説明

PTFE布帛物品とその生産方法

独自のPTFE布帛構造と、独自のPTFEラミネート構造と、その生産方法とを記載する。本発明は特に、重なった複数のPTFE繊維を交点に備えていて、交点の少なくとも一部に、重なったPTFE繊維の少なくとも1本から延びるPTFE塊があり、その塊が、重なったPTFE繊維を互いに固定している布帛が、少なくともPTFE塊によって膜に接合されたラミネートを含んでいる。強化されたこのような膜は、耐久性が重要な用途において特に貴重な属性である例外的に大きな接合強度を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独自の多孔性PTFEラミネート物品に関する。より詳細には、多孔性PTFEラミネートの新規な構造と、その構造を生産するための新規な方法とが述べられる。
【背景技術】
【0002】
延伸PTFE(“ePTFE”)の構造は、ゴア社に付与されたアメリカ合衆国特許第3,953,566号と第4,187,390号に教示されているように、フィブリルによって互いに接続された節を特徴とすることがよく知られている。これらの特許が、ePTFE材料に関する仕事の大半にとっての基礎となってきた。ePTFE構造の節とフィブリルの特性は、これらの特許に最初に記載されて以来、多くの方法で改変されてきた。例えば高強度繊維の場合のように非常によく伸びる材料は、極端に長いフィブリルと比較的小さな節をを持つものになる可能性がある。他の処理条件により、例えば厚みを貫通して延びる節を持つ物品を得ることができる。
【0003】
ePTFE構造を変化させるためのePTFE構造の表面処理は、さまざまな技術によっても実施されてきた。Okita(アメリカ合衆国特許第4,208,745号)は、ePTFEチューブ(特に血管プロテーゼ)の外面に対して内面よりも厳しい(すなわちより高温の)熱処理をすることで、チューブの外側よりも内側をより細かい構造にすることを教示している。当業者であれば、Okitaの方法は従来のアモルファス・ロッキング法に合致していて、唯一の違いは、ePTFE構造の外面により大きな熱エネルギーを選択的に当てることであるのがわかるであろう。
【0004】
Zukowski(アメリカ合衆国特許第5,462,781号)は、多孔性ePTFEの表面からフィブリルを除去するプラズマ処理を利用することで、表面にフィブリルによって互いに接続されていない自由な節を持つ構造を実現することを教示している。プラズマ処理の後にさらに処理することは、開示も考慮もされていない。
【0005】
Martakosら(アメリカ合衆国特許第6,573,311号)は、ポリマー樹脂を処理するさまざまな段階でポリマー物品をプラズマ・グロー放電処理すること(その中にプラズマ・エッチングが含まれる)を教示している。Martakosらは、従来の技術では仕上げられた材料、および/または生産された材料、および/または最終処理された材料を処理しているが、それでは“バルク基板の特性(例えば空孔度や透過率)を変化させるのに不十分である”と指摘して、従来の方法と差別化している。Martakosらは、可能な6つのポリマー樹脂処理ステップでプラズマ処理することを教示しているが、アモルファス・ロッキングとともにそのような処理を行なうこと、またはアモルファス・ロッキング後にそのような処理を行なうことは、記載も示唆もされていない。再度述べると、Martakosらは、バルクの特性(例えば仕上げられた物品の空孔度および/または化学的品質)に影響を与えることを目的としている。
【0006】
多孔性PTFEに新しい表面を作り出して多孔性PTFEのその表面を処理する他の方法が従来から多く存在している。Butters(アメリカ合衆国特許第5,296,292号)は、多孔性PTFEカバーを有するコアからなる釣り用フライラインにおいてそのカバーを改変することで摩耗耐性を向上させうることを教示している。フライラインの耐摩耗性は、摩耗耐性材料からなる被覆を付加することによって、または多孔性PTFEカバーを密にする改変を外側カバーに行なうことで向上する。
【0007】
Campbellら(アメリカ合衆国特許第5,747,128号)は、多孔性PTFE物品全体でバルク密度の大きい領域と小さい領域を作り出す手段を教示している。さらに、Kowligiら(アメリカ合衆国特許第5,466,509号)は、あるパターンをePTFEの表面に刻印することを教示しており、Seilerら(アメリカ合衆国特許第4,647,416号)は、生産中にPTFEチューブに刻み目を付けて外側リブを作ることを教示している。
【0008】
Lutzら(アメリカ合衆国特許出願公開2006/0047311 A1)は、下にある延伸PTFE構造から延びるPTFE地帯を含む独自のPTFE構造と、そのような構造の生産方法を教示している。
【0009】
これらの文献はどれも、独自の方法で安定にしたPTFE布帛構造またはPTFEラミネート構造を教示してしない。
【0010】
従来の多くの用途(濾過、衣服など)では、布帛を膜に結合させて膜を強化している。布帛は、そうしない場合には相対的に繊細な膜に操作性と構造安定性を与える。PTFE布帛は、化学的な不活性さ、極端な動作温度範囲などの独自の利点を提供するが、利点がこれだけに限られるわけではない。延伸PTFEを含む布帛は、非延伸PTFE布帛と比べて強度が大きいというさらなる利点を提供する。
【0011】
PTFEをベースとした布帛は、膜に結合させることが元々難しいため、結合は弱い傾向がある。PTFE布帛またはePTFE布帛を強化することの利点が要求される用途では、接着剤を用いた熱結合技術、または接着剤を用いない熱結合技術を一般に利用して、布帛を膜に結合させる。接着剤は、PTFEまたはePTFEと不活性さまたは動作温度範囲が同じでないため、得られるラミネートを使用中にその性能を低下させる傾向がある。それに加え、従来の接着剤(FEP、PFAなど)の結合強度は限られているため、流体濾過などの厳しい用途で生産物の性能が低下する可能性がある。接着剤は、接着中に膜の表面に流れて膜の性能を低下させる可能性もある。例えば濾過膜の場合には、過剰な接着剤が、膜のうちで影響を受けた部分を通過する流れを阻止することで、液体または気体の濾過効率が低下する可能性がある。
【0012】
接合する膜もPTFEまたはePTFEを含んでいる場合には、効果的な接合を実現することがはるかに難しくなる可能性がある。Griffinに付与されたヨーロッパ特許第1094887 B1号と、Sassaらに付与されたアメリカ合衆国特許第4,983,434号は、PTFEを含む布帛を接着剤を用いてePTFE膜に接合した濾過物品の例を教示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
PTFE布帛で強化した膜を含んでいて引き剥がし強度が増大したラミネートがかなり以前から必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、重なった複数のPTFE繊維を交点に備えていて、交点の少なくとも一部に、重なったPTFE繊維を物理的に固定するPTFE塊がある独自のPTFEラミネート構造に関する。“PTFE”という用語には、PTFEホモポリマーとPTFE含有ポリマーが含まれるものとする。“PTFE繊維”または“繊維”はPTFE含有繊維を意味し、その中には、充填された繊維、PTFE繊維と他の繊維の混合物、さまざまな複合構造、外面にPTFEを有する繊維などが含まれるが、例がこれだけに限られるわけではない。この明細書では、“構造”と“布帛”という用語は、同じ意味で、または合わせて使用することができ、編んだPTFE繊維、織ったPTFE繊維、織っていないPTFE繊維、PTFE繊維のレイド・スクリム、孔の開いたPTFEシートなどのいずれかを含むか、これらの組み合わせを含む構造体を意味する。“交点”という用語は、布帛内でPTFE繊維が交わるか重なったあらゆる位置(例えば織物構造の中で経繊維と緯繊維が重なった地点、ニットの中で繊維同士が接触している地点(例えば相互固定ループ)、同様のあらゆる繊維接触地点)を意味する。“塊”という用語は、1つの交点で重なった繊維を互いに物理的に固定している材料を記述するのに用いる。“物理的に固定する”または“物理的に固定された”は、繊維の少なくとも一部を取り囲んでいて、交点での繊維間の相対的な移動やスリップが最少であることを意味する。PTFE塊は、モノフィラメント繊維でも、マルチフィラメント繊維でも、これらの組み合わせでもよい。マルチフィラメント繊維は、捩じれた構造または捩じれていない構造で組み合わせることができる。さらに、いくつかの実施態様の繊維は、延伸PTHEを含むことができる。
【0015】
本発明のPTFE物品を形成する方法は、複数のPTFE繊維を、PTFE繊維が重なった交点を有する構造にするステップと;その構造をプラズマ処理するステップと;次いでプラズマ処理したその構造を熱処理するステップを含んでいる。得られる構造では、繊維が重なった交点の少なくとも一部がその交点にPTFE塊を備えていて、そのPTFE塊は、重なったPTFE繊維または交わったPTFE繊維のうちの少なくとも1つから延びている。
【0016】
繊維が交わっていない部分は、アメリカ合衆国特許出願公開2006/0047311 A1(その主題は参考としてその全体がこの明細書に具体的に組み込まれているものとする)に記載されているような外観を示す。より詳細には、交わっていない部分は、その下にある延伸PTFE構造に付着していてその延伸PTFE構造から延びるPTFE地帯となって現われる可能性がある。これらのPTFE地帯は、目視検査の際に、延伸PTFE構造よりも上方に持ち上がって見える。地帯の中にPTFEが存在することは、分光手段や他の適切な分析手段によって明らかにできる。“持ち上がって”は、例えば物品の断面の顕微鏡写真で断面を見るとき、地帯が、その下にある節-フィブリル構造の外面によって規定される基線から長さ“h”だけ上方に見えることを意味する。
【0017】
本発明の別の一実施態様では、1種類以上の充填材料をPTFE構造に組み込むこと、またはPTFE構造とともに組み込むことができる。例えば1種類以上の材料を、PTFE布帛および/または本発明の布帛の個々の繊維の表面に被覆すること、および/または中に染み込ませることが可能である。そのような構造の一実施態様では、電気分解の用途とそれ以外の電気化学(例えばクロール-アルカリ)の用途で用いるためにイオノマー材料を補強用のPTFE布帛とともに組み込むことができる。あるいは有機充填剤(例えばポリマー)と無機充填剤を本発明のPTFE布帛とともに組み込むことができる。あるいはPTFE布帛を多層構造の1つ以上の層として組み込むことができる。
【0018】
本発明の物品と方法の独自の特徴により、改良された生産物をさまざまな商業的用途で形成することが可能になる。例えば本発明のPTFE構造は、さまざまな物品領域(例えばクロール-アルカリ膜、音響膜、濾過媒体、医用物品(埋め込み可能な医用装置を含むが、それだけに限られない))や、これらの材料の独自の性質を利用できる他の領域で、改良された性能を示すことができる。膜、チューブ、シートや、他の幾何学的形状にされた本発明のPTFE物品も、仕上げられた生産物で独自の利点を提供することができる。
【0019】
本発明の物品は、布帛のほつれ耐性が望ましい場合にはいつでも特に有用である。そのような物品は、PTFEおよび/またはePTFEの特性が必要とされる場合により一層価値がある。
【0020】
本発明の別の一実施態様には、重なった複数のPTFE繊維を交点に備えていて、交点の少なくとも一部に、重なったPTFE繊維の少なくとも1本から延びていてPTFE繊維を互いに固定するPTFE塊がある布帛が、少なくともそのPTFE塊によってさらに膜に接合されたラミネートが含まれる。強化されたこのような膜は、例外的に大きな接合強度を示す。接合強度は、耐久性が重要な用途において特に有用な特性である。従来のPTFE布帛/PTFE膜のラミネートではこれまで実現できなかった強度と寸法安定性を持つ、PTFE布帛で強化した独自のPTFE膜を生産することができる。
【0021】
本発明のこれらの独自の実施態様と特徴、ならびに他の独自の実施態様と特徴を、この明細書でこれからより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本発明の機能は、添付の図面と合わせて考慮したとき、以下の説明から明らかになるはずである。
【0023】
【図1】実施例1aで作った物品の表面を100倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(SEM)である。
【図2】実施例1aで作った物品の表面を250倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(SEM)である。
【図3】実施例1aで作った物品の断面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図4】実施例1aで作った物品の断面を500倍の倍率で見たSEMである。
【図5】実施例1bで作った物品の表面を100倍の倍率で見たSEMである。
【図6】実施例1bで作った物品の断面を500倍の倍率で見たSEMである。
【図7】比較例Aで作った物品の表面を100倍の倍率で見たSEMである。
【図8】比較例Aで作った物品の表面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図9】比較例Aで作った物品の断面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図10】比較例Aで作った物品の断面を500倍の倍率で見たSEMである。
【図11】実施例2で作った物品の表面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図12】実施例2で作った物品の断面を500倍の倍率で見たSEMである。
【図13】実施例3で作った物品の表面を100倍の倍率で見たSEMである。
【図14】実施例3で作った物品の断面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図15】比較例Bで作った物品の表面を100倍の倍率で見たSEMである。
【図16】比較例Bで作った物品の断面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図17】実施例4で作った物品の表面を100倍の倍率で見たSEMである。
【図18】実施例4で作った物品の断面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図19】比較例Cで作った物品の表面を100倍の倍率で見たSEMである。
【図20】比較例Cで作った物品の断面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図21】実施例5で作った物品の表面を500倍の倍率で見たSEMである。
【図22】実施例5で作った物品の断面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図23】比較例Dで作った物品の表面を500倍の倍率で見たSEMである。
【図24】比較例Dで作った物品の断面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図25】実施例6で作った物品の表面を500倍の倍率で見たSEMである。
【図26】比較例Eで作った物品の表面を500倍の倍率で見たSEMである。
【図27】実施例8で作った物品の表面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図28】実施例1aで作った物品に対して繊維取り出し試験を通じてほつれ耐性を調べた後の表面を25倍の倍率で見たSEMである。
【図29】実施例1aで作った物品に対して繊維取り出し試験を通じてほつれ耐性を調べた後の表面を100倍の倍率で見たSEMである。
【図30】実施例1aで作った物品に対して繊維取り出し試験を通じてほつれ耐性を調べた後の表面を100倍の倍率で見たSEMである。
【図31】実施例1aで作った物品に対して繊維取り出し試験を通じてほつれ耐性を調べた後の表面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図32】実施例1bで作った物品に対して繊維取り出し試験を通じてほつれ耐性を調べた後の表面を25倍の倍率で見たSEMである。
【図33】実施例1bで作った物品に対して繊維取り出し試験を通じてほつれ耐性を調べた後の表面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図34】比較例Aで作った物品に対して繊維取り出し試験を実施した後の表面を25倍の倍率で見たSEMである。
【図35】比較例Aで作った物品に対して繊維取り出し試験を実施した後の表面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図36】実施例3で作った物品に対して繊維取り出し試験を実施した後の表面を25倍の倍率で見たSEMである。
【図37】実施例3で作った物品に対して繊維取り出し試験を実施した後の表面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図38】実施例9で作った成形物品の写真である。
【図39】実施例10の物品の断面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図40】実施例11の物品の断面を250倍の倍率で見たSEMである。
【図41】サンプルの向きの概略図であり、これについては、この明細書の引き剥がし試験により詳しく記載してある。
【図42】実施例12aで作った物品で引き剥がし試験を実施した後の表面を50倍の倍率で見たSEMである。
【図43】実施例12bで作った物品で引き剥がし試験を実施した後の表面を50倍の倍率で見たSEMである。
【図44】比較例Fで作った物品で引き剥がし試験を実施した後の表面を50倍の倍率で見たSEMである。
【図45】実施例13aで作った物品で引き剥がし試験を実施した後の表面を50倍の倍率で見たSEMである。
【図46】実施例13bで作った物品で引き剥がし試験を実施した後の表面を50倍の倍率で見たSEMである。
【図47】比較例Gで作った物品で引き剥がし試験を実施した後の表面を50倍の倍率で見たSEMである。
【図48】実施例14で作った物品で引き剥がし試験を実施した後の表面を25倍の倍率で見たSEMである。
【図49】比較例Hで作った物品で引き剥がし試験を実施した後の表面を25倍の倍率で見たSEMである。
【図50】実施例15で作った物品で引き剥がし試験を実施した後の表面を25倍の倍率で見たSEMである。
【図51】比較例Iで作った物品で引き剥がし試験を実施した後の表面を25倍の倍率で見たSEMである。
【図52】実施例16で作った物品で引き剥がし試験を実施した後の表面を50倍の倍率で見たSEMである。
【図53】比較例Jで作った物品で引き剥がし試験を実施した後の表面を25倍の倍率で見たSEMである。
【図54】実施例17で作った物品で引き剥がし試験を実施した後の表面を25倍の倍率で見たSEMである。
【図55】比較例Kで作った物品で引き剥がし試験を実施した後の表面を25倍の倍率で見たSEMである。
【図56】各実施例の処理ステップをまとめた表である。
【図57】この明細書に記載したようにして、織ったePTFE繊維からなるメッシュをプラズマ処理したものを加熱処理しているときに記録した光学顕微鏡ビデオから取った約250倍の倍率の経時的な写真である。
【図58】この明細書に記載したようにして、織ったePTFE繊維からなるメッシュをプラズマ処理したものを加熱処理しているときに記録した光学顕微鏡ビデオから取った約250倍の倍率の経時的な写真である。
【図59】この明細書に記載したようにして、織ったePTFE繊維からなるメッシュをプラズマ処理したものを加熱処理しているときに記録した光学顕微鏡ビデオから取った約250倍の倍率の経時的な写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のPTFE布帛物品は、重なった複数のPTFE繊維を交点に備えていて、交点の少なくとも一部に、交わっているPTFE繊維の少なくとも1本から延びるPTFE塊があり、そのPTFE塊が、その交点で交わるか重複している繊維を物理的に固定している。この明細書では、PTFE繊維という用語に、少なくとも一部がPTFEからなるあらゆる繊維が含まれるものとする。ただしそのPTFEは、この明細書に記載したようにして処理することができる。これらの塊が、PTFE布帛でこれまで実現できなかった向上した物理的安定性を持っていて、ほつれ、変形などに抵抗するPTFE布帛を提供する。本発明の実施態様は、広い範囲の型と形状の物品で構成されてよい。例えば本発明の別の実施態様は、モノフィラメントまたはマルチフィラメントの形態の中に捩じれた繊維、丸い繊維、平坦な繊維、引っ張られた繊維などの幾何学的形状になった繊維を組み込んだ構成にすることができる。それに加え、本発明の布帛は、シート、チューブ、細長い物品の形態や、他の三次元形の実施態様にすることができる。さらに、1種類以上の充填材料をPTFE構造の中に組み込むこと、またはPTFE構造とともに組み込むことができる。あるいはPTFE布帛は、多層構造の1つ以上の層として組み込むことができる。
【0025】
第1の実施態様では、本発明に独自の方法は、最初にPTFE繊維に対して高エネルギー表面処理(例えばプラズマ処理)をする操作を含んでいる。次に、プラズマ処理したPTFE繊維を、繊維が重なるようにして布帛の中に組み込み、織った構造、編んだ構造、織っていない構造、レイド・スクリム構造のいずれか、またはこれらのいくつかの組み合わせにする。プラズマ処理した繊維は、最終物品に望まれる特性に応じて布帛内で配向していることが好ましかろう。例えば織布では、プラズマ処理した繊維を、経方向と緯方向の一方にだけ配向させること、またはその両方の方向に配向させることができる。別のタイプの繊維も布帛の中に組み込むことができる。得られる布帛をその後加熱すると、その下にあって繊維の交点で交わっている繊維の1本以上から延びるPTFE塊を有する独自のPTFE構造が実現される。それに加え、交わっていない部分は、その下にある延伸PTFE構造に付着していてその延伸PTFE構造から延びるPTFE地帯となることができる。
【0026】
第2の別の実施態様では、本発明に独自の方法は、最初に、重なったPTFE繊維を交点に有するPTFE前駆布帛を、織った構造体、編んだ構造体、織っていない構造体、レイド・スクリム構造体のうちの1つ以上の形態、またはこれらのいくつかの組み合わせの形態に形成し;そのPTFE前駆布帛または前駆PTFE構造に対して高エネルギー表面処理を実施し;次いで加熱ステップを実施して、その下にあって繊維の交点で交わっている繊維の1本以上から延びるPTFE塊を有する独自のPTFE構造を実現する操作を含むことができる。それに加え、交わっていない部分は、その下にある延伸PTFE構造に付着していてその延伸PTFE構造から延びるPTFE地帯となることができる。
【0027】
単に便宜上の理由で、“プラズマ処理”という用語は、あらゆる高エネルギー表面処理(グロー放電プラズマ、コロナ、イオン・ビームなどがあるが、これだけに限られるわけではない)を意味するのに用いる。処理の回数、温度や、他の処理条件を変えて、PTFE塊とPTFE地帯のさまざまなサイズと外観を実現することができることを認識されたい。例えば一実施態様では、PTFE布帛をアルゴン・ガスまたは他の適切な環境の中でプラズマ・エッチングした後、熱処理ステップを実施することができる。PTFE構造の熱処理だけでも、あとに続く熱処理なしのプラズマ処理だけでも、本発明の物品にはならない。
【0028】
図57〜図59は、この明細書の実施例1aに記載したようにして、織ったePTFE繊維からなるメッシュをプラズマ処理した後に熱処理している間にビデオから取った写真である。光学顕微鏡(Optiphot BF/DF、ニコン社、メルヴィル、ニューヨーク州)を約200倍の倍率で使用した。織り繊維からなるメッシュを加熱台(Linkam THMS600;リンカム・サイエンティフィック・インスツルメント社、タッドワース、サリー州、イギリス国)を用いて支持し、約360℃に加熱した。繊維の最初の直径は約75ミクロンであった。これらの図面は、順番に、PTFE地帯201が形成され、そのPTFE地帯201が2本の繊維205と207の交点203に向かって移動し、その交点203に塊209を形成してその交点203で2本の繊維205と207を互いに固定する様子を示している。図57は、プラズマ処理した織布を加熱する前の2本の繊維205と207の交点203を示している。図58は加熱の中間段階を示しており、地帯201が形成されて交点203に向かって移動して塊を形成している。図59は、交点203に形成された完全な塊209を示している。例えば図59に関して示したように、交点に塊が存在することは、視覚的手段で確認できる。手段として、光学顕微鏡、走査電子顕微鏡や、他の適切な任意の手段があるが、これだけに限られるわけではない。塊の中にPTFEが存在することは、分光手段または他の適切な分析手段によって明らかにすることができる。この明細書では、物理的安定性という用語は、ある物体が元の位置からの変形に抵抗する能力、または変形力を加えられたときに元の位置に戻る能力を意味するものとする。物理的安定性は、PTFE繊維を交点で互いに固定することによって出現する。この向上した物理的安定性により、本発明の物品をほつれにくくするとともに、外部力を加えたときにPTFE繊維が実質的に再配向されにくくすることが可能になる。物理的安定性は、最適な性能として、物品の繊維再配置のサイズと形状が重要である生産物において極めて重要な特徴である。そのような生産物として、この物品が物理的に安定な基板を提供するクロール-アルカリ膜などがある。精密な織物物品とそれ以外の精密な布帛物品も、本発明の物品による物理的安定性を必要とする。
【0029】
繊維取り出し試験を利用してこれらの独自の材料のほつれ耐性が増大していることを証明できる。これらの独自の材料の他の強化された物理的性能として、向上した寸法安定性、折り曲げ特性、引き裂き特性、ボール破裂特性、摩耗特性などがある。例えば従来のPTFE布帛は、本発明による物品の形成に用いる前駆物品も含め、ほつれやすい。この問題は、PTFE繊維の潤滑性が原因で悪化する。それは、布帛をハサミで切断するだけで証明できる。あるいはこの現象は、例えば従来のPTFE布帛の自由端の近くで布帛の繊維の間にピンを挿入することによって証明できる。この明細書の中で、後で説明するように、繊維取り出し試験で引っ張り力を加えたとき、完全な状態の繊維をずらして取り出すのにわずかな力しか必要でない。
【0030】
ハサミで切断するときに本発明の物品で同じことをすると、本発明の構造は、ほつれる繊維がほとんどない。繊維ほつれ試験を本発明の材料で実施するときには、繊維を切ったり、交点においてPTFE塊によって提供される結合を切ったりするのにはるかに大きい力が必要とされる。本発明による物品のほつれ耐性は、切れた繊維が観察されるという結果、および/または交点に塊の残部が付着したままの繊維の取り出しが観察されるという結果に基づいて判断することができる。
【0031】
すでに指摘したように、多彩な形状と形態の構造(シート、チューブ、細長い物品、他の三次元構造など)を本発明の方法にしたがって形成し、より大きな物理的安定性を提供することができる。一実施態様では、出発点となるPTFE布帛構造を望む最終的な三次元形状にした後、プラズマ処理ステップとその後の加熱処理ステップに進むことができる。別の一実施態様では、出発点となるPTFE布帛構造をこのようにして処理した後、必要に応じてさらに処理し、上に説明したような形状と形態を作り出すことができる。
【0032】
PTFE繊維で交点の一部となっていない部分は、フィブリルが互いに接続された節を特徴とする微細構造を持つことと、PTFE繊維から延びるPTFEを含む持ち上がった地帯を持つことができる。本発明の物品の交点にある塊は、一般にその塊が重なった繊維の間を延びているという特徴的な表面の外観を示す。しかし最も驚く結果は、加熱処理だけがなされる従来の物品と比べたとき、プラズマ処理の後に加熱処理をすることによって生じる本発明の物品の物理的安定性の劇的な向上である。
【0033】
本発明を実施するのに多彩なPTFE材料を使用できるが、ePTFE繊維を用いる実施態様では、ePTFE繊維は、延伸PTFEに帰することのできる向上した特性(例えば向上した引っ張り強さや、生産物の望む最終用途に合わせることのできる空孔のサイズと空孔度)を最終物品に与える。さらに、本発明を実施する際には、充填されたPTFE繊維を組み込んで使用することができる。
【0034】
本発明の別の一実施態様では、例外的な引き剥がし強度と寸法安定性を持つ強化された膜を実現できる。接合前または接合中にプラズマ処理と熱処理を組み合わせることで、接着剤を使用せずにPTFE膜に接合されたePTFEまたはePTFE/ペルフルオロアルキル(PFA)混合繊維を含む布帛のラミネートを形成することができる。これらの独自のラミネートは、これまでに実現できなかった引き剥がし強度を有するため、従来の材料に固有の問題(例えば膜からの布帛の剥離や他の損傷形態に起因する致命的な損傷)が軽減される。それに加え、追加の接着剤を使用しないため、強化された膜は完全にPTFEだけからなり、得られる強化された膜の性能は、上に説明したように、従来の材料と比べて低下していない。
【0035】
ラミネートの布帛は、編んだ繊維、織り繊維、フェルト状にされた繊維、孔の開いたシートなどから形成することができ、望む最終構造がどのようなものであるかに応じ、多彩なePTFE繊維、延伸PTFE/PFA混合繊維、延伸PTFE/PFA混合シートを含むことができる。繊維の場合には、前駆繊維は、空孔度が大きいもの(すなわち密度が0.7g/cc以下と小さいもの)から実質的に空孔がないものまでが可能である。強化された膜は、平坦なシートまたは(例えば丸いマンドレルの表面で布帛と膜を互いに接合することによって生産できる)湾曲したシートの形状や、多彩な他の三次元形状にすることができる。
【0036】
あるいは接合は、布帛をプラズマ処理し、次いで熱処理した後、布帛と膜を互いに熱圧縮する操作を含む方法や、布帛をプラズマ処理した後、布帛と膜を互いに熱圧縮する方法などによって実現できるが、方法がこれだけに限られることはない。いろいろなプラズマ処理ステップとその後の加熱処理ステップを組み合わせて望む効果を実現することができる。その好ましい条件により、布帛が、重なった複数のPTFE繊維を交点に備えていて、交点の少なくとも一部に、交わっているPTFE繊維の少なくとも1本から延びるPTFE塊があり、そのPTFE塊が、交点で交わるか重なった繊維を互いに固定しているラミネートが作り出される。好ましい熱圧縮条件は、布帛と膜が、ラミネートの望ましい性能(例えば濾過など)を損なうことなく層同士の強い接合を作り出すのに十分な高温、十分な高圧に十分に長い時間にわたって曝露される条件である。温度は327℃〜400℃の範囲であることが好ましく、350℃〜380℃の範囲であることがより好ましい。
【0037】
好ましいプラズマ処理条件、熱処理条件、熱圧縮条件の選択は、得られるラミネート構造に望まれる特性によって異なる可能性がある。
【0038】
以下に提示する例示としての実施例によって本発明をさらに説明する。
【0039】
試験法
繊維取り出し試験を通じたほつれ耐性のテスト
先端が尖ったピンセットを用い、布帛サンプルの縁部から、布帛に対して約45°の角度で1本以上の繊維を引っ張り出した。繊維が布帛の一部から離れるまで引っ張ったため、縁部がほつれた。分離した繊維を両面接着テープの一方の側に接着させた。他方の側はすでにスタブに接着してある。ほつれた縁部も接着テープに接着した。次にこのサンプルを走査電子顕微鏡で調べた。重なった繊維の物理的固定は、走査電子顕微鏡写真の評価、または他の適切な拡大試験手段に基づいて判断することができる。切れた繊維が観察される場合、および/または交点に塊の残部が付着した繊維の取り出しが観察される場合に、肯定的な結果が実現されている。残部の存在は、布帛の中で繊維の交点にある塊によって物理的に固定されていること、すなわちほつれにくいことを示している。残部がないというのは、布帛の中で繊維の交点に物理的に固定されていないことを示しているため、ほつれやすい。
【0040】
引き剥がし試験
【0041】
引き剥がし試験装置(IMASS SP-2000、アイマス社、アコード、マサチューセッツ州)を用いて引き剥がし試験を実施した。
【0042】
試験中にサンプルができるだけくびれないようにするため、マスク用テープ(Highland 2307テープ、3M社、ミネアポリス、ミネソタ州)からなる幅6.4cmのストリップを、強化されたそれぞれの膜の織られた側に、織布の経方向に向けて付着させた。幅3.8cmの引き剥がし試験サンプルを、強化されたそれぞれの膜の経方向に沿って切断した。
【0043】
サンプルをT字形引き剥がし固定具の中に配置した。サンプルで試験する長さは5.7cmであり、試験は30.5cm/分で実施した。各ラミネートについて3回測定した。測定値を平均し、引き剥がし強度として記録した。
【0044】
各引き剥がし試験サンプルについて走査電子顕微鏡写真を撮影した。図41は、引き剥がし試験中のサンプルの向きを示している。この図の矢印は、SEMに写る向き、すなわち引き剥がされたサンプルの表面(引き剥がし界面を含む)を示している。このようにして、膜101と布帛103両方の接合された側を同じ画像の中に捕えた。
【実施例】
【0045】
実施例1a
公称値90デニール(“d”)の丸いePTFE繊維を入手し(物品番号V112403;W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、デラウェア州)、この繊維を織って経糸31.5本/cm、緯糸23.6本/cmという特性を持つ構造にした。
【0046】
この織物物品を、アルゴン・ガスを用いて大気圧プラズマ処理装置(モデル番号ML0061-01、エナーコン・インダストリーズ社、メノノミー・フォールズ、ウィスコンシン州)でプラズマ処理した。処理パラメータは、アルゴンの流速50リットル/分、2.5kWの電源、ラインの速度3m/分、電極の長さ7.6cm、通過回数10回であった。プラズマ処理したこの織物物品をピン・フレームに拘束し、350℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に30分間入れた。
【0047】
物品を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた後、走査電子顕微鏡で調べた。この物品の表面の走査電子顕微鏡写真(“SEM”)を図1と図2にそれぞれ倍率100倍と250倍で示してある。これらの走査電子顕微鏡写真と他のすべての走査電子顕微鏡写真では、写真の右下に示した長さは、長さの数値のすぐ上にある縮尺を示す棒の最初の点と最後の点の間の距離に対応している。この物品の断面の走査電子顕微鏡写真を図3と図4にそれぞれ倍率250倍と500倍で示してある。図1からわかるように、PTFE塊31が、交わったPTFE繊維32と33の少なくとも一方から延びている。PTFE地帯34が繊維の表面に存在している。
【0048】
この構造のほつれ耐性は、上に説明した繊維取り出し試験を通じて明らかにした。その結果を図28〜図31に示してある。特に図28と図29は、この実施例の布帛から繊維を取り出した後の布帛のSEMをそれぞれ25倍と100倍の倍率で示している。図30と図31は、この実施例の布帛から繊維を取り出した後の布帛の繊維をそれぞれ100倍と250倍の倍率で示している。繊維93から延びる毛髪様材料91は、図32に示してあるように、以前は繊維の交点に位置する塊の一部であった。
【0049】
これらのSEMは、織物物品から繊維を取り出すと交点にあるPTFE塊の一部が繊維に付着したまま残ることを示している。すなわち取り出された繊維には、交点の塊が破壊されることに起因する毛髪様材料が存在している。したがって、ほつれ耐性が証明された。
【0050】
実施例1b
公称値90dの丸いePTFE繊維を入手し(物品番号V112403;W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、デラウェア州)、この繊維で経糸31.5本/cm、緯糸23.6本/cmという特性を持つ織物構造を形成した。
【0051】
この織物物品を、アルゴン・ガスを用いて大気圧プラズマ処理装置(モデル番号ML0061-01、エナーコン・インダストリーズ社、メノノミー・フォールズ、ウィスコンシン州)でプラズマ処理した。処理パラメータは、アルゴンの流速50リットル/分、2.5kWの電源、ラインの速度3m/分、電極の長さ7.6cm、通過回数10回であった。
【0052】
プラズマ処理したこの織物物品をピン・フレームに拘束し、350℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に15分間入れた。物品を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。その後、この物品を走査電子顕微鏡で調べるとともに、上に説明した試験法に従ってほつれ(繊維取り出し)耐性を試験した。
【0053】
この物品の表面と断面の走査電子顕微鏡写真を図5と図6にそれぞれ倍率100倍と500倍で示してある。
【0054】
図5からわかるように、PTFE塊31が、交わったPTFE繊維32と33の少なくとも一方から延びていた。PTFE地帯34が繊維の表面に存在している。
【0055】
ほつれ耐性を調べる繊維取り出し試験の結果は以下のようであった。図32は、この実施例の布帛から繊維を取り出した後の布帛を25倍の倍率で見たSEMを示している。図33は、この実施例の布帛から繊維を取り出した後の布帛の繊維を250倍の倍率で見たSEMを示している。繊維から延びる毛髪様材料は、以前は繊維の交点に位置する塊の一部であった。
【0056】
これらのSEMは、織物物品から繊維を取り出すと交点に存在していたPTFE塊の一部が繊維に付着したまま残ることを示している。すなわち取り出された繊維には、交点で塊が破壊されることに起因する毛髪様材料が存在している。したがってほつれ耐性が証明された。
【0057】
比較例A
公称値90dの丸いePTFE繊維を入手し(物品番号V112403;W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、デラウェア州)、この繊維で経糸31.5本/cm、緯糸23.6本/cmという特性を持つ織物物品を形成した。
【0058】
この織物物品をピン・フレームに拘束し、350℃に設定した強制空気炉の中に30分間入れた。この物品を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。この物品を走査電子顕微鏡で調べ、上に記載した試験法に従ってほつれ(繊維取り出し)をテストした。
【0059】
この物品の表面の走査電子顕微鏡写真を図7と図8にそれぞれ倍率100倍と250倍で示してある。この物品の断面の走査電子顕微鏡写真を図9と図10にそれぞれ倍率250倍と500倍で示してある。これらのSEMから、交わったPTFE繊維からPTFE塊が延びておらず、PTFE地帯が繊維の表面に存在していなかったことが観察される。
【0060】
繊維取り出し試験の結果は以下のようであった。図34は、この比較用サンプルの布帛から繊維が容易にほぐれた後の状態を25倍の倍率で見たSEMを示している。図35は、この比較用サンプルの布帛からほぐした繊維を250倍の倍率で見たSEMを示している。これらのSEMは、織られた物品から繊維を取り出したとき、繊維は、繊維の交点から生じるPTFE塊を持っていなかったことを示している。すなわち取り出された繊維には毛髪様材料が存在しない。したがってこの布帛は、ほつれ耐性を欠いていることが明らかにされ、容易にほつれた。
【0061】
実施例2
公称値90dの丸いePTFE繊維を入手し(物品番号V112403;W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、デラウェア州)、この繊維で経糸49.2本/cm、緯糸49.2本/cmという特性を持つ織物物品を作った。
【0062】
この織物物品を、アルゴン・ガスを用いて大気圧プラズマ処理装置(モデル番号ML0061-01、エナーコン・インダストリーズ社、メノノミー・フォールズ、ウィスコンシン州)でプラズマ処理した。処理パラメータは、アルゴンの流速50リットル/分、2.5kWの電源、ラインの速度3m/分、電極の長さ7.6cm、通過回数5回であった。
【0063】
プラズマ処理したこの織物物品をピン・フレームに拘束し、350℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に15分間入れた。物品を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。
【0064】
この物品を走査電子顕微鏡で調べるとともに、上に説明した繊維取り出し試験を利用してほつれ耐性を試験した。この物品の表面と断面の走査電子顕微鏡写真を図11と図12にそれぞれ倍率250倍と500倍で示してある。交わったPTFE繊維の少なくとも一方からPTFE塊が延びていることが観察された。PTFE地帯も繊維の表面に観察された。
【0065】
この材料のほつれ耐性を繊維取り出し試験でテストした。得られた繊維のSEM(示さず)の目視検査から、交点に存在していたPTFE塊の一部が繊維に付着したまま残っていることが観察された。すなわち取り出された繊維には、交点で塊が破壊されることに起因する毛髪様材料が存在している。したがって、ほつれ耐性が証明された。
【0066】
実施例3
公称値160d、3.8g/d、直径0.1mmの丸いePTFE繊維を入手し、この繊維を用いて六角形のePTFEニット・メッシュを形成した。このニット布帛は、面密度68g/m2、緯糸17本/cm、経糸11本/cmという特性を持っていた。
【0067】
このニット・メッシュを、アルゴン・ガスを用いて大気圧プラズマ処理装置(モデル番号ML0061-01、エナーコン・インダストリーズ社、メノノミー・フォールズ、ウィスコンシン州)でプラズマ処理した。処理パラメータは、アルゴンの流速50リットル/分、2.5kWの電源、ラインの速度3m/分、電極の長さ7.6cm、通過回数5回であった。
【0068】
プラズマ処理したこの編物物品をピン・フレームに拘束し、350℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に30分間入れた。物品を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。
【0069】
この物品を走査電子顕微鏡で調べた。この物品の表面と断面の走査電子顕微鏡写真を図13と図14にそれぞれ倍率100倍と250倍で示してある。PTFE塊51が、交わったPTFE繊維52と53の少なくとも一方から延びていた。PTFE地帯54が繊維の表面に存在していた。
【0070】
この材料のほつれ耐性を上に説明した繊維取り出し試験法に従ってテストした。結果が以下のように得られた。特に図36は、この実施例の布帛から繊維をほぐした後の状態を25倍の倍率で見たSEMを示している。図37は、繊維取り出し試験を通じてこの実施例の布帛のほつれ耐性を調べた後の布帛の繊維を250倍の倍率で見たSEMを示している。繊維から延びる毛髪様材料は、以前は繊維の交点に位置する塊の一部であった。これらのSEMは、ニット物品から繊維を取り出すと交点からのPTFE塊の一部が繊維に付着したまま残ることを示している。したがって、ほつれ耐性が証明された。
【0071】
比較例B
公称値160d、3.8g/d、直径0.1mmの丸いePTFE繊維を入手し、この繊維を用いて六角形のePTFEニット・メッシュを形成した。このニット布帛は、面密度68g/m2、緯糸17本/cm、経糸11本/cmという特性を持っていた。
【0072】
このニット物品をピン・フレームに拘束し、350℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に30分間入れた。物品を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。
【0073】
この物品の表面と断面の走査電子顕微鏡写真をそれぞれ100倍と250倍で図15と図16に示してある。交わったPTFE繊維からPTFE塊は延びていなかった。また、繊維の表面にPTFE地帯は存在していなかった。
【0074】
実施例4
公称値400dの捩じれたePTFEの平坦な繊維を入手し(物品番号V111828;W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、デラウェア州)、1cmにつき3.9〜4.7回の捩じれがあるようにした。この繊維で経糸13.8本/cm、緯糸11.8本/cmという特性を持つ織物物品を作った。
【0075】
この織物物品を、アルゴン・ガスを用いて大気圧プラズマ処理装置(モデル番号ML0061-01、エナーコン・インダストリーズ社、メノノミー・フォールズ、ウィスコンシン州)でプラズマ処理した。処理パラメータは、アルゴンの流速50リットル/分、2.5kWの電源、ラインの速度3m/分、電極の長さ7.6cm、通過回数5回であった。
【0076】
この織物物品をピン・フレームに拘束し、350℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に45分間入れた。物品を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。
【0077】
この物品を走査電子顕微鏡で調べた。この物品の表面と断面の走査電子顕微鏡写真を図17と図18にそれぞれ倍率100倍と250倍で示してある。PTFE塊31が、交わったPTFE繊維32と33の少なくとも一方から延びていた。PTFE地帯34が繊維の表面に存在していた。
【0078】
比較例C
公称値400dの捩じれたePTFEの平坦な繊維を入手し(物品番号V111828;W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、デラウェア州)、1cmにつき3.9〜4.7回の捩じれがあるようにした。この繊維で経糸13.8本/cm、緯糸11.8本/cmという特性を持つ織物物品を作った。
【0079】
この織物物品をピン・フレームに拘束し、350℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に45分間入れた。物品を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。
【0080】
この物品を走査電子顕微鏡で調べた。この物品の表面と断面の走査電子顕微鏡写真を図19と図20にそれぞれ倍率100倍と250倍で示してある。PTFE繊維の交点にPTFE塊が存在していないことが観察された。また、繊維の表面にPTFE地帯は存在していなかった。
【0081】
実施例5
以下の特性を有するきつく織られた織布を入手した:453dの紡糸マトリックスPTFE繊維(東レ・フルオロファイバーズ[アメリカ]社、ディケーター、アラバマ州)、経糸31.3本/cm、緯糸26.7本/cm。
【0082】
この織布を、アルゴン・ガスを用いて大気圧プラズマ処理装置(モデル番号ML0061-01、エナーコン・インダストリーズ社、メノノミー・フォールズ、ウィスコンシン州)でプラズマ処理した。処理パラメータは、アルゴンの流速50リットル/分、2.5kWの電源、ラインの速度3m/分、電極の長さ7.6cm、通過回数10回であった。
【0083】
プラズマ処理したこの織物物品をピン・フレームに拘束し、350℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に15分間入れた。物品を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。
【0084】
この物品を走査電子顕微鏡で調べた。この物品の表面と断面の走査電子顕微鏡写真を図21と図22にそれぞれ倍率500倍と250倍で示してある。PTFE塊61がPTFE繊維62と63の交点の少なくとも一方から延びていることが観察された。PTFE地帯64が繊維の表面に存在していた。
【0085】
比較例D
以下の特性を有するきつく織られた織布を入手した:453dの紡糸マトリックスPTFE繊維(東レ・フルオロファイバーズ[アメリカ]社、ディケーター、アラバマ州)、経糸31.3本/cm、緯糸26.7本/cm。
【0086】
この織布をピン・フレームに拘束し、350℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に15分間入れた。物品を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。
【0087】
この物品を走査電子顕微鏡で調べた。この物品の表面と断面の走査電子顕微鏡写真を図23と図24にそれぞれ倍率500倍と250倍で示してある。PTFE繊維の交点からPTFE塊が延びていないことと、繊維の表面にPTFE地帯が存在していないことが観察された。
【0088】
実施例6
公称値400dのマルチフィラメントePTFE繊維を入手し(物品番号5816527;W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、デラウェア州)、この繊維で経糸11.8本/cm、緯糸11.9本/cmという特性を持つ織物物品を作った。
【0089】
この織物物品を、アルゴン・ガスを用いて大気圧プラズマ処理装置(モデル番号ML0061-01、エナーコン・インダストリーズ社、メノノミー・フォールズ、ウィスコンシン州)でプラズマ処理した。処理パラメータは、アルゴンの流速50リットル/分、2.5kWの電源、ラインの速度3m/分、電極の長さ7.6cm、通過回数5回であった。
【0090】
プラズマ処理したこの織物物品をピン・フレームに拘束し、350℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に40分間入れた。物品を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。
【0091】
この物品を走査電子顕微鏡で調べた。この物品の表面の走査電子顕微鏡写真を図25に倍率500倍で示してある。PTFE塊31がPTFE繊維32と33の交点の少なくとも一方から延びていることが観察され、PTFE地帯34が繊維の表面に存在することが観察された。
【0092】
比較例E
公称値400dのマルチフィラメントePTFE繊維を入手し(物品番号5816527;W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、デラウェア州)、この繊維で経糸11.8本/cm、緯糸11.9本/cmという特性を持つ織物物品を形成した。
【0093】
この織物物品をピン・フレームに拘束し、350℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に40分間入れた。物品を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。
【0094】
この物品を走査電子顕微鏡で調べた。この物品の表面の走査電子顕微鏡写真を図26に倍率500倍で示してある。PTFE繊維の交点にPTFE塊は観察されず、繊維の表面にPTFE地帯は存在していなかった。
【0095】
実施例7
公称値1204dの緑色顔料含有ePTFE繊維を入手し(物品番号215-3N;レンツィング・プラスチックス社、レンツィング、オーストリア国)この繊維で経糸11.8本/cm、緯糸11.8本/cmという特性を持つ織物物品を形成した。
【0096】
この織物物品を、アルゴン・ガスを用いて大気圧プラズマ処理装置(モデル番号ML0061-01、エナーコン・インダストリーズ社、メノノミー・フォールズ、ウィスコンシン州)でプラズマ処理した。処理パラメータは、アルゴンの流速50リットル/分、2.5kWの電源、ラインの速度3m/分、電極の長さ7.6cm、通過回数5回であった。
【0097】
プラズマ処理したこの織物物品をピン・フレームに拘束し、350℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に30分間入れた。物品を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。
【0098】
この物品を走査電子顕微鏡で調べた。PTFE塊がPTFE繊維の交点の少なくとも一方から延びていることが観察され、PTFE地帯が繊維の表面に存在することが観察された。
【0099】
実施例8
ePTFE繊維から以下のようにして水流絡合物品を作った。RASTEX(登録商標)ePTFEステープル繊維(ステープルの長さが65〜75mm、フィブリルの密度が1.9g/cc超、フィブリルのデニールがフィラメントごとに15デニール超;W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、メリーランド州から入手可能)を入手し、ファン(羽根車型)オープナーを用いて開いた。1.5重量%のピック-アップKatolin PTFE(アルボン・ヘミー社、Dr. Ludwig-E. Gminder KG、カール-ツァイス-シュトラーセ 41、メッツィンゲン、D72555、ドイツ国)と1.5重量%のピック-アップSelbana UN(コグニス・ドイチュラント社、デュッセルドルフ、ドイツ国)という仕上げ材料をステープル繊維に付着させた。仕上げ材料を付着させてから20時間後、ステープル繊維をカーディングした。Hergeth Vibra供給機(オールステイツ・テキスタイル・マシナリー社、ウィリアムストン、サウス・カロライナ州)を用いてステープル繊維をカード上の取り込みローラーに供給した。カードへの入力速度は0.03m/分であった。主シリンダを表面速度2500m/分で回転させた。ワーキング・ローラーは45m/分と58m/分で回転させた。このフリースを1.5m/分の速度で通過させてカーディングした。カーディング室の湿度は温度22〜23℃で62%であった。カーディングの後、孔のサイズが47メッシュ/cmの輸送ベルトにフリースを載せ、1.5m/分の速度で、作業幅が1mの水流絡合機械(AquaJet、フライスナー社、エーゲルスバッハ、ドイツ国)へと送った。
【0100】
水のジェットを含む水流絡合機械の2つのマニホールドでフリースに高圧の水流を当てることにより、濡れたフェルトを作った。最初に水流絡合プロセスを経るときに両方のマニホールドで20バールの水圧を用いた。次に、第1のマニホールドの水圧を100バール、第2のマニホールドの水圧を150バールにして、フェルトに対して再び水流絡合プロセスを実施した。フェルトがこのプロセスを経る速度は7m/分であった。濡れたフェルトを巻き取り機に巻き取った。3回目は7.0m/分の速度で濡れたフェルトを水流絡合機械に通した。第1のマニホールドだけを用いてフェルトに水流を当てた。圧力は150バールであった。第3回目に通過するときのフェルトの速度は7m/分であった。巻き取り機を用いてフェルトをプラスチック製コアに巻き取り、カートで、185℃に設定した強制空気炉に移した。炉の開口部は4.0mmに設定した。濡れたフェルトを1.45m/分の速度で乾燥させると、滞在時間が約1.4分になった。乾燥したフェルトをボール紙製コアに巻いた。
【0101】
この水流絡合物品を、アルゴン・ガスを用いて大気圧プラズマ処理装置(モデル番号ML0061-01、エナーコン・インダストリーズ社、メノノミー・フォールズ、ウィスコンシン州)でプラズマ処理した。処理パラメータは、アルゴンの流速50リットル/分、2.5kWの電源、ラインの速度3m/分、電極の長さ7.6cm、通過回数20回であった。
【0102】
この物品をピン・フレームに拘束し、360℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に20分間入れた。物品を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。
【0103】
この物品の表面の走査電子顕微鏡写真を図27に倍率250倍で示してある。繊維の交点にPTFE塊が見られ、その塊は、交わったPTFE繊維の少なくとも一方から延びていた。PTFE地帯が、繊維の交わっていない面の上に存在していた。
【0104】
実施例9
本発明の成形物品を以下のようにして構成した。
【0105】
実施例2に記載したような方法で形成された、プラズマ処理したがその後熱処理はしていない織物材料を得た。この材料で直径25.4mmの鋼鉄製ボール・ベアリングのまわりを完全に覆った。過剰な材料をベアリングの底部に集め、捩じり、緊張器を用いてその場所に固定した。覆われたこのベアリングを、350℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に30分間入れた。
【0106】
覆われたベアリングを炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。結んだ端部を切断し、この材料をベアリングから外した。この材料は、平坦な面に載せたときにベアリングの円形形状を保持していた。図38は、この物品を示す写真である。
【0107】
実施例10
実施例1aのePTFE布帛を取得し、以下のようにしてイオノマーを満たした。DuPont(登録商標)Nafion(登録商標)1100イオノマー(デュポン社、ウィルミントン、デラウェア州)を入手して希釈し、48%エタノールと28%水の中に24重量%が含まれた固体溶液を作った。ePTFE布帛を5cm×5cmの断片に切断し、その縁部をETFEリリース・フィルム(0.1mm、デュポン社のTefzel(登録商標)フィルム)にテープで止めた。約5gのイオノマー溶液をePTFE布帛の上に注いだ。このePTFE布帛は安定な織られた支持体として機能した。これらの材料を60℃の炉の中に1時間入れてイオノマー溶液から溶媒を蒸発させた。約5gの第2のコーティングを支持体に付着させ、材料を同様にして再び乾燥させた。乾燥後、得られた充填された膜を、プラテンを加熱したカーバー・プレスの中に入れて両方のプラテンを175℃に設定し、4536kgで5分間プレスすることにより、フィルムに含まれる空気の泡と他の不都合なものを除去した。
【0108】
図39は、この実施例の物品の断面を250倍の倍率で見たSEMであり、布帛がイオノマーで包まれていることを示している。
【0109】
実施例11
DuPont(登録商標)Nafion(登録商標)1100イオノマー(デュポン社、ウィルミントン、デラウェア州)とePTFEの熱圧縮ラミネートを以下のようにして作った。イオノマー溶液を実施例10に記載したようにして調製した。約5gのイオノマー溶液をETFEリリース・フィルムの上に注いだ。このリリース・フィルムとイオノマーを60℃の炉の中に1時間入れてイオノマー溶液から溶媒を蒸発させた。このようにして、独立したイオノマー・フィルムができた。第2のイオノマー・フィルムを同様にして作った。
【0110】
実施例1aのePTFE布帛を取得し、5cm×5cmに切断して安定な織られたePTFE支持体にした。この安定な織られたePTFE支持体を、生産した2枚のイオノマー・フィルムの間に挟んだ。次に、このサンドイッチ構造を2枚のETFEリリース・フィルムの間に入れた後、プラテンを加熱したカーバー・プレスの中に入れて両方のプラテンを175℃に設定した。材料を4536kgで5分間プレスすることにより、イオノマーをePTFE織布の中に組み込んだ。
【0111】
図40は、この実施例で形成した材料を250倍の倍率で見たSEMであり、布帛がイオノマーで包まれていることを示している。
【0112】
実施例12a
この実施例では、本発明の強化された膜の生産を説明する。90dのePTFE織布を入手した(物品番号V112403;W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、デラウェア州)。この織布構造体は、経糸49.2本/cm、緯糸49.2本/cmであった。
【0113】
この織布を、アルゴン・ガスを用いて大気圧プラズマ処理装置(モデル番号ML0061-01、エナーコン・インダストリーズ社、メノノミー・フォールズ、ウィスコンシン州)でプラズマ処理した。処理パラメータは、アルゴンの流速50リットル/分、2.5kWの電源、ラインの速度3m/分、電極の長さ7.6cm、通過回数5回であった。
【0114】
次に、この織布に対して加熱ステップを実施した。織布をピン・フレームに拘束し、350℃に設定した強制空気炉(モデル番号CW 7780F、ブルー M エレクトリック社、ウォータータウン、ウィスコンシン州)の中に5分間入れた。織布を炉から取り出し、室温で水の中で反応を停止させた。次に織布をダイスで切断して15.2cm×15.2cmの断片にした。
【0115】
市販されている0.2ミクロンのePTFE膜(11320na、W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、メリーランド州)を入手し、約17cm×17cmの断片に切断した。
【0116】
この膜を、引っ張り強さのより大きな方向がプレートの長さ方向と揃うようにして、30.5cm×26.7cm×厚さ3.1mmのアルミニウム製プレートの上に置いた。織布サンプルを、膜のより強い方向がその織布の経方向と揃うようにして膜の頂部に置いた。幅3cm、長さ17cmのポリイミド・フィルム製ストリップ(25SGADBグレード、UPILEXポリイミド・フィルム、宇部興産社、東京、日本国)を緯方向に向け、織布と膜の間に、テープの幅の半分がこれらの材料の自由端を越えて延びるようにして置いた。第1のプレートと同じサイズで同じ向きの第2のアルミニウム製プレートを、織布の頂部に置いた。
【0117】
プレートとその間にある材料を、加熱したカーバー・プレス(オート“M”モデル3895、カーヴァー社、ウォバッシュ、インディアナ州)のプラテンの間に置き、その材料を熱圧縮した。温度と圧縮力の設定値は、それぞれ360℃と2268kgであった。圧力を10分間にわたって維持した。
【0118】
接合された材料が間にあるプレートを水で冷却し、接合されたラミネートを取り出すと、強化された膜が得られた。
【0119】
強化された膜の引き剥がし強度を測定すると0.58kg/cmであった。
【0120】
図42は、引き剥がし試験を経た後のこの物品の表面を50倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(“SEM”)である。
【0121】
実施例12b
本発明による別の強化された膜を実施例12aに記載したようにして構成したが、プラズマ処理ステップの直後の加熱ステップを省略した点が異なっている。すなわち熱圧縮ステップの間に加熱を行なった。
【0122】
強化された膜の引き剥がし強度を測定すると0.69kg/cmであった。
【0123】
図43は、引き剥がし試験を経た後のこの物品の表面を50倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(“SEM”)である。
【0124】
比較例F
従来法に従って生産した強化された膜を実施例12aに記載したのと同様にして構成したが、プラズマ処理ステップとその直後の加熱ステップを省略した点が異なっている。実施例12aに記載した熱圧縮ステップだけを実施した。
【0125】
強化された膜の引き剥がし強度を測定すると0.13kg/cmであった。
【0126】
図44は、引き剥がし試験を経た後のこの物品の表面を50倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(“SEM”)である。
【0127】
実施例13a
本発明による別の強化された膜を実施例12aに記載したようにして構成したが、織物材料は経糸31.5本/cm、緯糸23.6本/cmであった点が異なっている。
【0128】
強化された膜の引き剥がし強度を測定すると0.71kg/cmであった。
【0129】
図45は、引き剥がし試験を経た後のこの物品の表面を50倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(“SEM”)である。図45からわかるように、PTFE塊105が布帛と膜の境界に見られ、交わっているPTFE繊維108と109の少なくとも一方から延びている。別のPTFE塊106も示されており、引き剥がし試験の結果としてこの塊106の残部107が膜の表面に存在している。
【0130】
実施例13b
本発明による別の強化された膜を実施例12bに記載したようにして構成したが、織物材料は経糸31.5本/cm、緯糸23.6本/cmであった点が異なっている。
【0131】
強化された膜の引き剥がし強度を測定すると0.44kg/cmであった。
【0132】
図46は、引き剥がし試験を経た後のこの物品の表面を50倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(“SEM”)である。
【0133】
比較例G
従来法に従て生産した強化された膜を実施例12aに記載したのと同様にして構成したが、プラズマ処理ステップと加熱ステップを省略した点と、織物材料は経糸31.5本/cm、緯糸23.6本/cmであった点が異なっている。実施例12aに記載した熱圧縮ステップだけを実施した。
【0134】
強化された膜の引き剥がし強度を測定すると0.13kg/cmであった。
【0135】
図47は、引き剥がし試験を経た後のこの物品の表面を50倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(“SEM”)である。
【0136】
実施例14
本発明による別の強化された膜をニット材料を用いて構成した。
【0137】
150d、3.8g/d、直径0.1mmの丸いePTFE繊維を六角形のePTFEニット・メッシュにしたものを入手した(物品番号1GGNF03、W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、メリーランド州)。このニット布帛は、面密度68g/m2、緯糸17本/cm、経糸11本/cmという特性を持っていた。
【0138】
このニット材料を利用し、実施例12bに記載したのと同様にして同じ膜を用いて強化された膜を作ったが、くびれを最少にするためマスク用テープを膜(すなわち織布ではない)に付着させた点が異なっている。
【0139】
強化された膜の引き剥がし強度を測定すると0.27kg/cmであった。
【0140】
図48は、引き剥がし試験を経た後のこの物品の表面を25倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(“SEM”)である。強固な接合が観察され、ニットは、その下にある膜の上に存在するニット繊維の一部まで破れた。
【0141】
比較例H
従来法に従って生産した強化された膜を実施例14に記載したのと同様にして構成したが、プラズマ処理ステップを省略し、マスク用テープをニット布帛に付着させた点が異なっている。
【0142】
強化された膜の引き剥がし強度を測定すると0.05kg/cmであった。
【0143】
図49は、引き剥がし試験を経た後のこの物品の表面を25倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(“SEM”)である。接合の程度は、本発明の実施例14におけるよりも著しく弱いことが観察された。それは、引き剥がし試験の間にニットの破れがより少なかったことによって裏付けられる。したがってニットの一部だけが、その下にある膜の上に存在している。
【0144】
実施例15
実施例12bに記載したのと同様にして強化された膜を生産したが、織布(物品番号V112729、W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、メリーランド州)の捩じれた繊維の空孔度がより大きく、その織られた材料は経糸9.8本/cm、緯糸12.6本/cmであった点が異なっている。
【0145】
強化された膜の引き剥がし強度を測定すると0.28kg/cmであった。
【0146】
図50は、引き剥がし試験を経た後のこの物品の表面を25倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(“SEM”)である。
【0147】
比較例I
従来法に従って生産した強化された膜を実施例15に記載したのと同様にして構成したが、プラズマ処理ステップを省略した点が異なっている。
【0148】
強化された膜の引き剥がし強度を測定すると0.11kg/cmであった。
【0149】
図51は、引き剥がし試験を経た後のこの物品の表面を25倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(“SEM”)である。
【0150】
実施例16
本発明による別の強化された膜を実施例13bに記載したのと同様にして生産したが、市販の1ミクロンのePTFE膜(物品番号10066697、W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、メリーランド州)を使用した点が異なっている。
【0151】
強化された膜の引き剥がし強度は測定できなかった。なぜなら強度が大きすぎて膜が破れなかったからである。すなわち接合の強度は。膜の引っ張り強さを越えていた。
【0152】
図52は、引き剥がし試験を経た後のこの物品の表面を50倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(“SEM”)である。
【0153】
比較例J
従来法に従って実施例16と同様にして強化された膜を構成したが、プラズマ処理ステップを省略した点が異なっている。
【0154】
強化された膜の引き剥がし強度を測定すると、0.06kg/cmであった。
【0155】
図53は、引き剥がし試験を経た後のこの物品の表面を50倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(“SEM”)である。
【0156】
実施例17
本発明による別の強化された膜を実施例12bに記載したようにして構成したが、織布の捩じれた繊維(物品番号W112190、W.L.ゴア&アソシエイツ社、エルクトン、メリーランド州)がPFA/PTFEであった点と、この織られた材料は経糸17.7本/cm、緯糸19.7本/cmであった点が異なっている。
【0157】
強化された膜の引き剥がし強度を測定すると、0.38kg/cmであった。
【0158】
図54は、引き剥がし試験を経た後のこの物品の表面を25倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(“SEM”)である。
【0159】
比較例K
強化された膜を実施例17と同様にして構成したが、プラズマ処理ステップを省略した点が異なっている。
【0160】
強化された膜の引き剥がし強度を測定すると、0.19kg/cmであった。
【0161】
図55は、引き剥がし試験を経た後のこの物品の表面を25倍の倍率で見た走査電子顕微鏡写真(“SEM”)である。
【0162】
図56は、各実施例の処理ステップをまとめた表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交点で重なった複数のPTFE繊維を含有する布帛を含む物品であって、
該交点の少なくとも一部に存在するPTFE塊が、該重なったPTFE繊維の少なくとも1つから延びて、該重なったPTFE繊維を互いに固定し、
該布帛が少なくとも該PTFE塊によって膜に接合されている、物品。
【請求項2】
交点で、前記重なった複数のPTFE繊維が、編んだ繊維、織り繊維、繊維のレイド・スクリム、孔の開いたPTFEシート及び不織繊維からなる群の中から選ばれる構造を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記PTFE繊維が延伸PTFEを含む、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記PTFE繊維が、捩じれた構造で組み合わされた複数のPTFEモノフィラメントを含む、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記PTFE繊維が、モノフィラメント、マルチフィラメント及びステープル繊維からなる群の中から選ばれる1つ以上の形態を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記PTFE繊維が、丸い形状、平坦な形状及び捩じれた形状からなる群の中から選ばれる1つ以上の幾何学的形状を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記PTFE繊維が少なくとも1つの追加材料を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
少なくとも何本かのPTFE繊維の上にPTFE地帯を更に含む、請求項1に記載の物品。
【請求項9】
前記物品に組み込まれた少なくとも1つの追加材料を更に含む、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
前記PTFE繊維の少なくとも一部にコーティングされた少なくとも1つの追加材料を更に含む、請求項1に記載の物品。
【請求項11】
前記物品中に含浸された少なくとも1つの追加材料を更に含む、請求項1に記載の物品。
【請求項12】
前記少なくとも1つの追加材料が少なくとも1つのイオノマーを含む、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
前記物品が多層構造にした層を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項14】
前記物品が化学電池の構成要素を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項15】
前記物品が音響装置の構成要素を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項16】
前記物品がフィルタの構成要素を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項17】
前記物品が医用装置の構成要素を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項18】
膜、チューブ、シート及び三次元形状からなる群の中から選ばれる幾何学的形状を有する、請求項1に記載の物品。
【請求項19】
埋め込み可能な医用装置の構成要素として組み込まれる、請求項17に記載の物品。
【請求項20】
前記膜が延伸PTFE膜を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項21】
前記延伸PTFE膜が少なくとも1つの充填剤を含む、請求項20に記載の物品。
【請求項22】
前記布帛がほつれ耐性を有する、請求項1に記載の物品。
【請求項23】
交点で重なった複数のPTFE繊維を含有する布帛を含む物品であって、
該交点の少なくとも一部に存在するPTFE塊が、該重なったPTFE繊維の少なくとも1つから延びて、該重なったPTFE繊維を互いに固定し、
該布帛が該PTFE塊によって膜に接合されている、物品。
【請求項24】
前記物品に対して引き剥がし試験を実施したとき、前記布帛の残部が前記膜の表面に存在している、請求項1に記載の物品。
【請求項25】
PTFE物品を形成する方法であって、
該方法が、交点で重なった複数のPTFE繊維を含有するPTFE布帛を提供する工程、及び
該PTFE布帛を膜に接合させる工程を含み、
該交点の少なくとも一部に存在するPTFE塊が、該重なったPTFE繊維の少なくとも1つから延びて、該重なったPTFE繊維を互いに固定する、方法。
【請求項26】
PTFE物品を形成する方法であって、
該方法が、
交点で重なった複数のPTFE繊維を含有するPTFE布帛を提供する工程、
該PTFE布帛をプラズマ処理する工程、
PTFE膜に接触させるように該PTFE布帛を配置する工程、及び
該PTFE布帛を該PTFE膜に熱接合してPTFE塊を形成する工程を含み、
該PTFE塊が、該交点で該重なったPTFE繊維を互いに固定して、該重なったPTFE繊維の少なくとも1つから延びて、該PTFE布帛を該PTFE膜に接合させる、方法。
【請求項27】
加熱時に前記塊が前記交点に移動する、請求項26に記載のPTFE物品を形成する方法。
【請求項28】
PTFE物品を形成する方法であって、
該方法が、
PTFE繊維をプラズマ処理する工程、
該プラズマ処理したPTFE繊維からPTFE布帛を形成する工程、
PTFE膜に接触させるように該PTFE布帛を配置する工程、及び
該PTFE布帛を該PTFE膜に熱接合してPTFE塊を形成する工程を含み、
該PTFE布帛が交点で重なった複数のPTFE繊維を含み、
該PTFE塊が、該交点で該重なったPTFE繊維を互いに固定して、該重なったPTFE繊維の少なくとも1つから延びて、該PTFE布帛を該PTFE膜に接合させる、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【公表番号】特表2012−512770(P2012−512770A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542138(P2011−542138)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/006633
【国際公開番号】WO2010/080127
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】