信チューナモジュールの一例について、その構成を図11に示す。この受信チューナモジュール60は、受信チューナIC50の他に、デジタル復調IC61を備えている。これにより、アナログ形式の受信信号は受信チューナIC50によって選局処理が施され、デジタル復調IC61に伝送される。そしてデジタル復調IC61においてデジタル信号に復調され、外部に出力されることとなる。
【0068】
また更に、受信チューナモジュール60を用いた電子機器として、例えば図12に示す構成の携帯端末(例えば、テレビ放送受信機能付きの携帯電話機)が挙げられる。この携帯端末70は受信チューナモジュール60の他に、アンテナ71や表示装置72を備えている。これにより携帯端末70では、アンテナ71により放送信号などが受信されるとともに、映像情報を含むデジタル信号が生成され、このデジタル信号に基づいた映像を表示させることが可能となっている。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの内容に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない限り、種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、チューナ装置を用いる通信分野などにおいて利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態に係るPLL回路の構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るVCO切替器の構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る電圧制御発振部の構成図である。
【図4】電圧制御発振部におけるVCO特性を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態に係る、別の電圧制御発振部の構成図である。
【図6】VCO特性の切替処理に関する流れ図である。
【図7】VCO特性の初期設定に関する説明図である。
【図8】過渡状態における制御電圧の状態に関する説明図である。
【図9】コンパレータにおけるヒステリシス特性に関する説明図である。
【図10】本発明の実施形態に係る受信チューナICの構成図である。
【図11】本発明の実施形態に係る受信チューナモジュールの構成図である。
【図12】本発明の実施形態に係る携帯端末の構成図である。
【符号の説明】
【0072】
1 PLL回路
11 可変分周器
12 基準信号発生装置
13 位相比較器
14 チャージポンプ
15 ループフィルタ
16 電圧制御発振部
17 制御部
18 ラッチ信号出力部
19 タイマー
20 VCO切替器
21 設定情報入力端子
22 クロック出力端子
31a、31b コンパレータ(電圧比較器)
32a、32b ラッチ回路
33 UP/DWカウンタ
41 スイッチ
42a〜42d VCO
44 コイル
45 可変容量コンデンサ
46 スイッチ
50 受信チューナIC
51 低雑音増幅器
52 ミキサー
53 ローパスフィルタ
54 可変増幅器
60 受信チューナモジュール
61 デジタル復調IC
70 携帯端末
71 アンテナ
72 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御電圧と発振周波数の関係を定めるVCO特性が、複数種類のうちから切替可能に設定され、制御電圧に応じた周波数のクロックを出力クロックとして発生させる電圧制御発振部と、
所定の基準クロックと前記出力クロックとの位相差に応じた誤差電圧を発生させ、前記電圧制御発振部に前記制御電圧として出力する位相比較器と、
前記制御電圧をサンプリングして所定の許容範囲と比較し、該比較結果に応じて前記切替を行う、VCO切替部と、を備え、
前記出力クロックを、現時点で目標周波数に設定されている周波数に調整して、外部に出力するPLL回路であって、
前記目標周波数を切替える目標周波数切替部を備えているとともに、
前記サンプリングのタイミングは、
前記目標周波数が切り替えられた時から、予め定められた時間である第1時間が経過したタイミングとされていることを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
前記複数のVCO特性は、
VCO(1)、VCO(2)、・・・、VCO(N)(N≧2とする)の各VCO特性からなり、
VCO(k)(1≦k≦Nとする)は、
前記許容範囲内で制御電圧が変動することによって、周波数がfs(k)からfe(k)までの範囲で連続的に変動する特性であるとともに、
fs(k)<fe(k)、fs(k)<fs(k+1)、fe(k)<fe(k+1)、およびfe(k)≧fs(k+1)の各条件を満たしており、
前記VCO切替部は、現状のVCO特性がVCO(k)である場合において、
前記サンプリングされた電圧が前記許容範囲の上限を超えているときは、VCO特性をVCO(k+1)に切替える一方、
前記サンプリングされた電圧が前記許容範囲の下限を下回っているときは、VCO特性をVCO(k−1)に切替えることを特徴とする請求項1に記載のPLL回路。
【請求項3】
前記第1時間は、
前記目標周波数が切り替えられてから、該切替えにより生じる前記制御電圧の過渡状態が所定状態に収束するまでの時間よりも、長い時間として予め定められていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のPLL回路。
【請求項4】
前記VCO切替部は、
前記目標周波数が切り替えられたときに、前記サンプリングを複数回行うことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のPLL回路。
【請求項5】
前記VCO切替部は、
前記複数回のサンプリングがなされる毎に、該サンプリングされた電圧と前記許容範囲とを比較し、該比較結果に応じて、前記VCO特性の切替えを行うものであるとともに、ヒステリシス特性を有しており、
該ヒステリシス特性は、
該VCO特性の切替えがなされた後に、更に該比較がなされた場合においては、
前記サンプリングされた電圧が前記許容範囲から逸脱していても、その逸脱量が所定量以下に留まっている限り、前記VCO特性の切替えを行わないようにするものであることを特徴とする請求項4に記載のPLL回路。
【請求項6】
前記VCO切替部は、
前記目標周波数が切り替えられたとき、
前記サンプリングの実行に先立ち、前記VCO特性を、該切替後の目標周波数に対応するものとして予め定められているものに切替えることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載のPLL回路。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れかに記載のPLL回路が用いられたことを特徴とする受信チューナIC。
【請求項8】
請求項7に記載の受信チューナICが用いられたことを特徴とする受信チューナモジュール。
【請求項9】
請求項8に記載の受信チューナモジュールが用いられたことを特徴とする携帯端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−271291(P2008−271291A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112759(P2007−112759)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】