説明

Pt/Ru合金触媒,その製造方法,燃料電池用電極及び燃料電池

【課題】活性が高くて耐CO被毒性にすぐれる燃料電池用Pt/Ru合金触媒,その製造方法,燃料電池用電極及び燃料電池を提供する。
【解決手段】3.856〜3.885Åの格子定数値を有し,粒子サイズが2〜5nmであり,担体に担持されたPt/Ru合金触媒は耐CO被毒性にすぐれる耐CO被毒性がすぐれるために,使用上でさらに活性が優秀である。すなわち,少量の触媒を使用しても寿命のさらに長い電極及びこれを採用した燃料電池を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,Pt/Ru合金触媒に係り,さらに具体的には,耐CO被毒性にすぐれ,使用上で優秀な活性を示すPt/Ru合金触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は,メタノール,エタノール,天然ガスのような炭化水素系の物質内に含まれている水素と酸素との化学反応エネルギーを直接電気エネルギーに変換させる発電システムである。
【0003】
燃料電池は,使われる電解質の種類により,燐酸型燃料電池(PAFC),溶融炭酸塩型燃料電池,固体酸化物型燃料電池,高分子電解質膜またはアルカリ型燃料電池などに分類される。これらそれぞれの燃料電池は,根本的に同じ原理により作動するが,使われる燃料の種類,運転温度,触媒,電解質などがそれぞれ異なる。
【0004】
それらのうち,最近に開発されている高分子電解質膜燃料電池(PEMFC:Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)は,他の燃料電池に比べて出力特性にすぐれ,かつ作動温度が低く,併せて速い始動及び応答特性を有し,自動車のような移動用電源はもとより,住宅,公共建物のような分散用電源,及び電子機器用のような小型電源などその応用範囲が広いという長所を有する。
【0005】
PEMFCの膜−電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)で,高分子電解質膜の一方の面に配置される電極をアノード電極といい,他方の面に配置される電極をカソード電極という。アノード電極は,燃料から水素イオンと電子とを生成させる酸化反応を起こし,高分子電解質膜は,前記アノード電極で発生した水素イオンをカソード電極に移動させ,カソード電極は,前記高分子電解質膜を介して供給された水素イオンと外部から供給された酸素とから水を生成する還元反応を起こす。
【0006】
PEMFCで使われる燃料は,ガソリン,メタン,メタノールなどを改質して得た水素を使用する。改質反応では,水素と同時に副産物として少量の一酸化炭素(CO)が発生する。この一酸化炭素により触媒が劣化され,結局PEMFCの性能低下につながる。
【0007】
直接メタノール燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)は,メタノールを燃料として使用するPEMFCであり,アノードでメタノール酸化反応の副産物である一酸化炭素による被毒により触媒が劣化され,結局DMFCの性能が低下する。
【0008】
一酸化炭素により引き起こされる否定的影響に耐性がある触媒として,Pt/Ru合金触媒が提案され,優秀な耐CO被毒性を有するものが開示されている。かかるPt/Ru合金触媒を製造する方法として,Pt及びRuの陽イオンを含む溶液にカーボン粉末などの担体を接触させ,陽イオンを担体に吸着させた後に,還元雰囲気でその担体を加熱して陽イオンを還元する方法がある(例えば,特許文献1を参照)。
【0009】
また,Pt/Ru合金触媒中に含まれる酸素の量と耐CO被毒性との関係に着目し,酸素の含有量が4.4質量%以下であるPt/Ru合金触媒を提案もされている(例えば,特許文献2を参照)。
【0010】
【特許文献1】特開平9−153366号公報
【特許文献2】特開2004−127814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら,かかる発明は,PtとRuの合金構造及び粒子サイズの分布を均一にすることにより得ることができる耐CO被毒性については言及がない。従って,かかる部分に対する改善の余地がある。
【0012】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,その目的は,活性が高くて耐CO被毒性にすぐれる,新規かつ改良されたPt/Ru合金触媒,その製造方法,燃料電池用電極及び燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために,本発明の第1の観点によれば,3.856〜3.885Åの格子定数値を有し,粒子サイズが2〜5nmであるPt/Ru合金触媒が提供される。
【0014】
上記課題を解決するために,本発明の第2の観点によれば,(a)PtとRuとのモル比が7:3〜4.5:5.5になるように白金前駆体とルテニウム前駆体とを準備し,それぞれを水に完全に溶解させた後で混合して金属塩溶液を製造する工程と,(b)触媒担体と溶媒とを混合した担体溶液を製造する工程と,(c)(a)で製造した金属塩溶液と(b)で製造した担体溶液とを混合する工程と,(d)(c)の混合溶液のpHを11〜13になるように調節する工程と,(e)(d)の結果物を加熱して触媒粒子を製造する工程と,(f)製造された触媒粒子を分離及び洗浄する工程と,(g)触媒粒子を熱処理する工程とを含むPt/Ru合金触媒の製造方法が提供される。
【0015】
上記課題を解決するために,本発明の第3の観点によれば,前記Pt/Ru合金触媒を含む燃料電池用電極が提供される。
【0016】
上記課題を解決するために,本発明の第4の観点によれば,カソードと,アノードと,前記カソードと前記アノードとの間に位置する高分子電解質膜とを含む燃料電池であって,前記アノードが前述のPt/Ru合金触媒を含む燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るPt/Ru合金触媒は,耐CO被毒性にすぐれるために,使用上で活性がさらに優秀であるという効果がある。すなわち,少量の触媒を使用してもさらに長寿命の電極及びこれを採用した燃料電池を製造することが可能とある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
PtとRuの合金触媒が耐CO被毒性が比較的良好であると公知されている。耐CO被毒性のメカニズムとして,いわゆるバイファンクショナルメカニズム(bifunctional mechanism)が知られている。バイファンクショナルメカニズムとは,白金原子に吸着されたCO分子と,前記白金原子に隣接したルテニウム原子に結合された水酸基とが反応して一酸化炭素を二酸化炭素に転換させ,これを介して一酸化炭素による触媒の被毒性が緩和されるというものである(図1参照)。
【0020】
前記のようなバイファンクショナルメカニズムが極大化されるためには,白金原子とルテニウム原子とが1:1で互いに対応することが望ましい。従って,Pt/Ru合金触媒を構成する白金原子とルテニウム原子とのモル比が1:1になるか,またはこれに近いか,あるいはそれらの分布が均一であって互いに1:1に対応するPt−Ru対の数を極大化させることが,触媒の全体的な活性を高める点において重要である。
【0021】
非特許文献である「Gasteiger,H.A.et al.,LEIS and AES on sputtered and annealed polycrystalline Pt−Ru bulk alloys,Surface Science,293(1993),pp.67−80」には,アーク溶解法により作られた合金金属塊のXRD(X線回折)パターンに出てきたPtRuピークの2θ値から格子定数を計算している。また,この格子定数からPtとRuとの合金比を計算する方法が開示されており,本発明では,前記方法によってPtとRuとの合金比を計算した。
【0022】
本発明のPt/Ru合金触媒は,3.856〜3.885Åの格子定数値を有する。格子定数値が前記範囲を外れるPt/Ru合金触媒は,前記バイファンクショナルメカニズムが起きるのに相対的に不利であって活性が落ちるために望ましくない。また,本発明のPt/Ru合金触媒は,2〜5nmの粒子サイズを有することが望ましい。もし,粒子サイズが5nmより大きければ,比表面積が小さくなって触媒効率が落ち,粒子サイズが2nmより小さな触媒は密集(agglomeration)現象なしに合成し難い。
【0023】
前述のように,Pt/Ru合金触媒において,白金原子とルテニウム原子とのモル比は,理想的には5:5になることが望ましいが,正確に5:5になるように製造することは困難である。商用に販売するPt/Ru触媒の提示されている合金比は5:5であるが,Gasteigerらの論文で提示した表により計算してみれば,ジョンソンマシー社(Johnson Matthey Co.)の実際合金比は,4.4:5.6であり,E−TEK社の実際合金比は,7.1:2.9である。しかし,本発明のPt/Ru合金触媒が前記の格子定数値の範囲に入れば,優秀な活性を示すようになり,そのときの白金原子とルテニウム原子との合金比は,モル比で7:3〜4.5:5.5となる。この範囲を外れては,Pt/Ru合金触媒に優秀な活性を期待し難い。そして,さらに望ましい活性を期待するためには,モル比が5.5:4.5〜4.8:5.2を有することである。
【0024】
また,PtとRuの総質量は,合金触媒の60〜80質量%を占めることが望ましい。PtとRuの総質量が合金触媒の質量の60質量%に達し得ない場合は,アノード触媒層が厚くなって電気抵抗が過度に高まり,80質量%を超える場合は,粒子サイズが5nm以上に作られたり,または密集現象により比表面積が小さくなって触媒の活用が不利になる。
【0025】
本発明のPt/Ru合金触媒は,セル電位が0.6Vでの質量活性が15〜80A/(gPtRu)である。これより質量活性が低いものは,前記合金触媒を利用して製造される電池の性能が不十分になり,反対に質量活性がそれより高いものは,製造し難いという短所がある。
【0026】
前記白金原子とルテニウム原子とを支持する担体としては,炭素系担体またはゼオライト,シリカ/アルミナなどが可能であるが,特に炭素系担体またはゼオライトが望ましい。炭素系担体としたは,黒鉛,炭素粉末,アセチレンブラック,カーボンブラック,活性炭素,メソ細孔性カーボン,炭素ナノチューブ,炭素ナノファイバ,炭素ナノホーン,炭素ナノリング,炭素ナノワイヤ,フラーレン(C60)などが望ましい。
【0027】
本発明のPt/Ru合金触媒の製造方法は次の通りである。
【0028】
まず,白金前駆体とルテニウム前駆体とをそれぞれ水に溶解させる。白金前駆体とルテニウム前駆体は,モル比が7:3〜4.5:5.5になるように定量することが望ましい。白金前駆体とルテニウム前駆体とのモル比が前記範囲を外れれば,生成されるPt/Ru合金触媒での白金原子とルテニウム原子とのモル比が7:3〜4.5:5.5の範囲を外れる場合が多くて望ましくない。また,前記水は,脱イオン水(deionized water)を使用することが望ましい。
【0029】
前記白金前駆体とルテニウム前駆体は,それぞれPtまたはRuの塩化物系の化合物であるか,PtまたはRuの硫化物形態,または窒化物形態など水に好ましく解離され塩の形態ならば可能である。
【0030】
前記の通りにそれぞれ水に溶かした白金前駆体とルテニウム前駆体の溶液を混合し,金属塩溶液を製造する。
【0031】
活性成分原子を支持する担体を溶媒に溶かし,担体溶液を製造する。担体としては,前述のように,炭素系担体またはゼオライト,シリカ/アルミナなどが可能であり,特に,炭素系担体またはゼオライトが望ましい。炭素系担体としては,また黒鉛,炭素粉末,アセチレンブラック,カーボンブラック,活性炭素,メソ細孔性カーボン,炭素ナノチューブ,炭素ナノファイバ,炭素ナノホーン,炭素ナノリング,炭素ナノワイヤ,フラーレンなどが望ましい。
【0032】
前記担体を分散させる溶媒としては,還元剤の役割も兼ねることができる有機溶媒が望ましいが,特に,水酸基がある有機溶媒が望ましい。さらに望ましくは,前記水酸基を2個以上有する有機溶媒である。さらに一層望ましくは,前記溶媒としてエチレングリコールを使用することである。
【0033】
一方,前記担体溶液を製造するときに使用する有機溶媒の量と金属塩溶液を製造するときに使用する水の量との間には,1:0.4〜1:0.6の質量比を有させることが望ましい。前記範囲を外れて水の量が少なすぎれば,生成される粒子のサイズがあまりにも大きくなって比表面積が小さくなるという短所があり,前記範囲を外れて水の量が多すぎれば,すなわち,還元剤としても機能する有機溶媒の量があまりにも少なくなってRuの還元が不十分になり,生成されるPt/Ru合金触媒でのRuの含有量が減ってしまうという短所が生じる。
【0034】
前記の通りに製造した金属塩溶液と担体溶液とを混合してpHを調節すれば,還元過程で活性成分が還元されつつ担体に浸漬されるようになる。望ましいpHの範囲は11〜13であり,pHを調節するpH調節剤としては,NaOH,NH,KOH,Ca(OH)のようなアルカリ溶液ならば可能である。
【0035】
混合溶液のpHが前記範囲を外れて低すぎれば,還元過程で還元量が少なくなって担持される触媒の量が減るだけではなく,担持される触媒が互いに密集し,混合溶液のpHが前記範囲を外れてしまってあまりにも高くなれば,粒子サイズが大きくなるという問題が生じる。
【0036】
前記の通りにpHを調節した混合溶液の温度を徐々に上げて触媒を還元させ,触媒前駆体を製造する。昇温方法は,反応基を昇温槽内に湯せんさせることが望ましいが,このとき,湯せんは,150〜180℃まで20分〜40分にわたって昇温させ,1時間〜5時間その温度に維持する。
【0037】
湯せんの温度が150℃より低ければ,触媒原子の還元が良好に起こらずに触媒の含有量が落ち,180℃より高ければ,生成される合金触媒の粒子サイズが大きくなるという短所があり,かつ有機溶媒の沸点より温度が高くなることもあって望ましくない。
【0038】
前記の通りに製造された触媒前駆体を濾過,遠心分離など通常の方法で分離した後で洗浄する。
【0039】
前記の通りに分離及び洗浄された触媒粒子を熱処理し,Pt/Ru合金触媒を製造する。熱処理温度は,250〜500℃が望ましく,熱処理時間は,製造する触媒の量により5分〜2時間の間で可能である。
【0040】
熱処理温度が250℃より低ければ,Ruの合金程度が落ち,前記のバイファンクショナルメカニズムが活発に起こらずに耐CO被毒性が落ちてしまう。また,熱処理温度が500℃より高ければ,粒子サイズが大きくなり,触媒の活用効率が下がってしまう。
【0041】
前記の通りに熱処理して製造したPt/Ru合金触媒は,燃料電池の電極にアノード電極のメタノールや,CO含有の水素の酸化反応を促進させる活性成分として使われ,一般的な方法により燃料電池用の電極を製造できる。
【0042】
前記Pt/Ru合金触媒をイソプロピルアルコール,テトラブチルアセテート,ノルマルブチルアセテートなどの分散媒にナフィオン(パーフルオロスルホン酸;米国・デュポン社の登録商標)のようなイオノマーと共に分散させてスラリーを製造し,前記スラリーをガス拡散層上に塗布する。
【0043】
ガス拡散層としては,支持体とカーボン層とから構成されている。
【0044】
カーボン層は,例えば,カーボンブラックをイソプロピルアルコールのような揮発性溶媒及びカーボンブラック質量対応で50質量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と混合し,支持体にスプレー法などにより塗布する。乾燥後に疏水性高分子であるPTFEを焼結するために,例えば,350℃で30分間程度焼結する。
【0045】
支持体の場合,カーボンペーパー,さらに望ましくは,撥水処理されたカーボンペーパー,さらに一層望ましくは,撥水処理されたカーボンブラック層が塗布された撥水処理されたカーボンペーパーまたはカーボンクロスでありうる。
【0046】
撥水処理されたカーボンペーパーは,PTFEのような疏水性高分子を5〜50質量%ほど含んでおり,前記疏水性高分子は焼結可能である。ガス拡散層の撥水処理は,極性液体反応物と気体反応物とに対して出入り通路を同時に確保するためのものである。
【0047】
撥水処理されたカーボンブラック層を有する撥水処理されたカーボンペーパーにおいて,撥水処理されたカーボンブラック層は,カーボンブラック及び疏水性バインダとしてPTFEのような疏水性高分子を20〜50質量%ほど含んでおり,前述のような撥水処理されたカーボンペーパーの一面に付着されている。撥水処理されたカーボンブラック層の前記疏水性高分子は焼結されている。
【0048】
また,本発明は,触媒層と拡散層とを含むカソードと,触媒層と拡散層とを含むアノードと,前記カソードと前記アノードとの間に位置する電解質膜とを含む燃料電池において,前記アノードに使われた触媒が本発明によるPt/Ru合金触媒であることを特徴とする燃料電池を提供する。
【0049】
本発明の燃料電池は,例えば,PAFC,PEMFC,DMFCなどに適用可能であり,特にDMFCにさらに有利に適用されうる。
【0050】
かかる燃料電池の製造は,各種文献に公知される一般的な方法を利用できるが,本明細書では,それについての詳細な説明を省略する。
【実施例】
【0051】
以下,具体的な実施例及び比較例をもって,本発明の構成及び効果をさらに詳細に説明するが,それらの実施例は,単に本発明をさらに明確に理解させるためのものであって,本発明の範囲を限定するものではない。
【0052】
実施例及び比較例での結晶サイズは,Pt/Ruのピークと幅とを測定して下記数式1のようなシェレル式(Scherrer’s equation)を利用することによって計算した。
【0053】
【数1】

【0054】
ここで,λはX線の波長であり,kはシェレル定数であり,θはブラッグ角であり,Bは粒子サイズ拡張に対する補正線幅値である。
【0055】
<実施例1>
塩化白金酸水和物(HPtCl・xHO)1gを水25mlに入れて撹拌させて完全に溶解させ,これと別途に塩化ルテニウム水和物(RuCl・HO)0.44gをやはり水25mlに入れて撹拌させて完全に溶解させた。前記の通りに製造されたそれぞれの溶液を混合して金属塩溶液を製造した(図2のS1)。
【0056】
エチレングリコール100gにカーボンブラック0.254gを入れて撹拌させて均一にし,担体溶液を作った(S2)。
【0057】
前記の通りに製造した金属塩溶液と担体溶液とを混合して混合溶液を作り(S3),ここにNaOH水溶液を滴下しつつpH測定器でpHを測定し,pHが11になるように調整した(S4)。
【0058】
前記の通りにpHを調整した溶液の温度を上昇させ,湯せんの温度が180℃になるように30分間温度を上昇させた後,4時間180℃に維持しつつ,PtとRuとを還元させた(S5)。
【0059】
PtとRuとを還元させて製造した触媒粒子を濾過して分離し,脱イオン水を利用して3回洗浄した(S6)。
【0060】
洗浄した前記触媒前駆体を500℃で15分間水素雰囲気で熱処理し,Pt/Ru合金触媒を得た(S7)。
【0061】
前記の通りに熱処理して製造したPt/Ru合金触媒に対してXRD分析を行った結果,格子定数が3.8614Åであることが分かり,PtとRuとの含有量比が51:49であることが分かった。
【0062】
前記の通りに製造したPt/Ru合金触媒を利用して半分の電池を製造し,質量活性を測定した結果19.8A/gPtRuの質量活性を示した。質量活性というのは,製造された半分の電池に生成される電流を,前記半分の電池の製造に使われた触媒のグラム数で割った値である。
【0063】
半分の電池を製造するために,カーボンペーパーに本発明のPt/Ru合金触媒と,イソプロピルアルコールと,ナフィオンイオノマー溶液とを混合して作ったスラリーを塗布して乾燥させた。また,半分の電池を利用した活性測定時に使用した溶液は,0.5M硫酸溶液と2.0Mメタノールとのの混合溶液であり,基準電極は,Ag/飽和塩化銀電極であった。
【0064】
質量活性の測定時に,半分の電池に使われた前記メタノールが酸化される過程でCOが生成されるが,それにもかかわわらず,質量活性が高く示されるということは,それだけ耐CO被毒性が優秀であるということを意味する。
【0065】
<実施例2〜実施例5>
実施例1と熱処理した時間及び温度だけを下記表1のように異ならせ,格子定数とPt/Ru含有量とを測定した。その結果,下記表1に表したような結果を得た。
【0066】
【表1】

【0067】
前記実施例1〜実施例5は,熱処理温度及び時間を除外したあらゆる製造条件が同一である。熱処理時間を一定にするとき,熱処理温度が高いほどPt/Ru合金比が1:1に近づいて結晶サイズも大きくなるということが分かる。しかし,質量活性においては,熱処理温度を上げたからといって良好になるというものではないことが分かる。
【0068】
また,熱処理時間においては,同一温度で熱処理を長くしたからといって,必ずしも質量活性が良好になるものではないということが分かる。
【0069】
一方,前記実施例の格子定数値が純粋Ruの格子定数値(2.7058Å)に近くなく,純粋Ptの格子定数値(3.9231Å)に近いことから見て,Ptの格子構造内にRuの原子が一つずつ挿入されているものと判断される。またPt/Ru合金の低下した格子定数値から見て,PtとRuとが原子状態で好ましく分散されているということが判断される。
【0070】
前記実施例4で製造したPt/Ru合金触媒のTEM写真を図3Aに,前記実施例1で製造したPt/Ru合金触媒のTEM写真を図3Bに表した。実施例1の場合,熱処理温度が500℃であり,実施例4の熱処理温度である350℃より高い温度で同じ時間(15分)の間熱処理がなされた。図3Bの場合は,濃厚な色で触媒が密集している部分が図3Aより相対的に多くあるということが見ることができるが,相対的にさらに低い温度で熱処理された図3Aの場合(実施例4)がさらに分散性が優秀であるということが分かる。
【0071】
<実施例6〜実施例9>
実施例1とは,下記表2に表した点でのみ異ならせ,実施例6〜実施例9とした。
【0072】
【表2】

【0073】
前記の通りに製造した実施例6〜実施例9の合金触媒について,格子定数,Pt/Ru含有量,及び質量活性を測定した結果を整理すれば,下記表3の通りである。
【0074】
【表3】

【0075】
やはり,前記実施例の格子定数値が純粋Ruの格子定数値(2.7058Å)に近くなく,純粋Ptの格子定数値(3.9231Å)に近いということから見て,Ptの格子構造内にRuの原子が良好に分散されて挿入されているということが判断される。
【0076】
<比較例1〜比較例3>
商用触媒を利用して物性を測定した。ラベル上では,PtとRuとの合金比が50対50(比較例1及び比較例2),または33対67(比較例3)と記載されているが,Gasteigerらの論文の分析通り実体測定された合金比などを分析してみた結果,下記表4に表した通りである。
【0077】
【表4】

【0078】
比較例の場合,質量活性において,実施例よりも良好な場合もあったが,全般的に実施例の有する活性の36〜81%ほどにしかならなかった。従って,本発明によるPt/Ru合金触媒が従来のPt/Ru合金触媒よりさらに優秀な耐CO被毒性を示しているということが分かる。
【0079】
<実施例10>
前記実施例4で製造したPt/Ru触媒を利用して燃料電池用電極を製造した。担持触媒で,Pt/Ruの質量比は,70質量%であった。アノード電極への触媒ローディング量は,3.8mg/cmであり,カソード電極には,白金ブラック触媒が6.3mg/cmローディングされていた。
【0080】
電解質膜としては,ナフィオン115を使用し,電池温度は,50℃であった。燃料としては,カソードには空気,アノードには1M濃度のメタノール水溶液を使用した。
【0081】
前記の通りに製造した燃料電池を利用して性能テストをした結果,図4に表したような性能グラフを得た。
【0082】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は,Pt/Ru合金触媒に適用可能であり,特に,耐CO被毒性にすぐれ,使用上で優秀な活性を示すPt/Ru合金触媒に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】Pt/Ru合金触媒が有する耐CO被毒性のメカニズムを示す概念図である。
【図2】本発明のPt/Ru合金触媒の製造方法を表したフローチャートである。
【図3A】本発明の実施例4によって製造したPt/Ru合金触媒のTEM写真である。
【図3B】本発明の実施例1によって製造したPt/Ru合金触媒のTEM写真である。
【図4】本発明のPt/Ru合金触媒をアノードに含んで製造された燃料電池の性能を表したグラフある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3.856〜3.885Åの格子定数値を有し,粒子サイズが2〜5nmであることを特徴とする,Pt/Ru合金触媒。
【請求項2】
PtとRuとのモル比が,7:3〜4.5:5.5であることを特徴とする,請求項1に記載のPt/Ru合金触媒。
【請求項3】
PtとRuとのモル比が,5.5:4.5〜4.8:5.2であることを特徴とする,請求項1に記載のPt/Ru合金触媒。
【請求項4】
PtとRuの総質量が,担持体を含んだ触媒全体の10〜90質量%であることを特徴とする,請求項1に記載のPt/Ru合金触媒。
【請求項5】
PtとRuの総質量が,担持体を含んだ触媒全体の60〜80質量%であることを特徴とする,請求項1に記載のPt/Ru合金触媒。
【請求項6】
セル電位が,0.6Vでの質量活性が15〜80A/(gPtRu)であることを特徴とする,請求項1に記載のPt/Ru合金触媒。
【請求項7】
前記担体が,炭素系触媒担体またはゼオライトであることを特徴とする,請求項1に記載のPt/Ru合金触媒。
【請求項8】
前記炭素系触媒担体が,黒鉛,炭素粉末,アセチレンブラック,カーボンブラック,活性炭素,メソ細孔性カーボン,炭素ナノチューブ,炭素ナノファイバ,炭素ナノホーン,炭素ナノリング,炭素ナノワイヤ,またはフラーレンであることを特徴とする,請求項7に記載のPt/Ru合金触媒。
【請求項9】
(a)白金前駆体のPtとルテニウム前駆体のRuとのモル比が7:3〜4.5:5.5になるように白金前駆体とルテニウム前駆体とを準備し,それぞれを水に完全に溶解させた後に混合して金属塩溶液を製造する工程と,
(b)触媒担体と溶媒とを混合した担体溶液を製造する工程と,
(c)(a)で製造した前記金属塩溶液と,(b)で製造した前記担体溶液とを混合して混合溶液を製造する工程と,
(d)(c)の前記混合溶液のpHを11〜13になるように調整する工程と,
(e)(d)の結果物を加熱して触媒粒子を製造する工程と,
(f)製造された前記触媒粒子を分離及び洗浄する工程と,
(g)前記触媒粒子を熱処理する工程と,
を含むことを特徴とする,Pt/Ru合金触媒の製造方法。
【請求項10】
前記触媒担体が,炭素系触媒担体またはゼオライトであることを特徴とする,請求項9に記載のPt/Ru合金触媒の製造方法。
【請求項11】
前記炭素系触媒担体が,黒鉛,炭素粉末,アセチレンブラック,カーボンブラック,活性炭素,メソ細孔性カーボン,炭素ナノチューブ,炭素ナノファイバ,炭素ナノホーン,炭素ナノリング,炭素ナノワイヤ,フラーレンであることを特徴とする,請求項10に記載のPt/Ru合金触媒の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒が,水酸基を有する有機溶媒であることを特徴とする,請求項9に記載のPt/Ru合金触媒の製造方法。
【請求項13】
前記有機溶媒が,エチレングリコールであることを特徴とする,請求項12に記載のPt/Ru合金触媒の製造方法。
【請求項14】
前記溶媒と前記金属塩溶液の製造に使用された水との質量比が,1:0.4〜1:0.6であることを特徴とする,請求項9に記載のPt/Ru合金触媒の製造方法。
【請求項15】
前記熱処理温度が250〜500℃であることを特徴とする,請求項9に記載のPt/Ru合金触媒の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のPt/Ru合金触媒を含むことを特徴とする,燃料電池用電極。
【請求項17】
カソードと,アノードと,前記カソードと前記アノードとの間に位置する高分子電解質膜とを含む燃料電池であって,
前記アノードが,請求項1〜8のいずれか1項に記載のPt/Ru合金触媒を含むことを特徴とする,燃料電池。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate


【公開番号】特開2006−190686(P2006−190686A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1758(P2006−1758)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】